PandoraPartyProject

シナリオ詳細

セブンカラーハピネスフラワー

完了

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●海洋・マリンノーツにて
「いい天気だな」
 悪霊の自分には少々いい天気過ぎるくらいだ、クウハ (p3p010695)は手で目元へ日差しを作り、日の光を遮った。サングラスを用意するべきだっただろうか。
「日傘いるかい?」
 気やすい声に、クウハはイズマ・トーティス (p3p009471)をふりかえった。
「そんなもん持ち歩いてんのか?」
「そういうわけじゃないけど、この時期、ここは傘が必須だからさ」
 ほらあそこの店で売ってるよ。そう言うイズマの背後から、さざ波の音が聞こえる。イズマはここマリンノーツの領主でもある。烙印後遺症からの快気祝いに、いまいちばん夏を感じられる場所をというクウハの要望を受けて、イズマが招待したのだった。
 そして招待を受けたのは、クウハだけではない。
「きれいな傘ばかりね。あのフリルが付いたのなんか素敵だわ。ねえ私の猫ちゃん、ひとつ買ってくれないかしら」
 うっとりとほほ笑むルミエール・ローズブレイド (p3p002902)は、至極当然と言いたげにクウハへおねだりをした。
「へいへい、どれにする?」
「これもいいけれど、こっちもいいし、迷ってしまうわ」
「早く決めろよ」
「そうせかすものじゃないよ、我(アタシ)の猫。乙女にとって、買い物で悩むことほど贅沢な時間はないのだし」
 ルミエールとクウハの……ここでは保護者とだけ言っておこう、そのモノ、武器商人 (p3p001107)は軒先に並ぶ傘を見上げ、ほうとつぶやく。
「へぇ、晴雨兼用だね。この五線譜が書かれているのはデザインもしゃれている。ひとつ買ってあげようか、ムスメ」
「ほな俺にもひとつ買うたってくださいよ」
 うちわでさかんに自分をあおいでいた火野・彩陽 (p3p010663)がため息をつく。
「こう暑いとやれんですわ」
「直射日光が厳しいナ」
「いかにも夏本番だ。心地いいが、冷たい飲み物が欲しい」
 相槌を打ったのは二人、しかして影はひとつ。赤羽・大地 (p3p004151)が彩陽と笑いあう。すでに店内へ入っているのは、フーガ・リリオ (p3p010595)と佐倉・望乃 (p3p010720)。
「望乃はどれがいい? 記念に一つ買おう」
「あの、おそろいだと、うれしいです」
「おそろいより、この大きなやつを買って……相合傘なんてどう?」
「ふわ……!」
 顔を真っ赤にした望乃が両手で頬を覆う。
「皆さん、悩むのもいいですけれど、そろそろ買った方がいいですよ」
 ジョシュア・セス・セルウィン (p3p009462)が南の空を見ている。
「ほら、雲が流れてきました。もうすぐ雨ですよ」
「スコールが来るな。傘を買って、茶店で一休みしよう」
 気を利かせたイズマが店員へ声をかける。裏口からカフェまで走っていく店員。傘を選び終わるときには、きっと9人ぶんの席が確保されるだろう。

●ぴたぽたり
「けっこう激しかったな」
「そうですね、フーガ」
 スコールが通り抜けた後、外を眺めれば、空はずいぶん明るくなっていた。乳白色の空から、思い出したようにしずくが落ちてくる。
「それで、これからどないするん? まさか茶ァしばいておしまいなんてことあらへんよな?」
 彩陽が水を向けると、イズマは最後のアイスコーヒーをちゅっと吸った。
「この先にフラワーパークがあるから、そこへ案内しようと思ってて」
「フラワーパークやて? お花見て喜ぶ年やないで?」
「そういうなよ。ただの花じゃない。最近俺の領地でみつかった新種を植えてるんだ」
 イズマは自慢げに、にんまり笑う。
「静寂の青だけあって、まだまだいろんなもんがあるんだな」
「そうね、猫ちゃんにふさわしいお花はあるかしら」
「あるとも」
 クウハとルミエールへも笑いかけ、イズマはパンフレットをとりだした。
「『セブンカラーフラワーパーク』へようこそ」
 赤羽が表題を読み上げ、大地が続く。
「……灰色の薔薇と、紫陽花?」
 一見するとしょぼくれた景色の表紙に、逆に興味をそそられたらしい。表紙へは、灰色の花弁の海と、どこかしんなりしてみえる草木が映っている。
「で、これが、こうなる」
 イズマがパンフレットを裏返した。
「おお」
 ジョシュアがうなった。そこに映し出されていたのは、同じ角度を同じ場所からとった景色だ。ただ、花の色が違う。うららかに咲き乱れる花の色は、万華鏡のよう。見事な色のバリエーションが、花畑にふさわしい。
「あァ、聞いたことがある。『幸運の兆しの薔薇と幸福の象徴の紫陽花』。へぇ、マリンノーツにもあったんだね」
「知ってるのか。さすがは武器商人さんだな」
 イズマは軽く拍手をすると、自分の傘を手首に引っ掛けたまま、パンフレットを開いた。
「このフラワーパークの花は、触れた人の持つ感情や願いによって色が変わるんだ。さらに園内には虹色の薔薇と七色の紫陽花が咲いていて、それを見つけた人は願いが叶うという言い伝えがある」
「すてきです……!」
 望乃が目を丸くする。それをみて、がぜんフーガもやる気をそそられたようだ。
「その特別な薔薇と紫陽花は、園内のどこにあるんだ?」
「わからない」
 スパっと返されて、フーガは肩を落とした。イズマは笑いながら続ける。
「どこに咲くかは、5分ごとに変わるらしいんだよ。幸運も幸福も移り気だろ。手入れをしている作業員ですら、見かけた人は少ないらしいんだ」
「なるほど……手に入れるには努力しなきゃならないってことか」
 フーガはうんうんうなずいている。望乃もつられて、こくこくやっている。
「すこし歩くな。背負ってやろうか。ルミエール」
「そうね、私の猫ちゃん。よろしく」
 全員の意思を確認したイズマは勘定を済ませて出口で傘を開いた。まだ雨は降っている。
「俺もフラワーパークへ訪れるのは初めてだ。今日は領主の立場を忘れて、ひとりの旅人として楽しみたいな」

GMコメント

みどりです。御指名ありがとうございました。
まずは快気祝いですね!おめでとうございます!
このシナリオの名声は海洋へ入ります。

天候は小雨。
それでは思い思いの傘をさして、セブンカラーフラワーパークをお楽しみください。

複数の場所を楽しみたい方は、プレイングへ番号を記入してください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


やること
 以下の選択肢の中から行動をざっくり選択して下さい。

【1】幸運の兆し、虹色の薔薇を探す
あなたは幸運を求めて園内を歩きます。薔薇の花を色づかせないと、どれがそうかはわかりません。棘には気を付けてね。

【2】幸福の象徴、七色の紫陽花を探す
あなたは幸福をより確かなものにするために園内を探します。どこかに咲いているのはたしかなのですが、見渡してもわかりません。くわしく探す必要がありそうです。

【3】園内を見て回る
特に探し物はせず、自然豊かな園内を見て回ります。あなたの触れた薔薇は、紫陽花は、どんな色に変わるのでしょうね。

【4】茶屋でまったりする
園内の景色を眺めつつ、茶屋でまったりします。豊穣から輸入された抹茶を使用した、ラテやチーズケーキなんかがあります。希望すれば本格的なお抹茶も?

【5】土産物店へ行く
虹色に光る薔薇のキーホルダーや、七色の紫陽花のポーチなんかが人気です。ほかにも、セブンカラーまんじゅう、どこかで見たような聖剣キーホルダー、なんの役に立つか分からないけどテンションが上がるペナント、あと傘も売っています。



あなたの傘がどんなものかを記入してください。

【1】傘をさす
ぴちぴちらんらん♪
あなたはどんな傘を選んだのでしょうか。

【2】雨に打たれる
それもまたよし。風邪は引かないあたたかさです。

  • セブンカラーハピネスフラワー完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年07月09日 22時05分
  • 参加人数9/9人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(9人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
※参加確定済み※
ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女
※参加確定済み※
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
※参加確定済み※
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
※参加確定済み※
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
※参加確定済み※
フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合
※参加確定済み※
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
※参加確定済み※
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
※参加確定済み※
佐倉・望乃(p3p010720)
貴方を護る紅薔薇
※参加確定済み※

リプレイ

 赤茶の瞳が傘を眺めている。右から左、左から右、二巡してあきらめたように遠くを見やる。『放逐されし頭首候補』火野・彩陽(p3p010663)は首をふる。
「悩んでんのカ?」
 彩陽はひょいと顔を横に向けた。隣へ立っていたのは、『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)。
「これだけ傘が並んでいれば、な」
「迷うのもよくわかるゼ、うんうン」
「いや、なんつーか選べなくて迷ってるうちに疲れてもーた」
「なんダ」
 赤羽が親指で自分を指さした。
「俺たちが選んでやろうかカ?」
「自信ありそうやな」
「大地クンにゃねぇビビッドな感性の持ち主なんでネ」
「その理屈で言うなら、俺のほうが若い分、センスがいいはずだが?」
「おっ、やんのカ???」
「おっ、やる気か???」
「自分で自分とケンカしなや。けど、せやなあ」
 彩陽は顎を引いて口元へ丸めた人差し指をあてる。せっかくの誘いだ。せっかくの遠出だ。思い出の品が欲しい。
「お願いしてええやろか? 代わりに俺がアンタらの傘選ぶわ」
 そいつでいこうとふたりはさっそく相手のための傘を選び始めた。人の為となると、俄然やる気が出るのが彩陽という男だ。大地と赤羽をチラ見しながら、彼らに似合いそうな柄を探す。傍らで赤羽と大地も傘の花畑へ迷い込み、小声で会話。
「何だろう、彩陽って喋り方とかのせいか、はんなりして見えるよな」
「はんなりしててモ、大地程間抜けじゃねぇだろうけどナ」
「……ほんとうに口が減らないよな、赤羽は」
「口達者も術師の技術ヨ。霊は丸め込んでなんぼだからナ」
「霊、か」
 彩陽もまた霊媒の素質がある。ゆえに、良からぬものから手招きされることもありうる。だから大地は魔を遠ざける丹色にした、赤羽は悪意をにらみかえせるよう蛇の目を選ぶ。丹色の蛇の目を片手に、彩陽の元へ戻る。
「ええところにきたなあ。決まったところや」
 選んだ傘を彩陽は広げてみせる。純白、その片隅に、光の下限で浮き上がる青紫の紫陽花。
「俺もかじった程度やけど、花言葉いうんがあるんやてな。この色は知的とか神秘的とか、辛抱強い愛とかあるんやって。ぴったりかなあって、どうやろ?」
大地がゆるゆると微笑む。
「ああ、それはうれしいな。俺たちからはこれだ」
「ありがとさン。大事に使わせてもらうゼ」
「蛇の目や。ありがとうな」
 そんなふたりを、あれいいなあという目で見ていたのは、『ずっと、あなたの傍に』佐倉・望乃(p3p010720)と『ずっと、キミの傍に』フーガ・リリオ(p3p010595)だ。
「どうする望乃?」
 愛する妻は頬を薔薇色に染めていた。
「き、きっとわたしも同じことを考えています」
「なら、五分で選んで、せーので見せっこしないか」
「五分じゃ足りません、十分ください」
「わかったよ望乃。それじゃいくよ、せーの」
 ぱっと左右に散った夫婦。フーガはじっくり悩んで、一本の傘を手に取った。望乃の髪は一重梅の色。ならば一段深く静かなこの臙脂の傘はどうだろう。広げてみると、ふちどりみえたものは透明なシートが貼られた桜模様だった。臙脂の深い傘から、小窓があいたように桜模様が並んでいる。これなんかいいかもしれない。
 望乃は望乃で、改めて傘の数の多さに圧倒されていた。
(フーガに似合う傘は、あるかしら……)
 この、深い緑色の、ちょっと大きめの傘。フーガらしいかもしれない。目立ちすぎず、それでいてすっぽりと包んでくれる。柄のところに入っている、細い五線譜も気に入った。トランペットを勇ましく吹く夫は、とてもとても頼もしい。
「はっ、もう十五分です!」
 あわてて駆け戻ると、フーガもやっと戻ってきたところだった。ふたりで顔を合わせるドキドキタイム。
「これがっ!」
「フーガっ!」
 同時に傘をさしだし、我に返る。
「あ、あはは」
「あは……」
 笑いあった夫婦は、今度こそと傘を相手へ渡す。
「どうかな?」
「すてき、です」
「お土産も見て帰ろうか」
「そうですね。あの」
 物いいたげな望乃につられて、フーガは顔をあげた。壁に輝くペナント。明朝体でセブンカラーフラワーパークへようこそと大書されている。
「フーガ、フーガ、このペナント、お家に飾っちゃだめですか? 寝室に飾ったら、夢の中でもここへ遊びにこれそうですし」
「ふふふ……望乃、ウキウキしてて可愛いなあ……いいぞ、買っていこうか」
 これでお部屋での楽しみがまた一つできるってわけだ。などとうそぶきながら進んでいたフーガが、がばっとしゃがみこむ。
「聖剣キーホルダー!?」
「へ?」
「スッゲエ、王族の儀礼式で見かけたのとそっくり……手のひらサイズとはいえこれをおいらも持つのは……」
 フーガは何やらぶちぶちいっていたが。
「いや、本物じゃないんだ。気軽に手に入れたっていいよな。これくださーい」
 切り替えたのか、キーホルダーとペナントをもって、望乃とともにレジへ向かう。
「ふふ、フーガ様も望乃様も仲睦まじくて、微笑ましいですね」
 そうだな、と『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が笑う。感想を述べた『淡い想い』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は、あらためてイズマと向き合った。
「クウハ様もイズマ様も回復され、皆様とここへ来られてよかったです。それに、仲間に入れてもらったのだと思うと嬉しくて……」
「暑いし天気も崩れやすい中、来てくれてありがとう。俺も初めて来たし楽しむが、ジョシュアさんにも楽しんでもらえると、俺も領主やってる甲斐があるよ。で、せっかくだから……」
 イズマは傘の棚を指さした。
「一本どう?」
「すてきですね」
 イズマとジョシュアは、並んで歩いていく。
「俺はさ、ジョシュアさんのイメージカラーはやっぱり緑なんだ」
「そうなのですね、僕もイズマ様に抱いているイメージカラーがありますよ」
 ふしぎそうな顔をしているイズマへ、ジョシュアは微笑みかけると、天上から下がっている傘を指さした。
「そうですね、あれ、とか」
「白?」
「清廉潔白、の白です。青のラインが二本はいっているところも、イズマ様らしいですね」
「そうかな」
「ええ、二は調和の数字。イズマ様へはぴったりです」
「なんだか照れくさいな、だけど選んでもらったからには、大切に使わせてもらう」
「ありがとうございます。さて、僕は一体何色なのでしょうか、イズマ様?」
「緑だ。あまりひねってなくて悪いな」
 イズマが取り出したのは、深緑から淡い緑へ、先にかけてグラデーションになっている傘だった。落ち着いたボタニカル模様が彩りを添えている。
「いいえ、僕のために選んでいただいたのですから、これは世界に一本だけの傘です」
 にっこり笑うジョシュアへ、くすぐったげな笑みをイズマも返した。
『闇之雲』武器商人(p3p001107)は、『永遠の少女』ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)と、『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)の頭へ手を置く。ほっそりとした、それでいて骨ばっており、男とも女とも判じかねるひんやりした手だ。
「我(アタシ)の猫、その瞳に合わせて緋色の傘とかどうかな?」
 武器商人が頭においていた手をあげて、軽く手招きすると傘のほうが飛んできた。風に吹かれているかのようにたゆたい、空中で静止する。
「これはどうだい、我(アタシ)の猫。かっこいいと思うのだけれど」
「ああ、黒の縁取りが全体を引き締めているな」
「お眼鏡にかなったかい、よかったよ。あとねえ、じつはこれ、雨に濡れると猫の足跡が浮き出るの。こういうの愛らしくて好きなんだよね。ついでだ」
 指先で傘の内側をなぞると、眠たげな目をした黒猫が現れた。そのまま丸まって眠り込んでしまう。
「ヒヒ、雨に触れれば目を覚ますよ、そういう猫なんだ」
「父様」
 愛娘が武器商人の袖を引っ張る。
「もちろん忘れてやしないよ、ムスメ」
 大切な愛娘の頭を軽く叩き、前から目をつけていた晴雨兼用の傘を。
「すてきね、私もこれがいいと思っていたの」
「そうだろうそうだろう。五線譜にも魔法をかけておこうね。ほら、雨に打たれると、音符がぴょんと跳ねる傘だ」
「ありがとう父様」
 じーっと、眷属ふたりが武器商人を見ている。
「慈雨のは?」
「あァ、我(アタシ)のはいらないよ」
 乙女と猫はながーくためいきをついた。予想外の反応に、武器商人はきょとんとしている。
「どうしたんだい、ふたりとも」
「……言うと思った」
 クウハはかぶりをふった。ルミエールが愛くるしくこくびをかしげながら武器商人を見上げる。
「用意していたのよ。こんなこともあろうかと」
 ルミエールは薔薇と猫の柄の傘を、武器商人へさしだした。
「こんな大切なもの、もったいなくて使えないよぉ」
「……それも言うと思った」
「しかたない父様ね。でもそんなところがまた、愛おしい。別の雨の日にでも使って頂戴な。今日は紫苑の月が父様を傘にいれてあげて」
 いいこと? と、ルミエールはクウハを見る。
「私の猫ちゃん。父様を決して濡らさないでね?」
「ご命令通りに、お姫サマ」


 園内へ出たイズマはそっと薔薇へ触れた。青く変わる薔薇。
「たしか、青い薔薇も幸運の象徴だっけか」
 花言葉はたしか、奇跡。だとしたら自分は、幸運の星の元へ生まれついたのかもしれない。なんて思えばすこしばかり愉快だ。これまでの道のりはけして楽しいばかりではなく、くやしいこともたくさんあったが、それでも今日のようにのんびりした日を友人たちと過ごすことができるのは、やはり幸運なのかもしれない。
「……俺は、恵まれているのかもしれない。花は、どうだ? ここで咲くのは好きか? どんな色になることが多い?」
 植物と意志を疎通させながら、イズマはぶらぶらあるく。幸運も幸福も、気まぐれだ。園の何処にあるかもわからない。ならば、近寄ってくるのを待とう。それもまたひとつの、チャンスの掴み方なのだ。

 耳にする雨の音は、まるで楽の音。
 フーガと望乃は並んで歩く。
「思い出に、見つけたいですね。どちらか片方でいいですから」
「望乃はそんな弱気でいいのか? おいらはどっちも見つけるつもりだ」
「フーガ……ええ、そうですね。私もそうします。必ず見つけてやりますよ」
「おおすごい気合だ。望乃が、がんばるんだ。おいらも気を引き締めてとりかかるか」
 でも、本当は。だけど、本音では。
 見つからなくともいいのです。見つからなくてもいいんだよ。
 だって。なぜって。
 こうしてふたりで過ごす時間こそが、なによりも宝物だから。
 寄り添って歩くふたりの顔に憂いはない。同じ時を味わい、同じ歩幅で大地を踏み、同じことを考えているなどとおくびにも出さず、本当のことは心へ秘めて、ふたりは歩いていく。
 雨のヴェールが、祝福するようにふたりへ降り注いでいた。

「薔薇、色変わるんよな。どんなんやろ? 大地は?」
「お、俺はピンクだ」
「赤羽様が触るとまた違った結果になるのカ? どうなんだ?」
 赤羽が触れた薔薇は、真紅に染まった。
「情熱の赤カ、いいねエ~」
「ピンクの花言葉、なんだったかな」
 大地が真剣に考え込んだので、つられて彩陽も頭をひねる。
「感謝・しとやか・上品・感銘、ですよ」
 ジョシュアが歩み寄ってくる。
「何事にも身を慎み、真剣に取り組む大地様ならではの花言葉ではないでしょうか」
「ふーん」
「ア、照れてラ」
「うるさい、赤羽」
「ククッ、大地クンは上品でしとやかだからナ? 罵詈雑言は吐かねえよナ?」
「やっかましいわ、ボケ。本当に何処から出てくるんだ、赤羽のその口の悪さは」
「仲良きことは美しきかな」
 ジョシュアは澄ました顔だ。彩陽はジョシュアへ話しかけた。
「アンタはどうやってん?」
「僕は……」
 触れてもいいのだろうか、自分は。万が一棘で傷がついたら……自分が傷つくのはいい。かまわない。けれど自分の毒の血がこの地を汚染してしまわないか。二度と花咲かぬ地にしてしまわないか。つい、そう考えてしまう。打ち沈んだ様子のジョシュアの手を、彩陽がにぎった。
「じつはまだ俺も触ってなかってん。いっしょに触れてみようや」
「え、いいのですか?」
「かまへんかまへん」
「で、では、そっと、お願いします。傷つけたくないので、植物を」
 緊張しながら、彩陽と手のひらを重ねて、ゆっくりと薔薇の茂みへ手を下ろす。
「……あ」
「白い薔薇だ」
「よかったナ」
 薔薇は真っ白へ変わった。偶然にもイズマへ選んだ傘と同じ色だった。
「清純・尊敬・相思相愛・約束、でしたね」
「くわしいな、ジョシュア」
「大地クンも見習ったらどうダ?」
「自由図書館へ帰ったらな」
 隣に立つ彩陽はゆっくりと目元を緩ませた。
「な? なーんも怖いことあらへんかったやろ」
「ええ、ありがとうございます。でも踏み出せたのはきっと、彩陽様がいらしたからです」
 感情で色が変わるなんて、かんがえてみれば自分の髪と同じだ。何も恐ろしいことなどなかったのだ。すこし、一歩前へ進めた気がする。
「感謝します、皆様、僕はこの先はひとりでいきます」
「わかった、気をつけぇや?」
「はい」
 ジョシュアはそっと立ち話をする彩陽と大地から離れた。心に住まうのはただひとり。人里離れた森で暮らす彼女のこと。
(あの方が心穏やかに過ごせる日々を願っています……)
 ふと顔をあげた先に、虹色。
「あ、待って!」
 ジョシュアは走り出した、けれど近づいたときにはその薔薇は灰色に変わっていた。
「……でも、僕の前に姿を表してくれたんですね。幸運さん」
 それだけでなんだか満たされた気分になって、ジョシュアは土産物屋へ向かった。
(あの方へのおみやげに傘を買っていきましょう。ミルクティー色に赤い薔薇柄のものがいいでしょうか)
 使い魔の猫の遊び道具になりそうなぬいぐるみはないだろうか。ジョシュアの心は浮き立っていた。

「幸運も幸福も、誰も彼もに追い回されて案外うんざりしてんのかもしれん。人気者ってのは苦労するよな」
 クウハは皮肉げに笑う。かすかな音とともに降り来る雨に閉じ込められて、武器商人とルミエールと、三人で園内を歩く。なに、武器商人の権能を持ってすれば事をなすのは容易い。あえてそうしない。そういうところも、ルミエールとクウハはよくわかっている。だから三人であてもなく歩く。小さな戯言と会話を積み重ねていく時間が楽しいから。
「もし虹色の花が見つかれば、慈雨はなんて願うんだ?」
「そうだねぇ、今は……我(アタシ)の傍に居てくれるコ達が、ずっと健やかで安らかに過ごせます様に、と」
「慈雨……」
「父様」
「もちろんそう在れるように努めるのが我(アタシ)の役目だが……願掛け程度にね」
 武器商人の手が薔薇の花を撫でていく。薔薇たちがオレンジに染まっていく。絆。それを意味する色に変わっていく。そのあとを続けて、クウハが撫でる。オレンジが濃くなっていく。
(愛する者が皆健やかに楽しく過ごせるように。それが……すぐに思いつく願いだが、我ながら悪霊らしくねェな)
 クウハは空を仰いだ。傘の向こうに透ける空は白い。明るい空だ。もうすぐ雨も止むだろう。
(どこで何を間違ったんだか。烙印騒動に片が付いてもなんだかんだと忙しない。特に……)
 クウハがルミエールと武器商人を見つめる。
(平然と無茶するやつも多くて参ったもんだ。……ルミエールは俺を贔屓したがるしな。俺は……)
 慈雨の眷属でいられて、もう既に幸福だ。不幸など感じるヒマがないほどに、愛情をかけ流してくれる。だったら……ふたりで永遠の眠りにつくのもそれはそれで悪くない。
「紫苑の月?」
 気がつくとルミエールがふくれつらで腰へ手を当てていた。
「考え事をしていたのね。乙女が傍らに居て上の空だなんて、悲しいわ」
「悪い悪い」
 ルミエールがオレンジの薔薇へ触れる。薔薇はすでに茜色だ。深い深い夕日の色だ。
「私の幸福、願い事。それは皆が幸福でありますように、それ以外なくってよ。けれど私の愛は平等じゃない。特別。えこひいき。それがない乙女なんてこの世にいるかしら?」
 その一輪を詰んだ彼女はくるりと武器商人とクウハを振り向いた。
「父様と紫苑の月が特別幸せでありますように。願わくば紫苑の月の献身が報われますように。悍ましい愛(呪い)に囚われた可哀想なヒト。……ええ、大丈夫。唯一と選ばれない運命に嫌気がさしたら、私が永遠に拐ってあげる。二人で眠るなら怖くないわ。そうでしょう、私の可愛い猫ちゃん?」「ああ」
 クウハは微笑する。心から。
「そうだな」
 オレンジの薔薇を従えながら、三人は歩いていく。武器商人は心のなかで思った。願わくば。我(アタシ)の可愛い眷属達。永く永く、傍に居ておくれね?

 お土産屋に寄ったらのはルミエールの提案だった。
「三人でお揃いのものを買って帰りたいわ。ブローチなんて如何かしら。離れていても傍に感じられるようにね。ねえ父様、私のお願いを聞いてくれる?」
 配るようにクッキーやチョコを見ていた武器商人は、ゆったりと口の端を持ち上げた。
「おまえがそれを望むなら、我(アタシ)はもちろん喜んで。ああ、でも、この紫陽花のペーパーウェイトも、悪くないね」
「ブックマークもいいんじゃないか。なんにせよ納得がいくといいな、ルミエール」
 三人で悩む時間、これもまた大切なのだと、乙女は心へ刻みつける。

「あの、フーガ」
 望乃が意を決したように夫を見上げる。
「帰り道は、相合傘をお願いしてもいいですか?」
「……望乃からなんて、うれしい。おいらのこの傘、ここですぐに叶うとは思わなかったな」
 さっそく望乃へ傘を寄せるフーガ、大切な妻が万が一にも濡れてしまわないように、その肩を抱く。

 まさかここで抹茶ラテが飲めるなんて。彩陽は驚きつつ、喜んでいた。
 向かいでは赤羽と大地が仲良くケンカしている。
「紫陽花のような練りきりだろう」
「薔薇のようにクリームが乗ったケーキダ」
「結局、どっちも見つからへんかったなあ」
 彩陽はふたりへ声をかける。二兎追う者は一兎も得ずってことかね、と。
「興味はあるけど、無理に探さなくてもいいかなって」
「そうなん?」
「だって」
 窓ガラスをコツリと叩いた大地が親しげな声をだす。
「なあ、赤羽」
「ン」
「ああやって、色とりどりの傘を手に、皆が一所に集まってる感じ。あれこそ、虹色の花に見えないか?」
「……ハッ、とんだロマンチストだなァ、大地」
「俺もそう思うよ」
 イズマがお抹茶を手に現れた。お抹茶なら練りきりだなと、大地が素早く注文し、赤羽に嫌味を言われている。
 ふいにイズマが顔をあげたので、大地も彩陽もつられて外を向いた。誰かがつぶやいた。
「あ、虹」
 あたり一面、虹色の薔薇、七色紫陽花。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

セブンカラーハピネスフラワー、最後にみんなみつけることができましたね。
職員さんも喜んでいらっしゃるのではないでしょうか。

またのご利用をお待ちしております。

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