PandoraPartyProject

シナリオ詳細

大きくなーれ、小さくなーれ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「大きくなーれ!」
 女の子がそう言って小槌を振ると、あら不思議! 小さい野花はみるみる大きくなって、大輪の花になりました。
「小さくなーれ!」
 女の子がそう言って小槌を振ると、あら不思議! こわいハチさんはみるみる小さくなって、蠅の子どもくらいになってしまいました。
「大きくなーれ! 小さくなーれ! あはっ! あははは! たーのしー!」
 女の子は止まりません。こんな素敵なものを拾ってしまったのですから。次は何に試そうか。美味しいドーナツ? 気に入らないおじさんの鼻? ああ! 考えるだけで楽しいなぁ!
 大きくなーれ。小さくなーれ。大きくなーれ、小さくなーれ……


●急げイレギュラーズ
「大変なのです!」
 ユリーカは机に地図をばむんと叩き付けて言う。動作こそ愛らしくはあるものの、その声色は真剣そのものだ。
「打ち出の小槌が出たのです!」
 ――はい?

「一寸法師という昔話があるのです。ボクも旅人さんから聞いたのですが…その中に“打ち出の小槌”というアイテムが出て来るのです。なんでもお姫様がその小槌で、小さい一寸さんを大きくなーれ、大きくなーれってしたとか。その打ち出の小槌が、なんと、なんと! 発見されてしまったのです、この幻想で!」
 ユリーカがいうにはこうだ。
 幻想内の炭鉱で、炭鉱夫が小さな槌を掘り当てた。何かの遺物かもしれないが、余り価値はなさそうだ、と置いていたところ、炭鉱夫の子が持って行ってしまったらしい。
 そこまでは良かったのだが……
「その子は一寸法師のお話を知っていたのでしょうね。その女の子が大きくなーれ、と小槌を振ったら、なんと! ほんとに大きくなってしまったのです。最初の犠牲者はおやつのチーズだそうなのです。しかも小さくも出来るのです、これはすごい」
 それだけなら可愛い話だが、なるほど、そうは問屋が卸さない。
 きっとその子は小槌で悪戯して回っているんだろう、と誰かが問うと、そうなのです、とユリーカが頷く。
「色々なものが大変なことになっているのです。野花から近所のおじさんの鼻まで大変です。しかもそれだけではないのです。どうもその小槌はですね、少しずつ持ち主の心を蝕むアイテムで……」
 おっと、話がきな臭くなってきたぞ。
「小槌を使わないとどうしようもなく不安になったり、体に不調が出たりするらしいのです。これはローレットの緊急調査で分かったことなので、持ってる子は何も知らないのです! ――とにかく、小槌と女の子を引き離して、小槌はこわいこわいなので壊して欲しいのです。お願いします!」
 ユリーカが一度言葉を切った其処に、丁度良くギルドの構成員が戻ってくる。
 小槌の居場所が判ったぞ、と。

GMコメント

 打ち出の小槌を見つけたら?
 砂金見つけておっきくしたい。奇古譚です。

●目的
 打ち出の小槌を破壊せよ

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●立地
 昼下がりの森です。
 大きなお花に囲まれた空き地。虫は小さく、花は大きく。
 メルヘンな御伽噺にも似た風景が広がっています。

●エネミー
 女の子(E:小槌)x1
 猫(虎サイズ)x2

 猫は虎サイズで、近攻撃(引っかき・噛みつき)を行ってきます。基本的に女の子を護ろうとします。
 女の子は体力を回復しようとぼんやりしていますが、イレギュラーズの皆さんを見つけると小槌で攻撃してきます。
 女の子は特別な技能を持っていませんので、迂闊に攻撃すると怪我をしてしまいます。不殺スキルなどを利用して、うまく小槌だけを攻撃する必要があるでしょう。
 使ってくる技は以下の通りです。

※小槌で殴る(至単):痛いです。当たると「大きくなーれ」「小さくなーれ」のいずれかを発動します。
 この技は無機物にも影響します。例えば枝が大木になる、とか。蜂さんが大きくなる、とか。

※大きくなーれ:当たると命中率が上がり、回避率が下がります
※小さくなーれ:当たると命中率が下がり、回避率が上がります

●その他
 打ち出の小槌を破壊すればミッションコンプリートです。後遺症などの心配はしなくとも大丈夫でしょう。
 ただし、小槌によるアクシデントにはくれぐれも気をつけて。
 では、いってらっしゃい。

  • 大きくなーれ、小さくなーれ完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月16日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

主人=公(p3p000578)
ハム子
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ワーブ・シートン(p3p001966)
とんでも田舎系灰色熊
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
エナ・イル(p3p004585)
自称 可愛い小鳥
アンシア・パンテーラ(p3p004928)
静かなる牙
葛城 リゲル(p3p005729)
竜爪黒狼

リプレイ

●おとぎばなしは残酷
「便利な道具は便利なまま、とはいかねぇか…」
 森の中、少女が座り込んでいる場所を目指す一行。ぽつりと呟いたのは『急がば突っ切れ』葛城 リゲル(p3p005729)だった。その通り、ただ大きくしたり小さくできる小槌だったのなら、これからが便利だね、やったね! と大団円だったのだが、そうはいかない。
「所詮メルヘンはメルヘン、本の中の出来事。そう美味くはいかないということだ」
「そうだね。寧ろ振るったのが無邪気な子どもだったから、今の程度で済んだのかもしれない」
 アンシア・パンテーラ(p3p004928)の応えるような言葉に、マルク・シリング(p3p001309)が続く。悪意ある大人が小槌を手にしていたなら、もっと被害は甚大だっただろうと。
「そうね。わたしなら、……食べ物を大きくしたり、貴金属を大きくしたり……」
「そうですね、ボクも……い、いえ! 何もやましい事は考えてないですっ!」
「私も、……身長がもう少し……いや」
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)と『(自称)可愛い小鳥』エナ・イル(p3p004585)は、己の欲望に(割と)正直だ。エナは否定したけれど。でも、小さいのも良いと思うぞ!
 すっぱりと己の欲望を切って捨てた『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)。求めだすときりがない。あれもこれもといううちに、願いに埋もれてしまいそうだ。猫を侍らせて小槌を握る少女の心中はいかばかりのものだろうか。
「――せめて最後はさ、めでたしめでたしで終われるように頑張ろう!」
 重くなりそうな空気を打ち払うようにりんと鈴鳴るような声で言ったのは、『ハム子』主人=公(p3p000578)。今回は少女の緊張を和らげるため、女性アバターの姿をとっている。同意に各人が頷いたそのとき、『とんでも田舎系灰色熊』ワーブ・シートン(p3p001966)が声を上げた。
「足跡ですねぇ。まるで虎みたいですがぁ……もうすぐかなぁ」

「………」
 ワーブの言葉に違えなく、少女はほどなくして姿を見せた。というより、イレギュラーズが少女のところに辿り着いた、という方が正しいだろう。少し疲れた表情をしていた少女は、立ち入って来た人間たちを見ると、手に持っていた何かを大事そうに抱え直した。傍に寝そべっていた虎のような獣が身体を上げる。其れは虎ではなく猫のように見えたが――サイズは虎のそれだ。
「説得は任せる」
 そう言って、最後尾にいたアンシアは森の緑に溶け込む。説得に参加しないのは、気性もさることながら、有事の際に退路を断つ役目を請け負っているからだ。
「…あなたたち、さっき此処にきたおじさんの仲間?」
「おじさん?」
「さっき、こそこそとこっちを見てた。あたしのコレ、取りに来たんでしょう! パパかおじさんが告げ口したんだわ! それで、コレを取りに来たんでしょう!」
「そうよ。あなたのパパ、物凄く心配してたわ。私達を呼ぶくらいにね……早く帰らないと、怒られるわよ」
 私も怖いわ、と身震いしてみせるイーリン。しかし、少女の剣呑な目つきは変わらない。マルクが柔らかく、状況をスプーンで掬うように言葉を紡ぐ。膝を折り、視線を合わせて。
「怖い道具だ、っていっても、君には判らないかもしれないけど……この猫さんたち、もうお家ではお世話できなくなるんじゃないかな。元の大きさに戻してあげないと、お家は狭いし、食べ物も足りなくなって可哀想だ」
「………そう、だけど……」
「その小槌がないと不安になったり、今だって疲れているんじゃないですか? ……お願いです、その小槌を渡して下さい! みんな、貴女の事を心配しているんです!」
「…………」
 エナの言葉に、少女は口を噤む。駄々をこねる静寂というよりは、何かを言おうとしている沈黙に思えて、……一同もまた、口を噤んだ。
「……信じてくれ。俺たちも一緒に悪戯した事を謝るからよ、だから……」
「……けて」
「え?」
「じゃあ、助けてくれる?」
 少女が紡いだのは、予想外の言葉。
「…どうしたの?」
「あのね」
 公が問う。顔を上げた少女は――泣いていた。
「この小槌、手から離れないの……! 怖いよ……!」


●往々にして邪な
「離れない?」
 マルクが聞き返す。少女はいよいよ堪え切れず、涙をほろほろと零し始めた。
「うん……! ほんとは、……いたずらいっぱいしたら、怖くなって……! 全部もとに戻そうって思ったの……! そうしたら、手から離れなくて、それがもっと怖くて、怒られたらどうしようって……! どうしたらいいのか判らなくて、あたし……!」
「……これは、困った事になったね」
「でもやる事は絞られてきた。ねえあなた、もう少し我慢できる? 例えばその小槌を私達が壊す間くらい」
 マルクが唸る。
 イーリンが淡々と述べると、少女は一瞬怯えた顔をして。
「……小槌を壊したら、あたしの手、元に戻る?」
「それは判らないけれど……少なくとも壊さなかったら、貴方の手と小槌は仲良しこよしでくっついたままだわ」
「ああ。そんなのは見過ごせねぇ。アンタに怪我させねぇように頑張るからよ、少し我慢してくれねぇか」
 リゲルは真剣に、少女を助けたいという願いのもとまっすぐに、少女に問う。その真剣さは、確かに――少女の怯えを上回った。
 こくり、と頷いた少女。頷き合い、戦闘隊形を取る一同。
 けれど、それを承知しない存在がいた。
「……!? 待って、その人たちは悪くないわ!」
 猫だ。少女の飼い猫と思しきその二匹は、戦闘の気配を敏感に感じ取り、主人の危機と思ったのだろう。毛を逆立てて威嚇する。
「ねえ待って! お願い、この子たちに怪我させないで! 何も悪い事してないのよ! まって、いまこれで小さく……!」
 少女が猫たちを元の大きさにするために、小槌を振り上げた……その瞬間だった。
 こつん、と小さく感触がした。
「え?」
 それは僅かな振動。少女にさえ判るか判らないかの瀬戸際。けれど確かに、判ってしまった。そして、皆にもすぐに判った。
 少女の傍でむくりむくり、大きくなってしまうのは――
「――あぶねぇ!」

「…………」
 少女は目を閉じていた。何か、温かいものが自分を包み込んでいる。それはよく知っている温もり。眠れないとむずがる夜、そう、パパはいつも私をそうやって――
「……?」
 そっと目を開ける。パパは此処にはいない。じゃあ、私を抱きしめているのは誰?
「あなたは……」
「……大丈夫か?」
 獣の優しい瞳が、少女を見下ろしている。――リゲルだった。その背に巨大化した蜂の針を受けながら、己の内の可能性でもって意識を保ち、少女にそれを見せるまいと笑みを浮かべて。
「あんまりそれは振り回すもんじゃねぇ。腕を上げて、ちょっと待ってな」
「チッ――動くなよ!」
 静かに獣人形態で少女たちの背後に回り込んでいたアンシアが、蜂に魔力撃を放つ。蜂の体勢が揺らぎ、針が抜ける感触にリゲルは僅かに呻いた――が、それさえも少女には見せずに。
 蜂の攻撃にいよいよ殺気立った猫たちは、もう少女には手が付けられない。説得で少女の心は十二分にイレギュラーズに傾いている。あとは猫を牽制しながら小槌を壊すだけ。目的がはっきり見えてきた今、彼らを阻むものはない。


「な、なんで…! あたし、今、大きくなれって思わなかったのに!」
「落ち着け! これも小槌の影響かもしれねぇ」
「何が起こるか未知数だったからね…とにかく、猫たちの対処は任せるよ」
「判った! 司書さん、お願い」
「ええ……全く、このサイズの猫を相手にするなんて。ティーカップに入るくらいならまだしも」
 公の言葉に頷いたイーリンの周囲に、小さな紙片が舞う。「マギウス・スクト・アル=アジフ」……いつか散ると知りながら紫苑の君を守る魔書の断片。猫の牙に引き裂かれ、そのいくつかが聖なるかなと歌い、散った。
「ボク達も行きましょう!」
「そうですねぇ。ややこしい事にならなくてぇ、よかったぁ、というべきかなぁ?」
「よかったんです。……よかったんです! さあ、可愛いボクに寄って来てもいいんですよ!」」
 エナとワーブ組もまた、猫の引き付け役として行動を開始する。エナが名乗り向上で猫を引き付け、ワーブが接近してマークする。……マークというより、猫に組みかかられて、猛獣大決戦みたいな感じになっているが。
「いててて、いててて。あんまり爪を立てると痛いんですよぅ」

「猫の方は巧くいったみたい。こっちも手早く終わらせないと。――どう?」
「うん、巨大化はバッドステータスの類じゃないみたいだ」
 ミニュイが一同の配置を確認し、エネミースキャンを試みているマルクを見た。小槌へ攻撃できるのは二人――自分と、マルク。リゲルはもっぱら少女にかかりきりだし、傷もある。アンシアは二人を狙う虫と戦っている。合流できるのは速くてぎりぎりの瀬戸際だろう。
 少女に戦闘の意思がないとはいえ、大きくなったり小さくなるのがバッドステータスではないのなら、イレギュラーズの手では解除のしようがない。小槌でなんとかするか……或いは小槌を破壊して、事態が収束するのを祈るしかない。
「わかった、じゃあ小槌を攻撃する」
「宜しく頼むぜ…! 嬢ちゃんは俺に任せてくれ!」
 リゲルが少女の手を取り、高く掲げさせる。何事か話しているようだが、恐らく怯える少女を宥めているのだろう。少女の為にも、早く終わらせなければいけない。
「(こっち、……は、無し)」
 ショウ・ザ・インパクトで少女の体勢を崩す、という選択肢は捨てて、ミニュイは衝撃の青を放つ。衝撃波が小槌に当たり、甲高い音を立て――
「……やっぱり、一撃でとはいかないみたいだ」
「いざとなったらリゲル君には損な役回りをしてもらう事になるかもしれない。……そうならないように頑張ろう」
 マルクもまた、威嚇術を放つ。小槌には当たったものの、破壊には至らない。

「いてててて…!」
「ワーブさん、大丈夫ですか!?」
「お、おいらはぁ、大丈夫ですぅ……! まだ大丈夫ぅ……」
「あんまり無理はしちゃ駄目です、よっ!」
 組みあいながらも猫の猛攻にさらされたワーブが、たまらず倒れ込む。猫の脇腹にエナが蹴戦を放つと、猫は甲高く鳴いて横へ転がった。不殺スキルとはいえ、元はただの飼い猫か野良猫であったことを考えるとエナの胸が少々痛む。
「小槌さえ壊せれば……!」
「そうですねぇ……小槌の事は、小槌を狙う人にぃ、任せるしかないですねぇ」
 一方、公・イーリン組は、イーリンの魔眼によって怒りに見舞われた猫が爪を振るっている。それを受けながら二人は少女たちから距離を取る。聖なるかな、聖なるかな。魔書の断片が散っていく。イーリンの前に立ち、第一の盾となっていた公も、傷だらけだ。
「そう長くはもたないわね……」
「うん、女の子をどうにかしないことには……! はぁ……っ!」
 公が己の回復力を最大限に引き出す。イモータリティ――そう何度もは使えないが、これでまだ盾として動けるはずだ。
 頼むよ、と、公がマルクたちに視線を向けた。
「……これと次で駄目だったら」
「女の子を、だよね。判ってる」
 エネミースキャンを続行しているマルクが、苦々しく頷く。少女もまた、小槌に魅入られた被害者だ。それを気絶させて小槌を奪うというのは、彼女が僅かに預けてくれた信頼を損なうようで心苦しい。
 けれど、30秒。リミットはそこで、と区切った以上、長引かせれば仲間の体力にも関わってくる。
「リゲル君、しっかり支えててくれ……!」
 再びマルクが威嚇術を放ち、ミニュイも衝撃の青を放つ。……しばしの沈黙の後、ぴきり、と小槌にひびが入る音がする。
「……あと一撃、で済んでくれると良いんだが」

「いてて……!」
「ワーブさん!」
「だ、だい……だいじょうぶぅ……」
 倒れ込んだワーブは、己の内の可能性を引き出して意識を保っているようだった。けれど、傷は決して浅くない。向こうはこちらを殺す気で来ているのだ、ただの猫だと思ってはいけないのだ、と、エナはあらためて実感する。
「あと10秒か少しですからね、耐えてくださいね……!」
 再びエナが蹴戦を猫に叩き込む。猫は僅かに揺らいだが、それをも構わずエナに向かって来た。そう、あと10秒か少しで運命が決まる。小槌を壊すか、少女の意識を奪うか……

「っ……!」
「司書さん!」
 聖なるかな、と最後の断章が散った。猫の爪がイーリンを掠め、赤い血が散る。
「平気。貴女は守りに集中して」
「……っ、判ってる!」
 公の身体にも、無数の傷がついていた。幸い回復手段を持っていたためにギリギリのラインで踏みとどまっているが、それもいつまでももつものではない。あと少し。あと少しさえ耐え凌げば――!

「これで壊れてくれれば――!」
 マルクの威嚇術が、三度目の牙をむく。
「女の子をどうこうするのは気が引けるから、……お願い」
 ミニュイの衝撃の青。二つの衝撃が絡み合い、共鳴して、小槌へとぶつかる。
「きゃあああ!」
 手首の揺れで感じ取ったのだろう。少女が悲鳴を上げる。
 ――小槌は、けれど……壊れない。
 そこへ。
「矢張りな。狙うなら此処だ」
 三つ目の衝撃が加わった。超至近距離からの、武器による魔力撃。何よりも誰よりも大きな音が響き渡り、それは悲鳴のように森にこだまして――ぱりん、とあっけなく、小槌が割れた。
「……アンシアさん! 無事だったのか」
「虫に手こずったがな。パンドラで何とかだ。間に合ったか?」
「うん。間に合った」
 刺し傷のような傷を点々と作ったアンシアに、ミニュイが頷く。同時にあちこちで声が上がり始めた。
「わー! 危ない!」
「猫さんをぉ、蹴ったらぁ、駄目ですよぉ」
「突然小さくなったら危ないじゃないですかぁ!」
「うわー!可愛い猫さん!」
「……ティーカップには入らない大きさだけれど、これはこれで良いわね。威嚇してきても可愛いものだわ」
「……何とかなったみたいだね」
 皆の声に事態の収束を悟り、マルクが安堵のため息を吐く。それは誰とて同じ。
 やがて日が沈む頃、少女のすすり泣く声が森に響き始めた。


●御伽噺は闇の中
「怖かったよぉ……! もうずっと小槌と一緒なのかなって、思った……!」
「怖かったな。でももう大丈夫だ、猫たちも元に戻ったしよ」
「そうだよ。きっとおじさんの鼻も元に戻っているはずだ」
「ほんと……?」
「ほんとほんと! ほら、猫ちゃんたちだってこんな可愛い姿に戻ってるんだもん」
 マルクと公の言葉にようやくリゲルの腕の中で顔を上げた少女。公は二匹の猫を彼女に抱かせた。疲弊したのかぐったりとはしているが、ちゃんと息はしている。
「念の為、病院に連れて行ってあげた方が良いかもしれない」
「……うん。ごめんね、ロミオ、ジュリエ……」
「それは猫の名前?」
 猫を抱いてまた涙をこぼす少女に、イーリンが問う。そうだと少女が頷くと、なるほど、イーリンも頷いた。
「貴女のパパに伝えなきゃいけないわね。一緒に本を読んであげてって。貴女、本が好きなんでしょう? 一人ぼっちで読む本は寂しいわ」
「……でも、パパ、忙しくって……」
「大丈夫ですよ! 何たって一緒に謝ってくれる人がいますからねぇ!」
「おい、それは俺の事か?」
「そのつもりだったんでしょ?」
 リゲルとエナが軽口を交わしあい、笑う。その和気藹々とした様子を、少し離れた場所からミニュイとアンシアが見ていた。
「……」
「…子どもは苦手?」
「子どももそうだが、ご機嫌取りもな」
「そう」
 言葉少なな彼女たち。それは不用意な発言をしないようにという彼女らなりの気遣いでもある。誰もが少女を案じ、己の出来る範囲で最善を尽くした。

 打ち出の小槌。
 小なるを大きく、大なるを小さくするマジックアイテム。それが招いたのは結果として厄災ばかりだったが――とある親子の在り方を考え直すよい機会にはなったのかも知れない。
 めでたし、めでたし。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
皆さんしっかり説得と戦闘のプレイングを書いていらっしゃったので、折角用意した小槌ギミックの使いどころがなくなりました。勿論良い事ですよ!
きっと、女の子はこれからお父さんと二人で御伽噺を読むことになるでしょう。
怖いと忌避せずに読めるのは、間違いなくみなさんのおかげです。
ご参加ありがとうございました!

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