シナリオ詳細
<フイユモールの終>サテュレーション・ゼロ
オープニング
●
“彩竜”ラ・ルゥラ・ルーは考えていた。
楽園の皮をはがされ、滅びゆくヘスペリデス。
智者ベルゼーは冠位魔種として望まぬ牙をむき、其の果てなき胃袋の中に、覇竜領域そのものをのみこまんとしていた。
ベルゼーを信じている。
これまで竜種を思ってくれたあの智者を、ラ・ルゥラ・ルーは信じている、今も。
――しかし。
これまで立ち向かってきた人間たちの言葉にも嘘がない事を、ラ・ルゥラ・ルーは知っている。
覇竜を護りたい。
覇竜も、ベルゼーも護りたい。
そう力強く呟いた、青い目の娘の言葉が頭から離れない。
――そんな方法があるものか
己が否定する。一方で、
――信じてみても、良いのではないか
囁く己もいる。
この感情はなんだ。ラ・ルゥラ・ルーは生まれて初めて味わう懊悩という感情に、戸惑っていた。
此処はヘスペリデスの東。
ラ・ルゥラ・ルーはベルゼーの権能の“外”にいた。――其れがもう、答えなのだと……若き彩竜は気付かない。
“ベルゼーを信じる心が揺らいだから、ベルゼーの中にいられない”のだという事に、彼はまだ気付いていない。
――駄々こねてもなんも変わらんって気付かんか?
生意気な木っ端の言葉が、頭に染み付いて離れない。
――竜共に過ちがない。本当か?
――誰だって道を誤る。どんな偉大な存在だってそうだ。儂らヒトも、おんしら竜も、誰だって完全になんかなりゃせん。
「……完全、とは」
一体何なのであろう。
完全であると信じて疑わなかった。人間は欠陥ばかりで、己を恐れ顔も上げぬ。己の完璧さがゆえに、見る事かなわぬのだろうと歯牙にもかけずにいた。
だがどうだ? 彼らの刃はラ・ルゥラ・ルーに届き、彼らは2度もこちらをかっと見て、あまつさえ挑んできた。そうして己はおめおめと此処まで逃げ帰っている始末。
其れは実質的な“敗北”であった。完璧だと自負していた己は、この短期間に2度もヒトに負けたのだ。
そして驚くべきは、確かに食った記憶を自ら取り戻して見せたヒトすらいた事。己の能力を絶対だと信じて疑わなかったラ・ルゥラ・ルーの傲慢は、音を立てて砕け散った。
あれが、偶然ではないのなら。
ヒトの子の意思が手繰り寄せた、一つの運命の形だというのなら。
「――……3度目を。ヒトの子よ、また我と向き合ってみせよ」
試してみよう。
己を越えてベルゼーのもとへ向かってみせろと、吼え立ててみよう。
覇竜領域がどうなろうと、極論ラ・ルゥラ・ルーには関係がない。若き竜は其の傲慢さゆえに親しい友を持たぬ。ベルゼーの事とてそうだ。智者として尊敬はすれど、親愛の情とはまた異なる。親愛故にあのベルゼーの権能を、他の地へ逸らそうとしていた竜もいるようだが……其の気持ちもラ・ルゥラ・ルーにはなかった。
ただ、この戦いは己の矜持の為に。
己とは何なのか、この感情は何なのか、見出すために。
迷える彩竜は、だから気付かない。
己の傍にある影が、僅かに“持ち上がった”事に。
- <フイユモールの終>サテュレーション・ゼロ完了
- 彩度を喪うものがいる。彩度を喪ったものたちがいる。
- GM名奇古譚
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年07月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「彩竜ラ・ルゥラ・ルー」
荒れ果てた楽園、ヘスペリデスの外。
しかし変わらず荒れ朽ちた野で、其の威容を前にして声を上げたのは『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)だった。
「この世に完全で完璧な存在などありはしないのです。どれだけ強くとも、どんな種族でも」
「貴方は――滅びゆくヘスペリデスよりも。暴食の権能よりも。僕たちと……ヒトと向き合う事を選んでくれたんだね」
風が吹き荒んでいる。
茶色の髪を揺らしながら、『ウィザード』マルク・シリング(p3p001309)が其の極彩色を見上げた。
『思い違いをするなよ』
ゆるやかに、ラ・ルゥラ・ルーが口を開く。
『我は再戦を挑みに来たにすぎぬ。我が片翼に傷をつけた忌々しきニンゲンに』
「其れで良いさ」
良いとも。
『あの子の生きる未来』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が笑う。
「お前さんが俺達の力量を試すために再戦を望むなら、俺はお前さんの心を確かめてやるさ。何の為に戦うのかをな。思う存分思いの丈を伝えな、俺らも存分に向かい合ってやる」
迎え撃つ構えのイレギュラーズ。彼らを見渡して『威風戦柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は心中で溜息を吐いた。
3度も試してまだ判らないとは、余程この竜は世間知らず――もしくは頭が固いと見える。まあ、逆鱗に触れそうだからいわないけどさ。
「どちらにせよ、確かめるというなら付き合うまでだ」
「ええ。力を試される――イレギュラーズにとってもう何度目かも判らない課題なのだわよ」
渡りに船よ、と強気に『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は言ってみせる。周囲を待っていた鴉のファミリアが華蓮のもとへ戻って来る、彼が集めた情報を受け取りながら。
「私自身こそが、一番! 私の力を試したいと思っているのだから!」
「どうやら前までとは違うようじゃのう」
『天を見上げる無頼』唯月 清舟(p3p010224)が矯めつ眇めつ彩竜を見上げる。こうしてお互い向き合っていても、彼があぎとを開く様子はない。
「纏っとる気が違うわ。こりゃあ油断してるとこ狙ったりはもう出来んか。――ええぞ! ようやっと儂等の事を見てくれたんじゃ! ベルゼーではなく儂等をな!」
「話には聞いているわ、ラ・ルゥラ・ルー」
『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)が長い髪を抑えて竜を見上げる。其の瞳は何処までも静かだ。
「わたしの姉妹がお世話になったようね。彼女の言葉に、意思に偽りはないわ。だからわたしは――其の姉妹として、この子の道行を切り拓く」
「……行きましょう。ラ・ルゥラ・ルーさんの思いに、……応えましょう!」
セレナの姉妹――『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)がドラネコを召喚し、空に舞わせる。
嫌な予感がしていた。敵は一匹ではないような予感だ。
――でも其れ以上に、目の前の竜が自分達を認めてくれようとしているのが嬉しかった。だからユーフォニーは、イレギュラーズは、全力で応える!
『問答は此処までだ! 征くぞ!』
彩竜が吼える! 三度目の問答が始まった!
●
『欠陥だらけのヒトの子よ!!』
彩竜が吼える。まるで応えるようにバクルドは衝撃を解き放つと共に一気に接敵した。己への反動を厭わず解き放つ青き一撃が、鱗を揺らし、其の下にある肉をわななかす。
『何故に戦う! 何故に生きる!』
「欠陥で結構! 果てがないなんて放浪冥利に尽きらぁな!! “足りない”ってのは足を止める枷にはならねぇんだよ!」
『何故、足りない事を恐れぬのだ!』
「完全でない事は不幸じゃない。寧ろ僕は喜ばしい事だと思う」
マルクが放つ魔力の剣。光と見紛う速さで奔り、ラ・ルゥラ・ルーの鱗の隙間を斬り裂いていく。
おん、と彩竜が吼えた。まるでバケツを引っ繰り返したような音と共に、雷鳴が降り落ちる!
「させません!」
トールが一気に駆けこんで、バクルドたちを庇う。びりびりと皮膚の表面が焼け焦げて痺れる感覚の中、其れでもトールはひたりと焦点をラ・ルゥラ・ルーに合わせたまま揺るがなかった。
「完璧な存在なんてない。誰もが自分の中の“欠けた何か”を埋めたくて、知りたくて、自分以外の誰かと向き合おうとする。我々ヒトはそうやって誰かと協力し、縋り、護り、共に歩んできたんです! 弱さと共にこれまでを築き上げてきた!」
『補い合い積み上げる! 所詮葉を束ねると同じ事、風に吹かれて葉が散っても同じ事を言えるのか!』
「――そうね。竜は強い。長生きだし、わたし達よりも生命として“強い”のは間違いないでしょう。でも……想い、考える。其処は同じではない?」
セレナが駆けこみ、飛び上がる。
其処に気配はない。予備動作もない。ただ“傷付けた”という事実だけが残る。
竜の赤い血が流れていく。――ああ、そう。竜の血も赤いのね。
「まずは考えるとは何かから教えなければいけないかしら? 全く、世話の焼ける竜種なのだわ! 私たちより長生きして強い筈なのに、接する相手が少なすぎたのよ!」
回復の要であるメーヴィンを雷鳴から庇った華蓮が、溜息交じりに言う。
そう、竜種はこれまで自分たちとベルゼーしかいない世界に生きてきた。其れで良かったのだ。けれど、そんな世界はもう終わり。揺籃の時は終焉を迎え、竜種ももう自分達で自分達の行く末を決めていかねばならない。
「全くじゃ! 三度相対してようやっとこっちを向いた! 長かった……ほんに長かったなぁ!」
清舟の胸にはただ戦意が燃えていた。
強くなりたい。ただ、強くなりたい。護る為? 侵略する為? 目的など後から決められる、今はただ強くなりたいという青い炎が清舟の中で燃えていた。強いものに憧れ、打ち倒す事を夢見るのは――男の子の夢、ってやつじゃろう! なあ!
トールへと怒りを向け、爪と尾を振るう竜の姿はまさしく強者の威風であった。生まれながらの強者。生まれながらにして強くあることを望まれたもの。人の届かざる頂き。其れが竜種である。
だからこそ、清舟は、バクルドは、華蓮は――イレギュラーズたちは挑むのだ。或いは護る為に。或いは判り合う為に。或いはただ、其の頂に触れてみたいと……其の一心で。
清舟が遠距離から放った一閃は、ヒトならば首を飛ばされている。だがラ・ルゥラ・ルーは尾の一振りで其れを弾いてみせた。無論無傷ではない。鱗の隙間から血がつうと垂れ落ちている。しかし、しかし一振りである。清舟は確かに、其処にラ・ルゥラ・ルーという竜の本気を見たのだった。
――しかし。
ユーフォニーは見た。ラ・ルゥラ・ルーの影が、森にしんと落ちる影がゆらりと揺らめいて、竜の形を成していくのを。滞空するドラネコの目が其れを捉えていた。
「――!! ラ・ルゥラ・ルーさん!!」
『!?』
ユーフォニーが声を上げた直後、彩竜は首への衝撃にバランスを崩す。
其れは誰の一撃でもない。真っ黒に染め上げられた紛い物の竜――影より生まれたレムレース・ドラゴンの鋭い牙が、若き竜種の首筋へと食い込んだのだった。
『……この!! 紛い物如きが……!!』
レムレース・ドラゴンを尾で跳ね飛ばし、雷を束ねて振るえば一瞬で紛い物の竜は消え去る。
「いつの間に……
「みんな、気を付けるのだわ! 周り一帯――囲まれてるのだわ!」
華蓮とメーヴィンは周囲を見回す。影が立ち込めていた。様々な形をした竜、竜、竜……紛い物がまあ沢山きたものだと、バクルドは肩を竦めた。
「……。ラ・ルゥラ・ルーさん」
声を上げたのはユーフォニーだった。
『……』
「共に戦いませんか!」
『……何を』
若き竜は惑う。向き合っていた者たちが、共にと言った事実に。
ユーフォニーはさらに言葉を紡ぐ。
「一緒に戦う事も、“向き合う”のひとつの形だと思うんです! 共に戦う事で視点が変われば、何か見つかる事があるかもしれない! 其れは貴方にとって損のない話の筈!」
『……』
「ったくよぉ、良い所で邪魔しやがって……今はお前らなんざお呼びじゃねぇんだよ!」
バクルドが真っ先に飛び出す。其の先はラ・ルゥラ・ルーではなく、レムレース・ドラゴン。邪魔する不埒な輩は全部まとめてぶっ飛ばす。勿論彩竜との決着も忘れちゃいない。だからこそ。“信じているから”こその前進だった。
両腕の義腕に籠められた磁力を推進力から衝撃へと変換する。掌に一点集中! そうして解き放った一撃は、レムレース・ドラゴンなどものともせぬと食い散らかしていく!
「貴方との勝負に横槍を入れられたくはない。――でも、彩竜。貴方まで僕らに付き合う必要はない」
身体をレムレース・ドラゴンたちへと向けながら、静かにマルクが言う。
「僕らが“そうすべき”だと思うから、先に邪魔者を退けるんだ。貴方には僕らの背を打つ権利がある」
『……』
「傍観、乱戦、共闘――いずれにせよ」
メーヴィンが彩竜の迷える瞳を見詰めた。
「心に秘めただけじゃ前には進めん。竜ほどの存在なら、判っているだろうが。華蓮、回復はする。庇ってくれるか」
「勿論なのだわ! 誰にも邪魔させないから、思いっきり力を見せつけてあげて!」
一人、二人、三人。レムレース・ドラゴンへと向かって行くイレギュラーズを見て、彩竜は何を思うのか。
清舟が見上げる。
『……愚か者ばかりだな』
呟かれた言葉に、思わずトールが噴き出した。
『何故笑う』
「あっ、ご、ごめんなさ……いや。でもまあ、私も思いますよ、竜種に背を向けるなんて無謀じゃないかって。でも……こんな状況、お互いに本意じゃないでしょう? 少なくとも、私たちの本意ではありませんから」
だから貴方を“信じて”、先に片付けるんです。
言って前線へと向かって行ったトールを、彩竜は見ていた。
『愚か者ばかりだ』
「そうね」
「まあ、そうな」
『だが――どうやら、私も愚かであるらしい』
セレナと清舟、ユーフォニーが視線を合わせて、……三人は揃って彩竜を見上げた。
『この戦いを邪魔されたくはない。今一つ答えを得た、我は完全ではない、……瑕のない玉ではない、故に時には我儘を言う事もある』
「おう」
清舟には其れで十分だった。
だから清舟は背を向ける。レムレース・ドラゴンに向かっていく。
『我の心が震えている』
「……ラ・ルゥラ・ルーさん」
『ヒトが向かってくることに、心が震えるのだ。其れを邪魔する忌むべき竜には、しかるべき制裁あるべし』
うおおん、と彩竜が吼えた。
たちまちに雷雲が立ち込めて、ごろろ、と雷鳴が轟き鳴り響く。そうして収縮された怒りという名の雷鳴が轟き、イレギュラーズたちではなく、レムレース・ドラゴンを貫く!
『征け、ヒトの子よ!』
「……ユーフォニー」
「……! はいっ!」
セレナに促され、表情を輝かせたユーフォニーが駆け出す。雷鳴は縦横無尽に動き回るイレギュラーズを避けて、レムレース・ドラゴンへと次々突き刺さっていく。其の隙をついてバクルドの腕が唸る。清舟の刀が煌めく。マルクとユーフォニー、セレナが魔法でたたみかけ、彼らを護るのはトールだ。
しかしレムレース・ドラゴンと呼称されるとはいえ、彼らは竜のカタチをしている。決して弱い訳ではない。イレギュラーズたちにも傷がつく、其れを癒していくのはメーヴィンのひかりのゆび。華蓮に護られながらメーヴィンは寸分たがわず癒しを紡いでいく。
影の竜が一つ、二つ、少なくなっていって――やがて其の荒野には、影で作られた竜たちは一つたりともいなくなっていた。
●
『……』
「……」
清舟とラ・ルゥラ・ルーが向き合っていた。
静かに風が吹く。其れにすら戦意がぴりぴりと反応しているようで、思わず華蓮は己の腕をさすった。
清舟とラ・ルゥラ・ルー、双方のたっての願いだった。
―― 一合だけ。
考えている事はきっと同じ。
刀に手を掛けながら。雷鳴を槍に変えながら。“ようやっと”――其れが二人の思いだった。
お互いに届かざると思って。
清舟は追いすがって。
ラ・ルゥラ・ルーは思い悩んで。
そうして立ち止まり走り、ようやっと一人と一頭は同じ位置に並んだのだ。
「三度じゃ」
清舟が呟く。
「ようやっと儂は、儂等は理解を得る段階まで来た」
『ああ。……待たせた、というところか』
「言わんでええ。待たせたのはこっちも同じじゃ」
にやりと清舟が笑う。
じりじりと雷の槍がこちらを狙っている。あれに貫かれれば、無事では済まないだろう。
其れでも。
其れでも清舟は、この三度目を逃す手はなかった。
強くなりたい。
竜のように、などとはいわない。“竜と同じほどに”強くなりたい。
――勝負は一瞬だった。
清舟が刀を握る。
其の一瞬を逃さず、ラ・ルゥラ・ルーは雷を解き放つ。
文字通り光の速さで放たれた雷鳴槍、其れを“見ずに”清舟はただ、ラ・ルゥラ・ルーだけを見て刀を構え――
猪。
鹿。
蝶。
其の三撃は、いっそ小気味よく。
●
「……あー……」
気付けば清舟は空を仰いでいた。
脇腹の感覚がない。多分、焼け焦げて貫かれて酷い事になっているのだろう。メーヴィンが黙々と癒してくれているから傷がある事には違いない。
「全く、馬鹿をやったな」
「馬鹿で結構。竜と一対一晴れる絶好の機会を儂が逃すと思うか?」
「思わねぇけどよ」
バクルドが見下ろしている。
其の表情は『馬鹿をやったな』が半分、『羨ましい』が半分。
「次は俺にやらせろよ。俺だってあいつと――竜とやりあいてぇんだからよ」
「くは……はっはっは! はっ……ぬおぉいでえ!!」
雷雲は既になく、青い空が広がっている。
そよそよと翼を靡かせ、胸元に大きく一撃分の傷を作った彩竜は其れでも美しい、とマルクは其の巨躯を見上げていた。
傷を癒す、と申し出たのは華蓮だったが、彩竜は其れを拒否した。
『この痛みを覚えておきたい』
のだという。
其れはきっと、彩竜なりの僅かな歩み寄りだ。
『護りし者よ』
最初、其の呼びかけにトールは誰の事だろうと一同を見渡した。
しかし誰もが自分に向かって笑いかけていて、竜もまた己を見下ろしているから……自分の事だと気付いて飛び上がりそうになった。
『汝は言ったな。協力し、縋り、守り、歩んできたと』
「――……はい」
『我ら竜種もそうなると思うか』
戯れの声音ではなかった。
トールはだから、真剣に、はい、ともう一度頷く。
「竜種もきっと、これから迷う事があると思います。協力しなければ成せない事も」
『……我々が協力、か』
「ええ」
「……あの、ラ・ルゥラ・ルーさん」
ユーフォニーが真っ直ぐに見上げている。
緩やかに、彼女の腕で一抱え以上あるだろうまなこが少女を見下ろした。
「あなたと手を取りたいです。……私と、友人になって貰えませんか」
一度降ろした手だった。
けど、諦めきれない手だった。
だからユーフォニーはもう一度手を伸ばす。
『――……トモというものを、我は知らぬ』
静かに彩竜ははためく。
ゆらりと其の身体が上空へ持ち上がり――だが、と笑うように竜が顔を歪めたのを、セレナは見逃さなかった。
『汝らの顔は覚えよう。小さきユウジン達よ。――災厄が去りて後、またいずれ』
伸ばしたユーフォニーの手に、ひらりと落ちるのは極彩の羽根。
彩竜は矜持をぶつけあった証を胸に刻み、飛び立っていく。
――またいずれ会おう。
雷鳴轟く暗雲の下ではなく、このように青く澄み渡った空の下で。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
彩竜ラ・ルゥラ・ルー。記憶を喰わなかったのはきっと、自分だけが覚えておくのは寂しかったからかもしれませんね。
またいずれ、青き空の下でまみえんことを。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
ラ・ルゥラ・ルー戦、恐らくは最後です。
●目標
ラ・ルゥラ・ルーを撃退せよ
or
レムレース・ドラゴンを撃破せよ
●立地
ヘスペリデスの東、木々を食われて荒野になった場所です。
何処か前回の戦闘場所と似ています。
●エネミー
“彩竜”ラ・ルゥラ・ルーx1
レムレース・ドラゴンx不明
ラ・ルゥラ・ルーはイレギュラーズの力を試そうと、3度向かって来ます。
牙と尻尾での至近物理、雷鳴を轟かせてフィールド全体を攻撃する領域神秘だけでなく、其の雷を槍状にしたもので刺突してくるなど神秘での至近攻撃も行います。
今回は彼は“記憶を食いません”。其れが彼なりの、敵への敬意の払い方です。
ですが気を付けて下さい。
影の気配がします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はD-です。
基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
不測の事態は恐らく起きるでしょう。
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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