シナリオ詳細
水天宮 妙見子は信者が欲しい。或いは、第3回神社建立RTA~ドキドキ宗教勧誘編~…。
オープニング
●輝きは君の心の中に
豊穣、高天京郊外。
所は水天宮神社の本殿である。
波と風の音に耳を傾けながら、水天宮 妙見子 (p3p010644)は瞑目していた。
座布団に座した妙見子は、背に後光を背負っている。あまりの眩しさに、トール=アシェンプテル (p3p010816)およびイーリン・ジョーンズ (p3p000854)は目を細めて、立ち尽くす。
瞑目する妙見子の姿は、神性さえ帯びているかのように見える。出自を考えれば帯びていても不思議じゃないのだが、日ごろの行いとか、そういうが関係して“妙見子らしくない”と思えた。
「うっ……眩しい」
「妙見子、貴方、輝いてるわ」
眩しすぎて妙見子の姿を直視できない。
部屋全体が、まるで光に飲み込まれているかのようだ。
「……どうぞ、こちらを」
目を閉じたまま、妙見子がそっと差し出したのは上質な布に置かれたサングラスである。こんなこともあろうかと、用意していたものである。
サングラスをかけると、少しは眩しさもマシになった。
そもそも、この異常なほどの光量は何なのか。
その答えは、ヴィルメイズ・サズ・ブロート (p3p010531)がもってきた。
「追加をお持ちしましたよ。ここ、置いておきますね」
ガラリ、と妙見子のすぐ後ろ、床の近くに取り付けられた覗き戸が開いた。ヴィルメイズは、小さな戸から手を伸ばし、妙見子の背後へ次々、何かを投げ入れる。
それは、どうやらキノコのようだ。
「あれは、まさかヤタラトヒカルダケ?」
光量が強く視認しづらいが、ヴィルメイズが持って来たのはやたらと発光するキノコ、ヤタラトヒカルダケであることを、イーリンは即座に見抜いてみせた。これまで、長く冒険を繰り返した彼女の知識量は膨大だ。
「知っているのですか、イーリンさん!?」
トール、びっくりである。
「ヤタラトヒカルダケ。各地のダンジョンや地下遺跡に生息している、異常なほどの閃光を発する菌糸類よ。その起源は古く……」
「あ、今そういうのは大丈夫です」
「……そう」
妙見子が光っている理由が分かれば、今はそれでいいのである。
目を閉じた妙見子。
サングラスをかけたトールとイーリン。
眩しさに目を焼かれ、拝殿の外で転がっているヴィルメイズ。
奇妙な沈黙が続く。
そもそも、なにゆえ水天宮神社にイーリンたちがやって来たのか。
妙見子に呼ばれたからである。
「ねぇ、妙見子。光ってないで、何の用事で呼びつけたのかそろそろ教えてもらえるかしら?」
イーリンは問う。
問いを受け、妙見子は口元に薄い笑みを浮かべた。
それから、彼女はゆっくりと唇を開く。
「眩しいんで、目は閉じたままでもいいですか?」
●信者よ、この地へ集うがいい
「信者が増えないんですよ。妙見子、信者がたくさんほしいです。お供えとか、お布施とかで楽して生きていきたいです」
後光を背負った妙見子が言った。
「俗っぽい……」
神なのに、えらく俗っぽい。
トールは呟く。聞こえないよう声を抑えたが、たぶん妙見子の耳には届いていただろう。
お供えとお布施が理由の全てでは無いだろうが、とはいえせっかく神社を建立したのだから、信者を増やしたいと思うのも当然。神様とか、崇め奉られてなんぼなのである。
眩しい部屋での会談だ。
お互い、どんな表情を浮かべているかは窺えない。
「光っている方が神性さが増すと思いまして、ヤタラトヒカルダケを持ち込んだんですが、まさかこんなことになるとは……」
「見通しが甘い」
「イーリン様のおっしゃる通りで。でも、やはり光っていた方がそれっぽいですし、実際、近隣の方からも好評をいただいておりますよ?」
「イカがよく採れるようになったとか。来る途中で近くの漁村に寄って来ましたが、まるで祭りのようでした」
ヴィルメイズはかく語る。
イカの豊漁は、きっと妙見子の御利益である。
「とりあえず置いたご神体も光るので、ちょうどいいかなー……って」
ほら、と妙見子は自分の隣を指し示す。
眩しくてよく見えないが、そこには半球2つを組み合わせたような奇妙なオブジェクトがあった。材質は金属だろうか。半球と半球の間には、フォークが挟まれている。
フォークを抜いて、半球同士が接触すると目も眩むほどの大閃光を放つのだ。
「デーm……愉快玉ですね。それがご神体ですか」
妙見子さんがいるのに、ご神体とはこれいかに……声を抑えてトールは呟く。
信者の獲得は、どの宗教でも最大の課題の1つである。
妙見子の奮闘と迷走具合が窺える。
「それで、私たちは何をすればいいの? 信者勧誘の手伝い?」
イーリンは問う。
光っているのは、一旦、脇に置いておくことにした。ずっと光っているので、脇に置いても眩しいことに変わりはないが。
「勧誘のお手伝いというか、皆様も信者を獲得してみませんか? こう、水天宮神社十二神将みたいな感じで」
「感じで、って……別に私たち、ここに常駐しないわよ?」
「いいんですよー。とりあえず信者が増えれば。皆様の集めた信者は最終的に妙見子に帰属します」
「詐欺、では……ないの?」
「一回、信者になってもらえれば後はどうとでもなりますよ。妙見子の信者になるメリットは追々、分かって来ると思います」
なお、クーリングオフは無い。
そもそも、信者になったからと言ってご利益があるとは限らないのだ。信じる者は救われるというが、信じなくても救われる人は救われる。人生、そう言うものである。結局、人は何か縋れる対象が欲しいのである。自分の幸運も、不幸も、何もかもを他の対象のせいにしたいのである。
シラスの頭も信心から、という奴だ。
豊穣のどこかには、桶に入れられた毛髪や河童の手を御神体としている神社もあるらしい。
「そもそもの話、人を救うのは結局、人です。信仰はそのきっかけに過ぎません」
困った時に、誰かが手を差し伸べてくれた。
誰かの手により、何らかの被害を与えられた。
どちらの場合も日頃の行いが関係している。普段から人に良くしているから、困った時に手を差し伸べてもらえるのだ。普段から人に顔向けできないようなことをしているから、他人の手により害を与えられるのだ。
昔の偉い人は言った。
負けないことと、投げ出さないことと、逃げ出さないことと、信じぬくことが大事だと。
「何かをする時、自分の信仰対象を思い、自分の選択が正しいものかを見つめ直す。信仰とはそう言うものなんです。なので、極端な話をしてしまうと、信仰対象が妙見子じゃなくてもいいんですよね」
妙見子を信仰してくれた方が、妙見子にとってメリットが多いというだけだ。
「あ、皆様のグッズも用意してますよ! 水天宮神社オリジナルのサングラスに、イーリン様印の戦勝祈願お守り、トール様印の身代わり人形、ヴィルメイズ様印のふりかけとか」
そして、愉快玉。
妙見子の用意した水天宮神社の収入源だ。
逃げ道は、ない。
「こう、いい感じにご利益を喧伝して、グッズを売って、信者さんをたくさん集めましょう」
誰が一番、多く信者を集められるか競争ですよ!
そう言う妙見子の声は弾んでいた。
「戦勝祈願って。祈ってどうにかなるのならあんなに苦労してないわ」
戦とか、事前にどれだけ準備したかで結果が決まる。そのためにイーリンは毎度毎度、あちこち駆け回っているわけで。お守りだけでどうにかなるなら、とっくの昔に買っている。
「身代わり人形……ただでさえ不幸なのに」
トールの声は沈んでいた。
顔色もきっと、悪くなっているだろう。眩しくて見えないが。
「ふりかけ……味は何ですか? 一つ、貰って行ってもいいでしょうか?」
ヴィルメイズの声は弾んでいる。
トールは、ヴィルメイズが立ち上がる気配を感じた。きっと、ふりかけを見に行ったのだろう。
「いいじゃないですかー。やりましょーよー。妙見子を助けてくださいよー!」
と、いうわけで。
宗教勧誘、スタートである。
- 水天宮 妙見子は信者が欲しい。或いは、第3回神社建立RTA~ドキドキ宗教勧誘編~…。完了
- GM名病み月
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年05月15日 22時05分
- 参加人数7/7人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 7 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(7人)
リプレイ
●たみこEX
空は快晴、気温は高め。
乾いた風が気持ちいい。
豊穣、水天宮神社。
言わずと知れた“会える神様” 『愛し人が為』水天宮 妙見子(p3p010644)を祀る……妙見子が妙見子を祀るために造ったというべきか……神社である。
普段は閑古鳥の鳴く境内に、今日は不思議と人が多い。並んだ出店に、境内中央に設置された舞台。そこかしこに立ち並ぶ幟……要するに、祭りの準備が進んでいるのだ。
神社で祭り。
当然だ。考えるまでもなく自然なことだ。神様なんて、基本祭りが好きなものなのだ。
ここ最近『やたらと眩しい』と地元で妙な評判が広まっていたが、それもきっと今日という日のためだったのだろう。知らんけど。
「もうこの際何でも構いません! 皆さんで神社を盛り上げていきましょう! “会いに行けるアイドルならぬ会いに行ける神様大作戦”です!」
本殿にて。
眩い光を背に負って妙見子が気勢をあげる。
水天宮神社を建立してしばらく。増えない信者、増えないお布施、増えないお供え物に悩むのも今日で終わりだ。
「へい! 妙見子の姉貴兄貴が頭務めるシノギの金ヅルを集めるという事で尽力させていただきます!!」
膝に手を突き、首を垂れた『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)が言う。サングラスを付けた“仁義なき”スタイルのトールは、いつもと少し雰囲気が違う。
「え〜とアレですね、母こと妙見子様のためにこう……私の美しさで信者を増やしたら良いということですね?」
私は美しいので理解度も高いのですよ〜、と『竜は視た』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)はいかにも飄々とした様子。
「……というわけでイーリン様♡ ささっいつものお願い致します♡」
ささっ、と妙見子は『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)に前へ出るよう促した。彼女こそ、今日の祭りを成功へ導いた立役者。数多の戦場を駆け抜け、多くの戦いを勝利へと導いた“生ける戦神”である。
こほん、と咳ばらいを一つ。
「妙見子の神社にはこの前の戦勝祈願を叶えてもらったし、お礼にお祭りの一つを起こすくらい、やってやりましょう」
サングラスにねじり鉢巻き。マントのように法被を羽織った威風堂々とした立ち姿。
愛用の旗を幟に持ち替え、掲げて見せた。
「妙見子がそれを望まれる!」
「「「応!!」」」
いざ、開戦の時は来た。
ドカン、と大きな音がした。
本殿の扉が吹き飛んで、一陣の風が吹き抜ける。
「なんだか詐欺みたいだけど、面白そうだから乗ったわ! 大丈夫大丈夫! 妙見子ちゃんの言う通り、最後は人の手で成すのだから!」
否、それは弾丸のごとき速度で飛び出す『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)だ。背中に炎を背負った彼女は、後に伝説となる。
水天宮神社の武神が、この地上へと降り立った瞬間であった。
「人間なんでも為せば成るわ、奇跡は実力行使よ! 辻褄は最後に合えば問題ないのよ、あっはっはー!」
「たみこちゃんのお手伝い、とあらばノアさん喜んでお手伝いしちゃいます!」
次に本殿から出て来たのは、『春色の砲撃』ノア=サス=ネクリム(p3p009625)だ。ヤタラトヒカルダケの詰まった箱を抱えて、まっすぐに手水舎へ向かって翔けて行く。
手水舎を1680万色に光らせるつもりなのだ。
……なぜ?
「うふふー! たみこちゃんの神社 やっとこれたわぁ! すっっっっごい光ってるから、これ、絶対ストロボ代わりになるの!」
さらに『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)が続く。
なんだか目がぐるぐるしていた。
粉末にしたヤタラトヒカルダケを、ハイなテンションでばら撒いている。辺りに光が降り注ぐ。この世に神が顕現する瞬間とは、きっとこのようなものなのだろう。だから、これは神話の始まり。新時代の神話の幕開け。
「逆光、踊る美男美女 カミサマも居るんでしょ? 絶対 いいフォトスポット! さ、みんな! 頑張って歌って踊って頂戴な!」
きっと、本殿の光が原因だ。
明るく強い光のシグナルは、網膜から脳へとダイレクトに届けられ、対象の精神を高揚させる。また、同時に強い光は、精神に多大なストレスをかける。
真っ先に飛び出していった3人は、きっと今現在、ストレスから解放された状態にあるのだろう。
それはなぜか? 簡単な話だ。
後から来た3人は、サングラスをかけていなかった。
●祀られ! たみこちゃん!
「止めてください!」
乙女の悲鳴は、潮風に吹かれて誰の耳にも届かない。
神社の外れの林の中で、2人の男が若い女性に絡んでいる。祭りということで調子に乗ったか、男2人は酒に酔った赤ら顔。下心を隠すこともなく、女性の手を掴んでいる。
「助けを呼んでも誰も来ねぇよ」
「か、神様が見てますよ! 乱暴な真似はよしてください!」
「神? ここは神社の外だぜ? 神が見てるわけはねぇ」
怯えた女性の顔を見て、男たちは愉悦した。
その滑らかな頬へ、酒臭い顔を近づける。
「助けて!」
震える声で悲鳴をあげた。
掠れた、小さな声である。乙女の悲鳴は、誰の耳にも届かない。
そのはず、だったが……。
「ハァイ、大丈夫、お嬢さん?」
ズドン! と鈍い音がして、男が1人、吹き飛んだ。
その頬には拳で殴打された痕跡。泡と吐瀉物を口から零し、意識を失っているようだ。
「まったく不粋な連中でやんなっちゃうわね、花は手折るより愛でるものよ……なんてね?」
次いで、2人目。
逃げられないよう、京は蹴りで足首をへし折ってから男の襟首を掴む。
女性らしからぬ剛力を発揮し、男の身体を持ち上げた。
「その金バッジ……他所のシマの人たちね? あまりお痛が過ぎるようなら、捻り潰すわよ?」
男にだけ聞こえる程度の声量で告げると、京はその体を投げた。
人の身体を、まるで砲丸か何かのように投げたのだ。
同時刻。
メリーノは境内を彷徨っていた。
目的地は無い。
祭りの活気を写真や動画に撮っているのだ。
客を呼び込む的屋の兄ちゃん、浴衣を着て歩く女性たち。誰も彼も、キラキラ輝いて見える。それも当然、つい暫く前にヤタラトヒカルダケの粉末を撒いている。
ふと、メリーノは足を止めた。
「あら! カモ……じゃなくってお客様ねぇ! こちらへどうぞー」
メリーノが目を付けたのは、4人組の少女たちだ。
水天宮神社に来るのは初めてなのだろう。右も左も分からないといった様子である。だが、身なりはいい。きっと裕福な家の娘さんたちだ。
数瞬の間にそこまで見抜いたメリーノは、ささっと風のような速さで少女たちに近づいていく。
葱を背負った鴨が来たのだ。
捕まえなければ無作法というもの。
「さぁさぁ、4名様、ご案内なのよぉ。まずは参拝するのが作法ねぇ。あそこで光っている藝明宮(げいみんぐう)手水舎で手を清めてから、本殿へ行きましょうねぇ」
交渉なんてまだるっこしい真似をしている余裕はない。
勢いで誤魔化して、本殿にまで連れて行く。まずはそこからだ。
手水舎では、巫女服を着たノアが待っている。手水舎が光っているせいで、ノアの姿も見づらいが……。
「え、あの……あなたは」
「案内人よぉ。さぁ、詳しい話は後で……」
「神社の人? だったら、あの……向こうに、いかにも怪しい人たちが……」
「……んん?」
ピタリ、とメリーノの脚が止まる。
少女たちが指差したのは神社の外れの林の方だ。
「ちょっと、この娘さんたちの案内をお願いするわねぇ」
4人の案内をノアに任せて、メリーノは屋台の陰へと移動する。
そこにいたのはトールである。
「でも大丈夫です! 妙見子様ならあなたの不安と悩みを解決してくださいます!」
どうやら、的屋のオヤジを相手に営業トークの真っ最中であるようだ。
こそこそと近づいて行ったメリーノは、トールの耳に何事かを囁く。
「なんやとぉ?」
瞬間、トールの雰囲気が変わった。
サングラスをかけ、口にチョコを咥えると、眉間に深い皺を寄せたのだ。
「どこの組のモンか知らんけど、教えたらなあかんなぁ。妙見子の頭のシノギを邪魔する奴がどんな目に合うんかをなぁ」
ベルトに長ドスを刺すと、トールはその場を立ち去っていく。
件の怪しい者たちに、お灸を据えに行ったのだろう。その背を見送り、メリーノはにぃと口角を上げた。
「ダメよぉここはきれいな神社なの。オキャクサマは、疑ってたら楽しめないでしょ?」
同時刻、社務所にて。
「ふりかけ1袋でございますね。はい、1200Gになります。ご利益がありますように」
キラキラとした笑顔を振りまくヴィルメイズは、ご婦人たちに大人気だった。
用意していた“ヴィルメイズのふりかけ”は、少し前から飛ぶように売れている。きっと、イーリンやノアが宣伝してくれているのだろう。
“水天宮神社オリジナルサングラス”、“イーリン印の戦勝祈願お守り”、“トール印の身代わり人形”に並ぶ、水天宮神社の人気グッズだ。
なぜか、ふりかけにだけ“印”という言葉が付いていないし、原材料の表記も「ひ・み・つ」となっているが、きっと非合法な品ではないはずだ。
「しかし、このふりかけ一体何が入っているのでしょうか? そういえば最近私の角がなんだか細くなってきたような……」
少しだけ短くなった角に手を触れ、ヴィルメイズはそう呟いた。
逢いに行ける神様。
水天宮神社のコンセプトはそれだ。
それゆえ、ノアの案内して来た参拝客たちの話を聞いて、加護を与えるのも妙見子の大事な務めである。
「貴方はよく頑張っておられます……神である私が言うのですから間違いありません……ささっ母の胸に飛び込んでくるのです♡」
本殿の奥に座した妙見子が、慈愛に満ちた笑顔で両腕を広げる。ママ味溢れる友人を参考にした、母なる者ムーブは功を奏しているようで、本殿にはずらりと参拝客が並ぶ。
ママ敵性に物を言わせた癒しのオーラ。
さらに、控えたノアがタイミングを合わせてヤタラトヒカルダケの粉末を撒いているのも、妙見子の神性さを強調していた。
参拝客たちには、妙見子がいかにも神らしい後光を背負って見えるだろう。
「きっとご加護がございます。さぁ、次の方……あっ」
ぱっ、とノアがヤタラトヒカルダケの粉末を撒いた。
瞬間、ひゅうと風が吹く。
撒き散らされた粉末は、ノアと妙見子の顔にかかった。
「あ“ぁ”ぁ“!! ちょっ、ノア様!? 目がぁ! 目がぁ! 網膜に粉末が付いて、目を閉じても眩しいんですけどぉ”!!」
「た“み”こ“ち”ゃん“! どこにいるの! すぐに助け……! やっぱり助けてもらっていいかなっ!」
「信じる者は救われますんで、ご自分でどうにかしてくださいませ!」
「うあ“ぁ”ぁ“あ“ぁ”ぁ“あ“ぁ”ぁ“ん!! 前が見えないぃぃ!」
大惨事とは、こういう状態のことを言う。
弁天会。
水天宮神社最寄りの街を拠点としている反社会勢力の名前である。
この辺りで祭りと言えば、その全てが弁天会のシノギである。ゆえに、今回の水天宮神社で開催された祭りは、ある意味で横紙破りとも言える。
「それで、おめおめとやられっぱなしで帰って来たんか? ワレ、それでも弁天会の一員かい」
林の奥には10人を超える男たち。
地面に座った男2人は、少し前に京に絞められた者たちだ。項垂れ、身体を強張らせている2人を詰めるのは、40手前の男性だ。名を愛川という弁天会の若頭である。
「ワシら、舐められたら終わりじゃろがい。ったく、情けない様晒しとんじゃねぇぞ」
煙草を地面に吐き捨てて、愛川は男の襟首をつかんだ。
「お前らがそんな様じゃけぇ、ワシが苦労することになるんぞ? 分かっとんや?」
淡々と。
けれど、口答えは許さないという意思を感じさせる声音だ。
「まぁ丁度えぇじゃろ。これで、カチ込みかける大義名分が出来たけぇのぉ」
愛川が後ろを振り返る。
10名を超える手下たちは、手に手に棍棒や角材を携えている。
けれど、しかし……。
「おうおう、どこの組のモンよあなた」
女の声だ。
芥色の浴衣を羽織ったイーリンが、葉巻を燻らせ男たちの前に出る。
イーリンの後ろには、舎弟のように控えたトールの姿もあった。トールの右手にはオーラバット。左手には、愉快玉。いかにもチンピラ然とした様子で、男たちを睨みつける。
「どこのシマのモンか言うてみぃ! このイーリンの姉御の般若と妙見子組の代紋が目に入らんかい!」
イーリンが浴衣を脱ぎ捨てる。
その背中には、般若のタトゥー(シール)。どこの組の者だろうか。どよ、と男たちがざわついた。落ち着いているのは、愛川だけだ。
「弁天会じゃこらぁ。おどれら、誰の許可を得て祭りなんぞしようとしとんじゃ、ワレぇ」
「上等だゴルァ! そこまで言うなら目にもの見せてやらぁ!」
「神使の時間よオラァ!」
トールがデーm……愉快玉を掲げる。
半球2つを組み合わせたような、奇妙な形状。半球2つの間に刺さったスプーンを、イーリンは躊躇なく引き抜く。
「あ“ぁ”!? なんじゃワ」
愛川の言葉は最後まで続かない。
半球同士が触れあった瞬間、青白い閃光が解き放たれた。
爆発オチ?
いいえ、これは神罰です。
●妙見の子
境内中央、舞台の前に参拝客が集まっている。
「うちの神社はお仕事の縁や、特注衣装の依頼の受理祈願を祈ってこの愉快玉をお供えする人がたくさんいるんです。貴方もこれからのお仕事の縁を祈ってみてはいかがでしょう?」
「お代はこちらのお賽銭箱にお願いするわねぇ」
客の間を練り歩き、ノアは次々に愉快玉を売っていた。見慣れぬ花火程度に思っているのだろうか。その様子をメリーノがカメラで撮影している。
もうじき、舞台の幕が上がる。
今日のメインイベント……歌って踊れるご神体、妙見子ちゃんのステージだ。
偶像と書いて“アイドル”と読む。
ライブ開始の数分前。
舞台袖で、妙見子は震えていた。
「自分で言っておいてなんですがなぜ妙見子がセンターに……?」
「大丈夫よ妙見子、貴方がセンター。歌って踊って会いに行ける神様として、この神社を知らしめるのよ」
そんな妙見子の肩を、イーリンが叩く。
「イーリン様までそんな意地悪なこと……」
「バックダンスは任せて!!」
「明日の希望を取り戻しましょう、妙見子さん!」
「女性の皆様は任せてください。甘いボイスで歌って女性を軽率にドキドキさせていきますからね~」
京、トール、ヴィルメイズも力強く頷いた。
イーリンを含めた4人の手には、愉快玉が握られている。
3人の応援を受けて、ついに妙見子は覚悟を決める。
「うぅ……が、頑張りますとも!!」
「奮い立った? よし、行くわよ!」
そして、ステージの幕が上がる。
「私達のステージに!」
「みんなー! 今日は来てくれてありがとう!」
イーリンの掛け声。
観客たちから、歓声が上がる。
降り注ぐヤタラトヒカルダケの粉末。
「ラッキーだと思って見てけ見てけー、野郎どもー、あっはっはー!」
躍動する筋肉、揺れる胸、バク宙を決める京。
ヴィルメイズが流し目を送れば、女性たちが黄色い悲鳴を上げた。中には失神する者さえいる。このライブは伝説になる。否、これは伝説の始まりに過ぎない。
「ちらの妙見子様グッズが貴方を不幸から守り、光り輝く未来に導いてくれることでしょう!」
合間に挟まれる、トールのセールストーク。
左右に別れたトールとヴィルメイズが、センター……妙見子にヤタラトヒカルダケの粉末を撒いた。
輝きの中、妙見子が高らかに歌う。
「メイデンハートで鉄の心を手に入れたら乙女★無双で気分はHigh! 復讐積んで貴方の心を狙い撃ち! 私が救世の乙女です!」
妙見子は最高に輝いていた。
「誰もが目を奪われていく……完璧で究極の神様!」
観客のボルテージは最高潮に達していた。
「京ちゃん! 視線こっち頂戴!ひ らひらするお洋服から見えそうで見えないその角度! ああっヴィルメイズちゃんも、ダンス上手ねぇ! 京ちゃんとブレイクダンスの! 共演! 今よぉ! 今なのよぉ!」
誰かの言葉を皮切りに、次々と舞台へ何かが投げ込まれる。
おひねりちゃんだろうか。
否……それは、愉快玉。
「なんですかこの光は……は? ヤタラトヒカルダケではない?」
と、いうことは、つまり。
「アアッー!!!!!!!」
本日2度目の愉快玉。
誰もが目を晦ませてく、完璧で究極のチェレンコフ!
青白い閃光に目を焼かれ、トールは舞台に倒れていた。
ぐるぐると目を回しながら、トールは呟く。
「うん……分かってきましたよ……そうか、水天宮神社と愉快玉と妙見子さんの関係はすごく簡単なことだったんですね」
トールはすっかりチェレンコフ光にやられてしまったのだろう。
そんな彼女を一瞥し、メリーノはにぃと口角をあげた。
メリーノの脇には、賽銭箱が抱えられている。
「あ“ぁ”!? 目がぁ! 目がぁ!」
妙見子が藻掻いている。
そんな彼女の足元へ、メリーノは笑顔で愉快玉を放った。
「アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー……お客様はいっぱい増えたから任務は達成でしょ?」
閃光を背に、メリーノは神社を立ち去っていく。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
無事に水天宮神社の信者が増えました。
依頼は成功となります。
なお、本日の売上はどういうわけか消えました。
この度はシナリオのリクエストおよびご参加ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
水天宮神社の信者を増やす
●やること
水天宮神社に祀られる一柱(偽)として信者を集める。
手段は問わないが、洗脳はNG。
●アイテム
現在、妙見子の手により以下のグッズが用意されている。適宜、追加して信者獲得に役立てよう。
・水天宮神社オリジナルサングラス
水天宮神社オリジナルのサングラスです。強い光から目を守ります。
・イーリン印の戦勝祈願お守り
戦勝祈願のお守りです。最終的には本人の努力がものを言います。
・トール印の身代わり人形
不幸から身を守る身代わり人形です。キャストオフは出来ません。
・ヴィルメイズのふりかけ
ふりかけです。あるとお米が美味しくなります。
・ヤタラトヒカルダケ
やたらと光るキノコです。大量に採取して来たので、大量に備蓄されています。
●フィールド
豊穣、高天京郊外。水天宮神社。
海辺に建立されている。
ご神体として、デーm……愉快玉が祀られています。
https://rev1.reversion.jp/guild/1361/shop/detail/2961
近くには港や、農村、旅人の泊まる宿場などがある。
水天宮神社の信者を増やしましょう。
※各人の集めた信者は、最終的には妙見子さんに帰属することになります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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