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シナリオ詳細

<天使の梯子>逆侵略

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●「帳」
 豊穣は鳥羽野村。
 そこへつい先日、神の国の帳が降ろされた。
 田畑は荒廃し、大地はひび割れ、地獄の悪鬼も好んで住みはしないだろうという無惨な荒野と化した。
 村人は居ない。全滅した。炎に巻かれて。
 誰も居ない荒野を、のっそりとワールドイーターが徘徊している。狼のような、それでいて歪で、禍々しい雰囲気のそれは、己の領土を誇示するかのように影の天使たちを呼び出した。
 フード付きのローブの下、まっくらなそこへはあるべきはずの顔がない。

●豊穣ローレット支部
「よく来てくれた、人類」
 大雑把過ぎる呼び方をしている男は、アルフス・アノレーと名乗った。
「じつは吾輩は常々『神の国』なるものに興味があってな」
 当然、とアルフスは机の上に両手を置き、前のめりになった。
「神の国の帳を下ろす、『触媒』なるものへも興味がある」
 先日は手に入れそこねたが、今回はというわけだ。アルフスはそう言って背もたれに体を預けた。
「……なにが、というわけだ、だ」
 アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は、ジト目でアルフスをにらみつけた。
「触媒は破壊する。霊もおびえて近寄らないあんな禍々しいものを、放置、はては敵対するかもしれない貴様へ渡すわけにはいかない」
「そいつは残念だ、いとしき黒よ」
「あまりなれなれしいと平蜘蛛が起動するぞ?」
 冬越 弾正(p3p007105)がにこやかに話を遮る。目が笑っていない。
「ではこうしよう、せめて吾輩に神の国を見物させてくれ」
「つまり、豊穣は鳥羽野村へつれていってほしい、と」
 トール=アシェンプテル(p3p010816)の言葉に、アルフスはそうだとうなずいた。
「今回はアーノルドおにーさんはおやすみですか。おしりにいたずらできると思いましたのに」
 フルール プリュニエ(p3p002501)はつまらなさそうに長い髪を指先でもてあそぶ。
 アルフスはあらたまった声を出した。
「現地では、ワールドイーターと影の天使が確認されている。吾輩としてはいとしき黒が傷つくのは、悪くないが、死なない程度にとどめたいのも確かだ」
「ほう?」
 弾正の声が裏返った。アルフスは悪びれずフードの下から笑顔をのぞかせる。
「せっかく行くのだ、核となる触媒が破壊され、世界が再生する様子も見たい。ではよろしく頼んだ、人類」

GMコメント

みどりです!展開が早くてごめんね!バーンアウトグリーンとリンクしているけど、読まなくってぜんぜんOKです。
豊穣のおはなしですが、名声は便宜的に天義へ入ります。

やること
1)ワールドイーター(闇狼)の討伐
討伐と同時に体内の触媒が破壊され、鳥羽野村は元の焼け野原に戻ります。

●エネミー
闇狼
 体高3メートル、体長5メートルもの、漆黒の毛皮の狼に似た姿をしたワールドイーターです。HP・EXFにすぐれており、タフです。「移」を伴う神遠貫攻撃を持ちます。

影の天使
 フードつきのローブを着た、闇の塊。CTの心得があります。初期数および最大数は20で、闇狼が生きている限り、倒されてもターンの最初に復活します。物近扇の攻撃範囲を持ち、大鎌で薙ぎ払ってきます。

●戦場
 鳥羽野村跡地
 開けた荒野です。なにもありません。なにも。太陽は見えず、暗いため、命中と回避に若干のペナルティがかかります。

●友軍
アルフス・アノレー
 アーマデルさんの関係者で、一目惚れをした模様です。今回は敵対しません。好奇心が強く、珍しいものに弱いです。もっとも彼の審美眼はずれているのですが。
 戦闘では神秘の魔法と物理の剣の両刀遣いです。アーマデルさんをかばうように動きます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <天使の梯子>逆侵略完了
  • 暗視系あると安心
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月29日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

リプレイ


「もし」とか「たら」「れば」を考えていれば、『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は今この場に輝ける姫として立っていただろうか。否。そんなもの考える暇はなかった。そんなもの、考えるつもりもなかった。AURORAを臨界まで稼働させたことに悔いはない。シンデレラは、いまや灰かぶり。覇竜決戦で出し尽くしたAURORAは機能を停止した。愛用していた輝剣も壊れてしまった。だからこそトールはこの場に立つ。影の天使うごめき、闇狼の遠吠が朗々と響く荒野に立つ。
「だいじょうぶか?」
『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)がトールへ声をかける。存外優しい声音に、トールは自嘲を漏らす。
「満身創痍なこの状態では、今後も苦戦は免れないでしょう」
「なら下がってな。オマエひとり抜けたところで、俺は余裕だぜ」
「……やさしいですね。クウハさん。けれど私は、往かねばならない。なればこそ私は、進まねばならない。AURORAの加護を失った私が、どこまでワールドイーターに通用するか……確かめる必要があります。手出しは、無用です」
 難儀なことだな、とだけクウハは言った。突き放したような言い方をしたところで、うちに秘めた仲間への思いは隠しきれていない。トールはうすく微笑んでかるく頭を下げ、間に合わせの剣をかまえる。煤けた衣装でも、なお凛としたその横顔。クウハは口を開いた。
「俺様はひねくれものでな」
 トールがふしぎそうにまばたきをしてクウハを見た。
「どうしてだろうな。今の方がよっぽど、そう見えるぜ、お姫様」

 仲間を気遣っていたのは、『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)も同じだった。姉である『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の顔色が悪いのだからどうしても気になる。ひやしたおしぼりを魔法でとりだし、冷や汗のにじむマリエッタのひたいをそっとぬぐう。
「マリエッタ……」
「セレナ……」
 どう言葉をかければいいのか。言葉ごときが、なんの意味を持つのか。スペルを操るセレナだから、その気になれば美辞麗句はいくらでも紡げる。けれど、真に相手を思う言の葉は、出てこない。言葉という限定的なものにしてしまえば、そこへ載せきれなかった思いが、削ぎ落とされる気がして。この心をそのままマリエッタへ渡すことができればいいのに。
「マリエッタ、ねえ……?」
「なにも問題はありません、セレナ。この瘴気に、すこしばかりあてられただけのこと」
 マリエッタは儚く微笑み、胸の中でひとりごちる。
(……けじめはつけましょう。再び増やしてしまった私の罪に。死血の魔女の行き方をして、魔女の罪を贖うのも私の役割ですから)
 悲しみを押し殺した無表情。憂いを帯びた瞳が、村の惨状を映す。
「なんてね」
「マリエッタ?」
「いいえ。なんでもないの、セレナ」
 当たり障りのいい言葉を並べて、正当化。もう何度目だろう。いつになったら私は、この螺旋階段を抜けることができるのだろう。
(……我ながら反吐が出ますが、それでも)
 決めたのだ。こうすると。泥にまみれても、より多くを救うと。
(それが私、マリエッタ・エーレインですから)
 心を決めた様子のマリエッタに、セレナも落ち着いた眼差しに戻った。
「焼かれた村、そこに降ろされた帳……遂行者はどうしてこんな酷いことをするのかしら……」
 つぶやいたセレナは、きっとアルフスをにらみつけた。
「その神の国に興味を持つのも、正直ちょっとわからないけど?」
「美しくないからだ。人類」
 返ってきた内容は、セレナの想定外だった。嘆かわしげに首を振り、アルフスは続ける。
「滅びは美しい。見たか報告を。最後までイレギュラーズが救ってくれると信じていた村人の無垢な瞳を。あれこそが美だ。なんであれ、この混沌で起こるあらゆる滅びには美がある」
 しかるに。と、アルフスはいう。
「帳は違う。吾輩の美意識に反する。ここで培ってきた村人の暮らし、それを荒唐無稽で上書きしようなどと。じつに美しくない」
「あ、そう」
 セレナは頭痛がしてきた。この男、変人だ。まちがいなく。変人といえば、この『せんせー』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)の相当だが。そもそもこの存在を、人、と定義していいのだろうか? 思考が星辰の彼方へ飲まれる前に、セレナは止めた。
「はぁ、はいはい、やるわよ。これも依頼、だものね。それに」
 帳を壊すことに、変わりはないんだから。
 セレナの視線を受けたロジャーズは、けたたましく笑った。
「貴様!」
 すらりとした、あるいはひょろりとした、奇妙な縮尺の長身の影が、アルフスへ指先を突きつける。
「私を人類と見做すのは結構だが、貴様の眼球とやらは宝石とも思える。成程? 嗚呼、証明された時点で、召喚された時点で、等しく、人類なのだ! 壮麗さも華麗さも剥奪されて『レベル1』に再定義。貴様に聞こえるこの言語は『発音不可』かもしれないが『崩れないバベル』がそれすら打ち壊す。じつに奇怪、喜界、良いだろう。私の持つあるいはやぶさかではないが、今宵の闇となれあうさまを見るがいい」
 アルフスは何も答えない。にやにや笑っている。ロジャーズは大仰なみぶりでかがみこみ、手を顎へ添えた。
「で、奴は休暇だと? ウィッカーマンは愉快だったと謂うのに勿体ない話だ。私の芸術性を伝授すべきだと思惟して異たのだが!」
「こないでくれてよかったかもな。伝え聞くあの性格じゃ、こっちが疲弊したところを叩きそうだ。せっかく帳を壊したのに、さらに上書きされちゃたまらない」
 岩に腰を下ろしたまま『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、すこしながい髪を指先でくるりと回して流した。
「それにしてもまた神の国か。この陣取り合戦はいつまで続くのだろう……もっとも」
 ひらひらと落ちてきた枯れ葉へ息を吐きかけると、勢いをつけて立ち上がる。
「俺は一歩も引く気は無い」
 ガチリ、とイズマの機械化部位が鳴る。賛同するかのように。
「後手の対処に回るだけでは勝ち切れない。遂行者達に迫るためにも一つ一つ取り戻していこう」
 そう気合を入れたイズマは、ちょっとこけそうになった。『黒響族ヘッド』冬越 弾正(p3p007105)がキラッキラの笑顔でアルフスへプレゼントボックスを渡していたからだ。
「これは?」
 アルフスの問いに、弾正はキラキラしたまま続ける。
「俺手作りの、金属の香りのする香水だ。狼が苦手な臭いでな。気休めだろうが、有事の際は活用してくれ」
「ふむ。いい着眼点だ。人類、名は?」
「俺は冬越弾正。アーマデルのパートナーだ。彼の魅力を十全に引き出したいなら、俺の事も覚えておくといい」
『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はあきらかびびっていた。
「弾正が、アルフス殿にやさしい……? ま、まさか……弾正……?」
 弾正が微笑んだままこくりとうなずく。安心しろ、と伝えたつもりだったのだが。
「……弾正! そんな! いっしょに見たグリーンフラッシュ、あれは嘘だったのか」
 逆方向に受け取ったようだった。いやいやいや、と弾正はアーマデルへ耳打ちした。
(気に病むなアーマデル。俺もアルフス殿の好感度を稼ぐ事で、アーマデルへ無茶を振られた時に俺も呼ばれるようにしようという作戦だ。名付けて箱推し作戦!)
(そ、そうか。俺はてっきり)
「安心しろ人類。吾輩は人類箱推し。すなわち貴様も愛でる対象だ」
「くっ、聞かれていた!?」
「ハイセンスは基本だ。なあ、愛しき黒よ?」
「あー、アルフス殿。俺は、実は、『黒』ではない」
 じっくりと間をためて、アーマデルは言い切った。
「『暗色』だ」
 概ね黒だが、黒よりも違和感なく夜闇に溶け込む色で……と解説を続けようとしたとたん、アーマデルはアルフスに顎をくいっと持ち上げられた。
「日が沈み時をおいて吾輩と同じ黒になってくれるということだろう? じつにいじらしい」
「アルフス殿……」
 神の国は観光地ではない、とだけ、アーマデルは告げてあとじさった。なんか、やばい感じがしたからだ。直感というものを、アーマデルは信じることにしている。


 闇狼が吠えている。すべての光を吸い込む漆黒の毛皮へ、イズマのはなったスプラッシュボールが命中した。弾けた蛍光色に濡れた毛皮に、闇狼は不快感を隠そうともしない。牙を剥く闇狼へ、イズマは果敢に突っ込んでいく。影の天使らから受けた傷をものともせず、イズマは叫んだ。
「用があるのはこいつだ、他のやつは後にしてもらおうか!」
 気迫のこもった眼差しが影の天使を一瞬とまどわせた。それだけで充分だ。戦場において、刹那の有利は値千金。握り込んだ右腕から、掌底。闇狼の胸へ手形を残すかのように叩きつける。空気がたわんだ。寸前でさらにブーストされた衝撃は、青い火花をちらして闇狼を吹き飛ばした。大きな体躯が、折れた木の枝のようにくの字になり、ひび割れた地面の上でバウンドする。
 闇狼はぐるりと唸ると、巨大な体躯をもちあげた。四肢へ力が入り、イズマへ向けて突進する。
「ちっ、移動するんだったな」
 さばくには時間が足りない。そう判断したイズマは、両腕をクロスさせ正面から闇狼の突進を受けた。
「くっ!」
 体がきしむかのような痛みに耐え、イズマは地面へ深い跡を残しながら大きく後退した。そこへ柔らかい光がさしこみ、ふっと体が軽くなる。
「天上天下唯我独尊、なんて言ってた頃もあったな」
 クウハがゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。
「因果は巡る。煩悩も巡る。やがて最後に慈悲が来る。超越した現実をここに天下らせ、終極へ再生させろ。俺様の命だ」
 いびつな金銀の惑星環を身に帯びたクウハが、癒やしを施す。すぐに痛みがおさまり、生身部分の傷が治っていくのをイズマは感じ取っていた。
「感謝する」
「そんないわれはねェ。俺は俺のやりたいようにやっている」
 来るぞ、とクウハは鋭い視線であたり薙いだ。影の天使が大鎌を振りおろす。クウハは無言で受けた。受け身すらとらずに受けた。ざっくりと刺さるはずの大鎌の軌道が、弾かれていく。
「こう見えて眷属だぞ、なめんな」
 クウハの周りへ、炎がしたたる。しだいに厚くなっていく炎の幕が、お返しとばかりに影の天使へ襲いかかる。フードの下、なにもないはずの黒い空間から、悲鳴が漏れた。
 闇狼のほうは、戦場を蹂躙している。味方であるはずの影の天使すら巻き込んで、突進を繰り返していた。闇から闇へ、駆け抜けるたびに誰かのうめきがあがる。黒でいろどられた世界、だがそこへ、光が訪れた。暴力的なまでの輝きの真ん中にいるのは、ロジャーズだ。目を背けたくなるほどまぶしいのに、目を背けられないほどの存在感。
「――貴様、其処のけものよ。私の肉は食べごたえ抜群と知れ! フレッシュ、生肉、新鮮、神仙、腹が減っているのではないのか、如何に? それとも……」
 ロジャーズの口元がさらにつり上がった。無貌のはずのそれが、鬼の面を思わせる。
「――真逆、喰えないとでも?」
 挑発を真に受けるだけの知性が、このワールドイーターごときにあるのかはわからない。だが事実として、ロジャーズの問いかけの後、闇狼は襲いかかったのだ。あるいは気づいたのかもしれない。あれを今すぐに滅ぼさねば、と。
 腕を食いちぎったはずの闇狼の顎が、黄金の象形文字に阻まれる。びっしりと物語を身にまとい、ロジャーズは呵々大笑していた。
 ひらり、梅の花びらが舞い散る。それは闘志だ。セレナを包む、白蘭の士気だ。光り輝いて視野を確保したセレナは、大きくターンして魔力を集める。防御に用いられる結界が、超凝縮を受けて青白く輝く。その鋭さは、月をも断つ。
「断絶せよ、命よ」
 セレナは極限まで圧縮した結界を剣状に変えて闇狼へと。身を反らした闇狼の、胸を浅く裂いた刃は、前脚を片方切り落とした。悲鳴が響き渡り、セレナは嘲笑を浮かべた。
「犬のようね。まるで。犬のようにうろつき、犬のように倒れるのよ。誇り高い狼なんて、どこにもいなかったことにしてあげる」
 マリエッタは口をつぐむ。
(この狼も、影の天使も、私が招いたもの。わかっている。でもだからこそ、許す訳にはいかない)
 マリエッタの瞳がヘリオドールへ変じる。白く変じた髪が、風をはらんで旗のように揺れる。片腕ににぶい痛みが走り、マリエッタはかすかに顔をしかめた。禍々しい血印が磁石のSとNのように、清廉なる血印と反発しあっている。魔力があふれでていくのがわかる。それを操り、マリエッタは渾身の一撃を闇狼へ打ち付けた。
 魔力が炸裂した。
 体をのけぞらせた闇狼は、唸り声と悲鳴を交互に漏らす。
「かわいそうですね。悪夢に蝕まれて。あなたにそんな上等なもの、必要ありませんけれど」
 マリエッタの瞳へ映る闇狼は、苦悶の声を上げている。かすかな憐憫をいだきながらも、マリエッタは追撃の手を緩めない。
 走り込んだトールが、闇狼の後脚を傷つけた。怒り狂う闇狼の意識の隙間を縫い、トールは泥臭いほどの戦いを仕掛けていく。一進一退。頭突きを受け流し、返す刀で一撃を入れる。残った前脚に引っ掻かれた頬から、血がしたたっている。
「……やるしか」
 間に合わせの剣は、輝剣ほど手に馴染んでいない。それでも。トールは裂帛の気合を込めた。
「やるしか、ないんです!」
 もうAURORAには頼れない。己の体術と剣の腕だけがすべてだ。トールは剣を腰だめに構え、仲間に意識を取られている闇狼のどてっぱらへぶちこんだ。そのまま、細腕に秘められた膂力で、天へと切り裂く。臓物が撒き散らされ、闇狼が断末魔をあげた。びくびくとふるえながら、闇狼の輪郭が崩れていく。
「……帳が!」
 自分もまた上を向いていたトールが、まっさきに異変に気づいた。空へ、ヒビが入ってる。
 ここまで影の天使を引き付けていた弾正が、喝采をあげた。
「よし! あと一歩! スモーキー!」
「ああ、わかってるぜ」
『自称ハードボイルド探偵』スモーキーは、タバコを咥えたまま深く息を吸う。ちりちりと火が動き、灰が生まれていく。スモーキーが肺に溜まった煙を一気に吐き出した。それは影の天使を拘束していく。
「おりゃ!」
 スモーキーに蹴飛ばされた影の天使が、弾正のところへすっとんでいく。すらりとした影が横からはいりこみ、蛇剣を閃かせる。空中でまっぷたつになった天使は、その名のとおり影へ戻り、ぼろぼろと崩れ落ちた。
 ぴしり。また空へ亀裂が走る。
「弾正。まかせた」
「任せられた! さぁ、見るがいいアルフス殿! 俺は一族の中では、ノイズ混じりの黒と言われた穢れた黒だ。だが……アーマデルと共にあることで、輝ける黒となる!」
 八岐大蛇と化した弾正は、影の天使を次々と砕いていく。そして、最後の一体へ、ドロップキックを叩き込んだ。

 ぱりん。

 割れていく、砕けていく。空が。大地が。なにもかもが。あふれだすは太陽の光。照らされるは……焼け跡。


「触媒を破壊しても元の無事な鳥羽野村に戻る……というわけではないのですね」
「ああ、そうだな……」
 トールの言葉に、イズマは義憤を顔に浮かべていた。
「更に惨い焼け野原になってしまうとは……これではまるで私たちが村を焼き払ったような……」
「世界のための戦いなんて言っても、ただ巻き込まれる者達からしたらたまったものじゃない。数多の犠牲の上で戦ってる事を、忘れてはいけないな」
「そう、ですね。イズマさん」
 せめてもの弔いだと、イズマはひとにぎりの灰を撒いた。破壊と再生の象徴は、この地へ豊かな恵みをもたらすだろう。
「……帳を、神の国を消したとしても、その前に焼かれた村は戻らない。それに……」
 セレナはきゅっと握った拳を、胸へあてた。
「奪われた命も……」
 こんな酷いこと、これ以上ゆるしちゃいけないわ。
 そういう彼女へ、演技で笑みを返し、死血の魔女は心の中で痛みと戦っていた。
(恨んですら、いないのね。彼らの時を止めたのは、私たち。ええ、抱えていきましょう。あなたたちのことを。これを抱えていくのも、魔女の生き方ですから)
「次は」
「マリエッタ?」
「遂行者、です」
 ぼそりと、魔女はつぶやいた。セレナに届くまえに、声は消えていった。
 クウハは声もなく、鳥羽野村の亡霊をながめていた。
 神使さま? 神使さま? たすけにきてくださったのですか?
 ああ、まだ彼らは、『囚われて』いる。クウハは片手で顔を覆い、嘆息した。
(依頼を受けたイレギュラーズはただ仕事をこなしただけだ。俺だって悪霊だ。元の世界で心変わりをする前に弄んで殺した人間は数知れず。残虐非道の所業を責めようとも思わない。だが、同情の一つや二つ、する権利ぐらいはあるだろう)
 風が吹いていく。なまぬるい、夏の風だ。ひぐらしが遠い。今夜は熱帯夜になるだろう。
 アーマデルは砂になった闇狼をすくいあげ、風に流した。この一粒一粒が、触媒だったのだ。
「……世界が再生しても、焼け野原、か。弔おうにも、なにもかも灰燼に帰して、なにもできないとは」
「アーマデル」
「気休めはいい、弾正」
「死」という「結果」は、すべてに平等だ。人へも、物へも、ここであっただろう暮らしへも。
「それで」
 ロジャーズがかがみこみ、アルフスと面付き合わせる。
「其処の猫を殺すような好奇心よ! 満たされたか。もしくは、未だ満たされたいのか?」
「満たされたことなど、一度としてないとも。人類」
 ロジャーズはそれを聞くと、おおきくそりかえった。
「Nyahahahahahahaha!!!」
 茜に染まった空へ、哄笑がすいこまれていく。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

逆侵略、成功です。
ワールドイーターは討伐され、帳は消えました。

またのご利用をお待ちしております。

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