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シナリオ詳細

<黄昏崩壊>形は竜だけど竜種じゃないから、こいつは倒せ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 いっそ、邪なるものならば何の気兼ねもなくぶつかることができるのに。

 『ラドンの罪域』を越えた先。
 ピュニシオンの森から見て黄昏の方向にに位置したヘスペリデスは、美しいところだった。
 独特の植物が生い茂り、ヒトが初めて目にする花が咲き乱れ、見よう見まねで積み重ねられた石の造形物は不格好だったが素朴で笑みを誘った。
 獰猛な亜竜が憩い、竜種が住まう、本当に楽園のような場所だったのだ。
 
 空はザクロをつぶした汁のように濃く赤く、いずこから乾きあがる黒雲が四方に断末魔の悲鳴のように雷光を溢れさせながら、ただ一点に吸い寄せられていく。
 大気はかき乱され、建造物がかんしゃくを起こした子供が蹴散らしたように崩され、行き場もなく宙を漂っている。
 どうしてこんなことに。
 いや、いつかはこうなるとわかっていたのだ。永久に先延ばしにしたかったいつかが今日訪れただけだ。
 本当に美しい所だった。穏やかな竜が退避した場所。
 竜種達は警告する。
 この地を立ち去れ。
 この地の奥に退避した冠位暴食』ベルゼー・グラトニオスが何を考え、目論見、真意を知る者は誰もいない。
 それ故に、竜達は、それぞれがそれぞれの思惑をもって、同じことを言うのだ。悲しみと共に、怒りと共に、享楽と共に。
 強大にして絶対の上位存在の機微をどうしてヒトの身で推し量れようか。
 特異運命座標とそれに与する者たちよ。この地を立ち去れ。
 意味は分かる。ただ、意図は相まみえなければ伝わってこないのだ。


 地獄の光景だ。
 それは生きているものを憎んでいた。
 動くものは全て――人も竜も亜竜もすべての別なく引き裂くべきものだった。
 雷に打たれて皮翼に傷を負って落ちたワームに黒い影がかかる。
 振り仰ぐワームの金色の眼に竜の形を持つ黒い塊が映った。
 カットワームが口を開いた。瞬時に行われる吸気。体内の毒袋から吐き出された液体がたちまち気化し、火打歯が噛みあわされた途端、世界が炎に包まれる。
 自身が分泌する防護粘液で自らはやけどを負わない全周無差別放射だ。竜種とは言え無傷ということはない。すきを見て活路を探る。
 炎を吐ききった上あごと下あごそれぞれをつかむ手があった。
 無造作に引っ張られる。
 自分の体よりはるかに大きなものが飲み込める大蛇の口角にびしりとひびが入った。
 そのまま力が体側にかかる。
 ぶちぶちぶちぶちぶちぶち――。
 一気に腹まで上下に割いたワームを黒い塊は焼け焦げて熱を持った地面に無造作に捨てた。
 むき出しの内臓が焼け焦げ嫌なにおいが辺りに立ち込める。
 竜の形を持った黒い塊――レムルース・ドラゴンは歩く。
 ヘスペリデスへの攻撃者に報いるために。自分以外のなにもかもが敵なのだ。
 「女神の欠片」の過剰反応が生み出した存在が、ヘスペリデスを更なる地獄に導いていた。


「まず、第一に、竜は倒せる相手じゃない」
 『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、復唱ください。と、イレギュラーズを見回した。
「ですので、竜ではない脅威を減らしてもらいます。大規模作戦では不確定要素はないに限る」
 そういう露払い的依頼を主に請け負うのがこの戦闘薬師だ。
「みんなには、レムルースドラゴンを倒してもらいます。竜種の立体的な影というか――言ってい以上の負荷をかければ散り散りになって再結合しないっぽいからそういう感じで――あ、でも不燃性が高い」
 焼けようがないから。と、情報屋は言う。
「後、光は影を濃くするから光系はぶつけると回復しちゃうっぽい。装備、スキル、携行品などは十分確認して下さい。神聖系だけじゃなくて雷光も回復するよ」
 意識すべき光の量は、標準的ヒトがまぶしいと感じる辺りから効果が発生するらしい。提灯はセーフ、懐中電灯はアウト。
「後、現地、雷光ピッカピカ光ってるから。空でゴロゴロ言ってる分はともかく、落雷は無効に有利になるね。つまり、向こうは常時回復チャンスがあるってことだ。持久戦の方向で。後、回復の暇がないように大ダメージを一気にドカンって手もあるね」
 向こうは、色々戦闘環境が悪いらしい。
「石が空飛んで、雷が落ちるし、土壌も軽い分から根こそぎどっかに吸い寄せられて、岩肌むき出し。飛んでる石はこっちの味方することもあるだろうけど、向こうの味方もするからちゃんとよける様に」
 環境を味方につけるのも大事。
「形が竜に似ているだけで竜ではない。実力も竜程ではありませんけどね。竜より強くないって、この世の大抵のものに当てはまるからね? 倒せなくはないって意味で、弱いとは言ってないからね」
 でも、竜ではないからね。
「倒せるからね。はい、復唱。竜は倒せない。でも、レムルース・ドラゴンは竜じゃないから倒せる! ちゃんとやりきることができれば!」

GMコメント


 田奈です。
 竜じゃないので倒せる敵です。
 
 ●レムルース・ドラゴン×1
 言葉は発せず、ただただ敵対してきます。
 竜種ではないので、説得や情報収集は時間の無駄です。
 不燃性。光属性の数値の発生する干渉は受けた分回復として扱います。
 闇属性や影属性は、影性の相違により影響は発生しません。
 ドラゴンの形はしていますが前肢が発達しています。大きさは20メートル。影なので飛び乗ることはできません。(突き抜けて、攻撃にはなります)
 出血・毒・麻痺等など生体反応系のBSは無効です。
 ブレス等の遠隔攻撃はありませんが、飛び上がってからの滑空攻撃や、しっぽを振り回しての範囲攻撃。
 つかんで拘束からの引き裂き、噛みつきなどをしてきます。相応のBSが発生します。

●環境:荒廃したヘスペリデス
 OP画像の場所と思っていただいて構いません。
 空から時々落雷。(レムルース・ドラゴンが回復します)
 石が飛んできます。(敵味方双方負傷する場合があります)
 足場はよくありません。
 薄暗いくらいなので、光源の必要はありません。
 
 半焼けのワーム(翼をもった全長10メートルの大蛇)の死体が転がっています。ぬるぬるなので、足を取られないように気を付けて下さい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <黄昏崩壊>形は竜だけど竜種じゃないから、こいつは倒せ!完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ミスト=センテトリー(p3p010054)
伝承を語るもの
リスェン・マチダ(p3p010493)
救済の視座
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)
瀉血する灼血の魔女

リプレイ


「何だ、これは……」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の呟きは、岩をも巻き上げる風に千切れて、いずこかへ吸い込まれていった。
「終末があるとしたらこういう風景なのだろうか?」
 赤黒い空。むき出しの地層に礫岩。
「ヘスペリデスってこんな地獄のようなところだったんでしょうか」
 いやいや、そんなことはない。と、『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は、緩く首を横に振る。
「綺麗だったあの風景がここまで荒廃するとはね」
 ルーキスの脳裏に浮かぶ風光明媚な土地はまさにここだ。座標は寸分と狂いもない。
「話には聞いたことがある程度だが。自然を愛し、文化をはぐくみ、命が紡がれるいいところだったのだろう」
『新たな可能性』ミスト=センテトリー(p3p010054)が、見る影もないが。と、息をつく。
 所々で推し潰去れた若木の緑の香が断末魔の悲鳴のように鼻をくすぐる。確かにここなのだ。踏みにじられ、へし折られ、楽園からの落差が状況の深刻さを表している。
「死屍累々というか――地獄絵図ってまさにこのことを言うんだよね」
『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)は、顔を曇らせた。
「全部を飲み込んじゃってる感じがして、正直かなり怖いな」
 虚勢を張らず、思いのたけを等身大で口にできるのは咲良の強みだ。
 ごうごうたる風の音を乱す不況はオン。地獄に拍車をかけるもの。
 わだかまり、座す影。
 身の丈十間を越え、命の気配なく、声もなく、仇なす気配のみがひしひしと肌に突き刺さる。
『竜は倒せない。でも、レムルース・ドラゴンは竜じゃないから倒せる』
 正確に言うと、「倒す目がある」「倒せる可能性がある」であって、決して「一発殴れば死ぬ」ではない。
「ふうん。中々に凄惨な光景ですが……、本物の竜でもないならそこまででも無いですかね」
だからこそ、『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)がうそぶくのは心強い。
「また極端な話じゃないか」
ルーキスは、軽く笑った。
「これがオーダーだからやれと言われればやるのが私達の仕事だけど!」
 そうともと、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が応じた。
「――俺達は進み続けねばならん。俺達がイレギュラーズであるがゆえに」
 前を見据える。未だこの世界のあり様には戸惑うことも多いが、四白手はならないことはわかっている。
「この戦いは覇竜領域を、そしてそこに住まう亜竜種や竜種を、ややもすれば冠位魔種の魂すらも救うことになるかもしれない乾坤一擲の大事」
 実際、戦意鼓舞の意図があったとしても、乱暴かつ紛らわしい表現だ。
 それでも、竜そのものに相対す仲間の露払いとして。得物を取ってくれたイレギュラーズはいた。
『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)は素直だった。
「はい、わかりました」
 ミストも素直だった。
「やれるだけのことを頑張ろう」
 咲良も意を汲んでくれた。
「よっしゃ! 油断せずに頑張っていこう!」
 イズマは、竜種の慢心も諦観も許容する気はなかった。
「いずれにせよ「立ち去れ」なんて、今更聞いてやるものか」
 筋を通さなくてはならなかった。得物を手にすることに躊躇はない。
「俺達とて無関係ではないし放っておけない! あれを倒して、奥に進まねばならない!」


「短期決戦で行くぞ!」
 エーレンが檄を飛ばす。
「ワームさんかわいそうに、痛かったですよね。こんな無惨な姿にされて......」
 リスェンの呟きに、一同は足場への注意を新たにした。ワームからしみだした体液が固い大地を滑りやすくしている。少し油断したら、イレギュラーズ達もこうなる。
「レムルース・ドラゴン……光で回復するの、本当に厄介」
『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は、突出しすぎないよう地面から離れすぎないように飛行しながら、敵を分析する。
「僕の回復が奴まで回復しないと良いけど……攻撃する技も考えないと、かな」
 影の塊に見える。
「まあ厄介だけど――相手は一体だけだ」
 ルーキスは魔力を穢れた泥に変える。様子見の一発としてはまあまあ大規模だ。割に合うかどうかはともかく、レムルース・ドラゴンの運命が漆黒に塗り潰されたことは間違いない。
「何としても倒さないと、だね」
「空の輝きがお前の影を濃くするというのなら……昏い月を以て影ごと飲み込んでやろうじゃないですか」
 回復阻害のために、『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)は、世界の終わりに輝く狂気の月を披露した。ルトヴィリアは慎重にレムルース・ドラゴンにだけその神秘を披露した。そのムラサキを知るものは生から幾分遠ざかる。
「貴様を照らすのは光無き虚無! 狂気の月にして、あたしと言う黒い太陽なのだ!」
 呪文の成就に、魔女は更に言葉を重ねて術を強固に仕上げた。
 戦場のお膳立ては済んだ。
「俺は敵を引き付ける盾役として動く」
 覇竜に来てから出会ったワイバーン。イズマは『リオン』と名付けた。音楽を愛する穏やかな性格だが、乗騎として戦場を駆けてくれる。
 青い皮翼が羽ばたくと、ふわりと宙に浮いた。すかさず、イズマの周囲に魔力障壁が展開される。
 イズマは鋼の細剣を振るう。指揮者は主導権を握り、演奏を維持する。
 竜の形をした兄弟の影をひきつけ、仲間が細切れにするまで鼻面を引き回すのがイズマの役目だ。
 動くものはすべて敵の任ずる精神があればよし。その怨敵とは自分である。ただレムルース・ドラゴンを狙い撃つ揺るがせの一撃。
「来いよ、俺が相手だ。怒りも恨みも全部受け止めてやる」
 足場の影響を受けない程度の低空飛行。
 発達した上肢がリオンのしっぽをつかもうと突き出される、風圧で魔法障壁ががりがり削れる感触。
「少し待ってくれ、ミスト。その方が多分いいと思うんだ」
 ルーキスが手にした聖典から淡い光。こぼれる光はレムルース・ボラゴンに与しない。
「不吉系が通る通らないはさておいて――どれかは仇なしてくれんじゃないかな」
 高位術式による世界干渉。世界そのものから拒絶される苦しみとともにもたらされる重圧がレムルース・ドラゴンが持つ優位性を無効化する。
 手甲・脚甲を軽量化して総合化した改良型武装の上、海洋王国の精強部隊の一つ『レッドコート』の裾が翻る。かと思えば、ラサの傭兵が交渉で使う仮面を携えたミストの出自ははっきりしない。尋ねたところでけむに巻かれるだろう。
 だが、これだけは言える。今、レムルース・ドラゴンの前に躍り出たミストの腕は燃えている。
 レムルース・ドラゴンは動じない。影故に燃えにくい自分の性質を知っているのだ。
 が、一瞬、紅蓮の炎が巨大な影を包んだ。
 我が意を得たりと、ルーキスがほほ笑み、ルトヴィリアが哄笑する。
 呪われてあれ。この戦場に立つ魔女たちが竜の形の影に不運あれ、災いあれと言葉を紡ぐ。
 本来ならば焼けるはずのない身が炎に包まれる。
 巨大な影の間合いに次々とイレギュラーズが入り込む。
 通常ならば、それらをつかみ口元に運ぶことを優先しただろう。だが、今、レムルース・ドラゴンの怒りはイズマ一人に向けられている。
 低空飛行しているイズマを魔法障壁ごと押しつぶすべく、飛躍からの滑降攻撃を試みようとしている。戦機は一瞬だ。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。お前に恨みはないが、押し通る!!」
 エーレンが生まれた世界の抑揚で名乗り、駆け出す。一菱流(死極)暴式III――取り回しが難しい両手剣を難なく取り廻す熟練の腕。
「待ってたよ!」
 生焼けワームの異臭もなんのその、五感をフルに使って状況を知覚し続けていた咲良もエーレンの動きに合わせて、「乙女の勝負服」を起動させる。物理攻撃上等に調整された機械式の外殻は正義の味方大歓喜の逸品だ。
 機を逸することなどあろう訳がない。身につけた神衣がそう言っている。
「飛んでる相手だから――」
 その技の名前はデッドリースカイ。
『飛んでるのは殺す」『飛んだら終わり」「空にいるのは極めてヤバイ」そういう概念を一緒くたにした対空技である。
「クリティカルも発生しやすいよね!」
 桜の打点は真っ向勝負。空中でとらえた拳がレムルース・ドラゴンの鼻先を地面に縫い付ける。意識がそちらに傾いた刹那――エーレンが未だ宙に浮いていた腰部を上から刺し貫いた。盛大に岩とワームの焼けた血が宙に飛び散った。
 密集していた影の結合が緩み、竜の輪郭が幾分緩む。
「謝肉祭での削りに移行します」
 ぼそっと呟き、ルトヴィリアはエーレンが剣を引き抜いた跡の影がほつれた場所奥深くにに呪いを叩き込んだ。
「肉じゃないせいか、咲き具合が今一つ――」
 レムルース・ドラゴンのほつれた「傷口」は刃はこぼすが、肝心のルトヴィリア好みの花を咲かせてくれない。苗床として落第だ。
 竜の形をとった影も防戦一辺倒という訳ではない。
 しっぽが別の生物のように立体的に薙ぐ。
 イズマを狙うものではあるが導線上のイレギュラーズも巻き込まれる。一撃一撃が重い。吹き飛ばされれば戦線が薄くなる。巨体であるが故動かれると不確定要素が増える。
 咲良は重戦車のようにレムルース・ドラゴンに猛攻を仕掛け、その生命力をわがものとした。
「あんな奴に、誰も倒れさせない……!」
 祝音の声が、癒しの光と共に傷口にしみとおる。イレギュラーズ達は傷がふさがる熱さを感じ、それぞれ萎えかけた足を踏ん張り直す。
「形だけでも竜を気取ってるだけはありますか……!」
 ルトヴィリアは魔性の直感の指し示すまま、イレギュラーズに号令を投げた。
「次は私が――!」
 イズマに福音の幻想を示したリスェンが次の指揮を請け負う。
 ミストも細やかに癒しの技を前線で使った。
 状況を何度でも立て直す。
 強大な影の濃度が少しずつ薄まり、散漫となり、そうすべき時が巡ってくる。
「火力があってもエダークスは名前通り大食いだからね、リソースは大切に切らないと」
 ここまで、遠中距離からレムルース・ドラゴンにダメージを与えつつ弱体化させていたルーキスが満を持して前に出る。
「ここまで、たとえ模造でも竜は竜だ。それ相応の手で以て対応するとも!」
 宝石を核とした仮初の剣を一閃した。
 機をうかがっていたのはエーレンも同じだ。防御をかなぐり捨て、ただその機だけをとらえる存在に自分を押し上げ、ルーキスが切り払った影の奥。ただそ庫だと思える一点を貫くことに集中する。
 えてして、影は竜の形を維持することを放棄せざるを得なくなった。
 最後の塊をここまで注意をひきつけ続けたイズマのワイバーンが突き抜け霧散させる。
 後にはえぐれた地面とワームの死体だけが残った。


 前線に立ち続けた咲良とエーレン、ミストは声もない。
 リスェンが飛んでいき、それぞれに回復を施す。
「結局女神の欠片ってなんなんだろうねぇ」
 ルーキスがぱたんと魔導書を閉じる。
「レムレースドラゴンを生み出すのもそれなんでしょう?」
「あるべき形を見失い暴走してたら、この崩壊は止められないよ。元凶には、ここを愛してるのに壊す事しかできない者がいる。」
 問い続けてくれたワイバーンをいたわりながら、イズマはかぶりを振った。
「だから俺は、確固たる意志で踏み込んで止めてやるんだ。歪みを受け止めて、正すまで、やり遂げる!」
 イズマのワイバーンの手綱を握る指に力が入った。
 霧散したレムルース・ドラゴンから得られるものはなく、あわよくば研究材料として回収したかったルトヴィリアを少なからず落胆させた。
 何に使えるかわからなくても未知の素材があったら回収したいのが魔女である。
「まあ、敵の血塗れにならないというのは、実体のない相手故の利点ですかね……」
 戦闘の後、流れ出ていたワームの血も砂や岩に散らされて足を取られる心配はもはやない。
「開けたままでは――」
 治療を終えたリスェンは、ワームの死体の裂かれた口を閉じて、眠っているような姿に整えた。
 体が弱く、内向的な少女時代を過ごしたリスェンにとって動物は心を許し寄り添える存在だった。
 そして、フリアノン出身であるリスェンにとって、ワームは動物の一種。屍をそのまま放置することはできなかった。
「せめて安らかに眠れますように」
 地上に降りた祝音の手から使い魔の鳥が放たれるが、不意に現れる魔物に食べられるのではないかと思うと、遠くへ飛ばす気にはならない。
 今から別のレムルース・ドラゴンと連戦はさすがに自殺行為だ。
 せめて、祝音の鳥が飛ぶことによって、巨竜の力の残滓に祝音の願いが届くことを祈る。
(フリアノンさん……お願いだから、僕等の邪魔はもうしないで下さい。ベルゼーを苦しめるだけなら、何も手を出さないで下さい)
 濁った空を飛ぶ、祝音色の鳥はひどく目立った。今にも魔物が現れ、アギトに収めてしまってもおかしくなかった。
 あまり遠くまでは飛ばせない。だけれど、飛ばすことはやめられなかった。
(……女神の欠片を集めた事、無意味どころか邪魔になったなんて思わせないで……!)
 鳥は飛ぶ。風はさらに奥へ向かって強さを増していく。吸い込まれそうになったので、祝音は鳥を手元に戻した。
 さらに奥に攻め入るイレギュラーズ達の行軍に障るモノはもういない。ただ、整えられたワームの遺体があるだけだ。

成否

成功

MVP

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。皆さんの働きにより、ほかの舞台の行軍がスムーズになりました。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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