PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Antiqua Periculum

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 椅子に座っていたのは、老齢の男だった。
 白く脱色された髪は後ろになでつけられ、眉は長く口元にはうっすらとだが髭が生えている。
 顔に寄った皺の深さから、最低でも50台は越えているのは確実だろう。
 だがそんな年老いた顔つきとは裏腹に、彼の背筋はぴんと伸び、杖を手に持っているにもかかわらず彼がその杖を使わなければあるけないというような印象はぴくりとも抱かせない。
 どころか、彼の鋭い目つきは猛禽類のように鋭く周囲をにらみ付けているようにすら見える。
 今仮に剣を持った野党が彼に斬りかかったとして、おそらく数秒と立たず反撃し鎮圧しきってしまうだろうとまで思わせる雰囲気が彼にはあった。
 そんな彼は、ドアベルを鳴らし現れたあなたに視線を向けるとニッと口の端だけで笑って見せた。
「待っておったぞ。イレギュラーズ」
 そう、まるで長年の戦友へ向けるような、そんな笑みで。

 彼、レオナード・アインウッドは鉄帝国の軍人である。
 元は中央の都市警邏隊の出身であり、先の冠位憤怒を相手取った壮大な戦いの中でローレット・イレギュラーズに味方し戦った退役軍人でもあった。
 退役していてもまだ肉体は現役といった有様で、当時は両手斧とスチームパンク風の鎧を纏いモンスターを両断する姿が目撃されていたほどである。
 そんな彼が今何をしているかと言えば……。
「フン、しがない『なんでも屋』だ。軍とのやりとりは残っているがな」
 自嘲するように言うと、レオナードは運ばれてくるコーヒーに目を向けた。
「現在、鉄帝国の軍部は疲弊しておる。その理由はわかるな?」
 これについては有名だ。
 鉄帝国参謀本部のグロース・フォン・マントイフェル将軍が魔種となり、その配下に入った多くの軍人達が魔種側へとついた。そのため戦いは激化し、人類側の勝利と相成ったわけだが……結果として魔種側についた軍人達は軍から抜ける形となり、軍は必然的な人手不足に陥っている。
「つまり、力が必要だ」
 ドンと杖で床を叩いてみせるレオナード。
 ここまでの話からすぐに『力』に行き着く論調は、さすが鉄帝軍人といったところだろう。
「幸い、先の戦いの末に集まった情報には埋没した古代兵器に関するものもいくつかあった。
 回収にやや危険を伴うために先送りにしたのだろう。連中とて、資源が無限にあったわけではないだろうからな」
 当時鉄帝は未曾有の大寒波に襲われ誰もが飢えに苦しんだ。徴収という名の略奪を繰り返し資源を蓄えていたグロース師団側とて裕福であったとは言いがたい。
 そんな彼らが資源不足ゆえにとりのがした古代兵器というのは、なるほど確かにこれからの鉄帝国に必要な軍事力のひとつだろう。
「他にもいくつもの計画を動かしておるが、これはその中でも優れた者たちにしか任せない仕事だ」
 レオナードは地図を出し、あるポイントにドンと指を置いて。そして先ほど見せたようなニッと笑う口端だけの笑みを浮かべた。
「つまり、イレギュラーズ――お前達に任せたい」

 ヴァルキリアン遺跡。
 レオナードは場所の名前をそう述べた。
「ヴァルキリアン遺跡は古代文明が埋没しておる。上等なパワードスーツや武装だな。お前達にとってはそれほど価値のあるものではないだろうが、軍を強化するという点では価値がある。わかるだろう?」
 軍というのは集団だ。最高級の装備を一人だけに与えるより、そこそこの装備を全員に配った方が運用における価値が高いと彼は言いたいようだ。
「運び出しの人員は整えてある。だが問題はヴァルキリアン遺跡を守っておる機械生命体どもだな」
 ヴァルキリアン遺跡には機械でできた大蛇や恐竜めいた怪物、または自律するパワードスーツなどが出現する。
 おそらく冠位憤怒の波動を受けて活性化・凶暴化したものがそのまま徘徊しているのだろう。
 そうなれば手出しするのは難しい。
「お前達の仕事はこの機械生命体たちを排除することだ。この国を救ったように、その力を奮ってほしい。頼んだぞ?」
 レオナードはそこまで言うと、前金にあたるコインの袋をテーブルにドスンと置いたのだった。

GMコメント

※こちらはライトシナリオです。短いプレイングと選択肢のみで進むアドリブいっぱいのライトな冒険をお楽しみください。

 ヴァルキリアン遺跡へと突入し、現れる機械生命体たちを破壊しましょう。
 遺跡といっても非常に開けた場所で、古代に作られたであろう石柱や床板などが散乱している場所で、天井のない場所も多いようです。
 ここに入り、襲いかかってくる機械生命体を排除すれば依頼は成功となります。

●一口プレイング
 あなたの得意な戦術や、好みの戦闘エフェクトについて語ってみてください。
 武器が変形したり、足元から闇の眷属を召喚したり、太陽のプリズムを操ったりなど楽しい演出を盛って戦闘描写をお楽しみ頂きます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


アドリブクローズアップ
 このシナリオは戦闘描写が多く、スタイリッシュに演出されます。
 武器や技など全般的にアドリブが入りますが、特に注目して描写してほしい部分を選択してください。

【1】武器
 装備している武器やアイテムをクローズアップします

【2】スキル
 活性化しているスキルをクローズアップします

【3】非戦・ギフト
 戦闘のフレーバーとして用いられる非戦スキルやギフトをクローズアップします


戦闘スタイル
 ここではあなたのバトルスタイルを選択してください。

【1】アタッカー
 率先して攻撃スキルをどかどかと撃ち込みます。
 威力やBSなど形は様々ですが、あなたは頼れるチームのアタッカーとなるでしょう。
 相手にバフをかけたりするのもアタッカーに含まれます。

【2】ディフェンダー
 優れた防御ステータスを用いて敵の攻撃を引き受けます。かばったり引きつけたりは場合によりますが、あなたがいることで仲間のダメージ量は大きく減ることでしょう。
 味方や自分を治癒することで戦線を支える役目もここに含まれます。

  • Antiqua Periculum完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月11日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
古木・文(p3p001262)
文具屋
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
秦・鈴花(p3p010358)
未来を背負う者
リスェン・マチダ(p3p010493)
救済の視座
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ


 軍用ジープが停車し、男たちがぞろぞろと車両から降りてくる。
 サングラスにスキンヘッドといういかにも屈強そうな男が荷台からキャンプセットを下ろし、それらの設営を始めている。
 その一方で、『結切』古木・文(p3p001262)は芸術的な手際の良さでキャンプ用コンロと調理セットを組み立てていた。
 まるで機械工場のマジックハンドのような精密さと素早さだ。横から見ていた『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が思わず『ほう』とため息をついてしまうほどに。
「運び出しチームは暫くここで休憩をとるそうです。僕らも一仕事する前に休憩しましょう」
「なるほど。そういうことであれば、悪くありませんね」
 オリーブは今一度周囲を見回してみた。
 運び出しチームというのは今回の依頼人レオナードが手配した『何でも屋』である。というより、彼自身の有する組織だ。誰もが屈強で、オリーブの目から見ても元軍人と思われるような体格や顔つきの者は多い。おそらくグロース政権下において魔種の命令を嫌って軍を抜けた者たちが集合したのだろう。
 そのまま軍に戻らなかったのには、それなりの理由がりそうだが……。
「ねえ、休憩って何するの? 火を付けるみたいだけど……バッファローデミドラゴンでも丸焼きにするの?」
 キャンプセットの前にかがみ込んで、『秦の倉庫守』秦・鈴花(p3p010358)が灯る小さな炎を指さした。火力弱くない? とかいいながら。
「いくらキャンプだからって丸焼きはしないかな」
「コーヒーセットがあるの。こういうときのためにね!」
 『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)がじゃじゃーんと言って可愛いリュックサックから焙煎済みのコーヒー豆が入った缶を取り出してみせる。加えて金属製のメッシュフィルターも。
 更に折りたたみカップを人数分取り出すフォルトゥナリアに、『こそどろ』エマ(p3p000257)がえひひといつもの引きつり笑いを浮かべる。
「カフェや酒場で休憩するのもいいですけど、こういうのも、えひ、悪くない……ですよね?」
 お湯が沸くのは案外早い。魔法のポットを使っているからだろう。早速淹れてくれたコーヒーを手に、『あったかい』と呟くエマ。
「今回の依頼は、確か古代兵器の回収でしたよね。そのために、危険なモンスターを排除しよう、と」
 マントについた皺を手でささっとはらって伸ばしてから、『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)は折りたたみの椅子へと腰掛けた。
 同じく椅子に腰掛ける『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)。
「回収はこいつら、倒すのは俺ら」
 ピッピと周囲の男たちと自分たちを指さしてから、クウハはコーヒーのカップを受け取る。
「クウハさんはなんでこの依頼を?」
「ま、デカい理由はねえな。『丁度良い機会』だったからってだけ」
「?」
 小首をかしげるリスェン。リビルド前に爽快なコンボをぶっ放したい、という理由まではクウハは話さないつもりのようだ。
 そうこうしていると、『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)が翼をゆっくりと羽ばたかせながら空から降下してくる。
 最近になって眼帯下の左目を気にするような仕草をよくするようになった彼女だが、空を飛ぶうまさは何も変わっていないらしい。それこそ羽根が地面に落ちるようなやわらかさと静かさでスンと砂の地面へ着地する。
「偵察は済みました。この辺りは安全ですよ」
 一応『何でも屋』たちも安全確認はしているので、ここまでの言葉はただの確認にすぎない。本命は次だ。
「機械生命体たちは既に活動を始めています。こちらの存在に気付いてはいるようですが、近づいてくる様子はありませんね」
「縄張りからは出ないつもり、ってことだろ」
 クウハがコーヒーをふーふーとさましながら呟くと、チェレンチィは頷いた。
「当然、迎撃の用意があるということですから……突入の際は警戒を」
「そうね、お疲れ様!」
 鈴花は『はい!』とチェレンチィにコーヒーのカップを差し出した。


「■■■■、■■■――■■■■■」
 もはや言葉として認識出来ないほど濁った声を発し、パワードスーツがゆっくりと立ち上がる。
 対して、ザッザッと砂を踏む力強い足音。
 近頃強まった日射によって、鉄粉交じりの砂には陽炎がたっている。陽炎の向こうから、長身の女が歩いてきていた。
 誰有ろう、鈴花である。
『敵を発見。一人で行けるわ。私のほうはいいから、他の仲間の支援をお願い』
 後方支援をしていたリスェンのハイテレパス通信に答えると、『オーバー』といって通信をきった。
 鈴花は歩きながらチェレンチィの偵察結果を思い出す。
 フィールド内の機械生命体はあちこちに散らばっており、それらを個別に撃破するのは難しくなさそうだ。厄介なのは、それらが一箇所に集まって協力し始めた時である。
「バラバラに戦ったほうが効率がいい、ってわけね。オーケー」
 鈴花はラグビー選手のようにズンと前傾の姿勢をとると、そこから一気に走り出した。
 パワードスーツはバチバチと両腕から何かをスパークさせ鈴花へ殴りかかろう――とする矢先に強烈なタックルを叩き込む。
 相手の身体が浮く。空のドラゴンロアを発動させ、空中を強く蹴ったのだ。
 そのまま鈴花は空中をけり続けるとパワードスーツを高く上空へと浚い、掴んだじょうたいのままぐるぐるときりもみ回転をしかけた。
 それが見上げるほどの高さに達したところで急速反転。いわゆる百舌落としと呼ばれるきりもみ回転の投げ技が、倒れた石柱に激突する形で炸裂する。

「派手だね」
 遠くから様子を見ていた文がハハッと笑い、ポケットから取り出したクロスで眼鏡のレンズを拭う。あらためて眼鏡をかけなおすと、文は敵を観察した。
 ズズッと鉄粉交じりの砂の地面をかき分けて、大蛇のごとき機械生命体が姿を見せる。文などひとのみにしてしまいそうなサイズだ。
 が、文は恐れるところか引きもしない。
「ここは三人がかりで行こうか――フォルト、オリーブ」
「うん! 防御は任せて!」
 フォルトゥナリアは杖を一度くるりと回すと、垂直に立てて突き出すように構えた。大して大蛇ががぱりと口を開き、その内側から大量の生態ミサイルを露出させる。ぎょろぎょろと目のようなセンサーが周囲を確認した後、一斉発射。強酸や可燃性物質によって爆発と炎上を狙った生態ミサイルがフォルトゥナリアへ殺到する――が、杖の先端についうた星ほオブジェクトが目映い光を放ち、美しい模様の入った魔術障壁が展開される。
 激しい爆発と炎が周囲を包む中、フォルトゥナリアの障壁内に満ちた勇気の光が仲間達にできた傷を瞬時に癒やしていく。痛みすら感じさせないほどに素早く、傷があったと思わせないほどに完璧に。もはやそれは、攻撃を消し去ったといって過言ではないだろう。
「――『絶対守護宣言』!」
 あえてその誓いの名前を声に出す。ドンとたてた杖はフォルトゥナリアを中心に放射状の光を放ち、勇気の光を浴びた大蛇は思わず目の色を変えた。
 そうだ、見よ。フォルトゥナリアの見開いた両目の輝きを。かつての世界において、魔王に対抗するための切り札を。彼女の燃えるような勇気を、敵ですら無視できない。
 直接噛みつこうと襲いかかる大蛇。今度はこちらの攻撃が始まる番だ。
「――」
 オリーブは短く呼吸を整えるとロングソードを手に大蛇へと突進する。
 フォルトゥナリアへと食らいつくその動きを逆に利用し、剣を相手の胴体に突き立て切り裂く動きだ。
 彼の剣は見事に機械生命体のボディに突き刺さり、強引にでも仲間に食らいつこうとするその動きを利用しばりばりと破壊を進めていく。
「さて、と」
 文は懐から白紙『折鶴』を取り出した。手帳に擬態したそれを開けば、呪いが漉きこまれた白い紙束が現れる。
 胸ポケットから抜いた万年筆でさらさらと紙に紋様を描いていく。
 文字と図形で混合されたそれは精霊術の呪術が混ざり合ったものだった。
「契約完了。今だけ、よろしくね」
 ピッと紙片を切り裂き二本指で挟んで持つと、文はそれを顔の上に翳すように振った。
 途端炎があがり紙片が燃え尽き、疑似契約が完了した炎の精霊が出現する。
 腕組みをしたそれは大蛇めがけて突進し、開いた口へと自らを突っ込ませる。
 直後、大蛇の内部でドッドッという破壊と爆発の音が幾度もしたかと思うと、大蛇が内側から破裂するように吹き飛び踊り狂った。
「済みましたか?」
「いや」
 文がちらりと振り向くと、周囲からボボボッと音を立てて小さな蛇型の機械生命体たちが姿を見せる。
「大物を囮にするとはね」
「また引きつけて――」
 フォルトゥナリアが杖を構えるが、大してオリーブたちは冷静だ。
「大丈夫です。やれます」
 オリーブは素早くクロスボウに武器を持ち帰ると、連射用のオプションを装着。回転レバーを回しながら踵を軸にゆっくりと上半身を回し精密かつ高速のクロスボウ連射を機械生命体たちに叩き込んだ。
 文も『そうだね』と呟くと、もう一枚の紙にさらさらと別の文言を書いて破り取る。
 先ほど自然に還ろうとしていた炎の精霊が戻ってくると、小さな火の玉の群れへと変化し別方向の機械生命体たちへと突っ込んでいく。
 たちまちのうちに、彼らを取り囲んでいた筈の機械生命体たちは跡形も無く破壊されたのだった。

「さぁて、ちゃっちゃとやっちゃいましょうか」
 鉄粉交じりの砂嵐。
 エマはマントをばさばさと靡かせながら長い髪を後ろで軽く結わいた。
 接近に気付いた巨大な蜘蛛型の機械生命体が立ち上がり、こちらの頭より高い位置まで身体を持ち上げる。口に当たる部分には丸鋸が回転し、二本の足がエマを捕まえようと持ち上がった。
「ふぅん?」
 エマはあえて立ち止まり。剣を鞘に収めたままの状態で胸を反らした。
 かかってこいといわんばかりの姿勢に、機械生命体はガシャガシャと足を鳴らしエマをつかみ取ろうと襲いかか――ろうとした瞬間には、エマはその場から消えていた。
 蜘蛛足の間を姿勢を低くして切り抜けると、その間に蜘蛛足を一つ切断。跳躍によって相手の上をとると、愚かにも既にいない場所へと振り返った機械生命体の頭上めがけてメッサーを突き立てた。
 ギギッとくぐもった音をたて、転倒する機械生命体。『まずは一体』と呟くエマだが、そこへ無数の生態ミサイルが殺到した。
 もはや動かない蜘蛛型機械生命体の上で爆発と炎上を起こす生態ミサイル。
 エマは直前で飛び退いてごろごろと砂の上を転がったが、そんなエマめがけて更に狙いをつけてくる。
 そう、砂の下からがさがさと姿を現したヤドカリ型の機械生命体が背負った生態ミサイルポットの門をそれこそ貝口のごとく開いたのだ。
「この数は厄介ですねえ」
「なら、選手交代です。私に任せてくださいっ」
 勇んでエマの前にゆるいスライディングをかけて現れたリスェン。
 ばさりと風に靡くマントを掴むと、そのマントで自らあの身を覆うように翳す。
 たかが布きれ。生態ミサイルの内包する強酸と可燃性物質の前には一瞬で焼ききれるだろう――などと機械生命体は判断しただろうか。だとしたら愚かとしか言いようがない。
 リスェンのマントには青い魔力の微光がコーティングされ、まるで星空のようにうすく煌めいている。
 エマを庇い爆発に包み込まれるリスェンだが、彼女のマントは焦げあと一つついていない。
 どころか、マントを振って炎を払うと手にした杖を天に掲げた。
 そこに込められたのは『魔法』であった。か弱い命を守るため。小さな幸せを謳うため。内気な彼女の一歩目を後押ししてくれる形而上の魔法。
 ある人は、それを『勇気』と呼ぶ。時にそれは世界を救う切り札になり、愛する人の涙を止めるハンカチになり、内気な自分が踏み出すための靴となる。
 今それは、自らと仲間を癒やす魔法の光へと転じた。
 柔らかく雨のように降り注ぐ魔力の微光が炎を消し去っていく。
「反撃、お願いします!」
「了解――」
 チェレンチィが彼女の頭上を高速で飛んでいく。
 更にはヤドカリ型機械生命体たちの頭上をも。
 チェレンチィを撃ち落とすべく生態ミサイルを空に向けて撃ちまくるが、チェレンチィはバレルロール機動をかけてミサイルを回避。更にはインメルマンターンをかけて追尾してくるミサイルを振り切ると自らの眼帯に手を触れた。
 細める目。過ぎゆく感情。それもたった一瞬のことだ。
 チェレンチィは翼を大きく羽ばたかせると抜けた羽根の一本をナイフのように硬化させ、それを機械生命体へと発射した。
 ガキンとミサイルポットへ突き刺さる羽根。誘爆した機械生命体がパーツごとにバラバラに吹き飛んでいくのを確認すると、チェレンチィはやっと両の腰からナイフを抜いた。
 『ミーロスチ』というコンバットナイフ、加えて『グロムノーシ』というダガーを逆手に握り機械生命体たちへと突っ込んでいく。
 撃墜しようとミサイルを無数に放ってくるが、右へ左へと飛行するチェレンチィへ着弾させることはできない。ミサイルがターンし追尾するよりも、チェレンチィが駆け抜ける速度のほうがずっと早いのだ。
 流石の機械生命体も危機を察したのかびくりと身体を硬直させ――た刹那、チェレンチィのナイフ雷を帯び、流れるように四体の機械生命体を連続で切り裂いてから上空へと飛び去っていった。
「へえ、格好いいじゃねえの」
 クウハは手のひらを額のあたりに翳し、飛び去っていくチェレンチィを見送る。
 そして自分が担当すべき機械生命体たちへと振り返った。
「で? 俺様の接客もしてくれるんだろうな?」
 砂を払って立ち上がったのは二足歩行の上に箱が乗っかったような奇妙な機械生命体だった。箱が開くとダガーの射出機になっているようで、クウハめがけて次々にダガーを放ってくる。
 クウハはニヤリと笑い鎌を翳し、くるくると回すことでダガーを弾く。弾ききれない攻撃が彼の足や腕、または腰や脇腹をかすりパーカーやジーンズパンツを切り裂いて行く。
 じわりと滲む血と痛みに、しかしクウハは笑みを崩さない。
「そろそろ、こんなもんでいいか」
 かちりと鎌を水平に握ると、その両端へと手を持っていく。
「借りるぜ」
 金環の権能と銀環の権能がそれぞれ発動し、飛来するダガーの全てが彼の直前でぴたりと停止する。
 ならばと箱から様々な近接武器を取り出し飛びかかる機械生命体たち。
 クウハは真っ向から迎え撃つ――かにみせかけて、彼らの間をすり抜けて走った。
「『アイゼン・シュテルン』」
 翳した手には魔方陣。しかしその陣には詠唱短縮術式が刻み込まれ、クウハの血を触媒にしたことで更に短縮。更に威力を凄まじく増幅させる。最低でも30秒は詠唱を必要とするアイゼン・シュテルンがたったの一瞬で発動を完了させた。
 空に穿たれたように開く闇の門。
 ハッとした様子で振り返った機械生命体たちめがけ星屑の群れが殺到する。
 機械生命体たちは大爆発を起こし、クウハはそんな風景を背に手を天高く掲げていた。
「ハイ。一丁上がり、っと」
 手を下ろすと、鎌を空中に浮遊させクルクルと回し、自らの背のアタッチメントへとロックさせた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete
 ――機械生命体たちは見事に撃破され、古代兵器の運び出しは完了したようです。

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