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シナリオ詳細

魔法少女・オブ・リベンジ。或いは、正義の裁きと鉄鎚を…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●魔法少女の軍勢
「決起せよ! 奮起せよ! 正義の心を喚起せよ!」
 鉄帝国。
 とある雪山の奥深く。
 1人の老婆が、唾を飛ばして吠え猛る。
『マジカル☆ マジカル☆ マジカル☆!!!』
 カラフル&ファンシーな衣服を纏った少女たちが声を揃えて雄叫びをあげた。
 否、少女だけではない。
 成人女性もいるし、老婆もいるし、男性もいる。
 魔法少女☆愛優会。
 鉄帝国で活動する正義の魔法少女たちの互助会だ。
 彼女たちは、基本的に個々人で活動を続けている。だが、魔法少女とは決して孤独な存在ではない。共通の目的がある時、個人では打倒出来ない困難や障害が立ちはだかった時、彼女たちは集結し、魔法少女は個でなく群れへと形を変える。
 過去に数度……魔法少女たちは、群れとなって巨悪を打った。
 押し寄せる魔法少女の集団に、人々は恐怖し、魔物さえも尻尾を撒いて逃げ出した。古い本にはその様を指し「まるで噴火した火山が、大海より押し寄せる大津波のようであった」と綴られている。
「此度、1人の魔法少女が悪漢どもに囚われた。彼女の恨み、悔しさを我らは受け止め、その正義の心を引き継がねばならない!」
『マジカル☆ マジカル☆ マジカル☆!!!』
 その魔法少女の名はマジカル☆スター。
 鉄帝国の地下監獄に収監される、武闘派魔法少女である。
「彼女の仇を討たねばならない! 皆、マジカル☆ステッキの用意はいいな? まずはこやつからだ!」
 老婆は1枚の手配書を掲げる。
 そこに写っているのは、筋肉質な体躯をした女性の姿。
 身に纏うファンシーな衣装から、彼女もまた魔法少女であることが分かる。
 彼女こそ、マジカル☆スターを地下監獄へと送った悪の集団が1人。調査の結果、その正体を突き止めた老婆は、迅速に彼女を最初の復讐対象と定めたのである。
「堕ちた魔法少女・三鬼 昴(p3p010722)! 決戦の地、ヴェルリナ遺跡に奴を誘き出し、その息の根を止めてやれ!」
『マジカル☆ マジカル☆ マジカル☆!!!』
「よし、行け! 行け! 魔法少女の正義の鉄鎚、やつの脳天に叩き込んでやれ!」
『Krieg☆ Krieg☆ Krieg☆!!』
 こうしてマジカル☆大戦の火蓋は切って落とされた。

●ヴェルリナ遺跡の異変
「助けて! ヴェルリナ遺跡に魔獣が出たの!!」
 鉄帝国のとある街。
 三鬼 昴の腰に抱き着き、泣き出したのは10代前半の幼い少年だった。
 ヴェルリナ遺跡までは徒歩でおよそ1日ほど。
 かつて大きな戦いがあったとかで、今となっては誰も近づくことのない荒廃した遺跡だ。
「ふむ、どんな魔物だ?」
 昴はこれまで、数々の猛獣たちを屠って来た。
 猛獣たちも昴を喰らおうとしていたのだから、逆に屠られても仕方ない。弱肉強食のルールに則るのなら、昴は強者で、昴に負けた猛獣たちは弱者であった。
 とはいえ、しかし……魔獣の類となれば、昴とて苦戦は必死。単なる猛獣と比べれば、脅威土は段違いに高い。それゆえ、パッと行ってパッと倒す……というほどに簡単な話ではない。
「えーっと……たくさんいるんだ。【必殺】の魔法攻撃とか、【ブレイク】付きの魔法攻撃とか、【炎獄」や【氷漬】の効果が付いている魔法攻撃とか、多彩な技を使う……よ」
 少年は焦った様子を見せる。
 その表情は引き攣っていた。顔にびっしり冷や汗を浮かべているし、顔色も少し青くなっている。まるで言ってはいけないことをうっかり漏らしてしまったような様子に見える。
「なぜ私を頼った? この街にも私より強そうな連中は沢山いるだろう?」
 実際に昴よりも腕が立つかどうかは別の話として、昴よりもガタイの良い者は幾らでもいるし、頑強な武器を身に付けた者も多い。
 そんな中、大した荷物も持っていない昴に助けを求めた点が不審に思えて仕方が無かった。
 こういう感覚は大切にするべきだ。
 大自然の中で生存していくためには、直感というのを蔑ろにしてはいけない。
「あーっと、えーっと……ぼ、僕は……僕、あの……ヨナっていい……ます」
「自己紹介はいい。なぜ私に声をかけた?」
「……あ、そうだ! あの! お姉さんが、正義の魔法少女だって知ってるから! きっと、助けてくれるって! 例え偽物であっても、魔法少女なら困ってる人を見捨てたりはしないでしょう! 魔法少女は素敵で素晴らしくて完璧な存在なんだから!」
「なぜ知っている……。まぁいい。魔獣退治だな、誰を助ければいいんだ?」
「ぼ、僕の……お姉ちゃん、たち、です」
「……んん?」
 いかにも怪しい。
 怪しいが、しかし、少年・ヨナの言っていることが嘘であるという証拠も無い。だとすると、本当に彼の姉たちが危険な目に合っている可能性もある。
「ヴェルリナ遺跡って言うと、確か都市の中央は更地になってて、外周には建物の残骸が山になっているとかって妙な遺跡だったよな? 街の真ん中で大規模な爆発魔法を使った奴がいるとか」
「えーっと、そう! そうです! 来てくれるんですか?」
「いいだろう。だが、念のため仲間も呼んでいくぞ?」
「えぇ! えぇ! お仲間も魔法少女ですか!? ぜひ呼んでください! 悪い奴らに正義の鉄鎚を叩き込んでやりたいんです!」
 喜色ばんだ様子でヨナはぎゅっと胸の前で手を握った。
(叩き込んでやりたい……ねぇ)
 まるで「ヨナ自身が鉄鎚を叩き込む側」であるかのような言いぐさだ。
 なんとなく怪しい雰囲気を感じながらも、昴は周囲に視線を巡らせる。
 どこかから、ヨナと自分を……否、昴1人を監視している敵意塗れの視線を感じた。

GMコメント

こちらのシナリオは『脱獄魔法少女とクイーン。或いは、マジカル☆スターを捕縛せよ…。』のアフターアクションシナリオです。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9598

●ミッション
ヴェルリナ遺跡に住み着いた魔獣を追い払う

●ターゲット
・魔法が巧みな魔獣×30
正体不明の魔獣。
ヨナの話では、非常に巧みに魔法を駆使するらしい。
カラフルでファンシーな色をしているという。

魔法の殴打:物近単に大ダメージ、必殺
魔法の:物近単に中ダメージ、ブレイク
混沌の魔法:神中範に大ダメージ、炎獄、氷漬


・ヨナ×1
青い髪のあどけない少年。
10代前半ほど。姉たちに頼まれて、昴に助けを求めにやって来た。
「僕は先に行ってるよ!」といって、1人でヴェルリナ遺跡へ向かう。
魔法少女という存在に対して、並々ならぬ憧憬を抱いている風に見えるが詳細は不明…。

●フィールド
ヴェルリナ遺跡。
かつて大きな戦いがあり滅亡した街の跡地。
当時の住人は200人ほどということなので、あまり大きくは無い。
都市の外周には建物の残骸が山と積み上げられており、都市の中央部には更地がある。
上から見ると「◎」こんな感じに見えるだろう。
ヨナの話では、魔法を巧みに操る魔獣が住み着いているらしい。
また、ヴェルリナ遺跡にはヨナの姉たちもいるという。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 魔法少女・オブ・リベンジ。或いは、正義の裁きと鉄鎚を…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ロレイン(p3p006293)
ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

リプレイ

●ヴェルリナ遺跡の魔獣
 鉄帝。
 ヴェルリナ遺跡に恐ろしい魔獣が住み着いた。
 魔獣たちに囲まれて逃げ出せないでいる姉たちを助けてほしい。少年・ヨナが『魔法☆少女(物理)』三鬼 昴(p3p010722)に頼んだことだ。
「怪しいにも程があるが……まずは状況を知るために偵察だな」
 昴に依頼の概要を伝えると、ヨナは一足先に遺跡へ向かって行った。魔獣が住み着くという遺跡に、少年1人で……いくら姉が心配だとは言え、まったくもって非合理的だ。
 ヨナ1人が先に遺跡に戻ったところで、状況は何も好転しない。あどけない少年だとはいえ、その程度のことも分からないほど愚か者ではないはずだ。
 ゆえに昴は、ヨナの言動を怪しんだ。
 この依頼そのものが、罠であることを考えた。
「ヨナさん、助けを呼ぶほど危険なら先に向かうなよ! 遺跡まで距離があるのに、万が一俺達が迷ったら助けが遅れるぞ?」
「というか、これは騙して悪いが……という類の依頼よね? 天義出身者としてはこういう嘘は大罪よ?」
 もうじき遺跡に辿り着く。
 魔獣が住み着いているというヴェルリナ遺跡は、酷く静かだ。遺跡から聞こえてくるだろう物音に耳を傾け、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は悪態を零した。
 多少、思うところはあれど純粋にヨナ少年の身を案じているのだろう。
 一方、ロレイン(p3p006293)は今回の依頼に懐疑的だ。
「十中八九罠ですね。前にも似たような事がありました」
『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)もロレイン同様、今回の依頼を罠の類と考えている。その隣では、無言のままに『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)も首肯する。
「どちらでも、いい。助けを求められ、了承した以上、やることは一つ」
『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の視線は、まっすぐ遺跡に向いている。
「遺跡に巣食ったという魔獣を、駆除する……それがどんな魔獣だったとしても、だ」
 例え、魔獣の正体が“人”だったとしても。
 依頼であれば、達成しなければいけない。

「うぅーん……罠ですね。明らかに」
 ヴェルリナ遺跡の外延部には、大量の瓦礫が積み上げられている。真上から見れば、ちょうど「◎」のような形状に見えるだろう。
 遺跡の中央には更地がある。
 20体近い魔獣……カラフルで、ヒラヒラした装飾を身に付けたヴェロキラプトルのようにも見える。
 聞いていたよりも数が少ない。
『こそどろ』エマ(p3p000257)は瓦礫の間に身を隠し、視線を左右へ泳がせた。
「……あぁ」
 残る10体がどこに隠れているのかと言えば、エマと同じように瓦礫の陰に隠れているのだ。物陰でくつろいでいる風ではない。獣が狩りをするために、待ち伏せをしているようなのだ。
まるで、これから遺跡に“誰か”が訪れることを知っているかのようにも思える。
「更地にいる魔獣たちもピリピリしていますし……何より、ヨナ少年のお姉さん方の姿も無ければ、生活の痕跡も見当たらない」
 こっそりと気配を殺して、エマはその場を後にする。
 
 同時刻。
 遺跡近くの荒野にて、ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)は1匹の魔獣と相対していた。青い体色をしたヴェロキラプトルだ。
 元々、ヴェロキラプトルという恐竜はあまり大きな体躯をしていない。
 それを差し引いても、目の前の青い個体は背が低かった。
「が、がぅー!」
 見た目の割に迫力にかける。
 鋭い爪と牙を剥き出しにしたラプトルが、尾を振り回しロウラン目掛けて襲い掛かった。どこか怯えたようにも見えて、全く、脅威に感じないのはなぜだろう。
「……冬眠させてあげましょうか?」
 後方へと跳び退り、ロウランはラプトルの爪を回避する。
 それと同時に、手の甲へ指を走らせた。
 ロウランの指を濡らすのはワイバーンの血を媒介にした赤黒いインクだ。
 手の甲に描かれたのは呪印と呼ばれる印である。
 ロウランが腕を掲げると同時に、手の甲に刻まれた呪印が光る。瞬間、ごうと強風が吹き荒れて、辺りの気温が急激に下がった。

●ヴェルリナ遺跡の魔獣たち
「魔獣ってなんか……魔法少女みたいな特徴してないか?」
 カラフルな体色や、フリルのような飾りなど、まさに噂に聞く魔法少女の特徴そのもの。
 瓦礫の陰から更地を覗き、イズマは「おや?」と首を傾げた。
 つい少し前、エマは一足先に遺跡から撤退している。今頃は仲間たちに、魔獣の位置や安全な襲撃経路を伝達していることだろう。
「……魔獣たちは遺跡から動くつもりが無さそうだ。やはり攻めるのなら、こっちからということになるか」
 肩に止まった鳥の頭を指先で叩いた。
 今頃、昴の近くでもイズマの鳥が襲撃の合図を出したことだろう。
「出番だぞ、昴さん。けれど、用心はしてくれ。罠でも魔法少女のショーでも、何があってもいいように」
 そう呟いて、イズマは腰の剣を抜く。
 彼の耳には、背後で零れた僅かな足音と、獣の唸る声が聞こえていたからだ。

「合図だ。やってくれ」
 頭上で鳥が鳴くのと同時に、昴は開戦の号令を下す。
 それに従い、動き始めたのはエクスマリアとロレインだ。2人は空へ手を翳し、頭上に大きな魔法陣を展開する。
「落とすなら西側へ。突入組は東からがおすすめですよ!」
 魔法陣が展開されるのと同時に、エマが遺跡へ駆け出した。
 エマの後に、オリーブやエッダが続く。
「了解、だ。オーダーは、受け取った。ならば、魔法少女を、遂行しよう」
「神鳴りよ……我を騙した者を討て」
 エマの背後で、エクスマリアとロレインの声がした。
 直後、背後で空気が爆ぜた。

 降り注ぐは膨大な量の鉄の流星。
 それと地を這う無数の雷。
 流星が瓦礫を穿ち、砕き割る。
 雷が、空気ごと魔獣たちの肌を焼く。
 濛々と立ち昇る砂埃。視界が煙る。魔獣たちの間に動揺が走る。
「行こう。乗ってくれ」
「あぁ、よろしく頼む」
 奇襲の第一段階は成功だ。
 昴の駆るドレイクチャリオットの荷台に、エクスマリアが跳び乗った。
 走り出したチャリオットを見送って、ロレインは視線を西へと向けた。砂埃の舞い散る中、ロレインの見やる先では白い冷気が立ち込めている。
「さて……」
 何事だろうか。
 そう呟いたロレインは、冷気の方へと歩いて行った。

 半身を氷に包まれ、ヨナが地面に伏していた。
 爪も、牙も、尾も、全てが偽り。何らかの魔法で、ヴェロキラプトルの姿に変身していたのだろう。
 だが、こうなってしまえば変身に何の意味もない。
 仮に爪や牙があっても一緒だろう。
「おやおや、若気の至りですか? 魔法少女、憧れるのは自由ですけど卒業も視野に入れて趣味程度に楽しまないと駄目ですよ?」
 氷漬けのヨナを見下ろし、ロウランは告げる。
 抵抗したくとも、動けないヨナには、もはや睨み返すことだけしか出来ない。
「ぼ、僕をどうするんですか! 僕を殺すんですか!」
 精一杯の虚勢だろうか。
 語気は強いが、ヨナの声は震えている。
「んー?」
 顎に指を添え、ロウランは思案した。
 途端にヨナの顔色が悪くなる。
 おそらくヨナは、なかなか遺跡に入って来ないイレギュラーズの様子を見るために出て来たのだろう。そこでロウランに発見され、氷漬けにされたのだ。
「殺しはしないわ。でも魔法少女ごっこは終わりよね?」
 ロウランの代わりに答えを返したのはロレインだ。
「…………」
 ヨナは何も答えない。
 何も言えない。
「「演技も出来ないようなら、魔法少女なんて夢のまた夢よ? 少年」
「ところで魔獣に変身するだなんて、なかなか魔法を巧みに操るのですね? ちょっと解剖して食べてもよろしい? ダメ?」
 そう言ってロウランは、ヨナの方へ手を伸ばす。

 同時刻。
 砂埃の舞う遺跡の中を、まっすぐ突き進む影がある。
「こっちです。この先に、瓦礫の少ない地帯があります。そこを仮の拠点にして、皆さんの到着を待ちましょう」
 瓦礫の上を跳び越えながらエマが叫んだ。
 その後に続くのは、エッダとオリーブだ。
 鉄の雨と雷に打たれた魔獣たちが、そこかしこに転がっている。辛うじて動けるカラフルな魔獣が、エマの接近に気付いて飛びかかって来た。
 その爪に魔力の輝きが見える。
「っとと」
 踏鞴を踏んで、エマは急停止。
 代わりにオリーブが前へ飛び出し、魔獣目掛けて斬撃を見舞った。
「っ……わぁっ!?」
 斬られて、倒れ伏したのは年端もいかぬ少女である。
 恐竜に変身していた魔法少女だ。
「どういう形でも依頼は”追い払う”事なので、命までは奪いませんよ」
 斬られた胸を押さえながら、少女はなおも立ち上がる。
 だが、その首筋にオリーブが剣の柄を叩き込むと、意識を失い地に伏した。
「罠に掛ける側だからと油断していましたか? 隙だらけですよ」
 正眼に剣を構えたオリーブが、次の相手へ視線を向けた。
 周囲には3匹の恐竜……おそらく、そのすべてが魔獣に化けた魔法少女に違いない。
 既に手負いの魔法少女がたったの3人。
 魔法の直撃にさえ警戒していれば、遅れを取ることも無いだろう。
 そして、3人の魔法少女は意識をオリーブへ向け過ぎた。
「道を開けろ。魔法少女は決して退かない。闘志全開で前進制圧するのだ」
 魔法少女の1人が弾かれた。
 昴の駆るドレイクチャリオットだ。荷台には、周囲を警戒しているエクスマリアの姿も見える。
「思ったよりも軽傷、だな。もう1発、撃とう」
 前進を続けるチャリオットの荷台で、エクスマリアがそう言った。
 それから、頭上へ手を翳す。
「圧倒してみせよう」
 放たれるは、本日2度目の鉄の流星。
 戦場に、鉄の雨が降る。

 クロスボウの矢が放たれる。
 降り注ぐ鉄の雨と、クロスボウの矢に阻まれて、魔法少女たちは更地から外に出て来られない。その隙に、まずは昴とエクスマリア、次いでオリーブが第一拠点へ辿り着く。
 瓦礫の山の中に、ぽっかりと空いた空き地のような空間だ。
 周囲を瓦礫に囲まれた、天然の要塞のようなものである。
「逃げられると面倒が増えそうなので捕まえましたが……そういえば、イズマさんは?」
 気絶した魔法少女たちを瓦礫の隙間へ押し込みながら、オリーブは問うた。
 3人とも10代半ばほどの若い魔法少女だ。それぞれ、赤、青、黄色の衣服を着ている。デザインが類似しているのは、彼女たちがチームを組んでいるからだろうか。
「杜撰な罠ですねぇ」
 肩を竦めて、エマが言う。
 
 同時刻。
 魔法少女たちに周囲を囲まれて、イズマは孤軍奮闘していた。
「やはり魔法少女だったか」
 腰を低くし、剣を構えた。
 恐竜……否、変身を解いた魔法少女が四方からイズマへ襲い掛かる。
 十分に4人を引き付けると、刹那の間に剣を一閃。
 弦楽器を弾いたようなたわんだ音色が鳴り響く。
 瞬間、4人の魔法少女が動きを止めた。
 音色が……魔力を帯びた、呪いの音波が4人の精神に多大な負荷をかけたのだ。

 残る魔法少女は十数人。
 もはや、恐竜の魔獣に変化していることに意味など無いことを悟ったのだろう。変身を解除し、更地の方へ集結する。
 瓦礫の山を間に挟んで、イレギュラーズと魔法少女は対峙している。
「あなたたちは、全員捕縛の上で修行場行きです」
 そう言ってロウランは、縄で縛ったヨナを前へと連れて来る。
 捕縛されたヨナを見て、魔法少女たちの間に動揺が走った。だが、1人だけ……最奥に控えた老婆だけが、侮蔑するかのような目をしている。
「ヨナ! この出来損ないめ! 魔法も使えぬ魔法少女が、斥候も碌にこなせんか!」
 老婆が怒鳴る。
 ヨナは涙目になって身を竦ませた。猿轡を噛まされているため、言葉を発することも出来ないのだ。
「魔法も使えぬ! 役にも立たぬ! 悪党どもに捕まる始末! 情けない! それでも魔法少女の末席を汚す身か!」
 唾を飛ばして老婆は叫んだ。
 怒り心頭といった様子だ。
「ヨナ! 貴様は魔法少女にあらず! 捕まって、我らの足を引っ張るのなら……」
 老婆は、先端に☆の飾りが付いた杖を前へと突き出す。
 直後、杖から撃ち出されたのは眩く光る魔弾であった。
「っ……かはっ」
 魔弾が、ヨナの腹部を射貫いた。
 血を吐きながら、ヨナの身体が地面に倒れる。
「死ね。死ね。死ぬべきだ。死んで、魔法少女の星となれ。さぁ、人質はいない! 撃て、撃て! ヨナの献身を無駄にするな! ヨナを目掛けて、魔法を撃ち込め! 奴らこそ、マジカル☆スターの仇なり!」
 老婆の指示に従って、魔法少女たちが各々、魔法を行使した。
 閃光が。
 炎と氷が。
 カラフルな泡が。
 魔力を孕んだ音の波が。
 次々と、ヨナを目掛けて撃ち込まれ……。
 それを庇うかのように、数人のイレギュラーズが魔法の前に身を投げ出した。

 魔法少女に憧れて。
 使い捨てにされ、役に立たぬと見捨てられ。
 挙句の果てに、仲間たちから一斉に魔法を撃ち込まれる。
 そんなヨナの境遇に思うところがあったのだ。
 ヨナは敵だ。
 敵だが、子供だ。
 子供の死に際が、このように哀れで無残なものであっていいはずがない。
「いくらでもかかって来い。魔法の力(きんにく)と正義の心(あっとうてきぼうりょく)があれば、どのような困難にも負けはしない!」
 身体を血で濡らしながら、昴は戦意をたぎらせる。

●魔法少女たちとの抗争
「魔法少女は外見に非ずその心で成る、と。よく解ったぞ」
 ヨナは無事だ。
 立ち上がったイズマが周囲を見回す。当たり処が悪かったのか、地に伏しているのはエッダ1人だ。だが、息は有る。
煤けた細剣を掲げ、イズマは吠えた。
「ならば言わせてもらおう。正義を背負う者ならば、騙る事なく真実を見据えるべし! 打倒は目的に非ず、救済に目を向けよ!」
 魔法が撃ち込まれる寸前、ヨナは確かに「助けて」といった。
 イズマは確かに、その言葉を聞いた。
「復讐は誰がためならず、助けを求める声に応える事こそ利他の心に満ちた真の正義なり!!」
 助けを求める声がしたなら、後は正義を成すだけだ。

 砂埃の舞う中、昴は体を横に向けた。
 両足を前後に開き、上半身は正面へ。背中側で指を組み、アピールするのは上腕三頭筋。
 サイドトライセプス。
「マッスルパワー!」
 次いで、上半身を屈めると腹の前で両の拳を打ち合わせた。肩、上腕、胸の筋肉がパンプアップし存在感を主張する。
「フルチャージ!!」
 俗にモストマスキュラ―と呼ばれるポーズだ。
「何をやっている。撃て、撃て!」
 老婆が叫ぶ。
 だが、魔法少女たちは誰も動かない。
 昴は現在、変身中だ。変身中に攻撃を仕掛けることは、魔法少女業界において最大のタブーの1つである。
「魔法の力でお仕置きだ」
 そして、最後はサイドチェスト。
 ショッキングピンクのミニスカートに、丈の短いノースリーブ。筋肉でパツパツだが、それは間違いなく魔法少女の衣装である。

 昴が駆ける。
 魔法少女が昴に向かって、一斉に魔法を撃ち込んだ。中には、自身を強化して殴り掛かっていく魔法少女の姿もある。
 だが、直後に彼女は足を止めた。
「凍れ凍らせ……力を奪え」
その足元がロウランにより氷漬けにされたからだ。
「これが本物の魔法ってやつですよ?」
「数の暴力で……って考えると、魔法少女といっても大したことないのね」
 次いで、紫電が迸る。
 ロレインの放つ雷が、肉体派魔法少女の意識を刈り取った。

 逃げる魔法少女の前に、オリーブとエマが回り込む。
 逃がしてやっても構わないのだが、後々、面倒なことになる可能性もあるのだ。
「とりあえず、逃げることは許しませんよ」
「足で負ける気はしないんで、諦めた方が得策かと」
 2対1……加えて、魔法少女の苦手とする接近戦。
 不利を悟った魔法少女は、ゆっくりと両手を挙げて降参の意を示すのだった。

 弾幕を物ともせずに昴はまっすぐ突き進む。
 道を塞ぐ者がいるのなら殴り倒し、魔法を撃ち込まれれば、筋肉を固めて耐え忍ぶ。
「な、なんだ……なんだ、こいつ!」
「魔法少女……なのか!?」
 魔法少女たちの間に動揺が走った。
 中には、怯えて尻もちをつく者もいる。
 そんな魔法少女たちを見下ろして、エクスマリアは言葉を紡ぐ。
「愛(HP)と、希望(EXF)がある限り、魔法少女は、負けない。相手が何であろうとも、だ」
 魔法少女・マジカル☆昴がすべての魔法少女を討ち倒すのに、そう長い時間は必要なかった。

「それで、君はどうするつもり?」
 ロレインは、項垂れたヨナにそう問うた。
 魔法の使えない魔法少女。仲間たちに見捨てられ、命まで奪われそうになった。さぞ辛い思いをしているだろう。
 だが、過酷な鉄帝の地は、いつまでも傷心に浸ることを許さない。
「こんな世界、もう嫌だ……」
 ヨナは静かに涙を流す。
 だが、泣きながらも彼は自分の足で大地に立ったのだ。
「僕が。僕が魔法少女になって……こんな世界を変えてやる!」
 ヨナは弱い。
 弱いが、けれど強くなるための1歩を踏み出したのだ。
 この日、この鉄帝の地に、新たな正義が芽吹いたのである。
「ともあれ、依頼は、確かに果たした、ぞ。飴玉、いるか?」
 そんなヨナに飴玉を1つ握らせて、エクスマリアはその背を強く手で打った。
 前へ進め、と。
 そんな意思を込めながら。

成否

成功

MVP

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘

状態異常

イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色

あとがき

お疲れ様です。
魔獣の正体は、魔法少女たちの変身した姿でした。
魔法少女たちは遺跡から撤退。
依頼は無事に成功しました。

この度は、ご参加ありがとうございます。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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