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シナリオ詳細

<天使の梯子>百光年よりの敵

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●聖者襲撃
 天義にて、リンバス・シティが顕現してから後――。
 様々な戦いが、天義国内で発生していた。それは、明確な、敵対勢力による天義への……いや、世界への攻撃に間違いなかった。
「この状況を座してみているわけにはいきません」
 そう、あなた達ローレット・イレギュラーズ達の前を歩きながら告げるのは、天義の聖職者、ヴェイパー師である。彼はまだ若く、血気盛んなところがあったが、しかし天義という国を思う気持ちは間違いのないものである。
「それ故に、我々は天意を告げるために天衣をまとったのです。なにものにも染まらぬ黒。天義聖騎士団の衣。皆さんのうち何人かも、志を同じくして、その色に身を包んでくださっているものと思います」
「まぁ、私にしてみれば、もっと気軽に――ファッション的感覚でもよいと思うけれどね?」
 そういってみせるのは、同じく黒衣に身を包んだ天義聖騎士、セレスタン・オリオールだ。かつて、『聖盾』なる聖遺物を継承した彼の一族だったが、件の冠位魔種による暗躍の際に失われてしまい、今は静かな没落をたどっている一族らしい。
 それはさておき、軽い口調で言うセレスタンの言葉に、ヴェイパー師は僅かに不機嫌そうな顔をした。
「これは国家の一大事なのです、オリオール殿。本来ならば、皆さんには、私の護衛などを任せず、敵の遊撃に出てもらいたいものですが――」
 そう呟きながらたどり着いたのは、小ぶりながら綺麗な聖堂である。
「本来ならば、新米聖職者が修行に訪れるところだよ」
 セレスタンが言った。
「それ故に、ここにヴェイパー師がいるとは誰も思わないだろう。師を守るのには、うってつけの場所ということさ」
 その言葉に、貴方たちはうなづいた。つまり、これはヴェイパー師の護衛任務に間違いないのだ。
 ヴェイパー師の言動からもわかる通り、現状、天義の意思は、『不正義、討つべし』という方向に傾いている。この場合の不正義とは、つまり『遂行者』なる、『正しい歴史を取り戻す』と吹聴して各地に攻撃を仕掛けている、敵対勢力のことだ。
 ヴェイパー師などは、特に敵に対して攻撃的な人物であるが、そうでなくても、ほとんどが今回の未曾有に攻撃に足して『迎撃』を唱えている。そのため、天義の総意としては、迎撃の一手、という方向で間違いはあるまい。
 だが、そうなってから昨今、いわゆる『タカ派』の聖職者に対しての、暗殺行為が発生し始めたのだ。
 もちろん、下手人は遂行者をはじめとする敵対勢力である。タカ派の聖職者を暗殺し、こちらの士気を削ぐのが目的であることは明白だ。重要聖職者が消えれば、その分遂行者たちへの攻撃も鈍る――と考えれば、遂行者たちにとっても『やらない理由はない』だろう。
 そのため、そういった『タカ派』の聖職者たちへの『護衛』が必然的に必要となっていた。彼らは護衛を厚くしたり、セーフハウスに隠れたりなどを行っているが、今回のヴェイパー師は、そういったセーフハウスへの避難というケースだ。
「……複雑そうな顔をしているね? えーと、雪風くん……だったかな?」
 そういうセレスタンに、はっとした顔をしたのは、雪風(p3p010891)だ。
「いえ……いえ、その」
 雪風が、言いよどんだ。それから、わずかに顔をしかめた。
「嫌な予感が……しまして。その、根拠はないのですが、なにか」
「敵がいる予感、かな?」
 セレスタンが言うのへ、雪風はうなづいた。
「ですが……わたし一人では、確証が持てません」
「ふむ……独りでわからないときは、仲間を頼るべきだと思うよ。
 私は――役に立たないかもしれないけれど、相談には乗れる。
 まぁ、私はジル……ああ、私の小姓の子なのだけどね、彼にいろいろ頼りっぱなしの、なさけない聖騎士だけれど」
 苦笑するセレスタンに、雪風はあいまいな苦笑を返した。
 仲間を、頼る。
 苦手だった。最期に、自分だけを残して皆去ってしまいそうで。
 セレスタンはそれに気付いたかそうでないのかは不明だが、会話を切り替えた。
「まぁ、気のせい、だろう。ここに人が来るなんてのは、しっかり秘匿されているはずだ。スパイでもいない限りは――」
 そう、彼がつぶやいた刹那。
 聖堂の入り口より、何かが飛び出してきた。
 シスター服の女である。何か、機械的な装備を手にしたそれは、
「目標を発見。攻撃を試みます」
 機械的な口調でそういうと、手にしたガトリング砲のような武器を、ヴェイパー師へと構えた!
「敵だ!」
 イレギュラーズの一人が叫び、手にした武器を構えた。それからすぐに、ヴェイパー師へととびかかると、彼を伏せさせ、武器を構えて銃弾を受け止める!
 鈍い音が響いて、銃弾がイレギュラーズの手にした武器を叩いた。それを耐えながら、
「いったん攻撃を散らしてくれ! ヴェイパーさんを安全な場所に!」
「それは私に任せてくれ!」
 セレスタンが叫び、剣を抜き放った。イレギュラーズの一人からヴェイパー師の身柄を預かると、
「どちらへ?」
「とにかく戦場から離れてくれればいい!」
「承知した! 師、こちらへ!」
 かばいながら、後退する。
「くそ、遂行者か!? 致命者か!? ワールドイーターか?!」
 叫ぶイレギュラーズの仲間へ、そのシスターは答えた。
「部分的に一致とします。該当世界の言語でいうのならば、私たちはウォーカーに当たります。
 ですが、遂行者の一味に協力していることは事実です」
 そのシスターは、こともなげにそう答えた。
「狂人ですか……!」
 仲間の一人が、つぶやきつつ構える。魔に与することを選んだ旅人(ウォーカー)。狂気に陥った狂人。つまり、明確に敵である。
 仲間たちが構える中、雪風はその眼を、大きく見開いていた。
「初、霜?」
 つぶやく。その名は、かつての世界で、最期の決戦に挑んだ唯一の僚艦の名であり、目の前のシスターの姿通りのホログラムボディを持っていた、雪風の最後の友である航宙艦搭載のAIの名であったのだ。
「データを照会。同定しました。あの時の個体ですね」
 初霜? が、声を上げる。
「あの時以来です。取り込ませていただきます」
「ちがう……『マリグナント』……!?」
 それは、雪風が、かつての世界で滅ぼしたはずの、宇宙を覆う悪性の名前だった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 遂行者に協力するウォーカーからの襲撃です。
 彼女? を排除し、ヴェイパー師を救出してください。

●成功条件
 ヴェイパー師の生存
 『マリグナント』の撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 昨今、リンバス・シティへの積極的攻撃を唱える天義の聖職者たちが、敵勢力に襲われるという事件が発生しています。
 ヴェイパー師も、攻撃を唱える一人であり、敵の標的になると予測されていました。
 天義聖騎士のセレスタン・オリオールとともに、ヴェイパー師の護衛に向かった皆さん。セーフハウスに到着し、これでしごともおわり ……と思った刹那、遂行者勢力からの襲撃が発生してしまいます。
 敵は、狂気に陥ったウォーカー、『マリグナント』。どうやら、雪風(p3p010891)さんと因縁があるようですが……。
 いずれにせよ、この敵を迎撃し、ヴェイパー師を安全な場所に送らねばなりません。
 作戦決行タイミングは昼。戦闘エリアは、小さな聖堂内部となっています。
 明かりなどを用意する必要はありません。特に戦闘ペナルティなどは発生しませんが、あたりには長椅子などが散乱しているため、うまく使えば盾くらいにはなるかもしれません。

●エネミーデータ
 マリグナント ×1
  雪風さんの関係者の旅人(ウォーカー)。遂行者に与する『狂人』です。
  シスター服+重機械による重装備、という見た目です。見た目通りの重装備で、ガトリング砲による面制圧や、魚雷による単体射撃など、一発一発が強烈な攻撃を打ち込んできます。『火炎』系列、『足止め』系列などのBSを特に使用してくるでしょう。
  弱点としては、火力に対して耐久面は高くないところです。鋭いが、脆い刃のような性能と言えましょうか。
  多少の被弾は覚悟で、最大火力をぶち込んでやるのが勝利のカギかもしれません。

 影の軍勢 ×10
  遂行者勢力が運用する、影のような、泥のような怪物たちです。
  マリグナントが運用するこれらは、何れも『人間のような姿』をしています。率直なことを言うと、雪風さんが元の世界で同僚として一緒に戦ってきた仲間AIの姿をしてます。
  とはいえ、自我などはなく、オートマチックに皆さんを攻撃するのみです。
  性能的には、マリグナントの性能を数段落としたイメージになります。雑魚版マリグナント、と言ったとことでしょうか。
  そのため、脆いが、雑魚としては火力が高い、ということになります。
  長期戦は不利になりそうですので、一気に蹴散らしてください。

●味方&護衛対象
 ヴェイパー師
  天義の聖職者です。若いですが、しっかり権威を持った有能な人物です。
  戦闘面では頼りない性能をしています。簡単な治療術式を使えますが、とにかく逃げてもらうのがいいでしょう。

 セレスタン・オリオール
  天義の聖騎士。皆さんに負けず劣らずの実力を持っています。
  基本的に、指示がなければヴェイパー師の護衛を最優先とします。
  放っておいても死ぬことはないですが、彼一人でヴェイパー師を守り切れるかはちょっと怪しいです。あくまでNPCですので。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <天使の梯子>百光年よりの敵完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)
雪風(p3p010891)
幸運艦

リプレイ

●悪性
 マリグナント。それは、『幸運艦』雪風(p3p010891)の存在した世界において、宇宙のあらゆる生命を脅かした『ナニカ』である。
 目的は不明なれど、性質は理解されていた。侵食し、内に取り込む。元は小さな物体であったそれは、人類が遭遇したときには、多くの星と生命を飲み込み、巨大な一群と化していた――。
「といっても、まさに前の世界では、ということです」
 マリグナントは、事も無げにそういう。
「私たちは、全人類との総力戦に突入し、確かに敗北しました――そして気づけば、この大地にいたのです」
 そういった。間違いない、旅人(ウォーカー)である。だが、可能性を蒐集するイレギュラーズとて、その蒐集を超える悪性を発生させることはある。そしてそれは往々にして、魔種などの、人類の敵に協力していることが多い。
 いうなれば、『狂人』。狂気に陥り、人類の味方をやめたイレギュラーズ。だが、彼女(?)の場合は、おそらくはそうではないのだろう。
「私たちは困惑しました。できることが、できない。この世界の法則。
 ひとまずは、それを打破するために、いろいろと試行を試みたのですが」
 じろり、と、雪風を見た。雪風は、それをにらみつけるように、視線を返す。
「……世界を覆う、帳。神の国。それは、私たちにとっても興味のあるものでした。故に、サマエルに協力を打診したのです」
「サマエル……確か、仮面の遂行者だね?」
 セレスタンが、ヴェイパー師をかばいながら、そういう。
「君のようなウォーカーがいるならば、もしかしたら我々の中に侵入して、情報を流していたのかもしれないということか……!?」
「スパイでもいない限りは……ですか」
 『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)がそういう。ヴェイパー師の避難は、秘匿されていたはずである。そうなれば、こちらの内情をばらしたなにものかか、あるいは、予想以上の情報網を敵が持っているということになるが……。
「セレスタンさん、まだ断定はしない方がよいかと。警戒するにこしたことはありませんが」
 ちらり、とセレスタンを見やる。その黒い眼が、なるほど、とでもいうように、こちらを見つめていた。
「……我々の結束を揺るがせる策かもしれないということだね。確かに、だ。桜咲君」
「とにかく、今はヴェイパーさんを守ることに集中してね?」
 『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が続く。
「ベルナルドさんも、一緒に守ってくれたら安心できると思う!」
 蛍の言葉に、『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)はゆっくりとうなづいた。
「任せてくれ。腐敗が長く続いた天義だが、天義は変わろうとしている。しっかりとした聖職者は、そのためにもいてもらわないと困るからな」
「申し訳ございません……!」
 ヴェイパー師が悔し気にそういうのへ、ベルナルドは頭を振った。
「いいや、それぞれにそれぞれの仕事がある。荒事は――いや、俺は絵描きなんだが、とにかく、ローレットに任せてくれ」
 ふ、と笑ってみせるのへ、ヴェイパー師は感謝の気持ちを隠すことなく、力強くうなづいて見せた。
「残念ですが」
 マリグナントが声を上げる。
「そちらの生命体を逃すことはありません。これは、私たちの目的であるのですから」
「言葉が硬いですね。もう少し流ちょうに話せませんか?」
 『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)が嘲るように言う。
「それとも、お勉強中ですか。あまり知能は高くないようですね?」
 その言葉に、しかしマリグナントは重くうなづいて見せた。
「肯定します。言語によるコミュニケーションは使いづらい。同化し、一体化した方がよっぽど『速い』のですが、この姿ではそれもままなりません」
 この姿、とマリグナントは言った。天義での偽装のつもりか、修道士の服を着たそれは、しかし艤装、というのか、物々しい装備で身を固めている。
「……艦船、それに付随するものの装備のように見受けられる」
 大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)が、警戒するように言う。
「なれば、出自は武蔵と似たようなものか? おそらく、あの体に規格外のサイズの火力を維持することがコンセプトのはずだ」
「……あの姿は、初霜の姿です」
 雪風が、言う。
「わたしの世界で最後まで一緒に戦った僚艦・初霜のAI人格の姿……!
 それに、あの影の軍勢は……!」
 ぎり、と悔し気に奥歯を噛みしめた。その陰の軍勢の姿は、何れも、マリグナントと同様に、人と、艤装を合わせたような姿をしていた。
「わたしが、かつて共に戦って、助けられなかった仲間たちの――」
「大丈夫ですよ」
 『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)がそう声を上げた。
「つらいのでしたら、言葉にせずとも。事情はおおむね察しました。
 仲間を傷つけるのであれば、排除するのが道理」
 ばり、と力をつけるためのチップスを噛みしめ、迅が構える。『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)も、ゆっくりと息を吸って、その手をゆらりと構えた。
「あの特徴的な兵装……どれほどの威力かは分かりませんが。
 見た目通りの其れなら、一筋縄ではいかなさそうです、ね?」
 ふわり、とその手を振るう。魔術的な光が、その手を輝かせる。
「フリーにさせては、建物ごと潰されてしまう可能性があります。
 電撃戦と行きましょう。
 珠緒さん、保護結界をお願いしても?」
「ええ、任せてほしいのです」
 珠緒が頷いて、その指をパチンと鳴らした。桜色の光が、すぅ、とあたりを包み込む。保護結界が、ひとまずの周囲の安全を確保したことを確認する。
「ここは一歩も通さないわよ!」
 珠緒の隣で、蛍が構えた。マリグナントが薄く笑ってみせた。
「今は、私たちは、あなた達を取り込めませんが」
 がちゃ、と、その艤装の砲塔がイレギュラーズたちを狙う。
「殺害することはできます。そうして、目標を達成させていただきます」
 つまり、殺す、といっているわけだ! イレギュラーズたちは構えると、狂気の旅人へ向けて、一気に踏み込んだ――!

●マリグナント・ダンス
「制圧、開始」
 マリグナントが、その艤装を展開する。装備しているように見えるのは、ガトリングガン風の武器(おそらく高射砲や高角砲の類だろう)。マリグナントがそれをポイントした瞬間、しかし真っ先に動いたのは、珠緒と蛍のペアだ!
「屋内で砲撃などと、正気の沙汰とは……そういえば狂人でした」
 ぼやきつつ、蛍と視線を合わせあう。狙うは、マリグナント。だが、攻撃力の高い影の軍勢をフリーにしておくわけにもいかない。
「こっちは任せて、珠緒さん!」
 影の軍勢を、蛍が受け持つ。蛍がその桜花を花散らせば、影の軍勢たちの砲塔が一斉に蛍を狙った。ずだん、と強烈な音を立てて砲弾が飛ぶ。それは、個人個人によってさまざまな口径や形状をした武器であったが、共通していることは、それが強烈な一撃をもたらすに間違いないということあった。
「――ッ!」
 蛍が防御結界を展開する。そこに次々と着弾する砲弾。衝撃が、蛍の体をしたたかに打ち据える。激痛が、体を痛めつける。
「痛い――けど」
 どこか機械的。おそらく、マリグナントの意思の下に動かされる、傀儡にすぎないはず――!
「だったら、いくらでもやりようは……ある!
 お粗末なお人形さん達で助かるわ!」
 とはいえ、攻撃の威力はお粗末ではないことを、蛍は自覚していた。なんにしても、長々と耐えていれば、確実に命を刈り取られる。
「やはり、速攻ですね……!」
 珠緒が、蛍の心に気付き、頷いた。長期戦はこちらが不利! 珠緒は血の攻勢術式刀を振りぬいた。抜刀。刃から、さらにプラズマカッターを形成し、打ちぬくその姿はまさに抜刀と呼ぶにふさわしい。
 マリグナントが身をひねる――かしゅぅん、と音を立てて、斬撃がマリグナントの艤装の一部を切り裂いた。
「――」
 じろり、とマリグナントが珠緒を見る。解析されているような気を感じ、わずかに珠緒の肌が泡立つ。
「こちらです!」
 迅が声をとともに割って入る。一気に踏み込み、体を沈めてから、体のバネを活かした全力のアッパーカットを見舞う! マリグナントは、ぎりぎりのところで身を逸らしてそれを回避した。ちっ、と顎と拳がかすめるような感覚。それだけで、強烈な衝撃が、マリグナントの体をかけた。
「雪風殿が思い切りぼこぼこに出来るよう、その武装、破壊させていただきます!」
 間髪入れず、迅が体をひねってのフック。狼の咆哮のような拳風音が鳴り、体を伸ばしきっていたマリグナントに迫る。マリグナントは、艤装を折りたたみ、シールドのようにしてそれを受け止めた。ぐわおん! 衝撃音が響く。迅が、痛みにわずかに顔をしかめた。だが、鋼鉄か、得体のしれない金属で形成されたように見える艤装が、強烈にへこんでいるのがわかる。
「再構築」
 ぐちゃ、と音を立てて、艤装がゆがんだ。まるでスライムのような姿を一瞬見せると、すぐに元の機械の姿を取り戻す。
「……構成しているのは、元々は粘性の生物、ですか」
 アッシュが静かにつぶやく。おそらくは、大元の『マリグナント』とは、スライムのような生命体なのかもしれない。今この姿をとっているのは、元の世界のデータに基づき、適切な姿をとっているだけにすぎないのだろう。
「見た目は回復していますが、実際にはダメージは蓄積されているはずです」
 その手を振るう。銀の流星一条、放たれた輝きが、再生されたばかりのガトリング砲を粉砕した。ばぢん、と音を立てて砕けたそれが、粘性の物体に変化し、すぐに再生する――間髪を入れず、アッシュは再びの銀一条。銀の星が軌跡を描き、ガトリング砲を再度粉砕!
「ならば、幾度となく破砕するのみです。
 ベルナルドさん、状況は――?」
「今のところは問題ない!」
 ベルナルドが叫ぶ。
「だが、こっちに影の軍勢が向かっている――!」
「任せて、ひっぱる!」
 蛍が、自分の注意からそれた影の軍勢の注意をひくべく、桜花の結界を展開する。その桜の光にいざなわれた影の軍勢の一人が、12.7センチ砲の方弾を撃ち放つ。爆音が蛍を飲み込む。
「くっ……! いつまでも彼女に任せてはいられないが……!」
「ベルナルド君、大丈夫か!?」
 セレスタンが叫ぶ。
「いっそ、君も合流しても……!」
「大丈夫だ、ここで投げ出したら、其れこそ仲間に申し訳が立たん!」
 後ろ髪引かれる思いを抱きつつ、ベルナルドはセレスタンとともに、ヴェイパーの護衛に専念する。それが、正しい選択であったことは、もうすぐ証明されるはずだった。

「マリグナント――ッ!」
 雪風が、雄たけびを上げた。物静かな彼女が、激高の叫びをあげるのは珍しい。それはそうだろう。目の前には、倒したはずの仇敵がおり、そしてその敵は、かつての友の姿をもてあそんでいたのだから。
「最後の時の艦船ですか」
 マリグナントが、イレギュラーズたちの猛攻にダメージを蓄積させつつも、ゆっくりとそのガトリングを構え――いや、すぐに変化させ、61cm3連装魚雷を生成する。
「それは! 初霜のものだ!」
 雪風が叫ぶ。
「お前が使うなッ! お前が……お前たちが! 私の仲間たちを騙るな!!!」
 雪風の砲塔が火を吹く。強烈な飽和射撃。マリグナントが放った魚雷が、空中で爆散する――刹那。
 爆風の中から、一つの人影が飛び出した。影の軍勢の、一体が、マリグナントを守る指令でもうけたのか、雪風に肉薄する。
 その顔に見覚えがあった。
「神通先輩……!」
 雪風の表情が絶望に歪んだ。最初の、あの時の、戦隊指揮艦。その手が、14cm単装砲が、雪風を狙う――。
 雪風を正気に引っ張り出したのは、強烈な砲撃音。だがそれは、神通の放ったそれではない。
「雪風、気を抜くな!」
 武蔵だ。武蔵の、砲撃だった。
「つらいかもしれないが……今はここにいる友のことを考えてくれ!
 「この」武蔵は、沈まん!!」
 武蔵の砲塔が、影の軍勢を狙う。放たれた砲撃が、神通の影を粉砕する。
「マリグナントを――奴を潰すぞ! 今は、それだけをかんがえろ!」
「……ッ!」
 雪風が強くうなづく。構えた砲塔が、放たれた砲弾が、爆風を貫き、マリグナントへと迫る――着弾! マリグナントの足元に突き刺さったそれが、この瞬間、マリグナントの動きを止めた――。
「随分と、姑息な手を使いますが――」
 迅が、再び一気に踏み込む! 力を込めての、ストレートの一撃! 拳が、マリグナントの腹にめり込んだ。強烈な、衝撃! それが体を駆け巡るマリグナントの姿が、刹那、ぶれる。
「……!」
 マリグナントが、この時、わずかに苦痛の表情を浮かべて、後方へと吹っ飛ばされた。が、すぐに体勢を立て直し、着地する。ざ、と地を滑り、イレギュラーズたちを一瞥。
「……対象の戦闘能力から、現有戦力では突破は困難と判断します」
 ずぁ、と飛びずさる。セーフハウスの窓を砲撃でぶち壊し、駆けだす!
「逃がさない!」
 雪風が叫ぶ。砲塔がマリグナントを狙い、砲弾が宙をえぐるが、しかし回避に徹したマリグナントは、それをたやすくよけて見せる。
「……いずれ、再び」
 言葉を残し、マリグナントが破砕された壁から姿を消す。
「待ちなさい……まって!」
 駆けだそうとした雪風を、武蔵の手が止めた。頭を振る。
「今はその時ではない」
 そう、力強く言った。
「使命を果たせ、友よ」
 そう、言うのへ、雪風は悔し気にうつむいた。

●決着
「親玉は撤退したようですが」
 ウィルドがそういうが、残された影の軍勢たちは、その後を追うような真似はしないようだ。
「オートマチックに、指示された命令だけを行う……まるで泥人形だ」
 小ばかにするように言うウィルドだが、まさに相手は泥人形。それを受けて動揺することは、良くも悪くもないだろう。
「……だけど、さっきより動きに精彩を欠いてる、かも」
 蛍がそういうのへ、珠緒がうなづいた。
「指揮官が撤退したから、ですね……!
 蛍さん、一度下がってください! 傷が……!」
 これまでの攻撃を一人で支え続けた蛍は、既に限界を一度超えている。悔しげに笑うと、蛍は頷いた。
「ごめんなさい、あとは……!」
「任せてください」
 アッシュが言う。
「貴方の痛み、倍にしてかえして差し上げます」
 アッシュがその指を鳴らす。すると、空中に赤の魔法陣が描かれた。次の刹那、その魔方陣より、無数の光が驟雨のように打ち放たれる! 光の雨は、その魔法陣にとらわれた影の軍勢たちを――雪風の仲間の姿をとったそれらを――次々と打ちぬき、影の内へと消滅させていく。
「やはり、親玉と同様、脆いようですね」
 ウィルドが言うのへ、珠緒がうなづいた。
「はい。このまま、一気にせん滅を」
 そう言ったと同時に、ベルナルドが戦線に復帰すべく、走って戻ってくるのが見えた。
「悪い! 少し時間がかかった。まだ間に合うか?」
「ここからが本番です」
 アッシュの言葉に、ベルナルドがうなづく。
「了解だ……ならば、纏めて狂気に沈むがいい」
 ベルナルドの絵筆が空中を塗りつぶす。それが現実になったように、世界を終わらせるかのような紫が、世界を塗りつぶす。ワールドエンドの狂気が、残された影の軍勢たちを、破滅へと塗りつぶす――。
 がちゃがちゃと、狂気に塗りつぶされて、影の軍勢がその陰に溶けていった。ずぶずぶと、沈んでいく。地へ。影へ。やがて、すっかりとあたりが静かになった時に、戦いは終わったのだと、イレギュラーズたちは胸をなでおろしていた。
「ヴェイパーさんは」
 蛍が言う。
「無事なのかな?」
「大丈夫です」
 後方から声がかかる。そこには、セレスタンに伴われたヴェイパー師が、関心と尊敬の目を、こちらに向けていた。
「あのような敵勢をものともしないとは……さすがはローレット・イレギュラーズ。まことに感服いたしました」
「ええ。まさに救国の英雄という所でしょう」
 セレスタンも感心したように頷く。
「それは構いませんが、どこから敵に情報が漏れたかは、調査をお願いしますよ?」
 ウィルドが言う。
「それは、そうなのです。敵に諜報能力があるならば、厄介ですから」
 珠緒がそういうのへ、セレスタンがうなづく。
「ああ、もちろんだとも」
「……しかし、遂行者に狂気に陥った旅人がかかわっている、のですか」
 アッシュが口元に手をやりながら、嘆息する。
「随分と……大事になっているようですね」
「たしか、雪風さんに関係するもののようですが……」
 迅がそういうのへ、二人は雪風へと視線を向ける。そこには、酷くつらそうな表情をした、雪風の姿があった。
「……友よ」
 武蔵が、心配げに、声をかける。だが、二の句は告げなかった。何を伝えればいいのか、まだわからなかった。
「どうして……どうして、こんなことが……?」
 雪風は、絶望したように声を上げた。その言葉にこたえるものは、いなかった。
 百光年からの敵。その因縁。
 それは、遠い異世界の地において、再び雪風に別れを体験させようとしていたのかもしれない……。

成否

成功

MVP

桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、ヴェイパー師は無事に避難を完了しました。
 なおマリグナントは撤退し、行方をくらませているようです。

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