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シナリオ詳細

<黄昏の園>花の名知らず

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――ねえ、オジサマ。あのお花はなあに?

 問えば、何時だって優しい声で教えてくれた。膝に抱き上げ、優しい声で名を呼びながら何だって教えてくれたのだ。
 父と母を喪ってからもそれは変わらず、『珱家もこの調子だと直系が里を抑えるのも厳しいのではないか』という声からも何時だってあの人は護ってくれた。
 私にとっての星。美しい星。何時だって目標だった、一等星。
 その星が陰ってからも教えの通り進んで来た。
 世界を見て、未知を既知とする。そんな理想を胸にしたとしてもあの人は笑わなかった。
 寧ろ、沢山のことを知りなさいと教えてくれたのだ。

 ――琉珂、未だ見ぬ場所には見たこともないような美しい景色が広がっているかも知れない。
   それを見たときに何を思ったのか、教えておくれ。綺麗だ、だけでもいい。心の底から思った言葉がいい。
   沢山、沢山の言葉を集めて、束ねてから、どうか言葉の花束を私に送って欲しい。

 ええ、オジサマ。
 アナタの作ったこのヘスペリデスはとっても綺麗で、とっても――とっても、寂しいわ。


「あ、琉珂!」
 手を振ったのは朱華(p3p010458)であった。彼女の姉、煉・紅花はヘスペリデスへと辿り着いた旨をフリアノンに伝えるために一度帰路を選んだらしい。
 女神の欠片を集めて、これからの未来を切り拓く――『花護竜』と白堊の話を信用するかはさて置いて、ヘスペリデスについて知っておくのは悪くはないだろう。
「朱華、取りあえず探索してみましょう。何か良い場所があるかも知れないわ。
 此処で活動するにも拠点やら色々な物は探しておくべきだものね。……ほら、こんな所にデザストルワライダケ」
 謎のキノコを手にしている『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)を見てから朱華は「それ料理に入れないでよね」と唇を尖らせた。
「食糧もある程度は確保為ておいた方が良いわ。テロニュクスが『女神の欠片を探せ』と言ったのなら、それって『此処で活動しても良い』と言うことだもの。
 オジサマはヘスペリデスの何処かに居るのかもしれないけれど……居場所を言わない辺り、簡単には見付けられないって事でしょうし」
 探索をして置けば隠れん坊ではないが探し当てられるかも知れないと琉珂は楽観的に言った。
「取りあえず色々探すところから、レッツ挑戦って事で!」
「うん、それは良いけれど、デザストルワライダケを捨てて」
「これをパンケーキに入れると、大笑いしながら動き出したのよ」
 入れないでと朱華はもう一度繰返してから肩を竦めた。
 明るく振る舞っているが、琉珂とて不安なことが多いのだろう。それは、竜と魔種より伝えられた話を信用できると彼女が考えて居るであろう態度からも良く分かる。

 ――ベルゼー・グラトニオスは只の魔種ではない。冠位と呼ばれ、原罪と呼ばれ、オールドセブンと呼ばれた『暴食』の頂きに立つ者だ。
 男は何れはどこかを滅ぼさねばならない。だが、別の国へと作戦行動を行なうには時間が足りなかった。
 男の腹の中には『光暁竜』パラスラディエ――『金嶺竜』アウラスカルト(p3n000256)の母である『リーティア』が居る。
 三百年余りも前に、男に起きた未曾有の危機にパラスラディエがその身を敢て犠牲にし、平穏を維持したのだ。
 彼女の言や他の竜種達の言う通りベルゼー・グラトニオスの権能は『暴食』そのもの。即ち、全てを食らい尽くす事の出来る無尽蔵な胃袋と呼ぶべきだ。
 彼の欠陥にもう一つ、付け加えるならば――『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオスは『権能をコントロール仕切れない』。

(何時か、フリアノンまで飲み込んじゃうかも知れない……か。
 ベルゼーはだからこんな場所に姿を隠したのかしら。琉珂とも会いたくないのはそれに巻込まないため)
 彼の考えは分かるが、何て自分勝手なのだろう。朱華も琉珂も同じ事を考えて居る。
 だからこそ、この地を探索し、イレギュラーズが『未知を既知』としておくことで有利に行動できるための準備を整えたい。
 竜と魔種がああ言ったからには制限時間は短い。
 ひょっとすればパラスラディエの『消化』はもう随分と進んでいるのかも知れない。
「朱華」
 ひょこりと顔を出した琉珂に朱華は肩を跳ねさせた。
「取りあえず探してみましょう。目的は決めたわ」
「何にするの?」
「寝れそうな場所! 序でに、美味しそうな食べ物よ!」

GMコメント

 宜しくお願い致します。

●目的
 ・眠れそうな場所(眠竜の寝所)の確保
 ・食べられそうなものを取りあえず集めてみよう

●ヘスペリデス
 『ラドンの罪域』を越えた先に存在している風光明媚な空間です。ピュニシオンの森から見て黄昏に位置し、この空間独特の花や植物が咲き乱れます。
 竜種達は「黄昏の地」「暴食の気紛れ」などと呼んでいます。その言の通り、この場所を作り上げたのは『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオスです。
 亜竜達の憩いの地である他、竜種達の住まいにもなっています。遺跡に見えるモノは見様見真似で石を積み上げただけのものであり、不格好です。衝撃で崩れ落ちる可能性もあります。 

 琉珂が目指すのは少しばかり花園を降った場所にある洞です。その名を『眠竜の寝所』と言います。
 一先ずはその場所まで辿り着いてみてから考えるそうです。何か居るかもしれませんので警戒だけして置いた方が良いでしょう。

 ヘスペリデスは特有の植生があり、様々な花やキノコ、草木が茂っています。名前も知らぬ新たな植物や動き回る美味しそうな動物が居るかもしれません。
 是非、色々採取しましょう。アーカーシュ等で取得したものに似ているかもしれませんし、新種ならば名前を付けてみても構いません。
 何を狙っているのか、どんな名前を付けたいのか、というのを琉珂に教えて上げると良いかも知れません。

●エネミー等
 勿論の事ながら此処は覇竜領域です。亜竜や竜種の襲来には備えておく必要があります。
 ある程度の対策を行なっておけばそれなりに対処は可能でしょう。空には注意を促しながら探索をしてみましょう。

●NPC『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)
 覇竜領域に存在する亜竜集落フリアノンの里長。ベルゼーが父代わりであった亜竜種の少女です。
 オジサマを一発ぶん殴って「分からず屋ー!」と叫びたいお年頃。
 行動原理は「里長として世界を広く見る」「未知を既知とする」です。竜覇は火、武器は鋏。
 初対面の方でも琉珂にとっては里の大事なオトモダチですのでお気軽に話しかけてあげてください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <黄昏の園>花の名知らず完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
囲 飛呂(p3p010030)
点睛穿貫
杜里 ちぐさ(p3p010035)
見習い情報屋
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者
ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)
指切りげんまん

リプレイ


 美しい花咲き誇るその場所は、乱雑に積み上げた石が遺跡を模していた。人の手を借りずして、人の文明を『真似』かのような奇妙な場所。
 それが黄昏に存在するヘスペリデスであった。美しく、それでいて生の息吹には終焉の気配を宿す場所。物寂しさを感じ取りながらも『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)はその地に佇んでいた。
「ここがヘスペリデス、か……。
 面白い知識だったり、手強い敵だったりが色々いるわけだから、まだ見ぬものをしっかりみるって意味でも、しっかり探索をしていきたいね」
 にんまりと微笑んだ咲良へと『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)が「頑張りましょうね!」と拳を振り上げた。
「ヘスペリデス……キレイな場所だけど、これってベルゼーが作ったのにゃ?
 魔種ってもっと破滅の権化みたいなイメージだけど、いろいろいるのかにゃ……?」
 ぱちくりと瞬いた『少年猫又』杜里 ちぐさ(p3p010035)に琉珂は「うん、オジサマは優しい人なのよ」と嬉しそうに微笑んで見せる。その笑顔を見てしまったならば、『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)の胸はつきり、と痛む事だろう。
 ちぐさの言う通り、魔種とは破滅の象徴だ。存在するだけで滅びのアークを蒐集し、世界を滅びへと導いてしまう――絶対的な敵。この地を作ったのはその魔種の中でも原初とされる『冠位魔種』の一人であり、目の前で朗らかに笑う琉珂の父代わりであったというのだから。
(琉珂さん、友達と楽しそうに話してて元気そうには見えるな……けど――出来るのは応援と協力、か)
 飛呂に「頑張ろうね」と意気込む咲良へと彼は大きく頷いた。琉珂に自身が示せるのはこれからを見据えた行動である。
「女神の欠片っての早めに集めりゃ、会えるのも早くなるだろ。その準備も大切だ、頑張ってこーぜ」
「女神の欠片、女神の欠片……ねぇ」
 それも魔種である白堊とベルゼーと懇意にして居る竜種から持ちかけられた『相談』ではある。『煉獄の剣』朱華(p3p010458)は少し悩ましげに唸った後、首を振った。
「まっ、連中を信用するにせよ琉珂の言う様に先ずは探索してみないとね!」
「よし、来た!」
「行きたいだけじゃないの?」
 照れくさそうに笑った琉珂に『竜は視た』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)は穏やかな微笑みを浮かべ、そっと耳打つ。
「里長様、お疲れではございませんか?」
「え、だいじょ――」
「……と言っても里長様はお疲れの時でも大丈夫とおっしゃるような気がいたしますね。たまには私のように真面目にサボるのもよろしいかと」
 サボる、と呟いてからヴィルメイズをまじまじと見た琉珂は「ヴィルメイズさんはサボっているの?」と揶揄うように笑う。
「ええ。まあ、ですが為すべきを為すのもまた大事。
 竜種や魔種の言うことを、どこまで信じて良いのかは悩むところですが……それしか手掛かりがないようであれば、探すしかないでしょうね。
 しかしこのヘスペリデスという所……綺麗ですが、何だか『不自然な』美しさといいますか……。まあ私の方が美しいということですね。 あっ勿論里長様も美しいですよ?」
 美しい二人と共に行くヘスペリデスツアーだと喜ぶ琉珂は『不自然な美しさ』という言葉に引っかかりを覚えた。確かにそうだ。作り物めいているのはベルゼーが手を加えたからだ。それでも――それにしては『静かで安全な雰囲気』なのだ。
 まるで、これから此処で何かが起るような、そんな違和感ばかりが存在している。
「……オジサマ……」
「ベルゼーさんは、以前の深緑に現れた時もあまり戦いに積極的ではなかった……再現世界とは言え、ROOでも友好的な存在だったんだ」
『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は琉珂の肩にそっと手を置いてから優しく声を掛けた。
「冠位魔種、とはいえ世界を滅ぼしたいわけじゃないのは分かる。大切な人を大事にしたいだけっていうのだって……信じて良さそうなのかな。
 ……あるいは、そうやって力を使わないでいるからこそ権能がいつかは暴走することになるのかもしれないけれど……。
 とにかく、今は少しずつでも進みましょう。ベルゼーさんにとって、大切なことになるなら」
 アレクシアの言う通り魔種や竜種の『提案』はベルゼーの苦しみを拭う一助になるらしい。
 琉珂ははたとアレクシアを見て思う。誰だって、大切な人が居て、その人を思うからこそなのだ。なんて、儘ならない世界なのだろう。


 白堊が琉珂に提案したのは『眠竜の寝所』という場所だった。一先ずのゴールにするならばそちらが安全ではないかという提案だ。
「『眠竜の寝所』。眠竜ですか……どこかで聞いたような……ROO?
 いえ、あれは確か……『微睡竜』オルドネウムか。『眠竜の寝所』というからには本当に誰かしらの竜種と関係あるのかもしれませんが……」
『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)はぶつぶつと呟いた。アレクシアは「オルドネウムってこっちではおとぎ話の竜……だっけ?」と琉珂に問い掛ける。
「うん。オルドネウムはおとぎ話の竜って言われてるわ、けど」
「ここに住んでたら面白いね」
 アレクシアと顔を見合わせた琉珂の傍で珍しく『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)が取り乱した。
「えっ? 待って。今から行く場所の名前って『眠竜の寝所』なの?
 えっ、待って、本当? まさか、まさかオルドネウムが、オルにーが居るの!!」
 焦っている。慌て、身だしなみを整えて、目線を右往左往している。現実では彼の姿が影も形もなかった、どころか『御伽噺』だと一蹴されてしまった。けれど、もし――此処に居たならば!?
「んんんんん?? ごめん、琉珂さん。オルドネウムってもしかして琉珂さんの友達だったりする!? もしくは珱の縁者とか!?」
「わ、ど、どうしたの!? え、えっとね……オルドネウムってフリアノンには伝説の竜として伝わっているわ。
 だから私は直接会った事は無いけれど、オジサマがオルドネウムの系譜の竜にいつか逢わせてあげるって言って居たから……」
 もしかしたら、と琉珂はЯ・E・Dにそう言った。伝承に語られた竜種だ。易々と出会えることはないのかも知れないが、その系譜に連なる物となれば――僅かにでも『推し』の気配を感じ取ってЯ・E・Dは限界オタクのように身を揺すったのであった。


「本当に、ある意味で御伽噺のような場所だね。見知らぬ植物に、美しい景色、朽ちた建造物は竜種が造ろうとした物だなんて」
 まるで物語の英雄だ。アレクシアは不思議そうに周囲を見回しながらも草を籠に摘んで行く。
 亜竜の襲撃には注意が必要だ。ファミリアーによる作歴を行ないながら、薬になりそうなものや食べられそうなものを優先して探し求める。
 特にアレクシアが手にしたのは眠竜と呼ばれた竜種が気に入ってくれそうな心安まる薫りの花だ。新種ではあろうが、穏やかな薫りが心を和らげる。
「成程……美しくはあるが、危険であるのは確か、か」
 リースリットの足元ではルゥが尾を揺らしていた。刺激が強いかも知れないが流石に氷狼の欠片だ。ある程度は適応しているこれも良い経験だとリースリットは相棒の背を撫でた。
 精霊達はこの地の美しさに惚れ惚れとしているようだった。風の精霊の助けを得て、リースリットは亜竜の接近に気付き仲間達へと声を掛ける。
 岩陰に身を隠したとき、ふと気になったのは散見された植物が見知ったものに酷似していたからだ。
「……しかし。この地域の植生がアーカーシュのものに似ているように感じるのは……気のせいでしょうか?
 勿論全く同じ訳ではないものの……例えば同源から枝分かれして独自進化を遂げたような……。
 リーベルタースを始め古い時代の文明の痕跡も散見されるけれど……もしかして、この地に存在していた文明はレビカナンと何か関係が……?」
「もしかすると、空から別れて落ちたのかもしれないね。それってとってもロマンだけど、直接的な関係はないかもしれないんだよね」
 所変われば、とも言うが時代のズレなどが生じれば全く別の文明も栄えるのだろう。咲良は不思議そうに植物を眺めて居る。アーカーシュやリーベルタース。そしてヘスペリデス。どれも共通するのは『混沌』という大地では変化を多く受けなかったという点だ。
「深緑に古代文明が残っていたりするし、旧い時代のものなのかもしれないね」
「そういうものかな。例えば、あれも? ……俺じゃわっかんねぇ、見てくれるか?」
 飛呂の問い掛けにアレクシアは頷いた。土地や花を無暗に汚さぬ事を意識していた飛呂が指差すのは不可思議な光を帯びた円盤である。
「あれは……?」
「何だかキラキラできれいにゃ」
 ちぐさはぱちくりと瞬いた。木や低木を中心に身の隠せる場所を探していたちぐさは「近付いてみるかにゃ?」と問うた。一度、琉珂へと意思確認を行なったアレクシアは「行こうか」と立ち上がる。
「琉珂、あれは触っても良いやつかにゃ?」
「うーん、えいや!」
 勢い良く握り締めた琉珂にちぐさは「だ、大丈夫かにゃ!?」と驚いたよう跳ね上がる。
「大丈夫そう……」
「もう!」
 叱る朱華に琉珂は「だってー」と頬を膨らませた。リースリットが見るに、これが『女神の欠片』と呼ばれたものなのだろう。
「不思議ですね。どうした物質なのかは、分かりませんが……」
「権能を抑える為の力、と言うことなのかな」
 心ここに在らずと言った様子であるЯ・E・Dはぽつりと呟いた。一先ずは其方も持って行くとしようか。
「琉珂、これは見たことない花にゃ! 珍しくって、青っぽくって……ショウじゃなくって……僕の尻尾みたいにくるって弾力のある茎にゃ。
 うーん、名前……『青い猫の花』とかどうかにゃ?」
「カワイイ名前ね。青い猫の尻尾なのね。これって食べ――」
 食べられるのかと問おうとしたことに気付いて朱華は「ストップ!」と声を掛けた。琉珂とちぐさが顔を見合わせる。
「琉珂、食べちゃ駄目だにゃ」
 首を振ったちぐさは木の実など、お土産になりそうなものを一緒に探そうと提案した。それならば持って帰れる上に、今食べる事も出来るはずである。
「沢山獲りすぎないようにするにゃ。ヘスペリデスには鳥や動物も居るみたいにゃ。少しだけど……」
「そういえば、少ししかおりませんね。不思議なことに」
 狩猟で動物を捕まえながら食糧の確保をして居たヴィルメイズはそれが竜種達の存在の生なのだろうかとも首祖傾げた。
 調理を飛呂と咲良に任せる――琉珂には任せないとヴィルメイズは二度繰返していた――と決めたからには狩猟をメインに行なわんと考えていたが獲物は余り多いとは言えない。いや、亜竜の姿やモンスターは散見されたが食用動物と言うべきものは余り多くなかったのが印象だ。
「よし、やるか!」
 飛呂は意気込み咲良と共に『狩り』に精を出す。顕れたのは小型のモンスターだ。牛に良く似ている事からも、食糧としての利用が期待される。
 二人の様子を眺めながらヴィルメイズは集まってくる食材をメモして不可思議そうに首を傾いだ。
「不思議ではありますね。美しすぎる地に、そうしたものは適応できないのでしょうか。確かに美しさは時に毒ではありますからね。私のように……」
 ヴィルメイズが『美しく』朗らかに笑う。「そうねえ」とさらりと流してしまった朱華はヴィルメイズが書いていた地図に付け足しながら首を捻った。
「キノコとかは獲っておいたわ。資料にもできると思うし、一先ず洞に向かいましょうか。
 ねぇ、琉珂。これとか食べられそうじゃない? ……って何を持ってきてるのよ!?」
「スベスベゴンザレス」
「スベ……何んでしょうか」
 朱華が突っ込み疲れたという表情をした事を察しリースリットは穏やかに、出来る限り琉珂を叱り付けては居ないと入った声音で問うた。
「スベスベゴンザレス。私が今名付けたわ。すべすべしてるの。このモンスター」
「獲ってきた……のですね、スベスベゴンザレス。食べられるかは、定かではありませんが……」
 兎にも角にも『眠竜の寝所』へと向かおうではないか。
 ――静寂の漂うその場所にЯ・E・Dはゲルを思わす囲いを作り寝所を作ろうと考えて居た。
 奥に何かが蠢く気配がある。咄嗟に構えたリースリットとアレクシアは頷き合い、「こんにちは」と声を掛けた。
「何者だ」
 静かな声が帰される。これは――竜か。それも人語が通じる相手である。
「まずは勝手にお邪魔してごめんなさい!
 ただ、ここを荒らしたりあなたたちを襲ったりしたいわけじゃなくて、探索したいだけ。もし探索でのNGがあれば教えてほしいな!
 それに、役には立ちます! 来た時よりも美しくって、校外学習で言われるでしょ? 元の場所は荒らさず、ゴミが落ちてたら拾って帰る、徹底します!」
 奥へと向かって咲良が叫べば、奥から桃色の竜が姿を見せた。
「オルにー……オルドネウム!?」
 思わずその名を叫んだЯ・E・Dに竜種はぴくりと体を揺らし「きみ、オルドネウムを知っているのか!?」と叫んだ。
 みるみるうちに幼い子供の姿になった竜はイレギュラーズに「はいれ、眠りを妨げた事も許す!」と尊大な態度で呼び掛けたのだった。


「ちがう、ぼくはオルドネウムじゃない。その系譜だけど、ご先祖様にはなれっこないんだ。
 ぼくはオーリアティアだぜ。オーリアでも、ティアでも好きに呼んでいい。残念がらないでくれよ。
 ぼくの寝床を荒してるわけじゃないんだろ。きみはオルドネウムがすきみたいだから、つまりはぼくのことがすきだ」
 幼い子供の姿をして居たオーリアティアは自慢げに鼻をふふんと鳴らした。Я・E・Dはぱちくりと瞬いてオーリアティアを見詰める。
 予想だにしていなかった出会いではある。オルドネウムはこの世界では伝承に擬えられる、つまりは幼竜ではなく成竜か。
「て、ティアって……えっ、あなた、もしかして、オジサマが連れていた!?」
「あ、珱の女だ」
 指差すオーリアティアはЯ・E・Dに座るように指示をしその膝にぽてりと座ってから琉珂をまじまじと見詰めた。
「珱の女のうんとご先祖様はオルドネウム……ご先祖様と親しかったらしい。きみはオルドネウムに逢いたかったんだろう?
 今は何処に行ったんだろう。ご先祖様も、色んな所を旅するんだ。ここはご先祖様の寝所の一つだよ。ぼくが使ってるけど!」
 にんまりと笑ったオーリアティアは「だからぼくの寝床を綺麗にするとご先祖様が喜ぶぞ、きみ」とЯ・E・Dに語りかける。
 勿論、Я・E・Dはふわふわな綿のような葉の『フワ綿の木』や羊毛みたいな草が一面に生い茂る『メーメー草』を手に入れていた。
「じゃあ、じゃあ、オルドネウムの為になるんだね!!? わたしが快適な寝場所を作るよ、むしろ作らせて!!」
「よろしい! でもぼくを見て残念がるのはなしだぜ。ぼくをみて喜んでよ」
 胸を張ったオーリアティアは「ご先祖様が帰ってきたら一緒に寝る権利もあげるのだ」と鼻高々である。妙な竜種が居た者だと『先客』であるオーリアティアを見詰めるリースリットは武装を解いて一先ずはオーリアティアの元に膝を付く。
「貴女は竜種……微睡竜の系譜、で間違いはありませんか」
「うん」
「私達と、対話をして下さるのですね」
 オーリアティアはリースリットを見詰めてから「対等ではないよ」と冷たい声音でそう言った。びくんと肩を跳ねさせたちぐさがオーリアティアを見る。
「ええ、対等じゃないとは分かって居るわ。けれど、聞く耳を持たないで居ない姿勢に安心したの。
 ……あ、仲間が料理をしようと考えて居るのだけれど、オーリアティア……って呼んで良いわよね? も一緒にどう?」
 朱華は確かめるように問うた。寝所を作ることを許可してくれたのだ、次の誘いに対して目の前の幼竜はどう答えるか――
「良きに計らうのだ!」
 大仰に言い放った。攻撃を仕掛けてこないオーリアティアはすとんと端に座って準備を進める飛呂と咲良を眺めて居る。
「オーリアティア様は人間に対して寛容なのですね」
 穏やかに声を掛けたヴィルメイズ。朱華は「そうね、私達を受け入れているもの」と頷いた。彼女は謎の植物を手にしている琉珂を見張り続けて居る。
「ぼくの眠りを妨げたときは殺してやろうかと思ったけど、オルドネウムを知ってるなら別にいい。
 ぼくのご先祖様はすげーんだぞってのを知ってる奴らは好きだ。けど、ぼくときみたちは同等じゃない。ぼくは竜で、きみは人だ」
 友好的な存在ではない。中立的な存在だと言いたいのだろう。それはこの場所では十分な意味を果たす。
 敵対していないのであれば竜は確かな助けになる事があるからだ。オーリアティアはオルドネウムがこの場所を気に入っていたのだとそう告げた。
 勿論、オルドネウムはベルゼーとも知己であろう。だが、そんな竜が幼竜にこの地を譲って去ったというのは――
「きみたちはどうして此処に来たの?」
 オーリアティアはЯ・E・Dの作った寝床にごろりと転がった。
「ベルゼーさんを探しに来たの。此の辺りを少し探索したくて……よければ此処に寝泊まりしても良い?
 ただで、というわけにもいかないし、何かやってほしいことがあれば遠慮なく言ってもらえればいいな!
 といっても、竜種にできないことなんてそうそうないかもしれないけれど。あと、このお花も眠竜さんに因んだ名前にしたいし」
 アレクシアがお土産なのだと落ち着く薫りの花を差し出せば、オーリアティアは「じゃあ、これはリアティーって名付けて」と指差した。
「ぼくを、ご先祖様がそう呼んでた。リアティーだよ、この花は。ぼくの薫りだ!」
 この地を間借りさせてくれそうな可愛らしい竜に飛呂は「待っててくれよ、今から食事を作るから」と声を掛けた。
 簡易キッチンを駆使し、皆が頑張って確保した食材の料理を続けて居る。フランマから簡単レシピを聞いてきたこともある、琉珂の料理が『危険』だという事も理解している。
 鮮度の落ちやすい肉や魚、萎びる類いの植物を優先し、コンソメで煮ることや塩胡椒で味付け、めんつゆも万能だと調理を続けていく。
「ちなみに琉珂ちゃんは今回何をとってきたの?」
「えっと――」
 うねうねしていた。咲良は目線をそっと逸らす。飛呂を手伝いながら周辺の警戒をしていた咲良は琉珂の手にしていた謎の草こそが一番危険に見えたのだ。
「……えっと……オーリアティアさんも嫌だと思うな、それ。アタシたちは、ほら、此処を借り受けるし、美味しいのが良いと思う……」
「えっ、咲良さんもコレは駄目だと思う? 朱華も駄目って……」
 美味しそうな『芋』とは言って居るが突然踊り出す芋を咲良は見たことがない。飛呂は「やめておこう」と頷いた。
「調理って凄いんだな。ぼくにはできない。丸かじりだ。ごっくんもしゃもしゃすれば良いと教わったぞ。
 でも、ヘンテコなやつらだ。ヘスペリデスの探索? みんな、もう去ったものも多いんだぞ。ぼくは……遠くには行けないから此処に居るけど」
 ちょこりと座ってリースリットに取り分けて貰った料理に舌鼓を打っていたオーリアティアにアレクシアは「遠くには行けない?」と聞き返した。
「ぼくは翼を怪我している。それに幼竜だ。出来れば誰かの庇護下にある方が嬉しい。なら、動かない方が良い」
「にゃ……怪我してるにゃ……?」
 労るちぐさに「大丈夫だぞ」とオーリアティアは頷いた。それにしても、もう一つ気になるのは――「去った者が多いって、どういうことかにゃ?」
「そうですね。何故、この地を去ったのか……」
 ヴィルメイズの問い掛けにオーリアティアはぱちりと瞬いてから首を振った。
「ベルゼーが、暴走したらぼくらだって、一溜まりも無いからだ。ぼくらは、その時が近いことをしってるんだ」
 幼い竜の言葉にしん、とその場が静まり返る。琉珂は「ちょっと風に当たってくるわね」と微笑んでから洞の外へと出た。
 朱華が「琉珂」と彼女を呼びかけるがヴィルメイズは首を振る。今はそっとしておくべきだろうか。
 この地に向かう前にヴィルメイズは彼女へと声を掛けた。その時、告げたのだ。

 ――今までぼんやりと生き……特異運命座標となってから外界に出て各地を巡りましたが。
 やはり私は、父や我々亜竜種の生きるこのデザストルの地が好きだと改めて気付きました。
 冠位暴食から必ずこの地を守りましょう。皆のため、そしてベルゼー様自身の為にも。

 琉珂は何と云っていただろうか。フリアノンが愛しいのだと。己は里長で、珱という血筋の産まれ。
 フリアノンを護る為に産まれたからにはその様に命を使いたい、と。それは彼女の願いで決意だったのだろう。
(……琉珂がベルゼーに逢ったなら、屹度、今まで通りじゃ居られない……)
 その実感を胸に朱華は「よし、ヘスペリデスを理解するために頑張りましょう!」と意気込んだのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。オーリアティアは周りに雄竜しか居なかったため、男の子のような話し方をしますが、女の子です。
 天真爛漫な彼女ですが、竜であることには変わりなく、皆さんの事を観察していると言うべきなのかも知れませんね。

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