PandoraPartyProject

シナリオ詳細

老いる砂浜からの脱出。或いは、水着と浴衣の季節の前に…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●海開きの準備をしよう
 豊穣。
 カムイグラの港町。ツムギ湊と海岸線には、幾人もの人影がある。
 都合、10人ほどだろうか。
 全員が年老いており、満足に歩くことも出来ない様子だ。
 潮風と、初夏の日差しを浴びながら、老人たちは一ヶ所に集まり項垂れていた。海岸近くの丘の上から、そんな老人たちの様子を見守っている何十人もの人がいる。
「助けに行かないんっすか?」
 このままでは、老人たちは熱中症で体調を崩す。
 イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)が見物人たちにそう尋ねるが、返って来るのは悔しそうな表情と、押し殺した嗚咽だけ。
「おじいちゃんたち、このままじゃ死んじゃうんじゃないっすか? それに、今は天気がいいっすけど、夜から嵐が来るんっすよね? 海岸、危ないんじゃ……」
 そう問いはするが、イフタフとて状況の不審さには気が付いている。
 助けに行かないのではなく、助けに行けない理由があるのだ。
 だからこそ、イフタフも海岸へ降りずに聞き込み調査に従事しているのである。
「助けに行きたいのは山々だが、そうできない理由がある。海岸に降りるのは出来ても、海岸から出ようとすると幽霊どもに襲われるんだ」
 見物していた男の1人が、舌打ち混じりにそう言った。
 その手は強く握りしめられ、震えている。
「それとな……“おじいちゃんたち”じゃない。あいつら全員、海開きに備えて海岸の清掃に出かけて行った青年会の奴らだよ」

●水着と浴衣、始まります
「事の発端は数日前。海岸に、半壊した船が流れ着いたらしいっす。船には19人の老人の遺体が転がっているだけで、生存者は無し。ツムギ湊の人たちは、遺体を海岸近くの共同墓地に埋葬したらしいっす」
 船の残骸は、現在も海岸に残されている。
 かなり古い船のようだが、どうやら元はどこか別の国で造られた奴隷輸送船であったらしい。
「さて、問題はここからっす。数日後、船の撤去と砂浜の掃除を行うために青年会の皆さんが、海岸に出向いて行ったっす。ところが、いつまで経っても帰って来ない。訝しんで様子を見に向かったところ、そこにはすっかり年老いた8人の元・青年たちの姿があったそうっすよ」
 老化した青年たちを救出すべく、2人が砂浜へと降りた。
 だが、見る見るうちに砂浜へ降りた2人も年老いて……すっかり動けなくなってしまったのだという。青年たちもどうにか砂浜を脱出しようとしていたのだが、その度にどこからともなく幽霊……おそらく、妖だろう……が現れ、妨害を受けたとのことだ。
「というわけで、10人を救出することが皆さんのお仕事になります。それと、可能なら幽霊たちの排除も……どうも、幽霊たちが現れる原因があるみたいでして」
 砂浜から脱出しようとすると現れる幽霊たち。
 その数は20体だが、いくら攻撃しようとも一時的に消えるだけで、消滅はしないのだという。
 彼らが発生する原因が、砂浜のどこかにあるのだろう。
「後、砂浜に入ると【退化】【無常】の状態異常を受けるみたいっす。お年寄りになっちゃうってことっすね。それから、幽霊たちの攻撃には【封印】が……あ、私は行かないっすよ。おばあちゃんになるには、まだ早いっすから」
 以上、現時点で判明している状況だ。
「皆さん、気合を入れていきましょう。水着と浴衣で夏を満喫するために!」
 かくして、老いた青年会救出作戦は開始された。

GMコメント

●ミッション
青年会10名の救出

●ターゲット
・年老いた青年会員×10
ツムギ湊の海岸に取り残された青年会の若者たち。
幽霊の影響により老化しており、あまり速くは動けない。

・幽霊たち(妖)×20
ツムギ湊の海岸に現れた幽霊たち。
砂浜から出ようとする者たちを襲う。
彼らは“分身”のような存在らしく、発生の原因を排除しなければ何度でも復活する。
あまり足は速くないし、攻撃力も高くは無い。
触れた相手に小ダメージと【封印】を付与する。

●フィールド
豊穣のとある港町、ツムギ湊。
800メートルにおよぶ長い海岸線。
砂浜は、夏になると海水浴場として開放される。
現在、砂浜の中央付近に青年会の10人は取り残されている。
砂浜の端の方には、数日前に流れ着いた奴隷船の残骸が放置されている。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 老いる砂浜からの脱出。或いは、水着と浴衣の季節の前に…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ

●Old
 きっかけはおそらく1隻の船。
 いつから海を漂っていたのかは定かじゃないが、その船はボロボロで、船員たちは老いていた。
 否、正確には“船員たちの遺体”だ。
 都合19。老いた者たちの遺体が、船の中から見つかった。
「なんて恐ろしい呪いでしょうか……!」
 白い砂浜を見下ろして、『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は口元を押さえた。慄く彼女が目にしているのは、砂浜の真ん中あたりで項垂れている10人ほどの老人たちの姿である。
 だが、彼らは老人ではない。
 豊穣、ツムギ湊の青年会の者たちだ。
 19の遺体を埋葬し、船の撤去に乗り出した彼らは突如として“年老い”た。若く張りのあった皮膚は皺だらけになり、筋肉は落ち、骨は曲がった。黒かった髪も、今では真っ白。まさに死の間際にある老人そのものといった姿だ。
 夏の暑さと潮風は、老いた若者たちから着実に体力を削いだ。もはや自力で歩くこともままならない。つまり、一刻の猶予も残されていないということだ。
「愛しのゴリョウさんにふさわしい大人になるだけで済むかもしれませんの」
 そう言って、ノリアは胸の前で拳を握る。
 そんなノリアを、『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)が横目で一瞥。
「おうおう、面妖な事になってるじゃねぇか。老いちまうとは恐ろしい呪いだな」
 それから獅門は砂浜を見下ろした。
 彼らが老いた原因は不明だが、こうして現に老いているのだから仕方が無い。
 いかに眉唾ものの出来事であっても、こうして直に目の当たりにしたなら信じないわけにはいかない。
「こりゃまた面妖な……玉手箱にでも取り憑いとったんですかの」
「海水浴場の稼ぎ時を前に、なんとも不気味な事態だね〜」
 『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)や『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)も目を丸くしている。
 人が急に老いるなんてことは無い。少なくとも、常識で考えればそのような事態は起こり得ない。そして、老いとは不可逆なものだ。失った若さを取り戻すことは出来ない。
 彼らの場合はどうなるのか。
 砂浜から救出すれば、老いた身体は元に戻るのか。
「まぁ、救出してみなけりゃ分からねぇよな」
 赤い髪を掻きあげて『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)はため息を吐いた。
「っていうか、商人はともかく奴隷と船員が老人ばかりっつうのは変じゃね? もしかしたら船員達が老化させられた結果、事故ったのか?」

 海岸線には大勢の人が詰めかけていた。
 老いた若者たちを助け出すために集まり、そして何もできなかった者たちだ。誰だって老いるのは怖い。老いて死ぬのは恐ろしい。
 だが、イレギュラーズは躊躇うことなく砂浜へ降りた。
 ツムギ湊の住人たちは、息を飲んでその後ろ姿を見送った。
 最後に残った『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は、砂浜へ降りる直前で足を止める。
「僕達は彼等を助けに行くから……彼等がここに戻ってきてもいい準備をお願い……シートと……大きめのパラソルと……飲み物」
 自分たちなら、砂浜に取り残された者たちを1人残らず助け出せると信じて疑っていないのだ。
「……塩分と砂糖が入ってるの……宜しくね」
 小さく手を振り、レインは砂浜へと降りた。
「あぁ、回復拠点の方はオレに任せとけ」
 その背中へ牡丹は声を投げかける。
 次いで、住人たちの「応」という声。レインの言葉を皮切りに、住人たちは動き始めた。まだ、自分たちにも出来る仕事が残っていると彼らは正しく理解したのだ。

 砂浜はひどく静かだった。
 吹く風の音。それから、寄せては返す波の音。
 老いた若者たちの救助へ向かう仲間たちを見送って、『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)と『涙の約束』鹿ノ子(p3p007279)は足を止める。
「……さて、威力偵察といくか」
「ですね。救助や捜索の邪魔になってはいけませんから」
 2人は顔を見合わせて、元来た道を引き返しはじめた。
 瞬間、2人は目を剥いた。
 意識の隙間を突くように、2人の周囲には幾つもの人影が現れたのだ。
 それは20体の幽霊たち。
 老化現象に次ぐ、砂浜からの脱出を妨げる障害がこれだ。
「発見された遺体は19人。現れている幽霊は20人」
 20の人影を見据え、鹿ノ子はそう呟いた。
 難破船から発見された19の遺体と、目の前にいる20の幽霊が無関係とは思えない。だが、発見された遺体と幽霊では、ほんの1人だけ数が合わない。
「まだ見つかっていないひとが、1人残されているということでしょうか」
「どちらにせよ、水場の妖とは全く厄介な連中だ」
 式符を手に、錬は言う。
 20の霊から敵意のようなものは感じない。だが、聞いた話によれば、霊たちは砂浜から出ようとする者たちへ襲い掛かるという特性があるらしい。
 
●刻一刻
 式符・殻繰。
 地殻を操作し鍛造する絡繰兵士の名である。
 錬は鍛造した絡繰兵士を伴い前進を開始。それと同時に、霊へ向けて式符を飛ばした。
 式符を浴びた霊が、声にならない雄たけびを上げ硬直。
 だが、残る19体が一斉に錬へと襲い掛かる。
「そんだけ数がいてまだお仲間が欲しいってのか? 生憎、俺の時間は貴重だからお前たちにはやらんけどな!」
 絡繰兵士が腕を交差させ、防御姿勢を取った。霊の手が触れる度に、絡繰兵士の身体が軋む。絡繰兵士の影に隠れながら、錬はその様子を観察していた。
 ダメージは少ない。
 だが、数が多いのが厄介だ。
 加えて、霊の攻撃を受けると集中が乱れる。術が上手く行使できなくなる。
「【封印】は厄介なので出来ればあまり触れたくはありませんね」
 練が霊を引き付けている隙に、鹿ノ子が砂浜を疾駆した。
 肩に担ぐように構えた白い太刀を、疾走しながら一閃すれば、霊の身体が2つに裂ける。先に錬が倒した個体も含め、これで2体。
 ほんの一時の間に、2体の霊を無力化したのだ。
 だが、喜ぶのは早い。
「ちっ……消えたと思ったら、すぐに復活しやがるのか」
 練が舌打ちを零す。
 1度は倒した2体の霊が、気づけば再生していたからだ。
「ぐっ……!?」
 霊の手が、錬の肩に触れる。
 激痛と悪寒に襲われ、錬は思わず苦悶の声を零した。
 20体の霊による絶え間ない波状攻撃。
 そう長く、そのすべてを捌き切ることは出来ない。
 けれど、しかし……。
「たとえ相手が幽霊であっても、遮那さんのおわすこの豊穣に乱あることをゆるしません!」
 流れる汗を乱暴に拭い、鹿ノ子が吠えた。
 霊たちの視線が、一斉に鹿ノ子の方を向く。向かって来る霊を斬り伏せるべく、鹿ノ子は太刀を正眼に構えた。
 太刀を握る白い指から瑞々しさが失われつつあることに気が付かないふりをしながら。

 ただ武器を振るうだけが戦いではない。
 砂浜から少し離れた木陰には、天幕が設けられていた。
 天幕の中には幾つもの水樽や氷。
 さらには、即席の寝床までが用意されている。
「急げ急げ! 必要そうなものは、どんどん運び込んでくれ!」
 それらは、牡丹の指示で住人たちが運び込んで来たものだ。
「老体で砂浜に長時間、満足な衣食住もなく幽霊共の相手をしてたとなっちゃあ心身疲労どころじゃねえからな!」
 例え、霊を払ったとしても。
 例え、老いた若者たちを砂浜から運び出したとしても。
 救える命をとり零しては意味がない。

 幽霊たちとの戦闘。
 砂浜外での拠点設営。
 そして、老いた若者たちのいる砂浜の中央。
 三者三様に、どの場所も慌ただしい。命が……罪なき人の命が懸かっているのだからそれも当然と言えば当然の話。
「こういう時にはとにかく笑顔! イレギュラーズです、助けに来ましたー! 意識はある? お水は!? お水は飲めるかい?」
 現場に駆け付けたユイユは、腰に括りつけていた水筒を手に取り蓋を開ける。中身は水だ。水に塩を混ぜている。
「ぅ……逃げ……いや、逃げても、もう」
「そっちはボクたちが何とかするからいいんだよ! いいから水を飲んで! 死んじゃったら、元も子もないんだから!」
 抱え上げた男性の口に水筒を押し付け、ゆっくりと喉の奥へ水を流す。
 少しは渇きも癒えただろうか。
 1人ずつ順に水を飲ませて、ユイユはとくに衰弱の酷い1人を背負った。
「よし、このまま砂浜の外へ……って、ノリアさん、何か黒くなってない!?」
 ユイユが視線を向けた先には、半透明の尾が少し黒くなったノリアの姿がある。心なしか、尾の長さも伸びている風だ。
「好都合ですの。乗りやすくなったなら、皆さんの負担も減るはずですの」
 尾に人を乗せ、ノリアは虚空を手で撫でた。
 ゆるり、と水のヴェールを纏うと疾走を開始。老いた若者たちを、砂浜の外へと運んでいくのだ。
 だが、幽霊がそれを許さない。
 鹿ノ子や錬が引き付けていたうちの一部が、狙いをノリアやユイユへ向ける。
「攻撃力が低いというのなら、乗せている方を庇いながら進むだけでもいいでしょう」
「いいえ。そっちはわしにお任せを。敵の攻撃を引き付けて避難の時間を稼げりゃええですの」
 幽霊が進路を塞ぐ。
 だが、間に割り込んだ支佐手が鏡を高くへ掲げれば、反射した太陽光が幽霊の顔に当たる。幽霊の視線が支佐手へ向いた。
「おっと……敵意もなく襲って来る敵とは、面妖な」
 乾いた咳を零しながら、支佐手が数歩、後ろへ下がった。
 膝関節が痛む。
 老化は既に始まっているのだ。
「よーし、そんじゃ気合い入れて行くぜ!」
 空いた空間へ獅門が割り込み、大上段から大太刀を一閃。
 斬撃が、幽霊を2つに裂いた。
 霞のように幽霊が消える。空気を斬ったのと手応えは変わらないが、それよりなにより老化した身体の方が厄介だ。
「骨も筋肉も衰えてるな。力任せじゃ、そのうちこっちの身体の方がイカれそうだ」
 肘に手を触れ、獅門が小さな舌打ちを零した。
 だが、道は開いた。ノリアとユイユは、最初の2人を砂浜の外へと運び出すのに成功している。
「さて……幽霊は原因を何とかしないとまた復活するみたいだが、どこで復活するのかよく分からねぇんだよな」
 砂浜にいる幽霊の数は20のままだ。
 斬った幽霊は、いつの間にか復活している。
「ええい、数が多い、身体も重い……ユイユ殿、ノリア殿、どうかお急ぎを! 全部をずっと防ぎきるんは、無理があるやも知れません」
 鏡を掲げ、剣を振るい、支佐手は僅かに歯噛みした。
 はらり、と髪が抜け落ちて風に舞う。すっかり艶を失った白髪だ。
「とりあえず……これ、食べて」
 すかさず支佐手の傍へ駆けつけたレインが、切り分けたアップルパイを差し出す。
 ベッツィータルト。
 海洋王国伝統のアップルパイは、呪いを弾き、またその進行を遅らせる。
「もらっていいんですかいの? そっちも、老化が……あ、いや? んん?」
「生気が薄そう……? でも……生きる気力は陸の子より……多分あるよ」
 レインが老いているのかどうか……一見しただけでは判断が付きにくい。
 
 高熱に景色が歪む。
 焼かれるように、幽霊が消えた。
 空いた空間を通過するのは装甲蒸気車両『グラードⅢ』とメカ子ロリババア。それらを先導するのはレインだ。
「……君たちがもし……海の生き物に命を奪われたのなら」
 レインの声は誰の耳にも届かない。
 幽霊たちは、ただ機械的に消えては現れ、砂浜から出ようとする者たちを襲うばかりである。
「そいつらで最後だ! 急いで、こっちに連れて来い!」
 砂浜の外で牡丹が腕を振っている。
 その声に導かれるように、レインは走る速度をあげた。

 老化の効果は、どうやら砂浜でしか発揮されないらしい。
 救助された10人はすっかり衰弱しているものの、徐々に若返り始めている。おそらく、老化にかかったのと同じだけの時間が必要となるだろうが……。
「さて。人の方はどうにかなったが、幽霊は残ったままだ」
 目下の危機は脱したものの、問題は依然として解決していない。
 幽霊がいる限り、そして砂浜にかかる老化の呪いを解かない限り、いつ同じような事件や事故が起こらないとも限らないのが現状だ。
「幽霊は20体……。見つかった遺体は19体。やっぱり、あと一人いるんじゃねえか?」
そう言って牡丹は、視線を難破船へと向けた。
「そいつが見つけてもらいたがってる……とかか?」
「では、行きますの。もしかすると幽霊たちは探してほしいのかもしれませんの」
 迷うことなく、ノリアは再び砂浜へと降りる。
 途端に、ノリアの身体に変化が起きた。ゆっくりと、けれど視認できるほどのスピードで身体が老化を始めたのだ。
「牡丹さんのおっしゃる“20人目”を……」
 そう長く調査をしている時間は無い。

●難破船と20人目
 難破船へと辿り着いた8人は、手分けして船の調査に当たった。
 その様子を、幽霊たちは黙ってみている。
 砂浜から出ようとしなければ、幽霊たちが襲い掛かって来ることは無いのだ。
「とはいえ、老化は進むわけだ。そのうち動けなくなるぞ」
 自分の手を見下ろして、錬は言う。
 絡繰兵士による船の解体は進んでいるが、今のところ、老化や幽霊の原因らしきものは見つかっていない。
「もし自分も老化してしまったら、一緒に救助してもらうしかありませんね」
 そう言って鹿ノ子は折れたマストを持ち上げた。
 その顔には疲れの色が滲んでいる。老い、衰えた身体での力仕事は堪えるのだ。
 マストを運びながらも、鹿ノ子と錬は幽霊たちから目を離さない。幽霊たちには何の意思も無いように見えるが、だからといって無警戒というわけにもいかないのだ。
「今、10歳ちょっと年老いたぐらいか? このまま爺さんになるとどうなる? 縮んだらちょっと面白いな……」
 皺の刻まれた目の辺りを撫でながら、獅門は笑う。
 鍛えた身体は10年かそこら年老いた程度では衰えない。だが、確実に疲労や蓄積しやすくなっている感覚があった。

 船の調査は難航していた。
 数十分の時間が既に経過しただろうか。壊しても壊しても、出て来るのは古い食器や本ばかり。航海日誌は、数十年ほど前の記述で止まっている。
「ひぃ……ふぅ……ほ、骨が折れますの。この人数では、無茶があったかも」
「うぅ……ヨボヨボと海風のせいで、尻尾がパサパサ……豊穣のケア用オイル、いいのあるかな?」
 突貫だが、船の傍には休憩所を用意している。
 水やアップルパイも備えているけれど、結局のところ老化が完全には止まらない以上、多少の延命にしかならない。
 その証拠に、支佐手とユイユの顔色は悪い。
「やはり、船の底の方……なのではないでしょうか? それか、船の下敷きになっているとか?」
 そう言ってノリアは、難破船の真下辺りを指さした。
「20人いたのは間違いねぇんだ。証拠に、航海日誌には20人の奴隷を積んだって書いてる。こいつら、嵐か何かで奴隷だけ残して逃げたんだ」
 古い航海日誌を前に牡丹は唸る。
 潮風や雨ですっかり風化した日誌だが、辛うじて読める部分の記述だけを繋ぎ合わせた結果、牡丹はこの船で何が起きたかをおぼろげながら理解している風だった。
「船の底の方、ですか」
「と、なると……やるか」
「あぁ、動けるうちにやっとくべきだろ」
 残った水を一息に飲み干し、鹿ノ子、錬、獅門が袖を捲った。
 老い衰える前に、船をひっくり返すつもりであるらしい。

 ひっくり返った船の底から見つかったのは、1人分の遺骨であった。
 骨の状態から、30歳前後ぐらいの遺骨に見える。
「死んだ奴隷仲間の骨……でしょうか?」
 遺骨を見下ろし、鹿ノ子はそう呟いた。
 だが、ノリアは静かに首を振る。
「いいえ。骨に残った傷痕を見れば分かりますの。これは意図的に肉を削いだ痕跡……」
「食ったのか。仲間を……」
 錬が息を飲んだ。
 船員に見捨てられ、舵も利かない船に残された20人の奴隷たち。彼らがどのような心境だったかは、想像することさえ出来ない。
 飢えて、渇いて、生きるために仲間を食った。その行為を責める気にもなれない。
「だが、恨んではいねぇとよ。ただ、一緒に生きたかった。歳を取りたかった……そう言ってるよ」
 虚空を見つめ、牡丹は言った。
 そこに霊がいるのだろう。
 仲間に喰われることで、仲間たちの命を繋いだ、献身的な誰かの霊が。
 だが、それもすぐに消えていく。
 そうして、最後には物言わぬ骨だけが残る。
「君達は……どこの海から来たの……? でも、もう旅は終わり。君達は……もう……大丈夫……だよ……」
 砂浜にいた20の霊も消えていく。
 もうじき、日が暮れる。
 消えゆく霊を見送りながら、レインは空へ1発の花火を打ち上げた。
 辛く、苦しく、長い旅を終えた彼らへの、それがせめてもの手向けであった。

成否

成功

MVP

紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
砂浜に取り残された10人は救助され、老化現象の原因も発見。
事件は解決しました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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