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シナリオ詳細

<フイユモールの終>『煙藍竜』フォーレルスケット

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『煙藍竜』フォーレルスケット
 流れるような海色の髪が、自慢だった。
 海と呼ぶそれは幼竜の頃より見たことなど、なかったけれど。そうだと教わった。
 似た空色の翼が、大好きだった。
 澄んだ水晶の色をしていると褒めてくれた、ただ、それだけが喜びだったから。
 ぼくは空の覇者となるべく産まれたらしい。空を統べ、ぼく達が手にしなくちゃならなかった。

 海とは何かを教えてくれたいきものは、太陽みたいな色をした綺麗な眸をしていた。
 小石を集めるように、丁寧に丁寧に、彼はぼくに教えてくれた。
 海は、君のような色をしているんだ。
 水晶の色は、君の翼に良く似ているんだ。
 幼竜の頃から、見たことのない景色を彼はひとつひとつ、積み上げて教えてくれる。丁寧に、丁寧に。
 描き続けた彼の見た風景が、ぼくを彩った頃――

「クロシェットはどこにいったの?」
『たいせつなばしょ』が崩れていくことは恐ろしかった。
 気付いた頃には死んじゃっている弱い生き物達が、この場所を蹂躙したのだと思った。
 ぷちり、と音を立てて潰れて軋んで死んでいく弱々しい命達。呆気もなく、ぼく達が辿り着くべき最期の地に彼等は行き着くのに。
 足掻いてやってきた彼等が暗澹の世界に彩りを与えていく。

 ――フォーレルスケット。

 呼ぶ声が遠ざかった。ぼくの最初のペット。虫螻だとおもって嬲って遊べば、べそべそと泣きながら「やめてよ」と呟いたあの子。
 天声を聞き、楽園の崩壊を知った。あの時に、君はぼくの背を押して。

 ――フォーレルスケットは、先に言って。

 脂に塗れた黒髪が雨の用に落ちて言ってから、覗いた君の眸は太陽みたいな色をしていると教えてあげた。
 君がぼくに沢山の色を教えてくれたから。
 ……あれ? おかしいなあ。
 ぼくね、こういう『関係性』をなんて呼ぶか、知らないんだ。

 けど、これだけは分かる。
「ぼくはね、ベルゼーおじさんが言ってたことがちょっとだけ、分かった気がするから此処に残ったんだ」
 ――こころというものがあるから、竜であっても、人であっても、同じ所に転がり落ちるときがあるらしい。

●introduction
 飽くなき暴食が、濤声のように全てを飲み込んでいく。世界を蝕んだのは、たったひとりの空腹だった。
 浪花を散らすように、揺らぐ海色を纏っていた『煙藍竜』フォーレルスケットはただ、イレギュラーズを待っていた。
 虫螻と呼んだ。それから、ペットだと名指しした。
 人間とは、脆くて簡単に死んでしまうと聞いていた。だからこそ、深く慈しむことはしたくなかった。
 フォーレルスケットは物心がついた頃に、小さなワイバーンを飼った。その辺りに落ちて怪我をしていた幼竜だっただろう。
 名前を付けた。「くも」と名付けたのはもくもくと浮かぶ白い雲のようにワイバーンが飛んでいたからだ。
『くも』は可愛かった。ギャウギャウと鳴いては獣の餌を食べた、けれど、直ぐ死んだ。
 フォーレルスケットは『くも』と同じ種のワイバーンを遊び友達にしてやろうと何気なく掴んだ事がある。ぷちん。呆気ない終わりだった。
 泣きわめいた幼竜に母竜は呆れたように言ったのだ。
 ――お前は竜だ。弱者に何をうつつを抜かしているのだ。
 強く在れ。強く在れ。教えられてきたからこそ、フォーレルスケットの今があった。
(どうせ、直ぐ死んじゃうのに)
 空を、海を、太陽を、沢山の知識を分け与えてくれた臆病者。
 可愛かった。
 可愛いペットだった。気に入っていた。屹度、『あの子』もよく懐いていたと思う。
「フォーレルスケットと、ぼくはどんな関係性?」
「ぺっと」
 ペット、と言う言葉は聞いた事があったから教えた。『あの子』は悲しそうな顔をして居た――けれど、「とくべつ」だと笑った。
 よく、分からなかったけれど。
 褪せてしまった蒼い色。錆を孕めばただの黒。あの子の色。
 もう、見えなくなった太陽と、夜の空。

 ――それから、名残の月のような仄かな光を彼等に感じた。
「きみたちは、やっぱりクロシェットにあったの?」
 フォーレルスケットは丸い眸で言った。
「ぼくはベルゼーおじさんがすきだったし、約束があったからここ来たんだ」
 幼いこどもらしい姿をしていたフォーレルスケットは興味深そうにイレギュラーズを見詰めてから、朗らかに笑って見せた。
「世界が終るまで、ぼくとあそんでくれる?」

GMコメント

日下部あやめと申します。どうぞ、宜しくお願いします。

●成功条件
 『フォーレルスケット』に勝利をする。

●『飽くなき暴食』
 ベルゼーのお腹の中。権能です。
 どうやら、権能で作り出された『食べられた』花園が広がっています。美しい花が咲いており、空が印象的です。
 そよそよと風が吹いており、元々のヘスペリデスと大差ないように思われます。
 ただ、フォーレルスケットの回りには飛行に影響が出るような『重たい空気』が流れているようです。
 このエリアは陣取り合戦的に戦闘の勝敗で権能の攻略が行えます。
 フォーレルスケットは海色の竜です。幼竜が「戦うのを辞めた」と宣言すればイレギュラーズの勝利となります。

●『煙藍竜』フォーレルスケット
 空の覇者となれと育てられた将星種のひとり。まだ幼竜であり、発展途上の存在です。
 母竜や父竜に厳しく躾られたため、弱者には負けてはならないとその心の根底で認識しています。
 ベルゼーが連れて来ていた魔種クロシェットを見ていると、何となく人間に興味を有していました、が、人間は下等で弱い生き物であり、認識は『ペット』で止っています。
 自身が竜であり、人間という存在を同じ格であると認識していないからこそ、です。クロシェットが居なくなって、認識がブレたことで、戸惑っているようです。

『本気』で戦うと約束したため、侮るような真似はしませんが迷いが見えます。
 常時飛行状態。重力を操るため命中を極端に下げ、狙った場所から下方に修正するようです。

●『ウィンクルム』思い出の誰か 4体
 ベルゼーが食べた存在です。貌も分からないだれか。完全な模倣にはなっていません。
 フォーレルスケットも腹の中に滞在して食べられたという認識なのか、幼竜の記憶が模倣されています。
 1体、太陽の眸をした人間の形をしたなにかが居ます。
 フォーレルスケットは「もっとちゃんとみておけばよかったのかなあ」と呟いていました。
 また、残り三体は特にフォーレルスケットの中で認識が強かったイレギュラーズのようです。
 眼鏡を掛けた新田 寛治(p3p005073)さんのような人影が居ます。スナイパーのようです。
 受け止めてくれる人として認識されたボディ・ダクレ(p3p008384)さんのような人影が居ます。タンクのようです。
 くるくると踊り続けており、特に『出来が良い』のはヴィリス(p3p009671)さんを思わせるアタッカーです。
 ただし、どれもこれも人間の形をしていますが特徴を僅かに捉えただけで同じようなマネキンを思わせます。
 能力だけは『本物』に似通っているようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <フイユモールの終>『煙藍竜』フォーレルスケット完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年07月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

リプレイ


「――世界は終らないわ」
 眩い光が一筋差すかの如く。その声音は凛と響いた。『煉獄の剣』朱華(p3p010458)の結い上げた緋色の髪が揺らぐ。
 瞬く間に周囲へと広がって行く焔火のように猛る気配を宿した少女の手には彼女の象徴である剱が握り締められていた。
「終るんだよ」
 広がる髪は大海原のようだった。荒れ狂う風に煽られる波濤のように青が揺らめいている。その美しさを『空の王』カイト・シャルラハ(p3p000684)はよく知っていた。穏やかさだけで華海ではないとも知っている。ああ、だからこそ美しい色彩なのだ。
「海色の竜。……竜で空の覇者を名乗るか! じゃあ勝負だな! (自称)空と海の支配者たるとりさんを舐めんなよ!」
 あっけらかんと笑みを浮かべる緋色の翼。その快活な声音を聞きながらフォーレルスケットは佇んでいた。何れだけ明るく振る舞ったって、世界は崩れ落ちていく。足元の瓦礫がすうと風に誘われた。
「世界が終るまで、ぼくとあそんでくれる?」
「……遊んであげるのは構わないけれど、世界が終わるまでというわけにはいかないんだ。私たちは、終わらせないために来ているんだからね」
 朝の露草も、昼の陽光も、蒼い空も、夜の静寂も。それは『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が愛する世界の表情。まるで芝居がかった台詞のように舞台に上がった魔女は「あなたにも、そういうものはあるかしら?」と唇に乗せた。
 物語の魔女はそうやって人々に試練を与える事がある。時に、代償を求め、奪う事もあるだろう。此度のアレクシアは悪しき魔女などではない。竜を前にした御伽噺の登場人物のように艶やかな笑みを浮かべてみせる。
「ぼくは広い海の色も、輝く山々の萌える木々もしらない。全部、教えて貰ったんだ。けど、おひさまだけはしっているよ」
 フォーレルスケットは陰ってしまった空が鮮やかな陽光を宿さぬ事を残念がるように俯いた。伸び伸びと、鮮やかな空を感じて飛ぶ事が幼竜は好きだった。けれど、それももう――
「ぼくにはどうしようもないことだから、せめて最後は楽しい方が良いんだ」
「……うん。楽しい事はボクも好きだよ。でもね、フォーレルスケット。ボク達はベルゼーを止め、世界を救いに来たんだ。
 ボク達は死なないし、絶対に勝ってみせるよ。……でもキミは信じてくれないんだろうね」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)の髪は夜空に瞬く星のよう。淡く溶ける陽光のよう。滴る蜜のような柔らかな色彩をしている。フォーレルスケットは小さな彼女を見詰めた。
「だから一緒に遊ぼう、フォーレルスケット。遊びの中でボク達の言葉が本当なんだって分かってくれたら嬉しいな」
 フォーレルスケットは腑に落ちないような表情を見せる。だって、『倒されてしまったら、あの人が死んでしまう』ではないか。
 爪先で蹴り飛ばした瓦礫がてんてんと地を叩く。その様を眺めてから『アルミュール』ボディ・ダクレ(p3p008384)は静かな声音を響かせた。
「いいでしょうフォーレルスケット、遊びましょうか。ただし、結末は私たちの勝ちにさせていただく」
「死んじゃうかも知れないのに」
「死にませんよ。貴方が『どう』なるかまでは保証はしませんが――
 我々がペットのまま終わるのか。それとも友になれるのか。最後の勝負と参りましょう、フォーレルスケット」
 ゆっくりと銃口を向ける。引き金に指先を添えてから『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は静かに言った。
 終わりかけた世界。崩れていく楽園。艶やかな華の散る様は儚いなどとは決して口には出来まい。誰かの夢の涯て、いつかは崩れ去る夢と希望の寄せ集めに『ひとつ喪った』竜は立っている。
「うん。そうしようか。ぼくたちは、そうなるべきだったから」
 望まれぬ来訪者と出会ったときから予感はしていた。まだ幼い竜には理解も出来ないことが多くあった。それは確かなことだけれど――
(フォーレルスケット。
 ボク達は、クロシェットを倒したから、ここまでやって来ました。……それを知った貴方は、どう思うでしょうか)
 傍らで、手を伸ばす人はもう居ない。それがどれ程に恐ろしいことかを屹度、フォーレルスケットは知らないのだ。
『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)の握る慈悲の短剣がぎらりと淡い色を灯した。


「遊びましょうフォーレルスケット。幼子に何かを教えるなら遊びの中が一番だわ」
 児戯を楽しむように、地を蹴って『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)はひらりと躍り出る。あの『遊びたがる』ばかりの無邪気なこどもの相手をしてやりたくとも、その間には『邪魔者がいる』。
 ヴィリスが相対したのは紛れもなく自らを模しているウィンクルム。緩やかな仕草で首を傾げて頬に手を遣ったヴィリスは悩ましいと大仰にその仕草で示して見せた。
「私がもう一人いたら踊りのレパートリーも増えていいかも、と思ったことはあるけれど……」
 出来が良いのはフォーレルスケットがヴィリスをよく見て居たから。彼女の踊りは、幼竜にとっては物珍しかったから。寛治やボディのウィンクルムも存在して居るが、それも何処か腑抜けて見えた。正しく上位存在の竜が見た人間の姿なのだろう。
「うーん、やっぱりだめね。見た目だけ似ていても心がないわ。
 ……心のない踊りはただの動きでしかない。伝えたい気持ちが伝わって来ないもの――だからさっさと退いて頂戴な!」
 自らを前にして、わざわざ恐れる事もあるまい。ヴィリスが告げればウィンクルムの一人は眼鏡の位置を正し銃を構えた。静かに拳を振り上げるボディを思わすウィンクルムの傍には俯き加減の陽色の瞳が佇んでいる。
(クロシェット――)
 チェレンチィはその名を呼び掛けてから唇を引き結んだ。何処か輪郭さえもあやふやなそれはフォーレルスケットが終までクロシェットという魔種を理解していなかった事を思わせた。皮肉な事に精巧な出来のイレギュラーズと比べれば、黒くもさもさとした人間とでしかないのだ。
「……行きましょう」
 小さなダガーは雷の気配を纏った。距離を詰め、寛治を思わせるウィンクルムの元へと飛び込む。銃口の向きは。
「こっちだよ!」
 鮮やかな光るテロペア。眩い華が開くと共に、花弁は魔力を伴いウィンクルム達を包み込む。翠の花弁が帯びた紅色の色彩に、滲むように顔を上げたクロシェットが走り出した。ウィンクルムを引き受けるアレクシアの背より、真白の燐光が舞い踊る。
「遊ぶなら、ウィンクルムを倒してからにしよう!」
 世界を切り拓くために、その一閃はある。聖剣ラグナロクを手に肉薄するセララを前にしてウィンクルムたる寛治は一瞬怯んだ様子を見せた。
「脆い狙撃手が守りも無しに前に出てくればこうなります。私を真似るなら、能力よりも戦術眼の方が良かったのでは?」
 唇を吊り上げた。ウィンクルムにそう告げようとも碌に参考にはできない。知性なんてまるで感じられない空っぽな生き物が寛治の前で弾丸の雨を降らせる。
 雨の下、駆け抜けてボディはフォーレルスケットの前へと飛び出した。受け止めてくれる奴だと端的に自身を認識していた竜。今は地に立っているその竜は人の姿をとればボディにとっては見下ろす程の存在だった。
 あの時とは違う。空を見上げるのではなく、対等な存在として同じ目線として眼前に立てば戦い方だってよく見える。あんな伽藍堂ないきものだと思われるのも心外だ。
「フォーレルスケット、受け止めてあげましょう」
「いつも、そういう」
 それが自らの在り方なのだとボディは感じていた。ああ、けれど、気の抜けた攻撃は余りにも面白みの欠片もない。
「フォーレルスケット。……あなた、ちゃんと私に攻撃してますか?」
 ぴくりとフォーレルスケットの肩が揺れ動いた。目玉がぎょろりと動く。ボディの内部に生じた苛立ちは、自らに向き合ってはいない事から来るものだ。
 戦いで、視線を釘付けて受け止めるのはひとつの独占欲のようで。その欲求をも満たさない『重大な被害を負わせた竜』になんて碌に見えないちっぽけな子供。
「……これなら、真っすぐ憎悪をぶつけてきたクロシェットの方がまだある意味強かった――良い機会です。全力の一撃をぶつけてこい」
「クロシェット――」
 名を呼んで、フォーレルスケットの眸が笑った。ああ、そっか。あの子が居なくなったのは。
「じゃあ、ぼくのことも受け止めてよ! 死んじゃうかもよ!」
 重苦しい風が吹いた。死ぬ訳がない。死んで堪るか。『死ねば受け止めてなんて』やれないのだから。なんたって『受け止めてくれるやつ』なのだから。
 ボディの至近距離にフォーレルスケットの腕があった。勢い良く振り下ろされる。視界に重なったそれを弾くように構えるが、一歩遅い。
「ッ――」
 竜の膂力を真っ向から受け止める。傷だらけになろうとも脚に力を込めた。ソレを幾度も繰返す。頷いたセララは勢い良くその間に飛び込んだ。
「フォーレルスケット、ボクとも遊んでくれる?」
「死んじゃうよ」
「死なないよ!」
 生き物は弱々しくて、触り方を間違えれば死んでしまう。その加減さえも知らない幼い子供。何も知らない無垢な竜だからこそ、クロシェットは愛おしいと感じたのだろう。弱者だと罵ることもなく、生き物とだけ認識してくれた幼子。
「クロシェットは何処に行ったの?」
「クロシェットはボク達が打ち倒しました。空の覇者よ。それがあの子の願いだったのですから」
 フォーレルスケットという大切な人の大切な想いを護りたいとイレギュラーズの前に立ちはだかった。似たもの同士だからこそ、どうしようもなくあの太陽の眸の魔種の思いが痛かった。チェレンチィの唇が戦慄いて、音を為す。
「クロシェットは貴方に、見たことの無いものを、色々なものを教えてくれたかもしれませんが……それはクロシェットにとっても同じだったと思います。そういう関係性は、ペットではなく友人……いえ――『ともだち』と、そう呼ぶんですよ」
「ともだち……ともだち、って、きみたちはずっという。ぼくはそれがわからないよ」
『ともだちとはどうやってなるの?』『ともだちってなに?』そんな風に問われても、説明などできるものか。ソレも心持ち次第なのかもしれない。
 チェレンチィは一寸の隙を作ったフォーレルスケットに命を賭けてでも伝えたかった。あの、自身にも良く似た何も持ち得なかった魔種の事を。
「大切な、大切なともだち――例え遠く離れても、それは変わらない。あなたが、それを忘れてはなくなってしまうのです、何もかもが!」
 思い出を擲つようにして、現れたウィンクルム達。それらを受け止めるアレクシアと、攻撃を重ねるカイトや寛治に視線を送ってセララは笑って手を伸ばした。
「友達が分からないなら、ボクが教えてあげる! キミはこの戦闘を遊びだって言ったね。
 実を言うと、ボクも強敵との戦いはとっても楽しいんだ。さあ、ボクの全力をみせてあげる! キミも楽しんでくれると嬉しいな」
 一緒に遊ぶことは『楽しい』のだ。それが『ともだち』であるのかもしれない。セララの剣の軌道がズレる。フォーレルスケットはボディを見詰めてから、目をきょろりと動かした。
「ぼくは竜だ。空の覇者だから、きみたちより強いんだ」
「そうだね。けれど、私達だって強い。……『ウィンクルム』はあなたにとっての『とくべつ』でしょう?」
 アレクシアの魔力が花弁と鳴って舞い踊る。ウィンクルム達。アレクシアの目の前へと飛び込むクロシェットの魔力が淡く霧散する。
「あなたにとって『とくべつ』なものがあったなら、どうかそれを大切にして。
 そのものがなくなってしまったとしても、一緒に過ごした思い出は、この場所に確かにあるのでしょう?
 ……私たち人間は、そうやって想いを抱えて強くなっていくんだ」
 アレクシアは、たくさんのことを喪っていく。自分にも言い聞かせるように、その言葉にフォーレルスケットは「けれど、きみたちはちっぽけだ」と声を張り上げた。
「クロシェットもそうだった。ちっぽけなきみたちは、ぼくたちなんかより弱くて、脆くて、叩けば直ぐに死んでしまうじゃないか」
「確かに私達は一人では弱いのかもしれない。けど、私達を知ったアンタはもう人間が弱いだけの存在じゃないって知ったはずでしょう?
 簡単に認められないって言うならアンタが認める気になるまでアンタに私達の事を叩き込んであげる――ソレが今の私にとっての勝負よ」
 人間だから、弱い。それが竜と人の間の認識だったとしても。
 眩い炎はウィンクルムの全てを打ち払った。狙撃手の肉体を薙ぎ払い、踊る少女の足を挫き、全てを受け止めるべく手を伸ばす者を払い除けた。
 太陽の眸を輝かせた魔種はチェレンチィが知っていたクロシェットよりも随分と穏やかな笑顔を浮かべていたから。
(あの子はこんな笑顔を浮かべることが出来たのか――)
 ソレを友情と呼べやしなかったフォーレルスケットは独りぼっちだったのだろう。いつまで経っても、得るものが無いままだった。
 そんな竜と対照的に沢山の人との出会いを糧にして、進んで来たのだと朱華は叫んだ。思い出を喪えど、それが力になるとアレクシアは解く。
「ペットが、ぼくとおなじなんかなわけがない」
「同じよ! 直ぐにでも、私達を認めたくなるわ」
 ともだちとそう呼べる存在になれるように、朱華は勢い良く剣を振り下ろした。一閃に続く炎を追掛けるフォーレルスケットの眸に眩い光が飛び込んだ。セララが地を蹴って、一閃を放ち身を翻す。
「ぼくは竜なんだ!」
「竜が何だ! 空で鳥種勇者が負けるわけにはいかねえぜ!」
 ブレた軌道――届かなくたって構いやしない。太陽の眸ならば自らだって持っている。あのウィンクルムの一人と同じ色。
 フォーレルスケットが見上げて息を呑んだ。彼の眸は、クロシェットにもよく似てる。
 顔を上げたその刹那に、寛治の弾丸がフォーレルスケットの肩口へと食込んだ。不意を衝かれた竜が小さく呻く。『当たらない』のはフォーレルスケットが持ち得た能力だった。けれど、それも幾度も見れば『分かってくる』のだ。何度も何度も、経験すれば人間はそれを蓄積して更なる理解へと至る。
「人間とは、何も全てを抱えてるだけではなく活かす事も出来るのですよ」
 ぎりりと、唇を噛んだ幼い竜の前にヴィリスは飛び出した。
 プリマ。踊りが全て。ヴィリスを表すのはたったそれだけ。
「クロシェットが初めてのともだちなら、私は初めての推しになってあげるわ! 私のファンになりなさい!
 ――空に瞬く流星のような私の生。それを完璧に踊りきって魅せてあげるわ! 特等席で御覧なさいな!」
 奇跡のように演じて見せよう。美しく、澱みのない踊りを持って。
 クロシェットはフォーレルスケットにとってはじめてのともだちなのだ。その種が異なっていようとも友情は芽生える事を教えてやりたい。
 それから、どうか。はじめてみたときから、目を奪ったその踊りを。さあ、刮目し、ご覧あれ。
 美しく踊り続けるヴィリスの覚悟を前にしてフォーレルスケットはただ、ただ、見惚れるようにして彼女だけを眺めて居た。
 ぴくりと指先を動かしてから寛治はフォーレルスケットへと向き直る。
「貴方の慕うベルゼーの精神は、その死を受け入れてまで我々(にんげん)と共に戦う道を選びました。フォーレルスケット、貴方はどうしますか?」
 ざあと吹いた風の気配が変わる。寛治の言葉が嘘じゃないとフォーレルスケットは良く分かる。
 揺らぐ髪は波打ち、その眸は真っ直ぐに『人間』を見詰めていた。
「……ぼくが、戦う意味なんて、なくなっちゃった。でも、死んじゃうのはどうすればいいんだろうね」
 手を下ろしたフォーレルスケットは俯いた。大切なひとが、そう決めたのならばそれ以上はない。ただ、その人が死んでしまうことを受け入れられるほどフォーレルスケットは大人ではなかった。
 上位存在と呼ばれた竜だから、命とは尊くも儚くもないと認識していた。情緒が育ちきる前に、雛鳥が別れを経験するのはどれ程に悍ましいことだろう。
「それも、受け入れなきゃならないことではあるんだぜ」
 カイトがそう告げれば、フォーレルスケットは「遊びはお終い」とだけ言ってからその場にすとんと座り込んだ。
「楽しい遊びだったね、フォーレルスケット。
 ボクの名前はセララだよ。友達になって貰えないかな。それでまた一緒に遊ぼう!」
 覚えて、と手を差し伸べるセララを眺めてからフォーレルスケットは唇を引き結んで外方を向いた。
 幼い子供の様な仕草は拗ねているかのようで。ヴィリスはそっと近付いてから膝を抱えたフォーレルスケットを見下ろして。
「ねぇ、フォーレルスケット。貴方の知らないことってこんなにあるのよ」
「『ヴィリス』」
 初めて名を呼んだ竜にヴィリスは驚いたようにくるりと振り返った。それは個を認めることのなかった竜の中でその立場が変わったことを示している。
「海は、どんな色をしている?」
 ――君の髪は、海のようだね。フォーレルスケット。
 あの時、そうやって笑いかけてくれた君はもういないけれど。見て見たいと、そう思った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士
ボディ・ダクレ(p3p008384)[重傷]
アイのカタチ
ヴィリス(p3p009671)[重傷]
黒靴のバレリーヌ

あとがき

 この度はご参加有難うございました。
 ラドンの罪域に入ってからずっと皆さんを見ていたフォーレルスケットにとって、大きな転機となったかもしれません。
 また機会がございましたらお会い致しましょう。

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