シナリオ詳細
天より降りし枝
オープニング
●豊穣を齎す
それは天義北部の村で発見された。
発見したのは村に住む少女。一人空を眺めていると、突然空から降ってきたという。
その見目、形から少女はそれを『枝』と呼んだ。
硬質な素材で形作られた『枝』は物珍しさはあるものの、鳥が巣へと運ぶ途中に落としたのだろうと村人達はそう意に介さなかった。
少女はしかし、天から――神様からの贈り物だと、信心深くその枝を自身の部屋に大切に奉った。
それからすぐ、異変は起きた。
少女の家、その家族が見る間に幸福の報せを受ける。
冴えなかった父が逞しく精悍な顔つきに代わり、仕事に精をだすようになった。その結果はすぐさま訪れ、わずかな稼ぎだった痩せ細った作物が、見るからに美味そうな豊かな実りとなった。
持病を患っていた母が快方し、家族の幸せを享受するようになった。
それだけではない。
少女の家の周囲が見る間に実り豊かな大地へと代わり、村全体が潤いだしたのだ。
こと、ここに来て、村の人々は少女が拾ってきたという『枝』をまさに神からの贈り物だとして崇め始めた。
村に祭壇を作り、祭り上げ、少女を巫女として『枝』の世話係とした。
気づけば、神への信仰など忘れ、必死に『枝』を崇め奉った。
すべてが幸福に包まれていた。
そう信じ込まされていた。
少女も村人も、みんな、みんな『枝』の齎す幸せに酔いしれて、『枝』の思うがままになっていた。
異変を感じた中央の騎士が現れる、その日まで――
●
「天義のある司祭様からの依頼が舞い込んだわ。
悪神より齎された『枝』と呼ばれる邪悪なる祭具の破壊。そしてその『枝』に魅了された村人達の魂の解放――ということだけれど、言葉を作ってはいるけれど殲滅と言って良いでしょうね」
『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が依頼書を概要を説明する。
『枝』――天より齎された無機物。
『枝』が齎したという幸福を生み出す奇跡は眉唾ものだが、村人達は皆その効果を信じ切っており、もはや神ではなく『枝』を信奉する邪教徒と認識されている。
「『枝』が洗脳の類いを使えるかはわからないけれど、村人達に更正の余地がなければ容赦する必要はないそうよ。
貴方達に委ねられている部分ではあるけれど、女子供を除く村人達三十人が武装しているからね。それに『枝』によって力も強化されているみたいよ。そう、言葉を酌み交わしている余裕はないと思った方がいいわね」
村人達は、『枝』を奉る為に立てた祭殿で待ち構えている。
『枝』を守ろうとする村人達を蹴散らして、奥に奉られているという『枝』を破壊することが今回のオーダーだ。
「女子供は隠れているようだけど、一人だけ巫女と呼ばれる少女は『枝』の側に控えているはずよ。
『枝』を拾った張本人らしいから、人一倍『枝』への想いは強いでしょうね。そう、自らの命を捧げるほどにね」
武装した村人達と『枝』を守る少女。それらをどのように処理するかはイレギュラーズに委ねられている。
悔いの残らない選択をするべきだろう。
「破壊した『枝』は一部でもいいから持って帰ってきて欲しいそうよ。
まぁ、壊したことでどんな状態になるから分からないから、こちらはオプションね」
簡単に説明を終えたリリィが席を立つと、一つ疑問を口にした。
「幸福を齎したという『枝』。環境すら変えるその力を何のリスクもなしに享受できるとは思えないわね。
どう転んでも、村人達の未来は――いえ、依頼前に口にすることじゃなかったわね」
イレギュラーズ達に依頼を頼んで、リリィは立ち去った。
天より降りし枝。
それを信奉する村人達。
彼らと対面したとき――何を思うか。
- 天より降りし枝完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年10月19日 21時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●満たされた村
天義北部のその村に辿り着いたイレギュラーズは、一面に広がる光景に唖然となった。
時季を外れた植物たちが咲き誇り、果実を実らせ、穂を付ける。異常ともいれるその光景が、天より落ちてきたという『枝』の力というのであれば、それは国を揺るがし兼ねない力であることは明白だろう。
その幸福とも言える『枝』の奇跡を享受し、寄り添って生きていたいと思ってしまうのは、弱い心を持つ人であれば仕方のないことなのかもしれない。
だが、そんな得体のしれない幸福を、なんの代償もなしに享受できるとは考えられなかった。
幸福の前借りとも思える、その代償を支払う時がくるのだ。
依頼を受けたイレギュラーズは、気配を殺しながら村の中を進む。
『枝』を奉るために立てられたという祭壇。
中央の騎士の介入により、『枝』を奪われると考えた村人達が、今その祭壇に集まり武力を持って抵抗しようとしている。
「イヤな雰囲気ね……」
生ぬるい風を受け、『銀蒼棄狼』詩緒・フェンリス・ランシール(p3p000583)が呟く。その肌に感じるのは、どこか緊張を伴った気配。
「手早く片付けたいところね」
『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)も同じような空気を感じ取ったのだろう。長居はしたくないと、首を振った。
「まるで強制的に生かされてるような……そんな意思を感じる。
この土地全てが、違和感の塊だ」
植物疎通を試みる『ポイズンキラー』ラデリ・マグノリア(p3p001706)が感じ取った植物の意思を言葉に変える。何代にも渡る生物の営みをねじ曲げたような、強烈な違和感だ。
「よく分からない『枝』なんてものに縋り付いちゃうなんて……、
ううん、違う。きっと人の持つ心の隙を突く、そういう物の気がする」
それはとても怖いものだと、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は思う。気づかぬ内に虜とされてしまう。抗いようない悪魔の誘手だ。
「リナリナ知ってるっ!
いきなり現れて勝手に幸せ撒き散らす謎の物体、ソレとっても、と~っても危険があぶない物体!」
原始時代出身の野生児である『特異運命座標原人』リナリナ(p3p006258)もその悪性を本能的に感じ取っていた。純真なリナリナはその悪性に取り憑かれた村人達のことが心配だった。
「フン、下らんな。
得体のしれない『枝』なんぞによってもたらされる幸福になど価値はなかろうよ」
実体験や実感の伴わない信仰や崇拝になど意味はない。与えられた仮初の幸福を享受することは無意味だと、『隣に侍る伊達男』空木・遥(p3p006507)は目を細め鼻を鳴らした。
「そうね……。
辛いことや悲しいこと、沢山の経験と記憶が相対的に幸せを与えてくれると思うわ。
ただ幸せなだけの……それが『当たり前』になってしまうのはきっと間違っているはずよ」
遥に同意し、『水晶角の』リヴィエラ・アーシェ・キングストン(p3p006628)が言葉を走らせる。
幸せの価値観は人それぞれだとしても、その本質は変わらないはずと思う。
「……なんにしても胡散臭い代物なの。
そんな物に縋り付いて抜け出せなくなった者の末路は決まってるの」
同情の余地などないと切り捨てるのは『暴食の剣』リペア・グラディウス(p3p006650)だ。彼女には村人達を心配し説得するなどという慈悲の心はない。ただ、鳴り止まないこの腹の虫を止めるため――そう”食事”の為に来たのだ。
村人達にも、イレギュラーズのような考えを持つ者達はいたはずだ。だが、気づけば『枝』なしでは生きられなくなっていた。
それはきっと洗脳に近いものなのだろう。意思を奪い、望みのままに動かす。
そう、今や村人達は『枝』の操り人形に他ならない。
「――見えたよ。
あそこが、祭壇だね」
アレクシアに倣って視線を伸ばせば、村に似つかわしくない大仰とした建物が見えた。
入口の大きな扉はしまっており、見張りはいない。恐らく村人達は祭壇に侵入する者に対する警戒しか行っていないのだろう。
あの入口の中で、武器を手に取り待ち構えていることが想像できた。
「それじゃ作戦通りにね」
「ああ、任せてくれ」
詩緒の言葉に遥が応え、一行は襲撃の準備を整えた。
――作戦はこうだ。
物質透過能力を持つ遥が、祭壇背後より侵入。注意を引きつけると同時に、最要注意人物である巫女を抑える。
同時に正面より突入した残りのメンバーを二手に分け、『枝』の確保と村人の抑えに回る。
『枝』を確保さえしてしまえば、あとはタイミングを見て破壊すれば仕事は終わりだと考えていた。
作戦の手順を確認したイレギュラーズは、いよいよ襲撃を開始した。
遥はまず窓から中の様子を確認しようとしたが、分厚いカーテンを引かれ中の様子を覗くことはできなかった。
祭壇背面に移動した遥が物質透過能力を用いる。その手には種火を移したのろしがある。
物質透過発動と同時に身体強化魔術を施す。敏捷性をあげ反応を稼ぐ算段だ。
一枚の壁面を超え、細い通路にでる。裏口のようだ。
続けて透過を用いれば、その祭壇内部の様子が見えてくる。広々としたホール、入口側には村人達が集まり、裏口側には巫女の少女が立っている。その側に、見紛う事なき『枝』が奉られていた。
「クソが、毎回こんな役回りばっかり回ってきやがる。女に手を出すのは趣味じゃねぇんだが」
これから起こる事態を想像し一つ愚痴ると、意を決して遥が突入する。
裏口側の壁を通り抜けたと同時、火を付けたのろしを上げる。
「火事だ!」
ホールに響き渡る声で遥が叫ぶ。
「――!? え、侵入者!? なんで、後ろから!?」
巫女が驚愕に目を見開きながら振り返る。びくりと身体が震え、硬直した。
このとき遥の反応はずば抜けていた。その場にいる――待機している仲間も含め――誰よりも早く突出した速度で巫女と枝の間に割り込んだ。
「やあ、お嬢さん。ちょっと隣に失礼するよ。
――邪教の徒よ! 正しき神の意思を今ここに代行する。魔女に裁きを!」
「きゃぁ――!!」
大仰に、『枝』を信奉する巫女を魔女として断罪を叫ぶ。その手は巫女を牽制する打撃を放ち見事に足止めした。
同時、正面扉が開くイレギュラーズの突入が開始された。
●操り人形
突入したイレギュラーズの動きは迅速だった。
展開に反応できない村人達の隙を突き、詩緒とリノが一気に祭壇目がけて駆ける。
この二人の動きに反応したのは巫女だった。
「侵入者!! 皆、『枝』を守って――!!」
巫女の叫びをもって、ようやく村人達が動き出す。その動きは『枝』を守りに向かう者と正面から現れたイレギュラーズに向かうもので分かれる。
イレギュラーズへ向かった村人が武器を振るい、我武者羅に叩きつける。
この動きに即座に反撃したのはリペアだ。
「抵抗するの? そう……。
――さあ、グラトニーご飯の時間だよ、一緒に食い散らかすの」
容赦のない渾身の一撃が村人の腹部を切り裂き絶命たらしめる。『暴食』を司る呪われし魂くらいのインテリジェンス・ウェポン、魔剣『グラトニー』が魂を喰らい歓喜の声をあげた。
普通の精神状態なら、一人隣人が殺されたことで心を折られる者ばかりだっただろう。起きた出来事に後悔し、悲嘆に暮れていたはずだ。
しかし、明滅する『枝』がそれを許さない。幸福という甘い蜜に染め上げられた哀れな操り人形達は、その蜜を奪おうとする者を決して許さない。
村人達は、冷静に、狂っていた。
一人殺されようが、二人殺されようが、構うことなく、その手に握る暴力を叩きつけてきた。
だが、イレギュラーズもその事態は想定済みだ。冷静に、対処を開始する。
祭壇入口の扉を閉め、出入り口を封鎖したラデリは、すぐさま祭壇側の援護にはいる。
「身体強化されている分、苦しみは長くなるか――」
ラデリが詩緒とリノに迫る村人達に呪われし霧を放つ。複数を巻き込む悪意の霧に幾人かが苦しみ空気を欲して喉を押さえた。
障壁魔術を展開したアレクシアが、群れに飛び込んでいく。
生み出される紅の花の如き魔力塊が周囲を取り囲む村人達を巻き込んで炸裂する。敵意を生み出す魔力に侵された村人達が、一心不乱にアレクシアへとその暴力を叩きつける。
城塞のごとき堅牢な障壁がそれらを防ぎ傷害を軽減する。
「どんなものかと思ったけどこの程度なの。『枝』なんて大したことないみたいね!」
その挑発に、幾人かの村人が、怒りの形相を浮かべた。
「みんな、アレに操られてる!
みんなが知った幸せ、偽物! その幸せ、対価必要。すぐ怖い事起きるゾッ!!」
村人を心配するリナリナは必死に言葉を走らせ説得する。
だが、村人の耳には届かない。手にした武器をリナリナに叩きつける。
「わからずや! なら、リナリナ強行突破するゾッ!」
不殺を心がけるリナリナは蹴撃見舞い、村人を地面に叩きつけた。
同じようにできれば村人を殺したくないと思っているリヴィエラが声を上げる。
「ねえ。あの『枝』は、神様からの贈り物なんでしょう?
それじゃあどうして、貴方たちを苛める“悪者”の私たちに、天罰が下らないのかしら。
……貴方たちの信じる神様って、本当はとても冷たいのね?」
「そんなわけがない! 『枝』様はいつでも私達を幸福にしてくれるんだ!」
「その恩恵を奪いに来た悪魔め! そんな言葉には騙されないぞ!」
「お願い、目を覚まして! あれは幸福を齎すものじゃないわ。貴方たちの信仰心に根を張っているだけの――寄生虫よ!」
「皆、聞いちゃだめよ! 『枝』だけが私達を幸せにしてくれるんだから――ッ!!」
まるで聞く耳もたない村人と巫女の言葉が、辛く悲しい。やはり『枝』を破壊しない限り言葉は届かないのかもしれない。
リヴィエラは諦観の念を抱きながら、覚悟を決め手にしたオーラソードで手足を切りつけ、無力化を狙っていった。
巫女を抑えた遥、そして正面に向かっていった村人達を抑えたリナリナ、アレクシア、リペア。彼らの動きは予定通り村人を抑えることに成功していて、祭壇近くに向かった村人達を狙う、ラデリとリヴィエラの動きも、『枝』に向かう村人達の数を減らすことに貢献し、十分であると言えた。
「狙い撃って、乱れ撃って、撃ち貫くのみ、……なんてね」
素早い反応を見せていた詩緒が、『枝』へと近づきながら手にした銃での射撃を繰り返すが、障壁を打ち破ることはできなかった。しかし、村人達より早く『枝』を掴むことに成功し、この時まではイレギュラーズの想定通りの展開を見せていたと言ってよいだろう。
故に、イレギュラーズはこのまま『枝』を破壊すれば――そう思っていた矢先、事態は急転する。
「どうして『枝』を壊そうとするの! それはあたし達に必要なものなの!」
巫女の叫びに詩緒が冷たく返す。
「貴方達の主義主張に口を出す気は無いわ。
『枝』の破壊の依頼があった。それを受けた。だから壊す。それだけよ。
……ま、これを機に少し頭を冷やして考えてみたら、とは思うけれど」
その言葉に歯噛みした巫女は祈るように目を伏せた。『枝』に救いを求めるように、心の中で『助けて』と願って――
「え……」
それは『枝』の力か、はたまた神の悪戯か。
詩緒と共に『枝』を守っていたリノが、何の変哲もない村人の振るった一撃を避けることも受け身をとることさえもできず、喰らい倒れた。
いつもならば、そこから十分に立て直せたはずが、なぜか身体は硬直し――
「リノさん――!」
詩緒の叫びも空しく、リノに叩きつけられる夥しい暴力。いくら変哲のない村人の攻撃と言えど、集中して叩きつけられてしまえばイレギュラーズとて一溜まりも無い。無残にもリノは無数の傷多い、意識を手放した。
こうなると、『枝』を確保している詩緒に、同じような危険が迫る。
「くっ、この――!」
引き金を弾く。放たれる弾丸が幾人かの村人を倒すが、多勢に無勢にある。次々と襲いかかる狂乱の暴力がリノの肌を朱に染めていく。
すぐさま、仲間が援護にはいる。
特にその役割を担ったのは遥とアレクシアだ。
巫女を羽交い締めていた遥は脅すように巫女を人質にしていたが、これに対し巫女が、
「私のことは良いから、『枝』を優先して! 『枝』があれば巫女なんて誰でも良いもの!」
と声を荒げ、村人達もその意思に従っていた為に、人質の価値がないと判断した。すぐさま巫女を放置し、詩緒に向かう村人達の前へと躍り出て牽制を繰り返した。
アレクシアはとにかく村人を引きつける役目に出た。
紅色の花が咲き乱れ、村人達の注意を一身に受けていく。
しかし、如何に城塞の如き障壁を持っていたとしても、多くの暴力をその小さな身体で受け止めきれることはない。
「どうして、こんな――
自信を持って!
幸せになれたのは、みんなにはその力が、可能性があったんだ
力を与えられても頑張ったのはみんなでしょう?」
村人をできるだけ傷つけたくないと、攻撃する意思が弱かったこともあるかもしれない。言葉は武器にならず、アレクシアは叩きつけられる悪意に抗おうと願い、叫ぶ。
「枝は自分のおかげのように見せただけ――自分を信じて、またやり直して!お願い!」
だが無情にも悪意は止まることをしらず、パンドラの輝きを放ちながらも立て直すことはできず、悲しみに暮れながらその意識を手放した。
こうなると、あとは目を背けたくなるような乱戦が待っているだけだった。
詩緒の持つ『枝』を巡り、意識ある者達が奪い合いを繰り広げる。
「だめだ、こんなの、だめだ――!」
意識が残っている限り、身体を起こし迫る村人達。操られし人形達は、もはや自分の意思も手放して、ただ『枝』だけを狙い蠢く。
不殺を掲げる者が多かったこともあり、イレギュラーズは手痛い損害を被ることとなった。
「偽りの幸せの後には絶望……もはや貴方達に天義での居場所はない。
それに幸せの代償に多分貴方達のナニカが使われてる筈……どのみち貴方方は長くないよ」
唯一、不殺とは無縁に、ただ自身の食事を進めたリペア。その言葉は何かを見抜いていたかのように鋭く、そして村人達の運命を決定づけていた。
このリペアの暴食によって、次第に意識ある村人達の数は減っていく。数が減れば、不殺を心がけたラデリやリナリナ、そして極力殺さないように加減していた遥やリヴィエラ、詩緒も戦い安くなっていく。
壮絶な争奪戦は、意識を失った詩緒の変わりにリペアが『枝』を手にすることで集束へと向かう。
パンドラの輝きに縋った遥、リヴィエラは満身創痍で、不殺を誓い最後まで説得を諦めなかったリナリナは最後の一人の意識を奪うと同時に自身も倒れた。
「やれやれ……終わったか」
遥の力ない言葉が空を泳ぐ。
視線を向ければ、血に染まる祭壇が映る。
凄惨な現場だが――その夥しい赤に反して、生存している村人達は多かった。これは不殺を心がけたイレギュラーズが勝ち取った結果だろう。
一人泣きじゃくる巫女。そして、明滅を繰り返す『枝』。
「さあ、依頼を終わらせるの」
リペアの言葉に頷いて、傷付き倒れた者を揺り起こし動けるイレギュラーズ全員で『枝』を取り囲む。
「……何をするの?」
事態を把握できない巫女が、静かに呟いた。
●代償は支払われた
「『枝』を破壊する。それが請け負った依頼だ」
ラデリの言葉に巫女の目が見開かれる。
「う……嘘、そんな、ダメ、ダメだよ! そんなことしたら、幸せが……みんなの幸せが、逃げちゃう!」
「諦めて。こんなものはない方が良い」
「だ、だめぇ――!!」
巫女が駆け出すが、もう遅い。
イレギュラーズの渾身の力を籠めた一撃を受け、その周囲に現出していた障壁が音を立てて破砕した。
同時、『枝』にヒビが入り見る間に広がると、あっけなく、音を立ててバラバラに砕かれた。
「終わったな――」
そう、肩の荷を下ろした瞬間、その一瞬の隙をついて、巫女が『枝』の破片を奪って駆けだした。
「ま、待ちなさい――!」
もしまだ枝が生きていれば――それはオーダーの失敗を意味する。慌てて止めようとするイレギュラーズ。だが――
「待って、見るの」
リペアの言葉に従い残された『枝』の破片に目を移せば、それらが、一瞬にして砂となっていく。
もはや元の形もわからない程に、ただの砂となっていった。
「あっ――」
瞬間、巫女が何かに躓き倒れる。
そして――
「うっ……」
躓いた振動で、偶然――とは思えない――壁面に立てかけられた剣が落下し、巫女の心臓を刺し貫いた。
倒れ伏す少女は手にした枝を見て……砂のように崩れ消えて行く枝が指から零れ落ちていく。
「嗚呼……どうして……」
小さな幸福を求め、与えられた奇跡を享受した結果、待っていたのは悲惨な末路だった。
求めてはいけなかった、浸ってはいけなかった――手にしてはいけなかったのだ。
全てを後悔した少女は掠れた声で小さく呟いた。
「――ごめんなさい……」
その声は、いつまでもイレギュラーズの耳にこびり付いて離れないのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
澤見夜行です。
ちょっと陰鬱な結果となりましたが、依頼成功です。
作戦はとてもよかったと思いますが、村人の勢いを殺しきれなかったのが残念でした。
プレイングの不備には気をつけましょうね!
MVPは障壁と名乗りで敵を引きつけていたアレクシアさんに贈ります。
仲間のピンチによく敵を引きつけたと思います。相談もがんばってましたしね。
依頼お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
天より降りし枝は幸せを運ぶのか、それとも。
神への信仰を揺らがせ、『枝』へと信奉する村人達を処断してください。
●依頼達成条件
『枝』の破壊
村人の処断(更正の余地があれば殺害の必要なし)
■失敗条件
村人に『枝』奪われ逃走される
●情報確度
情報確度はAです。
想定外の事態は起こりません。
●『枝』について
天より降ってきた、いくつも分岐した枝の形をした無機物。
硬質な素材で作られており、ひんやりと冷たいです。
人々の声に応えぼんやりと明滅したりもします。
破壊しようと敵対的な行動を行うと、反応し防御障壁を展開します。
また周囲の信奉者を強化する力を展開しており、『枝』の影響下においては信奉者(村人)の身体的能力が強化されます。
騎士一人では傷一つ付けられない障壁ですが、イレギュラーズの全力攻撃を同時に叩きつければ破壊することができるかもしれません。
障壁を破ってしまえば、破壊することは容易いでしょう。
●村人達について
武装した村人が三十人祭壇内で待ち構えています。
彼らは皆『枝』の齎す幸福を享受し、今後もその幸せを受け続けたいと考えています。
もはや、どうしてそう思うのか自分でもわかっていません。
とにかく『枝』と共に生き続けたい、という思考に染まっています。
『枝』によって身体的強化を受けており、普通の村人より戦闘能力が高めです。とにかく数が多く放置すればイレギュラーズと言えど無傷ではいられないでしょう。
殺害の許可はでていますが、『枝』の影響下から逃れれば更正の余地はあるかもしれません。
●巫女について
『枝』を発見した少女。十歳。
『枝』の齎す幸福を一番に享受した人物であり、『枝』への執着が一番強い人物です。
戦闘能力はありませんが、『枝』の破壊にはその身をもって抵抗するでしょう。
『枝』を持って逃走するとすれば、彼女を置いて他にはないでしょう。
●戦闘地域
天義は北部のある村にある祭壇内になります。
時刻は十時。
広々とした遮蔽物のない場所となりますが、長距離の引き撃ちなどを行うのは難しいでしょう。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
Tweet