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シナリオ詳細

さよなら催涙雨

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●なぜきょうてんきがわるいのか
「ええ~!? どうみても雨! どうみても雨!」
 現地へ到着したフーガ・リリオ (p3p010595)は、がっかりした。
「この日だけは晴れてほしいと願っていましたのに」
 相合い傘をしている佐倉・望乃 (p3p010720)も、困ったように周りを見渡している。雨がザアザア、どしゃぶり天気。野も山も雨に沈んでいる。あたりは暗い。
「梅雨やからな。しゃーない」
 蛇の目の丹色を持つ火野・彩陽 (p3p010663)がふたりの肩をぽんと叩いた。
「つゆ? つゆとはなんです?」
 いぶかしげな紲 建峰 (p3p010471)へ、緑の傘をさしたジョシュア・セス・セルウィン (p3p009462)が解説する。
「豊穣のこの地域では、初夏に恵みの雨がふるのですよ。降った雨は山へたまり、ゆっくりと地下を通って湧き水となって、田畑を潤す命の水へ変わるのです。この時期の雨量は作物の収穫に関わるのですよ?」
「そりゃあ、そういうこともあるでしょうが。こうまで降られると七夕で祭りって気分になれねぇのも確かですぜ」
「だよナ。ゲンが悪イ。あれだロ? 七夕ってのは、雨がふるとおじゃんになるんだロ?」
「ああ、そうだ。七夕は、牽牛と織姫の年に一度の逢瀬に由来する祭りだ。だが雨がふると、天の川があふれかえってふたりは会えなくなるんだ」
 と、本で読んだことがある。純白の傘の下で、赤羽・大地 (p3p004151)がそう語る。隅には青紫の紫陽花柄。雨に打たれてのびのびとしているけれど、持ち主の方はそうではない。
「なんとかすりゃあいい。俺たちはイレギュラーズなんだから」
 クウハ (p3p010695)が黒でふちどられた傘を傾け、隣で静かに佇む少女へ説明を促した。【魔法使いの弟子】リリコ (p3n000096)は、世界でただ一冊の絵本を開いた。頁を捲るたびに新しい物語が紡がれるそれを、皆へ見せる。傘をはみ出しているが、絵本は濡れる様子もない。書き記したモノの権能が宿っているのだろうか。
「笹竹物語?」
 建峰が崩れないバベルによってタイトルを読み取る。ジョシュアが近づき、ふむとうなずく。
「この地方独特の七夕伝説のようです」
「あー、俺、知ってるかもしれん」
 彩陽は語り始めた。

●天の妹と地の姉の話
 むかしむかし、天に姉妹の女神が暮らしておりました。姉はよく妹をかわいがり、妹は姉へなつき、ふたりは仲が良いことで知れ渡っておりました。けれども、天帝より勅命がくだり、姉はこの地方の守り神として封ぜられました。ひとり天へ取り残された妹は、姉を思って泣き続けました。それは雨となり、この地へ降り続けました。心を痛めた姉は、短冊へ妹を想う和歌を書き、笹へ吊るしました。想いよ届けと何度も何度も。いくつもいくつも。
 それは星となって天へ登り、妹の泣き顔を晴らしました。こうして梅雨は終わり、夏がやって来るのです。

●あめあめざんざら
「それで?」
「つまり」
 フーガの問いに彩陽は、まだ雨足強い空を指さした。
「寂しがりの天の妹が泣くと、梅雨になる。だから俺らは、姉がしたように短冊を笹ヘ吊るす儀式をせなならん」
「では、さっそく短冊を用意しましょう」
「ただの短冊ではあかん」
 歩き出そうとしたジョシュアを呼び止め、彩陽は続けた。
「なんやったかな。たしか特別な短冊つかわなならんのよな? 大地は知ってはるんちゃう?」
「今の話を聞いて思い出した」
「よっ、大地クン、本の虫らしいとこ見せつけてやろうゼ」
「黙ってろ赤羽」
 咳払いをした大地は、雨でけぶる竹林を指さした。
「光る竹の中にある、星の輝きを宿した短冊じゃないといけないんだ。ふつうの短冊を使うと、願いが空へ昇っていかないし、この地方の梅雨も終わらない。まずは地の姉によって聖別された、一本だけの竹を探さなきゃな」
「オーケー、竹を探す。簡単だな」
 クウハはにっと笑った。建峰が顔を向ける。
「でぇじょうぶですか? 光る竹はなかなか見つからないってことですぜ?」
「俺も、眷属だけあって、ちょっと『目がいい』んだ」

●光る竹と星の輝の短冊
 クウハにつづいて竹林へ入った一同は、最奥で光る竹を見つけた。
「じゃ、『開く』ぞ」
 クウハが竹の表面へ指を置き、縦にすべらせた。メキメキと音が立ち、竹が揺らぐ。次の瞬間、まっぷたつに裂けた。輝く短冊があふれでてくる。雨に打たれても、その表面は濡れず、輝きを保っている。
 フーガは口をぽかんと開けて見惚れた。
「……きれいだ。短冊がトランペットみたいな金色に光ってる」
「ね、ね、短冊、持ち帰っちゃダメですか? カンテラのかわりになりませんか?」
 望乃のおねだりに、建峰が首を振る。
「彩陽さんと大地さんの話によれば、輝く短冊は地の姉からの贈り物なので、全部使い切ってやらねぇといけねぇんです」
「そうですか……なら、村の人にも配ったほうがいいですね。この竹いっぱいにつまった短冊を、わたしたちだけの願いで独り占めするのはもったいです」
「そうするのがいいだろうナ」
「この地方の人たちも、竹を探しあぐねて困ってたみたいだし、梅雨は終わらせたいだろう」
「一度村に帰って、村人が用意してくれてる団子でも食いながら、願い事を書こうぜ」
 クウハは短冊を抱えた皆が、ついてくるのを確かめながら、来た道を戻っていく。

GMコメント

みどりです!ご指名ありがとうございます、ま、まだ七月! まだ間に合う! 相談期間がちみっと短いので、ご注意ください。

やること
1)願い事を書く
2)短冊を笹ヘ吊るす
3)星を眺めながら梅雨明けの星空を楽しむ

●戦場?
 豊穣のとある村
 梅雨です。
 七夕まつりの儀式を行うと、梅雨が開けます。今年はなかなか光る竹が見つからず、梅雨が長引いていました。村人のためにも梅雨を終わらせてあげましょう。
 笹林は竹林の隣、けっこう広い範囲に、笹が自生しています。あなたはみんなとわいわいしながら笹を吊るすのを楽しんでもいいし、ひとりだけの想いを笹ヘ託してもかまいません。

●EXプレ
 開放してあります。行動の補足や追加、関係者の起用、または誰にも秘密にしたい願い事を書くのにご利用ください。みどりがフフッてなりながら描写します。

●補足
1)このシナリオに戦闘はありません
2)このシナリオでは、NPCリリコを呼び出すことができます。
3)このシナリオでは、セブンカラーハピネスフラワーで入手した傘を使用できます。他の傘がいい、あるいはまだ傘をもっていないあなたは、プレで指定してください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • さよなら催涙雨完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年08月02日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談6日
  • 参加費---RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠
紲 建峰(p3p010471)
紲家
フーガ・リリオ(p3p010595)
青薔薇救護隊
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
佐倉・望乃(p3p010720)
貴方を護る紅薔薇

リプレイ


「何度見ても雨! 何度見ても雨! なぜきょうてんきがわるいのか!」
『君を護る黄金百合』フーガ・リリオ(p3p010595)は五線譜の入った深緑の大きな傘を握りしめた。
「どっちでもいい日にかぎって晴れますよね」
 相合い傘で守られている『貴方を護る紅薔薇』佐倉・望乃(p3p010720)は大きなため息をついた。
「……梅雨の事を失念してたぜ。そうだな、豊穣は、そういうところだったな」
「この日だけは、晴れてほしいと願っておりましたのに……どう見ても雨! なのです」
 でも、と望乃はほがらかな笑顔を見せた。
「またあなたとこうして相合い傘ができるのは、うれしいです」
「望乃……当然だぜ、おいらは望乃の夫なんだし」
「えへへ、頼りにしています。旦那さま」
「じゃ、じゃあ、もっと、こっちにおいでよ、望乃。肩が濡れてしまう」
「はい。ふふ、くっついちゃいますね」
 肌のぬくもりを感じながら、ぜったいに濡らすもんか、風邪なんか引かせるもんかと、フーガは誓いを新たにする。
「それにしても」
 フーガは雨に濡れる笹山へ視線を移した。
「七夕は去年知ったばかりだから、とても楽しみだ。地方によって言い伝えが違うとか、スゲエ興味深いな。去年の七夕もよかった。エンニチってのがあって、店がたくさん出ていたんだ。望乃も機会があったら、いっしょにいこうぜ?」
「はい! もちろんです」
 隣の傘では、雨を受けて、猫が弾むように歩いている。足跡が点々と浮かび、雨に流されるかのように消えていく。魔法のかかった傘をさした『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)は、すこしだけ傘を傾けていた。そうするだけで陶器の人形のようなちいさな女の子はすっぽりと傘の下に入る。クウハはリリコが濡れてしまわないよう気をつけながら、ゆっくりとあたりを見回した。
「この雨、俺が悪霊だから、じゃないよな?」
「……ちがう」
 女の子は小さく首を振った。
「……元々この地方は、この時期になると梅雨に入る。黒猫のせいじゃない」
「そうかい」
 クウハはリリコのあたまをぽんと撫で、空を見上げた。分厚い雲と大地が雨で縫い付けられている。
「梅雨なんはしゃあないよな。七夕って梅雨時のことが多いし。雨もふるやろ」
『放逐されし頭首候補』火野・彩陽(p3p010663)も丹色の蛇の目の下から空を見る。こちらの地方では姉妹だが、自分のいたところでは夫婦だったなあと思う。神様にお祈りするところもそっくりだ。努力に努力を積み重ねて、最後に神頼みをするというこの村のしきたりも、彩陽にとって好印象だった。
「まあ晴れるんなら晴れてほしいよな。なんぼ梅雨が恵みの雨いうても、こう長雨がつづいたらせっかくの実りが腐ってまうで」
「そう、ですね。気象条件としては、長雨になりますね」
『星巡る旅の始まり』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)もうなずく。ボタニカル模様の傘は雨を受けて嬉しそうだが、田畑はそろそろ日の光が恋しかろう。
(この地方の七夕伝説も、離れ離れのふたりなんですね。……星、とは、離れた者同士の想いを繋ぐものなのでしょうか?)
 いまは雲に閉ざされて、空は見えない。けれどこれだけ降ったのだから、空気も洗い流されて、きっと晴れ間にすばらしい夜空が見えるだろう。それを考えるだけで、ジョシュアは楽しみになってきた。そういえば、星と星を繋いで、星座とするのだったか。旅人も船乗りも、北極星を道しるべにする。魔物や魔種が跳梁跋扈するこの混沌では、長旅は命がけだ。いまでこそイレギュラーズを護衛に雇うという文化が根付いたが、大召喚前はそうでもなかった。人々は星を目指し、星で遊び、星に見守られながら旅を終える。やはり星は自分の思ったとおり、想いをつなぐものなのだろう。
 唐傘の下で、『紲家』紲 建峰(p3p010471)も雨に不満げだ。
「ちょいと天の妹は、泣き虫がすぎるんでないですかね。こいつが長く続くようじゃ、七夕が時期はずれになっちまう」
「まあそういうなよ。それに」
『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)、の、大地のほうが口火を切った。
「いまから七夕をやる理由は十分にある。なぜなら少なくとも俺の出身……あー、日本という国の話ではあるが、旧暦と新暦というのがあった。太陽を基準にする新暦は、一年は365日。対して、旧暦は月の満ち欠けを基準にした354日で、これに約3年に一度、閏月をいれて暦のズレを修正していた。ところが、時は明治。政府は財政難に苦しんでいた。人件費に頭を悩ませるのは当時も今も同じだ。閏月が入ると、13ヶ月分の給料を払わなければならない。そこで政府は一計を案じ、欧米列強に並ぶためと称して強引に新暦を導入。給料を一部チャラにした。さらには当時のしきたりからくる休業体制を、週休二日制に改定。なんだかいいことに聞こえるが、べつにそんなことは全然なく、休養日を年間50日ほど削減したんだ。国家公務員がブラックなのは昔からそうだったということだな。……話がそれた。七夕だ。旧暦の七夕は現在でいうところの、8月の22日にあたる。つまり、今から七夕祭りをやっても全然セーフという事だ!」
「お、おう……」
「お、おウ……」
 建峰も赤羽も大地のマシンガントークに若干引いていた。
「この赤羽サマも引くレベルの文系オタトークをかますとハ、大地、やりやがル」
「……普段は抑えてるだけなんだ。思考をまるごと言葉にするとこうなるんだ。引かれるからやらないだけで」
 というわけで、と、大地は青紫の紫陽花が咲く傘の下で、咳払いをした。
「気兼ねなく楽しもう、皆」


 蓮の葉を傘代わりに、建峰が立派な笹を切ってきた。
「自分で調べやしたが、たしか七夕祭りってぇのは、笹に短冊を吊るして、川に流すんでやんしょう?」
 村人は初耳なようで、目を丸くしている。だけれどすぐに建峰を手伝いだした。三本もの笹があるかなきかの風に揺れながら、村長宅の軒下に飾られた。すぐに順応するのは、なんでも目新しいことが好きな豊穣の民ならでは。目新しいと言えば、大地の方も人気だった。自由図書館からもってきた七夕飾りの本に、子供たちだけでなく大人まで興味津々だ。さっそく村長宅の広間が開け放たれた。
「ドアを取り外して、ひとつの部屋にするんですか」
 ジョシュアは異文化の建物構造に口をあんぐりと開けた。ジョシュアが言っているのはふすまのことだ。ふすまというまじきりをなくしてしまえば、たしかに大広間になる。なるのだが、ジョシュア的にドアは取り付けるものであって、取り外すものではない。
「え、この障子という窓も外すんですか? えっ、こっちは外さない? どう違うのですか? なるほど、勉強になります……」
 軽くカルチャーショックを受けたジョシュアは、おそるおそる框戸を引いて厨房へ降りた。
(よかった、かまどの形はそんなに変わらないみたいです)
 これなら自分でも使えると、湯を沸かしたジョシュアは、持参した茶をいれた。もしやそれはとおかみさんがたが寄ってくる。
「はい、あるてろ茶です。豊穣の和菓子にもあうと聞いておもちしました」
 おかみさんがたは思わぬハイカラに喜んだ。自分たちのこさえた団子を大皿へ山と盛り、ジョシュアを先頭に大広間まで戻る。そこは折り紙でカラフルに染まっていた。
 大地が七夕飾りの指導をしている。
「見本ののってる本はこれな。ハサミを使う時は必ず大人の人と一緒に。ちなみにこっちは左利き用。これはのり。切ったりはったりが苦手な人へはステープラー。見たことあるか? ない? これを、こうして、こうだ」
 大地がホッチキスを実演して見せると、ものすごい勢いで拍手された。興奮した様子のこどもたちが、さっそくパチンパチンとやりはじめている。
「お子様はすぐ盛り上がるからやりがいがあるナ」
「なんだか勇者になった気分だ……」
 再現性東京から仕入れた本。死蔵するだけではもったいない。読まれてこその本、活用されてこその本、特にこういう工作系は。勇退した本を除籍する時、大地はいつも本へ「おつかれさま」と言う。赤羽もそんな大地を「仕方ねぇ奴」などと言いながら、優しい目で見ている。
 クウハが本を開くと、村人が近づいてきた。背中越しにちらちら見ている。クウハは顔をあげた。
「気になるなら堂々と覗けよ」
 わっと逃げ出した人々が、またそおーっと寄ってくる。すぐにクウハのまわりは、人だかりができた。
「七夕飾りにも色々と意味があるんだ。たとえば、こいつ」
 クウハは吹き流しを指差す。
「これは裁縫の上達。若い娘さんにおすすめしとく。で、こっちは」
 クウハはページをめくった。
「網飾り。大漁祈願だ。この村には川が流れているな。作っておくといいことあるかもしれないぜ」
 それから、とクウハはさらにページをめくる。村人たちが身を乗り出す。見覚えのある姿が紙面にあった。
「折り鶴。知ってるかもしれないが、長寿と家内安全。それから、こっちのくずかごは倹約と整理整頓って意味がある。くずかごは、久寿籠とも書く縁起物だ。あんまり粗末に扱うと福が逃げちまうかもな」
 まあそうなったらそうなったで、とクウハは続ける。
「俺の屋敷が空いてるからこいよ。おばけならいつでもウェルカムだ」
 笑いを取ったクウハが雨の続く空を見上げる。
「俺のいた世界にも七夕の文化があったんだ、大地、リリコ」
 本好きの青年と女の子が近寄ってきて隣に座る。
「千年に一度、7日間、夜空に彗星が現れる。その彗星にちなんだ御守りに祈りを込めて、7つあるツマミを一夜を越すごとに折り畳む。全て折り畳んだ最後に願いが叶う、と……」
「それは初めて聞いたナ」
「地方によって違うのだから、世界が違えば変わるのも当然か」
 赤羽と大地の言葉に、リリコもうなずいている。クウハはにやりと笑った。
「せっかくだ。オマエら御守りを作るの、手伝え」
「えっ、めんどクサ」
「いいのか? ぜひ」
 正反対のリアクションを取る赤羽と大地。リリコはすでに準備をしていた。
「俺は悪霊なんで、加護を込めたものを作るのは得意じゃねェんだよ。その点オマエらなら、そういうの得意そうだろう?」
「それ、俺もまぜてもらってええやろか」
 彩陽がひょこりと輪の中へ入った。好奇心で目がキラキラしている。
「なん作ろうか迷うとったところや。色々あるからって片っ端から手を付けたら、作り終わってもうたわ。御守りて、どんなん?」
「あー、じゃあ順番に説明する。まず材料を配っとくな」
 和気あいあいと御守りづくりが始まった。手先の器用なクウハに比べて、リリコのそれはどうしても不格好だ。しょんぼりしているのか、大きなリボンがくたっとしおれている。不格好と言えばジョシュアのそれもだが、こちらは会を重ねるごとにみるみるうちにグレードアップしている。
「上達がはやいな」
「ありがとうございます、クウハ様。生まれた森には折り紙みたいな物も文化もなくて、とても楽しいです!」
「そいつはけっこう。フーガは?」
「見ないでくれ……」
「フーガ、フーガ、もういちどやってみましょう? きっとジョシュアさんのように上手くなってますよ!」
 あみ飾りに苦戦しているフーガを、望乃が一生懸命応援している。望乃は望乃で、輪飾りを作っている。切る、貼る、つなげる。のりでぺたぺた。色合いも考えて、トリコロールカラー。エネルギッシュなオレンジと青と白はモダンな感じ。涼し気な水色と黄色にはぜいたくに銀色の折り紙を使ってアクセントをいれる。夢中になってぺたぺたしているうちに……。
「はれ、あっ、あわわ! リリコさーん、取ってくださーい!」
 髪に紙がぺたり。桃色の望乃の髪に、髪飾りができる。リリコは慎重にそれをはがしていく。望乃の髪を傷めないよう、慎重に。

 望乃は星のように輝く短冊を手にし、うーんとうなった。すっかりきれいになった髪を、てぐしですく。
「お願い事……お願い事……」
 望乃は困った。思い浮かばない。だってかなってしまったから。一緒に遊んでくれる、友達。いまではたくさんいる。童話で読んだような、大冒険。まさか生れ故郷の覇竜が、あんなことになるなんて。遠くの国のお菓子なら、いまでは詳しい方かもしれない。一生に一度でいいからと願ったすてきな恋は、彼女の胸のうち、燃えている。物語のお姫様のように、ただ一人の、自分だけの王子様……。
「望乃?」
 フーガがのぞきこんでくる。
「どうしたんだ?」
「ええっと、わたし、とっても幸せなんだなって」
 ……子供のころにベッドの上で願ったことは、特異運命座標として召喚されてから、全部叶ってしまいましたから。
 はにかんだ笑顔にフーガは胸がいっぱいになった。
「望乃、はやく願い事を書くんだ」
「はい?」
「おいらがてっぺんに吊るす。いちばんに空へ届くようにする」
「わ、わかりました」
 いつにない夫の気迫に押されて、望乃はあわてて願い事を書いた。
 ――皆の願いが叶いますように。
 フーガはそれを受け取ると、感慨深そうな顔をした。
「やさしいな、望乃は」
「だって、皆さんの願い事が叶ったら、わたしもうれしいですから」
「そんなところが、望乃らしい」
 フーガは宣言通り、笹のてっぺんへ望乃の短冊をつるした。
「そういえば、クウハと初めて会った時も、短冊、一緒に飾ってたな」
「ああ、言われてみれば」
 黒猫はうっそりと笑う。
「オマエは平和でありますように、だったっけか」
「クウハは面白おかしく過ごせますように、だったな」
「かなったか?」
 にやにやしているクウハに、力強くフーガはうなずく。
「おいらは、叶った……いや、それ以上だ。元の世界では考えられない程、嬉しく楽しい思い出や、友達や妻が出来て。時に辛く、悲しいこともあるけど……夢だと思って逃げがちな自分が、それすら面と受け入れられるようになって」
 望乃の華奢な肩を後ろから抱きながら、フーガは万感の思いを込める。
「……こんなに色鮮やかで平和な時を、おいらにも得られたんだ。ありがとう。クウハ。あの時、声をかけてくれたおかげで、現実に生きる幸せと平和を、おいらは深く噛みしめた」
「そりゃオマエが、がんばったからだろ。俺はたいして何もしてねェよ」
 フーガは首を振った。自分の短冊を笹へ吊るす。
 ――これからもこの混沌で面白おかしく、楽しく平和に過ごしたい。
「欲張りかな?」
「いいんじゃねェの? オマエらしくて。随分といい男になった。オマエは俺にとって、自慢の親友だよ」
 ああ、とクウハは自分の短冊を見る。
 あのころに比べて、背負うものが増えた。けれどその重みは心地よくて、背筋を伸ばしてくれている。手前勝手自由気ままにとはいかなくなったが、その分楽しみも増えた。
「悪くない」
 筆をとってクウハは書きつけた。
 ――縁を結んだ全員が、面白おかしく、楽しく平和に過ごせますように。
 これは決意表明。願いを言霊に変える方法。
(オマエたちがそうあれるように、護ってみせるさ)
 建峰はじっくりと考えた。考え抜いて、さらさらと筆を動かした。
 ――家族が健やかに過ごせるように。
 誰かを想う気持ちは、尊い。それが平穏無事を願うものであるならば、なおのこと。
 ジョシュアもまた、願い事を書いていた。真剣に考えてこれと心定める。
 ――薬作りがうまくなりますように。
 毒は薬にもなりうるのだと教わってから、またすこし変われた気がする。今挑戦している解熱剤はなかなかの難関だ。それでも諦めたくはない。
 医術の一族だったはずの毒竜は、命を断つ毒になった。だがこの力をくれた彼女のためにも、誰かの苦しみを癒せる存在になりたい。毒の因子をもって生まれた。そのことに顔を伏せていたままでいたくはないから。それに。
(もしも行き詰っても、フーガ様をはじめとした医術に詳しい皆様がいるから、きっと大丈夫です)
 彩陽は雨が小降りになってきたことに気づいていた。笹へ短冊を吊るし始めてからだ。分厚い雲が薄くなっていくのが分かる。彩陽はそっと自分のぶんを誰にも見つからないよう影に吊るした。
 ――皆無事に最後までその人らしく過ごせますように。
 何時かは終わるかもしれない。でも、その終わりまで皆それらしく。穏やかに……っていうのは難しいかもしれない。それでも、まあ、その人らしくいてほしい。彩陽はちらりと周りを見回した。村人にまじって、仲間が短冊を吊るしている。あたりはまるで蛍が舞っているかのようだ。
 大地の目を通して短冊を眺めた赤羽は、喉を鳴らした。
「オ、随分とありきたりな願いだなぁ大地」
「別にいいだろ。医学の勉強をすればするほど、そう思っちゃうんだよ。そういう赤羽は?」
「フン、この赤羽様の望みを知りてぇカ? 仕方ねぇナ〜ここは一筆認めるかァ〜」
「いいから早く書けよ。皆もう終わってるぞ」
 なんてやいやい言い合いながら、ふたりは短冊へ願いを書きつけた。そっと、飾った。やがて短冊がこうこうと輝きだし、空へと光が舞い上っていく。
「へェ、天の妹へ、こうやって届くわけカ」
「空が、晴れてる」
 たくさんのたくさんの光が昇っていく。雲を晴らしていく。出迎えるように満天の夜空が現れる。
「どれが願い事デ、どれが星かわかんねぇナ」
「ああ、だけど、きれいだ」
 ゆらゆら、昇る、光。天の川へと。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

きっと天の妹も地の姉も満足していることでしょう。
願い事が叶いますように、みどりもお祈りしておきます。

またのご利用をお待ちください。

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