PandoraPartyProject

シナリオ詳細

絢爛なる舞踏会に貴女を求めるなら

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 煌びやかなシャンデリアが明るく会場を照らしている。
 そこかしこで聞こえてくる談笑の幾つかには、「あれが噂の」だの「ローレットの英雄が本当に招待されていたのか」だの聞こえてくるが、嫌味ではあるまい。
 各々のドレスに着飾る人々の中、トール=アシェンプテル(p3p010816)やココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)を始めとするイレギュラーズは首をかしげていた。
 2人の手にはそれぞれ招待状が握られている。
 ローレットへと届けられたシレンツィオリゾートからの舞踏会への招待状だ。
「結局、これってどういうことなんでしょう?」
「……さぁ? 10名様まで何方でもご入場下さいと書かれてましたけど」
 トールが言えば、ココロも首をかしげるものだ。
「あら、トールさん、貴女も来られたのですね」
 そんな声にトールが振り返れば、そこにはブロンドの髪を靡かせる女性が立っている。
 輝かしきオーロラの瞳を湛えた意思の強さを覗かせる瞳、自信に満ちた堂々とした口元に浮かぶ微笑。
 微かな少女性を覗かせる一方で大人の気品を覗かせるその女性を、トールは知っていた。
「シャルールさんも来たんですね」
「ええ、折角の舞踏会の機会ですから、みすみすと見逃す理由もないでしょう?」
「えっと……トールさんのお知合いですか?」
 明らかに既知の反応を見せる2人に、ココロはおずおずと声をかければ。
「はい。彼女はシャルール=サンドリヨン=ペロウ。
 私の前任のシンデレラです……って言ってもよく分かりませんよね」
「これは、ご挨拶が遅れてしまうなんてサンドリヨンの名折れ。
 わたくし、ご紹介に預かりました通り、シャルール=サンドリヨン=ペロウです。
 トールさんとは以前の世界から共に研鑽を積んだ友人であり、わたくしにとってのいつか超えるべき壁です」
 凛とした声色と表情で語る美女はそう言って完璧と呼んで過言ではない流麗な礼を魅せる。
「初めまして、ココロ=Bliss=Solitudeです」
「ええ、ローレットでも高名な治癒師の方と聞き及んでおります。
 わたくしとしても、一度お話をしてみたかったのです、お見知りおきを」
 ココロが自己紹介をすると、シャルールが再び恭しい礼を示した。
「ところでトールさん」
 さらりと髪を流しながら言ったシャルールは心なしか胸を張るようにして背を伸ばした。
「至高の舞台、と呼ぶにはまだ些か早いかもしれません。
 ですが、これもいい機会でしょう。せっかくですから、わたくしと踊っていただけませんこと?」
「……それは私に勝負を挑むってことでいいですか?」
「えぇ、こちらに渡ってきてから時が経ちましてよ。
 もうそろそろ、お互い今の実力を示すのもよろしいのではなくって?」
 そう語るシャルールの表情は凛とした物である一方で、どこか挑戦者という雰囲気を帯びていた。
「――いいですよ。私も望むところです」
 トールはやや息を呑み、こくりと頷いて応じてみせた。
 受けて立つべき側として同郷からの友人の挑戦を無碍にすることはできなかった。
「では、またダンスの時間に」
 そういうと、シャルールは再び礼を尽くしてから少しだけ席を外すように去っていく。
「……すいません、巻き込んでしまったみたいで」
 トールが言えば、ココロは首をかしげるばかりだ。
「私達の世界では、年に一度、国家規模で長期開催される美しさと気品を競う女性の祭典があるんです。
 彼女は私がその座を貰うことになるまで、歴代最長記録保持者でした」
「それがシンデレラ、ですか」
 思わずココロが問いかければ、トールはこくりと頷いた。
「もちろん、その中にはダンスも含まれているので……」
「それでシャルールさんは挑んできたんですね」
「そうだと思います。もしかしたら、普通に友人として踊りたいだけかもしれないんですが」
 そういうトールの表情は両者の関係に悪感情が無いことを物語る。


 シレンツィオリゾート――世界で最も経済の動くリゾートスポットと名高き静寂の楽園である。
 かつてかの『冠位嫉妬』や滅海竜との大戦が繰り広げられた跡地であり、豊穣卿カムイグラとの貿易拠点でもある一大リゾートだ。
 豊穣郷、海洋の他、彼の大戦で海洋の援軍となり一枚噛んだ鉄帝も含めて発生した貿易拠点はやがて軍事基地から観光拠点へと用途が代わっていった。
 トールがこの世界に足を踏み入れ動き出した頃には最終局面に近かったものの、ローレットが『海の悪魔』ダガンを鎮めてからも新しい。
 ヒトモノカネの動きの活発なこのリゾート地は休むことなど知るまい。
 そんなある日のことだ、ローレットにシレンツィオリゾートのある企業から招待状が届いたのは。
 なんでも、鉄帝の終戦を喜ぶことを名分としたパーティらしい。
 ある程度の戦後処理が終息に向かった今だからこそ、その立役者であるところのローレットにも参加してほしいという話の用だ。
 そう即ち、戦いに疲れた君達にほんの少しばかりの休息を――そんな話なのだという。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 リクエスト有難うございました。
 当シナリオは戦闘が起こりません。
 ちょっと描写量の多めのイベントシナリオのようになります。

●オーダー
 パーティを愉しむ

●フィールドデータ
 シレンツィオリゾートに用意された豪奢なホテルを貸し切ったパーティ会場です。
 立食パーティ用の食品やドリンク、テーブルなどの他、ダンスホールが用意された広大なパーティホールです。

●リプレイ開始後の流れ

【1】立食タイム
 様々なそれっぽい軽食のお料理やお酒、ソフトドリンクなどを愉しむお時間です。
 色々と会話なんかも楽しみつつ、本番を待ちましょう。

【2】ダンスパーティ
 その後、いよいよ舞踏会が始まります。
 PCの皆さんは各々で参加者同士または関係者と一緒に踊りましょう。
 踊る機会に制限はありません。
 ペアの方がいるのであれば最初から最後まで一緒でも構いませんし、別の参加者と変わっても構いません。
 なお、トールさんは確定でシャルールさんとは踊ることになる他、貴方と踊ろうとしている男性がいるようです。

●NPCデータ
・シャルール=サンドリヨン=ペロウ
 トールさんの関係者。
 トールさんとは同じ世界、同じ国、同じ時代を生きた同郷の女性。
 かつての世界ではトールさんに敗れるまで『歴代最美』と呼ばれた人物。
 トールさんの事は『至上のシンデレラ』にして最高のライバルで、かけがえのない友人と思っています。

 現在はイレギュラーズとして精力的に活動する傍ら、混沌における美の追及を楽しんでいます。
 もしかしたら今の『挑戦者』という立場さえも楽しんでいるのかもしれません。

 努力に裏付けられた自分の才能と美貌に絶対の自信を持つ前向きな性格。
 自分磨きに余念がないストイックさも併せ持ち、弱音や努力する姿は人前では見せません。

 女性しか存在しない世界で生きてきた為、男性に対して致命的なまでに免疫がない。
 多種多様な種族が混在する混沌暮らしで多少慣れてきたが、筋肉質や大柄の男性はまだ苦手。
 好みのタイプは華奢で美形で王子様のような雰囲気を持つ人。

・銀髪の青年
 謎の青年です。
 洗練された気品と余裕をまとう王子様系紳士といった雰囲気。
 シャルールさんと踊った後のトールさんの下に一曲躍りませんか? と声をかけてきます。

●ドレスコード
 また、当シナリオでは一応のドレスコードがあります。
 もしも描写上で着ておきたいドレスなどがあればプレイングに記載してください。
 イラストがある場合はタイトルを記載してください。
 何もなければイラストを見せていただいたりして描写したりする可能性があります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

  • 絢爛なる舞踏会に貴女を求めるなら完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年05月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
※参加確定済み※
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ
※参加確定済み※
カトルカール(p3p010944)
苦い

リプレイ


「いや、なんでだよ!!」
 小声で、けれど突っ込まずにいられなかったのは『苦い』カトルカール(p3p010944)だ。
 淡い色のドレスは儚げな美少年を華奢で小柄な美少女に作り変えている。
 ドレスコードがあると言われ、人の形をとった獣種の少年は、やっぱり納得できなかった。
 でも、仕方ないのである。ドレスコードがあるなら持っていけと、上司が用意してくれていたのはこれだけだった。
(くそっ、なんでこんなことに……でも、シレンツィオ・リゾートで支店長をするんだったらこういう煌びやかな場に出るのも大事なんだよなぁ……)
 唸っていた少年は、少しだけ溜息を吐いて。
「よし、切り替えよう。ここは宣伝のチャンス、コネクションを作るチャンスだ。そうだ」
 半ば無理矢理に納得して、カトルカールは参加者の中に入っていく。
「カトルカールです。商人ギルド・サヨナキドリで支店長をしている……しています。よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げてからコネクションづくりの為に挨拶回りを始めていた。
「シレンツィオリゾートでは、アジアンカフェ『漣』を経営して……います」
 自分の情報を出していくと、それなら来たことのある人や、その人の知り合い、あるいはまったく知らなかったという人まで、様々な人との交流を重ねていく。
「せっかくなら、シレンツィオリゾートのおすすめな場所の噂話とか聞きたいわ」
「シレンツィオリゾートは、とってもとってもごはんが『おいしい』ところなのです。
 はなやかで、にぎやかで……かなしいこともあったけど、たのしいところ」
 純白のフォーマルスーツで参加していた『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)に声をかけられた『あたたかな声』ニル(p3p009185)は嬉しそうに笑いながら答えていた。
「レイリー様のおようふく、とってもとっても素敵なのです!」
 に声をかければ、彼女は「ありがとう」とお礼を言ってから、同じように笑って。
「こういうパーティは大好きなのよ。皆着飾って気持ちよく楽しんで、それで堅苦しくなければ最高!」
 給仕から受け取ったであろうワイングラスは、ほんの少しばかり量が減っているのも分かる。
「ニルもはみなさまと食べるごはんがだいすきです!」
 心の底から楽しそうにニルは言う。
「せっかくですから、色々食べて、飲んでみましょう」
「それがいいわ。始まるまでゆっくり待ちましょうか」
 頷きあい、2人はテーブルの方へと近づいていき、見知った顔を見つけた。
(そういえば今までに参加したパーティはどれも賑やかに騒ぐ感じでしたので、こういう優雅なパーティって実は初めてなのですよ)
 緊張半分、好奇心半分でどきどきしつつ目を輝かせているのは『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)である。
 軽食用のテーブルを見渡して、目を輝かせる。
 青色のドレスは『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)と一緒に選んだもの。
 裾が少し長く、ふわりとしたルシア用の特注品。
 背中の翼が映えるように、のびのびとしている翼ごとお洒落にデザインされている。
「立って食べるにはこのテーブル高いのですよ……」
 ルシアは目を輝かせながらも、少し悩んでいた。
(だからって飛んだら飛んだで服や翼が汚れちゃいそうですし……)
 美味しそうだが、自力で食べるには悩ましい――とそんなことを考えていると。
「ルシア殿、何か食べたいものでも? 取ってあげるわ」
「わぁ! レイリーさん、ありがとうでして!」
 声をかけたレイリーにルシアは食べたいものを指さしていく。
「それなら、これもいっしょだとおいしいです」
 ニルは前に聞いたことのある組み合わせを教えてみれば。


「そろそろ始まりそうでして! 誰と一緒に踊ろうかなー」
 アナウンスが流れたのを聞いたルチアはぴょんと跳ねてから歩き出――そうとして、バランスを崩していた。
「わっ!? とと……危うく自分のドレスで転びそうになったのです……」
 ふわりとした裾を踏んで転びかけたところで、ほっと息を吐けば。
「大丈夫ですか?」
 そこに声をかけたのはニルだった。
 きちんとしたスーツ姿で、男性らしさをみせるニルが差し出した手に朗らかにルシアは笑う。
「ニルと、踊ってもらえませんか?」
「お誘いありがとうでして! ルシアはこういう場所でのダンスは初めてですので、エスコート、お願いしたいのですよ!」
「ニルもダンスってあんまりやったことないのですけど見様見真似でがんばります。
 ふんわり踊れば、きっとこころもぽかぽかですね」
「その通りでして! っとと、本当に始まっちゃうのでして!」
 頷いて手を取った所で、姿を見せた演奏者たちが楽器を構えるのを見て、ルシアは走り出す。
 ニルはそれに続きながら、ぽかぽかと胸の奥が暖かくなる気がした。
 見様見真似で踊り始めた2人を、周りの者達が微笑ましそうに笑っている。
(穏やかでたのしい時間。
 こころがぽかぽかするような……春みたいな、きもち
 鉄帝のいろんなことが終わって……こんな時間がずうっと続きますように)
 ニルは胸の内に思う。
 いつか、また、を。
 こうやって過ごせるようにと願いながら、少しずつ踊っていく。
「舞踏会は、酒を片手にのんびり見物を決め込もうと思っていたんだがなぁ……やれやれ、この手の格好はどうにも息が詰まるんだがねぇ」
 昆布巻きにされた気分だ、と着慣れぬスーツ姿に『月に寄り添う』十夜 縁(p3p000099)は苦笑する。
 ウィーディー・シードラゴンを模したような袖口やヒレのような燕尾のデザインは紛れもなく縁のためにある。
 それもまた、縁が苦笑する理由ではあるが―― 本人の感覚はともかく、彼の着こなしは抜群に似合っている。
 二の腕に浮かぶ呪いの余波を隠すと言う点においては普段着よりも都合もいいだろうか。
「こんな素敵な機会、滅多とあらへんし、縁さんの普段と違うお姿見れるんやもん。うちは願ったり叶ったりやわ」
 そう笑うのは『蒼き夜の隣』蜻蛉(p3p002599)である。
 仕立てて貰ったドレスは海の色。蝶の模様はさりげなく。
「……最高に綺麗だぜ、嬢ちゃん。隣にいるのが、こんなおっさんなのが――」
 2人の間ではいつものやり取りで。
「縁さんも、よお似合てます。近くでよお見せてって……ほらまた、うちのお耳にたこ増やすつもり?」
「――なんてな。流石に、お前さんに恥をかかせるような真似はしねぇさ」
「あらまぁ……ええ男になってしもうて。ほんなら、よろしゅうお願いします」
 肩を竦めて続けた縁に少しばかり驚いて、蜻蛉は自分の手を合わせた。
 落ち着いた、少しばかりひんやりとしてもいる蜻蛉の手に、今度は自分の手の熱を自覚させられた縁の方が驚く番だった。
「ココロさん、私と踊っていただけませんか?」
 赤い薔薇が飾られた白いドレスに身を包み、『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)はココロの元を訪れた。
 胸に手を当てて軽く頭を下げ淑女然とした立ち振る舞いはあちらでの経験で培った洗練された動き。
 淑女然としていながらも、同時にどこか紳士的にさえ感じようか。
「はい、喜んで」
 伏し目がちに手を取ったココロは、そこでトールと見つめ合う。
 オーロラのように綺麗な瞳の中にココロが映っていた。
 黒を基調としたドレスに青い薔薇があしらわれたココロのドレスは互いのデザインを補完し合うもの。
 差し出された右腕に導かれるように、ココロはトールと共にダンスフロアへと歩き出す。
(さて、舞踏会か。踊りとか得意ってわけじゃないんだよなぁ……)
 一曲目が始まろうという時、カトルカールはぼんやりとそんなことを考えていた。
(壁際で適当に眺めてるか……)
 そそっと移動しようとしていたその時だった。
 名前を呼ばれた気がして振り返れば、そこにはレイリーが立っていた。
「私と一緒に踊ってもらえないかしら? カトルカール殿」
「よろこんで……って言いたいが、嗜み程度だから物足りなく感じても笑わないでくれよな」
「貴方の好きに踊って。私も合わせて一緒に楽しむから」
 手を差し出したカトルカールに合わせ、楽しそうに微笑んだレイリーが手を取った。
 スーツ姿もあって男装の麗人と呼ぶに相違ないレイリーに対して、上司が用意したのがドレスだったせいで小柄な美少女にしか見えないカトルカール。
 偶然ながらも執事とご令嬢というふうに見えなくもない。
 ゆっくりを踊り始めると、最初こそ緊張していたカトルカールも慣れてきて本来の実力を示しつつある。
「どう、楽しんでる? カトルカール殿」
「あぁ、大丈夫だ。……そっちも僕と踊って楽しめてるか?」
「えぇ、大丈夫」
「……ならいいんだ」
 微笑みながらの言葉に頷いて、カトルカールはダンスを続けた。
 所在なく腰に回した手は馬鹿みたいに強張っている。
 ふと縁は視線を感じて目を下げて――くすくすと笑う彼女と目が合った。
(こんな風に一緒に踊ってくれる日が来るやなんて思ってもみぃひんかったけど、生きとるとええこともあります)
 投げかけられたのは少し照れているような、拗ねているようなそんな顔。
 言いたいことは分かっても、蜻蛉は涼しい顔で微笑むばかり。
「大丈夫、落ち着いて。そうそう、その調子……とっても素敵やよ」
 緊張する縁へと、蜻蛉は曲に合わせてステップを刻む。
 どこかたどたどしく、けれどこちらの足を踏まないように心掛けていることが分かる縁の一歩は少しずつ上手くなっていく。
「繋いだ手の平から感じた通りにリズムに乗って、体を預けてください。私と曲に集中して……」
「すごい……上手ですね」
 ダンスが始まって間もなく、ココロは驚きを隠せていなかった。
(……なんでしょう……女性同士のはずなのに胸の鼓動が聞かれそうなくらい強くなります)
「今この瞬間だけは、ココロさんが私にとってのシンデレラですね……ふふっ」
 不意に、トールはほんの少しだけココロへと顔を近づける。
 美しいドレス衣装のココロにドキドキしながらも、彼女だけに聞こえる声で囁いた。
「0時を過ぎても、あなたのシンデレラのままでいましょうか?」
 揶揄うようにココロが耳元で返した囁きに、鼓動が高鳴ったのはどちらだったか。
 いつの頃からか2人の間に会話は途切れていた。
 心地よい沈黙に穏やかな曲調が合わさって、ふと縁は目の前に翻る海を見た。
 あぁ、それなら――流れに乗って泳ぐのは、俺の得意技だ。
 蜻蛉は不思議と落ち着いていた。
 何も言葉は交わしてはないけれど――もう、とっくに彼に全てを預けきって、ふわふわと海を揺蕩っているような――穏やかな気持ちでいた。
 だから、本の少しだけ、ほんの少しだけ気が抜けていて――
「――っと、危ねぇ」
 かくんと落ちた身体は海に落ちることはなく、けれど蜻蛉の鼓動は一際強く波打った。
「わ、悪かった。やっぱり陸で泳ぐのは難しいな」
「……ご、ごめんなさい」
 抱き寄せられた身体は分かっていても大きくて、耳元で囁かれた言葉はいつもよりも気恥ずかしくて、気付けばそんな声が出た。
「ほんに……人の気ぃも知らんと、この人は……」
 見上げた顔が不思議そうに瞬きして、蜻蛉は思わず小さな息を漏らす。
「陸でも上手に泳いでるやないの。ねぇ旦那、今度はうちに海の泳ぎ方……教えてくれる?」
 また彼の目が瞬いて、蜻蛉は気持ちを落ち着かせるように微笑むのだ。
「ルシア殿、そのドレス似合ってますね。可愛いですよ」
 次の相手を探していたルシアは、そんな声を受けて振り返る。
「えへへっ、ありがとうですよ! レイリーさんもかっこいいのでしてー!」
 お互いの衣装について改めて感想を言ったところで、レイリーが胸元に手を当て、もう片方の手をルシアに差し出した。
「私と踊ってもらえませんか? お嬢さん」
 曲調が少しばかり陽気に変わりつつある。
「お互い笑っちゃうような踊りで回りまで笑顔にさせましょ」
 それを感じて、ルシアはレイリーの手を取った。
「今はいつもの様な素早く華麗に飛び回るようにー、というのは難しいのです。
 でも、レイリーさんとならば! 楽しそうでして!」
 華やぐように笑ったルシアは、レイリーに合わせて踊り始める。
「転びそうになった時はそっと支えてほしいのでして!」
 いっそ周囲が驚くような動きはもちろん、ふわりと宙を舞ってみせる。
 それは踊るよりも舞っているようでさえあった。
 ダンスに参加していない者達から拍手が鳴るような、愉しそうなダンスが繰り広げられた。
「ルシアちゃん、踊ろう!」
 ドレスを着替えたココロはルシアへと声をかけていた。
 海を思わせる色と真珠をあしらったマーメイドドレスはココロをそのまま表しているようにも思えるか。
 少しばかり驚いた様子を見せたルシアは、けれど照れたようにはにかんで。
「えっと、実は……ルシアがここに来たのは、ココロちゃんと一緒に踊りたかったから、ですよ。
 だからもちろんでして!」
 答えるのとほとんど同時、ルシアは半歩前に出た。
 ココロに抱きしめられるように腰を抱かれるままに、2人は踊り始める。
 小柄なココロよりももっと小さな少女は羽のように軽く感じる。
 曲調は少し陽気なものへと移り変わっていた。
 明るく、楽しく、振り回し振り回されて、2人のダンスは進んでいく。
 ほんの少し勢いが強くても、それすらも2人で踊れば楽しかった。
「バランスは背中の羽でとってね。
 あなたと繋ぐものが笑顔であるのがうれしいの」
「もちろんでして! これからも、一緒に遊ぶのでして!」
 2人は満面の笑みと共に曲が変わるまで踊っていた。


 陽気に、華やかにパーティは一番の盛り上がりに入りつつあった。
「さぁ、始めましょうか。トールさん」
 胸を張り、シャルールが声をかけてくる。
「シャルールさん、今夜はお誘い頂きありがとうございます。
 本来なら私も勝負ドレス――『シンデレラ・ステージ』決勝の舞台でお見せしたオーロラのドレスでお応えしたかったのですが……
 残念ながら混沌に召喚された際に失ってしまいました……あの頃に魅せた華やかさと美しさには欠けるかもしれませんが」
「えぇ、存じておりますとも、一緒にこの地を踏んだのですから。
 わたくしを打ち破ったシンデレラはドレスの違いで褪せるとは思っておりません」
「シャルールさんはそういう人でしたね……ならば、全力でお相手いたします」
 凛とした面持ちの嘗てのシンデレラと手を取って、トールはダンスに挑む。
 クライマックスにふさわしい、そんな踊りになれば――その曲が終わる頃には、拍手が鳴りやまぬ。
 リードし、リードされ、けれど2人は競い合いながら踊り。
「次は混沌を舞台にした『シンデレラ・ステージ』でお会いしましょう。
 その時は私も『至高のシンデレラ』として、シャルールさんの相手として相応しい姿で。そう再戦を約束します」
「……えぇ、わたくしもその日まで更に研鑽を続けましょう」
 握手を交わした後、シャルールは毅然とした態度のまま踵を返して会場の中に消えていく。
 陽気な曲から、小休止でもするかのように、少しばかり落ち着いた曲へと移り変わる。
 ココロの相手はレイリーに代わっていた。
「私とも一緒に踊ってもらえませんか?」
 出会った頃を思い出して、立派な大人の女性に成長したココロを見て、レイリーはそう声をかけた。
 パーティの終わりに向けて少しばかりシンプルなドレスへと着替えていたココロは、それを快く受け止めた。
(2年と2か月。あるいはそれ以上かな。
 ずっとわたしをまもってくださったレイリーさん……しっかりした体つき。頼もしいです)
 ローレットという以上に、仲間、戦友とでも言える相手。
 ゆったりとした曲に合わせて、ココロはレイリーに合わせつつも、時折リードするように。
 それがレイリーに彼女の成長をより実感させていた。
 出会った頃は、もう少し背も低かったような気がするのは気のせいだろうか?
 大人のレディになったのだと、そうアピールするかのような動きに、レイリーはリラックスして微笑む。
「ありがとう、貴方と踊れて楽しいわ」
「これからも、何度でも踊ってくださいね」
「えぇ、もちろん」
 2人は曲が終わるまでの一時を互いの時間を共有していることを愉しんでいく。
 しっとりとした曲調は次がラストであることをどことなく示しているようだった。
「お嬢さん、良ければ一曲、踊っていただけませんか?」
 トールがそう声をかけられたのはそんな時だった。
 燕尾服に身を包んだ銀髪の青年はヘイエルダールと名乗った。
 優しい顔立ちをした青年の申し出を受け止めて、少しばかり時間が経っている。
「ヘイエルダールさん、ダンスとてもお上手ですね……!
 この独特のステップ、私が故郷で習った形式とよく似ていて少し懐かしいです」
「……そうですね。貴方もとてもお上手ですよ」
「どこかでお会いしたって事ありますか?
 初対面のはずなのに他人とは思えなくて……不思議ですね」
「もちろん、初対面です。不思議、でしょうか?」
 一切の澱みなく、2人のダンスは完璧だった。
「……よければ家名を教えていただけませんか?」
 ふとスーツの紋様に既視感を覚えてそう問えば、それまでの柔和な面持ちが少しばかり変わったように見えた。
「……もうすぐ、迎えに行きますよ、シンデレラ――魔法が解ける時は近づいているのですから」
「迎えに……?」
 目を瞠ったトールに、ヘイエルダールが微笑する。
 気づけば、曲が終わりそうだった――
「――僕はヘイエルダール=アシェンプテル、お見知りおきを。トール」
 曲が終わるのと同時、礼をした青年は自分と同じ姓を名乗り――気づけば雑踏の中へと消えていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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