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シナリオ詳細

<0と1の裏側>仮面の遂行者と偽りの竜

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●仮面の遂行者と偽りの竜
「――不快な臭いだな」
 と、仮面の男=サマエルは言った。いささかさわやかすら感じる印象の男であったが、しかしそこに感じるのは明確な嫌悪の表情であった。
 どこかひょうひょうとした様子すら感じさせる男が、ここまで嫌悪をにじませることは珍しい。
 というのも――ここが、練達の地。ローレットのそれではないものの、イレギュラーズ、特に異世界からやってきた旅人(ウォーカー)達の住まう地であったからだ。
 もちろん、ここは『表の練達』ではない。いわば、裏。これより降りる帳のうちに潜む、『神の国』。裏、と表現したことを知ったならば、サマエルは激高したかもしれない。こここそが、表である。真なる正義の地であるのだ、と。
「ROOなる不義不敬の箱庭を創造したのも、この国だったな」
 と、サマエルはその口元をゆがませた。ROO、特に正義(ジャスティス)国と呼ばれた場所では、不敬にも『神』の権能を模したイベントを行ったらしい。ワールドイーター、それは厳密には彼らの扱うそれとは違うものであったが、しかし。
「不遜にも神を騙るとは。我々の『絶対正義』を騙るとは。度し難く許しがたい」
 サマエルの激高は、彼の信仰に根付くものであったのかもしれない。絶対正義、正しき歴史を紡ぐ彼らの『神』。それを汚された。一度ならず、二度までも。
「――必ずや、この国に、正しきを、正義を、降ろさなければならぬ」
 そう、つぶやくサマエルの後ろには、恐るべき毒素を口から吐き出す、黒き竜の姿があった。
「おぞましき毒竜の残滓よ。お前は本来、この地において、すべてを毒に閉ざすべきであった」
 そう、言葉を紡ぐ。毒竜。黒き竜。それは、かつてこの地に降臨した――名を、ザビアボロス。
 無論、竜そのものではあるまい。その在り方も力も、あまりにも歪められていた。意志は持つまい。思考も。そしてその力が本人に遠く及ばぬとしても、この地に毒を布くことは、できるはずであった。
「聖遺物を核とし、生み出されたワールドイーター。偽・ザビアボロスとでも言うべき存在よ。
 その毒を以って、真にこの地を征服せよ」
 偽・ザビアボロスが、ゆっくりと息を吸い込んだ。そして、次に吐き出したとき、それは猛烈な瘴気とでも言うべき、昏く、おぞましい怨恨の毒に代わっていた。
 偽・ザビアボロスの口から吐き出された怨毒が、じわり、じわりと世界を侵食していった。無数の建物は毒素に溶けて、黒く溶けていった。人々は、液体のようなものに溶けて、ばしゃり、と地に染みていった。
 死ぬ。死ぬ。死ぬ。消える消える消える。偽りのものたちが生み出した光景が、おぞましき悪魔たちによって生み出された光景が、今黒き毒によって、正しくこの世界から消え去ろうとしている。
 ――これこそが、本来あるべき姿だ。
 このような悍ましき魔都は、消え去るべきであったのだ。いや、誕生すらしてはいけなかった。
「罪だ」
 と、サマエルは言った。
「おぞましき悪魔の都よ! お前たちは生まれながらにしての罪。原罪の都だ!」
 ぐずぐずに溶けていく世界を見ながら、サマエルは叫んだ。
「消えろ! 消えろ消えろ消えろ! 我らの正しき世界を汚染するごみどもよ!
 この毒に潰えるその姿こそが、お前たちにふさわしい……!」
 それは、怒りだ……サマエルの、怒り。自身の信じるものを冒とくされた怒り。自分の崇拝するものを冒とくされた怒り。それが、サマエルの表情を観にくくゆがめていた。
 偽・ザビアボロスはワールドイーターである。竜たるザビーネ=ザビアボロスを参考に生み出されたそれは、しかし多少の誤解を恐れず例えるならば、サマエルの怒りと怨嗟、憎悪の化身に間違いなかった。我が心を汚された憎悪に違いがなかった。それは、あまりにも身勝手なものであったが――。
「滅びろ――滅びるがいい! そして、この世界を真実として、この地に定着させる!」
 それは、間違いなく憎悪の宣言であった。

 ――イレギュラーズたちが神の国に侵入したとき、そこに『練達の面影は存在しなかった』。
「これは――」
 作戦に参加したイレギュラーズの一人が声を上げる。おぞましき、毒の沼に包まれた、破滅の光景がそこにある。
「おそかったじゃないか」
 そう、声をかけられた。身構えてみれば、目の前には、純白の仮面の遂行者が――サマエルの姿が、あった。
「みての通りだ――この地は亡ぶ。練達という地は、あるべくして、毒に塗れて消える。
 地球の文化で言うならば、練達とはソドムとゴモラだ。あるいは、バベルの塔かもしれない。
 不遜にも神に背き、冒涜の限りを尽くし、あるいは神に近づこうとしたがゆえに、こちは亡ぶ。亡ぶべきであった。
 これが、正しき景色だ」
 どこか確認するように、サマエルは言った。
「その破滅を回避した、お前たちローレット・イレギュラーズもまた同罪。
 正しき神の裁きを受けてもらうとしよう」
 サマエルが片手を上げると、空より黒き竜が飛来する。ザビアボロス。
「……竜か!? だが――」
 イレギュラーズの一人が、その竜をにらみつけた。今、まさに覇龍の領域で、竜たちと相対しているイレギュラーズたちだからこそわかる。
 これは、真なる竜にあらず。
「そう、まがい物だ。だが、再現としては充分だ」
 偽・ザビアボロスの胸の内に、黒く邪悪な光がともった。それが、汚染された聖遺物であることを、イレギュラーズたちは一目でさとった。
「なら、ワールドイーターか……!」
「いかにも。そして、この地のコアでもある。
 殺せるか? 偽りと言えど竜を?
 殺せるか? 我が怒りと憎悪を!」
 サマエルが構える。同時、偽・ザビアボロスが咆哮を上げた。
「来るがいい、悪魔どもよ! 此度は私も、紳士たれとはできぬ!」
 手にした聖盾がおぞましく輝く! その盾に記された聖痕が、お前たちの罪を見ていると嘯いているような気がした。
 いずれにしても、この敵を排除しなければ、毒に塗れた練達が被象され、帳が下りて世界を侵食する!
 止めなければならない! さぁ、イレギュラーズ達よ! 武器を手に取り、この強敵を打ち破るのだ!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 練達侵攻。その一。

●成功条件
 偽・ザビアボロスの撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 遂行者たちによる、練達のへの攻撃が始まった模様です。
 リンバス・シティより神の国へと向かった皆さんは、そこで『毒に侵され、崩壊し行く練達の姿』を見せつけられます。
 それは、遂行者サマエルが謳う『真なる練達の歴史』。
 悪魔である旅人(ウォーカー)・イレギュラーズたちの住まう魔都など――。
 特に、ROOで神の権能を再現しようとした罪などを、許すわけにはいかない……ということのようです。
 そして、サマエルは彼のバシレウス、ザビーネ=ザビアボロスのデータを基に、偽・ザビアボロスとでも言うべきワールドイーターを生み出しました。
 この偽・ザビアボロスを撃破し、この悪夢のような『神の国』を破壊しなければなりません。
 作戦結構エリアは、神の国・毒素に崩壊した練達。
 特に戦闘ペナルティは発生しませんが、このエリアにいる限り、PCは毎ターンの初めに『BS抵抗値補正=なし』で特殊抵抗判定を行います。この判定しに失敗したユニットは、『毒』系列のBSを付与されます。
 しっかり治療するか、毒無効などを持ち込むといいでしょう。

●エネミーデータ
 偽・ザビアボロス ×1
  偽りのザビアボロス。ワールドイーターで、彼のザビーネ=ザビアボロス(竜形態)を模しています。ちなみに、ザビアボロスの一族は、ほとんど竜形態の姿変わらない……というどうでもいいトリビアがあったりしますがさておき。
  見た目は竜ですが、ハードEX相当の敵になっています。つまり、倒せる可能性は充分にあります。
  高い特殊抵抗と、BSによるからめ手が得意。半面(オリジナルに比べたら)防御技術などが低く設定されています。
  フィールド効果などもあり、長引けば豊富なBSで雁字搦めにされてしまうでしょう。
  しっかりと回復を行うか、あるいは一気に最大攻撃をぶつけて倒してしまうか、といった戦法が考えられます。

 遂行者、サマエル ×1
  遂行者が一人。仮面の男です。
  天義の聖遺物の一つ、聖盾を持ち、高い特殊抵抗と防御技術を持ち合わせます。
  今回はタンク役としてふるまい、ヘイトなどを自分で受け持ち、偽・ザビアボロスのからめ手で皆さんを沈めてこようとするでしょう。
  今回も倒す必要はありません。メタ的なことを言えばここで撃破はできません。ある程度のダメージを受けると撤退するので、最小限のユニットでの足止めなどを行うといいでしょう。防無などの攻撃でダメージを狙ってもいいかもしれません。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <0と1の裏側>仮面の遂行者と偽りの竜完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年07月09日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ

●偽りのワルツ
 ――竜だ。
 竜がいる。
 かつて、この地を汚染しようと飛来した、竜。
 ザビアボロスと名乗った竜は、イレギュラーズたちの命を削るような激戦の末に、その目的を達することなく退いた。
 とはいえそれでも、竜を『倒す』ことはできなかった。
 ただ、追い返しただけなのだ。あの時は。
 その、竜が、ここにいる。
「いや――」
 『竜の嫌いな食べ物』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は、静かに息をのんだ。
「竜ではない、な。それは、わかる」
 そう、言った。
「如何に精巧に真似ようとも、如何に外面を取り繕うとも――そこにいるのは竜ではない。
 もし、あれに勝てないと思うのならば――それは私たちの心の幻影であり、それこそが奴の狙いなのだろう」
 マニエラが、そう断言した。
 目の間にいるのは、竜ではない。
 竜の姿をした、違う何かだ。
「……とはいえ。確かに、随分と強大な敵のようです」
 と、『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は静かに目を細めた。
「なにせ、あの気障男が随分と語気を荒らげて。
 自信と怒りがたっぷりなのでしょう。
 ですが、その怒りも空虚というもの。
 そもそも、旅人(ウォーカー)は、イレギュラーズは、この世界に呼ばれた存在。
 頭を下げてどうぞ元の世界にお戻りくださいとお願いする立場でしょうに」
 挑発するように言う瑠璃へ、サマエルは、く、とその口の端をゆがめた。
「その傲慢さ、やはり悪魔の如しか」
 だん、と、サマエルは大地に盾の先端を叩きつけるように降ろした。その盾の表面に描かれた歪なる聖痕。
「この秋霜烈日なる瞳は、すべての悪を見通す神の目である。
 練達なる悪徳の国は、不遜にも、我々の神の権能を悪戯に弄んだ! 仮想という偽りの世界とは言え、許されることではない!」
「ROOの話、ですね?」
 『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)が言った。
「ROOのワールドイーターは、その出自こそ異なりますが。
 確かに、現実のシミュレートを行っていた故の敵だったのかもしれません。
 ……なるほど、二番煎じになってしまえば、面白くもないのでしょうね?」
 珠緒は、あえてそう言ってみせた。サマエルは、言ってしまえばその言動すべてに仮面をかぶっているかのように感じられた。本心を、さらさない。普段の気障な態度すら、或いは仮面なのかもしれない。
 そうなれば、今の激高した様子は、ある種で彼の内面を見ることのできる一端かも知れなかった。そうなれば、そこをつついてやるのも悪くはあるまい。それは、珠緒だけでなく、多くのイレギュラーズがそう理解していたことでもある。
「無闇に取り乱されて……格が落ちて見えますよ?」
 冷たくそう言い放つ珠緒に、サマエルは怒りを抑えるように笑った。
「悪徳を為すものほど、己の醜悪さに気付かないものだ」
「貴方の『正義』を論破するなんて面倒なこと、ボクはしないわよ」
 『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が、珠緒の隣に立ち、そう言った。
「ただ自分達のエゴを押し付けてくるだけなんて、野蛮だなぁとは思うけど。
 だから今ここで、野蛮な貴方の碌でもない『正義』の結晶を粉々にして、その信仰を地べたに叩き堕としてあげるわ!」
「よかろう、やってみるがいい!」
 サマエルは吠えた。それに従うように、偽竜もまた、雄たけびを上げる。
「偽竜よ、偽りの神に仕える救世主気取りの相手としては申し分あるまい!」
「偽竜、か。確かに、偽物だ」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が静かに言った。
「正しき世界を作り出すために紛い物を使うような、お前こそが悪魔だろう。
 ザビーネさんを勝手に偽り、怒りと憎悪の道具にするのも止めてもらおうか。
 お前達が何を語ろうが、今あるこの世界が事実なのは変わらない。
 この地を塗り替えさせはしないぞ」
 構える。ゆっくりと――偽竜が吠えた。轟! 強烈なポイズン・ブレスが、一気に吐き出される――!
「ちっ、偽物でも、それなりってやつか!」
 『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)が声を上げた。たんっ、と跳躍する。足下を紫の色の霧が駆け抜けていく。世界を覆う、紫の毒――だが、それがクウハの体を蝕むことはない。
「本物の竜なら、この程度の加護は突破するだろうな。だから、それなり、なんだ――!
 攻撃は俺がかばう! 一気におとしちまえ!」
 クウハが叫んだ。うなづき、珠緒がその手を振るう。指揮者のように、先導者のように。己の速度に、仲間を連鎖させる。
「その絆、つなぐ」
 『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が、その両手を強く掲げた。その手のひらから放たれた魔力が、上空で星を編んで顕現させる。アイゼン・シュテルン。鋼鉄の星よ。
「紡いだ絆よ、星となれ。悪しきを貫く光を描け。招来せよ、数多の星よ」
 そのまま、力強くその両手を振り下ろす! その両手にいざなわれる様に、星は落ちた。次々と落着する星が、偽竜を、サマエルを、狙う――。
「星を落とすか、悪魔め。だが――!」
 サマエルが、その大盾を構える。
「起動(レディ)・展開(オープン)――『聖盾よ、子羊を守りたまえ(セイクリッド・テリトリィ)』!」
 叫びとともに、その盾から、強烈な光が放たれた。光は巨大な盾となり、サマエルと偽竜を覆う。エクスマリアの放った星と、光の盾が、衝突した! 両者は激しい光と衝撃を周囲にぶちまけながら対消滅!
「――やっぱり……!」
 『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)が叫ぶ。同時に、刃を以ってサマエルへと突撃! その刃を上段から叩きつけるように振り下ろした! サマエルは、盾ではなく、刃で受け止めた。盾を使うまでもない、と挑発するように。
「サマエル。貴方のそれは昔盗み出されたっていうコンフィズリーの聖剣と対をなす聖盾だね?」
「いかにも――オリオール家が代々継承していた、天義の聖盾!」
 だが、その聖遺物は、まがまがしき魔に汚染されたかのようであった。本来白亜の精神を現すかのような真白きデザインのそれは、醜悪な『聖痕』の記された魔に堕している。
「しかし、盗み出された、とは違うな。本来あるべきものの手にかえったのだ。我らが神。そして私の手に」
 サクラの剣技は、光のごとき鋭さに手、悪を焼く刃だ。だが、その光すら、おぞましくも白く輝く烈日の聖盾の前には、少しばかり力が足りないようである。
(……無効にしてるわけではない。少し――届かない!)
 サクラは舌打ちしつつ、今度は絶氷の剣技を叩きつけた。サマエルは、その力を見せつけるように、聖盾で斬撃を受け止めて見せた。届かない。少し。
「……聖盾の加護だね……!」
「いかにも! 貴様らの如し悪をはねのける、秋霜烈日の白亜! これこそが! 真なる天義の精神!
 ロウライトの娘よ! 貴様もわかるだろう!? 今の天義が、どれだけ堕落しているのか!
 絶対正義! 過ちを犯さぬ神の国! それこそが、我々の天義であったはずだ……!」
 いささかに熱のこもった言葉を投げかけながら、サマエルはサクラへと刃を振るった。サクラは、それを紙一重で『よけた』。違和感があった。だから避けられた。なにか――。いや! 今はよそ事を考えている余裕はない!
「そのしゅうそうなんたらっていう言葉、好きなのね?」
 『この手を貴女に』タイム(p3p007854)が飛び込む! その手に描かれた、呪印がほのかに光を放つ。光は刃を形成し、二人の騎士の間に割って入った。サマエル、サクラ、双方が後方へと飛びずさる。
「……聖盾を何とかしないと、直撃は難しいかもね」
 サクラがそういう。あるいは、聖盾を使う隙も与えぬほどの絶技で、貫くか。
「まかせて――とは言えないのよね。そっち方面じゃないから。
 でも、抑えることはできるわ。『わたしたちなら』!」
 そう、タイムが声を上げた刹那――! 飛び込んできたのは、まさに巨大な岩石か、暴走機関車か。否、それは巨体の英雄――『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ!
「またあったな、色男!」
 にぃ、と豪快に笑う。そのまま、ゴリョウはタックル! その前身から衝術を撃ち放ち、サマエルを吹きとばす!
「ち、ぃっ!!」
 舌打ち一つ、サマエルは聖盾を構えた。聖盾は強力な呪具(に変貌してしまったの)だが、しかしそれを支える腕は、あくまでサマエルのそれである。巨体を生かしたゴリョウの衝撃を抑えられるかといえば、確定とは言えまい!
 吹っ飛ばされるサマエルを、ゴリョウとタイムが追う。
「サクラ!」
 ゴリョウが叫んだ。
「あっちを頼む! 俺達でこいつは抑える!」
「わかった!」
 サクラが刃を握りながら、偽竜へと向かい走る。そこには、既に何人もの仲間たちが、偽竜と激しい戦闘を繰り広げている。
 サマエルと、偽竜。その相手への最善を頭の中で考える。その、切り替えの僅かな空白で、サクラは先ほどの『違和感』の正体に気付いた。
 サマエルの剣技は、よく訓練された、天義の聖騎士のそれに似ていたのだ。それは、サクラだから気づいた。サクラだから、とっさに避けられた――。
「けど、どうしてこんなにも、はっきりしない……?」
 静かにつぶやく。それは仮面の魔力なのかもしれない。思えば、既にサマエルの印象というものは非常にぼやけている。声も、何もかもが、誰かと照らし合わせて考えることができなかった。剣技も、今は茫洋とした霧の中に隠れ、その詳細を思い出せない。それでも、あの戦闘の一端で、サクラが感じたものは、確かに天義の剣に間違いない、と思っていた。
「……今は」
 つぶやいた。今は、偽竜との相手にすべてを注ぐべきだった。サクラは一瞬で思考を切り替えると、仲間たちのもとにはせ参じた。練達を守るための戦いは、こうして幕を開けた。

●偽竜戦
 偽竜が雄たけびを上げる。そのたびに、体を蝕むような、焼くような、毒が、病が、体を駆け巡る。
 その毒が、放たれた毒が、練達の一部を焼いた。無論、これは事実練達ではない。神の国なるまがい物に再現された、いわば偽りの練達の姿である。
「たとえ胸糞悪い再現度が低い紛い物でも、ここまでされて許せるわけがないだろう」
 マニエラはそう言った。許せなかった。遂行者が練達を憎む理由など知ったことではない。だが、彼らが憎み、怒る様に、マニエラもまた、この時激しい怒りを抱いていた。
 お前が練達を許さないというのなら、それでいいだろう。だが、練達は、私は、お前を許さない。この練達を汚し、下らぬ迷妄による上書きをもくろむお前を、私は、絶対に。
「許さない」
 マニエラが静かにつぶやき、その手を振るった。二つの魔道具が、主の指示に従うように光を放つ。
「対ワールドイーター竜滅戦。回復と弾はこちらで用意する。全力で竜殺しを頼んだよ」
 自分のなすべきことは、怒りに任せて刃をぶつけることではない。刃を振るう仲間たちを、渾身にてサポートすることだった。
 怒りは、消えずとも。しかし仲間にその怒りを託すことはできる。己の役割を十全に演じ、仲間たちを完全に調律することでできる、これは、マニエラの戦い。
「毒だろうとなんだろうと、全ての呪いを祓ってやる。私は貴様の存在を否定する。
 その意志を、皆に託す」
「託された……ッ!」
 イズマが跳躍する。その指揮棒のように剣を振るい、描く陣が魔力を蓄積する。
「まとめて狙う!」
 力強く振り下ろす。同時、描かれた陣から放たれる、魔力砲撃! 青の魔力が奔流となって踊るそれは、海洋の海の蒼か、空の蒼か。強烈なそれを、偽竜は己の翼で受け止めた。ザビアボロスのそれのような薄い皮膜は、しかし腐っても偽りでも竜か、直撃を受けて小爆発を起こすのみだ。
「ぎぃ」
 と、偽竜は鳴いた。イズマの魔力砲撃は、クリティカルとは言わぬまでも、相応の衝撃を残していたのだ。
「もしこれが本当にザビーネさんだったら」
 イズマはいう。
「届かないだろうさ……!」
 それは事実であった。もしこの偽竜が本物の竜であったならば、イズマ一人の攻撃でよろめかせることなどはできまい。何人もの攻撃が合わさって、ようやく小さな一矢が突き刺さったはずだ。
「お前たちは、上っ面しか真似られないんだ。竜の脅威も、意思も……!」
 グアァ、と偽竜は吠える。竜に及ばぬとはいえ、油断ならぬ相手であることだけは事実だ。偽竜がその体をうっそりと持ち上げると、麻痺の毒をのせた甘ったるい臭いの毒を吐き出した。イズマがとっさに口をふさぎ、飛びずさる。
「搦め手、か」
 エクスマリアが言う。
「ならば、マリアたちは、真正面から、押しとおる……!」
 にらみつける――真正面から。視線/死線。狙えば逃げられぬ、蒼の斬撃。
 仮に相手が本物の竜だったとしても、エクスマリアはそうしただろう。正面から、まっすぐ――その小さな体を精一杯大きく見せて、立ちはだかっただろう。
 そういうものだ。ローレットとは。
 ちっ、と空間が避ける音が聞こえた。エクスマリアの視線が青の斬撃を描く。ある種機械的な音すら伴って、偽竜の体が空間後と切りつけられる。ぎゅおお、と偽竜はないた。すかさず、瑠璃が追撃を見舞う。
「私は横から失礼します――ですが、そのでかい図体、当てやすいのが悪い」
 瑠璃は、少しだけ意地悪気な笑みを浮かべると、忍者刀を振るった。速度をのせた一撃。侵略の斬。暗殺にして闘争の、瑠璃の斬撃が偽竜の鱗を切り裂き、肉を裂いだ。ぎ、あああ、と偽竜が雄たけびを上げる。そのまま、その図体が数メートルと吹っ飛ばされた。
「おや、図体の割には軽いようで。
 中には主の妄想(ユメ)でも詰まっているのでしょうか。
 ならば、御しやすい――!」
 瑠璃は再度、斬撃を振りぬいた。偽竜の図体が再び吹っ飛ぶ。そこへ、エクスマリアの斬撃が、そしてイズマの砲撃が突き刺さる。
「抑え込む、このまま……!」
 エクスマリアが、きっ、と偽竜をにらみつけた。再度の斬撃が、偽竜を切り裂く。紫色の血を吹き出して、偽竜が吠えた。
「ブレス!」
 蛍が叫ぶ。
「くるわ! 身構えて――!」
 そう言いつつ、蛍は跳躍した。身構える。ブレス。真正面から――。
「受け止めて見せる――たとえあなたが本当の竜だったとしても、そうする!」
 蛍が構えた。強烈な毒の奔流が、蛍を叩いた。が、倒れない。決して、手折れない。
「何一つ、滅ぼさせない! 亡ぼさせない! 奪わせない! 全部、護って見せるんだからっ!」
 聖剣を顕現させる。防衛武装。いや、今は守るための、攻勢に転じよう!
「これがボクの正義……っ!」
 斬撃が、偽竜の顔面に振り下ろされる。刃が、偽竜の片目をえぐった。それはまるで、かつての練達の戦いで、イレギュラーズたちの決死の一矢がその片眼を傷つけた、その再現のようでもあった。
「珠緒さん!」
「死角ができましたね……!」
 珠緒は飛んだ。えぐられた片目。その斜め線の傷口へ、さらに反対から振り下ろすように、抜刀、一閃。
「十字傷というのも格好いいでしょう?」
 ふ、と茶目っ気に笑ってみせる。が、その斬撃は、偽竜とは言え竜の鱗を割く斬撃である。ばしゃあ、と、偽竜の体液が噴き出した。ぎゅあああ、と、偽竜は雄たけびと悲鳴を上げた。

●遂行者
「……なんと……ッ!」
 サマエルが斬撃を繰り出しつつ、悔しげに呻いた。偽竜はイレギュラーズたちの猛攻により、着実に消耗していた。本来は、サマエルが前線に立ち、偽竜の強力な攻撃で仕留める――そう言ったプランだ。
 偽竜よりも、遂行者であるサマエルの方が、格上である。それは事実だ。だが、それでも今のような形をとったのは、本来は『竜に滅ぼされるべきであった』という、現実への復讐心に相違なかった。
「甘さがあったか……私に……!」
 聖盾を構える。同時、つっこんできたのは、岩石のようなオークだ!
「よそ見するねいっ! 俺はこっちだぜ!」
 吹っ飛ばされる――それは、彼のように、敵視を集める戦法をとるものにとっては厄介な『対策』であった。
「よくも承知している! 随分の戦巧者とみた!」
「ちげぇな! ただの飯屋だ! タイム!」
「ええ!」
 タイムがかけ、サマエルの動きを阻害する。よくよく連携の取れた二人だ。
「悪いけど、守り手としての役目は諦めて頂戴」
 にこり、とタイムが笑う。ぎり、とサマエルが奥歯を噛みしめた。
「随分と感情的なのね。そんなに練達が嫌い?」
「ああ、ああ。我が『憤怒』の燃え盛るほどに!」
 サマエルが叫んだ。振るわれる強烈な横なぎの刃は、しかし飛び込んできたゴリョウが受け止めた。
(憤怒……憤怒の魔種? でも、それにしては――)
 何かが違う、とタイムは思った。何か――『それだけで足りない』というような、直感。
「もっと教えて頂戴、あなたの事。
 今みたいに、身勝手に感情を出している方が、ギリギリ嫌いじゃないわ?」
「ふ――戯れを!」
 サマエルが踏み込む。上段から振り下ろされた刃。ゴリョウが受け止めた。その背にタイム。口ずさむ。治療術式。展開。光がゴリョウを包む。
(……強いな)
 斬撃を受け止めながら、ゴリョウが内心で独り言ちる。
(体系化された剣だ……だが、なんなのかつかめねぇ。仮面の影響か?)
 敵の攻撃には、『型』がある。それが、我流のそれではないことの証左のように思えた。が、その正体がつかめない。サマエルという男の印象がぼやけてしまうように、それは仮面か、或いは彼が持つ身辺隠蔽の魔術か何かなのかもしれない。が。
「わかるぜ……オメェさんは魔種だから強いんじゃねぇ。俺はただの飯屋だが、其れでもわかる。
 何らかの流派に、その盾を起点として戦う独自の殺法。どれだけ鍛えた……!」
「これまでの、すべてで!」
 サマエルが、その盾を構えて突撃。シールドバッシュの形。巨大で強固な盾は、それだけで凶器になりうるのだ。
「わかっちゃいたが!」
 ゴリョウが身構える。回避できない! ゴリョウの、一瞬の虚を突いた攻撃。敵は格上だ。自分より!
 痛いほど理解する。だが、それ故に、こいつをこえれば、自分はもっと成長できる!
「糧にさせてもらう……が!」
 直撃! そのまま吹き飛ばされる!
「ドジった! クウハ、カバー頼む!」
「任せろ!」
 戦うのは、俺だけじゃない、とゴリョウは小さくつぶやいた。そうだ。戦うのは、ゴリョウただ一人ではないのだ!
「今は駄々っ子の相手してやんのに忙しいんだよ。
 色男はダンスの練習でもしてな」
 放つ、衝術! 包囲を抜けんとしたサマエルが、再度、後方へと吹き飛ばされる!
「つくづく……邪魔をするものだな!」
 サマエルが叫んだ。クウハが頷く。
「当たり前だ。こちとら、オマエの思い通りにさせてやるつもりなんて一切ねぇんだ。
 オマエの言う神様の言う通りなんてのもな。
 だから、全力で、妨害させてもらう」
 サマエルが踏み込む。それを、タイムが止めた。
「踊ってもらおうかしら?」
 タイムが笑う。
「いいだろう――ただし、今日の私は激しいぞ?」
 サマエルが刃を振るった。タイムが聖域を展開し、その魔術障壁でもってその斬撃を受け止めた。突き抜けた衝撃が、タイムの体に激痛を走らせる。
「――言い方がいちいち気持ち悪いとか言われたことは?」
 ふ、とタイムが笑うのへ、サマエルは構えた。
「……ノーコメントとさせていただこう」
 あー、これは言われたことあるんだな? とタイムは胸中でぼやいて、構えた。
 戦いは激化し、深化する。
 その一方で、偽竜との戦いも、クライマックスを迎えつつあった。

●静かなる練達の地で
「はあああっ!」
 サクラの斬撃が、偽竜の体を切り裂いた。一直線に走った刀傷から、いびつな色の血液を吹き出す。
 偽竜とイレギュラーズたちの戦いはまさに一進一退――否、イレギュラーズたちが確実に有利を勝ち取っていった。これは、敵側の作戦を見事に妨害できたという結果あってのことである。
 無論、そこはまだスタート地点にすぎないし、イレギュラーズたちも無傷で楽勝というわけにはいかない。敵は偽りとは言え竜であり、魔の力に堕ちた仮面の男である。ただ、それでも少しずつ勝利に向かって一歩一歩を踏み出し、そして今まさにその栄光に手を伸ばさんとしているのは事実だ。
「このペースで行ければ……!」
 サクラが、ちらり、とサマエルとの戦線へと目を移す。やはり――何か、違和感、いや、既視感がある。あとでゴリョウに詳しく戦いの感想を聞いてもいいかもしれない……。
 とはいえ、と、頭を切り替えた。まずは、偽竜の討伐だ。
 偽竜はぎぃ、と雄たけびを上げると、再びのブレスを吐き出した。もしこれが竜のものであったら、この状況下でも逆転を狙えるほどの高火力の攻撃であっただろうが、しかし悲しいかな、相手は偽竜である。この場において、一発逆転の秘策となるほどのダメージをたたき出すことはできなかった。
「……よしっ!」
 攻撃を受け止めながら、蛍が声を上げる。
「こんなもの、ってあえて言わせてもらうわ。
 あなたたちが戴く正義なんて、正しさなんて……こんなものよ!」
 それは、自分を、仲間を奮い立たせるための言葉でもあり、そして自分の心に燃える炎のようなものの発露であった。
 こんなもの、だ。遂行者たちが謳う、正義も正しさも。本当の正しさに、勝てたりなんかしない!
「ボクと、珠緒さんと……みんながいる限り! この世界を覆い隠させることなんて、させない!」
 その体に、大きな心と。支えてくれるのは、自分の勇気と、仲間たち。
「蛍さん、お疲れ様でした」
 珠緒が言う。ここからは、一気に攻勢に転ずる時だ。
「行きましょう――皆さん。この偽竜を、討伐します。
 竜と言えど偽り。殺してみせますとも……初めてでもありませんしね?」
 宣言――仲間たちが頷く。エクスマリアが構えた。
「珠緒、マリアが続く。サクラも」
「任せて!」
 サクラが再度、剣を握った――珠緒が走る。刃。エクスマリアが視る。刃。サクラが振るう。刃。
 刃。三つの、それぞれ違う、されど鋭く、清廉なる、刃。
 刹那――交差する、三閃! 三斬! 三つの刃は、ほぼ間髪を入れず、偽竜の正面から体を切り裂いた。
 ぎあああ、と悲鳴を上げる。偽竜。それが身をよじり、距離をとろうとした。刹那!
「逃がしませんよ」
 瑠璃がそう呟き、四閃目の斬撃! 速度をのせた一撃が、上空から地上へ向けて、偽竜を吹き飛ばす! 叩きつける! ずがぁあん、と大地がえぐれるような衝撃! 偽竜は、その体をイレギュラーズたちの眼前にさらした。四人の攻撃によってつけられた傷、その傷から見えるのは、穢れた聖書である。聖遺物。世界のコア。偽りの世界を構成する、核。
「あれを撃ち抜けば!」
 瑠璃が叫んだ。
 消える。消え去る。この偽りの世界を。
「イズマ! 弾丸はチャージする!」
 マニエラが叫んだ。
「貫け! 偽りを!」
 そう、叫んだ。
「こいつで――」
 仲間たちの援護を受けて、イズマがその刃を振るった。描かれる陣。放たれる、魔砲。一矢。
「フィナーレだ!」
 その光が、穢れた聖書を貫いた。じゅあ、と焼けるような音を立てて、聖書が、焼け落ちる。
 消える。
 消えていく。
 世界のコアが、消滅する。
 同時に、偽竜の姿が、徐々に、徐々に、茫洋と消えていった。霞が、霧が、溶けるような、そんな風に、徐々に徐々に、かすれて消えていく。
 きゅおお、と偽竜が鳴いた。それは、死を自覚したものの断末魔だった。消える。消えていく。偽竜の姿が、消えていく――。

「また、か……!」
 サマエルが叫んだ。
「また、その姿をさらすか! 練達ッ!」
 怒りの叫びである。憎悪の叫びである。作戦の失敗、其れだけに起因するものではあるまい。おそらく、練達という国家への憎悪が、彼にはある。
「何がそんなに気にいらないんだ」
 クウハが言った。
「旅人(ウォーカー)か」
「すべてだ」
 サマエルが叫んだ。
「世界を汚した旅人(ウォーカー)も。我が神を汚したROOも。すべて」
「別に元の世界にかえりたいわけではないですが」
 瑠璃が言う。
「それでも、連れてこられたのはこちらでしてね。そこは、ご迷惑をおかけしました、といってもらいたいほどですが」
「それは、貴様らの『神』に言うがいい」
 神、と呼ぶときに、サマエルはわかりやすく不快気な表情を向けて見せた。
「サマエル」
 サクラが言う。
「あなたのそれは――剣技は。間違いなく、天義のものだ」
「そうなのか?」
 ゴリョウが尋ねた。
「型のある戦い方だとは思った……確かに、言われてみればそれに近い……!」
 ゴリョウが納得のいったような声を上げる。それから、眉をひそめた。
「ってことは、オメェさんは天義の人間か?」
「先の戦いで、ベアトリーチェに与したものか!? まだ内部に残存していたとでも……!?」
 サクラが叫ぶのへ、サマエルが、皮肉気に笑った。
「だとしたら、どうする? かつての天義のように、不正義を探し、正義を執行するか?」
 ははは、とサマエルが笑った。
「『できまい』! 天義は堕落した! 寛容を覚えた! 絶対的な正義、断罪、それができなくなったのが、今の腑抜けた天義だ!」
「サマエル、あなた――」
 タイムが言った。
「昔の、あの息苦しい天義の方がよかったっていうの……!?」
「そうだ。あれこそが、絶対正義の国家の姿だ」
 サマエルが、刃を収める。
「だが――今の天義にはそれがない。堕落し、墜ちた、妥協の都よ。
 天義は間違えず、違わず、誤らない。
 天義が間違えたのならば、それはこの世界こそが間違っているからだ」
「狂信者め……!」
 サクラが奥歯を噛みしめた。
「貴方達の歴史がたとえ正史であったとしても、そんな事は関係ない!
 私はこれからも善き未来を勝ち取って見せる! その邪魔をする貴方達遂行者も貴方達の仕える神も全員倒す!」
 サクラの宣戦布告に、サマエルはうっすらと笑い、ゆっくりと、聖盾を構える。
「やってみるがいい、偽りの聖騎士よ!
 この盾が、我とともにあることこそが理由だ! 証左だ! 我々こそが、天義の目指した正義を実行できる! それが――それだけが、正義だ!」
 途端! 盾が強烈な光を放った。イレギュラーズたちが身構える。が、次の瞬間には、その光は瞬く間に消え去った。目くらましだ、と気づいたときには、すでにサマエルの姿は消えていた。
「……逃げた、か」
 エクスマリアが言う。
「……どうやらそのようだ。けど……」
 イズマがそう言って、あたりを見回した。あたりは、あの崩壊した練達の姿ではなく、いつもの、当たり前の、あるべき練達の姿があった。
「守れた、んだね」
 蛍が言うのへ、珠緒が言う。
「ええ。珠緒たちの、勝利なのです」
 そういって、優しく笑った。
「なら、ひとまずはそれでいい」
 マニエラが言った。
「それで、いいさ」
 そう言って、空を見上げた。
 練達の空は、平時と変わらず。
 正しく、あるべき歴史を、今も変わらず、紡ぎ続けている。

成否

成功

MVP

桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍胃により、偽竜は撃破。サマエルは撤退。
 サマエルは、何やら天義に関係するもののようですが……。

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