PandoraPartyProject

シナリオ詳細

アルカナ・アルマエラファ・アルカディマ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●そして扉は開かれた
 ギルド・ローレット、ラサ支部――とまではいかないが、ローレットのイレギュラーズたちが頻繁に集まる酒場が、ラサの首都ネフェルストにある。
 その酒場にてウェスタンドアが開かれ、一人の女性が姿を見せた。
 キィっという扉の音に、カウンターに寄りかかっていた男たちの一部が振り返り、その一部は女性の艶めかしいシルエットに口笛を吹き、別の一部は熱砂の都に似つかわしくない黒ローブに訝しみ、残りの数人は彼女の顔を見て驚きの声をあげた。
「おい、あれ……ナディラ・アミラじゃねえか?」
 もしあなたに魔法の知識、あるいはラサへの人脈があれば知っていたかもしれない。
 ナディラ・アミラとはこのあたりでは名の知れた古代魔術の研究者であると。
 更に言えば、彼女が人前に顔を出すことは滅多にないとも。
 ナディラ、研究者、人前に――といった単語がさざ波のように酒場に広がる。故に注目がそのナディラへと集まるが、対するナディラは酒場の顔ぶれを見回してただこう言った。
「私はナディラ。アルカナ・アルマエラファ・アルカディマを手に入れられる者を探している」

 酒場の二階。依頼の説明によく用いられる個室に通されたあなたを迎えるように、ナディラは向かいの椅子を手で示した。
 口笛を吹く男がいたことからも分かるとおり、黒いローブで覆われた彼女の身体はシルエットがよく現れ、女性的で豊満なそれはどこか彼女の自信の表れであるように見える。
 更に印象を引き立たせているのは彼女の首元に揺れるオーブ型のペンダントだ。まるで宇宙を覗き見たかのような魔術的あるいは神秘的な輝きを秘めたそれは、一度注目すると暫く目をそらせないような魅力に満ちている。
 そして今更ながら、彼女は布で顔半分を覆っていることに、気付いた。
「ああ、これは気にしなくていい。私の部族は人に肌を晒すことを避けるしきたりがあってね。こうして髪を晒しているだけでも奇異の目で見られるほどだ」
 後ろで縛った長い黒髪を手でさらりとしめして見せてから、ナディラは続ける。
「この部屋に入ったと言うことは、依頼を受ける気になってくれたとみていいのだね?」
 低く、どこか蠱惑的な声だ。
 心の隙間にするりと入り込むような、魅力的というより……そう、魔術的な声だった。
 声色の正体に気付いたゆえだろうか、ナディラはくすりと笑って続ける。
「アルカナ・アルマエラファ・アルカディマ――長いので単に『アルカディマ』と省略するが、これを手に入れてくれる人物を探している。
 勿論、この広大な大陸を隅々まで見て回れなんてことは言わないよ。場所と手段は分かっているんだ」
 そう言ってナディラが鞄から取り出したのは、一冊の報告書だ。
 ページ数枚からなる報告書のタイトルには、『マアブドゥ・エッサハル・エルアスワッド』とある。
 これも、どうやら略して呼ぶつもりらしい。
「エルアスワッドはここから南に行った場所にある古代遺跡だ。見た目はその挿絵にあるとおり、円形の舞台なのだが……実はそれが遺跡の『蓋』であることが昨今判明した。
 蓋を開くことはどんな力自慢にもできなかった。というのも、この遺跡は古代の魔術によって封じられていてね、特別な鍵を持たない人間が入ることはできないようになっていたんだ」
 その鍵は? と誰かが言う前に、ナディラは首元にさがったオーブを手に取る。
「これ、だ。これが鍵だ。そう、遺跡に入る手段も、場所も、分かっている。
 話の流れからもう察していると思うが、この遺跡の中に大切に収められているのがアルカディマというわけだ」
 ページをめくるとアルカディマの説明もあった。挿絵には一冊の本が鎖で厳重に縛られた様子が描かれている。
「そう、本、だよ。古代の魔術が書かれている……と、されている。
 開く手段もまた魔術によって封じられているが……」
 どうしよう、と一瞬考えた様子を見せたが、すぐにナディラは肩をすくめて続けた。
「開く手段も実は持っている。だが、内容は独占させてもらいたい。そのために、君たちを雇うことにしたのだから」
 要約するとこの依頼人、古代遺跡の研究対象を独占すべく手に入れて欲しいという依頼をしてきたらしい。
「研究は私の生き甲斐でね。それでいて、他人に侵されることはイヤなんだ。我ながら厄介な性格だと思うが……ふふ、私自身は気に入っているんだよ」
 そこまで言うと、パチンと指を鳴らした。
「詳しいことはその資料に書いてある。まずは、前金がてら食事といこうじゃないか」
 払いはもつよ、と優しく囁き、ナディラは酒場のウェイトレスを呼び出すのだった。

GMコメント

※こちらはライトシナリオです。短いプレイングと選択肢のみで進むアドリブいっぱいのライトな冒険をお楽しみください。

 エルアスワッド遺跡へと入り、古代の魔術によって守られたダンジョンを攻略しましょう。
 様々な罠や仕掛けやモンスターがあなたを待ち受けています。

●一口プレイング
 今回の感想や自分の得意分野について書いてみましょう。
 困ったら好きなごはんについて書いてみてください。ナディラさんが奢ってくれます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


探索スタイル
 あなたはこのダンジョンに対してどのようなスタンスで探索するでしょうか

【1】謎解きに挑む
 持ち前の非戦スキル等を駆使してダンジョンに仕掛けられたギミックについて考えたり対処したりします。

【2】戦闘に集中する
 持ち前の戦闘スキルを駆使して現れるモンスターとの戦いに集中します。

【3】癒やし枠
 休憩できるスペースを見つけて料理を振る舞ったり、ほっこりするようなものを振る舞ったりします。


戦闘スタイル
 あなたのバトルスタイルを選択してください。

【1】アタッカー
 率先して攻撃スキルをどかどかと撃ち込みます。
 威力型やBS型など形は様々ですが、あなたは頼れるチームのアタッカーとなるでしょう。
 相手にバフをかけたりするジャマー枠もここに含まれます。

【2】ディフェンダー
 優れた防御ステータスを用いて敵の攻撃を引き受けます。かばったり引きつけたりは場合によりますが、あなたがいることで仲間のダメージ量は大きく減ることでしょう。
 味方や自分を治癒することで戦線を支えるヒーラー枠もここに含まれます。

  • アルカナ・アルマエラファ・アルカディマ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ハインツ=S=ヴォルコット(p3p002577)
あなたは差し出した
ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
もこねこ みーお(p3p009481)
ひだまり猫
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ


 ハンバーガーを、かじる。
 『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)は暫くもぐもぐとやってから、思い出したように呟いた。
「あ、知ってる? ハンバーガーの美味しさって、囓ったときにかかる上下の顎力のバランスでかなり変わるの」
「へえ。本当かなあ」
 『白銀の祈り』アルム・カンフローレル(p3p007874)が話に乗っかりつつ、クリームシチューをスプーンで軽くかき混ぜる。
「本当本当。証明したかったら、今度ハンバーガーを途中でバラして食べてみて。絶対重ねたほうが美味しかったって思うから」
「それを聞くとバラしたくなくなるなあ」
 ふわふわとした顔で笑うアルム。『あたたかな声』ニル(p3p009185)はコンソメのスープとパンという質素ながら温かいメニューをつまつまとしながら、その話に頷いた。
「お料理が出来ると、そういう知識もつくんですか? ナディラ様は、知ってまいしたか?」
 話を振ってみると、フランスパンをスライスしたものをもそもそと食べていたナディラが真顔で見返してきた。
「魔術以外のことはよく知らないな。ただ、検証方法とセットで教えるというのは興味深い。理屈があるのかな?」
「にゃー」
 『ひだまり猫』もこねこ みーお(p3p009481)がねこの手をくいくいとやってそれに答えた。
「パンを上下で4対6の割合で切ると、大抵美味しくできますにゃー」
「ああ、本当にあるんだな」
「言われて見りゃあ、パンを上下半分に切ってるもんだとばっかり思ってたな。お前さん、なかなかやるじゃないか」
 こちらもハンバーガーを、それもチーズが上下に二枚挟まったものを囓りながら『あなたは差し出した』ハインツ=S=ヴォルコット(p3p002577)は足を組んだ。ハンバーガーのさいごのひとかけを食べ終えると、つい癖なのか胸ポケットに手が伸びる。そこに入っているのは煙草とライターだ。
「おっと、悪い。子供もいるんだったな」
「?」
 小首をかしげるニル。まあ子供といえば子供なのかもしれない。が、ニルは『どうぞ』と手をかざしてみせた。
 『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)も食べ終わった所のようで、ジェスチャーで良しと示してみせる。
 ならお言葉にあまえてとばかりに煙草を取り出すヴォルコット。
「しかしナディラ、今回依頼された……あー……」
「アルカナ・アルマエラファ・アルカディマ」
「それだ」
 ジュースのストローに口をつけていた『永遠の少女』ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)の一言にピッと指を立てる。
「そのアルカディマってのは、お前さん一人で手に負えるものなのか?」
「さあ、それは開いて見ないとわからないな。肝心なのは、一人で挑みたいかどうかだと思うね」
「それは、わかる」
 ラダが椅子にもたれかかり腕を組んだ。
「仮に何人かが必要だったとして、一人で調べてから人を呼ぶのと、何人かで調べてから誰かを抜くのとではかなり意味合いが違う」
 商会の娘らしいクレバーな考え方だ。実際、設け話を独占するという考え方は商人にとっても重要だ。そしてその場合――。
「顔も名前も明かすというのは誠意がある。依頼される側としても、悪い気はしないな」
「封印された遺跡の中も見られるし、ね」
 ルミエールはドリンクを一通り飲み終えると、役得よと言って指を振った。
 実際、ローレットに属しているとこういう『役得』は沢山ある。前人未踏の地に足を踏み入れることなどこれまで一体何度あったか数え切れない。
「今回、半分くらいは観光気分よ。皆もそう?」
 問われて、『玉響』レイン・レイン(p3p010586)が畳んだ傘の柄をそっとなでた。
 彼の目の前には小さなお皿にのったお団子が二つほどころんと残っている。
 そのひとつを木の楊枝でさして口へ運ぶと。しばらくもっちもっちとやってから頷いた。
「僕……君の見たい物……見つけた時の表情を、見たい」
 人と出会っての冒険で楽しいのは、確かにこういう所だ。
 誰かの人生が変わる瞬間や、喜びの表情。人の奥底にあるものが時として見えるのだ。
「期待に応えられるといいが」
 ナディラは顔を覆った布を僅かに動かした。笑った、のだろうか。目元をゆるく細めたところからして、そうなのだろう。
「少なくとも、今この時点でだいぶ楽しませてもらっているよ」


 マアブドゥ・エッサハル・エルアスワッド。
 長らく舞台とされていたこの円形の古代遺跡は、実のところ入り口であった。
 ナディラが首から提げたオーブに対して魔法の言葉を唱え、舞台の端にあるくぼみへとはめ込む。
 虎の頭を摸したそれは淡く発光し、ズゴゴと音をたてて円形の舞台が左右に扉のごとく開いていく。
 そして現れたのは、下り階段であった。
「わあ、素敵なセキュリティ」
 目をきらりと輝かせたのはルミエールである。自宅にこんなのあったらいいなという顔を、かなりしていた。
 階段を下っていくと、底は広大なフィールドになっていた。
 というより、下った段数と天井の高さが合わない。あまりにも天井が高すぎるし、部屋が広すぎる。
「異空間か。あるいは圧縮魔法か。さすがは古代のダンジョン、といったところだな」
 ヴォルコットは流石に閉所で煙をたてるのを嫌がったのか、煙草をくわえてこそいるが火はつけていない。
 かわりにライターでかるく火を付けて、おかしなガスがないことを確かめていた。
 そんな彼らが最初にたどり着いたのは……複数の魔方陣が等間隔に並ぶ床だ。
「ちょっとまった」
 ヴォルコットが手をかざす。『何か?』と首をかしげたナディラを少し後ろにさがらせると、ヴォルコットは煙草の一本を魔方陣のある床へ適当に放り投げてみた。
 ボンッと音をたて煙草が燃え上がり、煙もほとんど残さずチリとなる。
「正しい順番で魔方陣を通らないと燃えるトラップだな」
「何か手がかりは?」
 レインが問いかけると、アルムが早速壁や床を調べ始めた。
「魔方陣の縁の部分にそれぞれ古代文字があるね。ちょっとまって、確か……」
 アルムは大きな鞄から書物を何冊か取り出すと、ぱらぱら捲って内容を確かめ始める。
 そして縁の古代文字を指でなぞり、こくりと頷く。
「やっぱりだ。古い資料にあった、風の魔法を応用したトラップみたいだね」
「風?」
「そうそう。空気の流れを最初に作っておいて、乱れたら発動する仕組み」
 アルムにそこまで聞いてから、ヴォルコットはにやりと笑った。そして今度こそとばかりに煙草にライターで火を付ける。
 うまそうに煙を吸い込んでから、スッと突き出して魔方陣に翳した。
 煙が正しく上に上る所と、奇妙にゆらめく所がある。
「見分ける方法はわかったな?」

 更に暫く進んでいくと、早速の行き止まり。
 というより、一本道だったはずの道が壁で止まっている。
「あら?」
 立ち止まったルミエールは小首をかしげ、白狼のルクスがちょこんと後ろから顔を出した。
 鼻をくんくんとならしているようで、ルミエールがそんなルクスに耳を傾けた。
「うん、うん……何かにおいがする? この先に? あー、なるほど、わかったわ!」
 ルミエールは適当な小石を手に取るとひょいっと壁に向けて放り投げる。
 すると壁にぶつかって戻るはずの小石が、壁をすり抜けて飛んでいく。
「見て、幻術の壁よ。多分この先は迷路ね」
「そういうことなら、任せてください」
 ニルがはーいと手を上げてみせる。
 どうやらニルの嗅覚は猟犬のように鋭いらしい。
「確かに、動物みたいなにおいがします。この先です」
 ニルの先導しようと歩き出す……のを、レインがトントンと肩を叩いて止めた。
「まって……。ネズミに、先行、させるから」
 レインは鞄に入れていたネズミを床に放つと、使役状態にして歩かせ始める。
 そしてどうやら壁の先は光が遮られて暗くなっているようなので、広げた傘からふわふわと青白い光を放って周囲を照らしてくれた。
「罠があったら、これでわかる……」
「いいですね! ねずみさん、よろしくおねがいします」
 こうしてニルとレインの先導のおかげで、一行は安全に幻術の迷路を抜けることができた。
 抜けた先では……。
「おっと」
 ラダがライフルを素早く構える。
 通路の真ん中に陣取るように、獅子の頭と山羊の角をもったモンスターがゆっくりと身体を起こす。
 獣の臭いというのはこいつのものだったかと思いつつ、ラダはあえてモンスターへと突進した。
「こいつを仕留めるのは任せてもらおうか」
 モンスターは鋭い爪のついた腕でラダをとらえようと飛びかかる――が、その下をすり抜けるようにスライディング。ラダは短く構えたライフルを至近距離で連発すると、モンスターの腹に見事に命中させた。
「おお、至近距離で大型のライフルを命中させるとは、やるね」
 史之が感心したように頷くと、ラダはスッと身体を起こして振り返った。
「なに、このくらいはな。それよりも……」
 先ほどの一合だけで倒したことを確信できたのか、ラダは史之へ振り返る。
「うん。食材にできるタイプのモンスターみたいだね。待ってて、カレー作ってあげる」

 モンスターを倒した後は、さばいた肉を使っての獅子モンスターカレーが史之から振る舞われた。
 結構な大荷物を抱えてきたと思ったら、カレー用の鍋とスパイス類を詰め込んでいたらしい。
 一方のみーおは幻想国で営んでいるというパン屋から持ってきた美味しいパンを沢山リュックサックに詰め込んでいたらしく、それを皆に振る舞っている。
「追加で美味しいご飯も作りますにゃー」
「きちんとごはんをたべるのはいいことなのです。いっぱいいっぱい食べましょう」
 美味しいご飯には一家言あるニルである。にこにこ顔でパンとカレーを頬張った。
「ライスかナンか迷ったんだけど、パンって手があったね。実はラサっぽいカレーにしようと思ってたんだけど、獣の肉がかなり硬めだったからシチューっぽくなっちゃったんだよね。パンのほうがこの場合は合うと思うよ。
 あ、飲み物のリクエストを言ってね。何でも出してあげるから」
 史之がカレーをパンですくうようにしながらパクパクと食べる。彼の言うように、史之のギフト能力があればどんな飲み物でも出すことが出来る。キャンプ飯には恐ろしく便利な能力である。
「お役に立ててよかったですにゃー」
 こちらはこちらで、パンを褒められてみーおも上機嫌だ。
 一行はそんな調子でごはんをおなかいっぱい食べ、ついにダンジョンの最深部へとたどり着くのだった。


 最深部とすぐに分かったのは、その風景ゆえである。
「へえ、これはすごいね……」
 アルムがふんわりとした様子で言うように、眼前には大量の本棚でいっぱいの風景が広がっていた。
 右も本棚なら左も本棚。恐るべきことに地面と天井まで本棚である。本の背表紙を土足で踏むという事実に若干後ろめたさを感じつつもできるだけ棚の縁部分をあるくアルム。
 が、レインが地面に屈んでこんこんとノックしてみるとその必要がないことがわかった。
「本棚……透明な板で、阻まれてる」
「えっ?」
 言われてみてから壁の本棚に触れようとして、透明な壁に阻まれていることに初めて気がついた。というより、考えてみれば確かにわかる。天井の本棚など、本が落ちてこないほうがおかしいのだ。
「不思議な場所ですにゃー」
「けど、これじゃあ本を手に入れられないわね」
 冒険ついでに一冊くらい手に入れたかったルミエールが残念そうにしていると、ニルがめざとくも部屋の奥に目を付けた。
「見てください、あそこの本棚だけ少しだけ色が違います」
 優れた視力ゆえに、透明な壁のない場所を見分けることができたようだ。
「アルカディマはきっとあそこです」
 と、走って行こうとした――その時。
「さがれ」
 ラダがニルの肩を掴み、ぐいっと後ろに引っ張った。
 さっきまでニルがいた場所から炎の柱があがり、天井まで燃え上がる。
 またも魔方陣のトラップかと思いきや、そうではない。
 炎の中から現れたのは巨大なトカゲめいた怪物だった。全身の鱗は赤熱したように淡く発光し、頭には山羊のような角が生えている。フウと息をする一瞬、口から炎が漏れるのが見えた。
「ヴェルモス……」
 既に距離をとっていたナディラが言う。
「これは資料で見たことがある。別名『深炎の番人』。ということは、ここはアタリらしいね」
 戦いはどうやらさけられそうにない。全員がそれぞれの武器を構える――その一方で、アルムはササッとナディラと同じく後方へ下がってしまった。
「回復するから前線は頼んだよ……!」
 今回、回復支援をするつもりのアルム以外は全員アタッカーだ。たのもしいねと呟きつつ、アルムは杖を握り込んだ。
 早速ヴェルモスから炎のブレスが吹き付けられる。
 アルムは治癒のミストを展開することで炎に対抗。その中を掻い潜るように、史之とニルが突っ込んでいく。
「炎の鱗が邪魔ですね」
「そういうことなら任せて」
 史之は数多の斬撃を解き放ち、ヴェルモスの鱗がもっている防御効果を破壊する。
 バキンとひび割れたように壊れた鱗に、ヴェルモスは動揺した様子を見せた。
 今がチャンスだ。ニルは思い切って飛び込み、力を込めてぐーにした拳を割れた鱗部分に叩き込んだ。
 魔力が直接注ぎ込まれ、暴れて飛び退くヴェルモス。
「にゃー」
 みーおが猫の肉球マークがついた大砲をかつぎ、発砲。
 と同時に器用にも側面に回り込んでいたヴォルコットがホルスターからリボルバー拳銃を引き抜く。
 手のひらを撃鉄に添えた早撃ちが三発続けて打ち込まれ、ヴェルモスは痛みにもがいた。
 せめてもの反撃として炎を燃え上がらせ自らの幻影を作り出す――が。
「そういうのは見慣れてるの」
 ルミエールはルクスと融合。オトナの姿をとると白銀の大鎌を振りかざした。
 偽物(幻影)に惑わされることなく、本物のヴェルモスだけを狙って斬撃を叩き込むルミエール。
「これが本物! 狙って!」
「うん……ありがと」
 レインは傘をぱたんと畳むと、ライフルのように構えて魔力を込めた。螺旋状に先端へのぼる魔力が淡く青白い微光を纏う。
 一方でラダもライフルに特殊弾頭を装填して素早く構えた。
 同時に発砲。
 レインの魔力とラダの弾頭がヴェルモスへと吸い込まれ、暴れるように内部を食い破り……そして派手に爆発させた。

「間違いない。これそこ、アルカディマだ」
「あっ、けど本はすぐに開けないのね。家に帰ってゆっくり解呪しなくちゃ」
 本棚から本を引き抜き、トントンと表紙を叩くナディラ。
 ルミエールは近くの本棚からちゃっかり本をゲットして機嫌がよさそうだ。
「さ、望みの物をてにいれたなら引き上げるぞ。復路もそれなりに危険そうだからな」
「うん……」
 ラダがライフルを担ぎ言うと、傘を広げたレインもこくんと頷いた。
 レインはナディラの満足そうな表情が見れてこちらも満足、といった様子だ。
「では、帰りも慎重にいきますにゃー」
「はい!」
 みーおがてくてくと歩き出し、ニルもそれに続いて歩き出す。
「最後はどうなるかと思ったけど、皆がいてよかった」
「ローレットは力を合わせてこそ、だからね」
 ほっとした様子のアルムと、肩をすくめる史之。
 そんな彼らの最後に歩き出しヴォルコットは、もう一度この無限のような本棚を振り返った。
「いずれここも、既知の場所になる……か」
 前人未踏の冒険は、ここでおしまい。きっとまたいつか、新たな冒険に出会えるだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

PAGETOPPAGEBOTTOM