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シナリオ詳細

<熱砂の闇影>リュクスな夜に溺れて

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 テセラ・ニバスの帳(リンバス・シティ)の内部、アリスティーデ大聖堂にて。
「君たちにはもう馴染みある光景かもしれないけれど」
「そうね、そろそろうんざりしてきたところよ」
 ラサに降りた帳の対処をするべく転移する直前で、劉・雨泽(p3n000218)が口を開き、ジルーシャ・グレイ(p3p002246)が肩を竦めた。
 これより先は『神の国』。入ってみるまで内部がどうなっているかはわからない。
「気を引き締めていこう」
 ある者は黒衣を纏い、ある者は戦闘着で。
 必ず帳を払うと静かな決意とともに、足を踏み入れた。

「え?」
「ん? なんですかの、これは」
 転移された先、神の国へと辿り着いたはず――なのだが。
 眼前に広がる『貯水池』に雨泽はぽかんと口を開け、物部 支佐手(p3p009422)は訝しげに首を傾げた。
 プールというものは豊穣にはない。
「これは……」
 だが、新しいもの好きで練達も楽しむ雨泽は知っていた。
「ナイトプールってやつじゃない?」
「プール? けったいな名ですの」
「……あの。姿も変わる、する……してる」
 互いの姿は目に入っているはずなのに特にコメントしなかった雨泽と支佐手を見て、そろりとチック・シュテル(p3p000932)が口を挟んだ。
 ある者は水着を纏い、ある者は浴衣を纏っている。
「神の国はね、そういうこともあるのよ」
「そうなんだ……」
「そうなんだよ」
 ジルーシャが訳知り顔で告げれば、幼児になったことのある雨泽も渋い顔で頷いた。神の国って本当に自由だよね。
「とりあえず核を見つけて破壊しないといけないのだけれど――」
「……あれ、兄さん? わあ、兄さんだ」
 遂行者はいるのだろうかと視線を巡らせた雨泽は大きな浮き輪を持った少年が駆け寄ってくるのを見てしまい、さり気なく支佐手を盾にする。無言で動きを追ってくる支佐手に「怖いんだよ、あの子」とチックに聞こえない声量で告げて。
「クルーク? 帰らな……あー! 異端者だー!」
「ハーミル、様……?」
 クルーク・シュテルとハーミル・ロットのふたりは、どうやら帰るところだったらしい。ジュースや浮き輪を手に首からタオルを下げている。
 ハーミルは練達の神の国で会った遂行者だと、ニル(p3p009185)が小さく告げた。自然と手がコアの上へと行ってしまうのは、ハーミルが連れているコーラスを警戒してのことだろう。
「クルーク……」
 彼が巻き込まれただけなら否定できたが、遂行者であるハーミルとともに居るということはつまり――敵方だ。それを理解してしまって、チックの眉が下がった。
「ああよかった、皆様が来てくださって」
 掛けられた声に、え、とジルーシャが息を呑んだ。
「アラーイスちゃん!?」
「はい。アラーイスです、ジルーシャ様」
 蕩けた蜜のように瞳を穏やかに細めるのは、黄色地に白百合咲く浴衣のアラーイス・アル・ニール(p3n000321)。
「気づいたらこちらに居て、困っておりましたの。
 ……先刻まではもっと人が居たのですが、皆様帰られてしまわれまして……」
 けれどアラーイスには彼等と同じような帰還は叶わなかった。ハーミル曰く、時間が経過すれば出れるとのことだから待っていたのだが、それっていつ? と思い始めて居た頃だったそうだ。
「時間が経てば、ここはなくなるのですか?」
「そうだよ。……えっと、ニルだっけ?」
「はい、ニルです」
 ニルは一人称がニルだから、ハーミルも覚えていたようだ。
「大人たちは帰っちゃったし、僕たちも帰ろうとしてたところなんだ。どうせ消えちゃうから、それまで異端者たちも遊んでいっていいよ!」
 ハーミルは明るく年相応の笑みを見せ、イレギュラーズたちは顔を見合わせた。
「よし、遊んでいこう」
「雨泽殿、おんし……」
「どうせ壊れるんでしょ? 遊んでいこう」
 勿論、直ぐ様帰りたければ入ってきたところから出ればいいだけだ。
 この夢のような神の国が消えるまで、めいっぱい遊ぼうと雨泽は装飾を外しはじめるのだった。


 ‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦ NIGHT ★ POOL ‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧

 空は夜闇。されど地上は明るく輝く。
 見栄え良く美しくライトアップされ、揺れる水面はキラキラと。
 海洋風の家具や空間は夜闇と隔てるように白く、明るく。
 プールの底には宝石型の灯りが沈められ、水中を照らしている。
 水上には開いた貝や白鳥、雲といったフロートや、フローティングライト(光るビーチボール)がプカプカと浮いて、あなたたちを遊びに誘っている。
 プールサイドでは休憩や軽食が楽しめる。あなたが怪しめば「毒はないよ」とハーミルが目の前で食べてみせるだろう。

 さあ、夢が終わる前のリュクスな夜をどう過ごそうか?

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 水着! 浴衣! プール!!

●シナリオについて
 ナイトプールを楽しみましょう!
『プール』か『プールサイド』で行動できます。
 詳しくは選択肢を参照ください。

●フィールド:ナイトプール神の国
 遂行者『氷聖』が信者たちへの慰労のために用意したようです。
 既に氷聖を始めとした信者たちは撤退済みです。残っているふたりはまだ時間があるしと遊んでいたようです。
 核は、プールの底に沈んでいる灯りの中にひとつだけ星型があります。それです。しかし、わざわざ破壊しなくとも、この神の国は時間経過で核が破壊されます。定着しなくてもいい神の国ですし、定着せずとも此度の氷聖の目的は達成されています。

●ドレスコード
 この神の国に入った途端、水着か浴衣になっています。
 基本的には水着ですが、泳がないぞ! の意思が強いと浴衣になるようです。
 装いに拘りがある方はどういった姿なのかをプレイングに記載ください。
(通常時URLの参照はいたしませんが、今回は画像URLは見に行きます。
 が、パッと見で解らないことも多いので、文字で説明された方が伝わります。
 見て見て! でURLを置いてくださっても勿論大丈夫です。)

●クルーク・シュテル
 チックさんの弟。兄ガチ勢、同担拒否。今日も白翼。
 チックさんの近況が知りたいし、四六時中一緒に居たいので一緒に帰ろうと誘ったりします。兄さんも僕も家族はふたりっきりなのだし、一緒の場所に帰るのが普通でしょう?
 チックさんが拒否したり、「帰って」といえば帰ります。

●ハーミル・ロット
 遂行者です。見た目はニルさんよりも少し幼いくらいの少年で、コーラスという名前の豹型のワールドイーターを連れています。
 先に帰っても良いのですが、クルークを残して帰って彼が異端者の手に掛かったらと思うと……な感じで残っています。コーラスの背に乗ってプカプカしたり、コーラスと甘いものを食べたりします。

※上記ふたりは敵勢力ですが、今日は彼らに戦う気はありません。
 皆さんが敵意を見せなければお話します。
 敵意を見せれば「しらけることしないでくれる?」と帰ります。


●劉・雨泽(p3n000218)
 ローレットの情報屋。
 今日は働くつもりで来たけどナイトプールだった。僕のせいではない。
 泳げます。が、腰布や装飾を外してから。
 泳ぐよりも、大きな貝殻や雲形のフロートに転がってる方が好きです。
 水から上がっている時は色々食べています。全部制覇します。
 クルークに会う度に睨まれており、何か知らんけど嫌われていると感じています。近寄らないでおこうと思っているので、飲食物を取りに行ったりと距離を取ります。

●アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
 ラサでアルニール商会を経営している獣種の娘。
 泳ぎませんが、縁に座って足をパチャパチャくらいはできるので『プール』から話しかけると足を浸して涼みます。基本的には『プールサイド』でピンク色のクリームソーダやフィンガーフードを楽しんでいます。
「何故かこのような格好になっておりまして。……似合い、ませんか?」

●ご注意
 公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為は厳禁です。
 また、未成年の飲酒喫煙も厳禁です。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時等に活用ください。
 関係者は、ラサで活動していて『巻き込まれた』状態であれば可能です。

 以下、選択肢となります。


《S1:行動場所》
 select 1
 あなたはどこで過ごしますか?

【1】プール
 所謂フォトジェニックなナイトプールです。
 現実の地球的には高級ホテルで毎年夏になると開かれる感じのやつです。
 各種フロートがあります。『ご注意』に反しない範囲で遊べます。
 大人のプールなので、水鉄砲等はありません。
 プールの中での飲食は出来ません。

【2】プールサイド
 軽食がおいてあったり、白を基調とした家具が置いてあります。
 お洒落な灯りも足元にポツポツと配置されており、暗くありません。

 施設
 ・天蓋付きのデイベッド
 ・南国風のデッキチェア
 ・パラソル付きのテーブルとチェア

 食べ物等
(ここに記載されているのは一例で、サンドイッチや生ハム等、塩気のあるものもあります。)
 ・いちごやマンゴー等のフルーツサンド
 ・果物とクリームとチョコレートのクロワッサンサンド
 ・フォトジェニックなクリームソーダ
 ・トロピカルフルーツを使った色鮮やかなカクテル
 ・カラフルないちご飴
 ・レインボー綿あめ


《S2:交流》
 select 2
 誰かとだけ・ひとりっきりの描写等も可能です。
 基本的にNPCが動くとあなたの文字数が消費されます。

【1】ソロ
 ひとりでゆっくりと楽しみたい。

【2】ペアorグループ
 ふたりっきりやお友達と。
 【名前+ID】or【グループ名】をプレイング頭に。
 一方通行の場合は適用されません。お忘れずに。

【3】マルチ
 特定の同行者がおらず、全ての選択肢が一緒で絡めそうな場合、参加者さんと交流。
 同行しているNPCは話しかけると反応します。

【4】NPCと交流
 おすすめはしませんが、NPCと交流したい方向け。
 なるべくNPCのみとの描写を心がけますが、他の方の行動によっては難しい場合もあります。
 交流したいNPCは頭文字で指定してください。
 ひとりなら【N雨】【Nア】、複数なら【N雨・ク】でも通じます。

  • <熱砂の闇影>リュクスな夜に溺れて完了
  • 神の国へ転移した――と思ったら、そこはナイトプール。遂行者にだって休息は必要です。
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月06日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇

サポートNPC一覧(2人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草
アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
恋華

リプレイ


「ええですか、雨泽殿。ろうれっとの依頼でここに来とる以上は、任務を第一にせにゃなりません」
「えー、でもさー」
「でもも何もありません。大恩ある刑部卿と宮様の名を汚すわけには……」
「でも支佐手、可愛いフルーツサンドとかあるよ。クロワッサンだよ、あれ。クロワッサン食べたことある? サクサクした食感に牛酪(バター)の味がすごく美味しいんだよ」
 チラ……と『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)の視線がフィンガーフードへと向かった。
「見てよ支佐手。酒に果実が乗ってるよ。豊穣では見かけないよね。まあ支佐手が仕事第一にするならそれでいいと思うよ。うんうん任務は大事だもんね。僕は遊ぶけど」
 チラチラと横目で覗う支佐手を置いて、雨泽はスタスタと軽食と酒を取りに向かう。
「何から食べようかなー」
「と思いましたが、敵とはいえ歓待してくれとるところを狙うんは不躾」
「ここにある酒、全部もらっちゃおうかなー」
「ここは歓待を受けるんが筋っちゅうもんで……あっ、雨泽殿、駄目ですそれはわしが先に目をつけた酒です!」
「名前書いてなかったし早いもの勝ちでしょ」
「はぁ~~~~~!?」

「もう。男の子ってばすぐにはしゃぐんだから」
 アタシたちはゆっくり大人の時間を楽しみましょう。
 自身も男性なのだがウインクをパチンと決めた『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)そう口にすれば、アラーイスが「そうですわね」とにっこり微笑んだ。
「アラーイスちゃん、浴衣姿も素敵ね。色も柄も、とっても似合ってるわ♪」
「ジルーシャ様もよくお似合いですわ。そちらはラサ風でしょう? ラサを気に入って頂けているようで、わたくしも嬉しいです」
「フラーゴラちゃんもシンプルに見えて上品さを押さえていて素敵ね」
「ありがとう、ジルーシャさん!」
 おさげに結った髪をきゅっと握って『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が明るい笑みを浮かべると、アラーイスも「大きな花へと目が行きがちですが、小花もあって大変愛らしいです」と微笑む。
「あれ……ニコレッタさんだ」
 話に花を咲かせるには飲み物があった方がいい。ついでに何か摘めるものも貰おうかと視線を向ければ……ふとフラーゴラが気がついた。
「あの方は皆様のすぐ後にいらっしゃいましたよ」
 アラーイス曰く、皆がハーミルと話している間に現れ、真っ直ぐ給仕をすべくビュッフェテーブルへと向かったのだとか。
「ゴラち! いつもお疲れ様!」
「ニコレッタさんも領地の管理おつかれさま」
 ラサでは貴重な水が贅沢に使われているから、ニコレッタさんも楽しんでねとフラーゴラは受け取ったメロンソーダに口をつけた。
「アタシはクロワッサンサンドをもらおうかしら。アラーイスちゃんは? 一緒に運ぶわよ」
「わたくしは、そうですね……」

(ハーミル様と一緒にいるのがチック様の……弟さん……?)
 コアの上に手を置いたまま、『あたたかな声』ニル(p3p009185)はチラリとハーミルたちを見た。ハーミルの足元ではコーラスが欠伸をしており、ハーミルと何事かを話していたクルークは手をひらりと振ってからハーミルの側から離れた。きっと兄のところへと行くのだろう。
 ニルのすぐ傍にいた『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は転送されると同時に何故か手にあった浮き輪に首を傾げ、それを置いてから軽食を見に行くようだ。彼の向かう先に雨泽の姿も見つけ、ニルは祝音の揺れるマフラーをココアと追いかけた。
「雨泽様は何を食べますか?」
「僕はクロワッサンサンド。ニルと祝音は?」
 折角だから楽しもうと声を掛ければ、取りにくかったら取ってあげるよと雨泽。
「僕はいちごやマンゴーのフルーツサンドを食べてみたい、にゃー」
「ニルは雨泽様と同じものを食べたいです」
「はい、どうぞ」
 遂行者が用意した場だけれど、食べ物に罪はない。
(氷聖様たちはここで遊んでいた? のですか? 遊ぶためだけにこの場所を作ったのですか?)
 花が沢山咲いていた神の国、美味しいと楽しいが沢山の神の国。どれも夢みたいな場所だし、話した感じでは遂行者も悪い人じゃないように思えて、ニルの心の中は疑問でいっぱいだ。
「甘くておいしい、ね」
「祝音、クリームがついているよ」
「劉さんありがと、みゃー」
 クリームたっぷりのサンドはどれも美味しくてぺろりとお腹の中へと消えていく。
 ばしゃっと大きく水が打ち上げられたような音がして視線を向けると、ひと泳ぎした『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)がプールから上がってくるところだった。黒のビキニパンツというシンプルな水着で、よく鍛えあげられた――この場にいる誰よりも『いい体』をしているのがひと目でわかる。
 軽く水を払った彼はふわふわ羊の『ジーク』を呼び出すと軽食を口にしようとビュッフェテーブルへと向かってくる。
 眼光鋭い彼のお目当ては――。
「パフェはあるだろうか」
 そう、パフェである。
 強面に反して甘味好きな彼な訳だが、それに対して何かを思う者はこの場には居ない。全員同じ穴の狢である。
「パフェは小さな瓶詰めみたいなのから自分で作れるもの、あとそれから」
「あたしがシャレオツなの用意したし」
 果物も沢山用意してあったから、ニコレッタが力作を作ってピースを決めている。果物をふんだんに使った、豪華なパフェだ。「おお」とゲオルグが眼光を鋭くした。もとい、目を輝かせた。
「ゲオルグ、クロワッサンサンドも美味しいよ」
「わしはこの『ふるうつさんど』とやらが一等旨く感じますな」
 ジークを見た祝音が七色のふわふわ雲な綿あめを取りに行った頃、支佐手がそう言った。フルーツサンドはフルーツサンドでも、苺であったりマンゴーであったりキウイであったりオレンジであったりバナナであったりと、兎角種類が豊富だ。
「先程アラーイス殿に教えてもろうた、ぴにゃ……ぴにゃこら……何とかっちゅう、この白い酒も格別です」
 そして生クリームたっぷりである以上、かなり腹に溜まる。甘いものを切り上げて酒を手にしている支佐手はゲオルグにも酒を勧めた。雨泽は勝手にパカパカ空けるし、まだ食うのかという視線も気にせずもぐもぐとあれこれ口にしている。
「どれも美味そうだな。私もゆっくりと楽しませてもらおうと思う」
 今日はこの子達とゆっくりと羽を伸ばすのだと告げるゲオルグの足元では、にゃんたまたち――シロ、ユキ、トラ、クロ、ミケとニルのココアがにゃーにゃーと鼻をコツンとして挨拶をしていた。ジークはふわふわと浮かんでパフェを見下ろして、一等気になったパフェへと『これがいい』と短い前足でゲオルグに示している。
「可愛いね」
「ああ、可愛い子たちなんだ」
 重みのある声でそう告げて、ゲオルグはゆっくりと落ち着いて食べようとテーブルセットへと向かっていった。

 賑やかな様子の皆を眺め、『雨を識る』チック・シュテル(p3p000932)は少し離れた。プール際にしゃがみ込み、冷たそうな水へと手を浸たす。ちゃぷちゃぷと水の跳ねるような感覚に心が少し軽くなる。――けれど。
「兄さん」
 クルーク。彼を、待っていた。声を掛けに来るだろうと思っていたから、ひとりきりになって。
「……クルーク。久しぶり、だね。久しぶりに……一緒にゆっくり過ごす、しない?」
 弟は笑う。嬉しいと無邪気に。あの頃と何も変わらない姿で、あの頃と何も変わらない表情で、チックにめいっぱいの親愛を向けて。
 プール際に腰を降ろし、ゆっくりと話しをした。
 特異運命座標となってから、今に至るまでの全てを。
「……兄さんは、僕以外の『家族』と暮らしているの?」
 僕の家族は兄さんだけなのに。
 そう、言われている気がした。責められているよりも強い悲しみを感じて、チックは唇をきゅっと噛んだ。
「ごめんね、クルーク……」
 何に対して謝っているのだろう。クルーク以外の家族を持ったこと? クルーク以上の『特別』が出来たこと? それともあの日クルークの首を――。
「兄さん」
 クルークがチックの手を掴んだ。
「僕と一緒に帰ろう? 見て、僕は『あの時』から何も変わっていないでしょう?」
 だから、また変わらず過ごせるよ。何事もないようにクルークが微笑んだ。
 不変は歪だ。
「……ごめん、クルーク」
「どうして?」
「おれの変える場所は、『そっち』じゃ……ない」
「僕は兄さんを守ってあげられるのに。預言からだって――」
「もう、昔みたいに……二人っきりにはなれない」
 おれ達は、お揃いの"色"に戻れないんだよ。クルーク。
 決別の言葉にクルークが表情を歪め、バッと立ち上がると駆け去った。「え、帰るの!?」とハーミルの慌てる声がチックにも聞こえたけれど、その背を見送る勇気は無かった。

「まさかのプールですってよお兄さん」
「うむ、仕事でプールってのは珍しいよな」
 着物のような袖のある、一揃えのような色違いの水着姿のふたりはデイベッドの上。デイベッドにころりと寝そべる『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)の花唇へ『片翼の守護者』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)は小さく笑いながらマスカットを差し出した。
「美味しい?」
「美味しい」
 神の国は入ってみるまで解らない上、遂行者が自由に作り上げているからこういうこともあるから常に不思議だ。今回なんてプールだし、しかも軽食も休憩スペースだってある。それにお洒落だ。
「こうやって揃ってのんびりするのも久しぶりだね」
「あー……慌ただしかったからなぁ……一緒に行動はしてたがあくまで仕事だったし」
 ふたりで揃っての休暇みたいなのに、これも立派な仕事というのが正直助かる。
 それなら存分に楽しもうと告げたルーキスがいつの間にやら膝に頭を預けているものだから、ルナールはくすくすと笑いながら彼女の頭を撫で、髪を梳いてやる。
 ルーキスは水鳥ではないから、ベッドの上から涼し気なプールを眺めるだけ。けれどそれを残念だとは思わない。美味しいフィンガーフードやお洒落な飲み物が傍らにはあり、何よりルーキスの『一等』はすぐ傍らに居てくれるのだから。
「無理をする必要はないからね。雰囲気に併せておけばいい」
「ルーキスが隣に居れば何処でも構わない。今日はのんびりしよう。こんな機会早々ないと思うぞ」
 ルナールも気持ちは同じのようだ。
 小鳥のような口づけが降ってきて、くすくすと笑い合う。
 カーテンのように垂れる髪に指を絡め、のんびりと見つめあえるこのひとときは悪くない。
「それにあんまり見れない旦那様の水着姿を眺めるのも乙なものですよ。今年の水着も良くお似合いで」
「ルーキスも似合っている」
 天蓋付きの南国風デイベッドのなか、ふたりの間にはゆったりとした時間が流ていく。
「アラーイスさんはどんなタイプが好き?」
「わたくしは優しい方を好ましく思います。フラーゴラ様は?」
 恋をしていらっしゃるのでしょうと水を向けられ、わかっちゃう? とフラーゴラは頬を押さえた。
「フラーゴラちゃん、好きな人がいるのね?」
 聞かせて聞かせてとジルーシャもアラーイスも聞く体勢。
「ワタシの好きな人は……ダンジョンが好き……?」
「ダンジョン……」
「あっ、ワタシのことも好きだと思う! あのあのっまだ、付き合ってはいないんだけど!」
 慕う相手が誕生日にピアスを開けてくれたのだと幸せそうな笑みに、ジルーシャも嬉しげに微笑む。誰かが好きな人の話をしていると、その幸せを分けてもらった気分と、恋い慕う気持ちが自分のことのように感じられきゅうと幸せに胸が鳴くのだ。
「普段はふわふわしてるけど、依頼になるとかっこいいの」
 銀の瞳の視線が鋭くなるの! でもへらっとした笑顔もいいの!
 フラーゴラは彼の人の話に熱がこもり、力説する。盗み食いして投獄された下りでは「あら」とアラーイスが頬に手を当てた。
 ひとしきり話し終えてから、フラーゴラはハッと気がついた。話すぎちゃったかも!
 あわあわわたわたとふたりを見れば、迷惑に思っていない表情でホッとした。
「アタシの好きな人はね、緑の髪と青い瞳がすごく綺麗なの」
 赤いドレスのよく似合うその人は、最近は紫を――ジルーシャの色も纏ってくれるようになった。そんな可愛いことをされては、自惚れてしまう。
 わかっちゃったかも! と口元を両手で覆ったフラーゴラへジルーシャは人差し指をひとつ立ててみせる。けれど、もし雨泽が通りすがったのなら「あんなに熱烈に見つめていたらバレバレだと思う」と言われていたことだろう。

 キラキラとした空間が眩しくて、『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)はキョロキョロとするのに忙しかった。ハッと気付けば直ぐ側に居た仲間たちは各々楽しんでいて、メイメイはわたわたと彷徨った。
「あっ、アラーイスさま……良かった、こちらにいらっしゃいました、か」
「メイメイ様」
 デイベッドに座って夜風を楽しむように伏せられていた金色が開き、メイメイを映した。途端にとろけるように柔らかく微笑むその顔に、メイメイはホッとする。
「えへへ、浴衣、良くお似合いです、よ。御髪も結い上げてらっしゃるのですね…とても可愛らしい、です」
「メイメイ様も浴衣なのですね」
「あ、は、はい。あ、あの御方に、仕立てたついでに、わたしの、も自分で……」
 意味もなく袖を撫でてそう答えた。きっと顔が赤くなってしまっているだろうことが自分でも解り、恥ずかしくなる。
「まあ!」
 けれどその恥ずかしさは驚きの声で吹き飛ばされた。
「メイメイ様が浴衣を? まあ、まあ。なんてすごい。それも誰かに贈れるほどの腕前だなんて……! メイメイ様、詳しくお聞かせくださいます? ああ、飲み物も必要ですね。メイメイ様、飲み物を頂きに参りましょう」
 沢山聞かせて貰うのだからとデイベッドから素早く立ち上がり、アラーイスはメイメイの背を押した。
「めぇえぇぇ」
 これはどうして仕立てようと思った所から、洗いざらい全てを話すまでは開放して貰え無さそうだ。

 ニルの好きな緑色。緑のソーダ水の中にはニルのコアみたいな黄色が浮かんでいて嬉しくて。見てくださいとクリームソーダを見せようとして、ニルは雨泽が遠くを見遣っていることに気がついた。離れたプール際で会話をしているチックととその弟の様子を気にかけているのだ。
「雨泽様は、チック様の弟さんがこわいのです、か?」
「みゃー、僕もそれ、聞きたいと思ってたんだ。劉さん大丈夫?」
 ニルと祝音が心配そうに見上げてきて、雨泽は口ごもった。
「いや、あの、何かされたとかはないんだけどね、会う度に睨んでくるからね……」
 自分よりも小さなふたりにそんな説明をするのは恥ずかしいのだろう、雨泽が何とも言えない表情をした。
「嫌われてるみたいだし、傍に寄らないでおこうってだけだよ」
「そうなのですね」
 それで争わないで済むのなら、ニルはよいことだと思う。争いは悲しい。出来るだけ無い方が良いものだから。
 離れた場所にあるデイベッドでは、ゲオルグがにゃんたまやジークたちとともに一眠りしている。好きなものに囲まれ、食べ遊び、そして眠る。穏やかで平和なひとときとはこういうものをさすのだろう。こういう幸せがずっと続けばいいのにと祝音は思った。
(……ここが神の国でなければよかったのに)
 時が来ればここは無くなってしまう。ずっと皆の楽しげな姿を見ているのは幸せだけど――やはり祝音には遂行者たちのことが気になってしまう。
「そういえば支佐手のってアロハシャツって言うやつでしょ?」
「あろは? なんですか、それは」
「着物を着ていた旅人(ウォーカー)がシャツに仕立てたんだって」
「元は着物でしたか。道理で」
 甚平みたいだねと雨泽が笑った。
「おんしはラサ風なんですの」
「うん、そう。元々仕立て屋さんにお願いしてたのと同じ装いになってて吃驚したよ」
「色鮮やかな領巾と、精緻な銀糸の刺繍の対比が実に見事。名のある職人でも、そう簡単には作れんでしょう」
「見る目があるね、支佐手」
 常に珍しいものを追っているだけはある。
「おにいさんたち、これも飲んでみない?」
 雨泽と支佐手が小突き合っていると、ハーミルがオレンジ色の飲み物を手に近寄ってきた。祝音はいちご飴を取りに行くことで、自然に距離を取った。
「プッシーキャットだよ」
「キャットって猫だ。飲む飲む」
 オレンジとパイナップルにグレープフルーツ。それに赤いグレナデンシロップを混ぜたノンアルコールドリンクだ。
 名前に反応した雨泽が差し出されたのを手にし、支佐手は断って雨泽にもっと警戒してはと促したから「大丈夫だよ」と片方をハーミルが飲んでみせた。
「あの、ハーミル様」
 おず、とニルがハーミルへと声を掛ける。距離が空いているのはコーラスを警戒してのことだろう。
「氷聖様はこういう、ないとぷーるとか、好きな方なのでしょうか?」
「うーん。先生のことはよくわからない」
「わからないのですか?」
「先生は僕たちに優しくて色々叶えてくれるけど、自分の望みは全部神様の望みなんだ」
 誰かがこういうのはどうかと案を出したり、こうしたいと願うのをいつだって叶えているにすぎない。
「コーラスもそうなんだよ。先生が叶えてくれた!」
 先生はすごいんだとハーミルが無邪気に笑う。
「ハーミル様が、ニルの杖がともだち、というのは……どういうことなのでしょうか」
「ともだちじゃないの?」
 きょとんと丸くなる瞳にニルは首を振る。杖は大事なものではあるが、友達ではない。
「でもあれ、秘宝種のコアだよ?」
「……え」
「僕、そろそろ帰るね。……クルークのこと追いかけなきゃ」
 ショックを受けてたみたいだから、とハーミルが案じる。
 誰かのことを案じるその姿は、イレギュラーズたちの瞳には何処にでもいる少年に見えた。
「ハーミル、待って」
「なぁに?」
「これ、アンタの『先生』に渡してくれる? 怪しいと思うなら、捨てちゃってもいいわよ。何度だって作るわ」
 差し出した紫色の匂い袋にはリラックス効果がある。多くの人に囲まれている彼は疲れも溜まりやすいはずだろう。
「うーん。渡すだけ渡しておくね!」
「ありがと♪」
 楽しい夜を過ごさせて貰ったお礼だとジルーシャが言ったから、匂い袋の匂いを嗅いでみたハーミルはそれじゃあバイバイと手を振った。
「遂行者も帰るみたいだし、そろそろかな」
 デイベッドで伴侶とのんびり過ごしていたルナールが身を起こす。そろそろこのナイトプールの時間も終わるのだろう、と。
「少しだけ水浴びをしようかな」
「俺が支えるよ、ルーキス」
「うん。いつも通りエスコート宜しくね」
 ベッドサイドに立ち上がったルナールが、自然な仕草でルーキスの背と膝裏に手を回す。花籠でも持ち上げるようにふんわりとルーキスを抱き上げると、そのままプールへと爪先を浸すのだった。

「めえぇ、もう勘弁してください……」
 ほっぺに熱が集まりすぎたメイメイがパタンとデイベッドに倒れ込んだ。
(アラーイスさま……今日は元気そう、ですね……)
 チラッと見上げたアラーイスはツヤツヤとした表情で、ベッド際にあった葉っぱのような扇でメイメイへと風を送っていた。
(先日のアラーイスさまは……)
 化粧で隠してあったが、泣いた跡があるように思えていた。
 気のせいならそれでいい。元気なのが一番だから。
「めぇ! アラーイスさま!」
 パッとメイメイは飛び起きると、偶然持っていたaPhone10を取り出した。
「わたしと思い出の記録を残させてくだ、さい!」
 サイドテーブルには、ふたりのクリームソーダ。メイメイは紫色、アラーイスは桃色。星型のゼリーが浮かぶ愛らしいそれを手にとって、いつでも今日の日の思い出を見られるようにするのだ。
「まあメイメイ様。わたくしでよろしいのですか?」
 愛しい御方でなくとも?
 そう微笑うアラーイスに、メイメイはまたぽんっと赤くなった。
 大丈夫ですー! あの御方とはまた今度撮りますのでー!

「チック、どうしたの」
「雨泽……」
 クルークを悲しませてしまった以上、楽しい気持ちにはなれなくて。皆から離れたプール際で足をぱしゃぱしゃとやっていたチックの元に来た雨泽が覗き込んだ。
 彼の両手には可愛いクリームソーダがある。チックが全然動かないから、気を利かせて持ってきてくれようだ。
「……おれ、さっきね。クルークと話す……したんだ」
 元気のない声が、弟のことを話す。
 何も変わっていない、あの子。最後に見た時からも、何も。
「……おかしい事、なんだ。だって、」
 言葉を切る。
「だって――あの子の息は、おれが」
 呼吸が荒い。ぜえぜえと苦しくなった。それでも震えながら言葉を吐く唇にちょんと何かが当たって、言葉を切る。
「ソーダ飲んで。美味しいよ」
 差し出されたクリームソーダのストローが唇へ触れていた。
 両手で受け取ってストローを咥える。口内にしゅわしゅわと広がる甘さが心を少し落ち着けてくれた。
「……死者はね、絶対に蘇らないんだよ」
 それはこの世界における『絶対』だ。冠位魔種でさえ蘇らない。
 確かにチックは守るために殺そうとしたのだろう。
 一時息が止まったのだろう。
 けれど彼は息を吹き返したのだ。
「チックは弟を殺していないよ」
 あの子がどんな状態であれ、生きていることこそがその証。
 頬に溢れた雫を、クリームソーダで冷えた指が掬っていった。

「雨泽殿、調達できました!」
 水中に浮かんでいたプカプカしている奴――フロートのひとつを捕まえた支佐手がプールから大きく手を振っている。「今行くー」と雨泽は手を振り返し、ふたりぶんの空っぽのソーダグラスを少し退けてからチックの傍らから立ち上がる。
「チックもいかない?」
 手が差し伸べられる。
 じいっと見上げてから、うんと頷いて手を伸ば――そうとした。

「――ッ」
 ずきん。
 突然の痛みに、雨泽は息を呑んだ。

 急に雨泽が差し出していない方の手で自身の目を覆い、ひと瞬き後にはその身はぐらりと傾いた。
「雨泽?」
 バシャンと水柱が上がる。
 よろけて転んでしまったのかなと、離れた場所から見ていたニルと祝音は思った。
「ちょっとやだ、大丈夫?」
 ジルーシャもフラーゴラとともに立ち上がってプールを見た。
 誰もがすぐに雨泽が水面から顔を覗かせ、落ちちゃったと笑う姿を想像した。
 しかし、それがない。
「……雨泽?」
 声を震わせ、チックが水面を覗き込む。
 遠くでもうひとつ、水の跳ねる音。プールへ飛び込んだゲオルグと、フロートから離れて泳いでくる支佐手の姿がチックの視界に映り込む。
 ――けれど。
 雨泽が自力で浮かび上がってくる姿が映り込むことは、無かった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

色々書いていたら文字数がEX並みになってしまいました……。
ナイトプール、楽しかったですね!

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