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シナリオ詳細

<廃滅の海色>現われたる白の尖兵

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●侵食開始
 海洋領海の端にある某海域にその人物たちは現れた。
 水面から僅かに顔を覗かせる岩礁を器用に渡ると、先頭にいた白づくめの人物がある地点で止まり、なにやら書物を開きページに指を這わせながらぶつぶつ呟く。
 その後ろに控えていた男とも女とも見える人物は、それをただ黙って見ているばかり。瞳の焦点は合っておらず、意識があるのか心配になるが、鮫が海中から飛び出してくるとすかさず剣で両断し主を守る。
「やれやれ。少しずつですがコツコツと、ですね」
 呪文のようなものを唱え終えた後に発した言葉。それが意味するのはその地に帳が降りた事を意味する。
 海が荒れて巨大な魚影が海中より現われ、天からは漆黒の天使が舞い降りる。それらは『白』の下へと集うと静かに指示を待った。
 遂行者と呼ばれる者たちは、現実世界とは位相の異なる自らの拠点『神の国』と呼ばれる領域を現実に降ろし、それを定着させることで世界を改変し「予言」なるものの実現を目指している。
 この場に現れた『白』もまた遂行者であり、現実の改変を目論んでいることは間違いない。だが、その動きは他の遂行者に比べると少々赴きが異なるようだ。
「派手に動くのもまぁいいんですがね。神の国を広げるなら、細かい所もしっかり埋めておかないとと思う訳ですよ。地図をつくるなら、きっちりかっちり全部埋めておかないと」
 誰に語るでもなくそう呟くと、一枚のコインを親指で弾き飛ばす。それは綺麗な弧を描いて、異形の怪物の中でも最も大きな個体の口へと吸い込まれていった。
「この場所は任せましたよ、ウーノ。これらをうまく使って神の国を広げなさい」
「はい」
 『白』は随行していた者の肩に手を当て耳元でそう囁くと、ウーノと呼ばれたそれは短く答える。
 その返事に満足したのか、『白』は音もなくその場を後にし、そこにはウーノと怪物たちだけが残されたのだった。

 命令にはただ従うのみ。ウーノはすっと指を伸ばすと、近くに見えていた漁村を指した。怪物どもの視線がそこに集まると、次の瞬間には動き出していた。
「……」
 やがて響く怒号と悲鳴。しかし、ウーノはただ無感情に浜辺を歩く。

●依頼
「海洋のとある漁村から緊急の依頼が届いたのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がそう言うと、一枚の依頼書を出した。
 そこに書かれていたのは、漁村近くの漁場でこれまでに見たことのない怪物が現れ、近付く船を襲って沈めるのみならず、徐々にその縄張りを広げ遂には上陸を許してしまったとのことだ。
 必死で抵抗したものの怪物にはとても敵わず、住民たちは近くの小島に移動し身を潜めているという。
 しかし、その小島も怪物たちの縄張りの内側であることには変わりなく、やがては見つかってしまうことだろう。
 さらに、避難した住民たちの中には病を発症した者もいるようだ。それまで元気だったはずの者が突如として体調を崩し、目を血走らせながら苦痛に呻き急速に弱っていくという。
 詳細は不明だが、それはかつて『廃滅病』と恐れられた症状に酷似しているという。
「これは通常の魔物討伐依頼とは異なるのです。受注するのなら、くれぐれも気を付けていってくるですよ」

GMコメント

 当シナリオを運営させて頂きます、東雲東と申します。
 新参ではありますが、皆様に楽しんで頂けるように頑張りますのでよろしくお願い致します。

●目標
 漁村を『神の国』から解放する

●ロケーションなど
 海洋の端にあるとある漁村とその周辺海域です。
 ある時を境に怪物が現れ始め、人々を襲うようになりました。
 住民たちは被害を出しつつも近くの小島に避難することに成功しましたが、海は大きく荒れて船を出すことも出来なくなり、小島に閉じ込められた状態となっています。
 さらに、住民たちのなかで『廃滅病』に酷似した症状を発症する者も現れ始めています。
 皆さんは彼らが生活していた漁村へと向かい、避難住民が全滅するよりも早く怪物を討伐してください。
 なお、このシナリオ中各PCは突如【廃滅】のBSが付与される可能性がありますが、抵抗やBS無効で予防できる可能性があるほか、回復スキルでの治癒も可能であり、シナリオ成功時には自動的に回復します。

・漁村
 住民たちが逃げて無人となった漁村です。
 規模が小さく人口も少なかったため、小屋のような家屋が幾らかと数隻の船を繋いでいる港があるくらいです。
 上陸した影の天使によって制圧されており、各所で天使たちが祈りを捧げています。

・周辺海域
 普段は穏やかで良質な漁場となっていましたが、一転して非常に荒れた海となっています。
 全身が黒い天使のような怪物はこちらから上陸しているようです。
 沖には巨大な魚影が確認されており、これが『ワールドイーター』であるようです。
 足場となる岩礁もありますがそれだけだと動ける範囲が限られるため、海上や海中での戦闘に適応するための手段が必要となるでしょう。

●エネミー
・ウーノ×1
 『致命者』です。
 体格や顔つきから、年齢は15歳前後に見えますが、中性的で性別は不明です。
 個人としての意志は薄弱で、「命令」を忠実に実行しています。
 剣を所持しているため、戦士タイプのように見えますが詳細は不明です。
 現在は漁村中央にある広場のような場所でぼーっとしています。

・ワールドイーター×1
 漁村の沖に現れた船のような大きさの魚の化け物で、カジキマグロのように鋭い角を持ちます。
 その巨体と暴れぶりから狂王種を思わせます。
 ウーノの指示によって周辺海域に近づく船を襲っていましたが、近付く船がなくなってからは影の天使を放って支配域を広げつつ、領域内部の世界を無差別に喰らっています。
 ステータスはHP、物攻、EXFが高い反面、反応や回避などは低いようです。
 体当たりや丸のみといった直接攻撃のほか、巨体を使って強引に海流を操ることもあります。
 『触媒』となるコインを飲み込んでおり、この個体を倒すことで『神の国』の侵食を止めて元に戻すことが出来ます。

・影の天使×不明
 ワールドイーターの配下であり、フィールド全域に出現しています。
 その名の通り、全身が影のように黒で染まった天使のような姿をしています。
 剣を持つ者や杖を持つ者など装備は様々ですが、戦闘能力自体はさほど高くありません。
 ただし、数が多く何をするにしても邪魔になりやすいです。

・???
 『遂行者』です。
 ウーノにこの場所を任せ、本人はどこか別の場所に向かったようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <廃滅の海色>現われたる白の尖兵完了
  • GM名東雲東
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月31日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣
カトルカール(p3p010944)
苦い

リプレイ


 田舎の漁村に突如として降ろされた『帳』。それによって現実は侵食され、ありえなかった可能性に上書きされていく。
 穏やかな海は荒れ狂い、長閑な漁村は滅されたはずの廃滅病に蝕まれる。
 だが、そんな変化を唯唯諾諾と受け入れられるはずもなく、この現状を打破するために動いた者たちがいた。
「ちっきしょー! あいつら好き勝手しやがってー!」
「村人さんたちのためにも、『神の国』は必ず滅しましょう!」
「その通りだ。この海を上書きさせるなんて絶対に許さない」
 元々住んでいたはずの村人を追いやって漁村を占領し、各所で祈りを捧げている漆黒の天使を見て『生イカが好き』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)は歯ぎしりする。
 追いやられた村人は今のところ無事のようだが、廃滅病に似た症状が発症し始めているという。一刻も早く触媒を破壊し、『神の国』が定着する前に退けなければならない。
 『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)の想いに呼応するように、抱えていた本が手甲と剣に形を変える。
 この海が絶望の青と呼ばれていた頃、犠牲を出しながらも戦い続け漸く開放するに至った。その戦いに参加していた一人として、『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)もまた静かに怒りを燃やす。

「おらー! これでも喰らいやがれ!」
 それぞれの想いを胸に漁村へ乗り込んだイレギュラーズ。
 最初に仕掛けたのはワモンだった。単身飛び出すと、背中に装着されたガトリングが轟音と共に火を噴き、ばら撒かれた銃弾が次々と影の天使たちを蜂の巣にしていく。
「ここはボクたちに任せて、珠緒さんたちは行って!」
 続く蛍が桜色に輝く聖剣を大地へと突き刺せば、ワモンの攻撃によって集まってきた影の天使たちをまとめて取り込むように桜吹雪が舞い散った。
 桜の花弁が宿す魔性によって影の天使たちの穏やかだった表情は敵意へと染まり、怨敵を滅すべしと蛍に殺到していくが、それによって空白地帯が生まれる。
「ありがとうございます。これであれの下へ向かえます!」
 蛍によって生み出された敵陣の間隙を突いて『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)を先頭に他のイレギュラーズも漁村へと雪崩込んでいく。
 目指すは『帳』の中心たるワールドイーター。あれさえ倒せば付近の異変も収束するはずだと。
「ここは一歩も通さない!」
 珠緒たちを背に庇うように立ちはだかる蛍とワモンは、引き付けた多数の影の天使との死闘を繰り広げる。
 振るわれる漆黒の剣を桜色の魔法陣で受け止めると、反撃に聖剣を振るいその軌跡をなぞるように炎が広がり影の天使を飲み込んでいく。
 一体一体の強さこそたいしたことはないが、数が多くどうしても防御しきれず傷が増えていく。だが、それでも決して折れることのない心の力によって傷を修復し、蛍は何度でも立ち上がる。
 剣で斬られようが、槍で貫かれようが、決して蛍が剣を振るう手を止めることは出来ないのだ。
「がんばれ! こいつらだって無限じゃないんだ! いつかは絶対に倒しきれる!」
 蛍が引き付けている間に、ワモンが後ろからガトリングをひたすら乱射することで、影の天使の数は急速に減少している。
 全滅させるにはまだ時間がかかりそうだが、決して不可能ではないだろう。


 無感情に空を眺め侵食の広がっていく空を眺めていたウーノだが、轟く銃声にイレギュラーズの出現を察知すると即座に剣を抜いた。
『この場所は任せましたよ、ウーノ。これらをうまく使って神の国を広げなさい』
 主の言葉に従い神の国を広げてきたわけだが、それを邪魔する存在がいるのならば全力で排除するのみ。漁村の中を突っ切る珠緒たちイレギュラーズに狙いを定めると、無言のまま踏み込み剣を振るう。
「行くよ、マーシー!」
 ワモンや蛍と共に影の天使を駆除していた『雪輝剣を手に』セシル・アーネット(p3p010940)は、ウーノの動きに気付くと手綱を握り、相棒のトナカイに声を掛けた。
 それに応えるようにマーシーが嘶き、粉雪を散らせ白い軌跡を描きながら戦場を駆ける。
「貴方は誰ですか?なんで攻撃してくるんですか?」
「……」
 ウーノの剣を盾で受け止めつつセシルはそう問うが、その答えは沈黙であった。
 機械的に振る舞いどこか不気味さも感じさせるウーノの剣を弾いて一旦距離を置くと、今度は虹の輝きを放つ星々を放つ。ウーノをワールドイーターの討伐に向かった珠緒たちの下へ向かわせてはならないと。
 対するウーノは星を剣で斬り払いつつセシルへと迫っていた。
「僕はセシル・アーネットです。貴方は何故ここにいるんですか?」
「……」
 至近にまで迫られたセシルは、雪の輝きを宿す宝剣でそれを迎撃。激しく切り結びながらもなおも問いかける。少しでも情報を引き出せないかと思ったが、やはり返ってくるのは沈黙のみ。
「誰かの命令ですか? 村の人達がとても困っています。申し訳ありませんが、村の人達の為にもここを出て行ってもらいますよ!」
「……」
 問答が無意味である以上、もはや言葉は必要ないだろう。セシルが魔力によって生成した紫紺に輝く宝石を弾丸のように放つと、危険を察知したのかウーノが身を翻して後方へと退く。
 しかし、避け切れなかった一部がウーノの体にめり込み、そこから命を脅かす毒が広がっていく。
 更にそこへセシルが追撃を仕掛ける。魔力を込められた宝剣がその身に氷を纏い刃を伸ばしたのだ。伸びた氷刃は氷でありながら柔軟にその姿を変え、セシルが振るうと鞭のようにしなりウーノへと襲い掛かる。
 応戦するウーノの剣と交われば、砕けた氷が太陽の光を乱反射させる。切り結ぶ二人の戦いは美しく彩られた華麗なる舞踏のようであった。
 しかし、その見た目とは裏腹に戦いは熾烈を極める。
 ウーノもまたセシルに並ぶほどの手数で剣を振るい、その剣圧は離れたセシルにも届き身体を斬り裂くほどだ。
 切り結ぶたびに、互いの鮮血で紅に染められた氷の粒が二人の周囲に飛び散っていく。


「見えました!」
 ワモンや蛍、そしてセシルが影の天使やウーノを抑えてくれたことで、珠緒たちは漁村の中を無傷で通り抜け、浜辺にまで到達することが出来た。
 視線の先には悠々と泳ぎながら、世界を喰らう巨大な魚影。
 海面から頭を覗かせる細かな岩礁の上を器用に跳び渡ることで肉薄すると、自身の血液を変化させた刀で居合の構えを取る。
「邪魔はしないで貰えるかな」
 珠緒が攻撃を放つまでには隙が出来る。それを知ってか知らずか、影の天使が群がって来たところに史之が割り込んだ。
 抜刀と同時に閃く無数の斬撃が瞬く間に影の天使を細切れとし、あまりの威力よって生み出された衝撃波が周囲へと伝播していき、辛うじて刀の間合いから逃れた者も圧し潰す。
「ウォオオオオオ!」
 史之が影の天使を片付けている間に、『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)もワールドイーターへと迫っていた。
 自前の船で沖から回り込んでいたエイヴァンが、船首に立ち渾身の力を込めて放った咆哮は、その注意を引くには十分な声量を持っており、長い角の伸びる頭がエイヴァンの方へと向けられた。
「やり直しなんて許しませんよ」
 先手を取った『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)が放つ蒼炎纏う茨は、海水をものともせずにワールドイーターの体に巻き付き、炎熱と棘でその巨体を深く傷つける。
「でっかいからって何だよ、3枚におろしてやる!」
 竜宮イルカの背に跨った『苦い』カトルカール(p3p010944)も続く。廃滅病が蔓延する世界が正しかったなど言われて受け入れられるはずがない。怒りを込めた拳を振るい、一息の内に三度叩き込む。
「くっ、抑えきれませんか……!」
「うぉあっ!」
 だが、ワールドイーターも黙ってやられるような木偶の棒ではない。巨体を回転させて絡みつく茨を振りほどき、殴りかかったカトルカールを弾き飛ばすと、鋭い角をエイヴァンへと向け突撃する。
 凄まじい速度で迫るワールドイーターの巨体を凍れる大盾と重厚な全身鎧による防御で受け止めるも、大砲の直撃を受けたかのような衝撃が走る。
「ぬぅう……! どっせぇぇいっ!」
 だが、完全に受けきった。完全にワールドイーターの動きが止まった瞬間、凍らせた波飛沫を纏い巨大化した斧が振るわれる。
 頭を横から殴られて怯んだ一瞬の隙に、小型戦艦を操り脇を抜けると座礁しないように気を付けつつ浅瀬の方へと移動する。
 エイヴァンを追いかけてワールドイーターも浅瀬の方へと向かってくるが、そこには力を溜め解き放つ瞬間を待っていた珠緒がいた。
「お前たちの相手は俺だ。何度も言うが、邪魔はさせない!」
 攻撃態勢に入っている珠緒は絶好の的となってしまうが、史之が影の天使を抑えてくれているため攻撃を受けることはない。
 史之が刀を連続で振り抜き二度の衝撃が広がる。立て続けに衝撃波に影の天使は紅い電光に蝕まれ、先に狙うべきは史之と判断したのか珠緒には目もくれず史之へと殺到する。
 射かけられる漆黒の矢に、魔力によって操られる暗黒の球……。前後左右様々な方向から同時に攻撃を仕掛けられれば、流石の史之も防ぎ切ることは出来ず少しずつ傷が増えていく。
「史之ー! あの子供がこっちに向かってるぞ!」
「まぁ、やっぱり動くよね。子供を殴るのは気が引けるなあ、アハハ」
 影の天使たちの波状攻撃に耐えながら、斬りかかってきた影の天使を逆に斬り捨てていると、史之の応援に駆けつけていた御饌津神が声を上げた。人間の子供に化けて物陰から様子を伺っていたが、ウーノとセシルが激しく切り結びながらも徐々にこちらに迫っていると見るや、変身を解き本来の姿に戻って急ぎ報せにきたのだ。
 影の天使の一体を斬ったところで、その言葉を聞きながらウーノの方へ視線を向ければ笑みが零れる。
 傷だらけとなりながらも、その痛みを無視してついつい出てしまった狂気すら感じさせるその笑みは、御饌津神の背筋を冷たくさせるには十分で、それが聞こえると同時にびくりと体を震えさせる。
 とはいえ、影の天使を放置しておくこともできない。今のところセシルとウーノとの戦いは拮抗しており、ここまで到達するには時間が掛かるだろう。
 セシルには申し訳ないが、ウーノの相手は『帳』の中心たるワールドイーターを倒してからだ。ちらりと視線を移せば、かなり近いところまでワールドイーターも迫っている。
「ふー……。はぁっ!」
 ワールドイーターが間合いに入ったその瞬間。珠緒が裂帛の気合と共に血刀を振り抜く。
 鋭い一閃はワールドイーターの体表を覆う分厚い鱗を砕きながら奥の肉を斬り裂き、傷口から血液が浸潤しその体を構成する情報を直接書き換えていく。
 痛烈な一撃を受けたワールドイーターは耳をつんざくような咆哮を上げて、痛みに苦しむように暴れまわる。さっとその場を飛び退いて難を逃れる珠緒だが、フルールがその場に取り残された。
 重厚な大剣のような角や破城鎚のような尾びれによる打撃は、直撃を受ければ負傷は避けられないだろう。
 しかし、それらが触れた瞬間、フルールの体が炎のように揺らめき透過する。
「私に単純な物理攻撃など効きませんよ」
 自身の体を炎そのものへと変えたフルールに、物理的な手段で傷を負わせることは不可能。決して傷つくことのないフルールは暴れるワールドイーターの攻撃など気にすることなく、再び蒼い炎とそれを纏う茨で縛り上げる。


 ワールドイーターはその巨体を活かした激しい攻撃と並外れた耐久力でイレギュラーズを苦しめた。
 しかし、イレギュラーズは誰一人としてそれに臆することはない。
 自身に注意を引き付けていたエイヴァンが再び攻撃を受け止めた。既に何度も致命傷になり得る一撃を受けているが、気を練り上げることで傷を修復し、時には珠緒にも回復して貰うことで立ち続けることが出来ている。
 今もまた膝をつくことなく受け止めきると、自身さえ凍りつかせるほど強烈な冷気を宿した大斧を振り下ろした。
「今だ、やれ!」
 エイヴァンの堅牢な防御と正面からぶつかり、さらには度重なる攻撃を受けて摩耗していたらしいワールドイーターの角がその一撃によって遂に折れた。
 悲鳴のような声を上げるワールドーターに、イレギュラーズは容赦なく畳みかける。
「ここまで来たらありったけ全部ぶち込んでやるぜ!」
「そろそろ沈め!」
 漁村側にいた影の天使を一掃したらしいワモンが合流し、廃滅の病に蝕まれながらも突撃と共にガトリングを乱射させ、鱗による守りを次々と削っていくと、別方向からカトルカールも仕掛ける。
 廃滅を発症しつつも自力で克服したカトルカールは、闘気を纏い拳の三連打を叩き込む。
「背中は任せて、珠緒さん!」
「蛍さんなら来てくれると信じていました」
 ワモンが来たという事は、同じく漁村側の影の天使を相手にしていた蛍もまた手が空いたという事になる。
 周囲に桜の花弁が嵐のように舞い踊り、それを受けた影の天使が力を溜めており隙だらけな珠緒よりも蛍に意識を向けて襲い掛かってくるが、蛍の放つ炎によって次々と焼却されていく。
 そして、蛍が合流したことで珠緒は攻撃に集中できる。居合の構えから放たれるは神速の一閃。血刀を振り切った直後、一拍遅れて紅い雷光が奔りワールドイーターの巨体を深く傷付け、その傷口は灼熱によって炭化していた。
「これで終わりです」
 一見して無謀にも思えるような突撃だが、攻撃を受けてもそれを無傷で往なすことが出来るフルールならば話は別だ。致命傷を負いながらも最後の力を振り絞って暴れるワールドイーターの口に腕を突っ込むと、そこから蒼き獄炎を放ち体内から焼いていく。
 膨大な熱量を体内に注ぎこまれたワールドイーターは、あまりの勢いに風船のように膨れて体が一回り大きくなると、やがて限界を迎え破裂しながら体の各所から蒼炎を吹き上がらせる。
 どうやら、この一撃が勝負を決めたようだ。ワールドイーターはそのまま消滅し、体内にあった触媒も熱に耐えきれず溶けてなくなり、周囲を覆いつくさんとしていた『帳』の侵食も止まり、徐々にその範囲が狭まっていく。


「どうやら、触媒は壊れたようですね。まだ戦うつもりですか?」
「知っていること、洗いざらい吐いて貰うよ」
 ウーノと斬り結びながらセシルが問いかけると、蛍と入れ替わりで合流した史之も刀の切っ先をウーノへと向ける。
 背後の海側からはワールドイーターが上げる断末魔が響いており、この異常な状態もやがて収束に向かうことだろう。あとはウーノを倒せば事件は解決だ。
 ワールドイーターを倒した仲間たちもこちらに向かっており、珠緒の粒ぐ福音やフルールが先行させるように放った精霊によって、ウーノとの戦いで負ったセシルの傷も癒えていく。
「……」
 状況は極めて不利。そうウーノが判断するには一秒もかからなかった。
 触媒が破壊されたのならばどうやっても『帳』を広げることは出来ない。これ以上ここで粘っても意味はなく、無駄に命を落とすだけだ。
『万が一失敗したら、迷わず逃げなさい』
 主から受けたもう一つの命令に従い撤退を選択する。
 ウーノの剣にこれまでにない光が宿り、何か仕掛けてくると感じたセシルと史之が防御の構えを取るが、それが二人に振るわれることはなく、その場で振り下ろされると大地が爆発し、視界を覆うように噴煙が辺りに広がる。
「けほけほっ。 待ってください! 逃げるつもりですか!」
「くっ……! これじゃあどこに向かっていったのかもわからない!」
 漂う噴煙を手で払いながら周囲を伺う二人だが、既にウーノの気配はそこになく取り逃してしまったようだ。
 煙が晴れた後、合流した仲間たちと共に周囲を捜索してみたものの、結局その足取りを掴むことは出来なかった。


 ウーノの正体を掴むことこそ敵わなかったが、ワールドイーターを討伐することには成功し、その体内にあったらしい触媒も破壊したことで『帳』による浸食も止まった。
 少しして、完全にもとの穏やかな漁村へと戻すことが出来た事を確認すると、 近くの小島に避難していた村人に事件の解決を知らせ、村人たちが徐々に戻ってくる。
「村人たちの健康状態に問題は無いみたいだ。
 少し栄養不足気味なところはあるけど、こうして元の生活に戻れたんなら次第に回復するだろうってさ」
 そう口にしたのはカトルカールだ。
 実は戦闘が始まる前に、漁村近くの安全な場所に数名の医師を待機させていたのだ。
 ウーノも撤退したことで安全が確保されたらしい事を確認すると、医師たちも漁村内へと呼び込み住民の健康診断をさせていたのだが、どうやら例の廃滅病に似た症状は『帳』の消滅と共に消え去ったようで、発症していた住民たちは既に元気になっていた。
 それを知ることが出来たイレギュラーズはほっと胸をなでおろすと、ひとまずは依頼達成ということでローレットへ帰還することにしたのだった。
 住民たちからの感謝の言葉をその背に受けて。

成否

成功

MVP

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾

状態異常

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)[重傷]
波濤の盾
寒櫻院・史之(p3p002233)[重傷]
冬結
藤野 蛍(p3p003861)[重傷]
比翼連理・護
セシル・アーネット(p3p010940)[重傷]
雪花の星剣

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。
 ウーノは逃げましたが依頼は無事に解決です。お疲れさまでした。

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