PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<廃滅の海色>なかったことになんか、させない

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●腐り果てた海
 兵は瓦解しつつあった。旗艦はとうに沈み、砲弾の残りはあれど船員の多くは負傷している。
 甲板に入り込んだスケルトンセイラーたちから逃げるべく非戦闘員が船室へ逃げ込むも、今しがたその扉が破壊された所だった。悲鳴と、スケルトンメイジが唱える炎の魔法詠唱が重なる。
 空は暗雲がたちこめ、空気には腐ったような異臭が混じる。
 ここは『絶望の青』。何人たりとも踏破することのできない、おしまいの海。
 もう幾度目かになる大遠征は、またも失敗に終わろうとしている。

「――それが、『神の国』が見せるあるべき世界だと? 冗談ではない!」
 海洋王国海軍拠点。いわゆるシレンツィオ諸島と呼ばれる三つの島がある。フェデリア、アクエリア、コンモスカだ。
 このうちリゾート色のやや薄いアクエリア島の総督府にて、アームストロングアザラシことゼニガタ総督は苦々しい顔でイカをかみしめた。
 その横では『俺のイカ……』と呟きながらアシカ副長が追加の報告書を取り出す。
「それが『神の国』ってやつなんでしょう。アルバニアが倒されなかった世界を主張してるんですよ。あと、ほっといたらこれが『帳』になってこの辺を覆い尽くしちゃうらしいですよ」
「なんと傲慢な!」
 そーっとイカに手を伸ばすアシカ副長。その手が届く一瞬前に、ゼニガタはシャッとイカをつまみあげて口に運んだ。あぁ~という声がアシカ副長から漏れる。
「なんとか、できるかね?」
 キリッとした顔で振り返るゼニガタ。
 そこにいたのはゼニガタの息子であるワモン・C・デルモンテ(p3p007195)。そして同海軍にしてフェデリア総督府の指揮官ファクルの息子、カイト・シャルラハ(p3p000684)であった。
 二人は揃って、こう答える。
「「もちろんだぜ!」」

●神の国と、絶望の海戦
 『神の国』について、まずは説明せねばなるまい。
 端的に述べるなら、これは冠位傲慢の魔種ルスト・シファーの権能によって構築された異空間である。
 その内側には、『現在の天義はまやかしである』という彼らの主張を実現したかのようなあり得ざる可能性の世界が展開されているという。
 死んだものが生きているかのような、失われた街がまだあるかのような、廃滅病が、なくなっていないかのような。
 そして恐るべきは、放置しておけば『帳』が完成し、現実をその形へと塗り替えてしまうというのだ。
 はじめは天義国内でのみ発見されていた『神の国』だが、触媒さえあれば世界中のどこにでも帳を下ろすことができるとして、最近では幻想王国や海洋王国でも発見されている。
 簡単に述べてしまうと、これを放置するだけで『絶望の青』が戻り、廃滅病に苦しむ地獄のような海が再び現れてしまうということになるのだ。
「今回対応していただくのは、そんな『神の国』のひとつです」
 アシカ副長が追加書類をテーブルへと並べていく。
 ワモンとカイト、そして部屋に集まった仲間達が人数分のそれをとりあげた。

 神の国の一部。ここでは便宜上『ブルーオーシャン』と呼んでおこう。
 ブルーオーシャンでは今まさに、『アルバニアの軍勢に海軍が敗れ去った世界』が再現されている。
 何隻もの船、それも実弾砲や魔導砲などの大砲を搭載した船らが次々に沈められ、撤退しつつもいずれは全て沈められてしまうだろうという有様だ。
「自前の船はなんとか入れられるようです。現地にある大砲も数発程度なら使えるでしょう。この場面へと乱入して、核となる幽霊船を倒すことでブルーオーシャンを消滅させることができます。
 逆に言えば、コレを放置すれば同じ事が現実に上書きされてしまうということになる」
「そいつは……」
 カイトが難しい顔で呻く。ワモンも両手をばたばたやって反抗の意思を示した。
「そんなことはさせねーぞ! 幽霊船をぶっとばしてやる!」
「だな。敵戦力はその幽霊船だけなのか?」
「いえ……」
 アシカ副長が資料を捲る。
「核となっているのは幽霊船。厳密にはワールドイーターという存在です。船自体が生きたモンスターということですね。
 それに附随して、大量のスケルトンセイラーと随伴幽霊船たちがついています。こちらが結構な数の船を持ち込んだとしても、数の上ではあちらが上となるでしょう」
 一騎当千が求められる、ということだ。実際、そういう戦いなら何度もしてきた。カイトも、ワモンもだ。絶望の青を踏破するその中でなら尚のこと。
「わかった。本当の歴史ってやつを、もう一度そいつらに見せつけてやろう!」
「おう! ここはもう『静寂の青』になったんだってことをな!」

GMコメント

 神の国へと乱入し、ワールドイーターを撃滅。現実世界を侵食しようとしているこれらを排除しましょう。

※今回はシレンツィオを舞台としているため、『竜宮幣』を変換した携行品を使用できるものとします。

●海戦
 お互い頑丈な船を用いて戦闘を行っています。
 味方(?)となる海洋海軍はほぼ瓦解し、撤退状態にあります。
 彼らの船は撤退方向に進路をとり、追いつかれた幽霊船からの砲撃を受けたり、乗り込んできたスケルトンセイラーたちによって船員が攻撃を受けています。
 このまま放置すれば間違いなく全て沈んでしまうでしょう。
(一応神の国の中で再現された幻影のような存在たちではありますが、かといって放置するのは心の痛む所です)

※船の持ち込み
 自前の船(小型船相当のアイテム)を装備している場合、装備者一人につき一隻まで持ち込むことができます。
 操舵をしながら戦闘は可能であるものとし、操船スキルがあれば敵船からの砲撃を回避しやすいものとします。
 味方の船から大砲を移動させることは、多くの船員を助け、かつ船が無事であれば、ちょっと頑張ったらできるものとします。ただし使用できるのは今回の戦闘の間だけとします。

●エネミー
・ワールドイーター(フラッグシップ)
 敵の幽霊船のなかでフラッグシップ級に強力な敵です。
 船自体が生きたモンスターであり、大砲による砲撃や機銃による攻撃をしかけてきます。
 乗組員であるスケルトンセイラーたちもけしかけてくるのでかなり派手な船上バトルになるでしょう。
 いわゆるこのエリアのボスです。であると同時にこの世界を維持している核を内包した存在でもあるため、倒されないように後方に控えています。

・幽霊船とスケルトンセイラー
 ボロボロの沈没船のような見た目の船を魔法で操るスケルトンの船員たちです。
 戦士型と魔法型が存在しており、ぱっと見でわかる外見をしています。便宜上魔法型をスケルトンメイジと呼んだりします。
 彼らはこちらの船に乗り込んできて戦ったり、自分の船に乗り込まれた敵を排除したりといった歩兵の役割を持っています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <廃滅の海色>なかったことになんか、させない完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ファニー(p3p010255)

リプレイ

●なかったことになんか、させない
「よう『俺』、調子はどうだ?」
「紅鷹丸も使えるんだ。絶好調だぜ、『俺』!」
 『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)と『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は肩をすくめて笑い合った。カイト・シャルラハ(以降シャルラハと表記する)と霧島戒斗のコピーことカイトは名を同じくすることを冗談めかして互いを『俺』と呼び合っていた。世の中には同名の人物がそれなりにいるというが、ローレットの中でアクティブなイレギュラーズが同名であるケースはカイトたちを含めて片手で数えるほどしかない。稀なケースだ。
「なら良かった。この海は何人もの協力で『静寂』に鎮めた海だ。
 それを単に気に食わないから帳を張ろうだなんて、傲慢としか良い様が無いな?
 ま、そういう『舞台』を作ろうってんならひっくり返して正しく築き直すのが俺の役目――だろ?」
「だな」
 カイトの言葉にシャルラハは笑った。
「にしても、この『神の国』とやらの世界で俺たちは何をしてるんだろうな」
「『いない』って線が濃厚なんじゃないか?」
 『神の国』と同時期にもたらされた『神託』をひもとくと、それが彼らにとって都合の良い傲慢な解釈であることがわかる。
 そして多くのケースは、イレギュラーズがこの世界に現れず、奮闘するも惜しくも各国がイレギュラーズの不在によって冠位魔種に敗れ去る世界が再現されているように見えた。かの遠征が失敗した世界というのも、そういう意味では同じだろう。
「なら、欠けたピースを埋めるのが俺たちの役目ってことだね」
 『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)は絶望の青を踏破したあの日のことを思い出していた。ヒーラーとして船を走らせ、リヴァイアサンにも立ち向かったあの日のことを。
「ふぅん、女王陛下のものでもあるこの海を、またあの荒廃した景色に変えようって?
 俺のやる気へ火をつけるのが上手いね。とことんやってやろうじゃないか。
 神の国とかいう胡散臭いものはいらないよ。
 海洋の民としては、女王陛下の御威光を轟かせるためにも、負けらんないね」
「そうだぜ! 神の国の奴らにゃこれ以上好きにはさせねーぜ! あんだけの犠牲を払って攻略した絶望の青攻略、なかったことにゃあさせねーぞ!」
 うおー! と叫びながらガトリングガンの銃身をぐるぐる回転させる『生イカが好き』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)。
 青き海を取り戻したことのみならず、父との溝を埋めた(なんか秒で埋まったけど)思い出までなかったことにされてはたまらない。
「多くを失って、漸く静寂を取り戻した海。
 其れを嘲笑うかの様に、糸を引くものが居るのなら
 悉く、打ち負かせて見せましょう」
 『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が深く頷き、ワモンたちに同意を示す。
 そして、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)たちへと振り返った。
「懐かしいですか?」
「そうね……あの時は色々と大変だったわ……。
 けど苦労に見合う報酬を受け取ったんだから、その報酬を奪われるのは腹が立つわね、奪われそうなら奪い返すまでよ!」
 イナリのいう報酬とは、おそらく豊穣という新天地を発見したことだろう。あのときのローレットの沸きようといったら凄まじかった。
 イナリ自身、あの日のワクワクとした気持ちを忘れられない。
「天義から手を引いたって言うのなら別に興味もないんですけどね。
 また私の天義に足を踏み入れるつもりでしょう。ならば、地の果てまででも追いかけますよ」
 一方で、『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)はこの騒ぎが天義から波及した者であることを重く考えていた。
「ていうか、本当はこんな世界になってたんだよ〜って、言い訳がましいんですよ。
 シンプルに、滅びゆく世界が正解だと言うのなら、それは正義ではない。私間違ったこと言ってます?」
 問いかけに、『Star[K]night』ファニー(p3p010255)は肩をすくめて返す。
 彼は彼で、また別のことを重くとららえているのだ。
「オレは絶望の青を踏破したわけじゃない。
 でもあの戦いで、どれだけの犠牲が出たかは知ってる。
 そして未練を残した魂たちが『フリーパレット』という願いの塊になったのも知ってる。
 オレはフリーパレットたちが還ってゆくのをしっかり見届けたんだ」
 あの日、彼は『舞台』へと上がった。彼の人生観を大きく変える程度には、重要な存在と出来事だったのだ。
 犠牲と、願いと、その上に成り立った今。
「ああそうとも。なかったことになんか、させない」
 八人はそれぞれ頷き合うと、『神の国』への突入を開始するのだった。

●ブルーオーシャン
 海洋海軍の船が次々に沈んでいく。土砂降りの雨の中、暗雲と腐り果てた海に挟まれた彼らには、もはや絶望しか残っていない。
 ――かに、思われた。
「全速力だ、吹き飛ばされるなよ、『俺』!」
 そこへ現れた一席の船。赤い鷹を思わせるそれは改造小型船『紅鷹丸』。
「あ、あれは――!?」
 知らない筈だ。にも関わらず、海洋海軍の非戦闘員たちは思わず希望を抱いてしまった。まるで彼らの心象を示すかのように空が晴れ、続き史之の『グレイスフルイザベラ号』が突き進んでくる。
 強力な幽霊船たちをまるで怖れもしないような威風堂々としたその姿は、なにも見かけだけのものではない。
「なつかしーなー、この頃の俺ってヒーラーだったよね。
 いまアタッカーやってるけど、根っこは同じだよ。
 つまりね、誰も死なせたくないってこと!」
 史之は船を器用に操縦すると、海軍の船に横付けするように船体を軽くこすりつけた。
 幽霊船からの砲撃が、斥力場を発生させた船によって阻まれる。
 その間に茄子子は海軍の船へと飛び込んだ。
 今まさに海軍を甲板にて追い詰めつつあったスケルトンセイラーたちがくるりと向き直る。
 始めましょうか、と呟いた茄子子は『天上のエンテレケイア』を発動。彼女を邪魔なヒーラーだと察したスケルトンセイラーたちが剣を携え駆け寄るも、その頭部に銀の矢が突き刺さる。ただ刺さっただけではない。衝撃で倒れたスケルトンセイラーはそのまま灰となって風に散っていく。
 船上から弓矢の狙いを付けていたアッシュのものだ。アッシュは弓矢から剣に武器を持ちかえると茄子子を庇うような位置をとりつつスケルトンセイラーたちへと突進を仕掛けた。
「集まれば集まるほど、此方にとっては好都合です。頼みます」
「そういうことなら――」
 イナリがフェイク・ザ・パンドラを発動。そのまま甲板に集まったスケルトンセイラーたちめがけて飛び込んでいく。
 着地点を中心に紅葉が舞うエフェクトが走り、周囲のスケルトンセイラーたちが吹き飛んだ。
「やっぱり船同士の戦いだと敵船に乗り込んでの白兵戦だわね。さて、戦場は狭いし範囲攻撃で大暴れさせてもらうわよ!」
「――」
 こくりと頷くアッシュ。
 吹き飛んだスケルトンセイラーが起き上がろうとした所を、剣による素早い斬撃で彼らの頭を次々に刈り取っていく。
 敵の間をするすると滑り抜けるような足取りと踊るような剣さばきは、スケルトンセイラーの誰一人としてとらえることができない。
 無事なスケルトンセイラーはどちらに対応すべきか迷った末、サーベルを抜いて史之たちの船へと突進――しようとしたところで、彼らに弾幕が襲った。
「アザラシの水中戦とくと味わいやがれー!」
 それは事前に海へ飛び込み、海面から頭とガトリングガンを出したワモンによる弾幕だった。
 船の反対側から仕掛けられた弾幕に、後方支援を行おうと後衛に下がっていたスケルトンメイジたちが瓦解する。
「おらおらー!」
 ワモンのガトリングガンがうなりをあげ、右から左へ薙ぐように砲撃を走らせる。その威力たるや凄まじく、海軍の船はその手すり部分がはじけ飛び近くにいたスケルトンメイジたちの身体もまた同じようにはじけ飛んでいく。木材も骨も関係ないといった有様だ。
 その一方で、シャルラハの船はまっすぐフラッグシップへ向けて突き進んでいる。それを阻もうと幽霊船の二隻が両脇からはさもうと迫るが、シャルラハにとってはむしろ好都合だ。
「『俺』らから逃げ切れると思うなよ?」
 操縦桿を握ったまま、シャルラハは『熱血の赤翼』をまき散らす。
 船体をぶつけた勢いのまま乗り込んできたスケルトンセイラーの剣が迫るも、シャルラハの槍はそれを華麗にはねのけるのだ。
「そのまま抑えといてくれよ、『俺』!」
 カイトはシャルラハを中心に氷戒凍葬『黒顎逆雨』を発動。スケルトンセイラーだけに注がれた死出を彩る呪われた舞台演出が、彼らの運命を裏返す。
 具体的に言うなら、斬りかかろうとしたスケルトンセイラーがその場で派手に転倒したり、手にしていたはずの剣がどこかにすっぽ抜けたり、酷い時には仲間同士でぶつかり合ってもんどりうつなどという事態が頻発したのだ。
 喜劇のような有様に、ファニーは小さく笑みをこぼす。
「さあて、トドメだ」
 ファニーは両手をジャケットのポケットに入れると、ニッと歯を見せて笑う。
 と同時にどこからともなく無数の獣めいた頭蓋骨が出現し、流れ星の如き砲撃をスケルトンセイラーたちへと浴びせかけた。器用にシャルラハのいる場所だけをギリギリ避けるのは腕前ゆえか、それともシャルラハの回避能力故か、あるいはその両方か。
 ひとしきり砲撃を浴びせてスケルトンセイラーを崩壊させたファニーは、助走を付けて船から飛び降りる。
「さ、行くぜ裏取りだ」
「おう!」
 水上を流星のような軌跡を残しながら滑るファニー。その横をワモンが豪快に泳ぎ、自らの船から飛び降りてきた史之がそれに並ぶ。
「――」
 目指すは敵のフラッグシップ(ワールドイーター)。
「にしてもあの船、見るからに穴だらけだね」
 史之が言うように、フラッグシップは船として機能しているのが不思議なくらいにあちこちに穴が空いていた。古き戦いの中で沈没した船を再利用しているとでもいうのか。あるいはそれを写し取ることで皮肉としているのか。
「だったらもっと穴だらけにしてやるぜ!」
「いいな。蜂の巣みたいにしてやろうぜ」
 ワモンとファニーがそれぞれ左右から回り込むように走り、史之もそれに伴う。
 一方で史之が乗っていた船は茄子子が操縦を代行し、その後方からは海軍の非戦闘員たちによる必死の支援砲撃が始まっていた。
 砲弾が弧を描き飛んでいくその中を、茄子子とシャルラハの船が突き進むのだ。
「今、この船の主導権を握ってるのは私ですよ? 全員生きて帰らせるので、とりあえず死ぬ気で頑張ってください」
 茄子子がにっこりと笑う。
 対抗してフラッグシップから凄まじい量の砲撃が一斉に浴びせられるが、『乙女たちのアンコール』を発動させ、範囲治癒魔法を展開。
 莫大なカウンターヒールで強引に乗り切った。
「さぁ、上塗りされた歴史を書き換えましょう。ええ、皆さんの手で」
 両手を広げ掲げてみせる茄子子。
 船はついに攻撃範囲内へと迫り、アッシュは船に積み込んだ大砲に手をそえた。
 彼女の手から伝わった銀の燐光が大砲を包み込み、そして一瞬だけ眩く光る。
「幽霊船……とあれば見た目の損傷もあまりアテにはならないでしょうが
 打ち続けていれば、何れは沈む筈です。早々に海の底で眠っていただきましょう」
 形有るものは必ず壊れる。ならばとアッシュは大砲の狙いをフラッグシップのマストに定めて発射した。
 見事に命中した大砲がマストの柱をブチ抜き、木を切り倒したかのような音をたててへし折れる。限界となったロープがぶちぶちと千切れ暴れるさまが、相手の船上に見えた。
「一足先に行かせて貰うわ」
 イナリは助走をつけた大ジャンプから、空中で『神幸~攻~』を発動。
 御神渡りという異界の神事を術式で再現したというこの技は、瞬時にイナリの身体を相手の甲板の上に移動させる。ドンと足を踏みならしたその中心点から放射状に広がった衝撃が、待機していたスケルトンセイラーたちを吹き飛ばし放射状のヒビを甲板につけるのだ。
「一斉攻撃!」
「おんぼろ幽霊船なんざ海の藻屑にして海洋の正しい歴史をとりもどしてやらぁ!」
 史之はフラッグシップを更に穴だらけにしてやるべく、船底めがけて斥力を纏った突進を仕掛けた。ズドンという衝撃によってフラッグシップは大きく揺れ、船底に穴が空く。それでも浮いているのだから、もはやこの船は船舶としての浮力は元からもってはいないのではと史之は思えた。要するに、嘘吐きの船だ。
「女王陛下の海に、相応しくないね――」
 一方でワモンの激しい砲撃がフラッグシップの船体脇をばすばすと撃ち抜いていく。細かくあいた穴が線となり、内部で暴れた海水が噴き出すさまが見える。
「もう一息だぜ、ファニー!」
「ああ――星よ、星よ、悲願を成就したフリーパレットたちよ、オレに力を貸してくれ!」
 途端、ファニーの拳に虹色の光が灯ったように見えた。
「オレたちは負けない。この海をもう一度、静寂へと戻すんだ!」
 凄まじいスピードでフラッグシップの裏側へと回り込んだファニーは拳を振り抜き、その光はフラッグシップをまっすぐに撃ち抜いていく。
 それは確かに、この海を踏破しようと願った者たちの集めた願いの光に見えた。
「「仕上げだ『俺』」」
 カイトとシャルラハが同時に叫ぶ。
「俺はあくまで演者。だがそちらが脚本家を気取るならノーを突きつける事だって仕事なのさ。……『何もしていないやつが威張り散らす程滑稽な傲慢は存在しない』ってな?」
 皮肉げに言うと、カイトは『やわらかい思い出』を発動。氷戒凍葬『紅蓮封檻』を多重発動させた。
 領域を極限まで圧縮することによって産まれた殺戮の結界が巨大化し、フラッグシップを一瞬だけ包み込む。
 とらえたフラッグシップから海水が次々にあふれ出し、高く跳躍したシャルラハがまるでアローヘッドの如くフラッグシップへ突っ込んだ。
「正しい歴史だかなんだか知らんが海洋なめんな! どんなに凹まされようが海の踏破を諦めないのが海洋って国なんだよ!
 それに、俺らの悲願を、水竜様の尽力をなかったコトにするなんて絶対に認めねぇからな!」
 そう、この海は彼らの願いと、奮闘と、そして奇跡によって手に入れた。
 帳だかなんだか知らないが、とシャルラハはギラリと笑う。
 彼の身体は一瞬だけ紅蓮の鷹めいたオーラに包まれ、フラッグシップを撃ち抜いていく。

 それが、切っ掛けだった。
 フラッグシップがついにずぶずぶと沈みはじめ、同時に『世界』に亀裂が入る。
 あれほど荒れていた海が徐々に静けさを取り戻し、空に虹が架かり始める。
 振り返ると、幻影の海軍兵たちが手を振っていた。
 誰かが言った『ありがとう』がさざ波のように重なり、耳へと届く。
 それに答えようとした瞬間、世界は消えていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete
 ――かくして『静寂』は取り戻された

PAGETOPPAGEBOTTOM