PandoraPartyProject

シナリオ詳細

雨天順延。或いは、1日遅れの7日の夜…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●夏の7の日
「皆さん、アレが見えますか!?」
 ところはラサ。
 ある暗い夜。
 砂漠のどこか、オアシスの畔。空を指さし、エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)は声を張る。ドヤ、と胸を張るエントマの隣では1頭のパンダが厳めしい顔で起立していた。
「暗い空に、星の河が見えるでしょう?」
 夜空を2つに割るように、長く伸びる雲状の光の帯。
 地上より遥か遠くにある銀河。つまりは星の集団だ。
 ところによっては、それを“天の川”とそう呼称する。
「ただの星と思うなかれ。天の川には、悲しい悲しい恋の物語があるんだよ」
 よよ、とエントマは顔を覆って泣き崩れる。
 もちろん演技だ。
「遥かな昔、空にはオリヒメとヒコボシっていう仲睦まじいカップルがいたんだって。2人はすごく仲良しで、時間があればイチャコライチャコラ。まったく仕事をしなくなって、ついには偉い人の手で天の川の西と東に引き離されちゃったんだ」
 自業自得、というなかれ。
 いつだって恋は人を盲目にさせるのだ。
「引き離されてから、オリヒメは来る日も来る日も泣いてばかり。そこで、見かねた偉い人は言ったんだ」

『2人が依然のようにまじめに働くのなら、一年に一度だけ会うのを許そう』

「そうして2人は、年に1度だけ天の川で逢瀬を交わすの。それが今日ってわけだね」
 そう言ってエントマは空を見上げた。
 泣き真似をするのも、すっかり忘れているようだ。
 なお、2人が逢える約束の日は正確には昨日である。だが、生憎と昨日は天気が悪かったため、エントマの独断により1日、延期となっている。
「そして、そんな熱々な2人にあやかるためか……これ!」
 ドン、と砂に笹の木を突き刺した。
 枝ぶりの良い立派な笹だ。
 砂漠でこれを入手するのは、さぞ大変だっただろう。
「短冊を配るから、願い事を書いてね。書いたら、笹の枝に吊るしてちょうだい」
 天の川にいるオリヒメとヒコボシに、願いを届け叶えてもらうためである。
 エントマは、短冊とペンとをその場にいるイレギュラーズへ配って回る。
 短冊を配り終えたのを確認すると、エントマは大きく頷いた。
 それが合図だったのだろう。
 ここまで沈黙を保っていたパンダが前に出る。
「彼女の名前はP・P・D・ドロップ。見ての通り、パンダの獣種で武闘家なんだ」
「ご紹介に預かったP・P・D・ドロップだ。よろしく頼む」
 太い首を少し曲げて、ドロップは一礼をした。
「短冊を吊るし終わったら、彼女に笹を食べてもらうよ。そうすることで、短冊に書いた願い事は天の川に届くんだって」
「団子と酒も用意したので、思う存分に食べてくれ」
 何やら、様子がおかしい。
 おかしいのは、エントマの認識か。
 世間一般で認知されている“七夕”という日の催しとは、些か趣が異なるようだ。

GMコメント

●ミッション
砂漠の夜の星空を楽しむ

●NPC
P・P・D・ドロップ
パンダの獣種だが、見た目は完全にパンダのようだ。
女性武闘家。
何処かの国で伝わっている“七夕”という催しを完遂するために、エントマに雇われたらしい。

●七夕の催し
夏の季節のある1日。
夜空に天の川がかかる頃にその催しは開かれる。
笹の木を囲み、団子や酒を酌み交わす。
そして、短冊に願い事を書き、笹の枝に吊るすのだという。
催しの最後に、笹をパンダに喰わせることで短冊に書かれた願い事は天の川に届けられる……と、エントマは言っていたが、色々要素が混じっているため正確ではない。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】エントマに誘われた
お団子とお酒が楽しめると聞いて砂漠を訪れました。何やら奇妙な催しに参加されられました。

【2】奇祭を調べている
別件で各国の奇祭を調べています。願いを書いた短冊を、笹ごとパンダに食べさせるとか、明らかに奇祭です。なんてこった。

【3】星を見に来た
星空が綺麗に見える砂漠の遺跡に遊びに来ました。静かな一夜を過ごそうと思っていましたが、どうやら難しそうです。


今夜を楽しもう
砂漠での一夜を楽しみます。
短冊に書く願いごとも併せてご記載ください。

【1】酒と団子が足りない
酒と団子が足りません。調達や調理に尽力します。せっかくのパーティなのに、食べ物と飲み物が足りないのでは万全に楽しめませんからね。

【2】静かに飲む
1人か2人で、静かに星空を楽しみます。今夜は星がきれいですね。

【3】笹を食べる
ドロップ1人で笹を完食するのは大変そうです。あなたは笹を食べるのを手伝います。

  • 雨天順延。或いは、1日遅れの7日の夜…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月15日 22時15分
  • 参加人数6/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
エーギル・フレーセイ(p3p011030)
海妖

リプレイ

●満点の星
 夜空に流れる天の川。
 今にも降ってきそうな満点の星空。
 砂の上に腰を降ろして『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)が空を見ている。高い空を見上げている。
「何か見えるか?」
 そんな問いが投げかけられた。
 ラダに声をかけたのは、笹の木を抱えた1匹の……否、1人のパンダだ。名をP・P・D・ドロップと言う各国を旅する武闘家だ。
 今回は路銀稼ぎの手段として、今宵の催し……つまり、ラサの七夕祭りに参加している。
 願いを書いた短冊を笹に吊るし、催しの最後にそれを食す役割だ。パンダに笹を食わせることで、願いは天の川に居るというオリヒメとヒコボシなる神の元に送られるらしい。
 ……と、エントマは言っていたが、きっと間違えている。
 幾つかの伝承が、ごちゃまぜになっているのだろう。
「この広い砂漠を歩いていたな。何のためだ? 旅の途中、という風でも無さそうだ」
 肩を揺らしてドロップは言った。
 きっと笑ったのだろう。
「偶にね」
 そう呟いて、ラダは酒の瓶を手に取る。
 自前のスキットルも懐に忍ばせているが、せっかくエントマが酒と肴(団子)を用意してくれているのだから、ご相伴にあずかろうという心算だろう。
「夜の砂漠を散歩したくなる時があるものさ」

 酒の杯が全員の手に渡った。
 透明な強い酒だ。味の方は決して美味いとは言えないが、古い製法で作られた酒だ。古い伝承に則った催しには、古い製法の酒がよく合う。
 なお、酒を飲めない者のためにサボテンのジュースも用意されていた。
「聞いた話では雨が降ったら中止だったけどここは順延なんだね。そりゃ良い。恋人達に優しいね」
 空を見上げて、『海妖』エーギル・フレーセイ(p3p011030)は笑う。
 エーギルの知る“七夕の夜の催し”は、雨が降ったら中止となるのが常である。だが、ラサに伝わる催しは……或いは、エントマが仕切る今宵の宴は雨天順延となるらしい。
 催しとは、時代や土地に合わせて姿や形を変えるものである。
「故郷の七夕とは微妙に違いますが、こういう催しは土地によって様々ですからね」
 手酌で杯に酒を注いで『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)は夜空の星へそれを掲げた。
 夜空にかかる星の川に、本当に神とやらがいるのかは知れないが“人の願いを叶えてくれる”という酔狂な御仁に、一献傾けるのも良い。

 エントマを含めた6人の手元には、短冊とペン。
 願い事を綴るために渡されたものだ。
「なるほど。お願い事をこれに書くのね」
「どういう……論理で、天の川に届くんだろう……ね」
 ペンをくるくると回しながら、『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は思案する。短冊に書ける願い事は1つだけ。何を願うか、迷っているのだ。
 一方、『玉響』レイン・レイン(p3p010586)はフォルトゥナリアの真似をしてペンを回そうとしているが、どうにもうまくいかないようだ。
 指の間から零れたペンが砂上に落ちた。
 ペンを回すには技術がいるのだ。初心者はまず、ペン回し用のペンで練習をする方がいい。そして慣れてきたら、ソニックやトルネード、ダブルチャージといった高等技術の習得を目指す。
 もちろん、容易な道ではない。
 フォルトゥナリアとて血の滲むような特訓の末にペン回しを会得したのだと思う。それを思えば、自然とレインの眼差しには羨望の色が宿った。
「……師匠」
「師匠!? なんの!?」
 レインのペン回し道は、今はじまったばかりなのである。

 イレギュラーズが、思い思いに酒を飲み、団子を摘み、短冊に願いを綴る中、ストイックに集中力を高めている者がいた。
 笹の木を抱えたパンダ……P・P・D・ドロップだ。
「コンディションはどう? 貴女が笹を食べきらないと、願いが空に届かない。どうか、頑張ってね」
 不安げな顔をしたエントマが、ドロップに何かを手渡した。氷嚢だ。受け取った氷嚢を肩に充て、ドロップは僅かに顔を顰めた。
「こうして冷やしておけば、笹の木の1本や2本、何とかなるだろう」
 ドロップの額には脂汗が滲んでいる。
 肩が痛むのだろう。それでも、エントマの不安を拭うためかドロップは笑う。
 ちなみにだが、ドロップが肩を痛めたのは武闘の修行が原因だ。つまり、今回の催しには何の関係も無い。
「お取込み中のところ悪いけど、1ついいかな?」
 おそるおそる、と言った様子で『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)が問いかけた。
 ポカン、とした顔をしてエントマが首を傾げる。
「何かな?」
「俺は思うんですが笹を食うのはまぁ……無しよりの有りとして短冊も一緒に食うわけですよね?」
 願いを書いた短冊ごと、笹を1本完食しなければ催しは完了に至らない。
 エントマの言う七夕の催しは、たしかにそう言うレギュレーションであったはずだ。
「……それが、どうかしたのかな?」
「かなり歯と胃が丈夫じゃないといけないんで、ここは人類の叡智の出番だと思うんですよ」
「…………」
 エントマの顔から表情が消える。感情の色が抜け落ちる。
 爬虫類のような冷たい瞳で、じぃ、と史之の顔を見つめた。

●この広い夜空に笹の葉を
「君のような、勘のいい人は嫌いだな」
 エントマの口から零れたのは、ぞっとするほど冷たい声だ。
 暗い瞳で、エントマは史之を見つめる。
 睨むのでもなく、怒るのでもなく、ただ見つめる。
 その冷たい瞳を真正面から受け止めて、史之は思わず身を震わせた。後退しなかったのは、一重に史之の人並外れた胆力のおかげだ。
 史之の頬に冷や汗が伝う。
 汗に気付かぬふりをして、史之は笑った。
「笹を食べられるのなんて、パンダぐらいのものでしょう? だから、料理してたべていいっすか? ダメ?」
 史之の提案は革新的なものである。
 革命と呼んでもいいだろう。
 そのままでは食べ辛い“笹”を、油で炒めて塩コショウで味付けをし、美味しく食べてやろうという提案だ。笹を主食とするドロップはもちろん、人である史之たちであっても、そうすれば笹食の戦力足りえる。
 だが、エントマは静かに首を横に振る。
「分かってないね」
 その声音には、諦観が滲んでいるように思う。
「何が、分かっていないって?」
「まず前提が間違ってるんだよ。ドロップさん、説明してあげて」
 ふっ、と小さな笑いを零してエントマは視線をドロップへ向けた。
 ドロップは肩を竦めて、呆れた風に言葉を紡ぐ。
「そもそも笹や竹の細胞は、植物繊維であるセルロースで結びついている」
「……? セルロース? それが?」
「そして我々パンダは……人もだが、セルロースを消化できない」
「っ!?」
 驚愕の事実に、史之は目を見開いた。
「そんな……それじゃあ、どうして? パンダは笹を主食としているはずじゃないのか!?」
 パンダはセルロースを消化できない。笹を食べるのに向いていない。
 それが事実だとすると、そもそも催しの前提が崩れる。笹を完食できるからこそ、パンダの獣種であるドロップが呼ばれたのではないか。
 パンダが笹を食べるのに向いていないのなら、ドロップが肩の負傷を押してまでこの場に居る必要が無くなる。
「考えてもみろ。大熊猫だぞ? 熊なのだ、我は。1日に10キロ以上の笹を食べても、17パーセントほどしか消化吸収できない。主食とするには、あまりにも栄養変換の効率が悪すぎる」
 しかし、パンダは笹や竹を食べる。
 それはなぜか?
 その秘密は、パンダの生息圏にある。
 パンダの生息圏には笹や竹が豊富に自生しているのだ。それゆえ、リスクの多い狩りをせず、笹や竹を食べて暮らしている方が、安全に長く生きられるのである。
 なお、草食動物の多くはパンダや人と違い、セルロースを分解できる。
「そ、それでいいのか……ドロップさんは」
「あぁ、構わない。我が笹を食うことで、誰かの願いが叶うのならいくらだって食べてみせよう」
 そう告げるドロップの瞳は、キラキラしていた。
 パンダなので、黒々としている風にしか見えないが。近くで見ると、パンダの目はけっこう怖い。
「手を貸してくれるか?」
「……あぁ、分かった。俺も腹を決めたよ」
 ドロップの隣に座り、史之は答えた。
 
「こうも質素な宴会も珍しいな。うちの連中は騒がしいから」
 そう言ってラダは、酒の瓶を手に取った。
 手元の杯に酒を注いで、香りを楽しむ。少々、雑味が強い。酒精を限界まで高めた、酔うための酒だ。
 いざという時には消毒液の代わりになるということで、砂漠の旅人たちにはそれなりに人気がある。
「笹と短冊と酒と団子があればおっけーです!」
 ラダの隣に腰かけて、迅は皿を前に置く。皿の上には、団子が山のように積み上げられていた。豊穣に伝わる“月見団子”によく似ていた。
「なるほど、豊穣の方の文化なんだね。あれ、でも、ここってラサじゃ……?」
 団子を1つ、手に取ってエーギルは首を傾げて見せた。
 白くて、もちもちとしたひと口サイズの団子である。それを指で揉みながら、近くで見たり、遠ざけて見たり、臭いを嗅いだりと忙しい。
「団子を見るのは初めてですか?」
 迅は問うた。
 エーギルは頬を搔きながら、悪戯っぽく肩を竦めた。
「人の世に慣れてないんだ。だから、人間や文化に興味津々だよ」
 そう言って、団子を口に放り込む。
 それを見て、迅は目を剥いた。そんな食べ方をしたら、団子を喉に詰まらせてしまうかもしれない。
「んが……ぐぐ!?」
「あぁ、やっぱり。ちゃんと噛まないと」
 事実、エーギルは団子を喉に詰まらせた。
 目を丸くしたり、細くしたりと忙しい。喉に詰まった団子をどう処理すればいいのか分からないでいるエーギルの背を、迅は拳で数度、叩いた。
 喉に食べ物が詰まった時は、こうするのが一番だ。
「あ、っぶない。けど、美味しい!」
「そうですか。美味しかったのなら何よりですが……」
 グラスに注いだ酒をエーギルに手渡す。
 身長180センチほどとエーギルの背は高い。外見から判断するなら、おそらく未成年ではないだろう。
 もっとも、迅には“精霊”の正確な歳の判断が付かない。
 見た目と実年齢が合わない可能性もあるのである。実際、世慣れしていないためか外見の年齢に対して、エーギルの仕草は幼い気もする。
 否、幼いというか浮世離れしているというか。
「まぁ、いいか」
 考えても仕方が無い。
 エーギルが楽しそうにしていれば、それでいい。
 自分を納得させた迅は、皿から団子を手に取った。
「宴会はいいけど団子で酒って飲めるもの?」
 迅の手元に目を向けて、ラダはそんなことを問う。
 大きな口で団子を2つ丸のみにして、迅は不思議そうな顔で首を傾げた。
「団子はお嫌いですか?」
「いや普段が肉とかだからさ……あ、甘くない団子でもいいのか」
 酒の肴に団子というのは、些か慣れないラダである。
 酒と団子を交互に頬張る迅の様子を、興味深く感じたのだろう。
「甘くない団子がいるのなら、作るのをお手伝いします!」
「無いのか。甘くない団子は……いや、別に作り足す必要もないさ」
 郷に入っては郷に従え、という言葉もある。
 甘い団子で、強い酒を楽しむのが今宵の趣旨であるというなら、それに合わせるまでのこと。甘い団子が嫌いというわけでも無いし、宗教上の理由で食えないというわけでも無い。
「そう合わないわけでも無いですよ。合うわけでもありませんが」
「……だろうな。日持ちがすれば、売れるんだけど」
 迅はバクバクと団子を頬張っているが、実のところ団子1つあたりのカロリーはそこそこ高い。当然、腹持ちも良く、多くの荷物を持ち運べない長旅などでは携行食に良いのではないか、とラダはそう判断したのだ。
 もっとも、団子はあまり日持ちしない。
「味がいいだけに惜しいな」
「もっと気軽に各国で食べられるようになればいいのですが」
 言葉を交わし、グラスを鳴らす。
 静かに酒と団子を楽しむラダと迅の後ろでは、笹の葉に結ばれた短冊飾りが揺れている。

 笹の葉に、最後の短冊が吊るされた。
「これで良し」
 短冊の紐をきつく結ぶと、フォルトゥナリアは満足そうに頷いた。
 揺れる短冊に目を向けて、レインはフォルトゥナリアに尋ねる。
「何を……書いたの?」
「世界が平和でありますように。普通の人達が幸福な日常を送れる世界でありますように」
 歌うように、フォルトゥナリアはそう答えた。
 当たり前に、誰もが夢見る願い事。
 そして、これまで一度だって叶えられたことの無い願い事である。
「それは……」
「後ね、私がそれをずっと見れて守ることができますように。祈るよ」
 レインの言葉を遮って、フォルトゥナリアは目を閉じた。
 胸の前で手を組んで、夜空へ祈りを捧げているのだ。
 願うだけで叶うのなら、誰も苦労なんてしていないし、誰も苦しまずに済んだはずだ。志半ばに命を落とす者はなく、失った家族を想い涙を流す者もいない。
 飢えや病で子供が死ぬことも無いし、凶弾に母や父が倒れる瞬間を幼子が目にすることもなかったはずである。
 だが、そうはならなかった。
 この世界には、我々が思うよりもたくさんの悲劇が転がっている。世界は悲しみに満ちている。
 それが、何よりも悲しい。
 星に願いを捧げるほどに、そんな現実が辛い。
「もちろん、そうなるように行動もするけどね! こういうの大事だから」
 組んだ手を解き、フォルトゥナリアは笑った。
「そう言うあなたは何を願うの?」
「もっと……かっこよくなりたい……」
「かっこよく?」
「そう。かっこいいオスとか……強いメスは……憧れる……」
 淡々とレインは願いを口にする。
 レインの願いを、星は叶えてくれるだろうか。
 否だ。
 願いとは、自分の手で叶えるものだ。
 七夕の催しで、短冊に願い事を記すのは、自身の願望を再認識し、明日から願いを叶えるための努力を始めるための誓いを新たにするためだ。
「お互い、願いを叶えるために頑張らないとね」
 なんて。
 そう言って、フォルトゥナリアは笑うのだった。

●願いよ届け
『商売繁盛』
『家族や友人達がいつまでも楽しく過ごせますように』
『かっこよくなりたい』
『世界が平和でありますように。普通の人達が幸福な日常を送れる世界でありますように』
 揺れる短冊を横目に見ながら、数名が笹を囲んでいる。
 笹の葉を千切り、口に運んで、咀嚼する。
 黙々と、笹を食べ続けている。
 笹を食べているのは、ドロップ、史之、エーギル、レインの4人だ。
 エーギルは喜んで笹を食べているようだが、残りの3人の表情は浮かない。笹を食べる4人を見ているエントマやフォルトゥナリア、ラダと迅は苦い顔さえしているではないか。
 ムシャムシャ、シャクシャク……。
 シャクシャク、ムシャムシャ……。
 笹を食べながら、レインは体を光らせていた。
 雑草と笹では、どちらの方が食べやすいだろうか。
「ねぇ……美味しい?」
 思わず、といった様子でフォルトゥナリアはそう尋ねた。
 笹を食べる手を止めないまま、レインは答える。
「うん……固くて……筋だらけだね」
 少なくとも、笹の葉が食用に足るものとは思えない。
 ドロップを始めとした4人は、様々な文化や風習をごちゃまぜにした催しの……エントマという考えなしの被害者であると言えるだろう。
 当のエントマが「うわぁ」と引いた顔をしているのが特にひどい。
「なんで、光っているの?」
 笹の味や食感についてこれ以上、深く聞いてはいけない。
 本能的にそう判断したのか、フォルトゥナリアは質問を変えた。
「…………少しでも」
 表情を変えないまま、レインは答えた。
 口の端から、笹の葉と短冊がはみ出している。笹の葉にせよ、短冊にせよ、なかなか嚙み切れないようだ。
「願いが空に届く様に……」
 嚙み切れない笹の葉を、それでもレインは噛んでいた。
 天の川に皆の願いを届けるために。
 レインだけではない。
 ドロップも、史之も、エーギルも。
 皆の想いは同じのようだ。
 やがて、長い時間をかけて4人は笹を食べ尽くした。
 その様子を最後まで見て、エントマは言う。
「笹、食べない方がいいかもね」
 ラサの地で七夕の催しが根付くには、まだまだ長い時間が必要そうである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
この度はご参加ありがとうございました。
七夕の催しは無事に成功。
願いは天の川に届けられました。

また、エントマが「笹は食用に向いていない」ことを学びました。
笹を完食するターンは来年以降省かれるようです。

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