PandoraPartyProject

シナリオ詳細

リアオ・グアン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●傷癒えし魔種
 鉄帝はギア・バジリカより程遠い場所にある、ごく小さな庵。
 その庵の前で、巨躯の武人がブンブンと巨大な青龍偃月刀を振り回していた。
 筋骨隆々とした体躯は赤銅色に灼けており、その身体には無数の傷痕が刻まれている。もっとも、この男がその傷を苦にしている様子はない。
「――良き頃合い、であろうな」
 常人にはおよそ持ち上げることさえ難しそうな青龍偃月刀を、あたかも棒切れの如く振り回し続けていた男は、ふぅ、と一息つくと満足げな笑みを浮かべながら独り言ちた。
 
 覇竜での、そして天義でのイレギュラーズ達の活躍は、断片的ながらも男の耳に届いている。
 かつて対峙した時よりも、実力を付けていることは疑いあるまい。
 だが、それは男にとっては望むところだった。むしろ、そうでなくてはつまらぬと言うものだ。

●討伐依頼
 その晩、朔(p3p009861)が男の住む庵を訪れた。普段とは違う男のただならぬ様子に、朔は思わずゴクリと唾を飲みながら問うた。
「わざわざここまで呼びだした用事は、何だい?」
「うむ――貴公等に、とある魔種の討伐を依頼したいのだ」
「……魔種の討伐だって!? まさか――」
「察しが良いな。そのまさか、だ。討伐対象は、この儂――リアオ・グアン」
 動揺を隠しきれない様子の朔に、ニヤリとした笑みを浮かべながら男――憤怒の魔種リアオは言った。
「でも、何だって今更……ひっそりと、このまま生きてればいいんじゃねえの?」
「魔種の存在が、世界を滅びに導くのは知っていよう? 儂は、この世界に居ってはならぬのだ。
 今更になったのは、満足いく最期を迎えたいと、傷の完治を待っておったからよ」
「……理人は、如何するんだよ。あんたに、随分と懐いちまったじゃねえか。
 俺だって、急にあんたを斃してくれと言われて、はいそうですかなんて……!」
 朔は、混沌に召喚される前からの知己である足代 理人の名を出した。朔、理人、そしてリアオの三人は、鉄帝を襲った動乱の後もしばしば語らったりなどして親しくなっている。
「理人には済まぬが、貴公から話してやってくれ……面倒をかけるが、頼む」
 ガシッと両手で朔の両肩を掴み、懇願するようにリアオが頭を下げた。それに対して朔もいくらかは言葉を返したが、最終的には折れて依頼を受け入れた。

●情と理と
 リアオと別れた朔は、重い足取りで理人の元へ向かうと、リアオからの依頼について話した。
「如何して、そんな依頼を受けたんですか!?」
 涙ながらに抗議する理人の反応は、朔の予想どおりだった。
「でもな、理人……」
 それに対して、魔種は世界を滅びに導くため存在させてはならぬものであること、リアオはそれを承知しているからこそ朔に討伐を依頼してきたことを説いた。
「それに、何より……」
 朔が依頼を断ったところで、リアオは別のイレギュラーズに自身の討伐依頼を持ち込んだだろう。つまり、リアオが最期を迎える結末は変わらない。
「それなら、俺達で満足いくように送ってやろうじゃねえか。な?」
 朔の言葉に理人は押し黙っていたが、朔が説いたことは理人にも十分理解できるところだった。理人はひっく、ひっくとすすり泣きながらも、朔と共にリアオを送ることに決めた。

●依頼執行の日
 その日は、気持ちの良い秋晴れだった。澄み渡る空の下、草原の上を心地よい秋風が吹いている。
「うむ。死ぬには良き日だ。では――朔よ、理人よ、イレギュラーズ達よ! 儂からの依頼、見事果たしてみせるが良い!」
 裂帛の気合いと共に大声で叫ぶと、リアオは青龍偃月刀を構えた。
 リアオにとっては最期の戦いが、朔と理人にとってはリアオを送る戦いが、始まろうとしていた。

GMコメント

 ご無沙汰しております、緑城雄山です。
 鉄帝編終了より大分時間が空いてしまいましたが、鉄帝編の後日談となるシナリオをお送りします。
 リアオの依頼に応えて、リアオを討伐して下さい。

●成功条件
 リアオの死亡

●失敗条件
 理人の死亡

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 ギア・バジリカから少し離れた草原。時間は昼間、天候は晴天。
 環境による戦闘への補正はありません。

●初期配置
 イレギュラーズ達は一カ所に固まっており、リアオとは約40メートル離れた位置にいます。

●リアオ・グアン ✕1
 今回の依頼人、かつ討伐対象です。
 元は新皇帝派の憤怒の魔種でしたが、革命派の難民キャンプ襲撃の際に理人やイレギュラーズと戦ったこと、その後も不本意な任務を与えられたことから、新皇帝派から離反し革命派に帰順しました。
 憤怒の魔種でありながら、感情をコントロールできる冷静な武人肌です。自身が世界にとって存在してはならぬものであることは認識しており、鉄帝編で受けた傷がすっかり癒えきったこともあって、自身の討伐依頼を朔さんに出しました。
 筋骨隆々の体格の良い男で、顎に流れるような顎髭を生やしています。手には青龍偃月刀を持っており、鉄帝軍人でありながら何処かいわゆる中華風の武将と言った態をしています。
 一撃の威力が高く、生命力もかなり高くなっています。中華風の鎧は纏っていますが、それにしては動きは機敏で回避が低いと言うこともなく、また青龍偃月刀を攻防一体で使いこなしてくるので、防御技術も高くなっています。
 また、今回の戦いを最期の戦いと思い定め、死力を尽くして戦った上で死ぬことを望んでいます。その気迫はすさまじく、一時的にEXFが確実に判定成功する領域まで上昇しており、自身の行動を阻害する要素は無効化してきます。

・攻撃能力など
 青龍偃月刀 物至単 【邪道】【鬼道】【出血】【流血】【失血】
 薙ぎ払い 物至範 【邪道】【鬼道】【出血】【流血】
 衝撃波 神遠範 【邪道】【鬼道】【出血】【流血】
 再生能力
 【怒り】無効
 【封殺】無効
 行動阻害系BS無効
 【重圧】無効
 BS緩和

・リアオへの【怒り】について
 リアオは【怒り】は無効化しますが、自分こそがリアオが最期に戦うに相応しい敵だと示すことで、その攻撃を誘引することは可能です。
 言うなれば、システム的には【怒り】は無効となりますが、相応しい言葉を投げかけることで【怒り】相当の効果を通せます。
 なお、言葉を投げかけてリアオへの攻撃を誘導した場合、攻撃を誘引した人物を庇うと言う戦術を採ると、リアオはそれを見抜いて醒めてしまい、攻撃の誘導は効果を失いますのでご注意下さい。

●足代 理人
 朔さんの関係者です。朔さんとは元の世界で交流があり、朔さんより先に混沌に来ました。
 義足による足技を使うことが多く、遠近問わず攻撃可能です。
 基本的な戦闘能力は高く、こちらも鉄帝編で受けた傷は完全に癒えて本調子です。
 【必殺】持ちではありますが、イレギュラーズ達の中に誰も【必殺】持ちがいない場合を除き、リアオに止めを刺すことはありません。
 理人の詳細については、以下の設定委託をご覧頂ければと思います。
 『解き放たれし、身体と闇』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/4011

●リアオ関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
 『<革命の聖女像>鮮血の狂戦士』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8564
 『<クリスタル・ヴァイス>絶望の縦深陣』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9044
 『<天牢雪獄>魔将の離反』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9166
 『<鉄と血と>魔種を以て陽動と為す』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9291

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。

  • リアオ・グアンLv:40以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年10月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
朔(p3p009861)
旅人と魔種の三重奏
金熊 両儀(p3p009992)
藍玉の希望
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

リプレイ

●かつては味方として、今は敵として
「鉄帝動乱以来か。久しぶりだな、リアオさん――貴方は、革命派に帰順した時からこの結末を見据えてたわけか」
 かつては肩を並べて戦い、そして今は敵として対峙している魔種リアオ・グアンに、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は真剣な表情で尋ねた。そのイズマに対し、リアオはニヤリと唇の端を吊り上げて笑いながら、応えた。
「おう。如何にも、左様」
「……俺も、魔種ならばいつか討つ日が来ると思ってた。だから、俺もこの時を待ってたよ。
 悔いなきように、全力で。最期を飾るに相応しい戦いをしよう!」
「無論!」
「……」
 そのやりとりを聞きながら、『旅人と魔種の三重奏』朔(p3p009861)と、その友である足代 理人は何とも言えないような、複雑な表情をしていた。
 朔にせよ、理人にせよ、リアオからの依頼を聞かされて以来、全く心の整理が出来ていない。
(理人もそうだけれど、俺もそれなりに心を許していたんだな……)
 こう言う状況になったからこそ、朔はその事実をはっきりと自覚した。
 ともあれ、このまま心の整理を付けられないままではいられない。もうすぐ、リアオとの戦闘は始まるのだ。朔の知るリアオの実力からして、生半可な心持ちではリアオを送るどころではなくなるだろう。
「……あいつが望むんだ。良い最期にしてやろうじゃないか」
 声を絞り出すようにしながら、朔が傍らの理人に告げる。
「……」
 だが、理人にはまだわずかに逡巡が残っている様子だ。
「リアオさんは覚悟が決まってるのに、理人さんはどう!? ちゃんと立って! しっかり彼を見て!」
 そんな理人に、『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が声をかけた。今回の戦闘で理人のカバーを務めるフラーゴラとしては、その対象である理人にしっかりしてもらわねば困る。
 フラーゴラの声にハッとしたような表情をした理人は、残っている逡巡を捨て去り、闘志を漲らせながらリアオを真っ直ぐに見据えた。
(それでよい、理人)
 その視線を察知したリアオは、理人に向けて優しい、父か兄を思わせるような笑みを向けた。
(なかなか筋の通った人のようだし、ワタシとしても殺してしまうのは惜しい……でも)
 魔種である以上は、討たねばならない。歴戦のイレギュラーズであるフラーゴラは、そのことをよく識っている。
(だったら……やるしかないね。後悔のない、いい時間にしよう)
 この後の戦闘、その初動に向けて、フラーゴラは意識を集中した。

(自らの討伐依頼を出した魔種……かぁ……)
 『芽生え』アルム・カンフローレル(p3p007874)からすれば、リアオは魔種としては奇妙な部類に感じられた。
 ただ、過去について記された報告書で識る限りでは、武人肌で義理堅い人物なのだろうとは察せられる。
(呼び声に応えてなければ、きっと頼もしい仲間になっただろうに……)
 アルムはそう思うが、今更の話ではある。魔種は討伐せねばならないし、本人も朔や理人、イレギュラーズ達によって最期を迎えるのを望んでいる。となれば、アルムとしてはリアオが満足して逝けるように、手伝うまでだ。
「彼みたいに、自らを律せる魔種ばかりであれば……」
「どれほど、違ったことでしょうね」
 『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)のつぶやきに、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が応じる。だが、最早詮無いことを、カインもオリーブも十二分に理解している。だからこそ。
「彼の様な相手に対しては全身全霊で依頼に臨まないとね。全力には全力で。いざ、尋常に、ってね!」
「ええ。力の限り戦い、皆で勝利を収めるとしましょう」
 言葉を交わして頷き合いながら、カインとオリーブは戦意を漲らせていった。
「ほんに気持ちのえい武士(もののふ)じゃのう! 武士の最後は戦場と決まっちょる。それを分かっちゅうとは……くぅ〜!」
 リアオの覚悟に対し、感極まった声をあげているのは、『特異運命座標』金熊 両儀(p3p009992)。
「儂ぁ、こがぁな武士と斬り合うて見たかったんじゃ!」
 両儀は嬉々として、大太刀を模した木刀『悉殲』を構えた。

●怒濤の攻勢
「行くよ、リアオさん……!」
 戦闘の口火を切ったのは、フラーゴラだ。フラーゴラは、リアオの周囲に揺蕩う根源たる力を、穢れた泥へと変じていく。
「ぬっ……!」
 神速とも言えるフラーゴラの動きに対応出来なかったリアオの運命が、漆黒に塗り潰されていく。
「ハイペリオン、力を貸して……!」
 さらにフラーゴラは、自身のオーラと神翼獣ハイペリオンの権能を用いて、小さなハイペリオンの姿をしたミニペリオンの群れを召喚した。ミニペリオン達は、次々とリアオに体当たりを敢行してその生命力を削っていく。
(自分の討伐を依頼してくる敵っていうのも……なんや不思議やな……)
 『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)はそうは思うが、だからと言って手を抜くつもりはない。
「倒されたいと言う、その思いも汲み取って――火野・彩陽。いざ、参る!」
「リアオ・グアン、相手しよう! ――うぬぅっ!?」
 柄でもなさを感じつつ、フラーゴラとほぼ同時に彩陽が動いた。彩陽はリアオの周囲に魔空間を展開すると、その中にリアオを呑み込ませた。魔空間から逃れたリアオの身体には、だらだらと鮮血が無数の流れを作って滴り落ちている。
(最初から……全力を叩き込む!)
 リアオが魔空間に囚われている間に、カインは自らの身に魔神を降ろしていた。そして、掌を魔空間から逃れたばかりのリアオに向けると、そこから魔神の魔力を光線状にして撃った。味方がリアオに接敵すれば誤射する恐れがあるため、その前にしか放てない全力の一撃だ。
「ぐおっ!」
 魔力の光線はリアオに直撃し、その胸部と腹部の大半を灼き、呻き声を上げさせる。
「鉄帝動乱の後も、イレギュラーズの戦いは世界を救うまで終わらない。俺はその前線で戦い続けて今日に至った。
 ……俺はあの時よりも強くなったぞ。貴方はどうだ? 死合うなら後悔させないよ。俺と戦ろう、リアオさん!」
「ふむ、良いな……そうでなくては、つまらぬ」
 鋼の細剣『メロディア・コンダクター』の切っ先を向けたイズマは、リアオに語りかけてその注意を引きにかかった。イズマの誘いに、リアオは喜色を浮かべながら、興味津々と言った態でイズマに対し視線を向ける。それを確認したイズマは、至高と光輝の魔術をリアオに放った。白く光り輝く魔力が、リアオに命中すると、その身体を束縛せんとする。
「ぐぬっ、これしき……フンッ!」
 だが、リアオは魔術によって傷は負いつつも、気力を振り絞って束縛には抗った。
 フラーゴラ、彩陽、カイン、イズマの四人によるほぼ同時とも思える攻撃が、終わった。その次に動いたのは、オリーブだ。
(――此処が、自分の居場所です)
 リアオの至近にまで一気に踏み込むと、ロングソードを縦横無尽に振るう。その剣閃は鉄帝に伝わる対城技を対人用に派生させた技のものであり、青龍偃月刀による防御が間に合わなかったリアオの身体に、幾重にも深い斬撃の痕を刻み込んでいった。
「ぬうっ!」
「まだ、終わりませんよ」
 さらにオリーブは、素早く獲物をクロスボウへと持ち変えると、至近距離からリアオを撃った。その脇腹に、クロスボウの矢が深々と突き刺さる。その矢に込められた呪縛が、リアオの身体を蝕んだ。
(あいつの再生能力は止まったか。それなら――)
 オリーブの斬撃がリアオの再生能力を阻害し、リアオが受けた傷が癒えていないのを確認した朔は、白銀のライフル『白い死神』を構えると、一弾一殺を叶える魔弾をリアオの胸板へと撃ち込んだ。銃弾がリアオの肉を穿ち、鮮血を噴き出させる。もっとも、人間であれば一弾一殺でも、タフな魔種であるリアオがこれで斃れることはない。
 だが、戦闘を長期化させかねないリアオの再生能力が封じられた以上、朔の為すべきはリアオの最期の瞬間の直前まで、気力の保つ限りこの魔弾をリアオに叩き込み続けることだった。
 その狙撃とタイミングを合わせるように、理人が足技による衝撃波をリアオの頭に命中させていた。朔と理人、二人からの攻撃を受けたリアオは、微かによろけて呻きつつも、小さく縦に頷いた。それで良いのだ、とでも言うかのように。
「まずは一太刀、馳走するぜよ!」
 悉殲を大上段に振りかぶりつつ、両儀はリアオへと駆け寄った。そして、渾身の力を込めて、一息にリアオ目掛けて振り下ろす。リアオはその一撃を青龍偃月刀で受け止めようとしたが、漆黒に塗り潰されたリアオの運命がそれを許さず、悉殲がリアオの頭に直撃する。
「ぐうっ……見事!」
 頭を強打されてよろめいたリアオは、両儀の真っ向から敵をねじ伏せる一撃を賞賛した。もっとも、両儀にとってはこれは挨拶代わりに過ぎない。両儀の本領は、戦闘が進み自らが傷ついてこそ発揮されるのだから。
「では、儂からも行くぞ!」
 イレギュラーズ達からの攻撃を受け続けてきたリアオが、反撃に出た。その標的は、「俺と戦ろう」と誘いかけてきたイズマだ。
 リアオは青龍偃月刀を大上段に振りかぶると、目に見えぬほどの速さで一気に振り下ろす。危険を察知し、守りを諦めて辛うじて直撃を避けたイズマの、肩から腰にかけてがザックリと深く斬り裂かれた。
(……さすがだ、リアオさん。だけど!)
 身を裂かれた激痛を堪えながらも、大振りに青龍偃月刀を振り下ろしたリアオの隙を衝いて、イズマはメロディア・コンダクターの刀身を強かに突き立てていた。
「……やるな」
 イズマの反撃を受けて、リアオが愉しそうに笑う。
(やはり、彼の一撃は重いか)
 すかさず、アルムがイズマに向けて幻想の福音を紡ぎ出した。その福音がイズマに届くと、イズマの受けた傷は幾分か癒やされていったが、完治にはまだまだ遠い。それでも、仲間達の中でも主な回復担当としては、誰一人として戦闘不能や死亡に陥らせるつもりはなかった。

●魔種とのタイマン
 一撃一撃の威力が重いリアオの攻撃に対し、イレギュラーズ達はイズマと朔が交代でその攻撃を誘引し、標的となる戦術に出た。リアオの攻撃を誘引すること自体は、成功していた。イズマの口上は武人肌であるリアオの関心を惹いていたし、朔がイズマと交代して標的にならんとすればそれはそれでリアオにとって拒む理由はなかった。
 だが、アルムとフラーゴラが二人がかりで回復を担い、さらにイズマによる自力での回復を含めても、その戦術は破綻しかけていた。回復は次第に追いつかなくなり、イズマも朔も、既に可能性の力を費やしてしまっている。
 もちろん、リアオもイレギュラーズ達からの攻撃を受け続け、常人ならば何十回と死んでいてもおかしくはないほどの傷を受けてはいるのだが、消耗はしていてもその生命力の底はまだ見えていない。
「儂ァ、おまんにタイマンの決闘を申し込むぜよ」
 このままではイズマも朔も倒れてしまいかねないと言うところで、両儀がリアオに言った。
「一騎打ち、と? ――面白い。受けて立とう」
 両儀の申し入れに、リアオは寸時考え込むも、快諾した。両儀の狙いが戦況の立て直しにあり、その時間を稼ぐことにあるのを、リアオは看破していた。だが、魔種を相手に一対一で戦うなどと言う、歴戦のイレギュラーズでさえも無謀と言える事をやろうとする両儀を、リアオが捨て置くことはできなかった。
(――此奴を冥土の土産話にするのも、面白かろう)
 故にリアオは両儀と一騎打ちを演じ、両儀を戦闘不能に追い込んだ。その時間は一分にも満たなかったが、執念じみた気迫を見せて何度か立ち上がってきた両儀が稼ぎ出した、貴重な時間だった。

●依頼は達成されり
 両儀とリアオの一対一の戦闘を経て、戦況はイレギュラーズ達の有利に傾き始めた。
 一対一の戦闘の間、イレギュラーズ達は体勢をある程度立て直せたのに比べて、リアオは両儀によってしっかりと生命力を削り取られていたからだ。如何に魔種の中でもタフなリアオと言えど、生命力が無限にあるわけではない。はっきりと見え始めたその底に、もうすぐ到らんとしていた。

(もう、彼も限界のはずだ。ならば――)
 これまで仲間達の回復を最優先としていたアルムだったが、ここは畳みかけるべきと判断し、攻勢に出た。邪悪を灼く破邪の聖光が、リアオを包みこむ。
「フフフ……ハハハハハハ!」
 破邪の聖光にその身を灼かれながら、リアオは苦悶に呻くのではなく、高らかに笑い声を上げた。これまで仲間の回復ばかりを行ってきたアルムが攻勢に出て来たと言うことは、もう最期の刻が近いと悟ったからだ。
(これが、最後。ハイペリオン、お願い――!)
 残る全ての気力を振り絞り、フラーゴラはミニペリオンの群れを喚んだ。多数のミニペリオンの群れは、次々とリアオに襲い掛かり、体当たりをかけんとする。リアオは青龍偃月刀でミニペリオンの群れを防がんとしたが、その全てを防ぎきることは出来ず、さらに生命力を削られていった。
(最後に決めるのは、俺よりも相応しい人がおるしな。せやったら、アシストに回ろか)
 そう判断した彩陽は、既に組み上げている高度な掌握魔術を、極細の無数の糸として放った。触れるものを尽く斬り刻む魔力の糸は、リアオの身体に絡みつくとその肉を斬り裂いて血を流させると同時に、身体の動きを鈍らせた。
「全く、凄まじい最期の輝きだ……でも、それももうすぐ終わる!」
「それは如何かな? 甘く見るでないぞ!」
 そう叫ぶリアオ自身が終わりを認識している事を、カインは容易に看取していた。だからと言って、リアオが言うように甘く見るつもりはない。全身全霊でこの依頼――リアオの討伐に臨むスタンスは、何ら変わっていないし変えるつもりもない。カインが全力で放った邪悪を灼く破邪の聖光が、リアオを包み込んだ。さらにその身を灼かれたリアオは、それでもまだ倒れない。
「心躍る、良い戦いだった。貴方を討つのは残念だが、魔種は混沌に居られないのも事実だ――心残りなく、逝ってくれ」
 己が身に魔神を降ろしたイズマは、その魔力をメロディア・コンダクターの先端に集中させると、魔力の光線を放った。メロディア・コンダクターによって誤射しないよう調整された光線は、リアオの胸に直撃した。一瞬その場に崩れ落ちるかと思われたリアオの身体だったが、青龍偃月刀を杖代わりとすることで辛うじて崩れ落ちずに耐えた。
「勝った気に、なるのは……まだ、早いのではないか?」
 荒い息の下からそう言うリアオだったが、最早強がりにしか見えないのは誰の目にも明白だった。
(如何にか……立っていられましたか)
 最前線から一切退くことなくリアオと戦い続けたが故に、オリーブは青龍偃月刀の横薙ぎの一閃を幾度も受け、既に可能性の力も費やしていた。元より、死ぬために戦うような奴の前から退いてやる気はなく、力尽き倒れることさえも覚悟はしていた。だが、倒れずにすんだようだ。
 もっとも、立っていられようと、そうでなかろうと、オリーブのやるべきことは変わらない。自身の剣閃を以て、リアオの生命を極限まで削り取るのだ。
 その身に受けている傷の深さを威力に転じた、ロングソードの一閃が、リアオを袈裟に斬った。ロングソードの刀身は鎧もろとも、リアオの肉体を紙の如く深々と斬り裂いていく。深く斬り裂かれた傷口からは、鮮血が派手に噴き出した。それでも――なお、リアオは倒れることなく立ち続けている。
 オリーブがリアオを斬っている間に、朔は白い死神の照準を定め終えていた。朔としては、理人にリアオを斃させたくはなかった。それは理人には似合わない役回りだし、何よりもしそうさせてしまったならば、理人はこの先ずっとそれを背負い続けてしまうだろう。理人のそんな様など、朔は見たくない。
(――あばよ、戦友。あの世で会おうぜ)
 心を無にして、朔は静かに白い死神の引金を引いた。タン! と銃声が響いたと同時に、生命を奪う奈落の弾丸が、リアオの眉間に吸い込まれていく。
 ふ、と、朔と理人に優しげな笑みを向け、何かを語りかけるかの如く唇を動かしながら、リアオの巨躯はゆっくりと、仰向けに倒れていった。その死に顔は、何処までも満足げな笑顔であった。

「リアオさん……リアオさん……! うわああああっ!」
「……泣かないで、理人さん。一緒に、リアオさんのお墓を作ろう?」
「ああ。共に戦ったあいつを、忘れないように……な?」
 リアオの遺体に取りすがり泣きわめく理人を、フラーゴラが宥める。そして、共にリアオを埋葬しようと誘うと、朔も共に誘った。理人はひっくひっくとまだ泣きじゃくりながらも、イレギュラーズ達と共にリアオの墓を作った。
 戦場となった草原の、やや小高い場所にリアオの遺体は埋められ、リアオの遺した青龍偃月刀が墓碑代わりとなった。イレギュラーズ達はそれぞれの思いを胸に、リアオの墓前で、黙祷を捧げるのだった。

成否

成功

MVP

金熊 両儀(p3p009992)
藍玉の希望

状態異常

オリーブ・ローレル(p3p004352)[重傷]
鋼鉄の冒険者
イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色
朔(p3p009861)[重傷]
旅人と魔種の三重奏
金熊 両儀(p3p009992)[重傷]
藍玉の希望

あとがき

シナリオへのご参加、ありがとうございました。
皆さんのおかげで、リアオは満足して逝く事が出来ました。

MVPは、無茶とも言える魔種相手の一騎打ちを申し出てリアオに快諾させ、
【棘】と【復讐】でリアオのHPを削りつつ味方が立て直す時間を
稼いだ点をポイントとして、両儀さんにお送りします。

それでは、お疲れ様でした!

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