シナリオ詳細
<0と1の裏側>非ざる天使と偽りの信仰者
オープニング
●
練達三塔が一つ実践の塔――『再現性東京202X:希望ヶ浜市』が一角。
人通りが多く活気ある中心部から離れた郊外、地球と呼ばれる世界から来た旅人たちが『ベットタウン』などと呼びそうな、そんな場所。
二車線道路が相互に通り、1つ1つの建造物が比較的に大きな敷地と幾つかの路地に区分けされた町の中。
その施設は最初からそこにあったかのように溶け込む形で存在していた。
「ん……っと、うん。ここみたいだね」
先導していた佐熊 凛桜(p3n000220)はその建物を見上げ何かを確かめてからこちらを振り返った。
真新しい看板には『WCTHSショップ』と店名が記されている。
「……先輩たち、準備は良い? じゃあ――行こうか」
こちらが頷くのを確かめてから凛桜は穏やかに笑ってその建物へと踏み込んだ。
中が見られないようになった自動ドアを抜けた先、掃除の行き届いた清潔なロビーがイレギュラーズを出迎える。
「いらっしゃいませ。新規のセミナー受講者様でしょうか」
その声はロビーの奥にある受付のような場所に立つ女性の物だ。
彼女の左右4mほどにはそれぞれ奥へと続く出入り口のようなものが見える。
――だがそれよりも気になるのは、受付嬢自身だ。
「ようこそ、WCTHSセミナーへ。当セミナー及び関係格施設は皆様を歓迎いたします」
頭を下げた彼女は、そのまま顔を上げて表情の伺えぬ仮面の裏で笑った――気がした。
「私はソレルスと申します。当店の店主です。
本社公認の『スピリチュアルコンサルタント』ですから、ご安心ください」
多分、笑っているのだろう。相変わらず仮面の裏にある顔は窺い知れない。
「……ですが、どうにも貴方達は受講者ではなさそうです」
手元で何かを操作すると奥へと続く出入り口の扉が開いた。
無効から重火器を手にする多数の職員や教団の信者らしい人々が続々と姿を見せる。
「……多分、攫われた人達はあの奥にいると思う。
これはもう、この人達をしょっ引いて助け出した方が良いよね」
そういう凛桜に頷くのと同時、職員たちが銃を構えた。
それに応じて頷く頃、呻くような声がしてもう片方の扉が開き――中からつぎはぎだらけの悍ましい生物が姿を見せる。
「……ゥ、ァァィ、ィァ」
「……テ、ロシテ」
「……ァ、ァハハハ!
悍ましき生物たちが、ぞろぞろと。
その中心には天輪を戴く細身の生物が1体。
顔を持たず、獣の口のようなものが首相当付近まで伸びた怪物だ。
●
夏にも近い日差しが窓ごしにテーブルを温めている。
ボックス型のソファ席にて、凛桜と少女が向かい合っていた。
ここは『カフェ・ローレット』――そこは希望ヶ浜学園の近くにあるカフェであり、ローレットの支部である。
「……凛桜先輩」
高校生ぐらいだろうか、希望ヶ浜学園の制服を着込んだ少女がどこか怯えたように言う。
「お母さんは、ここのセミナーに行っちゃったんだね?」
相対する女性――凛桜は制服を着ていないだけで、どこかまだ少女という雰囲気もあるか。
少女がこくん、と頷いた。
「まぁ……仕方のない事ではあるとおもうよ。やっぱり健康は気にしちゃうだろうし……」
そう呟いた凛桜は、その次の言葉を押し殺す。
何より、この町に住む人はここは『地球であり、外の世界なんてない』と思っているから――と。
「『WCTHSショップ』だよね……ここは怪しいから言っちゃダメだって、教えてたんだよね?」
「はい、でも私の言うことなんか聞いてくれなくて……私はまだ子供だから……って」
「心配だよね? うん、わかってるよ。私が『先輩たち』と一緒に見に行ってみるから」
そう少女に笑いかけた凛桜が『先輩たち』の時にこちらを見たのは気のせいではあるまい。
「……ありがとうございます」
泣きじゃくるような声で言った少女が、そう言って頭を下げた。
「取りあえず、今日はもう寮に帰って休んだ方が良いよ」
ほんのりと笑いかけた凛桜にぺこりともう一度頭を下げて少女がカフェを出て行った。
「こんにちは、先輩たち。あたしは佐熊凛桜、希望ヶ浜学園の大学部に所属しつつ、ローレットに属してるんだ。
初めまして、の人もどこかで会ったことがある数少ない人も、よろしくね」
そう言って凛桜は柔らかく笑った後、どこか真剣な顔をして。
「……先輩たちはWCTHS――ウェルネス・クラフト・テクノロジー・ハートフル・ソリューションズ株式会社って知ってる?
近頃、市内各地でセミナーだったりを開いて会員を増やしている連中なんだけど……先輩たちにはこっちの方が良いかな?
――『綜結教会(ジンテジスト教会)』」
それは天義に興った世界的なカルトである。
「連中は『健康食品を銘打った危険で違法な薬剤などを用いた洗脳』をしたり、カルトへ入信させたりしてるんだけど……
天義とか幻想とか海洋とかで起こってるっていう……『神の国』とかにも関係があるみたいでね」
そこまで言うと、凛桜はメッセージツールでのグループに此処にいるメンバーを招待していく。
「こいつら、WCTHSショップっていう施設に人を拉致監禁してるみたいなんだ。
さっきの女の子も、お母さんが連れてかれたらしくてさ。一緒に行ってくれないかな?」
そこまで言うと、先程は言ったばかりのグループに1枚の地図が張り付けられた。
「そこが今回の目標だね」
そこまで言うと、凛桜は何かを言い淀んだようにして――スマフォを弄る。
「今から出す画像はちょっとグロめだから、見たくない人は見なくていいんだけど。
こういう連中が顔を出してくるかもしれないんだ」
そう言って、ぽんぽんぽん、と幾つかの画像が張り付けられた。
「先輩たちが一緒ならきっと大丈夫だけど、ね。
この店主には気を付けて――この人は多分、『致命者』だから。
正義……ROOでの天義で見かけたことがあるんだけど、この人達は『懲罰執行者』って呼ばれる人達らしいよ。
勘違いされるのを恐れずに言うのなら、聖騎士と異端審問官を足して2で割ったみたいな人達でね。
『自分の過去を消してでも国への忠義と信仰に生きる即断即決の断罪者』とでも言える人達らしいんだ」
そう笑った凛桜の表情はどこか愁いを帯びていた。
――もしもそんな人物が、致命者などと呼ばれる連中にされているのは、あまりにも悲しいことだと。
「あれ?」
張り付けられた1枚の画像を見たルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は首をかしげる。
「どうした?」
その様子にルナール・グリムゲルデ(p3p002562)も疑問を覚えれば。
「うーん? どこかで似たような人にあった気がする」
「厄介ごとに巻き込まれてるんじゃ無いだろうな」
「うーん? そう言う感じでもないんだけど……覚えてないな……」
ルナールが思わず言えば、ルーキスは首を傾げるばかり。
- <0と1の裏側>非ざる天使と偽りの信仰者完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年07月07日 23時50分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
「『神の国』とカルト教団が結びついた、って事なのかな。あまり混ざってほしくないものだけれどね」
状況を整理しなおした『ウィザード』マルク・シリング(p3p001309)は顔を上げてそこに立つ女性――らしい人物を見る。
(そして『懲罰執行者』か……受け入れられる考え方ではないけれど、その無念は察するに余りある)
目の前の致命者ソレルスは元は天義の暗部に存在する機関に属する存在という。
潜入捜査と即座の断罪を任務とし、その為に過去の全てを文字通り斬り捨てた信仰のために身を捧げた者達。
それはそれとして、致命者である以上、本人は『故人』であることは明らかだ。
「神の国の手はここにまで……その上指揮官は致命者ですか。なんにせよ、ここは今を生きる方々の場所です。
貴方達には、申し訳ありませんが渡せません。人々を、返してもらいます!」
「おや、不思議なことをおっしゃいます。此処にいる方々は皆、自らここで生きることを望んだ方なのですが?」
愛剣を抜いた『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)に対してソレルスは不思議そうに言った。
「始めはそうかもしれませんが、いまもそうとは思えませんね」
「ふむ……不思議なことをおっしゃいますね」
そう語りながら、ソレルスがカウンターを飛び越えこちらに弓を構えた。
「アレに協力とか何を考えて、ってなるけど執行者に言っても無駄だしね」
そう呟くのは『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)である。
(それに、既に相当に食い込まれているっていうのは拙いよね……
こういうのの性質上一部逃すと、ってなるのは分かるし、一斉摘発しないと後が大変なのはそうね)
冷静に状況を纏めなおしながら盾を構えた。
「……取りあえず、ここを制圧しないと動きようがないわね」
「練達にすら出てくるとか暇なのかな?
まったく仕方ないなあ。やれ拉致やら監禁やらと危ないお店は生徒達に悪影響だからね」
普段の空気感で首をかしげる余裕さえ見せた『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)がかと思えば不意に愛銃を抜いた。
「で、キミ達天使とか連れてるんでしょう?
どうせやることは変らないんだし、ルナール先生と一緒に綺麗さっぱり掃除しようか!!
という訳で旦那様、容赦なく巻き込むからよろしくネ!」
明るいのは寧ろ嫌悪感から――害虫駆除への意欲を見せるのと変わらない。
「あー、うん。見事過ぎるほどにルーキスが嫌う要素が揃い踏みだし。
うむ、やる気満々なうちの奥さんのサポートに勤しむとしよう」
そんな奥様の姿に苦笑してみせながら『片翼の守護者』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)も愛銃を抜いた。
(それに……ルーキスが多少でも見覚えがあるという事は……色々面倒事が待っている予感しかしないな?)
その視線の先には、弓を構えるソレルスの姿である。
「国家よりも自由を求めた俺と、懲罰執行者ってのは真逆の生き方だな。
……昔の天義は歪だった。けれど純粋な信仰に生きた立派な人もちゃんと居た。
それが致命者にされるなんて、許せねぇよ」
そう呟く『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)の声色は静かな怒りも感じられた。
「信念が歪んだのか、それとも、歪まされているのか。国の為に動く者が、その国に反する事を死して行っている……」
そう呟いた『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)はその女から視線を外す。
致命者はいわば故人の側を被っただけの模造品――趣味の悪さはあるが、本人の信念が揺らいだわけではないはずだ。
(だから今は拉致された人々や騙されてる人々を救うのが先ね!)
鎧を纏い、レイリーは前に出る。
「羽衣教会を差し置いて練達の宗教名乗るのムカつくから全員ふん捕まえてやるぞ」
そう語る『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)は彼女らしいエゴを剥き出しにしている。
(あとは……まぁ、普通にそうだよね)
人助けを求める気配を感じ取らんとした茄子子は逆に確信する。
(これ多分、洗脳なり薬で頭馬鹿になってるよね)
1つたりとも助けを求める声がないことがそのことの証明だ。
●
「侵入者を生かしては置けない! あらん限りの弾丸をぶちまけろ!」
職員の1人が叫び、それに続けて重火器の銃口が一斉に此方を見る。
実弾が一斉に弾幕を描いて戦場を打つ。
「連中が来た以上、もうこの拠点は使えません。容赦なく壊して構いませんよ」
それに続けてソレルスが言った。
「歓迎ありがとう! じゃあなるはやで摘発するね!!」
開口一番、茄子子は魔術を穿つ。
戦場を穿つは破式魔砲、直線を穿つ高密度にして純真なる魔力の砲撃が天使というにも烏滸がましき悍ましい生物を貫いた。
数多の聞くに堪えぬ悲鳴が響く中、それは開戦の音色を歌う。
レイリーは一気に戦場を駆け抜けた。
「私はヴァイス☆ドラッヘ! 市民救出のため只今参上!」
白亜の竜、その鎧をまといて高らかに騎士は名乗りを上げる。
威風堂々、その姿は目映くうつろうか。
「私の白はお前たちの正義に負けないわよ!」
再び叫び、レイリーは杖を量産型天使たちへと突きつけた。
「情報源として確保する必要もあるし……ある意味、貴方達も被害者だからね。命は奪わず、確実に無力化する」
マルクは全体の様子を把握しながらワールドリンカーのキューブを射出する。
放たれたキューブは雨のように降り注ぎ、着弾と同時にパンと音を立てて破裂する。
多数のキューブが炸裂するたびにそれらが内側に持っていた魔力が量産型天使たちの出力を下げていく。
「少し痛いかもしれませんが、我慢してくださいね」
シフォリィはそれに合わせるようにして剣を薙いだ。
細剣を打ち出して放てば、刺突は漆黒の星々となって施設内に輝きを放つ。
流星の刺突は鮮烈に、職員たちの視線を釘づけにしていく。
圧倒的な数で紡がれた満天の星々は施設の雰囲気も相まってプラネタリウムにも見えようか。
「天使が多いことで。飛ばしていこうか」
ルーキスは凄まじい速度で魔術を励起する。
空間へとぽっかりと開いた穴の中から溢れだす濃密なる混沌の泥が瞬く間に量産型天使を呑みこんでいく。
「これだけ有名な盾役が揃うと圧巻だな」
ルナールはざっと辺りの様子を見ながら、魔力を振り払い突っ込んできた存在の前に立った。
独特な咆哮と共に振り下ろされた大剣を蹴り飛ばせば、そのまま愛銃を撃ち込んだ。
放たれた魔弾が細身の化け物に覚悟の弾痕を刻む。
「大所帯相手は厄介ですこと。カバーありがとうルナール」
それだけ言いつつ、ルーキスの視線は既に次の天使たちへと向いていた。
「まぁ、大所帯でも関係なく殴るのがルーキスだけどなー? こいつは任せろ」
笑いあいながら2人は量産型天使たちと向かい合っていく。
ベルナルドは絵筆で描く術式を描く。
放つは非ざる夜、終焉の帳、紫苑の魔術が戦場に降りて狂乱の夜を再現する。
「俺は天義で不正義の烙印を押されても断罪をすり抜けた男だぜ。アンタが過去に裁き損ねた癌だ。裁いてみせろよ懲罰執行者!」
その上でベルナルドは敢えてその姿を晒して叫んだ。
それと同時、仕込んでおいた幻影を発動して壁際へと走らせていく。
それに気づいた職員たちが疎らに銃弾を撃ち込んでいく。
「なるほど、ただの警察ではなさそうですね?」
ソレルスが言った――刹那、跳躍すれば、矢を引き絞った。
「――ひとまず全員消し飛ばしましょう。きっと、その辺にも見えているのですね」
天井に着地すると同時、矢が放たれた。
射程など気にすることなく、一気に穿たれた魔弾はベルナルドの作り出した幻影を含む店内の全てを貫いていく。
(見えてないからこそ混乱すると思ったが、まさか……それっぽい場所全部、一気にぶち抜いただと)
ベルナルドも思わず目を瞠るものだ。
「この身体は暗殺機構に属する者のもの。幻影の目くらましぐらい、殺し損ねることはありませんよ」
(奥の方から物音が聞こえる……のは拉致された人々かしらね)
イリスはエコロケーションを試み、周囲の警戒を怠らずにいた。
光鱗の姫が盾を構えて前へ進めば、つぎはぎだらけの歪な生物がその姿に警戒を見せ始めていた。
名乗り口上をあげれば、光に反射した盾が量産型天使の意識をイリスへと集束させていく。
●
「キャハハハハ」
甲高い声のような、品のない声のような、不可思議な声で笑う天使の大鎌が閃く。
イリスはその声に少しの不快感を覚えながら盾を構えた。
(この調子なら……)
三叉が光を帯びて光り輝く剣のような姿を取れば、イリスは振り下ろされた大鎌を撃ち返すの同時に踏み込んだ。
放つは邪悪を穿つ神聖の一撃、光輝に満ちた眩いばかりの一撃は極限にまで高められて振り下ろされる。
「そっちが何をしてこようと会長がいる限り全部潰すだけでーす」
茄子子は戦場に満ちる邪気を払うようにへらりと笑い、大いなる調和の魔術を行使する。
光輪を思わす輝きの聖光を帯びて放たれる術式は傷を受けたばかりの仲間からその傷を大いに奪っていく。
「ほら、私を倒さないかぎり、誰も倒させないわよ!」
レイリーは杖に魔力を束ねていく。
それは宛ら竜の放つ息吹のように熱を帯びて渦を巻く。
白亜の竜は量産型天使たちの思考を磨り潰し、竜に圧倒される獲物のように彼らの注意を惹きつけた。
「彼らを狙うのは僕の役目だからね、確実にいくよ」
そう言ったマルクは再びワールドリンカーのキューブを戦場に撃ち込んでいく。
職員たちの多くを撃ち抜く魔弾はマルク自身の判断する通りに自らこそが最も得手とする分野。
その上、長い戦歴を経て高い実力を持つ魔術師のマルクが放つ弾丸をただの職員たち風情で止められるはずもなく。
既にもう半数以上が泥に呑まれて倒れている。
「奥には行かせませんよ」
シフォリィは戦場を駆け抜け、愛剣を振るう。向かう先にあるのは、施設の奥へと通じる扉。
振り払う斬撃は幾重も重なり、シフォリィの動きに気付いた職員たちを封じ込める。
「多少手荒でも情報源は欲しいからね」
気絶した職員たちを後方へと放り投げながらルーキスは術式を起動する。
「ちょっと全力で排除していい? いいよね? ありがとう」
そう問いかけたルーキスの眼前には、巨大な天使が1体――いや、そもそもそれを天使と呼んでいいのかさえ定かではないが。
獣が口から咆哮を上げた。
「うるさいな、口を閉じて貰える?」
既に構築されしエダークス、禍剣を鮮やかに一閃すれば、獣を大きく吼えさせた。
「それにしてもまた新手の宗教か……何処にでも湧いて出てくるんだな……
何を信仰するかは人次第とはいえ、掃いて捨てるレベルで増えるのは面倒でしかない……」
ルナールはその横でぽつりと呟くものである。
ルーキスに代わって受けた斬撃を返すように魔弾を叩き込みながら、溜息を吐いた。
「これで全員だな?」
ベルナルドはメカ子ロリババアへと問えば頷きが返ってきた。
「先輩たち、こっちは任せて貰って大丈夫!」
そう笑う凛桜の声を聞いて、ベルナルドは絵筆を握りなおし――七彩を描く。
●
「持久戦ならこっちのものよ」
迫りくる天使たちの数は明確に減っている。
打ち込まれる斬撃を受け止めながらイリスは魔力を循環させ、天秤の傾きを整えた。
そこへと飛び込んできたのは長大な剣を握る何かも分からない生物だ。
強烈な横殴りの一撃を受け止めるままに、イリスは三叉に力を籠めた。
啼き声かもわからぬ何かが聞こえる――それを耳にしながら踏み込み、イリスは開かれた口へと束ねた神聖を突きつけた。
肉を断った一閃は長大な口を貫き、大剣を握るそれを真っ二つに両断する。
「死んだくらいで根性ないなぁ。もっと抗ってほら、それでも神に仕える執行者なの?」
茄子子はソレルスの方を見やり、たっぷりの挑発を乗せた。
放たれる魔弾も斬撃も、その茄子子にとっては脅威ではない。
『自らの過去の来歴を消してでも国家への忠誠と信仰に生きる』――茄子子にとってソレルスの、もっと言うなら彼女の下になった人物の在り方はどこか親近感を覚えるものだ。
(私も、どうしても欲しい物があるから)
けれどそれを誰かに言ってやる筋合いは無くて、たかが死んだ程度でそれ以外の物に利用されるような者には、それこそ。
聖句を語り仲間達の受けた痛みを解き放ち、一番傷の多い味方に祝福を与えながら、茄子子はただ、ソレルスの終わりを見据えていた。
「私が倒れない限り仲間を倒させない! それが私の信条!」
レイリーはソレルスへと肉薄すると同時に問うものだ。
激しくぶつかろうとしたレイリーの突撃に対して跳躍し、くるりと躱したソレルスはレイリーからの視線を真正面から受けている。
「貴女の信条はなによ! ソレルス! 貴女は天義を護るために生きたのでしょ!」
「……ええ、この身体の元の持ち主、ソレルスであればそうですよ。
そもそも、彼女であれば――いえ、彼女と同じ者達ならば、致命者になった時点で自死を選ぶでしょう。
自死できぬのなら、貴方達の前に出て無防備に殺されるましょう」
致命者は皮だけ整えた紛い物。自らはそうではないと、ソレルスは表情一つ変えずに語った。
見えてはないが、ただ淡々と答えたのだろうと分かる声色だった。
レイリーはそれを熾天の輝きを浴びながら聞いた。
(下がっても弓の餌食になるなら、接近戦の方がいい)
マルクは敢えてソレルスの懐へ潜り込んだ。
複数のキューブがやがて剣の形へ再構築されていく。
念のために背後から、真横に両断するように放った斬撃が『ソレルスの足の健』を奪う。
「なんと、想定よりも初速から全速力までが『速い』ですね」
足ごと両断された致命者は体勢を崩しながらもまだ健在だ。
「終わりにしましょう、ソレルス」
シフォリィは愛剣に炎を纏い刺突を放つ。
夜に散る花火の如き炎の連撃が数多連なっていく。
ソレルスはそれを有り得ない体勢から跳躍して躱してみせる。
追撃の一閃はソレルスを結界の内側に捉えて封じ込め――ようとした。
「――なるほど、これは面倒な技ですね」
結界の内側に残った片腕を見送りソレルスが呟き地面へと落下する。
落下してくる女へとエダークスを構えるままに一閃する。
しかし当たる寸前、ソレルスは自らの弓を合わせることで衝撃を受け止め自らすっ飛んでいった。
くるくる回りながら飛ぶ身体、刹那の一瞬、こちらへ矢が飛んでくる。
「いやあ何その動き、致命者にしても把握能力おかしくない?」
ルーキスは間違いなくドン引きしていた。
動く必要もないと判断したのと同時、隣に立ったルナールが盾役になり、魔弾をぶちまけて勢いを殺す。
「致命者ってのもあるんだろうが、元からああいう戦い方をする女だったのかもな……」
致命者は基本的に皮だけ真似た模造品だ。内面は本人と違う――だが戦闘方法は似ている場合もあるという。
この個体は恐らくは生前からこうしていたのだろう。何せ、あまりにも『慣れている』。
「つまり、死兵タイプだな……だとすると、本当に面倒な相手な気がするんだが」
「それは多分、執行者全員そうなんだと思うよ、先生たち」
ドンびく2人に凛桜がそう答えた。
ルナールはその声を聞きながら自らの気力を循環させて体力の温存に務めていく。
「皮肉だな、俺を裁く側だったろうアンタが俺に断罪されるんだ」
ベルナルドは剣を構えて立つ。
がくりと片膝をついたソレルスは間違いなく瀕死だ。
そもそも、片足がない人間体が立ってられるはずがないのだから、肩ひじを付く方が当然だ。
剣身に魔力を束ね、青白い炎がゆらゆらと揺らめいた。
振り下ろす斬撃が真っすぐにソレルスの首を叩き落として――その姿は塵になって消えた。
●
それからほどなくして、戦いが終わりを告げた後、イレギュラーズは職員たちの捕縛に務めていた。
「彼女も死してなお利用された致命者。弔うことは出来ませんが、終わった後に祈りを捧げるくらいはしたいですね」
シフォリィは遺体も残さず消えたソレルスがあった場所に視線を向けて呟いた。
「そうだね、異国の地で済まないけれど」
そうマルクも応じるものだ。
「良いと思うよ。多分その人のお墓とか天義にないだろうし」
そう呟いたのは凛桜である。
「異端審問って名前からして天義で会うものと思っていたけど、執行者って皆こうなの? 正直再戦は勘弁願いたいなぁ」
「うむ、やり合いたくないとか俺ら夫婦が言ってる時に限って……高確率でまた出くわすんだろうな……」
ルーキスが言えば、ルナールもそう答えるもので。
「……どうだろ? もしかするとそう構えなくても大丈夫かもしれないよ」
そう語ったのは凛桜だ。
「寧ろ今回の『冠位傲慢』による事件に対しては、天義という国の危急存亡? だよね。
なら、寧ろ先生や先輩たち――ローレットへと協力してくれる、かも?」
そう続ける凛桜の言葉も、どこか信ぴょう性がない。
ベルナルドの手には店舗の奥から持ってきた資料がある。
(中和剤の作り方が分かれば良いんだが……それも望み薄なんだろうな)
ここはきっと末端も良いところだ――仮に中和剤があったとしても、その作り方が手に入るとはあまり思えなかった。
一方で茄子子はというと――当然の如く勧誘をしていた。
「ところで健康になりたいなら羽衣教会とかどう? 羽生えたら腰軽くなるよ」
殆どの物が洗脳なり薬漬けになっている状態でまともに勧誘が成功する可能性は当然少なかったが。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
早速参りましょう。
●オーダー
【1】拉致された市民の救出
【2】職員及び信者の確保
●フィールドデータ
希望ヶ浜市の一角にある大きな市民センターです。
天井が比較的高く、広々とした空間にソファーや本棚、受付などが点在しています。
遮蔽物の確保も難しくはないでしょう。
●エネミーデータ
・『懲罰執行者』ソレルス
現場となる『WCTHSショップ』の『スピリチュアルコンサルタント』であり『店長』です。
凛桜曰く『冠位強欲』との戦いの中で戦死した人物と思われる天義の懲罰執行者です。
ここで言う懲罰執行者とは、天義の暗部組織の1つと言います。
何でも『ある一定の組織に長期間潜入して対象を捜査し、不正義の確定が出た時点で即座に断罪する』と言われています。
彼らは共通して『自らの過去の来歴を消してでも国家への忠誠と信仰に生きる』類の狂人だと言います。
覆面で顔を覆い隠した獣種風の女性です。
覆面をしているにも関わらず戦況把握が出来ていることから恐ろしく優れた空間把握能力を持つと思われます。
武器はどこか練達的近未来感を持つ弓です。
弦が無く、弓幹と呼ばれる湾曲した部分が刃になっています。
恐らくですが刃部分による物理戦闘と魔力で弦と矢を形成して射出する神秘戦闘の両用武器です。
物理戦闘では獲物の形状から【出血】系列の他、【邪道】や【連】、【スプラッシュ】などの連撃が予測されます。
神秘戦闘によるBSは不明です。
・職員及び信者×8
マシンガンやライフル、ショットガンなどの重火器を装備した職員と信者です。
不殺攻撃で取り押さえることが可能です。
銃撃による攻撃には【出血】系列や【足止め】系列、【乱れ】系列などのBSが予測されます。
・量産型天使(人種)
天輪を戴く細身の生物です。
顔を持たず、獣の口のようなものが首相当付近まで伸びています。
2~3mほどの身長を持ち、その手には身の丈を越える黒い長大剣を握ります。
物理戦闘を主体とします。
咆哮による【足止め】系列のBS付与の他、大剣による高火力広範囲への攻撃を行います。
・量産型天使×8
何者かによってつくられた、つぎはぎだらけの邪悪で歪な生物です。
遠目には一応、天使のようにも見えますが近くで見るとそう呼ぶにはあまりにも悍ましい何かです。
知性を感じませんが、言葉のようなものが漏れているようにも見えます。
手に血濡れた、というよりも内蔵で作ったような大鎌を持ちます。
鎌による戦闘を行います。
非常に高火力かつ高い命中精度を持ちます。
武器の形状から【出血】系列や【致命】が予測されます。
●友軍データ
・佐熊 凛桜
希望ヶ浜学園に所属する大学生、イレギュラーズ。
オタクにも優しいギャル系お姉さん。ROO事件にも参加していました。
ある程度の死線を潜り抜けこそしましたが、まだまだ皆さんの方が死線の数も多いので、
イレギュラーズの皆さんの事は全員『先輩』として敬意を示しています。
やや反応型寄りの殴りヒーラーです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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