シナリオ詳細
<月だけが見ている>砂漠に生えた森
オープニング
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『古宮カーマルーマ』に存在する転移陣の先に、イレギュラーズは敵の本拠地と思われる『月の王国』へと至る。
イレギュラーズはしばらく王宮の前に広がる砂漠を進んでいたが、途中で幾度も障害に出くわすこととなる。
烙印を刻まれて吸血鬼となった者や、人造生命体の失敗作とされる偽命体。
彼らは同胞を増やし、砂漠の国を大きくしてゆくゆくはラサを飲み込むつもりだ。
やがて、イレギュラーズは月の王宮へと至る。
その間にも着実に時は過ぎ、烙印の残り日数が減っていく。
解決を急ぐイレギュラーズは、ファレン・アル・パレストから入った紅血晶の回収完了の知らせを受け、戦力を集中させて月の王国掃討作戦に臨む。
●
作戦を聞き、ラサの首都ネフェリストへと集まるイレギュラーズ。
『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)がメンバーの姿を認めて軽く手を上げた。
「手早く説明するよ。皆も先を急ぐだろうからね」
何せ、烙印を付与されたメンバーに残された時間はあまり長くない。
なんとしても今作戦を成功させたいところだが、敵も本気だ。
月の王宮周囲の砂漠にもかなりの数の敵が配備されているようだ。
王宮へと突入を図るメンバーを援護する為にも、これらの敵を叩きたいとオリヴィアは言う。
「中でも晶竜というのが厄介な相手だね」
晶竜とは、紅血晶が埋め込まれた巨躯のキマイラ。
明らかに何者かが実験を行った廃棄品と思われるが、自我を持たぬそれは紅血晶を体内に取り込んだことで、疑似生命を得たように動き回るようだ。
詳細は不明だが、非常に強力な相手であり、魔種とタメを張る強さともいわれる。
「あと、晶人となり果てた存在に、吸血鬼が同行しているね」
晶人は紅血晶を有していた者の成れの果て。晶獣と違い、こちらは人の形を保ってこそいるが、全身を血の膜が包み込んだゾンビといった印象を受ける。
残念ながら、こちらは二度と人に戻れぬため、終わらせてやるほかない。
一方で、吸血鬼は烙印を押された者達で、今回は幻想種達ばかり。
彼らはまだ完全に吸血鬼となったわけではない為、救出の可能性が残されている。できるなら保護してあげたい。
「ただ、そいつらのいる場所は精霊の力が揺らいだ特殊なフィールドがあちらこちらに展開されているのさ」
砂漠にもかかわらず、無数に生える巨木。
それらもあって、精霊を行使する吸血鬼達の戦闘力を高めてしまう。
同時に、紅血晶を体に宿す晶竜、晶人も相手せねばならない。
「……大変な状況さ。ただ、放置するわけにもいかないね」
障害となる上、救える命もある。王宮突入も大事だが、見過ごせるはずもない。
「それじゃ、頼んだよ」
最後にそう告げ、オリヴィアは戦地へとメンバーを送り出すのである。
●
砂漠を進むイレギュラーズ一行。
オリヴィアに指定された場所へと至ると、驚きの光景が広がっていた。
砂ばかりの場所に屹立する多数の巨木という、現実ではありえない状況。
精霊の働きが揺らいだために起こった現象なのだろう。
グアアアアアアア、アオオオオオオオオオオ!!
そこで聞こえる竜の咆哮。
メンバー達が木々の間へと進めば、内部には歪に複数の種族の部位が組み合わさった晶竜と合わせて待ち構えていたのは。
アアアア、ウアアアアアアア……!!
苦しみ悶える晶人達。そして。
「女王の邪魔をするな」
「そうよ。女王こそがラサを統べるにふさわしいのよ」
両耳が尖ったその特徴は紛れもなく幻想種だが、口から見える牙が吸血鬼化していることを示している。
女王に傾倒する発言も大きい。彼らも烙印付与からかなり時間が経過しているのだろう。
グオオオオオアアアアアア、アアアアアアアアオオオオオオオ!!
どうすべきかと策を練りたいが、晶獣が激しく咆哮して襲い掛かってくる。
イレギュラーズも身構え、応戦を開始するほかないのだった。
- <月だけが見ている>砂漠に生えた森完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月24日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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転移陣より至った月の王国。
『竜の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は静かで、それでいて底冷えするような寒さを感じさせる国に、やや圧倒されてしまって。
「ははっ、まじかよ」
本物の月を思わせる幻想的な世界。
普通の者ですらそうだが、この地を統べる女王に、烙印を刻まれた者は一層強く惹かれてしまう。
「烙印の影響で、皆の姿も変わり始めている……」
『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は何人も仮想反転したイレギュラーズの姿を目の当たりにしてきた。
この場にも、烙印を刻まれた者が3人いる。
『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)、『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)や『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)はいずれもさほど見た目の変化を感じさせない。
――ああ、女王……。
――フフ、フフフ……。
だが、彼らも烙印の症状が相当進んでおり、時折狂気に捉われてしまっていたようだ。
王宮への道中となる砂漠は山あり谷ありであり、所々に敵の姿が視認できる。
場所によっては別チームが応戦に当たっていた。
「王宮に近づくにつれ、敵の戦力もだいぶ増えてきたな……」
『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)もそれを視認していたが、前方に現れる異質な空間に遮られる形となり、皆でその内部へと突入する。
先ほどまで砂漠を歩いていたはずが、そこはなぜか森のように木々が屹立していた。
だが、足場は砂地のまま。精霊の異常な働きによって形成された空間なのだろう。
グアアアアア、アオオオオオオ!!
聞こえてくる竜の咆哮。
一行の前に姿を現したのは、様々な生物を合体して作られたと思われるキマイラ。
「晶竜……月の王国はこんな歪な生物まで造り上げているとは……」
その見た目に、トールは可愛い顔を歪めてしまう。
アアアア、ウアアアアアアア……!!
苦しみ悶える晶人達。そして……。
「女王の邪魔をするな」
「そうよ。女王こそがラサを統べるにふさわしいのよ」
「ちっ、ここでも幻想種がやられちまってるのか」
吸血鬼となった4人の幻想種の姿に、ルカは舌打ちしてしまう。
ルカ達ラサの民にとって、幻想種は同盟相手であり、ダチみたいなものだ。
「誰一人犠牲にはしねえ。全員助けるぜ」
「まだ完全な吸血鬼ではないのなら、元に戻せる可能性は十分あるわ」
ルカに同意し、『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)もその救出に意気込みを見せて。
「……なら、どれだけ危険で傷付こうとも、救う為に手を伸ばし続けましょう」
仲間が決意を口にする間、トールはR・I・Dの力で持前のスキルを強化する。
それも、自らを蝕む烙印に抵抗する為。
闘志を全開にし、トールはこの苦境の中でも平常心を心がける。
「自他共に烙印のタイムリミットが近い状況……速やかに掃討して幻想種を保護しなければ!」
「デカブツの相手をした上で幻想種も保護しろって?」
難儀なことをとクウハは小さく頭を振るが、それでこそやりがいがあると気合を入れる。
『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)も不敵に微笑む横、ジルーシャが仲間達や吸血鬼等の呪いがこのまま完全に進行しきったら……。
ジルーシャは激しく首を振って。
「通してもらうわよ!」
「ともあれ、ここで足止めを食らう訳にはいかない。一気に突破する!」
ジルーシャの叫びに合わせ、ルーキスもこの場を突破すべく刀を抜くのである。
●
砂に生えた木々の合間内。
イレギュラーズは行く手を遮る晶竜とその取り巻きとの戦いに臨む。
アルテミアは改めて取り巻きを確認する。
異様な空間ではあるが、敵は森という戦場を最大限利用してくることが予想される。
ウウウ、ウアアアア……!
半ばゾンビを思わせるような姿となり果てた5体の晶人はその身で襲い掛かってくるが、4体の吸血鬼は別だ。
「全ては女王の為に」
吸血鬼達は『偉大なる純血種(オルドヌング)』によって『烙印』を押されて変えられてしまった者達。
とりわけ、この場にいる吸血鬼は悪徳商人げドレが連れ出した幻想種ばかりで、魔法や精霊術を操ることができるのだ。
相手の出方を見るアルテミアは戦いの鼓動を高め、それらの相手を引き付けるべく戦いの鼓動を高める。
わらわらとアルテミアの方に晶人や吸血鬼が近寄ってきたのは想定通り……だが。
(不意打ちはもちろん、4人もいるから警戒しないと)
一度に襲ってこられてはいくら身のこなしに自信があっても負傷は免れない。
そう考え、アルテミアも吸血鬼が発してくる風や精霊による攻撃をできる限り避けるよう試みつつ、立ち回る。
常に広域俯瞰と合わせ、透視で木々の向こうまで見通すことで戦況把握に努めるルーキスも吸血鬼を主に相手取っていて。
「地の利は敵にある。ここは相手を上手く誘き出しながら戦いたいですね」
ルーキスは敵陣へと飛び込み、同じく戦いの鼓動を高めることで周辺の敵を引き付けに当たるが、彼は吸血鬼のみを意識して相手取るよう立ち回っていた。
ルカはミヅハと共に、晶人から排除に当たる。
距離をとるルカが巨大火砲で晶人を狙撃するのに合わせ、ルカは魔剣『黒犬』のレプリカを両手で持ち、排除せんと激しく敵へと切りかかっていく。
ルカは吸血鬼も合わせて相手取っていたが、そちらは状態をチェックして間違っても命を奪ってしまわぬよう注意を払う。
その間に、トールやクウハが歪に組み上げられた晶竜と対する。
アオオオオオオ!!
トールが敵視する晶竜は激しく嘶く。
人を思わせる頭に鳥の翼、獣の両腕に巨木の幹を思わせる胴体、爬虫類の尻尾に魚の下半身……。
竜をイメージして作ったにしては悪趣味な出来である。
「生命に対する冒涜的行いは許せません!」
博士が作り出したのか、はたまた別の何者かによるものなのか。
実験による廃棄品とみられるこの歪な生物を作り出した相手に、トールは激しい怒りを覚えながらも呼吸を整える。
剱神残夢――無我の境地の一端にまで至ったトールは巨躯の竜を見据え、内なる炎を燃え上がらせて晶竜の注意を引き付ける。
トールが発する炎は周囲の木々をも巻き込む。これが燃えることで、吸血鬼が木々の枝や根を使った攻撃をできなくするのが狙いだ。
ここで、トールは戦場把握するクウハから吸血鬼の位置情報を得て、晶竜の攻撃に吸血鬼が巻き込まれないように、かつ晶竜の攻撃を利用してな周囲の樹木をなぎ倒して貰うように立ち回る。
「晶竜が吸血鬼を巻き込む可能性があるからな」
仲間を巻き込まないのはもちろんだが、クウハが晶竜を誘導するのは吸血鬼のいる方向とは真逆。
クウハは樹木を巻き込み、晶竜に鉄の星を降らす。
様々な要素を考慮するクウハに対し、晶竜は苛立つようにして獣の腕を振り下ろしてくる。
その2人を援護するジルーシャは距離をとる。
ジルーシャは晶竜の対応で手いっぱいとなる前に、竪琴の音色を響かせ、トランク型調香キット《Harmonia》でつくった香りを振りまく。
「この森が精霊の力が揺らいでできた空間なら、アタシの声も届きやすくなっているんじゃないかしら」
吸血鬼達によって操られている精霊たちもいる。
それらを止めることができれば、無力化に動く仲間達との助けになる。
「皆が、本当の森に帰れるように――お願い、アタシたちと一緒に戦って頂戴な」
ジルーシャは空間内にいる精霊達へと呼びかけ、力を貸してくれるよう頼む。
応じてくれた精霊達はジルーシャの助けとなり、この空間内を動き始めていたのだった。
●
空間内での戦いはしばし膠着状態となる。
衝動のままに襲い来る紅血晶によって狂わされた存在達は、唸り声を上げて。
グオオオオアアアアア。
アアアア、ウアアアアア……!!
吸血鬼だけはまともな言葉を操るが、口をつくのは月の王国や女王を賛美するものばかり。
「女王を敬い、貴ぶのです」
「全ては王国の為……覚悟」
その吸血鬼や晶人らを引き付けるアルテミアはできる限り怒り状態を維持して立ち回り、仲間と共にその無力化に当たる。
とはいえ、数もあって簡単にはいかない。
アルテミアに集まる吸血鬼らは精霊を行使して砂を巻き上げ、木々の枝や根で彼女の体を縛りつけようとしてくる。
しばらくは防戦一方となり、アルテミアはイモータリティによって自らの傷を塞ぎ、しばらく耐えていた。
ルーキスもまた敵の直中に飛び込んで鼓動を高める。
吸血鬼になった幻想種達は思ったよりも身体能力が高まっており、ルーキスが個別に「ブルーフェイクIII」を浴びせかけてはいたが、多少不調をきたした動きはみせるものの、なかなか崩れはしない。
ただ、強い力に呑まれた晶人は元より体を崩しかけており、全身から血を……いや、花びらを舞わせている。
それらは薔薇や百合と様々で、元となった人物の個性を感じさせるが……、今はその外見すら見分けがつかないのが悲しい。
アアアア、ウアアアアアア!!
だが、今は救うことができる可能性のある吸血鬼を優先せねばならない。
次の瞬間、吸血鬼が風を操って地面の砂を巻き上げる。
ルカは一時視界を遮られる形となるが、嗅覚を最大限に働かせて。
「仲間の匂いは覚えてる。それ以外の花の匂いが敵だ!」
敵は全て傷口から花弁となった血を舞わせている。それ故にルカは花の匂いを強く感じさせる相手を敵と判断し、斬りかかる。
激しく切りかかることにより、晶人2体が溶けるようにして全身を崩していく。
砂が視界を塞いでしまう中で、ミヅハも仲間と合わせて晶獣を狙うが、吸血鬼がこぞって彼を狙う。
術によって発生した風に巻き上げられ、さらに精霊が巻き起こす風の刃に幾度も刻まれ、ミヅハは早くもパンドラを砕いて身を起こす。
ただ、吸血鬼と合わせて晶人を相手するメンバー達の攻撃も重なって。
アルテミアの展開する残像が一挙に襲い掛かり、殴り掛かってきた晶人を切り刻む。
オオオオオオオ……。
別の1体は怨嗟の叫びを上げてこちらの動きを止めようとしていたが、ルカがもう1体と纏めて刃を浴びせかけて沈黙させる。
巻き込まれた1体はまだ応戦の構えをとっていたが、ルーキスも一体ずつ無力化すべきと考えてそいつに鬼の力を宿した一撃を繰り出し、真っ二つに切り裂く。
晶竜側の戦況はややジリ損になっていた。
「狙うは頭! 例え自我はなくとも生命の尊厳を守る為、せめてひと思いに…苦しみと狂気からの解放を!」
トールは果敢に攻め入り、人を思わせる頭目掛けて夜色の結晶刃で切りかかるが、相手は太い両腕と合わせ、同じく太い尻尾で受け止めて頭へとダメージを食い止める。
現状は晶竜の対処に専念できている。
(できるだけ戦線を維持できるように)
ジルーシャは傷つく抑え役2人に聖体頌歌を響かせ、癒しに当たっていたが。
「気を付けてね。来るわ」
注意喚起したのも束の間。晶竜の動きは速い。
グオオオオオオオオオオオ!!
抑えられぬ狂気を晶竜は一気に解き放ち、自らも近場全てを殲滅する勢いの力で徹底的に叩きのめしてくる。
樹木を盾にしつつ、なんとか堪えるクウハ。
敵の攻撃が落ち着いた隙に、彼は精神力を弾丸に変えて晶竜へと撃ち放つ。
…………!
相手が怯んだタイミングを見て、クウハは吸血鬼とされた幻想種達へと呼びかける。
「『女王は絶対』そりゃ結構。だが、それ以上に大切なものがオマエ達にもあるんじゃないか?」
クウハ自身も烙印の影響が強く出てはいたからこそ、烙印に屈してしまっている幻想種達に負けるなと呼びかけずにはいられなかったのだ。
「う、うう……」
完全に吸血鬼となっているわけではないとルカは察して、花びらを散らす1人へと拳を振り上げる。
「悪ぃが、ちっとばかし乱暴に寝かしつけさせて貰うぜ」
現状では説得など受け入れそうにない。ルカは拳を叩き込み、1人を昏倒させる。
息があることを確認したルカはすぐにその吸血鬼を戦闘外地域へと放り投げる。
「よくも同胞を……!」
ギリギリと歯を鳴らす吸血鬼が再び砂を巻き上げる。
別の1人が木を根を操り、ミヅハとルーキスを縛り上げていく。
抵抗できぬミヅハが力なくうなだれる一方、ルーキスが運命の力で拘束から逃れて。
(彼らもこの騒乱の被害者だ)
できるなら不殺で幻想種達を救い出したいルーキスは1体ずつ確実に仲間と攻撃対象を合わせて慈悲の一撃を与えていく
そんなメンバー達の配慮もあって。
「救出対象とはいえ吸血鬼である以上、多少乱暴になるのは仕方が無いけれどね!」
たまに吸血衝動に駆られて近寄っては来るが、相手は風術や精霊術がメイン。
烙印の影響とはいえ、女王の為になるように動くのは本当に厄介だと頭を振るアルテミアは見定めた吸血鬼へと距離を詰めて動きを乱す。
「アナタたち幻想種の心の拠り所は大樹ファルカウでしょう? それをこんな物で忘れているんじゃないわよ!」
本音をぶつけるアルテミアは青き炎剣で吸血鬼の精神のみを貫く。
倒れた吸血鬼はジルーシャの意に応えた精霊が戦場から引き離していた。
●
順調に交戦しているように見えたが、戦況は相当厳しい。
ここまで、晶人と吸血鬼の対処がかなり長引き、晶竜を抑えるメンバーも息切れし始めていた。
「また、くるわ」
全知の如き感覚をもって、ジルーシャは仲間を支えていたが、晶竜の力はそれを上回る。
グオオオオオオオオオオオ!!
激しい方向を上げる晶竜がまたも周辺を殲滅する力を放つ。
最低限の体力を維持して交戦していたクウハだったが、思わぬ力に包まれて意識が飛びかけてしまう。
防御を固め、自己回復に当たっていたトールも次なる一撃で体力を奪いつくされてしまった。
(これはまずいな)
仲間達も取り巻きの対処に苦しんでいるらしい。
クウハは離れた場所の仲間達を気にかけながらも、魔力障壁と破邪の結界を使い分けてなんとか場を持たせようとしていた。
残る吸血鬼は2体だが、傷ついた彼らは女王の為と力を漲らせて。
「我らは女王の為に尽くすのだ」
「月の王国こそ、私たちの居場所よ!」
「お前も望んでそんな形になった訳じゃねえんだろうが……俺に出来るのは解放してやる事だけだ!」
抵抗する彼らの飛ばす風に、ルカも花弁と化す血を飛ばしながら言葉を返す。
「約束するぜ。お前らをこんな目に合わせたやつは必ずぶっ倒す」
何してこようとも、俺にできるのは叩き斬ることだけ。それが自身にできる犠牲者への手向け。
「だから……安心して眠れ!」
だが、この場の執念は吸血鬼側が上回っていた。
植え付けられた偽りの気持ちに振り回されたまま、女王に尽くすべしと激しく抵抗する。
苦しまぬようにと両断せんとするルカだが、吸血鬼の1人が操る精霊と共に彼を押さえつけ、その間にもう1人が発した風の刃がルカを貫く。
激しく花びらを散らすルカがパンドラによって意識を保つ間に、ルーキスが2つの刃で吸血鬼1人を切り裂き、気を失わせた。
もう1人モ助け出したいところだが……。
徐々にイレギュラーズ側の布陣が乱れ、晶竜とそれ以外との交戦組の距離が縮まってきていて。
グオオオオオオオオ!!
クウハはなんとか晶竜の猛攻に耐えていたが、トールは狙われたジルーシャを庇い、敵のタックルをまともに食らってしまった。
崩れ落ちるトールを、今度はクウハが庇って立て直そうとする。
チームが半壊した状況では、ルーキスも晶竜を相手せざるを得ない。
「これが『廃棄品』だと言うのだから、悪趣味にも程がある。やはり、こんな行為をする輩を放っておく訳にはいかないな」
晶竜の下肢を狙って砕の刀技を繰り出すルーキスも万全の状態なら、仲間と対処ができただろう。
だが、彼も吸血鬼や晶人との戦いでかなり傷ついていた。
傷こそその魚の下半身に深く傷つけられたがそこまで。
爬虫類の尻尾から繰り出された素早い一撃を食らい、砂地を転がるようにしてルーキスは倒れてしまう。
アルテミアは残る吸血鬼と交戦し続けていたが、この状態では全滅すらあり得る。なにせ、晶竜はまだ十分に体力を残していたのがわかったからだ。
「止むをえないな……」
クウハは2人を抱え、この場の離脱をはかる。
ジルーシャも精霊に助力を請いつつ、できるだけ多くの戦闘不能者、そして救出済みの幻想種を抱えて空間から抜け出す。
アルテミアもいまだ、意識を保ってこちらに風術を飛ばす吸血鬼1体を目にしながら。
「ごめんね……」
自分達の無力さを噛みしめ、アルテミアはこの空間を後にしていった。
●
樹木に覆われた空間から離脱できたのは僥倖であっただろう。
「……大丈夫よ、絶対に助けるわ」
ジルーシャは吸血鬼の男性へと優しく呼びかける……が。
「離せ、女王のお救いしなければ」
「嫌よ、月の王国で女王にお仕えし続けるのよ!」
捕縛された3人の吸血鬼は激しく暴れるが、メンバーはなんとか取り押さえつつ。
「すぐ元に戻してやるから、ちょっとだけ待っててくれ」
意識を取り戻したルカは吸血鬼女性を諭しながらも、仲間と共に落ち着ける場所を目指すのである。
成否
失敗
MVP
なし
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
今回はこういう結果となりました。ご了承願います。
ご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
<月だけが見ている>のシナリオをお届けします。
●概要
『月の王国』掃討作戦に当たります。
王宮外周で、精霊の力が揺らいだ為に現れた特殊なフィールドでの戦いとなります。
砂の中から生えていた無数の樹木。
砂と森が同居する歪な空間で待ち構える敵集団を討伐する必要があります。
中には吸血鬼とされた幻想種の姿もあります。強敵揃いの中ですが、彼らも保護してあげてくださいませ。
●敵
◎晶竜(キレスアッライル):名称不明(略称:晶竜)×1体
全長6mほど。紅血晶が埋め込まれたとっても大きなキマイラです。
竜種をイメージされて作られたと思われますが、人を思わせる頭に鳥の翼、獣の両腕に巨木の幹を思わせる胴体、爬虫類の尻尾に魚の下半身と滅茶苦茶な姿をしています。
檻から放たれた獣であり、『紅血晶』を体内に取り込む事で疑似生命を得たように動き回るようです。
自我はなく、狂ったように襲い掛かってきます。
非常に強力な攻撃を仕掛けてくるようですが、実際の攻撃手段は情報が無い為不明です。
◎吸血鬼(ヴァンピーア)×4体
月の王国に棲まう『偉大なる純血種(オルドヌング)』により『烙印』を得た者達の総称。
強大な力を得た反動で、強い吸血衝動を有し、外に出る血液は全て花弁(薔薇や百合など)、涙は水晶に変化します。
烙印の影響で「女王は絶対」、「ラサを乗っ取らねばならない」などと口にしています。
全員が幻想種ベースのようで、サンドバザールから連れ出されたとみられます。別シナリオで交戦予定の悪徳商人ゲドレによるものでしょう。
直接噛みついてくるだけでなく、精霊を操ることができるようで砂を含む風を巻き上げたり、木々の枝や根を使って攻撃を行うこともあります。
◎晶人(キレスドゥムヤ)×5体
紅血晶を有していた者が転じる姿の一つ。
晶獣とは違い、全身血にまみれたゾンビを思わせる容姿をしています。傷つけると、血の代わりに(個体によって薔薇や百合など)花びらが舞うようです。
自我はほとんどなく、常に強い力に呑まれて苦しみ呻いています。
強化された力で体当たり、殴りつけによる攻撃と合わせ、怨嗟の叫びをあげてこちらの動きを止めることもあります。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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