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シナリオ詳細

<伝承の帳>ぬいぐるみのマーチ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 背骨が曲がった小男が、ぬめぬめとした青灰色の手で赤いベルベットの小箱を捧げ持ち、『遂行者』アルヴァエルにうやうやしく差し出した。
 カチリと音をたてて小箱が開かれてその中身が露わになると、アルヴァエルはわずかにアゴをあげた。
「それは何だ?」
 髪の薄い頭に落ちてきた固く乾いた声をものともせず、小男は真面目った顔でいう。
「パンダでございます」
 小箱の中は、赤いベルベットの小さなクッションに乗せられた、シンバルを持つパンダのぬいぐるみだった。
 ぬいぐるみの額には聖女ルルの聖痕である『王冠』がつけられている。
「あれはさしあげる訳にはまいりません。これを代わりにお納めくださいと、わが主が――」
「ならぬ」
 突然。
 骨が折れ、内臓のつぶれる音が、白亜の空間に美しく響く。
 文字に書き起こせない悲鳴を絶命の調べとして、小男は主の言葉を最後まで言い終えることなく息絶えた。
 落下の衝撃だろうか。横倒れになったパンダのぬいぐるみが、狂気に満ちたシンバルの音を鳴らしつづける。
 アルヴァエルがわずかにあげていたアゴをおろすと、パンダのぬいぐるみはシンバルを鳴らす手を止めた。
 天より黒い影の天使がすうっと降りてきて、広がる血の海に触れる前に、パンダのぬいぐるみと赤いベルベットの小さなクッションを拾い上げる。
「出かける。わが剣をここに持て」
 どこからともなく新たな影の天使が2体現れ、アルヴァエルに前に進み出た。2体で禍々しく巨大な剣を持っている。
 アルヴァエルは剣を手に取ると、軽々と持ち上げた。
「――が、その前にせっかくの貢物だ」
 パンダのぬいぐるみを持つ影の天使に顔を向け、我の前に、と命じた。
「ふむ、なんとも愛らしいこと。いかにも聖女ルルのものらしき『触媒』 である。では、いまより彼女に敬意を表し、これに相応しき『領域』を展開しよう」


「新たに『神の国』の出現を確認した」
 情報屋『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)が、ローレットに集まったイレギュラーズたちに檄を飛ばす。
「定着化が早い。完全に固定されてしまう前に、『アリスティーデ大聖堂』より新たに現れた『神の国』へ飛び、一刻も早く核である『触媒』 を見つけて破壊しろ 」
 どんなところか情報はないのか、と『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が声をあげる。
 クルールは顎に皺を作った。
「そこは白いレンガ道が森の中の小さな白いお城まで続いていて、そこら中、楽器を持った黒いぬいぐるみだらけらしい。クマが多いが、ウサギやネコなど形はイロイロだ。おそらく影の天使だろう」
 『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)が、「そこに人はいないのか」、と質問した。
「帳が降ろされた地域の住民たちがいるはずだが、大人の姿は確認されていない。異言を話す子どもたちだけだ。子どもたちはぬいぐるみで遊んでいたり、ぬいぐるみを抱きながら白いレンガ道をパレードをしている。楽しい音楽に愛らしいぬいぐるみ、遠くに見えるきれいなお城……定着化が早いのは、隣接する街から次々と子どもたちが『神の国』に入り込んでは『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』化しているからだ」
 現時点で、『神の国』の出現が確認されてからまる1日たっている。
 その間、子どもたちは飲まず食わず、もしかしたら眠ってさえいない可能性が高い。
「子どもたちを傷つけなくても、眠らせたり、食事を与えて一時的に無力化することができるはずだ。『触媒』さえを破壊すれば元に戻る。だから一人残らず、無事に親元に戻してやってくれ」
 クルールは、あの、と手をあげた『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)に顔を向けた。
「その『触媒』は……何か特徴がないと探しだせないよ」
「白いレンガ道のそこかしこに、『王冠』の徽章が描かれた旗がたてられている。恐らくだが、小さくて白い城の中に『王冠』を被っているか、『王冠』の徽章がどこかに描かれたものがあるはずだ」
「『王冠』か……」
 イズマは顎にあご手を当てて考え込む。
「俺たちが追っている『遂行者』にはどこにもそれらしきものは見当たらなかったが。一悟さんは見たかい?」
 一悟は首を横に振った。
「蹴り飛ばされる寸前までよく見ていたつもりだけど……うん、どこに『王冠』なんてもなかったぜ。でもなんかアルヴァエルくさくね? 黒いぬいぐるみが楽器を持っているところとか」
 咲良が前向きに答える。
「アルヴァエルじゃないかもしれないし、別の『遂行者』かもしれない。けど、行けば『帳』をおろしたのが誰かはっきりするよ、きっと」
「そうだな。引き続き聖歌隊や楽器、オルガンや打楽器からもアルヴァエルの動向を探りつづけよう」
「よし、お喋りはそこまでだ」
 クルールはもう時間がないとばかりに、体の前で強く手を叩き合わせ、イレギュラーズに出立を促した。
「助け出さなくてはならない子の数は多いが、お前たちなら必ずやれる。さあ、行ってこい!」

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●達成条件
・『神の国』に入り込んだ子どもたちを全員助ける。
・『触媒』を壊す。

●敵
・ぬいぐるみ化した『影の天使』、複数。
動物をモチーフにした黒一色のぬいぐるみたちです。大きなものでも大人の腰辺りまでしか高さがありませんが、たくさんいます。
様々な楽器を手にしており、音を出すことで衝撃波を生み出したり、音でバッドステータスをつける攻撃をするようです。
単体では【近/単】攻撃になり、複数が集まって演奏すると【中/列】、大規模な楽団編成になると【域/複数】になるようです。
飛行能力はありませんが、中にはジャンプ力に優れているぬいぐるみもあるようです。

●NPC
・『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』、複数。
ぬいぐるみそのものや、聞こえてくる音楽につられて『神の国』に入り込んだ子どもが『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』化しています。
遊んでいたぬいぐるみが攻撃されると、それを庇おうとしたり、怒って泣きながら叩いてきます。
邪魔にはなりますが、叩かれてもイレギュラーズはダメージを受けません。
『神の国』に入って数日たっているため、お腹がすいていたり、喉が乾いていたりします。
子守歌を聞かせるとあっさり眠ってしまうかも。

●『触媒』
シンバルを持った額に『王冠』の印があるパンダのぬいぐるみです。
小さくて白い城のどこかに置かれているでしょう。
シンバルを叩いて音をだしますが、それ自体はなんの変哲もないぬいぐるみで、攻撃力はありません。
近くに大きな血だまりがあります。血だまりの中央には、大量の肉片が……。
他にも何か血の中に浸かっているようです。

●サポート参加について
 子どもたちを助ける動きのみリプレイに採用、描写します。
 例えば眠った子供を帳の外へ連れ出すとか、お菓子と交換にぬいぐるみを手放させるだとか。
 攻撃はできません。
 黒いぬいぐるみから子どもたちを庇ったり、スキルで子どもたちを癒すのはOKです。

●その他
今回、リプレイに『遂行者』アルヴァエルは登場しません。
帳を降ろした後、何処かへ向かったようです。
城の中を探ればどこへ行ったのか手がかりが得られるかもしれません。

よろしければご参加ください。お待ちしております。

  • <伝承の帳>ぬいぐるみのマーチ完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

リプレイ


 白いレンガ道を子供たちが練り歩く。
 小さな手にそれぞれ動物をモチーフにしたらしき黒いぬいぐるみを抱いている。楽器を鳴らして攻撃する影の天使たちだ。
 ドラムの音が鮮やかに打ち鳴らされ、子供たちのリズミカルな足音に陰鬱な小太鼓の音が重なる。
 カイト(p3p007128)は耳を手で塞ぎたくてしかたがなかった。
「あれが音楽か? 聞くに堪えない」
 イズマ・トーティス(p3p009471)が頷く。
「同感です。ですが一応、曲として成立はしていますね」
 イズマは帳の中に潜入するや、ファミリアーで召喚したハト(敵に怪しまれないように色は白)を黒い森の空に放ち、超聴力も駆使して小さな白い城へ続く白いレンガ道の場所を探し出した。
 カイトの「パレードしている敵が出す音から、白いレンガ道の大まかな位置が割り出せる」という提案を受けてのことだ。
 結月 沙耶(p3p009126)が後ろからカイトの肩をポンと叩いて気をひく。
「下からからじゃパレード全体を正確に把握することができない。俯瞰してみよう」
 沙耶とカイトはそれぞれ、超視力や広域俯瞰の能力を駆使してパレードの状況を探り、協力しながら子供たちの様子を他のイレギュラーズたちに伝える。
「うーむ、子供たちも続々巻き込まれているか……というかこれ、要するに人質ってことだよな?」
「ええ、人質ですね」とイズマ。
 沙耶は笑顔の子供たちに、どこか不自然な無機質さを感じていた。
 魂がないというか、壊れてるというか。
(「本当、悪趣味なことしてくれるな遂行者は?」)
 影のぬいぐるみたちが子供たちを人質にしていること知った皿倉 咲良(p3p009816)は、心を痛めながらもみんなと連携して子供たちを救うために全力を尽くすことを誓う。
「絶対助けてあげる。一緒に帰ろうね、パパとママたちの所へ」
 子供の相手は得意だ。邪悪なぬいぐるみなんかより、ずっと。
 咲良はひとつ深呼吸をすると、自分の頬を軽く張った。
(「怖がらせないように笑顔、笑顔」)
 咲良の表情が穏やかになり、全身から子供に対する思いやりと保護欲がにじみ出る。
 パレード隊の音楽に弦楽器が加わった。
 ヴァイオリンやチェロの音色が聞く者の眩暈を誘いながら舞い踊り、パレード隊の音楽に絶望を加える。その音楽は冷たい触手となって心を絡め取ろうとする。
 イリス・アトラクトス(p3p000883)はなんとしてもこの敵を幻想から立ち去らせると決めた。
 パレード隊から目を逸らし、顔を歪んだ空へ向ける。
(まさか、ここまで大規模な行動に出るとはね……)
 このままでは幻想、いや混沌世界そのものが彼らのいう神の国とやらに作り変えられてしまうだろう。なにがなんでも阻止しなくては。
(だが、まずは子供たちの救出を最優先だ)
 イリスは子供たち全員を無事保護するためには迅速な行動が求められることを理解し、「光鱗のアトラクトス」の娘として、自身の能力を最大限に活かして仲間たちの助けになろうと思った。
 パレード隊の構成が明らかになった。カイトが報告する。
 敵の数18体。
 18体が奏でる演奏曲は強烈だ。まともにくらえば百戦錬磨のイレギュラーズといえ苦戦するだろう。
 楊枝 茄子子(p3p008356)は状況を魔性の直感で把握し、力強く声を響かせて味方を奮い立たせた。
「私たちに与えられた使命は子供たちを守ることだよ。私たちは子供たちの最後の砦なのだ。だからみんな、子供たちの未来を守るために立ち上がろう!」

 一方その頃。
 奥州 一悟(p3p000194)とエーレン・キリエ(p3p009844)の2人は、美味しい匂いで気をひきつけ、子供たちに影のぬいぐるみを手放させようとしていた。
 一悟は白いレンガ道の近くに火を起こせる場所を探し、イリスの荷台をちょいと拝借して、子供たちの大好物であるカレーを作り始めていた。
 カレーのお供はナン。
 「幻想の子たちはご飯よりナンだろ」、という理屈なのだが、実は自分用にこっそりご飯も炊いていたりする。
 スプーンなどのカラトリー類は、「こんなこともあろうかと」としっかり用意してあった。
 すぐ近くでエーレンが、即席でキッチンカーに仕立てた木馬で、甘い匂いのお菓子を大量に焼いている。
 キッチンカ―仕立ての木馬には、言葉が通じなくてもわかるように絵だけで描いた「パンやリンゴと黒いぬいぐるみを交換する看板」が取り付けられていた。
 形こそは現実にある木や草、花と同じだが、まったく匂いのない森に空腹を刺激する美味しそうな匂いが広がっていく。
 いまは心を捕らわれ、影のぬいぐるみの運び手と化している子供たちだが、この匂いには生存反応が否応なく反応するだろう。
「さあさあ子供たち! お腹も空いているだろう、遊びは一旦休憩で、お菓子はどうだ?」
「カレーもあるぜ!」


 エーレンと一悟が開店を告げると同時に、イズマは空へ上がった。
 フォルテッシモ・メタルという名の特殊なスピーカーを光らせ、音を鳴らしながら子供たちの気を引く。
「さあ皆、ご飯の時間だよ! お腹が空いただろう、おいで!」
 空中でくるりくるりと回ったり、子供たちが本来好きそうな楽しい曲を演奏しながら、木馬のキッチンカ―と焚き火がある空地へ子供たちを誘導していく。
 一悟は足を止めた子供たちに笑顔で、「ぬいぐるみを抱いていると、お皿とスプーンが持てないだろ? ぬいぐるみは置いておいで」と言った。
 エーレンも子供たちに木馬に取り付けた看板を指さしながら、「ワッフルはぬいぐるみと交換だよ。蜂蜜をたっぷり塗ったやつも、イチゴジャムやマーマレードを塗ったやつも全部ぬいぐるみと交換だ」と言う。
 子供たちはイズマに導かれて、一悟の作るカレーの香りや、エーレンが提供する美味しい焼き菓子を求め、少しずつ白いレンガ道から離れ始めた。
 途中で影のぬいぐるみから手を離し、ぽとり、ぼとり、と地面に落としてゆく。
 ここに至ってやっと、影のぬいぐるみたちは危機感を覚えたようだ。
 突然現れたイレギュラーたちに驚きもせず、そのうちに子供たち同様、時を置かずに『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』するだろうと楽観視していたのだ。
 地面に落とされた太鼓持ちの影サルが、鋭い影の歯をむき出してキーキー威嚇する。
 影リスがカスタネットを激しく打ち鳴らしながら子供たちを追いかける。
 他の影のぬいぐるみたちも楽器を演奏しながら自力で、あるいは子供たちに命令して、イレギュラーズへ攻撃を始める。
 カイトは咲良と連携を図りながら戦場を駆け回り、影のぬいぐるみを鮮やかに封殺していった。
「ストップ! この先、邪悪なぬいぐるみは通行禁止だ」
 的確に影のぬいぐるみのみを狙って神聖の光を放って倒してゆく。
 咲良はカイトの援護を受けつつ、ぬいぐるみを手放そうとしない子供たちに優しさと温かさを届ける。
「お腹、空いてるよね? ご飯を食べたらお姉さんとお昼ねしよう。ぬいぐるみは片づけようね」
 咲良は保育園や小学校の職場体験で得た経験から、子供たちと目線の高さを揃え、柔らかい笑顔で子供たちを包み込んだ。
 一緒に歌ったり、美味しいお菓子を分け与えたり。子供たちを安心させて、狂ったように凶暴な音を発し続けるぬいぐるみと引き離す。
 ここまでは上出来だ。影のぬいぐるみたちの足並みを乱し、パレード隊を小ないし中規模の楽隊に切り崩せた。
 単体で突撃してくる影のぬいぐるみは、エーレンと一悟が先にたどり着いていた子供たちに食事を配りつつ、個別撃破して行く。
 他のイレギュラーズたちも負けてはいない。
 イリスは破壊の音が渦巻く戦いの最前線に立ち、黒くて羽根のはえたかわいくて無害なねこたんを巧みに使って子供たちの気を引きつつ、身をもって流れ弾から子供たちを庇う。
「怖くない怖くない、悪い夢はもう終わるよ」
 その一方で、イリスは仲間たちに癒しと回復を与え続ける。彼女の存在はイレギュラーズたちに勇気と安心感を与え、戦闘の流れを支えていた。
「みんな、増援が来ないうちにガンガン倒しちゃってよ。回復は私に任せて!」
 本当に頼りになる。
 イリスがいれば多少の無茶であればカバーされる。倒れることを恐れずに戦えるということがどんなに楽なことか。
 茄子子が素の自分を隠し、取り繕う余裕を持てているのがその証拠だ。
 例えば目の前の瓦礫につまずいて泣く子供。
 内心では、ぐずる子供の相手は……ちょっと苦手ですね、なんて思っていたりするのだが、美しく整えた外面に聖女の微笑みを張りつかせ、「えーっと、よしよし? そんなに泣かないでくださいね」と優しくあやしたりする。
「しかし、このままでは……」
 茄子子はちょっと面倒くさいという言葉を飲み込んだ。
 戦闘が激化するにつれて、白いレンガ道は荒れ、周囲の黒い木々が倒れ、白い火をともす黒いガス灯がポッキリと折れて倒れていく。
 この子と同じようにつまずいて転び、鳴きだす子供たちが増えていくだろう。
 茄子子はすっと背筋を伸ばすと、手元に集めた魔力を一つに纏め、戦場に浮かび上がる不可視のバリアに変えた。
「闇より生まれし光の聖域、我が手に宿りし聖なる結界、その名は『聖禦の守護』! 結界を展開せん!」
 透明な結界が広がり始め、仲間と子供たちを包み込む。
 これで建物などの倒壊を心配する必要がなくなった。
 沙耶は敵との戦闘で名乗りを上げ、敵の注意を引きつける役割を果たしていた。
「闇夜に現れ、闇夜に消える。弱者たちのための復讐者、『月下の紅き盗賊、怪盗リンネ』! 光り輝く未来を切り拓くために舞い踊る! そう、私こそが弱者の味方、正義の影なのだ!」
 正義の影とは自分たちのことだ、と怒った影のぬいぐるみたちが沙耶に向けて楽器を鳴らした。圧を持った音が襲いかかる。
 沙耶は瞬時に身をかわし、身体をしならせて音の圧力から逃れた。彼女の俊敏な動きは、まるで風のように敵の攻撃をかわしていく。その姿は優雅で、まるで舞っているようだ。
 影のぬいぐるみたちは驚きながらも、再び沙耶に向かって音を奏でる準備を始めた。
「その音で私を倒せると思っていたら大間違いだ!」
 沙耶の言葉と共に、手にするリミットヴァーチュが輝き始めた。呪われた刀と化したリミットヴァーチュから冷たい光が放たれ、敵の楽器の音色を切り裂くように舞う。
「邪悪を庇う音を断ち切る!」
 影クマを白いスーザフォンごとすっぱり切り落とす。
 立ったままで、あるいは歩きながら演奏ができ、なおかつ響きが遠くまで飛ぶように開発された楽器はイレギュラーズたちにとって一番の脅威だったといっていい。
 それがいま、まともに音が出せなくなった。
 沙耶は瞬きすることなく、仲間たちにこの情報を伝える。
「一気にたたみかけよう!」
 白い朝顔のようなスーザフォンの先が切り落とされ、道に落ちたのを見て、イズマは心を痛めた。満腹になった子供たちを寝かしつけていた子守歌が途切れる。
(……しかたがない。たけど楽器が壊れるのを見るのは辛いな)
 楽器自体に罪はない。少しでも壊れる楽器が少ないようにと願う。
 イズマはもう少し、もう少しだけ子守歌を歌って子供たちを眠らせたら、あとは一悟に任せて自分も戦おうと思った。


 エーレンは、焼き菓子の大半を子供たちに配り終えていた。残りを森の中にいる子供たちのために残し、いまは影のぬいぐるみから子供たちを引き離すために戦いを繰り広げている。
 影のぬいぐるみ退治は他の仲間たちに任せるつもりだったが、意外とぬいぐるみを手放さない子供が複数いるのだ。
 だが、このあと帳の外まで木馬で子供たちを運ぶという大仕事がある。無理無茶はしない。攻撃力を最大限に引き上げながら、一閃と呼ぶ雷を纏う居合抜きで影のぬいぐるみだけをピンポイントで倒した。
 イレギュラーズたちによって、次第に影のぬいぐるみたちは数を減らしていく。
 18体から12体へ、そして11体から4体へと減っていく中で、敵の攻撃が大規模な広範囲攻撃から中距離列攻撃へ、そして単体攻撃へと変化していった。
 一悟は自走式追尾爆弾を複数走らせて、イリスを囲おうとしていた影のぬいぐるみたちを攻撃した。子供たちが手放したやつらだ。
「ありがとう、一悟君!」
 礼をいいながら三叉を振るい、影のぬいぐるみを一体を退ける。
 カイトは子供たちを巻き込まないように、自身の体を防音壁にして敵の攻撃を受け止めた。
「今だ! 咲良、行け」
 咲良の瞳で闘志が燃える。彼女はカイトを傷つけた敵を睨みながら力を集中させた。
 周りに強力なエネルギーが蓄積されていく。
 咲良の体が一瞬で超絶加速し、まるで光のようにヴァイオリンを持つ影ウサギの前に現れる。
「よくもやってくれたな、地獄の果てまで吹き飛べ!」
 正拳突きで瞬時に目前の敵を粉砕し、爆風と共に影のぬいぐるみを吹き飛ばす。破壊の光が狂った信仰空間を貫いた。
 最後まで残っていた影のぬいぐるみが、攻撃を仕掛けてきた。
 狙いは回復手のイリス――と見せかけて茄子子!
 イズマは燃えるような情熱を秘めた瞳で茄子子へ舵を切った影のぬいぐるみを睨みつけると、タクトのような鋼の細剣を手に取った。
「俺はイズマ・トーティス! 邪悪なるものよ、我が音色に耳を傾けよ。貴様らの抑圧する音楽はここで終焉を迎える!」
 影のぬいぐるみが足を止めて、イズマを振り返る。
「響け希望の音、響奏撃・弩!」
 イズマの手から放たれた一撃は、まるで凍てつく夜空に響き渡る「氷の交響曲」のようだった。
 氷の結晶がキラキラと舞い踊る様な音が、鋭く美しい旋律を紡ぐ。聴く者の背筋に寒気を走らせ、心を震わせる。
「……楽器は壊さない。だが自由であるべき音楽で子供達を縛るお前達は、消えろ」
 イズマの放った一撃が命中し、影のぬいぐるみは凍りついたように動かなくなった。
 ――と、まるで氷の彫刻が太陽の光を浴びて溶けていくように、影が脆く崩れてゆく。その間、楽器は傷つきながらも美しい音を響かせていた。


「よし、森の中にいる子供たちを探しに行こうぜ」
 一悟とエーレン、イリスの3人は城には向かわず、森の中の子供たちを探すことにした。
 パレード隊と戦ったときと同じように、食べ物と引き換えに子供たちがぬいぐるみを手放す瞬間、一体ずつ始末していく。
 助けた子どもたちはイリスの荷台へ連れて行った。ある程度、子供たちが集まったら、エーレンと一悟に護衛されながら帳の外へ向かう。
 道すがらイリスは信仰蒐集や扇動、姉力を使い、子供たちに存在感と安心感を与えて警戒心を解くように努める。
「ほら、おうちに帰りますわよ〜? 泣かなくても私たちが連れて帰ってあげるますからね」
 どうしても子供が泣き止まないとき、イリスは弦楽器のBlue Lotusを演奏して落ち着かせた。
 カイトは輸送隊の警護だ。
 目を覚ました子供たちにはおこげチップスを差し出して気を紛らわせた。
「食えなくは無いけど、これ、ツマミの類だしなぁ……?」

 城へ向かった4人のイレギュラーズたちは白いレンガ道を辿って、まだまだ影のぬいぐるみが潜んでいる危険な城の中に入った。
 茄子子は精霊を駆使して、神の国の触媒である聖遺物を探した。どんな形をしているかはまだ分からないが、異様な気を発しているモノがあれば精霊たちが教えてくれるだろう。
 沙耶は超視力と広域俯瞰を駆使して城の調査にあたり、怪しい物を手当たり次第に調べる。
「今のところそれらしきものは――」
 柱の影から飛び出してきたモノをとっさにかわす。
 影のぬいぐるみを抱きかかえた子供だ。
 物質透過を使いながら城内を回っていたイズマが壁から飛び出して、影のぬいぐるみの首根っこを捕まえた。子供の腕から強引に抜き取り、放り投げる。
「アタシが仕留めるよ!」
 宣言通り、咲良がデッドリースカイで仕留めた。
 茄子子はぬいぐるみを壊されて癇癪を起こす子供をぎゅっと抱きしめた。
「あの、危ないのであんまり暴れないでくださいね……。あと、精霊が……」
 城の中央、謁見の間に血だまりを見つけたと報告すれば、イズマも「そこからシンバルのような音が聞こえる。もしかしたら、聖遺物かもしれない」という。
 4人は保護した子供をつれて、謁見の間に向かった。
 玉座にちょこんとシンバルを叩くパンダのぬいぐるみが座っていた。その手前に血だまりが広がっている。
「何だ、この血溜まりは……?」
「さあ、とにかく調べよう」
 咲良は腐臭のする血だまりの淵にひざまずき合掌した。それから冒険の知識と医療スキルを駆使して血の中の骨や肉片の調査に取り組む。が、基礎的な知識で得られるものはなかった。
「だけど、鱗を見つけたよ」
 そこで茄子子とイズマは血肉の主に『霊魂疎通』を試みたのだが……。
 血だまりに紙片を見つけ、イズマがぴかぴかシャボンスプレーで血を落とす。
 紙に染み込んだ血液はさすがにきれいに落ちなかったが、海洋のさる貴族の家紋らしきものが辛うじて見えた。半分にちぎられているのではっきりしない。
 しびれを切らした沙耶が、「もうアレを壊していいか」という。
 3人の同意を取り付けた沙耶は玉座に歩み寄り、額に王冠のマークをつけたパンダのぬいぐるみを破壊した。

成否

成功

MVP

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

状態異常

なし

あとがき

みなさんの活躍によって、無事にすべての子供たちを助けることができました。
聖遺物を破壊したことで帳が上がり、子供たちの洗脳も解けています。

城の中にあった血だまりからは、海洋のさる貴族の紋章らしきものがついている紙片と鱗を数枚回収しています。
残念ながら血だまりの主からは話を聞けませんでした。
魂自体が消滅しているとは、イレギュラーズの調査に協力してくれた精霊の弁です。
恐らく遂行者アルヴァエルは――。

ご参加ありがとうございました。

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