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シナリオ詳細

<黄昏の園>水晶はヘスペリデスに何を視る

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 存在しえないものがある。
 例えば、華奢なガラス細工は、戦場においては存在できないもののひとつだろう。

  かの地、覇竜領域デザストルは竜が住まうとされている、まさしく「修羅の地」である。
 しかし、強者と強者が食らいあうこの魔境においても、また例外というものはある。
……そんなものを「奇跡」と呼ぶのかもしれない。

「ニース。ニース! 見て、きれいでしょう?」
「アン、待てよ、俺、お前みたいには山道を歩けねぇよ。……うわっ」

 二人の若き男女が連れだち、険しい山道を登っていった。
 行動だけ見ればほほえましいピクニックではあったが、ここはデザストルであるから、並大抵ではなかった。3度夜を明かし、道に迷い、魔物に襲われ、崖を上り、雲を追い越し、落っこちそうになりながらも崖を上る。にわか雨をやりすごし、洞窟に回り込んだ時だった。
「ほら、見て、言ったでしょ? きれいな花が咲いているって」
「うわあ……」
 崖の上にあったのは、水晶のように美しく、透き通った花だった。
 ニースは、魅入られるように手を伸ばした。
 アンにプレゼント、しようと、思って。
 そのときだった。……どこか遠くで。どこかとても遠くで、雷が鳴った。我先にと飛び立つワイバーンが巣穴から飛び出し、青年の体はあおられた。
「! 危ないっ……!」

(俺の体、どうなったんだ?)
 とてつもなく高い崖を、青年は落ちた。飛べる翼は青年にはなかった。けれども不思議と痛みはなかった。
「ニース、ニース、しっかりして!」
 目を開けてみる。
 それは、水晶にて行われる金継ぎのようなものだった。美しい水晶が身体を継ぎ合わせている。
 水晶の奇跡、壊れやすい奇跡。恐怖に身がすくんだが、生きているという喜びが勝った。
「アン。……アン?」
 起き上がってみると、必死に呼びかけてくれていたはずのアンはどこにもいなかった。
 ニースは気が付いた。
……自分を助けようとしていた、アンもまた、崖を落っこちていた。


「それで、俺の傷は治った……いや、治りはしなかったが、生きながらえたんだって言ったら、信じてくれるか?」
 亜竜集落フリアノンにやってきた男は、もとは亜竜集落ウェスタの出身らしい。イレギュラーズたちの前で革鎧を脱いでみせる。肉体は亀裂が入っていて、継ぎはぎの根を張り、傷跡を奇妙な石が埋めている。
「すごいだろ? 俺の故郷では、あの花を持ち帰って、こうやって傷をついできた。狩りで腕を失ったじいさまも、アイスブレスを浴びて指を失ったばあさまも。こうやって、花に生かされてきた。よそ者には教えないでやってきた。でも……そろそろ、限界だってわかる、動きが鈍くなってい、いて、ああ、ごめん、大丈夫、これは特に害をもたらそうとしてるわけじゃあないだろうが、こいつも生き物、だからさ。長く生かして、エネルギーを吸って、次第に身体がサボるようになる。それで……この花なしには生きられなくなる。俺たちは助かってるわけだけど。早めに済ませたほうがいいんだ。今、親株を倒せば、命が助かるやつもいるかもしれない。ここらですっぱり、終わらせてきてほし、ほ、ほしい」
 暗に、助からないものがいると言っている。
 いや、それは、はじめから「助からないべきもの」だったのだろう。
 改めてみるまでもなく、やはり男と水晶の比率は奇妙だ。見づらかったが、水晶が本体、といったくらいに覆われている。
「生き物は死ぬとき暴れるもんだ。何かわからず生きようとする。がむしゃらに、がむしゃらに、生きようとする。俺にはもうその力はないけど、たぶん、ヘスペリデスって場所に生えてる。わかったんだ。探したけど俺じゃたどり着けなかった。
 もしかすると生きているかもしれない彼女を、眠らせてやってほしい。報酬は、ええと」
 それが、依頼人、ニースの願いだった。依頼を告げおわると、ニースは目を閉じた。ぼろりと片腕が崩れ落ちる。美しい水晶に覆われた片腕。
 ニースは、一足先にうつくしい土くれになった。

「黄昏の地」「暴食の気紛れ」。
 七罪の大魔種。『暴食』ベルゼー・グラトニオスが作り上げた小さな場所。
 狂黒竜ラドン……『ラドネスチタ』の向こう側。ピュニシオンの森の境界線、ラドンの罪域を超えた場所にある幻想の場所。
「出来損ないの楽園」と誰かが言った。

GMコメント

●目標
・「晶花(フロスタル)」の親株を摘む(討伐)

●晶花(フロスタル)
 美しく透き通るような水晶の花です。
 麻薬のように人を引き付ける性質があり、対象に子株を寄生させて繁殖する性質を持ちます。
 ニースの故郷の村で子株がひそかに栄えています。
 傷口から、血液や肉体を結晶に変えてしまいます。一時的には命をつなぎとめるものですが、じわじわと体力を奪われていくことになります。
 惹かれるのは抵抗力の弱い人間ですが、魔力の強い者や精霊との親和性が高い者により強くなじみます。
 イレギュラーズに根をはれば、美しく咲き誇ることでしょう。
 本体は親株。
 枯れたフラスタルの親株は、『女神の欠片』でもあります。

●場所
ヘスペリデス
『ラドンの罪域』の向こう側、夢のようにきれいな場所です。人を飲めそうなほどに巨大な百合があるかと思えば、つくしのように点々と木が生えています。
 綺麗な水のせせらぎがあります。

●敵
『ソウルフロスタル』
「こんにちは」
「べるぜー? はおなかがすいてるから、邪魔しちゃだめなのよ」
「おなか、すいたな……」
  晶花(フロスタル)の親株です。
 いたるところに頭に花の咲いた結晶です。
 ベルゼーの手助けの元、落ち延び、穏やかに生きていましたが、本質的には「暴食」の魔物です。本人に襲ってくる気はあまりないようですが、生存本能からか子株が勝手に襲い掛かります。
 最近は、食べても食べても飢えが満たされないようです。
 強烈な再生能力と、毒系統の技を持ちます。バラバラにされても結晶を成長させ、元に戻そうとします。
 イレギュラーズたちが結晶を受け入れれば継続ダメージを受ける代わりに一時的に能力が向上します。
 フラスタルは非常に固いのですが、よく狙えば全体が覆われているわけでもありません。欠片はいびつに組み合わさっていますが、元通りに組みなおすと、すこし人間のような形をしています。

フロスタルの子ら×20
 晶花(フロスタル)の子株です。寄生し、根を伸ばそうとします。
 一方で素早い機動力にはすぐれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <黄昏の園>水晶はヘスペリデスに何を視る完了
  • GM名布川
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年06月11日 23時35分
  • 参加人数7/7人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
※参加確定済み※
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
最強で最高のダチ
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン

リプレイ

●ヘスペリデスより
 今回集ったイレギュラーズは、呼ばれたというよりは、なんともなしに近くに立ち寄った者であったりと、そんな者が多かった。
 これも、精霊の導きであろうか。
「……綺麗な花ね」
『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は周囲に咲く一輪の花に目を細め、感嘆を漏らす。
「出来損ないの楽園に在る、傷を継ぐ花……失くしたものを継ぐ花。延命の花、とでも言うのでしょうか」
『星に想いを』ネーヴェ(p3p007199)は詩の一節のように囁きながら、その白い耳を静かに伏せた。
「依頼人の願いは…"助ける"のではなく、"眠らせる"こと。それは、きっと、その人がもう――助けられないと、彼は、知っていたのでしょう」
 失ったものは多く、引き留められないものがあるというのを、ネーヴェはきっと知っている。
 それに目をつむり、ただ、何もしないということはできなかった。
「……ええ、ええ。かなえてみせましょう。救えないいのちには、眠りを。救えるいのちには、手を」
 誓うようにネーヴェは告げる。

「美しく死ぬとしても、自分でないものに侵食されて死ぬのは、あまりぞっとしないな。」
『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)はベル・エレーヌを懐にしまう。
「悪い気配は感じない……この子たちはただ「共生」しているだけなんだわ、きっと。少なくともこの子たちにとってはそのつもり」
「共生っていうよりは寄生に見えるのだけどね」
『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は述べ、結晶を日に透かす。太陽を反射して宝石はきらめいた。一方的に賛美するだけのものではない。
「どちらにしてもこの子が生きていくのに必要なことなのだろうけど
でも元を辿れば持ち出さない方が幸せだったのかもしれないわよね、どっちにとっても」
 きっとこれは、幕引きが延長された悲劇だ。どこかで終わる。終わらせてやらなければならない。助かる者が多いうちに……。
「綺麗な花には何とやらっていうけど……これは正直、私には言葉にできないな」
 オデットの言葉に『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)は少し考え、考えた末にどちらとも断じなかった。
 それが咲良のまっすぐな正しさだ。
「この厳しき覇竜の地で例え寿命を前借りしてでも怪我を治し生き永らえるとあらば、この共生関係を一方的に悪と断ずるのは強者の驕りであるな」
『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)はドラゴニアの金の目を細める。練倒の身体と比べればクリスタルははるか小粒だが、練倒の目にはそういったものを軽んじない知性があった。
「命って確かに他の生き物の命や共生っていう連鎖はもちろんあると思うし自然の形ではあると思うよ。
でも、だからといって危害があるものを放置しておくわけには行かないよね」
「うむ、このソウルフロスタルが暴食の眷属の様なモンスターである以上、倒さねば」
 咲良がたどり着いたところに、練倒も至る。思慮深く考えを巡らせるが、最後に思い至るのは物理的な手段だったりする。
 そして、それは結構役に立つのだ。何もしないというよりは、はるかに。
 今回の場合それは唯一の手段だろう。
「救う為には、終わらせないといけない。辛くないと言えば嘘だけど……迷ってたらいけないな。全部を終わりにさせるのはもっと嫌だから」
『花に願いを』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)はかすかに微笑む。胸は痛んだけれど、それ以上の決意を持っていた。
「それに、最期の願いも……叶えてあげないと、だもんね」
「ええ、頼まれたことはちゃんと叶えてあげなくちゃ……ね」
 ジルは妖しく輝く水晶に目を向けた。
「ああ――…本当に、綺麗な花」
――誰かを呼んでいるかのようだった。

「最期の願い、しかと聞き届けたさ。さて、出来損ないの楽園を壊しに行こうか」
 と、ヤツェクがツインネック・ギターをかつごうとすると、である。
「それで、よもや私をただ置いていくということはないだろうね?」
『Elegantiae arbiter』E-Aはじろりと主を見る。
「うん、またなんだすまない。
医者や物資が来るまで、生きてるやつの生命維持を手伝ってやってくれ」
「哀れなAIにどうしろと?」
「無茶を言っているのは分かるが。モニタリングくらいならばできるだろう。
後は死なないようおれが癒しておく。息切れしたら他の奴らと交代だ」
「ご注文は以上かな?」
 ハンバーガーショップの店員のごとく口調でE-Aはヤツェクをからかった。
「症例などの記録も頼むぞ。まあ依頼はデータが残っちゃいるが、リストになってる方が医者もやりやすいだろう」
 戻ってくるというのだね、ヤツェク君。恨まれようとも最後まで責任を果たそうというのだね。そういうことは声に出したりはしない。
「……しかり承ったよ」
「さてと、人を救うぞ。出来損ないの奇跡ではなく、おれたちの力で」

●たどり着いた場所は
 ソウルフロスタルの飢えが止まらないのは、ベルゼーに影響されたか、それとも種としての限界なのか。
 ヤツェクは物語に耳を傾けた。
 咲良も、その先を見据えているのだろう。この事件を解決したら、どうなるか。未来はどこにつながっているのか。
『ラドネスチタ』の向こう側は美しい光景だった。作り物のように壊れやすくて繊細で、まぶしい。
(……どうしようもなく惹かれてしまうのは――呼ばれているように感じるのは、アタシが「欠けている」からなのかしら)
 それとも――。
 と、ジルは瞑目する。
「親株の方には女神の欠片があるみたい」
 咲良は改めて、目的を確認する。
「少しでも助けられる命を助けるために、頑張ってみるしかない」

「ネーヴェちゃん、大丈夫?」
「はい」
 やってきたネーヴェに、植物はきょとんとして見上げた。見とれているかのようだった。
 本当は傷つけあわなければいいのに、ひっそりと生えているだけの植物のように……。
 けれども、そうもいかないらしい。生きようとすることこそが植物の本質で、根が動き出す。
(とはいえ、戦意はないのですね)
 どちらかといえば身を護る動きに徹しているようだ。なら、力を温存しておきたい。ネ―ヴェは敵の攻撃をひきつけながら、しなやかに跳ねる。
「こっち!」
 咲良は冷静に見抜いていた。
「こっち、枯れかけてる!」
 しかしながら数は多く、すべてを相手取るのは難しい、……かと思われたその時だった。
「ガーハッハッハ、吾輩こそ覇竜一の知識人にしてスゥーパァーインテリジェンスドラゴォニアの炎練倒である」
 堂々と立ちふさがる練倒は、灼熱鱗光をまとっている。練倒の存在が生み出す圧倒的な威圧感は、まるで戦場全体を灼熱の鱗光で覆うかのようだ。ドラゴン・ロアとは竜の因子なり、である。
「さぁ、どっからでも掛かって来いである」
 そこで、引き寄せられる敵に隙が出来た。
「ええ、まかせてちょうだい」
 ジルのほどこした障壁が、子株からの攻撃を二重に和らげた。そして、その二重の障壁の隙間から。
 重たい香りが忍び寄ってきた。
 それは重さを持たないはずでありながらも確かに質量を伴っている。重い。重苦しい。振り向いてはいけない。そう思うほどにツタは石と化し、そして二度と動けなくなっていく。
 バシリスクの睥睨。唸り声は植物を物言わぬ塊に変える。
「あれ……?」
「よしよし、ゆっくり行くぞ」
 掻き分けるように敵に入り込んだヤツェクが暖かなる風光を降り注がせる。天より降る光は仲間を癒す宝冠となる。
「おれは地道に開拓するとしよう、道をな」
 切り開いたツタの中、攻撃をかわし、やってくるツタすら指先で持て遊び、はじき飛ばす。
「大丈夫だ、おれ達を信じろ」
 今も助かるかもしれない村人に、告げる。
 救えるだけ目いっぱい、両手にすくいあげてやろうとも。
(ネーヴェさん、咲良さん)
 親株が気がかりではあるけれども、きっと大丈夫だ。シャルティエはハイディを握りしめて、切っ先を鋭く子株に向ける。
 数は多い。なるべく手早く片付けて、それから加勢に行きたい。
 くるりと旋回させ、小さく切り裂いていく。
(味方に当てないように、敵は、ひきつけてもらってる。大丈夫)
 ヤツェクが口笛を吹いた。ここが絶好の場所だと言っている。シャルティエはそれに従い、獲物をしとめた。
「よくやった、うまいぞ。じゃあ、もう一曲だ」
 シャルティエは頷き、一時背中を預けた。
「ふゆだ」
 オディールが吠えている。凍狼の子犬が。『オディール・イヴェール・クリスタリア』が。キラキラときれいなそれは違うクリスタルを持つ。
 遠吠えはとても、氷を割るように美しい声。
 妖精印の林檎を携え、オデットはフロスタルの子らに対峙する。
「太陽の光も生命もない泥の底に鎮めてあげる」
 ケイオスタイド。
 その技は容赦なく苛烈で、それでいて優しい。
 そうしたら、きっと、もう二度と咲かなくて済む。
 植物の根を引きちぎるように。
 濁流が襲い掛かるのだった。

●ゆっくりとおぼろげにかすんでいく
「親株の方はすぐ根が伸びてくる。でも、大丈夫」
 しかし、上手く押さえている。咲良の言葉に仲間たちは勇気づけられる。
「ねえ、ベルゼーさんの邪魔をしちゃダメってどういう意味なの?」
「べるぜは、おなか、すかなければいい。すいてないと、いい。みんなすき。ここはだいじょうぶ」
 水晶の言葉はわかりづらい。
「…でも、お腹がすいているんだよね?」
「……そう。生き物だから、いずれ」
「そうか、腹がすいているのか」
 ヤツェクがかすかに気の毒そうに言った。
 満たすことは、できない。それは生存と相反するから。
「それじゃあ、わかった。生き物としての本能を出される前に、早く決着をつけよう」
 子株が咲良の腕を覆った。けれども、咲良はそれがどうしたといわんばかりに構え、攻撃を繰り出した。
 闘気は火焔と変わり、水晶の中ではじけ飛ぶ。
「……っ!」
「よしっ、きいてる!」
 燃え盛る子株に、超新星のスピードを叩き込んでやる。根こそぎ、土をひっくり返すようにすさまじく苛烈な攻撃だった。
「わたくしも、欠けているの。跳ぶための脚を失くした兎。だからなのかしら……貴方に、貴方たちに、触れたくなってしまうのは」
 植物でありながらも、親株はネーヴェを乞うようにして離れられずにいるようだ。惹きつけられている。魅せられている。兎はか弱い――。はかないウサギ。
 ネーヴェもまた水晶にとらわれかねない状態にある。
 砕いた端からすぐに元に戻るのだ。
(効いている。でも、……時間稼ぎ、と言ったところかもしれない。けれど、ここをしのげば、皆様が早くこちらへ向かえる)
 だから、しのいでみせる。水晶を受け入れて、戦って見せる。
「やあっ!」
 咲良のスピードを叩き込むようなスーパーノヴァは確かに水晶を割る。
「よし、決まりだ」
 ヤツェクの周りを子株が取り囲んだに思えたその時だった。そろった。歯車がかみ合うように運命が整い、ヤツェクは流れ星のように動いた。
「根が伸びるならば、斬撃はよく効きそうなもんだからな」
 ヴィシャアアン、という、アーデントの奏でる冗談みたいな斬撃音。エレキのスパークは演奏を何段階もあげながら上振れてゆく。
 何度も、何度も、何度も。
「だったら、何度も生えればいい」
 敵はゆっくりと再生をしようとするが……。
「だめよ。もうおしまい」
 ジルの放つ、スケフィントンの娘に耐えかねて、根はぽろぽろと崩れ落ちていく。
 イレギュラーズたち相手では、なかなかその再生能力を生かせなかった。
「はーっはあ、効かぬなあ!」
 練倒は巨体を振りぬいて、再び息を吸い、名乗りを上げ、咆哮した。
 ディメンション・デス。
 次元を刹那に消し飛ばし、子株を薙ぎ払い、どこかへと消した。
「!」
 シャルティエは大きくハイディを振りかぶると、素早く光刃を子株に向けて飛ばした。はぐれていた一体。
「助かるである!」
 練倒がニッ、と笑い、礼を示した。
「さて、ずいぶん片付いたと見えるな。次のチャレンジャーはまだであるか? 相手になるである」
 シャルティエが攻撃に転じるそこに、オデットの聖体頌歌が響いている。
 クリスタルの反射を揺らす。

●欠けたる子らの親玉は
 じわじわと子株は数を減らしていた。
 あと一息。
 親株は息を吸う。
(だんだん、息が苦しくなってきた)
 けれども全く苦しくはない。飢えるばかりで満たされない部分を切り取られていくみたいだった。
「はあっ」
 咲良が打ち砕いたクリスタルは、きらきらと粉になって宙を舞う。
 優しい声で、ジルは精霊に語り掛ける。
「……決して、正しい幸福ではなかったかもしれないけれど。アンタのおかげで、心を救われた人はたくさんいた。…それだけは、確かだったと思うわ」
 それは微かに慰めになっただろうか。こわがらないように。死は怖いものではない。優しく微笑むと、ジルは刹那を何倍にも引き延ばした時間のなか、さようなら、とほほ笑んだ。
 降り注ぐ破壊力が、水晶の再生を上回った。
「草だって弱点はあるもんだ」
 ヤツェクのベル・エレーヌが目にもとまらぬ速さでおそらくは火を噴いた。
……というのは比喩で、光線銃のビームが根を焼き止める。水晶で覆われそうになったところだった。シャルティエが立っていた。背中を仲間に預け、攻撃に専心していたシャルティエはチャンスをうかがっていた。
 ギガクラッシュ。
 雷撃をまとった刃がヤツェクの押し込んだ光を増幅し、損傷を致命的なものにと形作る。結晶が飛び散り、シャルティエの顔を覆う。しかし、構わなかった。
(救える命があるなら、少しでも早く終わらせないと)
 シャルティエは覚悟を決めていた。
 オデットの陽光の恵みは、恵みでありながらも水晶にはまぶしすぎた。魔力と光を集めた、小さな太陽。それはとてもまぶしくて、奇麗で、あたたかく。つい手を伸ばそうとしてしまう。
(むかしは)
 むかしはこの陽の光で足りていた。ただの花だったころは。
「あなた自身に罪はない、生きようとしてただけなのにね。ごめんなさい」
 オデットの謝罪に、植物は微笑んだ。
「みなお腹がすいているだけ」
「だからたべるだけ」
「おなかがすかなければ……」
 それはできないと、水晶が告げる。
 水晶が飢えている。
「みな、きらいじゃないよ。べるぜもきっと」
 回復と修復――似たようなことなら、肉体でできる。練倒はどっしりと構えると、その構えから絶気昂を繰り出した。傷口に水晶が忍び寄るよりも速く、傷はふさがっていく。
(ふむ、この水晶は特異な性質をもつようであるな)
 練倒はしみじみと考えを巡らせ、そして考えるよりも先に手が出る。まっすぐなハンズオブグローリー。
「ふんっ、こんなものは敵ではない!」
 あたらなければどうということはなく、また、当たっても根性でなんとかする。簡単にできることではないが練倒はやってのけるのであった。
 ネーヴェと咲良の奮闘で、フロスタルに覆われていない箇所ができている。
「あそこを狙って!」
 オデットは小さくうなずいた。
 それは太陽の子。陽光を浴びる美しい木漏れ日の妖精が見せたかすかな光。
 そして、ネーヴェが招いた雷が、致命的に動きを鈍らせる。
「あ……」
「おやすみなさい、はらぺこのあなた。満腹のゆめを見られますように」

 きっと満足したのだろう。陽光を浴びて、お腹いっぱいになったことだろう。悲惨に、というよりは役割を終えたようにフロスタルは砕けた。
 小さな、まがいものの奇跡の欠片はそこで砕けた。

●残滓
 ぽろりぽろりと、まとった結晶が剥がれ落ちていった。
「おわった……」
 きっと、村の人たちも無事だ。シャルティエは息をついた。

 きっとこれが彼女なのだろう。
 ジルは、親株が生み出した欠片を、ニースの片腕と一緒に埋めるのだった。
「アンタを眠らせてあげてほしい――それが、ニースの最期の願いだったものね。……おやすみなさい、アン」
 あなたはまだ眠らないのね。
――誰かが言った。
 そうよ、と簡単に返事する。
「それにしても綺麗な花ね……
髪飾りの代わりに私に咲いてくれても似合いそう
オディール、どう思う? ダメ?」
 望むなら、花はオデットを拒まないだろう。
「こんなにも惹かれるのは、――力を取り戻したいと願ってしまっているから、かしら」
「まだ生きたいなら、アタシの身体を貸してあげる
その代わり――アタシで最後にして。アタシが死ぬ時はアンタも一緒よ」
 これは契約。
 喪った右眼に、根を張る感触。違和感と痛みに耐えながら、脳裏に思い描いたのは友人の顔だった。
「……また心配かけちゃうわね」
(怖くないわ
アタシが変わってしまっても
きっとアンタが覚えていてくれるから)

「どう……して」
 村人たちはうめいていた。ジルのバシリスクの睥睨が頭をもたげさせるのを妨げた。それはまるで病人に「大丈夫、そのままでいいのよ、楽にして聞いて」というかのようだった。
「離れていて」
 ネーヴェがゆっくりと村人をとどめる。
「大丈夫だから」
「首尾はどうだ? ひどい目に遭ったか?」
「上々ですよ、おかげさまで」
 戻ってきたヤツェクを、E-Aが迎える。
「どうにもゆっくりだったみたいですね。おかげでいいところで止められました。まあ、どこまでできるかは」
「やってみないとわからんということか。いつだってそうだ」
「助けられる人を助けるのも罪ではないでしょう?」
「おそらくおれ達は恨まれるだろうが……」
 ヤツェクはため息をついた。
「人として死ねなかったニースのことを少しは考えるんだな。
美しい土くれとして死ぬか、みっともない人間としてでも生き延びるか。
どっちがマシだ?」
 生きたい。生きたいと這いずってくる者の手を取った。
「できることはやる。医者も呼べる。処置の手配はしてある。医薬品も、ほれ」
「まかせるであるよ。吾輩のインテリジェンスに刻まれた医療知識をもってしてできるかぎりのことはするである」
 練倒は胸を張った。
「お、おい、ホントに医者……あいててて」
 しかし容赦ないながらも知識は本物で、手当は滞りなく進んでいった。
「こっちにもまだけが人がいるわ」
 ジルのデュラハンが村人を運ぶ。まだ依頼は終わらない。

……。
「……その生が歪なものだったとしても。眠りはどうか、安らかでありますように」
 シャルティエは生き残った人をまとめ終えると、助からなかった人たちの墓を作った。
「そんなに背負ったような顔をするんじゃない」
「いえ」
「……ありがとな」
 杖をついた村人が言った。
「ね、この欠片ってさ、ベルゼーの苦痛を和らげる以外になにが起こるのかな」
「分からない。けど、きっと……」
 この欠片を集めることが今は先につながるのだろう。

成否

成功

MVP

炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン

状態異常

ジルーシャ・グレイ(p3p002246)[重傷]
ベルディグリの傍ら

あとがき

水晶の討伐、お疲れさまでした!
まがいものの奇跡は、正しい形で終わりを告げました。
しかしイレギュラーズたちとともにであれば、もうすこし続くようでもあります。

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