シナリオ詳細
焦燥のアルヴァ=ラドスラフ。或いは、雨の降る森と盗賊の村…。
オープニング
●帰らぬ彼の物語・後編
アルヴァ=ラドスラフ (p3p007360)が姿を消して10日ほど。
時折、所在知れずとなるイレギュラーズは少なくないし、彼……アルヴァ=ラドスラフ (p3p007360)も、ふらりと姿を消すことがある。
姿を消すこともあるが、だいたいの場合は2、3日もすれば何事も無かったみたいな顔をして帰って来るし、だいたいの場合はたいてい、誰かが同行している。
ここ最近は、とくにそう言ったことが多くなったように思う。毎回のように怪我をして帰って来るアルヴァの姿は、何か焦りのようなものを感じている風にも見えた。
だが、どうやら今回は少々事情が異なるようだ。
ローレットに残されていた依頼書を見て、綾辻・愛奈 (p3p010320)は目を剥いた。
「っ……単独で!? この規模相手に!? な、何を考えているんです?」
依頼書を握る手に力が籠る。
皺だらけになった依頼書を凝視した。何度、読み返しても間違いない。
敵の規模は50名前後。
元貴族の男が率いる盗賊団の壊滅依頼だ。
幻想貴族ラニ・エルード。
人身売買に関与していた疑いで貴族位を剥奪。エルード家の庇護下で人身売買に関与していた兵やならず者たちを連れて逃亡。
現在は、とある森の奥に小規模な集落を作り、盗賊をしているらしい。
「なるほど、放置しておきたくはない輩ですが……」
愛奈は僅かに唇を噛んだ。
あろうことか、依頼の参加者はアルヴァ=ラドスラフただ1人だけ。
航空猟兵隊長ともあろう男が、一体、何をやっているのか。
何のための徒党。
何のための航空猟兵。
何のための仲間。
「はぁ……今から人を集めて、現場へ向かって……間に合うでしょうか?」
死んではいない。
そう思いたいが、万が一と言うこともあり得る。
今すぐにでも駆け出したい衝動を抑え、愛奈は粛々と依頼受領の手続きや、参加者の募集といった事務作業を片付けた。
ここで、衝動のまま走り出せば、アルヴァの二の舞になりかねない。
●帰らぬ彼の物語・前編
実力不足。
その言葉が、アルヴァ=ラドスラフ の頭の中の、脳の奥の深いところにこびり付いて離れない。
竜種に負けた。
闘技場での連戦連敗。
悔しさに歯噛みしようと、声をあげて吠えようと、それで強くなれるのなら苦労はしない。強くなるには、鍛えるしかない。
焦り。無力感。抗い難い衝動による視野狭窄。
今のアルヴァの状況は、まさしくそれだ。
人身売買で財を築いた元・幻想貴族ラニ・エルードおよびその手下たちの壊滅。
数は多いが、堕ちた貴族とその手下が相手だ。楽ではないが、アルヴァ1人でも達成できる……そのつもりでいたのだが、予想が外れた。
「ちくしょう……なんて様だ」
ところは幻想。
とある森の奥深く。粗末な小屋とテントばかりの小さな集落が、ラニ・エルードたちのアジトだった。夜闇に紛れ、アジトに忍び込んだアルヴァだが10人ほどを無力化したところで撤退を余儀なくされる。
エルード配下の騎士らしき男……名はザンパノと言っただろうか……は、かなりの実力者だった。なぜ彼ほどの実力者が、盗賊にまで落ちぶれたのか理解できない。
「【重圧】に【滂沱】か……あの剣の能力か? あぁ、血が止まらない」
雨の降る森の中、アルヴァは樹の洞に身を潜めている。
臭いも、血の痕も、雨が洗い流してくれた。
暫くの間は安全だろう。
「他に【飛】も付いてた……手下どもが【ブレイク】ばっかり使って来るのは、ザンパノの攻撃を当てやすくするためか」
ザンパノの動きは速くなかった。
手下たちは、ザンパノのサポート役だったのだ。
それをアルヴァは見誤った。
平時であれば、きっとその程度のことは読めたはずだ。だが、焦りがアルヴァから冷静な判断力を奪った。
その結果がこれだ。
「雨が止んだら、連中、俺を探しに来るだろうな……今、見つかるとマズいことになる」
体力を消耗した今のアルヴァでは、十全に動き、戦うことは出来そうにない。
「……っ」
傷が痛む。
手足の先から、温度が失われていく。
意識を保っているだけでも精一杯だ。
だというのに、アルヴァの耳は何者かの足音を捉えた。
1人ではない。
こんな森の中に、雨の日に、人がいるはずもない。
となれば、その足音の主はきっと盗賊たちだろう。
「命運尽きたか」
泥まみれの銃を握る。
血を流す手には、十分な力が籠らない。
不意打ちを1撃入れられれば上出来か。
覚悟を決めて、腰を浮かせた。
会敵と同時に先制攻撃を叩き込むためだ。
けれど、しかし……。
「あぁ、やっと見つけました。とりあえず生きていて良かったですが……何だってこんな無茶な真似をしてしまったんです?」
そこにいたのは、呆れた顔の愛奈であった。
- 焦燥のアルヴァ=ラドスラフ。或いは、雨の降る森と盗賊の村…。完了
- GM名病み月
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年06月06日 22時05分
- 参加人数7/7人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 7 人
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参加者一覧(7人)
リプレイ
●雨の降る森
「何故、どうして助ける?」
幻想。
暗い森の中。
腹の傷を手で押さえ『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は呻くようにそう言った。
「俺は勝手に一人で依頼を受けて、勝手にこうなったんだ。そんな俺が誰かに助けられる道理も、隊長と呼ばれる器もないだろう?」
全身は雨に濡れていて、流れた血と冷えた体温によるものか顔色も悪い。発する声も、些か覇気に欠けている。
「酷い姿をしてるな。それとも今そういうのが若い奴等の中じゃ流行ってるのか? 衣服だけに飽き足らず体と心にまでダメージ加工とかファッションに命懸け過ぎだろ」
濡れた髪を掻きあげながらそう言ったのは『陰性』回言 世界(p3p007315)である。
嘲笑混じりの言葉を聞いて、アルヴァは小さな舌打ちを零す。世界の言葉に思うところが無いわけではないが、悲しいかな、単騎で逸って大怪我を負ったのは事実だ。
「航空猟兵という、一つの部隊を築いたお前が、個の強さに囚われる、とは。孤軍奮闘が、必ずしも悪い、とは言わない、が。今回は、この有様、だ。全く、世話が焼ける、な」
『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が肩を竦めた。
それから、ポケットを漁ると飴玉を1粒、取り出した。アルヴァの口に飴玉を押し込み、エクスマリアはきっと笑った。
「マリア達が来るまで、よく生き延びた。ご褒美、だ」
「んぐっ……」
アルヴァの口内に甘みが広がる。
思えば、口に何かを入れたのは何時間ぶりのことだろう。飲食さえも忘れるほどに焦っていたのだ。甘味が少し、気休め程度にではあるが疲れた脳の疲労を軽くしてくれた。
「らしくないな。隊長殿。まあ元より頭のネジが一本どころか五本は飛んでるのが航空猟兵の強みでもあったが……対物量を盤上ごとひっくり返すには少し火力が足りないと見える」
「目を離せない隊長様なこって。てめえまでいなくなるんじゃねえよ、ばーっか」
『タナトス』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)および『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)も、呆れ半分怒り半分といった様子で言葉を放つ。
気まずそうに視線を逸らし、アルヴァは答えた。
「俺は、助けに来てくれなんて言った覚えはない」
悪態を突く元気があるなら、アルヴァはまだ戦える。
無事に生きていたことに安堵もするが、とはいえしかし、事態は何も解決していないのだ。何しろ、今回のターゲットである元・貴族の盗賊、ラニ・エルードとその一味は未だ健在。
現時点での状況だけで物を言うなら、アルヴァの仕事は“失敗”している。
「一人きりでこんな依頼に向かうなんて、本当にバカじゃないの? 本当に、人の気も知らないで」
視線を逸らした先には『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)がいる。
「……っ」
まっすぐに差し向けられたセレナの視線に、アルヴァは声を詰まらせた。何か言い返そうと、口をもごもごとさせている間に、追い打ちのような『航空猟兵』綾辻・愛奈(p3p010320)の声が投げかけられた。
「本当に無謀なことばかりするんだから……判っていますか? 貴方が無茶無謀するのは貴方の自由かもしれないですが、それ見て私がどう思うかとか。全く……」
今回、アルヴァの独断専行に真っ先に気が付いたのが愛奈だ。
アルヴァが1人で仕事に向かったことに気付いて、急ぎ、救出隊を編成。森の中で、重傷を負ったアルヴァを発見し、今に至る。
「はあ……説教もお仕置きも終わってからだわ。先にあいつらを蹴散らすわよ」
アルヴァを立ち上がらせながら、セレナは腰に手を当て、言った。
視線は森の奥の方へ……エルード一味のアジトの方へと向いていた。
●エルード一味
「さて、とりあえず応急処置は済んだが……まぁ、気休めだよな」
包帯の巻かれたアルヴァの腹部を手で叩き、世界は口角を上げる。痛みに顔を顰めたアルヴァの目を見やり、世界は言った。
「あ、アルヴァ君は俺がお姫様抱っこで連れてってやろうか?」
「……いや、いい。それより、急ごう。アジトの位置も、すっかり分から無くなっちまった」
「少しは、元気になったよう、だな」
エルード一味のアジトは、森のどこかにある集落だ。
集落の全員がエルードの部下。つまり、盗賊たちの村である。当初、アルヴァは件の集落へ単身乗り込み、反撃にあって撤退した。
夜の森の中を走り回ったことで、自身の現在地も、集落の位置も、不明瞭という状況だ。
「あぁ、任せろ。すぐに見つけてやる」
囁くような声を落として、ブランシュの姿が夜の闇の中へと消える。
「雨だ。浄罪の雨だ。なればこそ我らは罪深き幻想貴族共を駆逐し、新たなるミームを幻想へと……まあその辺は今は良いか」
雨音と夜の闇に紛れて、森の中をブランシュが駆ける。
ブランシュを先導して走るのは、名を“救世主”という1匹の狼だ。しばらく走ったところで、“救世主”が低く唸った。
足を止めたブランシュが、森の奥へと目を凝らす。そこにいたのは、短い槍を手にした男だ。エルードの部下の1人で間違いないだろう。
「思ったよりも近くにいたな。危機一髪と言ったところだ」
自分たちの到着が、もう暫く遅かったならアルヴァは発見されていたことだろう。声を潜めて、ブランシュは樹々の間に滑り込む。
雨の音に紛れながら、男の背後へと接近し、逆手に持ったナイフを一閃。
悲鳴を零す暇もなく、男は大地に倒れ伏す。
「拠点を見つけた。この先にある斜面を登った先だ」
ブランシュが帰還すると、その場の全員が一斉に行動を開始する。
拠点を中心に、各方向へエルード一味の捜索部隊は散開しているはずだ。だが、アルヴァの捜索に出たのは一部だけで、半数以上の盗賊は拠点に残っているようだった。
「ザンパノは?」
牡丹が問う。
ザンパノ。
エルード一味の最高戦力で、重厚な鎧を纏った騎士らしき男だ。
実力は確かなようで、アルヴァが深手を負ったのも、ザンパノの手によるものである。
「拠点に居た。ラニの護衛か、陣頭指揮か……その両方か」
「よし。居場所が分かればそれでいいんだ。じゃあ、アルヴァは囮、頼んだぜ。その隙に、オレ達はザンパノ達を奇襲だ!」
広げた左手に、右の拳を叩きつけ牡丹は吠えた。
エルード一味殲滅作戦、開始である。
ブランシュの選定したルートを辿り、アルヴァ、セレナ、世界の3人はエルード一味のアジトへ向かう。
アルヴァにとっては2度目、セレナと世界にとっては初めて訪れる盗賊たちの集落だ。
先にアルヴァが攻め込んだ際、何人かの盗賊は始末している。そのためか、集落の警戒は厚く、盗賊たちは殺気立った様子であった。
当然、先行したアルヴァと世界はすぐに盗賊に補足された。
1人、2人と盗賊たちは数を増し、気づけば周囲をすっかり取り囲まれている。
「何だ? 隠れて居ればいいものを、わざわざ死にに来たのか?」
盗賊たちの遥か後方。
にやけた顔をした細身の男が、ラニ・エルードだ。
「隠れていてもそう長くは持ちそうにないんでな。さぁ、死にてえ奴から前に出ろ。最低でもあと半分は道連れにしてやる」
狙撃銃を肩に担いで、アルヴァは低く腰を落とした。
片手を地面に突いた極端な前傾姿勢は、獲物に襲い掛かる寸前の獣のようにも見えただろう。腹部から流れた血が、濡れた地面を赤に濡らす。
一瞬、そちらに目を向けて世界はアルヴァの背後に回った。
背中合わせになるようにして、アルヴァの死角をカバー。そうしながら、視線をエルードへと向けると、嘲るような表情を浮かべて言葉を投げる。
「後ろでこそこそと何してんだ? ははぁ? さては、森に散った手下どもを呼び集めてるな?」
一瞬、エルードの手が止まる。
世界の言う通り、エルードは森に出ている部下たちを呼び集めている最中だったからだ。そもそも、アルヴァ以外に仲間がいたことから予定外なのだ。万全を期して、戦力を一ヶ所に集中させることに、何の問題があるというのか。
だが、余裕綽々といった世界の態度が引っ掛かる。
「過剰な戦力かとも思うが、俺は過信しない性質なんだ」
「そいつはいいことを聞いたよ。おかげで、仲間たちも動きやすくなりそうだ」
世界の瞳に、茨の紋様が浮かび上がった。
嫌な気配を感じたのだろう。
何人かの盗賊が、アルヴァと世界へ斬りかかる。
けれど、しかし……。
「お生憎様! そう来ると思ったわ!」
森の樹々を薙ぎ倒し、黒い汚泥が集落へと流れ込む。汚泥に飲まれた盗賊たちが悲鳴を上げて、地面に転がる。
セレナの不意打ちを受け、突出した数人はあっという間に動きを止めた。夜の闇の中、足を泥に取られたのだ。
焦るのも当然。
そして、焦りが良い結果をもたらさないのは皮肉なことにアルヴァが既に証明済だ。
「伏兵だ! そいつを始末しろ!」
エルードの指示に従って、盗賊たちの一部が森の方へと向かった。
樹々の間に身を隠しているセレナを襲撃するためだ。
ここで1つ、エルードは勘違いをしていた。先ほど、世界の言っていた「仲間たち」が、セレナのことだと思ったのだ。
「よし、道が空いたな」
汚泥に飲まれた盗賊たちを、アルヴァと共に討ちながら世界はくっくと肩を揺らした。
集落の警戒網が目に見えて手薄になった。
アルヴァたち先遣隊の陽動が上手くいった証拠だろう。
「友を傷つけた報いは、受けさせる。何が何でも、絶対に、だ」
帰還して来る盗賊たちは、まっすぐ集落へと向かっていた。潜伏していたエクスマリアたちに気が付く者はいない。
仮にいたとしても、近づく盗賊はブランシュが音も立てずに排除しているのだから、それも当然。おかげでエクスマリアは、万全の準備を整えたうえで最大火力で術を放てる。
頭上に掲げた手を中心に、夜空に黄金色の魔法陣が展開された。
盗賊の何人かが、それに気が付いただろう。
だが、遅い。
あまりにも、遅すぎた。
「圧倒的な破壊力の前では、無意味。星の鉄槌より逃れる運命があるか、試してやろう」
そして、空が輝いて。
集落に、鉄の雨が降り注ぐ。
「防衛網を組みなおせ! 伏兵は1人じゃない!」
鉄の雨が降りしきる中、誰よりも先に事態を把握したのはザンパノだった。
轟音に負けないほどの大音声を響かせて、部隊の立て直しを図る。
「待て、罠だ!」
だが、動きだそうとした盗賊たちをエルードの声が制止する。
ザンパノとエルード、どちらの指示に従うべきか。
盗賊たちの間に動揺が走った。
「ザ、ザンパノさん!? どうすりゃいいんっすか!?」
「罠だろうが、何だろうが、守りを固めろ! エルード様を討たれちゃ、俺らお終いだぞ!」
困惑する部下を怒鳴り付け、ザンパノは身の丈ほどもある大剣を肩に担いだ。
ザンパノの判断は正しい。
先のエルードの声は、牡丹のものだ。
エルードの声を真似て、盗賊たちの動きを止めた。ザンパノが指示を出し直すまでの数秒とはいえ、牡丹は確かに「声」だけで数十人を止めてみせたのだ。
その隙に、愛奈は戦場へと降り立った。
空から、ひらりと、ザンパノの前へ降り立ったのだ。
「私の隊長ですよ。落とし前はつけてもらいましょうか」
愛奈が腕を前へと掲げる。
展開される魔力の渦に、ぼうと極小の火炎が混じった。
愛奈の起こした炎の礫を浴びながら、ザンパノは剣を一閃させる。闇に紛れて近づいて来るブランシュの存在に気がついたのだ。
「統率の邪魔は出来たようだな」
愛奈とブランシュは、無事にザンパノの元へと辿り着いたようだ。
それを確認した牡丹は、集落の入り口付近で足を止める。
「エクスマリアの方も上手くいったみたいだし、いい感じの盤面が造れたんじゃねぇの?」
「……これで打ち漏らしていたら、些か格好がつかない、が……マリア一人で来たわけではないから、な」
牡丹の隣にエクスマリアが並ぶ。
森から集落に帰還して来る盗賊たちは、ほぼ無傷。それらを足止めすることが、牡丹とエクスマリアの役目だ。
「さぁて、もう一仕事だ……オレたちは配下共を引き付け足止めよ!」
牡丹の身体を炎が包む。
赤く、熱く、あまりにも鮮烈なその姿から盗賊たちは目を逸らせない。
●航空猟兵たちの逆襲
ザンパノの斬撃を受け、ブランシュが地面を転がった。
分厚い鎧の防御力に物を言わせて、ザンパノはブランシュを集中して攻撃している。愛奈のことを後回しにし、ブランシュばかりを狙うのはその身のこなしを警戒してのことだろう。
ザンパノの仕事はあくまでエルードを守ること。闇に紛れて動くブランシュは見過ごせない。
淡い燐光が降り注ぎ、アルヴァの体力を回復させた。
それを成したのは世界だ。
世界は濡れた髪を掻きあげながら、アルヴァの背中を強く押し出す。
「アルヴァっ! ザンパノの方に行ってこいよ。せっかく殴り込みをかけたんだから、やり返さなきゃ嘘ってもんだ」
「……いいのか?」
アルヴァと世界は、集落に残っていた盗賊の大部分を相手にしている。そこでアルヴァが抜けたなら、世界が盗賊たちの集中攻撃を受けることになるだろう。
もっとも、それは世界“1人”だった場合の話だ。
「行って! あんたの悩みも、どうしてこんな事したのかもわたしには分からないわ。でもね、隊長だって、イレギュラーズだって言うなら……」
アルヴァ目掛けて突き出された槍の一撃を、箒に乗ったセレナが防ぐ。
槍に脇を抉られながら、口の端から血を吐きながら、セレナはけれどアルヴァの方をまっすぐに見据えて怒鳴る。
「仲間の……わたし達の事も信頼しなさいよ」
セレナと世界にその場を任せ、アルヴァは駆ける。
借りは返さなければならないからだ。
「くそがよ――恰好悪いったら、ありゃしねえ」
恩には恩を、仇には仇を。
仲間がいれば、こんなに自由に動けるのだと。
歯噛みしながら、アルヴァは疾駆するのであった。
ザンパノの剣を魔力で構成された鎖が包み込む。
「今日の雨は貴方を殺す雨です」
ザンパノは視線を空へ。
愛奈の姿を確認し、ギリと奥歯を噛み締める。
盗賊たちと分断され、徹底的に防衛網を崩されて、孤立したザンパノは満足に動くこともままならない。
どうにもやりづらい相手だ。
否……やりづらい相手“たち”というべきか。
「瀕死の犬一匹仕留められねえって、雑魚兵を雇う没落貴族は高が知れてんなぁ?!」
ザンパノの側頭部を打ったのは、アルヴァの振るう狙撃銃である。頭部に受けたダメージが、ザンパノの視界を激しく揺らす。
よろけながらもザンパノは、大剣を片手で横に薙いだ。
斬撃が、アルヴァの腹部を抉る。
仕留めた。
確かに、仕留めた手応えがあった。
けれど、しかし……。
「この制服に……航空猟兵に喧嘩を売った事、あの世で後悔なさい」
ザンパノの手首を、愛奈の放った魔弾が射貫く。
「これで、いい……」
仕留めたはずのアルヴァが呟く。
半ば、白目を剥きながら。
強く歯を食いしばり、アルヴァは唸る。その口元は、吐血で真っ赤に濡れていた。
そして、一撃。
渾身の殴打が、ザンパノの頭部を打ち据えて……。
ゴキリ、と。
骨の折れる音がした。
「終わった、か?」
地面に座り込んだまま、エクスマリアがそう呟いた。
金の髪は雨に濡れ、身体中が泥まみれ。流れる血が、頬を伝って地面を濡らす。
「ラニの指揮下から配下を奪えたんだ。上出来だろ」
蒸気を纏った牡丹が笑う。
エクスマリア同様、牡丹も満身創痍といった有様だ。
2人の前には、10を超える盗賊たちが倒れている。
「……仲間たちと合流、しよう」
「だな」
任務はまだ終わっていない。
互いに肩を貸すようにして、2人は集落へと向かう。
ザンパノが死んだ。
部下たちは地面に伏している。
戦線の崩壊。盗賊団の壊滅。その事実を理解し、ラニ・エルードは早々に撤退を選んだ。
足跡は雨が消してくれる。
こっそりと戦場を逃げ出せば、きっと誰もエルードがいなくなったことに気が付かない。
そう思った。
そう思ったが、駄目だった。
「大将が世話になったんだ。礼をしねぇとな」
集落の裏口。
エルードの前に立ちはだかるのは、泥塗れの白衣を纏った世界である。傷を負っているようだが、戦闘能力に劣るエルードが敵う相手とも思えない。
だが、それでもエルードは剣を手に取った。
死にたくなかったからだ。
「死が来たぞ。貴様の死が、運命の途切れる音が」
サクリ、と。
エルードの手から剣が落ちた。
指を切断されたのだ。
「俺は死――怯えろ、竦め。運命に嘆きながら、死ぬがいい」
声が聞こえる。
姿は見えない。
エルードの喉にナイフが刺さる。
死の間際まで、エルードは声の主を探し続けた。
いつの間にか、アルヴァの姿が消えていた。
「……お願いですから。黙って居なくなるのだけはやめて下さい」
顔を伏せた愛奈の表情は窺えない。
一発、頬を張ってやろうと思ったのに、いないのではそれも叶わない。
「あんたはひとりじゃないんだから。ホンット、バカ!」
怒り心頭といった様子でセレナが箒で飛んで行ったが、きっとアルヴァは見つからない。
彼がどこへ行ったのか。
その行方は、アルヴァにしか分からない。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
エルードは討伐されました。
エルード一味は壊滅です。
依頼は成功となります。
この度は、シナリオのリクエスト&ご参加、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
ラニ・エルード一味を壊滅させる
●ターゲット
・ラニ・エルード×1
30代前半の元幻想貴族。
人身売買の咎で没落。その後、人身売買に関与していた部下たちを率いて逃走。
現在は盗賊団として、森の奥に極小さな集落を作っている。
エルード自身の戦闘力は無いに等しいが、非常に慎重で統率力に長けている。
そのため、ラニ・エルードおよびザンパノを討伐または捕縛できれば、エルード一味は壊滅することだろう。
・ザンパノ×1
重厚な鎧を見に纏った大柄な男性。
実力は確かで、配下たちからも慕われている。
鎧のせいで足は遅い。
ラニが貴族だったころから仕えている模様。
スラッシュ:物近単に特大ダメージ、重圧、滂沱、飛
鉄板のような剣を使った斬撃。
・エルード一味×40
ラニ・エルードの配下。
元貴族家の兵士や、雇われていたならず者など様々。
装備はあまり良くないが、剣や槍などの武器には【ブレイク】が付与されている。
●フィールド
幻想。
とある森の奥にある集落。
粗末な小屋やテントなどが乱雑に並んでいる。
集落付近には川や井戸もあるため、大昔の村か砦の跡地だろう。
集落の外側は鬱蒼とした森。
雨が降っている。
●その他
アルヴァ=ラドスラフ (p3p007360)さんは、【重圧】【滂沱】が付与されており当シナリオ中、解除は出来ません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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