シナリオ詳細
<黄昏崩壊>彩度を喪う
オープニング
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ヘスペリデス。
其れは偽りの楽園。
ベルゼーが竜種と共に作り上げた、かりそめの新天地。
偽りは、かりそめは、しかし直ぐに崩れ去る脆いもの。
いつか滅亡する事を定められた須臾の楽園。
ベルゼーは心優しい“里おじさま”だったけれども、冠位魔種であるがゆえに。
其の宿業からは逃れられぬ故に。
見ると良い、ヘスペリデスが彩度を失っていく。
花は枯れ、空は澱む。雷が天と地を繋ぎ、森の奥の奥にあったはずの楽園は、天変地異の先触れの地と化そうとしていた。
そうして――誰よりも激しく怒り、嘆いたのは、“女神の欠片”であった。
ヘスペリデスを護る。
其の一念は黒く凝り、其れは影となり、竜の姿をなして――そうして竜種の楽園に、紛い物の竜が跋扈するようになった。
●
――何故このような事になっているのだ。
彩竜“ラ・ルゥラ・ルー”は咆哮する。
若き竜には判らない。破滅を抱えたベルゼーの思いも、其れを阻まねばならないイレギュラーズたちの悲喜こもごもも、若き彩竜には判らなかった。
ただ、ただ。
ラ・ルゥラ・ルーは食い千切った黒影の竜――“レムレース・ドラゴン”の欠片をぺっと大地に吐き落としながら、抑えきれぬ怒りに震える。
彼の身体は傷だらけだった。レムレース・ドラゴンに驚き、慄き、しかし敵であると認識した彼は、只管にこれまで戦い抜いてきたのだった。
――ベルゼーの為す事に、間違いなどありえない。
――我々の楽園を作ったあの男に、瑕疵などない。あってはならない。
――何故ならば彼は、我々竜種が認めた存在なのだから!!
ラ・ルゥラ・ルーの頭を埋め尽くすのは、其の一念。
「赦せぬ」
呟いた。
そう、赦せなかった。
「赦せぬ、赦せぬ!! “我々を模倣する”影!! 崩れ行く楽園!! 全ては間違いなくあの“ヒトの形をしたもの”の所為にほかならぬ!! 我々が何をした、我々が何か間違いをおかしたか!! 否!! 我々はただ安寧を求めただけだ! そう、……ベルゼーは、安寧を求めただけだったのだ……!! 其れを邪魔する者どもに、最早容赦の余地なし!!」
空を食い千切る。
周囲にいた黒影の竜たちが、己の存在意義を“噛み砕かれて”惑う。
そんなものたちなら、ラ・ルゥラ・ルー、若き竜でも尻尾の一払いで十分であった。
「赦せぬ!! 我が全てを打ち払い、再びヘスペリデスに彩りを取り戻す!! そう、我こそは彩の名をして畏れられた竜なれば!!」
若き竜は憤怒に吼える。
彼の考えが何もかも間違っている事を指摘する者は、其の場にはいなかった。
- <黄昏崩壊>彩度を喪う完了
- GM名奇古譚
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年06月30日 21時45分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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雲が立ち込めていた。
黒々とした雲は、ごろごろと其の内側で雷を閃かせ。
そうして――
怒れる極彩色が、森だったはずの周囲を荒野に変えていた。
木々は倒れ、焼かれ、草は焦げ果てて、最早見る影もない。鳥たちは既に争いの気配を察して飛び立った後。其処にいたであろう、屈強な獣たちもまた。
そして何処から来たのか、何処へ行くのかも定かならぬ影の竜たちは彩竜によって駆逐され、――誰も、何もいなくなった其処に踏み入る勇気あるものは、最早特異運命座標たちだけだ。
「随分とご立腹じゃねえか。其れとも……何だ? 若さゆえの暴走ってぇのは、竜にもあるものなのかね」
『老兵の咆哮』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が片刃剣を担ぐように構え、ラ・ルゥラ・ルーを見据える。
傷だらけなれど其の覇気は健在。『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)はごくりと唾を呑み込んで其の巨体を見上げた。
――傷付いて尚、美しい。
――だからこそ、恐ろしい。
『楽園を脅かす木っ端共が、我に何用か』
「タイソウお怒りだね。でも濡れ衣だよ。何事にも変革期は訪れるモノでしょ?」
肩を竦めて、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が言った。嘗て、ベルゼーが齎した改革は"平穏"であった。だが、今度は"破壊"を齎そうとしているのだと。
『在り得ぬ!! 我らの友たるあの男に、そんな瑕疵などあってはならぬのだ!』
「あってはならぬ。貴方はベルゼーに何を求めているの? 完璧さ? 高潔さ?」
薊色の髪を、今は“何者にも染まらぬ”と揺らして――『銀すずめ』ティスル ティル(p3p006151)がラ・ルゥラ・ルーを正面から見上げた。
劣ってはならない。
傷があってはいけない。
欠点があってはいけない。
其れは願いのような呪縛だ。若き竜であるが故の盲信だろうか。其れは翻せば、『ベルゼーの友たる己は瑕疵なき存在である』という傲慢に他ならない。
事実、何を求めるかとの問いにぐ、と口ごもった彩竜が其の証左だ。
『約束の瓊盾』星穹(p3p008330)は、其の竜を覚えていないが。
だが、身体は覚えているものだ。この竜を前にすると血液が沸騰するような感覚を覚える。其れは恐怖のような歓びだ。
この竜と刃を交わした事がある――
其れを何よりも強く、強く。星穹の肉体は覚えている。
「こんなん状況なってもまだ判らねぇか。ならしゃぁねぇ! 殴って止めて、教えてやらぁな!」
『天を見上げる無頼』唯月 清舟(p3p010224)が前衛として前に出て、拳を打ち合わせる。
其れを『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)は見ていた。仲間たちを。そして、宙を泳ぎ雷鳴を呼ぶ彩竜を。
「大好きな覇竜を、護ります。……人と竜を繋ぐ架け橋としてベルゼーさんが願った、この地を護ります」
思い出せない、じゃない。
思い出すんだ!
ずっとずっと思ってきた。覇竜の地、其処に生きるすべてを大切にしたかった。
ベルゼーでさえ、助けられるなら助けたかった。
ずっとずーっと! そう思って来たのだから!
『木っ端は木っ端らしく、隅で寄り集まっていればよいものを!!!』
彩竜が咆哮する。
論破された? 黙らされた? そんな事があるものか!
このラ・ルゥラ・ルーに間違いなどない! ラ・ルゥラ・ルーが信じたベルゼーという男に間違いなどない!
「話を聞いて引き下がってくれそうには……ないっスね!」
オレ達も此処を引く訳にはいかない。だから!
少しでも早くお帰り頂くっス!!
●
『雷も従え得ぬ木っ端が!!』
ラ・ルゥラ・ルーが吼える。
其の一声で雷が天を満たし、雨のように降り注ぐ。
清舟が正しきを見定める。武具の刀を正眼に構え、集中すれば散らせない不調ではない。
「なぁ。覚えとるか!? またあったのぉ!!」
跳躍。
幻想を穿つ一手は空を切る。ラ・ルゥラ・ルーが空を舞って避けたのだ。
「この間は余裕綽々だったんがなくなっとるじゃねぇか。なぁ、駄々こねてもなんも変わらんって気付かんか?」
てめぇら竜共に過ちがない。本当か?
そうじゃねぇ。そうじゃねぇだろう。誰だって道を誤る。どんな偉大な存在だってそうだ。偉いも強いも富むも、みんな間違える。
「儂らヒトも、おんしら竜も! 誰だって完全になんかなりゃせん!」
『我を間違っていると! 嘯くのか!」
「何度でも言ってやらぁ!! 誰にだって過ちはあるんだよ青二才が!!」
バクルドが両腕内部から、鋼鉄の球をそこら中にばらまく。其れ自体がラ・ルゥラ・ルーを傷付ける事はないが――凄まじい磁力の嵐が其の荒野に吹き荒れた。
ぐらり、と竜の感覚がふらつく。
「そもそもさ、冠位魔種なんて天災みたいなモノなんだ」
イグナートが跳ぶ。
まるで雪崩れる滝のように――刻み付ける終焉は、既に何戦かを終えたラ・ルゥラ・ルーを叩いた。
彩竜が游ぐ。
尻尾をゆらゆらと揺らしたかと思うと、鞭のようにしならせた。
其れを防ぐのは星穹とトールである。
「――彩竜! 歯牙にもかけないヒトに怒りを抱き、鮮明さを喪うとは。彩の名が泣きますね! ならば其の彩の名、極光を宿すこのトール=アシェンプテルに譲って頂きましょう!」
『ヒトが付けた我への畏れを貴様が纏うと? 其の傲慢さ、今に後悔する事になるぞ』
「……無茶な挑発をしますね」
星穹がそっとトールに言う。
そうでしょう、といっそ自慢げに言って、トールはにっと笑ってみせた。
「これくらいしないと、竜の興味は買えませんから!」
「……ええ。確かに、竜の興味は……そして敗北は高くつきそうです」
つられて星穹も笑う。そうして続けて降ってきた雷に、星穹は己を中心にした仲間を癒し、其の痛みを夢幻へと還す。
花吹雪のように、ティスルがほむらを舞わせる。落雷で花が散るように舞うあけいろは、其れだけでも幻想的だが――しかし雷も焔花も、どちらも恐ろしいものである。
彩竜の鱗が炎を浴びる。不調を弾く彩の加護を連戦で喪いつつあるのだろうか。ダメでもともと、と特異運命座標たちがけしかける不調の数々は確実にラ・ルゥラ・ルーの体力を削りつつあった。
「多少体力を削ったくらいじゃ、帰ってくれそうにないっスね……!」
ライオリットの一撃が、其の速度を攻撃力へと変えて放たれる。
強かに鱗を、其の下の肉を叩かれて、若き彩竜は悲鳴を上げた。
「貴方が、ベルゼーさんを信じるなら!!」
穢れた泥が、渦を巻いて彩竜を傷付ける。
けれどユーフォニーは言葉を紡いだ。
「一緒に信じましょう! 取り戻したいなら、取り戻しましょう! 私は、私はベルゼーさんにもう一度会いに行きたい! こんな状況、止めたい! 助けたい、何とかしたい!! だから、一緒に――」
『――……アァ、アアアアア!!!』
怒れる彩竜は言葉すらも忘れ。
其のアギトを大きく開くと、がぶん、と宙を噛んだ。
●
――……あれ?
ユーフォニーは周囲を見回す。
気付けば自分は傷だらけで、……仲間たち、だろうか。周囲の人間も、戸惑ったように周囲を見回していた。
――私、何をしにきたんだっけ。
覇竜に来た。其処までは覚えている。
探索をしていた。其処も覚えている。
なのに、どうして目の前にうつくしい色の竜がいるのかが判らない。私、この竜と戦っていたのかな?
ふと、ユーフォニーは腕に何かが書かれている事に気が付いた。
黒いペンでしっかりと書かれた文字を読む。
“大好きな覇竜を護るため”
“人と竜を繋ぐ架け橋としてベルゼーさんが願ったこの地を、護る為”
バクルドは何故竜と戦っているのか、と自問していた。
周りの仲間も判らないのだろう。苛烈な竜の猛攻を受けて、仲間が傷付いていく。
――何故だ?
理由が判らない。
そうして目の前の竜はにやりと笑うと、天に上るかのように宙にとぐろを巻いて、雷鳴を呼び……
雷。
忘れる。
竜。
……竜?
「ラ・ルゥラ・ルー!!」
老兵の咆哮に、はっ、とイグナートは思い出す。
まるで雪崩のようにやって来る、記憶の波!!
「――これが、ラ・ルゥラ・ルーの能力か……なかなかにヤッカイだね!」
戦う理由すらも食って忘れさせてしまうなんて!
ティスルが若干悔しそうな顔をして、イグナートの言葉に応える。
「本当ね……!! 私も、危うく何もかも忘れちゃうところだったわ! 星穹さん、トールさん、大丈夫!?」
「――ええ、大丈夫、です……! 何とか今回は、腹を裂く必要もなく記憶を取り返せたようで…!!」
――本当なら、前に食われた分も取り返してやりたいのですが!
星穹は癒しを振り撒きながら、傍らのトールを見る。清舟と交代しろ、と目線が語る。
「まあ正直ですね、私、この戦いで何を口走ったかまだ思い出せていないんですが……! 清舟さん!」
「おうさ! 交代だ、トール!」
清舟が盾役に入り、トールは後方で回復を紡ぐ。
一体何秒の間呆けて立っていたのかは定かではないが、誰も倒れていないのは僥倖だった。
悔し気に彩竜が薙ぎ払う尻尾を、猪鹿蝶の三撃を重ねる事で弾くように耐えると、にやりと清舟は笑った。
誰も倒れてねぇ。
誰も倒れてねぇ!
「最後まで立ってりゃ儂らの勝ちじゃ!! 気張ってくぞ!」
「おぉおおおッ!!」
ライオリットが再び双剣を振り翳す。宙を叩くように舞い、ラ・ルゥラ・ルーへと肉薄する!
「ヒトのことを、他愛もない存在だと思っていたんスよね! でも、今はそうじゃないんじゃないっスか!?」
『――何を!』
「自分が今まで思っていたものとは違う……其れはきっと、ベルゼーの権能も同じっス!」
致命の空。
ライオリットの双剣が、紫と桃色で彩られた其の美しい翼の片方を――ざむ、と抉り裂いた。
「退いてください! そして、考えてほしいっス!! いま自分がすべきことは本当は何なのかを!!」
ぐらり。
ラ・ルゥラ・ルーの巨体が揺れる。
翼こそ喪ってはいないものの、しとどに血で濡れた片翼。彩竜は繰り返す痛みと出血、数々の不調に耐えながら……特異運命座標たちを睨み据えた。
『……其処な小さきものに、諭された訳ではない』
ゆっくりと宙を舞い、ラ・ルゥラ・ルーという脅威は背を向ける。
『我は、我の肉体を癒すために――退くのだ』
●
「全く、終わった後のこれが嫌なんだよなァ」
「あはは」
「手伝ってくれてありがとよ、嬢ちゃん」
「いえいえ。だって、バクルドさんのお陰でみんな思いだせたようなものですし」
ユーフォニーとバクルドは鉄棒を持って、荒野のあちこちを歩き回っていた。
かんこんきん、と音を立てて磁力を持った鉄球が鉄棒にくっつく。最初にラ・ルゥラ・ルーの姿勢を崩した磁力の嵐の原因たるこれは、後片付けが非常に面倒なのである。
「皆、大丈夫?」
一方。星穹とトールは戦いを終え、傷付いた仲間たちに治癒を施していた。
「ありがとう。……それにしても、恐ろしい力ね。記憶を食べてしまうなんて……ぱちくりとしてる間に誰かが噛まれるような目に遭わなくて良かったわ」
「そうだね。まあそこは……多分ラ・ルゥラ・ルーもタイセイを立て直すので精一杯だったんじゃないかな? かなりレンセンした後だったみたいだし」
ティスルのつぶやきに、どうせなら万全の状態で戦いたかった、と零すイグナート。戦いを求める其の姿に、なっはっは、と清舟が笑った。
「なぁに、そういう時はそういうモンが来る! 再戦したいと思っとるのはこっちだけじゃねぇだろうしな。向こうもきっと今頃怒髪天じゃ」
「……」
「……ライオリットさん。どうしたの?」
何処かぼんやりと空を見上げていたライオリットに、トールが声をかける。
少なからず傷付いている彼に癒しの術を施していると、いえ、と間を置いて彼は呟いた。
「ラ・ルゥラ・ルーは考えられるのかなぁって。思ってたっス。あんなに自由に飛べるのに、あの竜はなんか、不自由な気がして」
「……不自由……」
「……あぁ、いや! 単に想像っスけどね! ははは、はは……」
「……そうかもしれないね」
先程までの雷鳴が嘘のように晴れ渡った空を見上げて、トールは言った。
つられるようにライオリットも空を見る。抜けるような青い色。雷鳴纏う彩竜は、――この青を。縛られぬ自由を、知っているのだろうか。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
彩竜は、考える。
己が此処に居る意味を。
小さきものが言葉を尽くした意味を。
瑕疵なくあれ、その意味を。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
楽園が崩壊しようとしています。其れを嘆き、怒る、一頭の竜がいます。
●目標
彩竜“ラ・ルゥラ・ルー”を撃退せよ
※斃す事は出来ません!
●立地
ヘスペリデスがあると目された地の西側に、ラ・ルゥラ・ルーが激しく争った跡があります。
イレギュラーズが相対する時、ラ・ルゥラ・ルーは傷だらけです。其の場に現れた影の竜、レムレース・ドラゴンと訳もわからず交戦した後だからです。
ゆえに戦地は荒れています。
これ以上荒れても問題はないでしょう。
●エネミー
彩竜“ラ・ルゥラ・ルー”x1
レムレース・ドラゴンは全て撃破された後です。
めちゃめちゃに怒っている彩竜のみがエネミーとなります。
操るのは主に雷です。あと、怒っているので原始的に噛み付いたり、尻尾を振り回したりしてきます。
さらにめちゃくちゃに記憶を噛み千切り、貴方がたに抗いがたい停滞を与える事もあるでしょう。
いわば手負いの獣です。手負いですが竜種ですから、撃破はできません。撤退させられるかどうかといったところです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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