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シナリオ詳細

脱獄魔法少女とクイーン。或いは、マジカル☆スターを捕縛せよ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●魔法少女逃走中
 鉄帝。
 とある、雪深い山奥を2人の女性が歩いている。
 1人は、フリルが満載されたスカートの下に、これでもかというほどパニエを仕込んだ、なんとも少女趣味な衣装を纏った女性。
 もう1人は、血と埃に塗れた白衣を纏う痩身の女性だ。
「ねぇ、スター? 本当にこの道で合っているの? この先には街はおろか、小さな村さえ無かったはずよ?」
 白衣の女性……名をクイーンという彼女は、少女然とした女性へ問うた。
「あってるよ☆ このマジカル☆ステッキが導いてくれるんだもの! 間違いないよ☆ それと、わたしはスターじゃなくって、魔法少女、マジカル☆スターね?」
 スター……もとい、魔法少女、マジカル☆スターと名乗った女性は、錆び付いたバールをクイーンの鼻先へ突き付けると、星空のようにキラキラした目でにこりと笑う。
 クイーンは顔を強張らせると、それっきり口を閉ざす。
 マジカル☆スターが危険な人物であることを知っているから。
 そして、そんな彼女に逆らえば自分が命を失うことを知っているから。

 マジカル☆スター。
 魔法少女と名乗って入るが、年齢は20代の半ばほどである。
 衣服こそ少女趣味なものだが、170センチを超える身長にはあまりにも似合わない。
 そして何より、彼女は心を病んでいる。
 一般人を「悪い魔物」と呼び、何人も殺めた前科がある。その結果として、彼女はとある地下刑務所に収容されていた。
 そこで、彼女のメンタルケアを担当していたのがクイーンだ。
 どういうわけか、マジカル☆スターはクイーンに懐いていた。囚人と精神科医という関係ではあるものの、2人はまるで親しい友人であるかのように幾度も言葉を交わした。
 もっとも、そんな歪な平穏は、ある日を境に終わりを迎える。
 つい先月、グハーンで起きた大規模脱獄事件がそれだ。
 収監されていた囚人の一部が牢を抜け、強引に地上へ逃げ出したのだ。
 その逃げ出した囚人の1人が、マジカル☆スターである。
 彼女は脱獄の際、親しい友人であるクイーンを強引に連れ出した。マジカル☆スターはたしかにクイーンを友人であると思っているが、いつ“そうでなくなるか”は分からない。
 マジカル☆スターが、クイーンのことを「悪い魔物」だと判断すれば、これまでの犠牲者たちのように、きっとすぐにでも殺される。
 それが分かっているからこそ、クイーンは大人しくマジカル☆スターに従っているのだ。
「まぁ、いいわ……彼女のカウンセリングはまだ途中だもの。こうして檻を挟まずに会話できるのなら都合がいいとさえいえる」
 マジカル☆スターは純粋だ。
 これまで多くの市民を殺めた彼女だが、しっかりと会話を重ねればきっと自分の過ちに気が付いてくれるし、悔い改め、更生してくれる。
 少なくとも、クイーンはそう信じている。
「可哀そうな人……私が救ってあげなくちゃ」
 自分が救う側の人間であることを、自分が正しい善人であることを、クイーンは信じて疑わない。

●マジカル☆スター捕縛指令
「魔法少女、マジカル☆スター。本名、マジノ・ハーヴェイ。脱獄犯っす」
 イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)がテーブルに置いたのは1枚の写真だ。
 そこには、顔の横で両手ピースのポーズを決めた、美人といって差し支えない容姿の女性が写っている。決して“少女”という呼び方がふさわしい年齢ではないことは一目瞭然。
「まぁ、そこらへんの鈍器を使ってこれまで10人以上の一般人を殺害しているっす。【必殺】技のマジカル☆スター☆ブラストを始め、【ブレイク】付きの【連】続攻撃、マジカル☆シューティング☆スターなど、接近戦を得意とするっす」
 実際には、生まれ持ったフィジカルを活かした力任せの攻撃だ。
 だが、既に10人以上を殺めているのは本当である。
「悪意なく人を殺めたっていうんだから、まぁ危険な相手っす。それで、脱獄後の彼女の足取りがつかめまして……」
 そう言ってイフタフは、地図の隅にある山岳地帯を指さした。
 1年を通して雪深い山だ。
 マジカル☆スターは、脱獄後、山の頂上を目指して進行中……或いは、逃走中だという。
「山の頂上付近には、幾つもの洞窟があるっす。今もその辺りに隠れているんじゃないっすかね」
 と、イフタフは予想している。
 もっとも、既に寒さにやられて凍死している可能性が無いわけでも無いが。
「それから、こっちは未確定情報なんっすけど、どうやらマジカル☆スターには、1人の医者が同行しているみたいなんっすよ」
 医者の名はクイーン。
 マジカル☆スターが収監されていた刑務所に勤務していた精神科医だ。
「クイーンさんの方は戦う力を持たないみたいっすから、警戒は必要なさそうですが……彼女は保護して連れ帰ってほしいっす」

GMコメント

●ミッション
魔法少女、マジカル☆スターの捕縛

●ターゲット
・魔法少女、マジカル☆スター(本名、マジノ・ハーヴェイ)
年齢26歳。魔法少女然とした衣服を纏う長身の女性。
脱獄犯。
自分のことを「正義の魔法少女」だと認識しており、これまで「悪い魔物」と判断した一般人を10名以上殺害している。
生来、身体能力に優れているようだ。
現在は、錆び付いたバールを武器に携え、雪山を逃走中。

マジカル☆スター☆ブラスト:物至単に大ダメージ、必殺
 マジカル☆ステッキより放つ星の煌めき(バールによる殴打)

マジカル☆シューティング☆スター:物近単に中ダメージ、ブレイク、連
 マジカル☆ステッキより放つ流星の魔砲(バールによる連打)


・クイーン
マジカル☆スターに連れ去られた精神科医。
眼鏡をかけた細身の女性で、特別な戦闘能力は持たない。
彼女はマジカル☆スターを無意識に“下”に見ているようだ。
自分は慈悲を与える側の人間で、罪人たちは可哀そうな人間だと思っている節がある。

●フィールド
鉄帝。
とある雪深い山の山頂付近。
足元には雪が積もっている。
また、山頂付近には大小様々な洞窟が点在しており、マジカル☆スターはそのどこかに身を隠しているものと思われる。
雪が降り続けており、足跡や臭いによる追跡は難しいだろう。
マジカル☆スターとクイーンは共に行動している。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 脱獄魔法少女とクイーン。或いは、マジカル☆スターを捕縛せよ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
エミリー ヴァージニア(p3p010622)
熱き血潮
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ

リプレイ

●とある雪山
 鉄帝。
 とある雪深い山奥。
 吹雪の中を進む人影が8つ。
 とてもではないが雪中行軍に向いた天候ではない。こんな雪深い山奥、それも吹雪の日に出歩くなど命知らずの誹りを受けても仕方ない。
 けれど、8人には雪山を行く理由があった。
「己で撒いた種、だ。きちんと刈り取らねば、な。それにクイーンは、“友達”、だ」
 吹雪の中に目を凝らし『愛された娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)がそう呟いた。
 今回のターゲットは2人。
 脱獄犯・マジカル☆スターと、クイーンに誘拐された精神科医・クイーン。
 エクスマリアと『夜闇を奔る白』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)、『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)の3人はマジカル☆スターの脱獄に1枚噛んでいる。
「クイーンたその脚が気に入ったので目をつけていたのですが、まさか保護することになるとは残念ですねー」
「……まぁ、仕事だからね。それより、方向はこっちで合っているのかい?」
 ルブラットが問うと、ピリムはぴたりと足を止めた。
「あっち……上の方向ですねー」
「そう言う話だったな。対象は移動していないということか」
 スターとクイーンは、山頂付近の洞窟に身を潜めているという。これほどの吹雪なのだから、当然と言えば当然だ。マジカル☆スターの方に、自分の身を守る、という考えがあることに安心すべきか、それとも逃走先に雪山を選んだ安直さを呪うべきか。
「洞窟を見逃さないようにしないとですね」
『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が、山の斜面へ目を向けた。そこには洞窟の入り口が見える。
ともすると、危うく見逃すところだった。
「この吹雪の中で、か? っていうか、寒くないのかよ?」
『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)が顔を顰めた。
「寒さには耐性がありま……寒いのなら着込めばいいのに」
「動きにくい」
 腕や腹を出したまま、寒いと呟く昴を一瞥。オリーブは、信じられないものを見た、というような顔で足の先から、頭の上へと視線を滑らせた。

 山頂に近づくにつれ、洞窟の数は増えていく。
 吹雪のせいで見づらいが、そこかしこに都合10を超える数の洞窟があった。
「スターさんは独特な世界観をお持ちの方みたいですね。下手に刺激してクイーンさんに危害を加えられたら厄介ですし相手に合わせる方向でいきましょう!」
 声を潜めて『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は言う。元より雪は、音を吸収する。大きな声を出してしまえば、マジカル☆スターたちの立てる僅かな物音さえも聞き逃さないつもりだろう。
「出て来い! エセ魔法少女。貴様に"本物"を見せてやる!」
「おーい脱獄魔法少女。略して脱法女、マジスター?」
 昴、そしてロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)がマジカル☆スターを呼んでいる。耳を澄ませていたトールが、驚いたように目を見開いた。
「あの……」
「雪山というのも良いロケーションだな。静寂に包まれし白銀の世界に佇む孤独な吸血鬼、なんて絵になると思わないか」
 『熱き血潮』エミリー ヴァージニア(p3p010622)がポーズを決める。
 銀の髪が風になびいて、まるで雪の妖精のようだ。
 と、それはともかく。
「話、聞いてましたか?」
「まぁ、これで出て来てくれるのなら御の字、だな。動いてくれれば、距離次第では匂いや音を感じ取れるかも、しれない」
 苦い顔をして、トールがその場にしゃがみ込む。
 そんなトールの肩に手を置き、エクスマリアはため息を零した。
 
●星の煌めき、マジカル☆スター
「人のサイズの動物は見当たらないな。それと、上の方にも洞窟はあるが、とてもじゃないが装備も無しに上ってはいけないだろうな」
 足音も立てず、エミリーが地上に降り立った。
 洞窟のある頂上付近の斜面から、数十メートルほど離れた場所だ。
「んー。では、候補は地面付近の洞窟ですかねー。10はありますけどー」
「近づいて1つずつ調べる他ないんじゃないか。私は右から、そなたは左から……どうか?」
「いーと思いますー。じゃ、行きましょー」

 雪玉。
 その名の通り、雪を握り固めて作った球体で、主に子供たちが互いにぶつけ合って遊ぶのに使う。俗に言うところの“雪合戦”である。
 当然、所詮は雪であるため、握り固めたとしても人にぶつかれば砕け散る。
「い“っ……たぁ!? な、なんです?」
 ただし、例外があった。
 洞窟を覗き込んだトールの顔面にぶつかった雪玉は硬い。雪玉の当たったトールの鼻から、たらりと赤い鼻血が零れて足元に赤い染みを作った。
「……い、石? 雪玉の中に石を入れてます?」
 鼻を押さえて、トールは転がるようにその場を退避。
 一瞬の出来事であったため、しっかり視認できなかったが洞窟内にいたのはきっとマジカル☆スターで間違いない。
「マジカル☆スター! あなたは完全に包囲されています! 投降しなさい!」
 トールを後ろへ下がらせながら、前へ出たのはオリーブと昴だ。
 さらに、その後ろにロウランが続く。
 
 地面を這うようにして、魔法少女が疾駆した。
 豹のように、しなやかな筋肉が躍動する。
 暗がりに紛れるように駆け抜けて、あっという間にオリーブの眼前へと辿り着く。
「マジカル☆! スター☆! ブラスト!!!」
 魔法の輝き。
 否、オリーブの剣とバールが衝突した際に散った火花である。
「っ! どうせ従わないと思っていましたよ」
 バールの殴打は受け流された。
 だが、マジカル☆スターは止まらない。長い腕を振り回し、遠心力を乗せた殴打を叩き込む。狙うのはオリーブの手首だ。
 殴打を受けて、手首の骨が軋んだ。
「マジカル☆スターの魔法は、炎よりも熱いのよっ☆」
 よろけたオリーブの膝に蹴りを叩き込み、マジカル☆スターは壁を蹴って跳躍。
 オリーブの顎へ、バールの先端を引っ掻けた。
 けれど、しかし……。
「そうですか。ですが、私の力は冷たいですよ?」
 極寒の冷気が、マジカル☆スターの胴を撃ち抜く。
 冷気の魔術を行使したのはロウランだ。
 胴を押さえて、スターは驚愕に目を見開いた。
「あなたも魔法少女なの? ははぁ? さては、悪の魔法少女ね☆」
 追撃を避けて、マジカル☆スターは後方へ跳んだ。
 洞窟の奥の暗がりだ。
 途端にマジカル☆スターの姿が視認できなくなる。そうなっては、ロウランの魔術も迂闊に撃てない。
 追撃が無いと気付いたのか、マジカル☆スターは口角を上げた。
「はぁん? さては狙いはクイーンちゃんだね? クイーンちゃんを狙っているから、撃てないんでしょ?」
 マジカル☆スターには妄想癖がある。
 だが、決して愚か者では無い。
「名乗りなよ☆ このマジカル☆スターが相手になってあげる☆」
 四肢を地面に付けた獣のような姿勢で、マジカル☆スターはそう問うた。
「はぁー? どうしますー?」
「名乗るしかないんじゃないか?」
 顔を見合わせ、ピリムとエミリーは言葉を交わす。
 当然だが、ピリムもエミリーも、この場の誰も魔法少女などではない。
 名乗れるかどうか、と言われれば不可能である。
 気まずい沈黙。
 けれど、長くは続かない。
 こほん、と咳払いをして名乗りを上げたのはロウランだった。
「先ほどは失礼を。魔法少女マジカルスター? 我々こそ魔法少女を導く組織」
「わ、私は正義の魔法少女リリカル☆オーロラ! 正義を見失ったあなたに引導を渡しに来た新たな魔法少女よ!!」
 ロウランに続いたのはトールだ。
 鼻血はまだ止まっていない。だが、決めポーズをとるのに何の支障もない。正義の御旗であるかのように、掲げた剣に光が灯る。
「そして!」
「マッスルパワー!」
 昴も乗った。
 腰の後ろで手を組んで横を向く。強調されたのは上腕三頭筋。そのポーズの名はサイドトライセプス。
「フルチャージ!!」
 続いて、握り拳を腹の辺りで打ち合わせるようなポーズを取った。そのポーズの名はもストマスキュラ―。強調されるのは三角筋、僧帽筋、そして腕の太さだ。
 ごう、と昴の身体から焔が溢れる。
「正義の魔法でお仕置きだ!」
 爆炎が散った。
 魔法少女らしい衣服を身に纏った昴の姿がそこにあった。
 怖ろしいほど、魔法少女の服が似合っていない。

「なるほど。魔法少女に魔法は不要というわけだな」
「年齢もどーだっていいんでしょうねー。だったらー、私にもなれそうですー」
 魔法少女・マジカル†ヴァンプと、魔法少女・マジカル♰チャリオット……もとい、エミリーとピリムが疾走を開始。
 奇しくもピリムと、マジカル☆スターの戦闘スタイルは似ている。
 互いに姿勢を低くして、地面を這うように疾走。
 ピリムは太刀を、スターはバールを同時に一閃。
 すれ違いざまに、互いの得物が互いの肩の肉を抉った。白い雪に鮮血が散った。降りしきる雪に覆われて、鮮血はすぐに見えなくなる。
「バー…いや、すまないマジカルステッキだな……の行使に慣れているみたいだ。なかなか巧みに振り回す」
 エミリーの放った血の鞭が、マジカル☆スターの足元を打った。
 牽制……では、無い。
 外れたのだ。
 不意打ち気味に手首を狙った血の鞭は、マジカル☆スターの尋常ならざる反射神経によって回避された。
 雪が舞い散る。
 回避と同時に、マジカル☆スターが地面を叩いたのであろう。スターの姿が視界から外れる。
「小癪なま……っ!?」
「マジカル☆シューティング☆」
 魔法少女がそこにいた。
 雪に紛れて、一瞬の間にエミリーの眼前に迫っていた。
 雪を切り裂く血濡れたバールが視界を横切る。
「スタぁぁあああ!!」
 殴打の雨が降りそそぐ。

 魔法少女の戦いに魔法はいらない。
 ただ、強い意思があれば、それでいい。
 その証拠に、どれだけの傷を負ってもマジカル☆スターは止まらなかった。
 激化する魔法少女同士の戦いを横目に、エクスマリアとルブラットは洞窟へと足を踏みいれた。マジカル☆スターの捕縛はもちろん重要事項だが、それと同じぐらいにクイーンの安全確保も大切なのだ。
「だ、誰!?」
 洞窟の奥。
 焚き火の前に、白衣の女性が立っていた。
 雪山という過酷な環境に長く置かれたことにより、白衣の女性……クイーンの顔色は悪い。以前にもエクスマリアとルブラットは、彼女に会ったことがあるが、その時よりも幾らか痩せているようにも見える。
「さてはマジカル☆スターの敵ね。彼女も、私も殺すつもりなのね!」
 クイーンの意識は、どうやら朦朧としているようだ。
 手には、先端を削って細くした獣の骨を持っている。護身用の武器のつもりか。骨の半ばほどには、黒い石が埋め込まれていた。
 もしかすると、魔法のステッキのつもりなのかもしれない。
 魔法少女は伝染するのだ。
「やあやあ、クイーン君。貴方に礼を言える機会が訪れて嬉しいよ」
 だが、所詮は紛い物。
 先端が尖った獣の骨など、何の脅威にもなりはしない。
 一切の警戒も見せず、ルブラットは前へ出た。その顔を覆うペストマスクを一瞥し、クイーンは目を大きく見開く。
「貴方は……いえ、それよりも、お礼?」
「そうとも。君のお陰で、私はこうして抜け出し、人々を救えているのだからね……」
「救う、ですって? 貴方もマジカル☆スターの仲間になりたいの?」
「……うん?」
 クイーンの言動がおかしい。
 そのことに気付いたルブラットは、ペストマスクの口元を覆い「ストックホルム症候群」と呟いた。
 ストックホルム症候群。
 誘拐事件や監禁事件などの被害者が、誘拐犯との間に心理的なつながりを築き、好意的な感情を抱くことを言う。
 精神科医であるクイーンとて、それは知っているはずだ。本来であれば、カウンセリングの中で罪人に共感し過ぎないよう、クイーンとて注意しているはずだが、今回はシチュエーションが悪かったのだろう。
 極寒の雪山。
 すぐ近くには、自由になった殺人犯。
 そんな極限状態が、クイーンから冷静さを奪った。
「久しぶり、お姉さん。パンとミルクのお礼に、助けに来たよ」
 いかにも怪人然としたルブラットでは、クイーンの警戒を解けない。そう判断したのか、ルブラットに代わり、エクスマリアがクイーンの元へ近づいていく。
「助ける……。えぇ、そうよ。私はスターを助けなきゃ。スターが皆を助けるために戦うの。だけど、誰もスターのことを助けてあげない。だから、私が……私だけは、スターのことを助けてあげなきゃ」
「魔法少女と正義の味方は違う。彼女は、ただ魔法少女に憧れているだけに過ぎない」
 淡々と。
 ルブラットはそう言った。
 ルブラットから見たマジカル☆スター……マジノ・ハーヴェイは「正義の魔法少女に憧れる成人女性」に他ならない。
 彼女は自身の思い描く「正義の魔法少女」であるために、存在しない「悪役」を自分以外の誰かに求めているだけだ。
 エクスマリアは、そっとクイーンの手を握る。
 冷たい手だ。震えている。
 クイーンの手から、骨のステッキが地面へと落ちた。
「あっちのお姉さんはマリア達が捕まえるから、一緒に帰ろ」
 クイーンの頭を胸に抱えて、囁くようにそう言った。

●魔法少女・ジ・エンド
 殺してはいけない……その制限を抜きにしても、マジカル☆スターは強靭だった。
 身体の強度は一般的な人と同程度。
 けれど、意思が強い。
 決して倒れてなるものかという強い意思を感じる。
 5人に囲まれていても、一歩も退く様子は無い。
 悪を前に退く者に、魔法少女である資格など無いからだ。
「多勢に無勢……悪の魔法少女がやりそうなことだね☆」
 語尾に☆こそ付いているが、その顔面は血と汗でぐちゃぐちゃだ。
「フフ……何故脱獄した時貴女や他の囚人も逃がしたのか理解してねーみてーですねー。それは、こーやって一人一人確実に狩る為にごぜーますー」
 血の滴る刃を舐めて、ピリムはいかにも悪党らしい笑みを浮かべる。悪人仕草が彼女ほど様になっている者もそう多くは無いだろう。何しろ彼女は、本物の悪党なので。
「貴女を始末したら他の者も、クイーンたそも頂きますねー」
「ぶっ☆殺!」
 煽れば響く。
 ピリムにとって、マジカル☆スターは挑発しやすい相手であった。

「これが"本物"の魔法少女の力だ!」
 殴って、蹴って、掴んで、投げて、極めて、落とす。
「偽物ほどよく吠えるわねっ☆」
 殴って、抉って、穿って、叩いて、砕き壊す。
 魔法少女斯く在るべし。
 昴とマジカル☆スターの両者は、まさに魔法少女の体現者そのものである。
 筋肉の量では昴が、背丈ではマジカル☆スターが勝る。血と汗でドロドロに汚れた魔法少女の衣服を纏い、殴り合う26歳と19歳。
「マジカル☆ステッキが邪魔だな。動きを制限できないか?」
 額を押さえてエミリーは言った。
 割れた額から、今も血が流れている。足元を赤く濡らすエミリーの血が蠢いて、まるで鞭のような形を成した。
「任せてください」
 答えたのはロウランだ。
 吹雪が勢いを増して、スターの足元を凍らせる。剥き出しの素足に厚い氷が張り付いているのだ。さぞ動きにくいだろう。氷を砕くべく、スターは自身の足へ向けてマジカル☆ステッキを振り下ろす。
 刹那、風を切る音がした。
 エミリーの鞭が、スターの手首を強かに打った。
「っ……ステッキが!?」
 ステッキが宙を舞う。
 スターが手を伸ばしたが、届かない。
「依頼はあくまで”捕縛”ですが……少し痛い思いはしてもらいますよ!」
 伸ばした手を、オリーブが掴んだのである。
 そのまま体を支点にして、肘を捻じった。
「ぎっ……あぁぁ! マジカル☆ステッキ! 私のマジカル☆ステッキ!」
 マジカル☆スターの肘が砕けた。
 激痛に泣き喚きながら、マジカル☆スターはステッキを取りに行こうとした。
 取りに行けるはずがない。 
「リリカル☆カラフル!」
 トールが跳んだ。
 その手には、光輝く剣が握られている。
「必殺のぉ、オーロラ☆トゥインクル☆セイバーッ!!」
 大上段から放たれた斬撃が、マジカル☆ステッキを2つに斬り裂く。
 折れたバールが、地面に落ちる。
「ぁぁぁぁぁぁあああああ!?」
 魔法少女の象徴が折れたのだ。
 折れないはずの、マジカル☆ステッキが折れたのだ。
「え……あ、ごめんなさい。大事なもの、でした……よね?」
 この世の終わりみたいな絶叫を聞いて、トールは思わず謝った。
 だが、もはやトールの謝罪の言葉はマジカル☆スターの耳には届いていない。
「貴女はまだまだ半人前だとわかったはず、元の修行場に戻りましょうね?」
 意識を失ったマジカル☆スターへと向けて、ロウランはそう言い放つ。

 山を降りるまで、結局クイーンが目を覚ますことは無かった。
 よほどに疲弊していたのだろう。
「またね、お姉さん。優しさの使い方は間違えないように、気をつけて?」
 眠るクイーンにそう言い残し、エクスマリアはその場を立ち去る。
 そうして、その場にはルブラットとクイーンの2人だけが残された。
「……君はあの雪原を生きるには理想家すぎる。だが、同時に……人は如何に弱くて愚かでも、夢を見続ける権利がある」
 目を覚ましたら、改めてクイーンと話をしてもいいかも知れない。
 少なくとも、今度はきっと話ができる。


成否

成功

MVP

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘

状態異常

エミリー ヴァージニア(p3p010622)[重傷]
熱き血潮
三鬼 昴(p3p010722)[重傷]
修羅の如く

あとがき

お疲れ様です。
マジカル☆スターは捕縛され、クイーンは無事に救出されました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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