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シナリオ詳細

笹の葉の可能性。或いは、今年の夏は“笹”で決まり…!

完了

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●笹の可能性
 笹。
 イネ科タケ亜科に属する植物の名だ。

 深夜0時を過ぎるころ。
 砂漠の都市“ヴァズ”郊外のとある廃墟。ひっそりと近づく影がある。
 足音を消し、周囲の様子を確認しながら滑るように廃墟へ立ち入るその影は、ラダ・ジグリ(p3p000271)のものである。
 廃墟の中には、ラダともう1人……エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)の姿があった。
 ぼんやりと蝋燭の火だけが灯る暗い室内。
 炎が揺れて、壁に伸びた2人の影が伸びたり、縮んだりを繰り返す。
「誰にも見つかってないかな? 追跡者は無し? 出かけるところを人に見られたりはしていない? ちゃんと万が一の時の言い訳は用意して来た?」
 ラダの方をじぃと見つめて、エントマは問うた。
 ラダは浅い吐息を零すと、一言「あぁ」と答えを返す。
 それから、上着のポケットから1通の手紙を取り出した。
「こんな手紙を寄越して何のつもりだ? 仕事の話……と書いてあったが、誰にも知られずに来いとはどういうことだ?」
「そりゃもちろん、秘密にしておきたいからだよ。ほら、これ」
 にぃ、と笑ってエントマは傾いたテーブルの上に大きな布の袋を置いた。音が軽い。袋の中身は、さぞ軽いものなのだろう。その音からラダは、葉っぱか何かの植物であると予想した。
「まさか、非合法の植物じゃあるまいな。うちの商会では、そういうのは取り扱わないぞ?」
「まさかまさか。中身はね……これだよ」
 エントマが袋の口を開いた。
 テーブルの上に零れたのは、長く細い大量の葉っぱ。
 見覚えがある。つい暫く前にエントマがラサへ持ち込んだ“笹”と呼ばれる植物の葉だ。
「先日の……食べ辛かったと聞いているが。そんなものを何に使う?」
「えぇ、私もそう思ってたんだけどさ。実は、豊穣の方で笹の葉は保存食を包む為に使用されてるみたいなんだよね」
 瞬間、ラダの目の色が変わった。
 保存食は、ラサでもよく売れる商品だ。
 過酷な砂漠を移動する機会の多いラサでは、長持ちする食糧や、持ち運びしやすい食糧、そして水や酒などが重宝される。
「保存食を? どういう理由でだ?」
「さぁ? なんでも抗菌作用? とかって言うのが高いとか? 安息香酸とか? ビタミンKとか? そんなのがこう、多分に含まれているとか?」
 なお、豊穣の方では寿司や餅を包むのに使われることが多い。
 加えて言うなら、笹の実は食べられる。
「大昔には、討ち取った敵の口に笹を含ませて弔った戦士もいたとか。笹は酒(ささ)に通じるとか、そんな理由で」
「手向けの酒か……つまり、酔えるのか?」
「いや、酔えないね。今回は“保存食”だとか“季節の菓子”だとか、そういう方向で売り出すのはどうかと思って、ラダさんに声をかけたんだよ」
 エントマの説明を聞いて、ラダは顎に手を触れた。
 笹を使った食用品の開発・流通にラダを選んだのには理由がある。ラダの保有する港を使えば、豊穣との交易が容易だからだ。
「それで、どうする? どうやって売り出す?」
「この辺りには、旅人や商人が多く通過するんだよね。だから、保存食や菓子を用意して、その人たちに売りつけて、反応を見る。そう言うのはどうかな?」
 幸い、廃墟の隅には古い型の竈がある。
 裏手には井戸もあっただろう。
「悪くはない。悪くはないが……人手が足りないな」
「じゃあ、呼びましょう。まぁ、誰でもいいか。どうにかなるでしょ?」
 と、いうわけで。
 エントマとラダは、笹の葉を使った新商品の開発に取り掛かるのだった。

GMコメント

●ミッション
笹の葉を活用した保存食や菓子の制作、販売

●笹
イネ科タケ亜科に属する植物。
安息香酸やビタミンKといった抗菌物質が多分に含まれているため、保存食や菓子、寿司などを包むのに利用される。
豊穣の方には群生地があり、笹の実を食用とする文化もあるようだ。

●フィールド
ラサ。
砂漠の真ん中。
砂漠の真ん中にポツンと存在している廃墟。
傾いたテーブルと、砂だらけの竈など、ギリギリで調理が可能な設備はある。
また、廃墟の裏手には井戸がある。

廃墟の近くを、旅人や商人が良く通るようだ。
砂漠の道と呼ばれる、比較的なルートである。おそらく今回拠点とする廃墟は、砂漠の旅の途中で夜を明かすための避難場所として用意されたものだろう。


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】ラダの誘いに乗った
ラダさんに誘われて、笹の葉活用作戦に加わりました。金の臭いがします。

【2】砂漠の旅人
あなたは砂漠を旅しています。何か面白そうなことをしている人達を発見しました。

【3】休暇を満喫していた
砂漠の都市“ヴァズ”で休暇を満喫していました。何やら、食材を大量に飼い込んでいる者たちがいます。


笹の葉を活用しよう
エントマが大量に仕入れた“笹の葉”を活用し、保存食や菓子を制作、売り捌く手伝いをします。

【1】笹の葉で菓子を作ろう
笹餅とか笹団子とか、そういうのを造って売ります。誰にならよく売れるでしょうか。

【2】保存食を作ろう
寿司とか、干し肉とかを笹の葉に包んで売ります。誰にならよく売れるでしょうか。

【3】私はそこに商機を見た
笹の葉を上手く活用すれば、いい稼ぎになるかもしれません。まずはノウハウを盗みましょう。その後は笹を……。

  • 笹の葉の可能性。或いは、今年の夏は“笹”で決まり…!完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月26日 22時05分
  • 参加人数5/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(5人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ

●笹に導かれし者たち
 フフとプティは商人だ。
 1台の馬車に商品を山と積み込んで、女2人……正確には成人女性と少女の2人で砂漠の都市を行き来するのだ。
 当然、女の2人旅となれば、その旅路には危険が伴う。
 これまで、トラブルに巻き込まれたことも、命の危機に瀕したことも1度や2度ではないのである。
 とはいえ、フフもプティも砂漠を舐めているわけではない。例えば“砂漠の道”などがその最たるものだ。フフとプティの旅路は、そのほとんどが比較的安全な“砂漠の道”を使ったものである。
 そんな2人の次の目的地は砂漠の都市“ヴァズ”。売り物は多数揃えているが、今回の目玉は甘味と菓子の街“カンロ”で仕入れたチョコミント味の焼き菓子である。先日、熱心に進められて買い集めたのだ。
 そんなフフとプティだが、ヴァズへと向かう旅の途中で馬車を停止させている。
「フフ……盗賊。囲まれた、よ」
「見れば分かるわ。でも、5人ぐらいならあまり怖いとも思わなくなったわね」
「いつも……もっと、大変な目に合うからね」
 良いことなのか、悪いことなのか。
 盗賊に囲まれる程度では、フフもプティも動じない。
 動じないだけで、打開策があるわけでは無い。2人とも喧嘩は苦手なのである。
 どうしたものか、とフフは手綱を握る手に力を込めた。
 馬を走らせれば、逃げ切ることも可能だろうか。
 なんて、思案を巡らせるフフであったが……結論を先に述べるのならば、フフの思案は全くの無駄に終わることになる。
「この辺りも物騒になったか? それとも“逸れ”の盗賊か?」
「そりゃいけねぇな。カタギの皆さんに迷惑がかかるし、さっさと片付けちまおう」
 砂塵の中を歩んできたのは、灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)と『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)の2人だ。
 冷ややかな目で盗賊たちを睥睨し、ラダはライフルを、義弘は拳を構えた。

 同時刻。
 砂漠の廃墟では、ある“重大なミッション”が進行中していた。
「笹の葉食べるの大変だったけど……また何かに使うのかな……」
 傾いたテーブルに、山と積まれた笹の葉を見つめ『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は首を傾げた。
 笹と言えば、先日、食べたばかりである。決して食べて美味しいものでは無かったが、どうにも『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)や『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は調理の準備を進めているように見えた。
「食べる……の?」
 誰に対して……と、言うわけでもないがレインは問うた。
 レインがこの場にいるのは単なる偶然だ。近くの街で休暇を満喫しているところに、見知った顔が通りかかったという、それだけの理由で砂漠の廃墟へ着いて来たのだ。
 ヴェル―リアは、くすりとやや控えめな笑い声を零した。
「笹は食べないよ。笹の葉で包んだ保存食には商機を感じるけどね」
 そう言って、テーブルに置かれた笹の葉を1枚、手に取った。
 青々とした立派な笹の葉だ。
「例えば、寿司を作ってみるのは大いにありだと思うよ」
「寿司か。豊穣では笹を包みに使っていたね」
ヴェル―リアの持つ笹に目を向け、ウィリアムは言う。
「後は笹巻きの灰汁煮とかどうかな」
 笹巻の灰汁煮……もち米を笹に詰め、灰汁水で煮た食べ物だ。
 灰汁と言うと、ほとんどの場合、調理の際に抜くものだ。
だが、どういうわけか灰汁水を使って煮込むと、不思議と灰汁が抜けやすくなったり、煮えにくいものが煮えやすくなったりするのである。
「ふぅん……笹って、そのまま食べるだけじゃ……無いんだね」
「っていうか、そのまま食べる方が稀だね」
 そう言ってヴェル―リアは、じっとりとした視線をエントマへ向けた。
 聞こえているのか、いないのか。
 3人に背を向けたまま、エントマは米を鍋に移し替えている。

●新商品開発秘話
「これはいったい……どういう食べ物なのかしら?」
 笹の包むを受け取って、フフは「おや?」と首を傾げた。
 見たところ、葉っぱの塊に見える。おそらく食べ物は中身なのだろうが、ほんのりと甘い香りがしているのはなぜだろう。
 少し指で突いてみれば、柔らかいのも腑に落ちない。
 一般的にラサで広く普及している保存食はスパイスをこれでもかと塗した干物だ。基本的には辛いし硬い。
「まぁ、喰ってみてくれ。シンプルな団子と、ヨモギを練り込んだ草餅を笹の葉で包んである」
「はぁ……。見慣れない食べ物ね。他国ではポピュラーなのかしら」
「豊穣のほうの……食べ物?」
 義弘に進められるままに、フフとプティは笹の包みを開いた。柔らかな食べ物だが、これはライスを潰したものか。
 フフとプティは、おそるおそると言った様子で団子と草餅を口へと運ぶ。奇妙なほどにやわらかく、それでいて弾力もある。歯にくっつくのが難点といえば難点だが、上品な甘さが舌に優しい。
 本音を言えば、もっとふんだんに砂糖を使った甘味の方が好みだが……。
「中身のこれはけっこう甘いわね」
「つぶあんだ。茶が欲しくなるのが難点だが」
 難点、という割に義弘は少し得意気だった。
 だが、これは僥倖だ。存外に好感触を得たことで、笹を使った菓子には商機があると分かった。見慣れぬ食べ物ということで、もう少し不信感を抱かれるかとも思ったが、思ったよりも受け入れられている風である。
 そして、商機となればラダが黙っているはずはない。
「少しいい包装に包んでやろう。手土産にどうだ?」
 売り込みである。
 “本当に良い品物は売り込まなくても飛ぶように売れる”と、訳知り顔で宣う者も時にはいるが、実際にはそのような事例はほとんどない。
 知ってもらわなければ、いかに優れた商品でも誰にも知られず消えていく。
 宣伝こそが、売り込みこそが、営業こそが、物を多く、高く売るコツだ。
「砂漠の旅は喉が渇くだろう。水饅頭もどうだ? これは葛粉を生地に使った菓子でな。透明な生地が目にも涼やかなんだ」
 フフとプティは、ラダの話に耳を傾けている。
 腹が満ちて、甘さを舌に感じれば、人は機嫌がよくなるものだ。機嫌がよくなれば、購買意欲も増してくる。
 そう言った感情の揺れを視るのも、商人に必須のスキルと言えよう。
 かくしてラダと義弘は、フフとプティに幾らかの笹団子と水饅頭を売りつけることに成功する。
 少々、困惑した様子だが、機嫌よく出立していく2人を見送り……。
「……ラダ」
 何者かの視線を感じ、義弘が硬く拳を握った。
 視線の方へ顔を向けずに、ラダは背中からライフルを降ろす。
「……分かっている」
 それから、地面を強く踏み込むと一瞬のうちに体を反転。
「捕まえるぞ、逃がすな!」
 脱兎のごとく駆け出した。

 ぐつぐつと笹が煮えていた。
 正しくは、笹の葉で包んだ餅米を灰汁で煮詰めているのである。笹の葉で包んで、灰汁で煮ると保存性が増すのだ。
 と……ウィリアムはそう言っていた。
 不可思議だ、とレインは思った。
 そっと、鍋に手を伸ばす。
「あち……あち……」
 そして、そっと手を戻す。
 熱された蒸気が、レインの指にわずかばかりの火傷を負わせた。
「手が溶けるかと思った」
 水の沸点は100度なので、手が溶けるほどの温度ではない。手が溶けるほどの温度ではないが、何しろレインはクラゲである。
 水の温度に比べれば、蒸気はさぞ熱かろう。
 と、それはともかく……。
「笹も灰に使う木材もうちの領地にあるからこれは商機かもしれない」
 煮るのはそろそろ終わりでいいだろう。
 鍋を火から降ろすと、ウィリアムはザルに笹巻きをあげた。
 試しに1つ、笹を開くとほんのりとした笹の香りが立ち上る。青臭い、と言えば少し聞こえが悪いだろうか。
 だが、それがいい。
 乾燥した砂漠では、あまり嗅ぐことの無い香りだ。
「笹の匂いがして……いいね。味見……してみたい」
「うん? 試作品だから、別に構わないけど……火傷しないよ気を付けるんだよ」
 小皿に笹巻きを移すと、ウィリアムはそれをレインの方へと差し出した。
 頬をゆるりとほころばせ、レインはフォークを手に取った。分かりにくいが上機嫌なようだ。一方、その様子を見ていたエントマは何か言いたそうな顔をしている。
「ちょっと、あまり食べ過ぎないでよ。売り物がなくなっちゃう」
「売り物って言ったって君、笹を買い付け過ぎて在庫を抱えていただけだろう?」
「……ぅ」
 返す言葉は無いようだ。
 事実、エントマは大量入荷した笹をいかに処理するかで頭を悩ませていたのだから、当然と言えば当然である。
 もしもラダが居なければ、在庫を抱えて爆死していたかもしれない。
「大は小を兼ねるって言うじゃない」
「大量に買い付ければ、大量に在庫を抱えるリスクも大きくなるに決まってるじゃないか」
 転売を主な生業とする者の中には、在庫に埋もれて破産した奴も少なくない。
 少なくともウィリアムは、そういった手合いを何人か知っている。
「おいしい」
 そんな2人のやり取りを気にも留めず、レインは笹巻きを食んでいた。
 実に美味しそうだ。
 つまり、笹巻きは売れる。
「商機あるでしょ、これ。ウィリアムさん、余ったら買わない?」
「悪いけど、笹も灰に使う木材もうちの領地にあるから」
 ウィリアムの領地は深緑だが、どうやら笹が自生しているらしい。ちなみに、ウィリアムの領地で伐採した木材はヴァズに輸出している。
 つまり、販路も確保しているというわけだ。

「ケーキ……?」
 レインが次に目を付けたのは、ヴェル―リアの作った料理だ。
 四角く纏められた酢飯に、錦糸卵や魚の切り身が乗せられている。なるほど、たしかに見ようによってはケーキのように見えるだろうか。
「押し寿司だね。海鮮が手に入るのなら商機はあると思うよ」
 そう言って、ヴェル―リアは木製の枠を手に取った。
 枠の中に米と具材を詰め込んで、上から板で押し潰すことで四角い……レインが言うところの、まるでケーキのような形に固めるのである。
 豊穣で広く親しまれている一般的な“寿司”との違いは、やはり形成が簡単で、1度にある程度の量を作れることだろうか。
 笹の葉に包めば、多少の保存も効くはずだ。
「何より、見た目がいい。笹の葉を下に敷くだけでも、これが異国の料理だって言うことが分かるからね」
 砂漠の街で売り出せば、きっと飛ぶように売れるだろう。
 問題があるとすれば、新鮮な魚介類をいかに確保するかという点になるだろうが。
「そういうの安く手に入りそうだし」
 ラダは港を持っているはずだ。
 港であれば、海鮮の入手も容易なはずで……となれば、押し寿司も安定して供給が可能なはずである。
 一攫千金、とまではいかないだろうが人とは元来“新しいもの”や“珍しいもの”が好きな生き物だ。そう考えれば、ラサで寿司を売るというのも、そう悪い考えではないのかもしれない。

●商機をその手に掴みとれ!
 砂漠でラダの追跡から逃れられるものはそう多くない。
 馬の四肢で砂を蹴って、上体を前に傾けたまま疾駆する。ライフルのストックを肩に押し付け、片目を閉じた。
 走りながらの射撃など、そう簡単に命中するわけがない。
 そう思っているのなら、敵はあまりにラダを知らな過ぎた。
「馬車に乗って逃げるつもりか?」
 ラダと義弘のやり取りを、監視していたのは2人。ローブを纏った2つの人影が、馬車に乗り込んだ瞬間を見計らい、ラダは1発の銃弾を放った。
 弾丸はまっすぐ、車輪の軸を撃ち抜く。
 これで馬車は動かない。万が一に走り出したとしても、すぐに車輪が破損する。
「よし! カチ込むのは俺に任せとけ」
 ラダを追い越し、義弘が馬車へと駆けていく。
 慌てて車外へ飛び出して来た人影2つに腕を伸ばして、襟首を掴んだ。一度、掴んでしまえば、義弘の膂力からは逃れられない。
「観念しろ!」
 ローブがはだける。
 そして、露になった2人の顔を見て、ラダは思わず目を丸くした。
「ドロップにヘイズル? 何を……いや、その馬車、うちの商会のか?」
 そこにいた2人も、停まったままの馬車も、ラダの良く知るものだった。

 P・P・D・ドロップとヘイズル。
 先日の仕事で顔を合わせた2人である。ドロップはパンダの獣種で、ヘイズルは山羊の角を持つ砂漠の旅人だ。
「顔見知りか。それに、ラダんところの馬車だと?」
 2人を解放し、義弘は問うた。
 解放はしたが、警戒は解いていない。ドロップとヘイズルが逃げる素振りを見せたなら、すぐにでも再び捕縛するつもりだ。
「間違いなく、これはうちの馬車だな。なぁ……どういうことか説明してもらえるか?」
 ライフルを仕舞って、ラダは2人に声を投げる。
 先に口を開いたのは、ドロップだった。
「笹を美味しく食べると聞いた。ずるいぞ」
「……まぁ、ドロップは笹を生のまま喰わされたからな」
 パンダなので。
 エントマの手により、ドロップは笹を食べさせられている。
 なお、パンダも別に笹を十全に消化できるわけでは無い。
「雇われたんだよ。ラダが何かを企んでいるようだ……と」
 馬車を指さし、ヘイズルは言った。
 どうも言葉は少ないが、ドロップとヘイズルは“ラダの商会”に雇われたらしい。そして、雇い主は2人を置いて逃亡している。
「随分と機を見るに敏な奴がいるんだな」
 呆れたように義弘は言った。
 ラダもつられて溜め息を零す。
「元だが、盗賊なものでな」

 布袋が動くのを、レインはじぃっと観察していた。
 砂漠の廃墟の片隅に、笹の詰まった布の袋を積んでいた。そのうち一部は、料理に使いヴェル―リアとウィリアム、エントマの3人で販売に出かけている。
 つまり、レインは拠点の見張りとして残されたわけだが……。
「双子? でも、どこかで見た顔……えっと」
 布の袋をこっそり持ち出そうとしているのは、カウボーイハットを被った女性2人組。双子のようだが、その顔には覚えがある。
 たしか、ラダの部下では無かっただろうか。
「ラダに……頼まれたの、かな?」
 なんて。
 首を傾げて、袋を持ち出す2人組を見送った。

 ヌビアスは砂漠の医者である。
 砂漠の真ん中に診療所を構え、旅の途中で怪我や病で動けなくなった者を治療する。そんな毎日を過ごすヌビアスだが、当然、食糧や医薬品を買い足さなければ生きていけないし、治療も満足に提供できない。
 それゆえ、ヌビアスは時折、街に出る。
 今日はその日だ。
 買い出しを終え、後は診療所に帰るだけ……と、いう段階になってヌビアスはふと嗅ぎ慣れない、けれど食欲をそそる香りを嗅ぎつけた。
「それはぁ……なんだろうなぁ。見慣れない食べ物のようだが」
 好奇心は猫を殺すと言うけれど、幸いなことにヌビアスは野干の獣種である。多少の好奇心に突き動かされたところで、命を失うことも無い。
 ヴァズの片隅に粗末な露店を開いているのは、あまり見慣れぬ3人組だ。ヴェル―リアとウィリアム、エントマである。
「やぁ、お目が高いな。笹巻きという食べ物なんだが、1つどうだい?」
「こっちは押し寿司。魚やお酢が平気なら、1つ買って行ってよ」
「1つと言わず、全部買って行ってくれても」
 ウィリアム、ヴェル―リア、エントマの順に浴びせかけられるセールストーク。
 ヌビアスは思わず仰け反った。
 3人が売っているものは、食べ物に間違いなさそうだ。
 問題は、あまり見慣れぬ食べ物であるという点だろうか。
「嘘を言って騙してやろう、なんて風にも見えないがなぁ。見慣れぬ食べ物……とくに生魚は、万が一が怖いからなぁ」
 買うか、買わないかの狭間でヌビアスの気持ちは揺れている。
 エントマは“押すならここだ”と思った。
 ウィリアムは“まぁ、そうだろうな”とヌビアスの気持ちを理解した。
 ヴェル―リアは“味見の機会を設けるべきだ”と脳の中のメモ帳に、今後のプランを付け足した。
 3人の奮闘はまだまだ続く。

 後日の話だ。
 再びヴァズへ足を運んだヌビアスは道行く者に“押し寿司”の売人がどこにいったかを聞いて回った。
 だが、結局“押し寿司”の情報を得ることは叶わずに終わる。
 まるで、一夜の夢……否、白昼夢であったかのように。
 笹の葉の“さ”の字も、ヴァズには残っていなかったのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
笹の葉活用プロジェクトは、無事に軌道に乗りました。
とりあえず、買い込んでいた笹の葉はすべて消費できました。


この度は、ご参加いただきありがとうございます。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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