PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Trimming Sheep

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●澄んだ秋の日に
 和らいだ日差し、少し冷たい風。野の草花が靡くそこに。

「メェ~」
「メェ~」

 そう、『あの生き物』がやってきた。

●大変な作業
「春に沢山来たからか、今年は毛刈りも大変そうだね」
 肩を竦める『黒猫の』ショウ(p3n000005)。持っていた羊皮紙をイレギュラーズ達にも見せる。
「Flying Sheepって知ってるかい? プルーが以前、依頼として持ってきていたと思うんだが」
 聞いてみれば、それは半年近く前の話。
 羊の形をした妖精が通行の邪魔をしており、イレギュラーズが温めて空へ飛ばしたという報告書が残されていた。
「こいつらはね、春と秋の2回に渡ってこの辺りに来るのさ。常に温もりを浴びる妖精の毛は特別暖かいらしい」
 秋に訪れたFlying Sheepの毛を刈り、冬には服や寝具にして暖を取るのだと言う。
 そして、最初の台詞がまた来るのだ。
「だからさ。今年も毛刈りは大変そうだ、ってね。依頼が来ているんだが行く気はないかい?
 依頼人は幻想で商いをしている人物。毎年この妖精の毛を収穫しているらしいんだが、手が足りないと予想してる。道具に関しては心配ない。向こうで毛刈り用の特別なハサミを用意してくれるそうだ」
 Flying Sheepは攻撃をしても倒れない。当然、斬れない。毛に関しても同様で、魔法のかかった特別なハサミでなければ切れないのである。
「既に何匹か降りてきているが、幸いにも広い草原だね。今回は通行の邪魔、なんてことは気にしなくてよさそうだよ」
 地図を広げたショウは幻想の土地の1カ所、道を外れた広い平野を指差した。
 見通しも良く、ここ最近モンスターも見られていない。毛刈りの作業に没頭するには良い場所だろう。
「時間は日中だ。前回の報告書のように引っ付かなくてもそのうち飛んでいくだろうね。まあ、ちゃんと依頼をこなしていれば何をしていてもある程度許されると思うよ」
 それは、イレギュラーズの視線に含まれたものを感じ取ったが故の台詞だろうか。
 毛刈りの合間をぬってFlying Sheepにくっついてみたり撫でたり持ち上げようと頑張ってみたり……という事も構わないらしい。勿論、仕事をおろそかにしなければ。
 イレギュラーズ達は依頼を受けるべきか否か、依頼内容の書かれた羊皮紙へ視線を落としたのだった。

GMコメント

●やること
 Flying Sheepの毛刈り

●Flying Sheep
 もこもこの羊。妖精の一種。近隣住民には『しーちゃん』とか『羊さん』とか呼ばれています。
 温もりを一定時間貯めると移動し、また別の場所で温もりを求めて降り立ちます。
 飛ぶときは魔法的な2対の羽を出してふんわり飛んでいきます。
 重さを変えられるのか、それとも飛ぶ力が強いのかは不明ですが、降り立つとどれだけ屈強な男が持ち上げようとしても持ち上がりません。
 倒そうと攻撃をしても不思議なことに、ふわふわの毛が完全ガード。妖精の不思議な力なのかもしれません。
 大きさは大小様々ですが、小さいと30cm程度のぬいぐるみサイズ。大きいと1m位。
 5~6匹を平均に集まって降りたつ習性があり、その姿はカーペットのようにも見えます。

 性格は温厚。……というよりは、鈍感。例え熱いお茶を零したとしても気づきはしないでしょう。
 何人乗っても怒らないし潰れたりはしませんが、ふわふわなので乗る人間のバランス力が試されます。

 毛刈りされた後だとふわふわしていませんが、人の子供程度のぬくさです。
 ふわふわの毛はありませんが、皮膚も攻撃をガードします。

 『Flying Sheep』にて登場。過去作を読まなくとも支障はありません。ただし読むと「こういうことをするとこういう結果になるかもしれない」と参考にはなるかもしれません。

●毛刈りの仕方
1、全員に魔法のかかったハサミと大きくて軽い籠が支給されます。
2、適当なFlying Sheepに近付きます。
3、ハサミを入れます。ショキショキ。魔法のかかったハサミでもFlying Sheep本体に傷はつけられませんのでご安心ください。
4、刈った毛は籠の中に入れましょう。最後に依頼人が回収します。
※毛刈りの上手・下手は成功の要素に含まれませんので、所々に毛が残っていてもOKです。

●成功のコツ
・羽を出し始めた羊はもう少ししたら飛びます。気をつけましょう。
・自由気ままなので、飛行ではなく足を使って移動してどこかへ行くFlying Sheepもいるかもしれません。
・風は強くありませんが、籠は軽いです。うっかりしていると──ああっ籠が!

●ご挨拶
 愁と申します。
 ふわふわもふもふな羊さん、再登場です。
 あまりのんびりしすぎていると毛を刈る前に飛んで行ってしまうかもしれません。お遊びはほどほどに、でも気楽にやりましょう。
 過去作に関しては本当に読んでも読まなくても大丈夫です。ええ、本当に。ちゃんとお仕事すれば成功しますから。
 相談期間5日です。ご注意ください。
 それではご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • Trimming Sheep完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年10月15日 21時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
フェスタ・カーニバル(p3p000545)
エブリデイ・フェスティバル
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
シンジュゥ・ソラワルツ(p3p002247)
終わり無きソラゴト
セレネ(p3p002267)
Blue Moon
辻岡 真(p3p004665)
旅慣れた

リプレイ

●ふわふわもこもこ
 平野を訪れたイレギュラーズ達。その目の前には、実に平和な空間が広がっていた。
 『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)はその光景に目を細める。
「毛刈りを体験できるとは嬉しい機会だな」
 少なくとも動物に関わる職業でなければ、なかなか毛刈りをしたことのある者はいないだろう。
 羊たちのうち1頭に『blue Moon』セレネ(p3p002267)は近づき、腰を低くした。
「今日は、またお逢い出来て嬉しいです」
 メェ、と応えるように鳴く羊。『終わり無きソラゴト』シンジュゥ・ソラワルツ(p3p002247)がセレネに視線を向ける。
「セレネさんは以前にも、羊さん達と触れ合ったことがあるんでしたね」
「はい。あったかくて、ふわふわで幸せな気持ちになりました」
 思い出して顔を綻ばせるセレネ。羊に手を伸ばせば柔らかな毛が手を包むようだ。
 『夕闇鴉の旅人』辻岡 真(p3p004665)が2人に近づいてきて、セレネの触っていた羊を覗き込む。
「俺も触っていいかな?」
「メェ」
 肯定か否定かわからない返事──いや、羊たちの性格を考えればきっと肯定だろう。
「Flying Sheep……素敵なふわふわね!」
 セレネと真が触り始めたのを見て『パラディススの魔女』エト・ケトラ(p3p000814)が顔を綻ばせる。
 このふわふわな羊はただの羊ではない。妖精の一種だという。事前の情報によれば羽を出して飛ぶらしい。
(飛ぶ姿も可愛いでしょうね。ぜひ見てみたいわ……)
 エトはそれとなく飛びそうな羊を探すが、残念ながらどの羊もまったり日向ぼっこに勤しんでいる。もう少しすれば見られるかもしれない、と思い直して支給されたハサミを持った。
 同じくハサミを持った『フランスパンをお食べ』上谷・零(p3p000277)はソワソワとした様子で辺りを眺めていた。
 当然と言えば当然。初の体験である。勿論気合も入る。
「フェスタ、今回はよろしくなー!」
 ペアを組む相手に声をかける。……しかし、応えの声が聞こえない。
 むにゃ、という声に視線を向けると『エブリデイ・フェスティバル』フェスタ・カーニバル(p3p000545)が羊に埋もれていた。
「フェスタ?」
「んん……はっ! いけないいけないっ、お仕事に来たんだった!」
 フェスタがハッと目を開け、眠気を覚ますように頭を振った。
 以前遭遇した羊はパチパチと電気を纏っていたが、この羊はもふもふふわふわの感触で癒してくれる。そんな肌触りを堪能していたら思わず夢の世界へ誘われてしまった、というわけだった。
「よろしくね、零くん!」
 改めて挨拶するフェスタ。羊から離れた真が皆に声をかける。
「刈り取った羊毛が、ある程度貯まってきたら、散乱させる前に、俺の鞄に収納するから呼んでね」
 はーい、わかった、と各々から返事が上がる。その中で、一同の中でも一際気合の入った──敵対心かもしれないが──眼差しを羊へ向けている者(ニワトリ)がいた。
「刈って刈って、刈りまくってやるわ!」
 バッサバッサと翼をはためかせる『慈愛のペール・ホワイト』トリーネ=セイントバード(p3p000957)。Flying Sheepのふわふわ感を目の敵にしているのである。
(くっ……ニワトリと言えど、流石にこれは再現できないわ……)
 しかし、トリーネには魔法のハサミという羊の毛を──ふわふわを刈るアイテムがある。自分がこれ以上のふわふわになれないのなら、羊をふわふわでなくしてしまうのだ。
 そんなトリーネの視線に気づいてか否か。羊の1匹が気の抜けた声で「メェ」と鳴いた。

●二人一組を作りましょう
(空飛ぶ羊って不思議だよなぁ……混沌すげぇわ)
 初めて見る生き物に興味深げな零の隣で、フェスタはマントを外すと籠に被せる。
 切る前に零が羊の毛に触れると、ふわりと温かい雲のような感触が零の手を包んだ。
(やべぇ……ふわふわが過ぎるぞこの羊……!)
 うっかり羊の群れにダイブしそうになったが──。
「零くん、頑張って!」
 籠を飛ばないよう支えるフェスタの声に引き戻された。
 はっと気を取り直し、ハサミを入れる零。
 零が刈った羊毛はフェスタが受け取り、籠に入れて飛ばないように素早くマントを被せ直す。
 籠の中の容量が限界に近づいてくると、フェスタは真に羊毛を回収してもらった。次はフェスタが刈る番だ。
「さあ、もっふもふの毛をたっくさん刈り取るよ!」
 ハサミを持ったフェスタは少し緊張した面持ちでハサミを向けた。
「そーっと、優しく丁寧に……慎重に……」
 声に出しながらフェスタはそっと屈みこみ、羊毛にハサミを入れる。
 だが、切る直前に羊の体が揺れた。
「わぁ! あ、あんまり動かないで~!」
 羊の頭を撫でて落ち着かせていると、背後から「頑張れ!」と零が声援をかける。
 どうにか1頭の毛を刈り終わったフェスタは肩の力を抜くと、近くにいた小柄な羊へ取り掛かり始めた。
 マントを籠に被せ直し、零は平原の空いている場所へ視線を向けた。そこにいるのは零のペットたち。なかなかこんな広い平野へ連れてくることもないから、どことなく楽しそうだ。
 ふとその視界に、羊がのっそりと現れる。羊は零の近くへ寄ってくると、ふんふんと鼻を効かせ始めた。
(あ、もしかしてアレの匂いかな……?)
 持ち物を思い出した零は片手でマントを押さえたまま、もう片方の手でフラッカリーを取り出した。羊の口元へ持っていけばポキポキと食べ始める。
「そういや、羊ってパンも食うのかな……? どれ」
 ギフトでフランスパンを出し、ちぎって同じように口元へ持っていく。羊は鼻を近づけて食べ物か確認すると、むしゃりと食いついた。
「お、食うな。この羊、パンも食べるみたいだ。誰かフランスパンいるかー?」
 声をかけてみると、早速真から「パン頂戴」と返ってきた。籠の中を覗き込めば、こちらもなかなか貯まってきた様子。
「フェスタ、パン渡すついでに羊毛回収してもらってくるなー」
 零の言葉に頷いてその背を見送り、フェスタはまだ毛刈りされていない羊へ抱きついた。
「しーちゃんの毛はもっふもふで暖かくて、気持ちいいねぇー」
 フェスタは只今、先日の依頼により傷心の身。何があったかといえば──いいや、思い出すのは止めておこう。
「ぎゅーってしたら、悲しみも包まれて消えちゃいそうだよー……」
 ふわふわの暖かい羊毛。思わずフェスタの表情に笑みが漏れる。
「ん! 元気出てきた!」
 元気チャージ完了と共に、空になった籠を持って零が戻ってくる。こっちだよ! とフェスタは笑顔で零へ手を振った。

 動きやすいエプロンドレス、髪をポニーテールに纏めたエトは羊の毛に触れる。
(攻撃を一切通さない羊毛と皮膚の仕組みはどうなっているのかしらね?)
 このふわふわな毛がどうしてあらゆる攻撃を防ぐのか、魔術師の端くれとしては非常に興味が湧く。
 調べたい。だが調べていたら飛んで行ってしまいそう。そんな短い葛藤を経て羊の毛刈りを始めたエトの背後では、トリーネがハサミと格闘していた。
「刈るにはこのハサミを……HASAMI? これどう使うの!?」
 嘴でつつき、足で踏み。しかしハサミは微動だにしない。
「……ふっ、なかなかやるわね。今日はこれくらいにしておいてあげるわ」
 なんて言っていてもどうしようもないので、トリーネは自分にできる事をし始めた。そう、ニワトリは万能なのだ。ハサミなんて『使えなかった』のではなく『使わなかった』に過ぎない。万能なニワトリは、重石にだってなれるのだ。
 籠の中に入り、ふわふわの羊毛に乗っかる。ウィズ・マスコットの能力で召喚されたぴよちゃん(ひよこ)も一緒に乗っかる。
(なかなかふわふわで居心地は悪くないわね)
 こけー、と鳴きながらエトの方を見るトリーネ。エトは背後の状態に全く気付かず、羊の毛刈りに集中していた。
「む、初めてやるけど難しいわ……結構ふわ毛の量が多いのね」
 微睡んでいるのであまり動かないのが幸いだ。
(トリーネは順調かしら?)
 ふと相方の様子が気になってエトは振り向きながら声をかけた。
「トリーネ、そっちはど……重石!? 景色に見事に調和した重石っぷり! 有難いけどそれでいいの!?」
「勿論よ! 重石役は任せてちょうだい!」
 エトの視界に映るのは牧歌的な風景、日向で微睡む可愛い羊。休んでそうなムーブのにわとり(トリーネ)。
「……なぜかしら、わたくし、今ならファーマーの方の気持ちが分かる気がするの……」
 呟きながら作業を再開するエト。
 しかし、重石にもなれる万能なニワトリも目の前の誘惑には抗えない。
(むむむ、刈るの楽しそう)
「やっぱり混ぜて!」
 籠から降り立ったトリーネはファミリアーで子犬を召喚し、重石代わりに。嘴でハサミの端を咥え、首を振って刈ろうとする。
「トリーネ、それは危ないと思うわ」
「あ、危ない? ならぴよちゃんにも手伝ってもらって……」
 ちょっ……きん。ちょっ…………きん。
「うん。エトちゃんが1人でやった方が効率はいい気がするわ……!」
「あら、それなら一緒にやりましょう?」
 少しペースは落ちるけれど、2人は仲良く羊の毛を刈っていく。
 それを横目で見ながら、籠の中の子犬が小さく欠伸をした。

「ちょっと……まだ逃げちゃダメです! もう少し我慢して下さいね!」
 はっと気づいたセレネが群れから抜け出ようとする羊の前へ立ち、頭をよしよしと撫でる。
 セレネの言葉が伝わったのか、羊はその場に座り込んだ。
「今のうちですね!」
「よし……頑張らないと! チョキチョキとテンポよく!」
 シンジュゥの言葉に頷き、セレネは緊張した面持ちでハサミを入れた。
 傷つかないけど痛い思いはさせたくない。けれどもたついていたら飛んで行ってしまう。
 セレネに刈られた羊毛は、シンジュゥがマントを被せた籠の中へ収めていく。ふわふわの羊毛は暖かく、シンジュゥは籠がいっぱいになる前に──睡魔に負ける前にかもしれないが──真の元へ向かって回収してもらった。
「バトンタッチですね」
「はい! “俺”も頑張ります!」
 ハサミと籠を交換こ。シンジュゥが手近な羊の毛刈りに取り掛かった。その手つきはセレネの様子を見ていたこともあってか、比較的スムーズに羊毛を刈っていく。
「あ、待ってください! もう少しですから!」
 あともうひと息、というところで飛びはじめた羊を追いかけ、翼を広げるシンジュゥ。それを見ながらセレネが「飛べるって素敵……!」と感嘆の声を上げる。
 そんなアクシデントも挟みながら、作業は進んでいく。
「ふわふわであったかいですね」
 羊毛を籠に入れるセレネが顔を綻ばせる。羊毛を預けてきますね、と籠を持っていったセレネを見送って、シンジュゥはまだ刈られていない羊にそっと触れてみた。
「ふわあぁ……!」
 柔らかい。暖かい。全身を埋めたい。そんな誘惑が現れる。
(だめです、お仕事なのですから、そんなことしちゃ……でも、ふわふわ……)
 ああ、もふもふの羊が1匹。2匹。3匹──。
「──はっ!」
「シンジュゥさん、大丈夫ですか?」
 気付けばセレネが心配そうに見下ろしている。シンジュゥは慌てて飛び起きた。
「……え、寝てないのですか?」
 昨夜寝ていないというシンジュゥの言葉に目を丸くするセレネ。
「仕事ですから! 大丈夫ですよセレネさん!」
 ぐっ、と握りこぶしを作ってそう告げるシンジュゥの背後で、羊がいつの間にやら出していた羽を羽ばたかせる。
「あっ羊さんが!」
「え? あぁっ!」
 待って! と止める2人の言葉もむなしく。メェ、という声が空へ近づいていった。

 少し時を遡る。
「辻岡さん、お願いします!」
 籠を持ってきたセレネを見て、真はインベントリの操作画面を開く。
 そして、羊毛を預かろうと手を伸ばした瞬間のことだった。
「きゃっ!」
 突風にセレネが小さく悲鳴をあげ、風に籠がさらわれた!
「待て!」
 とっさに駆けだした真。転がる籠。もう少し、というところで真は地を強く蹴り、傘を前に突き出した。
 ぽん、と開いた傘の内側に籠が引っかかる。
「危なかった……」
「すみません、ありがとうございます」
 頭を下げるセレネに大丈夫だよと手を振り、真はギフトで羊毛を回収する。
 のんびり羊と戯れて、時々皆の様子を見に回って。そんなことをしているのは真が羊毛回収係なこともあるが──。
(リゲルさん、真面目でしっかりしてるからなぁ)
 リゲルのことを思い浮かべる真。まさか静電気対策までしてくるとは思わなかった。騎士というのは皆ああいうものなのか。
 そんなしっかり者のリゲルを見て、真は『傍を離れても大丈夫そうだ』と判断したのである。羊毛の回収にも集中できるのでありがたい。
 しかし。
「Flying Sheep♪ Flying Sheep♪
 ぬくもり求めてやってくる~ふわりと降り立つ綿飴の君
 群れる様子は雪原のよう~」
 突然の歌声に真は固まった。先程しっかりしてるなぁって思った人の声だ。
 歌の内容を聞けば、どうやら羊を賛美していらっしゃる。
(そういえば彼は天義出身の面白い人だ……!)
「ぬくぬく YEAR! しーちゃん LOVE!
 何人乗っても大丈夫!」
 まだまだ歌が続く。
 笑いだしてしまったらなかなか止まらない。ツボにはまってしまったらしい。
「っ、ははは!」
 真は傍の羊に抱きついて笑い転げた。メェ、と抱きつかれた羊が鳴き、相変わらずリゲルは歌いながら毛刈りを進めていく。
 こんなの、どんな世界を旅していてもそうそう経験できない。
(歌も、彼も、羊も、気に入った!)
「果てしない~青い空
 雲のように舞うSheep♪」
 歌と共に羊が1匹、空へ飛んでいく。リゲルは邪魔にならないよう少し距離を取り、歌いながらそれを見送った。
「昼は大地へ~夜は夢の中へと
 しーちゃんはいつも君の傍へと寄り添うよ
 その温かさを~そのぬくもりを
 今日も明日も〜みんなに届ける
 ホワイトキューティ! 優しい羊さん〜♪」
 歌い切ったリゲルは達成感にハサミを頭上へと掲げた。キラリとハサミが光る。
「歌は素晴らしい……あっという間に刈れた気がする」
 多くの毛を刈るため、テンションを上げようと歌い始めたが大成功だ。
 リゲルが笑い転げる真に気づき、大きく手を振る。
「真さん、貴方に毛を託します! 保管宜しくお願い致しますねー!」
 回ってきた仕事をどうにかこなす真。ちょっと腹筋が痛い。
 しかし「時間一杯、どんどん刈るぞー!」というリゲルの言葉に、真は思わず顔を引きつらせた。


●毛刈り、終わりました!
「おお、助かるね。大体の量が割り出せるよ」
 シンジュゥや零が依頼人へ報告しに行き、真が毛の入った籠の総数を書いた紙と共に羊毛を納品する。
 真から受け取った紙に顔を綻ばせた依頼人へ、真は冬服の融通をしてもらえないかと交渉する。依頼人は真の言葉に頤へ手を当てて考え込んだ。
「商品として質の満たないものがあればあげられるかもしれない。前向きには考えさせてもらうよ」
 人に使われるものなら、商品にならなくても目に見えて質が悪いということはないと依頼人は告げた。
「なるほど……ありがとうございます」
 頭を下げる真。その隣でソワソワとその様子を見ていた零が口を開く。
「あの、俺も交渉したいことがあって!」
 内容は『フランスパンを定期的に買わないか』というものだった。
 零が世界から与えられた贈り物は美味しいフランスパンをいつでも出せる能力。そのフランスパンを売ったり配ったりする場所もあると言う。
「それで、その、誰かが定期的に買ってくれたら嬉しいなーとか思ったりしてて、これ旨いから、ほんと、その」
 どう言えば買ってもらえるか。焦りからテンパり始めた零に、依頼人が苦笑を浮かべた。
「すまないね、私はどうもパンが苦手なんだ。だが、知人に話はしてみよう」
 もしかしたら依頼人の話を聞いた誰かがフランスパンを買いに来てくれるかもしれない。
 一方、まだ残る羊たちも徐々に羽を出し始めていた。リゲルが1頭を抱きしめて涙の別れを告げる。
「また来年……会えたらいいな!」
「メェ」
 ふわふわではなくなってしまったが、触れた羊はとても暖かい。その温もりがやがて天へ向かって行く。
「またなー!」
「メェ~」
 飛んでいく羊に手を振るリゲル。羊も何か思うところがあったのだろうか、四肢をぴこぴこと動かして挨拶しているように見えた。
「はあ……素敵な依頼でした……」
 シンジュゥもまた羊へ向かって手を振り、先ほどまでの時間を思い出して溜息をつく。まさに至福のひと時であった。
 エトは地を蹴り、羊の群れへ飛んで向かって行く。群れの中に混じったエトは地上を見下ろした。
「あなた達はこんな景色を見ながら、あちこちへ向かっているのね」
 メェメェと周囲から同意のような返事が上がった。エトはくすりと笑うと、トリーネに向かって手を振った。まだ羽を出していない羊の上でバウンドしていたトリーネが翼を広げ、同時にバランスを崩してころころと転がり落ちていく。

 やがて羊が全て飛び立ち、平野に静けさが残る。
 そして羊毛は依頼人の馬車に詰め込まれ、ゆっくりと工場へ向かい始めたのだった。

成否

成功

MVP

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
 プレイングを拝見した際から楽しかったです。皆さんの個性が出ていたと思います。
 辻岡 真さんが交渉されていた冬服に関しましては、この後RPで好きに取り扱って頂いて構いません。8人全員が受け取ったかもしれませんし、全員分には足らなくとも欲しい人で分け合った形でも良いかと思います。

 MVPは歌い始めた貴方へ。まさか歌われるとは思ってなかったので笑ってしまいました。とても良いと思います。

 それではまたご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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