【魔国サイカ】魔女王陛下のティーパーティー

オープニング

●序章

　世界はひとつではない、というのは、混沌世界やライブノベル、境界図書館についてご存知の皆さんなら周知の事実であろう。
　無限の異世界があり、異世界によっては、そこに『魔王』と呼ばれる存在がいる。
　つまりは、『魔王』も無限に存在する、ということ。
　今回の舞台――魔国サイカの魔王、いや正確には女性なので『魔女王』か。
　彼女は他の魔王と区別するため、『渇愛の魔女王』と呼ばれている。
　その通り名の由来は、のちほど境界案内人の水鏡に説明を丸投げするとして、『渇愛の魔女王』ノルン＝ニュクスは、水鏡透にコンタクトを取った。
　別にその世界に異変が起きているわけでも、魔女王に危機が迫っているわけでもない。

「わえはイレギュラーズというものに興味がある。わえの城に招いてお茶会でもどうじゃ？　別に悪いようにはせんし、獲って食ったりはせんから、なぁ？　今後、お世話になるやもしれんから、お近づきになっておきたいのじゃ」

「……それは、今後そちらに『何か』が起こるという予言と受け取っていいのか？」

「そうなるかもしれんという話じゃ、そんなに警戒するな。言うて、わえの『魔国』も、わえの『結界』があるから安全を保証されている、というだけの話。万が一のために、布石は打っておきたい」

「……わかった。だが、俺はあくまで『案内人』。こういう世界がある、と案内するだけの存在だ。イレギュラーズが実際に来るかどうかまでは責任を持たないからな」

「く、ふ、ふ。分かっておる。イレギュラーズとやらは、丁重におもてなししなければ、なぁ？　水鏡もたまにはこちらに来ぬか？　美男子は歓迎するぞ？　美男美女、美少女、美少年は国の宝じゃからなぁ？」

「遠慮しておく。お前の『結界』が効かないとはいえ、お前の国は居心地が悪い。『不自然』だからな」

「イケズじゃのう。まあ、よい。イレギュラーズ、どのようなものか。楽しみじゃのう。楽しみじゃのう。く、ふ、ふ！　趣向を凝らしたティーパーティーを、魔女王の威厳にかけて催さねば！」

　――本の世界の住人を「友人」「隣人」とみなす水鏡も、今回ばかりは珍しく渋っている。
　彼は魔女王ノルン＝ニュクスが苦手だった。それに、今回の依頼はなんだか嫌な予感がする。
　なにか良くないことが始まる『序章』のように思えてならないのだ。
　それは、物語の世界に親しんできた、かつての図書館の司書、そして境界案内人としての勘が告げているものであった。

●魔女王陛下のティーパーティー

「この境界図書館に来ている者なら既に知っていることだろうが、異世界は無限に存在する。それこそ、まだこの図書館に所蔵されていない世界もあるだろう」

　水鏡は『ネイバーランド』と表題された一冊の本を手に取る。

「今回の世界は、俺達の世界の隣にある異世界――『ネイバーランド』の話だ。ああ、ネバーランドの間違いではない、ネイバーランド、だ。『魔国サイカ』という魔族の住む国を核としている異世界でな。この世界を詳しく説明すると込み入った話になるし、今回はサイカにしか用はないから、とにかくお前たちが向かう先には魔族がいる、と考えるだけでいい」

　とはいえ、魔女王が歓迎している以上、魔族もイレギュラーズには友好的である。
　その魔族たちがこぞってイレギュラーズを歓迎し、お茶会を開きたい、と言っているらしい。

「魔国サイカを治めているのは、『渇愛の魔女王』ノルン＝ニュクス。なぜ『渇愛』なのか、だと？　あの女は自分の国に呪いにも近い結界を張っているんだ。結界内に入った者は、どんな生物であれ、あの女を好きになる、とかいう。まあ、異世界から来た者には効かないようだが」

　つまり、イレギュラーズにも境界案内人にも、その結界は無効だ。

「俺はあの国があまり好きじゃない。みんながみんな同じものを愛するなんて『不自然』だからだ。だが、俺は案内人。ひとまず形だけは招待状を渡さなければならない。招待に応じるかどうかは、お前が決めてくれ」

　水鏡は、あなたに魔国サイカのティーパーティーへの招待状を手渡すのであった。

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第2章

第2章 第1節

●魔女王暗殺計画

　突然、魔女王のティーパーティーに乱入し、彼女を暗殺しようとした勇者、ブレイ・ブレッド。

「なぜ、貴様にはわえの結界が効かぬ？　わえの結界は破られておらぬし、結界に入った者は例外なく、わえに好意を抱き、戦意を喪失するはず……」

「例外ならあるだろう？　『異世界から来た奴には結界は効かねえ』――ってな」

　ゲスな笑みを浮かべ、手の中でナイフを回す勇者。どちらが悪者か分からない。

「我々が盾になって陛下をお守りするぞ！」

「早く衛兵を呼ばなくちゃ！」

　執事やメイドたちは魔女王を守ろうと忙しく走り回る。
　突然のことに困惑するイレギュラーズだったが、そこへ異変を察知した境界案内人・水鏡透が駆けつける。

「そいつは義国ジャスティーに雇われた勇者だ！　他人の家の中に勝手に侵入し、壺を割りタンスの中身を勝手に覗くタイプのたちの悪い勇者だがな！」

「ハハッ、誰だか知らんけど自己紹介の手間が省けて助かるね。っつーわけで、魔女王の首をいただいて、ジャスティーの王サマから報奨金をいただくのさ！」

　勇者ブレイ・ブレッドは、魔女王の命を狙って襲いかかった。

●二章の目標
　魔女王を守る。勇者ブレイ・ブレッドを迎撃する。
　勇者は異様に高度な縄抜けスキル、回避スキルを持っており、縄だろうが鎖だろうがヌルヌル抜けてしまいます。
　魔女王が束縛魔法を詠唱して拘束するまで、皆さんで魔女王を守る、攻撃してくる勇者を迎撃するなどして時間を稼いでください。
　勇者は捕らえて情報を聞き出すため、殺さない程度に迎撃してください（殺そうとしても回避されます）。
　三節～五節程度進んだところでNMの判断で次の章へ進みます（プレイングはいくつ送っていただいても構いません）。

●新たな詳細設定が開放されました
・勇者ブレイ・ブレッド
　義国ジャスティーの報奨金目当てに魔女王の首を狙う勇者。
　勇者とは名ばかりの実質賞金稼ぎで、素行も悪い。人の家の壺とかガンガン割るしタンスも勝手に開ける。
　彼もまたイレギュラーズと同じく異世界から来た者なので、サイカの結界が効かない。
　好きなものはお金と、売ればお金になるもの。
　武器は剣と投げナイフで、近距離・中距離戦を得意とする。逆に言えば遠距離戦を仕掛ければこちらが有利。
　こちらが少しでも隙を見せれば魔女王に向かって、彼女を衰弱させるほどの猛毒を塗ったナイフを投げつけてくるだろう。
　そのときは鎧や盾で弾き返す、毒を受けても無効化する、治療するなどの対処が有効。

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第2章 第2節

「いやはや、大変だネェ」

　壱和は紅茶をずずーっと啜っている。

「相変わらずマイペースだな、お前は……」

「お、水鏡じゃン。オッスオッス」

　呆れ顔の水鏡に、壱和は状況に関わらず呑気な様子である。

「魔女王を助けなくていいのか？」

「だって守れって言われてねぇシ。オレら賓客ヨ？」

「お前な……」

　ここはイレギュラーズが颯爽と魔女王を助けるシーンだと思っていた水鏡は、調子が狂うとばかりにため息をつく。
　しかし、壱和の言う通り、水鏡は「守れ」とは言っていないのである。それは境界案内人の不手際、仕方ないね。

「ンまぁ、水鏡がそういうなら仕方ねぇカ。軽く捻ってやりますヨ」

　壱和はようやく重い腰を上げ、勇者への迎撃を始める。

（[すろうとーる]…、は駄目カ。射程内の罪に反応するからこの場の全員を無差別に執行しかねン。であれば[たま]弐式と魔哭剣『虚』で地道に削ってくしかねぇカ）

　さらに副行動でJPSをつけて、ひたすらに殴る。どうせ時間稼ぎだ、勇者に殺る気を出す必要はない。
　勇者も壱和の技を知らないまでも、「こいつの技はなにかヤバい」という野生の勘を感じ取っているらしく、ひょいひょいと避けていく。魔女王の傍には[ほうらい]が控えており、魔女王を傷つけてもすぐに再生させられる。

「勇者だっけカ？オレはアンタみたいな欲望に忠実なヤツは嫌いじゃないがネ！」

「へへっ、そりゃ嬉しいねぇ」

　壱和と勇者は踊るように戦っていた。

成否

成功

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第2章 第3節

（天使の国が刺客を送ってきたのは……僕達のせいなのかな……）

　レインは勇者を見ながら考える。
　しかし、この場には執事やメイドなど一般人もいる。あまり悠長に考え事をしている場合でもない。
　とにかくこの場を収めようと、行動を開始した。

「勇者さん……僕も相手してもらっていいかな……？」

　壱和と勇者の剣戟の合間に滑り込み、レインはディスペアー・ブルーを放つ。

「のわっ!?　なんだこりゃ、ぽわぽわする～……！」

　勇者に魅了が刺さったらしい。混乱した勇者がしっちゃかめっちゃかに無差別攻撃しようとするのを、さらにリリカルスターで自分に誘導させたレインは、トドメにワールドエンド・ルナティックと神滅のレイ＝レメナーで倒そうとする。

　しかし。

「あっぶね……！　やれやれ、天使サマの加護がなかったらオイラなんてあっという間にお陀仏だな……」

　勇者の異様に高度な回避スキル――彼の言う通りなら『天使の加護』らしいが――は、勇者のHPを超えた即死級の技をまさしく間一髪ですり抜けてしまう。勇者の髪の一本が突風で飛んでいった。

「……？　イレギュラーズと戦うの……初めてだなって思ってたけど……イレギュラーズにしては……」

「いや、おかしい。弱すぎる」

　水鏡もレインの言葉に賛同する。

「ただ異世界から連れてこられた一般人に、天使の加護でバフを盛っているだけだ……！」

　ここは混沌世界ではない。LV1の法則が適用されないのだ。

成否

成功

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第2章 第4節

「あの小型犬に適度にちょっかいをかけて脅かせばいいんだよな、水鏡？」

　ペッカートは優雅にお菓子をつまみ、紅茶を飲みながらも、ファントムチェイサーで悪意を放ち、勇者を追跡させつつ様子を見る。
　見えない悪意に寒気がしたらしい勇者は、その起点――ペッカートに気づいたようだ。

「勇者クンは一人で来たの？無謀なことするね。寝ずに頑張って考えた余興なんだろうけどちょっと不敬が過ぎるぞ？　毒が入るかもしれないお菓子やお茶なんて食べられない。パーティが台無しじゃないか。俺には効かないけど」

　言葉で責めながら紅茶のカップを置き、立ち上がって少しずつ勇者に詰め寄っていく。その間にもファントムレイザーやダーティピンポイントで牽制しながら近寄る。その圧に、おちゃらけた雰囲気の勇者も若干たじろいでいるようだ。

「おいおいおいおい、聞いてねえぞ、王サマに天使サマよぉ……！　ティーパーティーが開かれるとは聞いてたが、まさかそのお客人がたが揃いも揃ってこんな物騒な奴らだとは……ッ、グエッ！」

　勇者のボヤキなど聞く耳持たず、ショウ・ザ・インパクトで吹っ飛ばした。壁に蛙のようにベチっと叩きつけられた勇者はしかし、ギリギリHPは残っているらしい。

「つうか、コイツ本当に一人で来たのか？この後援軍がぞろぞろ来るとか勘弁だぜ？」

　暗殺任務とはいえ、こんな脆弱な『勇者』を単身乗り込ませる義国の気が知れない、とため息をついた。

成否

成功

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第2章 第5節

（勇者はいわゆる魔王特化の暗殺者～なんて見解もあるけど、まさかその通りの「勇者」が来るとはね）

　何にせよ、執事やメイド、そして何より麗しの魔女王陛下を守らねばならない。
　ここは既に台無しにされたティーパーティーという幽火の舞台。
　ならば、名乗り口上でも上げようか。

「女王陛下とダンスがしたいなら、まずは僕と1曲いかが？」

　さりげなく魔女王に視線をやれば、彼女は詠唱しながらこちらに頷いた。どうやらそろそろ大団円になりそうだ。
　ならば、あとは時間を稼ぐだけ。

　幸い、他の仲間達が勇者をボコボコにしておいてくれたおかげで、そこまで戦闘に自信のない幽火でも泥仕合にはならずに済みそうだ。
　勇者も、幽火をすっかり『物騒な客人の一人』と認識しており、イレギュラーズを相手にするよりさっさと魔女王にナイフを投げつけて猛毒で殺したほうが早いと気づいたらしい。

　しかし、もう遅い。勇者の投げナイフが届く射線に、常に幽火が立ちふさがり、毒を受けても耐性・再生ができる彼に、もはや勇者は為す術もない。

「回避スキルってやつは苦痛も回避してくれるものなのかい？」

　スケフィントンの娘。黒いキューブで敵を包み、内包する総ゆる苦痛を施す。
　キューブの中で何が起こっているのかは知る由もないが、勇者の絶叫が辺りに響き渡った……。

「陛下～、僕怪我しちゃいました」

　詠唱中の魔女王に甘えるようにすり寄り、水鏡に剥がされる幽火であった。

成否

成功

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第2章 第6節

●義国ジャスティーの宣戦布告

「客人たちよ、手間を掛けさせてすまぬ！　そして、感謝する！」

　魔女王ノルン＝ニュクスは、詠唱を完了して、逃亡しようとする勇者を束縛魔法の鎖で拘束した。
　魔女王が放つ魔法は常人の使うものとは次元が違う。「天使の加護」とはいえ、勇者の縄抜け程度では脱出できないだろう。

「チッ……！」

　自称勇者――ブレイ・ブレッドは、自分が不利と知り、迎撃をくぐり抜けて城からの脱出を図っていたが、鎖に絡め取られて身動きが取れなくなる。うつ伏せの状態で床に身体が叩きつけられた。

「魔王からは逃げられぬ、と勇者ならよく知っておるのではないか？」

　魔女王は氷のように冷たい目で拘束された勇者を睨む。
　ティーパーティーとは別人のようだ、とはイレギュラーズの誰が思ったのだったか。

「勇者よ、貴様、義国ジャスティーから雇われたそうじゃな？　ジャスティ＝ソルが、わえを殺せと命じたというのか？」

「……」

　勇者は何も答えない。

「ああ、貴様はカネと、カネになるものが好きじゃったな。この金の延べ棒をやろう」

「アザーッス！　なんでも喋りまーす！」

　勇者は金の延べ棒を見て、ハイエナのように喜んでいた。
　コイツが自白したとして、果たして信用できるのか、疑問は残るのだが……。
　今のところ、手がかりがこの男しかいないので仕方ない。

「たしかにオイラは義国の王サマ――ジャスティ＝ソルに頼まれてアンタを暗殺するように命令されたぜ。オイラは剣を振り回すよりも暗殺稼業のほうが向いてるからな」

　鎖に雁字搦めになったまま、床に置かれた金の延べ棒にキスをしながら、勇者は語る。いや、やはりこの勇者、本当の職業は盗賊なのでは？

「ジャスティの若造めが……あちらから不可侵条約を結ぼうと提案したくせにそれを破って、わえを暗殺しようとは……」

　魔女王は怒りで拳を震わせる。

　そのとき、突然地面が揺れた。

「今度は何じゃ!?」

「ハハッ、ようやく来たか。アレが魔国攻略のための最新兵器――機兵隊だ」

　魔国の門を破壊しようと大砲を撃っているのは、機械兵士の軍隊であった。

【三章に続く】