PandoraPartyProject

シナリオ詳細

砂漠で遊ぼう。或いは、馬を捕まえよう…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●牧草の茂るオアシスで
 澄んだ水が湧いている。
 砂漠の真ん中、個人所有のオアシスに数人の男女が集まっている。
 ずらりと並んだ一行を見据え、エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)はにやりと笑った。
「鉄帝にはオイルレスリングと湖上アスレチック競技。豊穣には百鬼夜行や相撲の興行、海洋の鮫の着ぐるみレースとファッションショー、幻想では妖精のつかみ取り大会……そして、ラサでは恐竜着ぐるみレース。まったく、人々の娯楽を求める執念には頭が下がる思いだよ」
 そのうちの幾つかには、エントマも1枚噛んでいる。
 エントマの配信する動画“エントマChannel”の再生数を稼ぐためだ。練達を中心に各地の娯楽を動画の形で放送するのだ。
 つまり、見る娯楽である。
 娯楽を得られて視聴者はハッピー。再生数が増えて儲かればエントマもハッピー。つまり、誰も損をしない。あぁ、エンタメとは何て素敵なものなのだろう。
「でも、各地では悲しい出来事ばかり……あぁ、娯楽が足りない。生きていくためには、楽しさがいる。楽しくなければ生きる甲斐がないじゃない」
 目尻を押さえたエントマが、うぅ、と堪えた嗚咽を零す。
 もちろんウソ泣きだ。
「そこでこの私、エントマちゃんは考えました。娯楽が足りないのなら、増やしてあげればいいじゃない。エントマChannelで宣伝してあげればいいじゃない。恩を売って、独占配信の契約とか結んじゃったらいいじゃない」
 独占。
 なんと素敵な響きだろうか。
「さて、ここのオアシスはラサの大商人、パンタローネさんが買い上げた土地だよ。美味しい水と、美味しい牧草が茂るって言うので、なかなかいいお値段がしたみたい」
 オアシスの購入には、大きな金が動いている。
 商人が大きな金を支払ったのだ。つまりは、それ以上の金銭を設ける算段があるということ。
「オアシスを中心に、半径1キロほどの範囲に牧草が生い茂ってるよね? これ、オアシスと牧草地をぐるりと囲むようにして、柵を張り巡らせてるの」
 なぜ、柵を用意するのか。
 牧草地の中に外敵を入れないため。そして、牧草地の中にいる生き物を外に逃がさないためだ。
 だが、牧草地には何の生物の影も見えない。
「実はね、ここで馬を飼育する予定なんだけど……捕まらないんだよね。馬」
 砂漠の馬は力強く、体力もある。
 人の手では、1頭を捕獲するのも容易ではないのだ。
「ここで飼育した馬に、障害物レースをさせたり、競争させたりするわけよ。そして、お客さんは自分の推しの馬を応援する。勝ち馬にお金を賭ける」
 エントマとパンタローネが企画するのは、そう言う競技、そう言う娯楽だ。
 ある世界では、それを“競馬”とそう呼んだ。
「そのためには馬がいる。馬がいなきゃ、始まらない。だったら、馬を捕まえればいい! 誰が? 決まってるでしょ、君たちだよ!」
 というわけで。
 一行は、馬の捕獲に乗り出した。
 いいように使われている気がしないでもない。

GMコメント

●ミッション
馬×7頭の捕獲

●周辺に生息している馬……と、それに類する生物たち。
・馬
馬。哺乳綱奇蹄目ウマ科ウマ属。
栗毛、鹿毛、青毛、芦毛、粕毛、駁毛、月毛、河原毛、佐目毛、薄墨毛、白毛など毛色は多種多様。のんびりしている馬もいるし、人と見れば喧嘩を売って来る馬もいる。

・ロバ
哺乳綱奇蹄目ウマ科ウマ属ロバ亜属。
馬に似ているが馬ではない。馬に比べるとのんびりしている個体が多い。

・ラクダ
哺乳類ウシ目ラクダ科ラクダ属。
馬ではない。背中にコブを有し、非常にタフ。荷運びに適している。

・カトプレパス
牛に似た魔物。
常に地面を見つめており、動きは鈍い。
カトプレパスの瞳を見た者に【石化】を付与する。
馬が合うのか、馬と一緒に行動していることが多い。牛なのに……。

●フィールド
ラサの砂漠。
オアシスを中心とした牧草地。
オアシスの水を求めてか、それとも草を求めてか、周辺の砂漠には馬(および、馬に類する何か)が多く生息している。
隠れる場所のない砂漠を探索し、馬を捕獲するのが今回の目的となる。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】エントマに雇われた
エントマに呼びつけられました。馬の捕獲に協力的です。

【2】馬を捕まえに来た
エントマの依頼とは別件で、馬の捕縛に訪れました。
場合によっては、馬の争奪戦が発生します。

【3】馬に救われた
砂漠で道に迷っていたところを馬に救われました。
馬との信頼関係を築きやすいです。


強い馬を手に入れよう
何らかの方法を用いて、牧草地に馬を増やしましょう。
なお、今回の依頼では馬以外の生物も馬としてカウント可能です。
※珍しい馬だと言い張ります。

【1】交渉する
話せば分かります。
対話を通して、馬の捕獲に尽力します。

【2】力づくで捕縛する
野生の動物を従えるなら、実力を見せつけるのが一番です。
追いかけ、首に縄をかけ、馬を捕獲します。

【3】実力を見せつける
馬に負けるイレギュラーズではありません。
馬を挑発し、走りで勝負します。相手は四駆ですが、真剣勝負に脚の数も種族の違いも関係ありません。

  • 砂漠で遊ぼう。或いは、馬を捕まえよう…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月30日 22時15分
  • 参加人数7/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
雛鶴・星乃叶(p3p011020)
幻想の冒険者

リプレイ

●馬を捕まえよう
 エントマ・ヴィーヴィーは困惑していた。
「え、何それ? 馬? 馬、かなぁ?」
「タツノオトシゴですの。遠い海からタツノオトシゴの魔物で、もちろん水陸両用ですの」
 『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が連れているのは、体長2メートルほどもある巨大なタツノオトシゴである。
 いかにも狂暴そうな目をして、じろりとエントマを睨んでいた。
 鼻先の長いその面構え……なるほど、確かに馬に似ていると言えば似ている。
「陸の皆様は、タツノオトシゴのことを、海馬と、おっしゃいますけれど……わたしから見れば、馬こそが、リクタツノオトシゴですの……!」
「いやぁ……いやぁ。タツってたしか竜のことじゃないっけか」
 馬じゃないじゃん。
 とは言ったものの、ここは砂漠の真ん中にあるオアシスだ。砂漠にタツノオトシゴを放すわけにもいかない。
「とりあえず、オアシスに放牧しようか」
 珍しい馬と言い張れば、きっと雇い主も納得してくれるはずだ。そう信じることにしたエントマは、オアシスの方を指さした。

 オアシスの畔に人影が2つ。
「慣れたつもりでも砂漠はやっぱり怖いね」
「えぇ、本当に。でも、賢い馬にあえてよかったわ」
『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)と『祝福(グリュック)』エルス・ティーネ(p3p007325)は、オアシスの水で喉を潤し、砂だらけの顔を洗っていた。
 2人がオアシスにやって来たのは、今からおよそ20分前。
 砂漠を彷徨い歩いていたところを、馬に救出されたのだ。
「さっきの馬はどこに行ったのでしょうか。ここを牧場にするということですし、勧誘できれば……」
「とはいえ、馬に対して無理強いをするのはなんか違う……の、よね」
 2人の言葉がピタリと止まる。
 ぎょっ、と驚いたように目を見開いてウィリアムとエルスは動きを止めた。2人の横を通過して、水に飛び込むタツノオトシゴを見たからだ。
「……今のは?」
「馬……かしら?」
 否、馬に似ているが、馬ではない。
 タツノオトシゴである。

「では皆さん。気を取り直して……今日の任務は馬の捕獲です! ここの牧場で馬を育てて、レースをさせるっていうのを予定してるんで、なるべく早くて強そうな馬を捕まえてください!」
 オアシスの外れに人を集めて、イフタフは声を張り上げる。
「早くて強そうな……馬」
 どこかぼーっとした様子で、『星夜乃雫星』雛鶴・星乃叶(p3p011020)はエントマの言葉を復唱した。
 ぼーっとしたまま、星乃叶は視線をオアシスへ。
 水面に顔を覗かせたタツノオトシゴを見やる。
「あれは……タツノオトシゴだよ」
 珍しい馬と言い張る予定だ。
 捕獲目標数は最低7頭。タツノオトシゴをカウントするなら、後6頭を捕まえればいい。
「馬をとっ捕まえてくればええんじゃな! 特盛カツ丼3つで手を打つぞい♪」
 早くて強い馬を捕まえるのは大変だ。だが、仕事の内容自体は至極単純なもの。『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)は呵々と笑って、砂漠の方へ歩いて行った。
「強い馬と言われても、馬の強さも色々だから難しいね」
 その後に『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)が続く。目的は理解しているものの、なかなか骨が折れそうな予感がしているのだ。
 その表情は少し暗い。
 そんなフォルトゥナリアの肩を『淡い想い』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)が軽く叩いた。
「何とかなりますよ。巨大化した野菜の馬の相手ならした事がありますから」
「うん。うん!? 何って?」
「野菜の馬です。きうりとか茄子とか、そういうのです」
「それ、馬じゃなくて野菜じゃない?」
 夏の季節になるとよく見かける馬だ。
 どこかの会長が乗っているのを見た覚えがある。

●馬を探して
 砂漠に生息する生き物は、何も馬ばかりではない。
 例えば、ロバ。
 例えば、ラクダ。
 例えば、カトプレパス。
 オアシス周辺には、馬に似ているが馬ではない生き物が多数、生息しているのだ。
「食欲旺盛なリクタツノオトシゴですの」
 砂漠の真ん中。
 中腰に構え、両手を左右に伸ばした姿勢でノリアが周囲を見回した。
 ノリアの周りを囲むのは、10匹近いラクダとロバの群れだった。砂漠のあちこちに散らばっていたラクダやロバだが、どういうわけかノリアの方に集まって来た。
 最初は1匹か2匹だった。
 いつの間にか、5匹ほどに増えていた。
 そして、今は10匹ほどにまで増えている。
 最もノリアに近い位置にいるラクダなど、だらだらと涎を垂らしているではないか。おそらく、ラクダやロバは飢えているのだろう。
 絶好の餌場だったオアシスと、その周辺の牧草地が、今は柵に囲われていて出入りできない状態だからだ。
「ですが、そう易々と食べられてはあげませんの」
 半透明の尾をくねらせて、ノリアが両の拳を胸の前に構えた。
 ファイティングポーズ。
 細い腕では些か迫力に欠ける。ロバやラクダは怯まない。
 怯まないが、ノリアの闘志は理解したのだろう。
 前脚で地面を掻いて、頭の位置を低くする。
 頭突きを放つ予備動作だ。
「来るなら来い、ですの!」
 砂漠を悠々と踏破する強靭な脚力を活かした頭突きは、さぞ強烈だろう。
 だが、ノリアとて歴戦のイレギュラーズ。
 ラクダやロバの10匹程度、物の数ではないのである。

「砂漠だと……星がきれいに見えそうですね」
 どこか呆とした様子で、星乃叶が空を見上げていた。
「ブルル」
 星乃叶の隣には、牛に似た巨大な生き物がいる。星乃叶が空を見上げているのとは正反対に、牛に似た生物……カトプレパスは、地面をじぃと見つめていた。
 のんびりとした気性なのだろう。
 星乃叶も、カトプレパスも。
 ある種のシンパシーをお互いに感じているのかもしれない。
「おぉい!」
 空を眺めていた星乃叶を呼ぶ声がした。
「いつまでも空を眺めておらんで、スタートの合図を出してくれんか?」
 星乃叶を呼んだのはニャンタルだ。
 星乃叶たちから、200メートルほど離れた位置に立っている。
 その隣には、立派な体躯の黒馬がいた。
「……あ」
 思い出した、という風に星乃叶は手元に目を向けた。
 星乃叶が片手に提げているのは、1本のロープだ。
 カトプレパスの手を借りて、ピンとロープを伸ばす。
 それから、ゆっくりと星乃叶は片手を上へ。
 
「はじめ」
 そう言って、星乃叶が腕を振り下ろす。
 スタートの合図だ。
 ニャンタルと黒馬は同時に地面を蹴って駆け出す。
 目指すはニャンタルたちのいる位置……つまり、そこがゴールである。
「速い者はどの世界線でも優良児! かっこよくモテモテじゃからな!」
 黒馬が太い四肢で地面を蹴って、疾走している。
 だが、ニャンタルも負けていない。地面に手を突き、四足疾走。馬と並ぶその速力はかなりのものだ。
「4速勝負じゃ!」
 ニャンタルと黒馬が行っているのは短距離走だ。

 時刻は少し巻き戻る。
 星乃叶とニャンタルが砂漠で出会った1匹の黒馬。
 鼻息は荒く、眼つきは鋭い。
 並々ならぬ迫力と、心身の強さを感じた。そんな黒馬をオアシスの牧場へ迎え入れることが出来たなら、きっと人気の馬になる。アイドルホースと言うやつだ。
 ニャンタルはそう確信した。
 だから、黒馬を捕まえようとした。
 当然、黒馬は抵抗した。荒い仕草で地面を蹴って、ニャンタルに襲い掛かろうとしたのだ。
 だが、そうはならなかった。
「背が高いね。星を見るのに、あなたみたいな馬がいたら便利かな?」
 興奮している馬の前に星乃叶が立って、その鼻先に触れたのだ。
 突然の行動に、馬もニャンタルも驚いた。そして、威勢を挫かれた。
 それから、星乃叶と黒馬の間にどのようなやり取りがあったのかは分からない。だが、気が付けばニャンタルと黒馬は、走りで競うことになっていたのである。

 ニャンタルと黒馬のレースを、遠目に眺める者たちがいた。
「速い……ですね。砂漠の馬とは、これほどですか」
「えぇ。動物の事に関してはまだまだ素人だからこれを機に学びを得たいわ」
 ジョシュアとエルスだ。
 砂を蹴散らし、大地を揺らし、力強く、黒馬が駆ける。その姿はまるで、砂漠に吹く黒い風のようだ。
 だが、ニャンタルは黒馬と並走している。
 歯を食いしばり、けれどどこか楽しそうに。
 黒い馬と互角に競い合っていた。

 速い。
 ニャンタルは横目で黒馬を見た。
 躍動する筋肉、風になびくたてがみ。首をまっすぐ前に伸ばして、その巨躯はまるで1本の黒い矢のようだ。
 速く走ることだけに特化したかのような個体だ。
 これほどの馬と競い合えるのは、運が良かった。
「じゃが、負けてはなんの意味もない!」
 脚力だけで言うのなら、きっと黒馬の方が強い。
 だが、ここは砂漠だ。
 黒馬が大地を蹴る力は、砂に吸収されて分散している。地面を蹴り付ける度に、黒馬の蹄が砂に沈む。
 そこに付け入る隙がある。
 なぜなら、ニャンタルは軽いから。
 ニャンタルの四肢が、砂に沈むことは無い。
「お前はなかなか速いが……残念! 最強は我じゃぁ!!」
 ラストスパート。
 心臓が跳ねる。限界まで酷使した四肢に痛みが走る。
 けれど、まだ走れる。
 心が折れない限り、ニャンタルの足は止まらない。
 かくして……。
 先にゴールテープを切ったのは、ニャンタルだった。
 黒馬との差はわずか7センチ。

 1頭の馬と、フォルトゥナリアが向き合っている。
 白い馬だ。
 おそらく雌の馬だろう。その瞳は優し気で、その気性は穏やかだ。
「えっと、言葉……分かるかな?」
 コクン、と白馬が頷いた。
 賢い馬だ。
「それじゃあ、ちょっとお願いがあるんだ。まず、君にはあそこの牧場に住んでもらいたいんだよ」
 そう言って、身振り手振りでオアシスの牧場を指し示す。
 フォルトゥナリアの視線を追って、白馬はオアシスの方を一瞥した。
「毎日の食事と身の安全は保証するよ。その代わりに、定期的に競馬に出てもらいたいんだ」
 競馬が何かを、白馬はきっと理解していない。
 だが、毎日の食事と身の安全には幾らかの関心があるようだ。
 鼻を鳴らして、考えるような素振りを見せた。
「自然よりは死ににくい......はず。他の要望もできるだけ叶えて上げる用意はあるけど」
 1歩、白馬はフォルトゥナリアに近づいた。
 鼻先をフォルトゥナリアの髪に近づけたのは、臭いから彼女の言葉に嘘が無いかを判断しようとしているからか。
 どうやら、交渉成立までにはもう暫くの時間が必要そうである。

 馬は元来臆病で、そして警戒心の強い動物だ。
 その広い視野で周囲の様子を観察し、その敏感な嗅覚と聴覚を駆使し、外敵の接近をいち早く察知する。
 そして、その自慢の脚力であっという間に駆け去っていく。
「でも、懐いた相手には犬のように従順で、1度覚えた顔を忘れることはない……だったかな」
 砂上に座したウィリアムは、そんなことを呟いた。
 ウィリアムの目の前にいるのは、栗毛の馬だ。
 砂漠で見かけたどの馬よりも体は小さい。だが、決してみすぼらしくはない。むしろ、小さな体には不釣り合いなほどに、しなやかな……まるで、肉食獣のような筋肉が備わっていることが見て取れた。
 そして、その優しい知性を秘めた瞳には覚えがある。
「良かった。また、会えたね」
 砂漠で遭難しかけていたエルスとウィリアムを、オアシスにまで導いてくれた馬である。
 つまりはウィリアムの恩人……否、恩馬だ。
 馬の方も、ウィリアムに覚えがあったのだろう。
 身体の調子を案じるように、優しい瞳をウィリアムへ向けた。
「あぁ、身体の方は大丈夫。水も飲めたしね。それより、君にお礼がしたかったんだ」
 ウィリアムの意思は、栗毛の馬に通じている。
 ウィリアムに敵意が無いことも。
 だが、一定の距離は保ったままだ。
 ウィリアムは人で、相手は馬。
 1人と1頭の間にある2メートルの距離は、種族の違いによるものだ。
「はは、警戒心が強いな、君は。まぁいいさ。それより……そうだ、うちの人参食べるかな?」
 持参した人参を、馬の方へと差し出した。
 少しだけ迷う素振りを見せた栗毛の馬だが、やがてゆっくり、少しだけ警戒している様子で、ウィリアムの持つ人参へ前歯を突き立てるのだった。

●牧場の始動
 1頭、2頭……次々と馬が、オアシスへと入って行った。
 その様子を眺めながら、ジョシュアはふと思い立った疑問を、エルスへと投げる。
「砂漠で迷子になっていたそうですが、何をしていたんですか?」
「砂漠をうろうろしていた理由? 私の領地、ティーネ領マジア地区で農業を始めたのだけれどね。そろそろ畜産関係も強化したいと思って、馬を探していたのよ」
 黒馬、白馬、栗毛馬、ロバにラクダにカトプレパス。
 オアシスの牧場に加わった馬は、これで合計7頭だ。
「目標の数には到達しましたね」
「最初の、タツノオトシゴを馬にカウントするのなら、ね」
 ついでに言うと、ロバとラクダとカトプレパスも馬ではないが。
「エルスさん、どうしますか? 自分ように1頭ぐらい捕まえますか?」
「うぅん? でも、無理強いをするのはなんか違うのよね……優しく接したいわ」
「でしたら、宥めたり野菜をあげたりしてみましょう」
 野菜なら沢山用意しています。
 そう言って、ジョシュアは布の袋を持ち上げた。
 馬の好物である人参やバナナはもちろん、茄子やきうりもばっちり用意されていた。

 砂漠が夕日に染まるころ、エルスとジョシュアは2頭の馬と遭遇した。
 片方は老いた雌の馬。
 もう片方は、生まれて間もない子供の馬だ。
 親子……というわけでは無いのだろう。雌馬の方は高齢に過ぎる。
 だが、2頭の関係は親子に近しい。
 ぐったりとした老馬に、仔馬は寄り添い目を閉じている。
 そこには確かに“愛”がある。
 けれど、きっと雌馬はもう長くない。
 寿命、だろう。
 最後の時を邪魔してはいけない。
 そう考えたエルスとジョシュアは、離れた位置から2頭の様子を見守っていた。
「1頭きりになった後……あの子は、この砂漠で生き残れるかしら」
 手にした人参を一瞥し、エルスはそう呟いた。
 少しだけ思案した後、ジョシュアは苦い表情を浮かべる。
 ラサの砂漠は過酷で危険だ。
 弱い生き物から順に死んで、喰われて、次の生命の糧になる。弱肉強食の自然の摂理。当然に、人もその円環から逃れられない。
「大きくなるまで、暫く時間がかかるわよね。ジョシュアさんは、馬を手に入れたら、どうしたい?」
 エルスは問うた。
 老馬は、つい今しがた、静かに息を引き取ったようだ。
 夕焼け空に、仔馬の哀しい嘶きが響く。
 一瞬だけ、辛そうな表情を浮かべてからジョシュアは言った。
「久しぶりに背中に乗りたいです。景色が高くなりますし」
 馬の背中から見る景色は、とても広くて気持ちがいい。
 馬の鼓動を感じながら、渇いた風を浴びて走るのは気持ちがいい。
「だったら、大きくなるまで育ててあげなきゃ駄目よね」
 老馬が亡くなったことを、もう二度と目を開かないことを、仔馬は知っているのだろう。
 しばらく、傍に寄り添っていた仔馬だが、やがてゆっくりと立ち上がる。
 それから仔馬は、エルスとジョシュアの方を向いた。
 泣いているような潤んだ瞳だ。
 けれど、強い意思を秘めている。
 老馬の遺体を守っているつもりだろうか。
 その瞳はもう、守られるだけの仔馬のそれでは無かった。
「落ち着いて。私たちは、あなたに危害を加えないわ」
「それに、そちらの遺体にも……埋葬ましょう。丁寧に」
 そう言って2人は、仔馬から数メートルほど離れた位置で足を止める。
 そんな2人を値踏みするように、仔馬はじっと見つめている。
 やがて……。
 空に一番星が昇るころ。
 1歩、仔馬は2人の方へ近づいた。
 

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
馬7頭(珍しい馬含む)の捕獲に成功しました。

リザルト
巨大タツノオトシゴ
黒毛の馬
白毛の馬
栗毛の馬
ロバ
ラクダ
カトプレパス

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