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シナリオ詳細

<廃滅の海色>アノマ諸島探訪録

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●出会い
 静寂の青にはアノマ諸島と呼ばれる地域がある。海洋の中央部から大きく離れたそこは、かつて『氷海の女王』イザベラ・パニ・アイス(p3n000046)より『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)へと贈られた――というよりも管理を丸投げされた領地である。
「最近、海洋全体がなんだか騒がしいんだよね。この辺は田舎だし大丈夫だと思うけど、少し見て回ってもいいかな?」
「いいですね、ぜひそうしましょう。僕もちょっと気になってましたから」
 史之が領主として構えた屋敷には、遠くに湖が見える自慢の花畑がある。
 妻である『かみさまの仔』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)と和やかな一時を過ごしたあと、視察も兼ねてそんな提案をしてみると睦月は優しく微笑んだ。

 二人がアノマ本島を歩くが、やはり心配していたようなことは起きておらず、住民たちはいたって健康で特別気になるような事件もない。
 そんな穏やかな景色に安堵しつつ歩いていると、”それ”が史之の目に入った。
「うわっ! 大丈夫かい!?」
「心配ですね。お医者さんはどこでしょうか……」
「っ! この顔は……!」
「知っている人なんですか?」
 見つけたのは行き倒れだった。しかし、心配して助け起こしてみると史之の顔が驚愕に染まる。
 なぜならば、その顔がつい先日海洋のとある漁村を襲った子供と瓜二つだったからだ。
 疑問に思いその顔を覗こうとした睦月だったが、警戒を露にした史之が危険かもしれないから近づかないようにと制する。
 しかし、よくよく見てみると本当に漁村を襲撃したあの子供なのか疑問が残る。あの子供は仲間のイレギュラーズとの戦闘でそれなりの傷を負っていたはずだ。
 一方、目の前の子供は衣服こそくたびれて汚れてはいるものの、戦闘による外傷などは見られない。
「ぐぅ~……ぎゅるるるるる……」
 目の前の子供が何者なのか。思考を巡らせているとそれを遮るように盛大な音が響く。どうやらこの子供は空腹で倒れていたらしい。
 あまりにも間抜けな様子に毒気を抜かれた史之は、ひとまず食事を摂らせて話を聞いてみることにした。

「いやー、本当に助かりましたよ! もう三日は飲まず食わずだったものでして。改めてありがとうございます!」
「ははは……。元気になったようでなによりだよ」
 近くの食堂に連れて行き、食事を摂らせたら行き倒れの子供はすっかり元気になった。だいぶ腹が減っていたらしくたらふく食べた結果、想定以上に勘定が高くつきそうで史之は少し顔を引きつらせてはいるが。
「それで、あなたは何者でどうして行き倒れていたのですか?」
「あ、すみません。申し遅れました! 私はクワトロといいます」
 食べている間に史之からこっそりと事情を聞いていた睦月が、警戒していることを気付かれないように慎重に尋ねると、クワトロと名乗ったその子供は経緯を説明し始めた。
 事の発端は数日前。
 この地を訪れたクワトロは大切な人から預かっていたあるものを持って歩いていた。しかし、何かに躓いて転んだ拍子に、その預かり物を投げ飛ばしてしまったのだ。
 空高く舞い上がった預かり物は、たまたま近くを飛んでいた鳥が咥えてどこかへと飛んでいったという。
 慌てて走って追いかけるも空を飛ぶ鳥に追い付くことなど出来るはずもなく、結局見失ってしまい彷徨い歩いている内に遂に力尽きて倒れてしまったという訳だ。
「ちなみに、その預かり物っていうのはどんな物なんだい?」
「えっとですね、これくらいのメダリオンなんですよ。表に羅針盤が描かれてあるので、見ればすぐに分かると思います」
「なるほど、羅針盤ね……」
 両手の親指と人差し指を繋げて輪を作って説明するクワトロを眺めながら史之は思案する。最近各国を騒がせている遂行者と名乗る者たち。その手がかりになるのかもしれない、と。
 であれば、そのメダリオンを探す手伝いをしてみるのも一つの手かもしれない。幸いにも、犯人(?)に思い当たる節がないでもない。
 アノマカラスモドキ。アノマ諸島にのみ生息するカラスに似た鳥で、光り物を収集する生態もカラスにそっくりだ。クワトロにメダリオンを咥えていった鳥の姿を詳しく聞いてみたが、まず間違いなくこの鳥の仕業と見ていいだろう。
「この辺りにはそんな鳥もいるのですね」
「アノマ諸島は田舎だからね。独自に進化した生物が結構いるんだよ」
「それで、そのアノマカラスモドキとやらは、どこに巣を作っているのでしょうか!?」
「あー。それなんだけどね、近くの島に群れで生活してるんだけど、ちょっと奥まったところなんだ。危険な野生動物もいると思うし、一人で向かうのはおすすめしないかな……」
「そんなぁ……」
 史之の説明にがくりと項垂れるクワトロ。凄まじい悲壮感を漂わせており、流石にこのまま置いておくには忍びなく思ったのか睦月は助け舟を出すことにした。
「僕たちが一緒に行くのはどうですか?」
「睦月がそういうのなら。と、言いたいところだけど、あの辺は僕もあまり行ったことがないからなぁ」
 睦月を深く愛する史之としても、睦月のその言葉にもろ手を挙げて賛成したい。が、同時に愛する妻を危険にさらすこともしたくない。
 クワトロの正体が不明な以上、自分たちだけで動くには不安が残る。
「よし、ここはイレギュラーズを頼ろう。ローレットを通せばすぐに集まるはずさ」
「では、僕は船の手配やお弁当の用意をしておきますね」
 これならば妻の願いを叶えつつ、同時に安全を確保できるだろう。史之はさっそくローレットに向かうと、その間に出来る準備は済ませておこうと睦月も動き出した。

●いざ、出発
 ここまでくれば乗り掛かった舟だと、史之も睦月も動くのは早かった。さほど時間をかけることなく、ローレットを介して人員を募集し、船などの手配も済ませて翌朝には出発る算段がついていた。
「――と、いうわけで、これからこのクワトロさんが持っていたメダリオンを探しに行くので、皆にはその手伝いをして欲しいんだ」
「よろしくお願いします!」
「この本島からほど近くにある島にアノマカラスモドキの巣があるから、そこにあるはずのメダリオンを回収すればいいのだけど、その場所がちょっと厄介でね」
 その日の内に集まってくれた者たちを前に史之が依頼の詳細を説明するが、問題は向かう先についてだ。その場所は普段人が訪れるような場所ではなく、領主である史之ですらあまり詳しい情報を持っていない。
 言動こそ大きく異なるが、漁村を襲撃した子供と瓜二つな容姿であることも見過ごせない。不測の事態も考えられるため、備えは出来る限りしておいて欲しいと締めくくると、ひとまずその日は解散とし翌朝の出発のためにそれぞれで準備を整えることとなになる。
 そして迎えた翌朝。史之と睦月、そしてクワトロは、手伝ってくれることになったイレギュラーズと共に船を出すのだった。

GMコメント

 当シナリオを運営させて頂きます、東雲東と申します。
 この度はEXリクエストにてご指名ありがとうございます。ご期待に応えられるように頑張ります。

●目標
 クワトロのメダリオンを見つける。

●メダリオン
 両手の親指と人差し指を繋げて作った輪と同じくらいの大きさです。
 表裏に羅針盤をモチーフとしたシンボルが刻まれているため、見ればすぐに”それ”だということが分かるでしょう。

●ロケーションなど
 海洋、静寂の海にある寒櫻院・史之(p3p002233)様の領地、「アノマ諸島」が今回の舞台です。
 皆様は本島から出発し、近くにある大小さまざまな島の中の一つへと上陸しました。
 気候は温暖で湿度も高く蒸し暑くなっています。
 船を降りてから島の中に広がる熱帯林へと進み、その奥でアノマカラスモドキの巣を探すことになります。
 なお、出てくるのは野生動物のみなので、強さはそれほどでもありません。レジャー感覚で楽しんでしまってもOKです。
 ちなみに、名産品はアノマロカリスだそうです。

・熱帯林
 人が入ることがほぼないため草木が鬱蒼と茂っており、見通しが悪かったり足元がぬかるんでいたりしますが、基本的に戦闘の際に問題となることはありません。
 この地で独自進化した野生動物がそれなりにいるようです。

●エネミー
・アノマカラスモドキ
 アノマ諸島にのみ生息するカラスっぽい鳥です。
 体長は30㎝ほどで、一般にカラスと呼ばれる種より一回り小さいです。光り物が大好きで、クワトロのメダリオンにも目をつけていたようです。
 数十匹単位の群れを作って熱帯林の奥に幾つもの巣があり、メダリオンはその中のどれかに納められているようです。
 所詮は鳥なので、そんなに強くはないですが巣が荒らされようとしていることに気付くと、群れを挙げて威嚇・襲撃してきます。

・アノマオオトカゲ
 アノマ諸島で独自進化を遂げたトカゲです。
 個体にもよりますが、体長は2mほど。トカゲとしてはかなりデカイ上に気性も荒く、近づくと襲い掛かってきます。
 爪や牙には【毒】があるほか、単純ながらも高い物攻による体当たりや尻尾攻撃はそれなりに脅威ですが、やはり野生動物なので歴戦のイレギュラーズの皆様には敵わないでしょう。

・アノマヤドカリ
 アノマ諸島で独自進化を遂げたヤドカリです。
 家一軒分くらいある巨大な貝を背負う巨大なヤドカリです。
 気性は穏やかで争いは好みませんが、縄張りを荒らす相手には攻撃を仕掛けることもあるようです。
 HP、防技、抵抗が高く非常にタフですが、攻撃力はそこまででもないようです。
 また、反応や機動力は非常に低いです。

●NPC
・クワトロ
 行き倒れていた子供で、今回の依頼人でもあります。
 中性的な顔立ちで性別は不明ですが、体格から年齢は15歳前後のように見えます。
 性格は快活でお調子者のように見えます。細い体の割によく食べます。
 戦闘の際には両手にダガーを持って戦うつもりのようですが、致命的なまでにドジで不運なため見ているだけでハラハラします。
 正体は不明ですが、このシナリオ中でイレギュラーズと敵対することはありません。

・ウーノ
 『<廃滅の海色>現われたる白の尖兵』に登場した致命者です。
 イレギュラーズと敵対し交戦しましたが、不利を悟ると逃走しました。
 クワトロと容姿は瓜二つですが、言動はかなり異なりこちらは自らの意志らしいものを感じさせず、機械的に命令を熟しているようでした。
 クワトロとの関連性は不明ですが、少なくとも同一人物ではなさそうです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <廃滅の海色>アノマ諸島探訪録完了
  • GM名東雲東
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年06月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
※参加確定済み※
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
※参加確定済み※
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
多次元世界 観測端末(p3p010858)
観測中
カトルカール(p3p010944)
苦い

リプレイ


 天候は晴れ。波も穏やか。朝にアノマ本島から出発した船は無事にアノマカラズモドキの巣がある島へと到着することが出来た。
「さぁ、皆さん。張り切っていきましょ――あう!」
 依頼人であるクワトロが元気よく船から飛び降りようとしたが、脚を船のへりに引っかけてしまい、頭から砂浜へ豪快に着地することとなった。
 そんな様子をやれやれと呆れた様子で眺めながら、『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)や『かみさまの仔』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)を始めとする、依頼を受けたイレギュラーズは次々と上陸していく。
「あー……なぁ、危ねぇから、お前さんは後ろに下がっていてくれるかい?」
「慣れてないのに二刀流は危険だから、盾でも持ってなよ」
「うー……こんなはずではなかったんですよ……」
 戦闘時にこのドジのせいで変に足を引っ張られても困るので、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)が後ろへ下がるように釘を刺しておき史之もそれに続く。
 赤くなった鼻の頭を押さえ涙目となったクワトロが、言われた通りに後ろへ下がると睦月がよしよしと励ますようにその頭を撫でるのだった。
 そんな一幕がありつつ、イレギュラーズは目的のメダリオンを探すため、島の中央に広がる熱帯林へと足を踏み入れる。
「ソレニシテモ、アノマロカリスガ実在スルトハ思イマセンデシタ」
「それは俺も思った。本でしか見た事なかったから驚いたよ」
「ふふふ。僕たちの領の名産品なんですよ。帰ったらご馳走しますね」
「アノマロカリスの刺身を咀嚼可能とは有難い事だ」
 蒸し暑い熱帯林を進みながら、十代の少女に見える姿へと擬態している『観測中』多次元世界 観測端末(p3p010858)が呟くと、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)もまたそれに同意する。
 太古に絶滅したと思われた生物がこうして今も生きているという事実には驚きを禁じ得ない。しかも、それが食用ともなればなおさらだ。
 果たして、一体どのような味がするのだろうか。好奇心が刺激されたらしい『せんせー』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)が大きく嗤い声をあげているが、アノマロカリスについてはメダリオンを見つけてからだろう。
「まだだいぶ遠いみたいやけど、カラスっぽい声があっちから聞こえてきはるなぁ」
 猫のような耳を左右へ振って周囲の音を探っていたのは『曙の花』蜻蛉(p3p002599)。優れた聴覚を持ち、まだ他の者では聞こえていない鳥の鳴き声がその耳に届いており、どちらからその鳴き声が聞こえてくるのかを指し示す。
「だいたいの方向は分かるけど、直進できないのはちょっと大変だな」
 同じく並外れた聴覚を持つイズマもその方角へ足を向け、仲間を先導するように歩く。歩きながらその足音の反響を利用して周囲の様子を探っているが、密林の中は多くの植物が繁茂しており迂回も必要になりそうだった。
 それでも迷うことがないのは、頭の中に方位磁針があるらしいイズマと睦月がいて、更には史之が地図を記しながら進んでいるお陰だろう。
「そういえば知り合いにもクアトロって名前がいて、4って意味なんだって教えてもらったけど……四男なのか、クワトロ?」
 歩きながら自生していたトロピカルフルーツを採った『苦い』カトルカール(p3p010944)が、クワトロにそれをパスして問う。知り合いに似た名前の人物がいて気になっていたのだ。それに、先日とある漁村で見た子供との関連性も出来れば知りたいのだろう。
「あー、たぶん名前の由来は同じですね。私たちに性別はないので四”男”というのは正しいのかわかりませんけど、四番目ではありますよ」
「そ、そうなのか。教えてくれてありがとうな」
 クワトロは受け取ったフルーツを頬張りながら思いのほか素直に教えてくれた。そのことに驚きつつも、カトルカールは礼を言いつつ少し離れ、今度は史之へと近づいていく。
「なぁ、クワトロの事だけどよ……」
「うん。一応、警戒は怠らないようにしておこう」
「一見するとそう見えないが、かなり手練れであることは間違いないからな」
 事前にカトルカールが情報屋を通じてクワトロに関して調べてみたのだが、数日前にアノマ諸島入りした以前の足取りが完全に不明だったという。
 そして今の問いへの答え。クワトロに対して警戒を強めるには十分すぎる内容だった。
 また、同様に史之もクワトロの動きには注意を払っている。先日の依頼には史之も参加しており、カトルカールと共にクワトロと瓜二つの人物に遭遇していたからだ。
 その子供はワールドイーターや影の天使を使役しており、イレギュラーズを認識すると襲い掛かってきた。全く無関係で他人の空似と片付けることは出来ないだろう。
 そして、クワトロの動向に目を光らせる者がもう一人。クワトロに不審を感じたイズマはこっそりと様子を伺っていたのだが、その振る舞いに反して実力は非常に高い。それこそ、ここにいる全員を相手取っても戦えそうなほどに。
 しかし、こちらから仕掛けることはしない。今のところ、クワトロは敵対の意志を見せておらず、無邪気に島の様子を楽しんでいるのだから。


『勝手に入ってごめん。戦わないし邪魔はしないから、通るだけ許してくれ』
『ショウガネェナァ、ホライケヨ』
『ありがとう』
 イレギュラーズは鬱蒼と茂る草木をかき分けながら少しずつ熱帯林の奥へと進んでいくが、その際にはイズマの持つ能力が役に立った。
 動物の声を模倣することで敵意はないと伝えて、縄張りの中を通して貰えたのだ。しかし、動物の中にも様々で、中には縄張りを荒らされたと酷い興奮状態になって襲い掛かってくるものもいる。
『オマエラ、マルカジリ!』
「くっ! 彼らとは話が通じないか」
「ならば仕方あるまい!」
 特に顕著なのは、獰猛で知られるアノマオオトカゲだろう。体長2メートル前後の巨体を持つトカゲ数匹の群れが一斉に襲い掛かってくると、すかさずロジャーズが前に出て両手を広げる。
 トカゲは容赦なくロジャーズを爪で切りつけ牙を突き立てる。が、障壁を展開するロジャーズには何の痛痒もなく、挑発するように嗤い声をあげるのみ。
 その嗤い声に神経を逆なでされたのか、一層激しくロジャーズを襲うがやはりなんの意味も為さない。
「おっと、お前らの相手は俺だ」
「ありがとうねぇ。ほんなら、このまま引き付けといて貰えんか? うちが指示出すさかいに」
 ロジャーズに向かった個体とは別の個体が蜻蛉へと狙いを定めたが、そこに縁が割って入った。花柄番傘の柄を引き抜き、姿を露とした青き刀を振るって自身へと注意を向けると、その気の流れを読み取り無秩序に捻じ曲げる。
 気の流れを乱されたトカゲは身体の各所がその負荷に耐えきれずに血を噴き出していく。そして、縁に守られた蜻蛉は、その間に呼吸を整え自身の魔力を高めつつ、周囲の様子を具に観察し仲間同士が上手く連携出来るようにと指揮を執り始める。
「ちーちゃん、今のうちに」
「分かったよ。……ごめんね! 君たちの棲家を荒らすつもりはないんだ」
「くそーっ、僕達が悪いのはわかってるけど用が済んだら帰るからあっち行けって!」
「これ以上攻撃するようなら、こちらも容赦は出来ない。大人しく引いてくれ」
 睦月が結界を展開することで、周囲の木々や地形が戦闘によって傷つくことはなくなる。その間に、トカゲを撃退すべく、史之、カトルカール、イズマの三人もまた蜻蛉の指揮のもとで攻撃を開始する。
 史之が刀を鞘に納めたまま振るうと、紅い電光が閃きトカゲを飲み込んでいき、そこへ無駄のない動きで間合いを詰めたカトルカールが追撃を仕掛ける。一呼吸の間に拳を三度叩きつけることで一体ずつ確実に殴り飛ばしていくのだ。
 最後にイズマが怪しい輝きを放てば、興奮状態だったトカゲたちの足が止まる。込められた殺気は激戦を潜り抜けてきた者特有であり、それに飲み込まれたトカゲたちは生命の危機を感じて一目散に逃げていく。
「ふぅ。なんとか分かって貰えたか……」
 動物の領域に踏み込んだのはイレギュラーズである以上、襲われてしまうのは仕方がないとはいえ、何も罪のない動物たちを必要以上に傷つけることは避けたいという見解は全員一致だ。
 自分たちだけでなく、動物側の流血も最小限に抑えてこの場をやり過ごせたのは僥倖だろう。
 イレギュラーズたちは引き続き、アノマカラスモドキがいると思われる方向へと歩を進めていく。


 熱帯林へ侵入してから暫く立つと、ようやく目的地へと辿り着くことが出来た。
 乱立する木々を見てみると、その枝の隙間に幾つもの鳥の巣が見えたのだ。近くを飛んでいたり巣で寛いでいたりするのは、一見してカラスのように見えるが、よく見れば体格が一回り小さく羽の色も少し緑がかって見えるため、アノマカラスモドキで間違いないだろう。
 クワトロのメダリオンは必ずこの近くの巣にあるはずだ。
「とはいっても、この巣の数だと探すだけで一苦労だけどね」
「それに、巣を荒らされるとなればカラスさんも黙ってはいないでしょうし……」
「なに、安心するがよい! 時間ならいくらでも稼いでみせよう! ――Nyahahahaha!!!」
 数重を超える巣を捜索するには途方もない時間が掛かることは想像に難くない。そして、自分たちの領域に侵入した異物たちを感じてカラスたちは俄かに殺気立ち始めていた。
 史之と睦月が話していると、迷うことなくロジャーズが前に飛び出し両手を広げ高笑い。その姿には後光すら差しており、圧倒的な存在感がカラスの視線を釘付けにしていた。
 一瞬遅れて、カラスたちは侵入者を排除しようと一斉に飛び立ち、ロジャーズの下へと殺到する。威嚇の声を上げながら、爪を振るい嘴で突こうとするもアマノオオトカゲの時と同じように、ロジャーズの張った障壁によって阻まれる。
「カラスの相手は俺たちが引き受けた。その間にメダリオンを見つけといてくれ」
「俺も手伝うぜ!」
 ロジャーズ一人だけでは流石に厳しいだろう。すかさず縁も前へと出ると、魔力を込めた呪いの言葉をつぶやく。その呪言は空間を歪めながら広がっていき、耳にしたカラスたちは次々と石像へと姿を変えて地面に落ちる。
 そしてカトルカールは群れの中心部に突っ込むと、身体を駒のように回転させながらショットガンを乱れ打ちし、纏めて薙ぎ払っていく。
「ココハ彼ラニ任セテ大丈夫デショウ。我々ハメダリオンノ探索ヲ」
「そうだね。早くみつけて退散しよう」
「私のメダリオン、返して貰いますよ!」
 観測端末が呼びかけると、史之が頷きクワトロも含めて手分けをして巣の捜索を開始する。
『このメダルに近い物を探してる。もし巣にあるならこれと交換しないか?』
『アラ、ステキナメダル。トッテオキノトコウカンシテアゲルワ』
『あぁ、すまない。探し物はそれじゃないんだ……』
 巣を守ることを優先し、比較的大人しそうなカラスを見つけて交渉を持ち掛けているのはイズマだ。ポケットから取り出したメダルとの交換をしないかと声を掛けたが、そのカラスが出したものはコインであった。羅針盤も描かれていないため、これは違うものだとすぐにわかり交換は不成立。別のカラスのところへと移動する。
「なるべく、痛くはしないようにするから……! あ、ミケさんはそっち側からお願いね」
「偉大なる土地神様を呼んでおいてそりゃ無いぜ史之!」
 史之が鞘に納めたまま幾度も刀を振るうと衝撃波が巻き起こる。烈風に吹き飛ばされ、カラスが散った合間を縫って進み木へと登ると、手早くその木の枝に作られた巣を覗き込み、クワトロのメダリオンがないかを探していく。
 とはいえ数が多くて手が回らない。ということで、こういった事態を予見して協力を要請していた御饌津神にもしっかりと手伝ってもらう。
 手元の地図に小さくバツをつけながら、次々とカラスの巣を暴いていく。
「こんなに巣がいっぱいあるなんて聞いてませんよぉ~!」
「焦らずともよい。こちらはいくらでも時間を稼げるからな!」
 あまりの数に泣き言を零すクワトロだが、ロジャーズが名状しがたき踊りのようなものを披露しながらそう告げる。その言葉通り、今もカラスはロジャーズへと殺到しており、踊りに巻き込まれたものはなにやら精神に異常をきたしたのか、動きを鈍らせたり同士討ちをしたりするようになる。
「援護します!」
「うちも手伝うで」
 睦月のその一言に宿りし言霊が、ロジャーズを始めとした仲間たちの活力となり、続く蜻蛉が放つ暖かく柔らかな
光と風は縁やカトルカールの傷を癒していく。
 彼女たちがいれば、ロジャーズの言う通り時間はいくらでも稼げるだろう。その間にイレギュラーズは探索を続ける。
「コノ巣モチガイマスネ……」
 その中でも、最も活躍したのは観測端末であった。飛行が可能な観測端末は、ふわりと宙へ浮くと次々とカラスの巣を暴いていく。もともと探し物が上手かったことに加えて、記憶力もずば抜けているためどこの巣を探してどこの巣がまだ手付かずなのかを完璧に把握していたのだ。
 障壁を張ってカラスの妨害を防ぎ切り、次々と巣の中にある人里から持ち込まれたであろう数々の品を調べ、メダリオンの在り処を探る。
 カラスが妨害のために突っ込んできても、障壁によってそれを防ぐ。と、捜索の手を止めて観測端末は突撃してきたカラスに向き合う。
 障壁に弾かれて傷を負ってしまったのが見えたのだ。観測端末とて、カラスを傷つけることは本意ではない。優しき旋律に癒しの力を乗せて口ずさめば、カラスの割れた嘴が元通りに修復される。
 やがて――。
「メダリオンヲ発見シマシタ。スグニコノ場ヲ去リマショウ!」
「よし、皆こっちだ!」
 観測端末が羅針盤の描かれたメダリオンを見つけると、史之の号令によってイレギュラーズはその場から退いていく。
「荒らしてしまってすみません。せめてものお詫びに……」
「うちらもカラスさんらの事が嫌いなわけちゃうんよ? ほんま、堪忍してな」
 敢えて最後尾に残った睦月と蜻蛉がやむなく傷つけてしまったカラスたちの傷を癒し、島の探索は幕を閉じるのであった。


 探索を終えて暫し。船で本島へと戻る途中の事だった。
「いやー、皆さんありがとうございます! お陰様でこうしてメダリオンを取り戻すことが出来ました!」
「分かったから。危ないからとりあえず、甲板に降りて?」
 無事にメダリオンを取り戻すことのできたクワトロは、船べりに立って取り戻されたメダリオンを掲げる。が、そんなところに立っては危ない。降りるように史之が言うと、クワトロも素直に従い降りようとする。
「分かってますよっとと! あぁ!!」
「はぁ、言わんこっちゃない……」
 クワトロが降りようとしたその時、これまで静かだった海に急な波が生まれて船が大きく揺れた。ふらつきながらも何とか甲板に降りたクワトロだったが、その際にメダリオンを海に落としてしまった。
 ぽちゃん。そんな音に気付いた時には既に手遅れ。悠々と海を泳いでいたアノマロカリスが餌とでも間違えたのか、咥えてそのままどこかへと消えてしまった。
「これは……残念ですけど、諦めるしかなさそうですね」
「そんなぁ~~~!!」
 睦月の一言にとどめを刺され、クワトロはその場に膝をつくのであった。



 と、そんな一幕がありつつもひとまずは依頼完了ということで、イレギュラーズたちはアノマ本島に戻ると港近くの食堂を借りて打ち上げを行う。
「調理は俺に任せな!」
 振る舞われるのは、アノマ諸島名物アノマロカリス。刺身を始め、煮たり焼いたりとキッチンを借りたカトルカールがその腕前を披露し美味しく仕上げていく。
「赤城――貴様には頭部をやらねば成らない」
「にゃはは! せんせ、ありがとう!」
 ロジャーズがアノマロカリスの頭部が乗った皿を差し出したのは、自身の生徒である赤城ゆい。せっかくの機会なので、イレギュラーズの仲間に紹介しようと呼んでいたのだ。
 一人前と認めた証にと差し出された、大量のホイップクリームが添えられたアノマロカリスの頭部に食らいつきながら、ゆいは今回の依頼に参加したイレギュラーズと交友を深めようと会話に混じっていく。
「コレガ、アノマロカリスノ刺身デスカ……」
「イセエビに近い……のか?」
 観測端末とイズマもまたアノマロカリスの刺身を食す。小皿の醤油に浸して一口。じっくりと味わうと、エビやカニに近い甲殻類のような風味が口に広がっていく。どうやら問題なく食べられるもののようだ。
「あら、十夜さん。グラス空いてはるなぁ。今注ぎますね」
「おっと、すまないな」
 魚介を食せない縁はサマービールを片手に談笑していたのだが、そのグラスが空いていることに気付いた蜻蛉が、すかさずビールを注いで柔らかく微笑む。
 終始和やかな雰囲気では宴会が続くが、その裏ではクワトロの事を聞こうと動く者たちがいた。
 他でもない、この地の領主である史之と睦月だ。
「さてクワトロ君。君にこのメダリオンを与えた人の名を教えてくれないかな?」
「もう。そんな怖い聞き方したらダメですよ。
 ……でも、僕もこの前漁村に現れたという子について知りたいのも事実なんです。
 何か知っていることがあれば教えてください」
 穏やかな口調ではあるがその裏には攻撃的な強い圧が感じられる。そんな圧から守るように睦月はクワトロを抱き寄せながら重ねて問う。
 こちらは史之とは違い、いざとなったらクワトロを守るために力を貸したいという深い慈愛が感じられた。
「マスターのことですか? うーん、マスターはマスターとしか……。あでも、対外的には『ティツィオ』って名乗ってますね。
 それと漁村のは……ウーノの事ですかね。私も詳しくは知らないですけど、たぶんマスターに指示されたんだと思います。
 私たちにとって、マスターの命令は絶対ですし」
 なんらかの抵抗があるかもと考えていた史之だったが、予想に反してあっけらかんとした様子でクワトロは素直に話した。
「っ! なら、そのマスターについてもう少し詳しく!」
「権限レベルが足りないため、指定の情報は開示できません」
「権限レベルだって……?」
「あ。もうこんな時間! 何日も帰ってないし早く戻ってマスターに報告しないと……! それじゃあ、私はこの辺で! 今日は付き合ってくれてありがとうございました!」
「あ、待って!」
「……結局、詳しい事を知ることは出来ませんでしたね」
 更に一歩踏み込もうとする史之だったが、まるで機械のように表情の消えたクワトロが冷たくそう答える。かと思えば、一瞬で快活な元のクワトロに戻り現在の時刻を見て驚く。
 手早く荷物を纏めて食堂を後にするクワトロを追って史之と睦月も食堂から出るが、クワトロの姿は煙のように消えていたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 アノマ諸島の探検、お疲れさまでした。
 名物アノマロカリスって観賞用じゃなかったんですね……。甲殻類には違いないでしょうし、食べられるとしたらやはりエビやカニに近いのでしょうか。
 ……え、ホイップクリーム?????

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