PandoraPartyProject

シナリオ詳細

纏え、鮫の着ぐるみを! 或いは、海洋鮫レース、開幕…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●唐突な鮫レース
「ねぇ知ってる? 砂漠の国では年に1度、恐竜の着ぐるみを着てレースを行う催しがあるんだって」
 海洋。
 とある静かで暖かな海。
 小さな港町の外れで、エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)はそう言った。
 エントマの背後には、木箱が幾つも積まれている。聞けばそれは、彼女が発注し、今朝がた届いたばかりの“荷物”であるという。
「面白いよね。恐竜の着ぐるみを来てレースって、もう意味が分からないもん」
 総勢30名を超える恐竜の着ぐるみを身に纏った集団が、号砲と共に同時に走り出す様は何とも愉快で、そして鬼気迫るものがある。
 かつて、実際にそのレースを見たというエントマは感慨深いと目を閉じた。
「そこで私は考えたんだ。そう言うレース、海洋でもやってみたら受けるんじゃないかって」
 と、ここまで来れば話は見えた。
 つまり、エントマの発注した“荷物”とは鮫の着ぐるみなのだろう。
 木箱を開けて、取り出したのは人間1人がすっぽり収まるサイズの鮫の着ぐるみである。着れば、鮫の口の部分からちょうど顔が覗く形になるだろう。
「これ着てさ、向こうに見える島まで泳いでほしいんだよね」
 晴れやかな笑顔でエントマは着ぐるみをあなたに差し出す。
 否、押し付けるといった方が正しいか。あなたは思わず上体を仰け反らせたが、構うことなくエントマは鮫の着ぐるみを押し付けて来る。
 ぐいぐい、ぐいぐい。
「向こうの島まで1キロぐらいかな? 波は穏やかだけど、突発的に渦潮が発生するから気を付けて」
 レースは障害があった方が盛り上がる。
 そんな魂胆が透けて見える。
「ゼッケンも付けてね。観客の皆は、誰が勝つかを予想しながらレースを楽しむから」
 なお、予想が的中した者には幾らかの報酬が支払われる。
 競馬とか、競艇とか、ひよこレースとか、そう言う類のあれである。

GMコメント

●ミッション
鮫レースを無事に終了させる

●アイテム
・鮫の着ぐるみ
1人1着が支給される。青い色をした鮫の着ぐるみ。
ちょうど鮫の口にあたる部分から、着用者の顔が覗く形になる。
鮫であるため、とても動きにくい。
布製。吸水性に優れる。

・鮫券
観客たちはどの遊泳者が1位を取るか賭けをしているらしい。
観客たちが手にした鮫券には、番号が記されている。

●フィールド
海洋。
とある静かな港。
港を出発し、1キロ先の孤島を目指す。
海は穏やか。ただし、時折突発的に渦潮が発生する可能性が示準されている。
観客たちは、遊泳コースの両脇に浮かべられた船の上からレースの様子を観戦する。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】エントマに雇われた
「仕事の話だよ」深刻な顔をしたエントマに呼ばれ、港町を訪れました。深刻な顔をしていただけで、要件は実に珍奇なものでした。

【2】港町にいた
「鮫が出るんだ……おそろしい鮫がな」暗い顔をした通行人から、そんな話を聞かされました。鮫とやらの調査をしていたところ、今回の催しを知りました。

【3】チラシを拾った
「海洋鮫レース、開幕!」そんな煽り文句が書かれたチラシを拾いました。港町に足を運んだところ、鮫レースの開催を知ります。


鮫レース、本番!
あっという間に鮫レース、当日となりました。皆さんは、どのように過ごしますか? 

【1】そしてあなたは着ぐるみを纏った
鮫の着ぐるみを身に纏い、スタートラインに立ちました。あなたは優勝を目指します。やるからには一生懸命泳ぐだけです。

【2】鮫券を購入する
鮫券を購入し、観客席に紛れ込みます。勝てそうな誰かの鮫券を購入しました。なお、鮫の着ぐるみは着ています。差せー、差せー!

【3】あなたは嫌々着ぐるみを纏った
鮫の着ぐるみを纏いスタートラインに立ちました。優勝は目指しませんが、ここまで来て参加しないわけにもいきません。ほどほどに頑張ります。沈むって……これぇ。

  • 纏え、鮫の着ぐるみを! 或いは、海洋鮫レース、開幕…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女
城火 綾花(p3p007140)
Joker
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
リリアム・エンドリッジ(p3p010924)
記憶なき竜人

リプレイ

●鮫レース開幕
 青い空に、ファンファーレが鳴り響く。
『鮫券の準備は出来てるかい? 神様にお祈りは? 大金を手に入れる覚悟はOK?』
 次いで、エントマ・ヴィーヴィーの大音声。
 ところは海洋。
 とある港だ。
 スタートラインの波止場に並ぶ、鮫の着ぐるみを身に纏った走者たち。やる気に満ちた顔をした者、顔色を悪くしている者、困惑を隠せていない者、なんだか楽しそうにしている者……胸に秘めた思いは違えど、皆、一様に“鮫”だった。
「海なんて底が見えなくて足つかないのにどうして皆平気なんだろう?」
 観客席から選手たちの顔を見渡し、『記憶なき竜人』リリアム・エンドリッジ(p3p010924)は難しい顔をしている。
 海はきれいで広大だ。
 生命の原点にして、恵の宝庫だ。
 だが、それと同時に怖ろしい。嵐、高波、渦潮……海にまつわる危険を数え上げればキリが無い。
「海が恋しくなる事はない? 私は依頼や動乱の合間に色々な港町を巡っているよ」
『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は首を傾げた。
「いや、海が恋しくなることは無い……ね」
 リリアムは難しい顔をしている。種族の違いによる、認識のズレだ。リリアムに海が恋しいという感覚は理解出来ないが、だからといって否定もしない。理解は出来ずとも、否定せず、尊重することこそが世界平和の第一歩なのである。
 なお、2人とも鮫の着ぐるみを身に纏っている。鮫のヒレ部分で、数枚の鮫券を握り込んでいる。

「いよいよはじまるのね。さぁ、誰が勝つのかしら!」
右手にチラシを、左手に鮫券の束を握って『Joker』城火 綾花(p3p007140)は観客席から身を乗り出した。
 綾花が身に纏っているのは、ホホジロザメの着ぐるみである。
 綾花は、鮫レースが始まるのを今か今かと楽しみにしている風だった。
「鮫のぬいぐるみを着せてレースだなんて。憐れにも沈む参加者を愛でるのがご趣味なのかしら」
 綾花の近く、『永遠の少女』ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)もまた、鮫レース開幕を待ち望む1人だ。
 もっとも、彼女の場合は“楽しみ方”が他の者と少し違っているようだ。ルミエールの青い目は、実況席のエントマへと向いている。
 鮫の着ぐるみは布製だ。それも吸水性に優れた布だ。
 そんなものを着て海に飛び込めばどうなるか。
 当然、沈む。
「私と気が合いそうね!」
 ルミエールは、海に沈み、藻掻く鮫を見学しに来たのである。
 なお、シュモクザメの着ぐるみである。

『海洋最速の鮫が見たいかー!!』
 エントマが煽る。
 オーディエンスが歓喜する。
『私もだ! 私もだ、みんな! では、選手紹介! 全選手、紹介!』
 会場の熱は最高潮に達していた。
 ずらりと並ぶ鮫の数は総勢20。色も大きさも種類も違う鮫たちが、これから最速を競うのだ。
『デカァァァァいッ!! 説明不要! 190センチ!! 体重は秘密! 海洋出身、『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)だーー!!』
 ハンマーヘッドシャークの着ぐるみを纏った、長身の少女へ割れんばかりの拍手喝采が降り注ぐ。
『すべては女王陛下のため! 海洋の国益が俺の喜び! 超A級剣士『大帝国『混沌』特務警察 境界犯罪対策本部所属』寒櫻院・史之(p3p002233)ぉぉぉ!』
 ノコギリ鮫の着ぐるみを来た史之の顔色は悪い。
 布製の着ぐるみを着て海に入れとか、正気じゃないと思っているのだ。もう、入水するしかないのだが。
『とくに理由はない! 海豹が速いのは当たり前! 実家にはないしょだ! ネオ・フロンティア海洋王国『生イカが好き』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)が来てくれたーー!!』
 コバンザメの着ぐるみを来た、今大会最小の選手は誰よりに自信に満ちた顔をしている。なお、コバンザメは鮫ではない。サメと付いているが鮫ではないのだ。
『機動力6は実戦で使えてナンボのモン! 影編の術師! 『無鋒剣を掲げて』リースヒース(p3p009207)の登場だ!!』
 身に纏うは黒い鮫の着ぐるみである。ヒレの代わりに、蝙蝠の翼らしきものが付いているが、果たして本当に鮫なのか。
 とにもかくにも、集い集った嫋々たる顔ぶれ。
『以上20名により、鮫レースを行いますッ!』
 鮫レース、開幕である。

●鮫だ、鮫になるのだ
 号砲が鳴った。
 20匹の鮫たちが、一斉に海に飛び込んだ。
 尾びれで水を打ち、ヒレで波を掻き分けて、背びれを海上へ突き出したまままっすぐに沖の孤島を目指す。
 彼、寒櫻院・史之もその1人だ。
「oh……なりきってやらなきゃいけないやつね」
 海での戦いなら慣れている。
 泳ぐのだって、苦手じゃない。
 衣服を纏ったまま、海中で怪物と斬り合ったこともある。
 それはそれとして、鮫の着ぐるみが水を吸って非常に重たい。ヒレをひと掻きする度に、加速度的に重さが増した。
 泳いでいるのか、沈んでいるのかも分からない。
 それでも、史之は沖を目指した。同時に海に飛び込んだ選手は、あっという間に沈んで行った。やはり海は恐ろしい。
「やったろうじゃん!」
 歯を食いしばる。
 気を抜けば、水底に沈んでしまいそうになる。ノコギリ鮫のノコギリ部分が邪魔である。
 それでも、史之は必死に泳いだ。
 すべては海洋国家のため。
 女王陛下のため。
 そして、史之の帰りを待っている最愛の妻のためである。
 ハラショー、史之! ハラショー、イザベラ!
 史之の頭上にエントマのカメラが近づいてきた。今ほどカメラを叩き斬ってやりたいと思った瞬間は無いだろう。

 ワモンは速い。
 元々の姿が海豹なのだ。鮫の着ぐるみを纏ったところで、身体が少し遅くなるだけの話である。幾分、普段よりは遊泳速度も遅いだろうが、それでも他の参加者に比べ、各段に速い。
「海豹パワーで優勝してみせるぜー!」
 押し寄せる波に身を乗り上げて、抵抗を最小限にまで軽減する。
 押し返す波を尾に受けて、遊泳速度を加速させる。
 ただ、泳ぐための筋力に長けているだけでは、ワモンほどの速度は出ない。海に生まれ、海に生きた海豹生により培われた、常軌を逸した潮を読む目と直感力が本領を発揮しているのである。
 だが、ワモンに並ぶ選手が1人。
 否、1匹いた!
「軟骨魚類の真似は気が進まないけど」
 ガー目ガー科アトラクトステウス属。鮫の着ぐるみを纏った魚が……イリスがワモンを追い立てる。
 イリスは、エントマが用意した保険だ。
 鮫の着ぐるみを纏い、海を泳ぐ。その斬新さと滑稽さは、きっと大衆にウケるだろう。だが、いかに観客を集めても、誰1人としてゴールしなければ意味がない。
 当然、エントマとてその可能性を考慮していた。
 それゆえのイリスだ。
「私を誘ったということは、見る目があったということでいいのよね? いいわ。鮫レースでもなんでもやってみせましょう」
 鮫レースがいかに過酷であろうとも、イリスは決して沈まない。

『速い、速い! やはりディープシーは速い! 優勝候補はこの2人に絞られたか!?』
 実況席のエントマが、声を張り上げそう言った。
 観客たちの視線も、当然、先頭を進むワモンとイリスに向いている。
 けれど、そうでない者たちがいた。
「まだ分からないよね」
 1人はリリアム。シロザメの着ぐるみを纏い、凪いだ水面を注視している。
「海の強者……それは決して、牙の鋭さだけで決まるものでは、ない……よ」
 もう1人はレイン。ジンベエザメの着ぐるみを着て、海に身を乗り出している。ヒレで水面を叩いているが、何をしているのだろうか。
 2人の視線が向く先には、リースヒースの姿があった。

 まるで虚空を舞うように。
 ヒレを左右へまっすぐ伸ばし、リースヒースは水面を泳ぐ。
 或いは、滑ると言った方が正しいか。
(やはりエントマの言うことだ。ろくでもない事態になった)
 鮫の口部分から覗くリースヒースの顔はいかにも真面目なものだ。視線を素早く左右へ巡らせ、ヒレを僅かに傾ける。
 するり、と海流に乗ったリースヒースが加速した。
 リースヒースが見ているのは、海を自在に舞い泳ぐ水の精霊たちの姿だ。
 何も、必死にヒレと尾を動かさなくても速度は出る。海流を捕まえればいいのだ。
 リースヒースに海流を見極めるだけの目は無いが、代わりにリースヒースには「海流を友とする精霊を見る目」があった。
「いけー……させー……させー」
「え? なに? 刺すの? 物騒なレースだなぁ」
 リースヒースの耳に届く声援は、レインとリリアムのものだ。
 この広い海上で、彼女たちだけが。
 レインとリリアムの2人だけが、順位を上げるリースヒースを目で追っている。

 鮫券の買い方には、いくつかの方法がある。
 例えば、優勝候補1人に大金を賭ける買い方。
 例えば、大穴狙いで一攫千金を狙う賭け方。
 例えば、複数枚の鮫券を少額ずつ買う賭け方。
 綾花が選んだ賭け方は、上の3番目のものだ。賭けた金額が少ないため、誰が勝っても綾花の儲けは少なくなる。場合によっては、見事勝者を的中させても赤字になることもあるだろう。
「ねぇ、あなた。既に半数近くが脱落したみたいだわ。それじゃあ、ちっとも儲けが出ないわよ?」
 綾花の握った大量の鮫券を指さして、ルミエールはそう問いかけた。
 ルミエールの言うように、既に参加者のうち半数近くが脱落している。鮫の着ぐるみに水が染み込み、泳げなくなってしまったのだ。
 着衣のまま泳ぐのは、思ったよりも大変だ。
 着ぐるみともなれば、遊泳者の負担はさらに大きなものとなる。生半可な泳力では、自力で浮かぶことさえ難しい。
 だが、綾花は晴れやかな笑顔で、今もなお必死に泳ぐ鮫たちへエールを送り続けていた。
 それから、綾花はルミエールの方を振り向き、言った。
「いいのよ、あたしはお金よりも結果の方が楽しみなの」
 何も儲けを狙うだけが、鮫レースの楽しみ方ではないのだ。推しの鮫を応援し、その努力と健闘を称えることも、立派な鮫レースの楽しみ方である。
 最近では、引退した鮫を支援するプログラムも組まれているという話だ。
「なんか面白そうなイベントをやってるっぽいから来てみただけだしね! 見てるだけでも、楽しめるよ!」
「……そう。そう言う楽しみ方もありよね」
 でも、と。
 綾花から視線を逸らし、ルミエールは海を見た。それから彼女は、そっとヒレで口元を覆い、意地の悪い笑みを浮かべる。
「もしも……もしも、だけれど」
 ヒレを海へと差し向ける。
 ルミエールが何をするつもりなのか、綾花はわくわくとした様子で見まもっていた。
「本物の鮫が襲ってくる幻影を見せたら……一体どうなるのかしら?」
 なんて。
 ルミエールがそう呟いた、その直後。
 海が渦巻き、巨大な鮫の背びれが海面へと突き出した。

『さぁ、いよいよレースも終盤戦。先頭はゼッケン7番、ワモン選手! 半鮫身離れてゼッケン3番、イリス選手が追いかける! 少し離れて集団、引くのはゼッケン13番の史之選手!』
 エントマの実況が轟いた。
「行け―! 差せー!」
「ワ・モ・ン! ワ・モ・ン!」
「史之―! 勝ってくれ! まだ負けてない! 勝ちの途中!」
「イリスちゃーん! ファンサしてー!」
 観客たちが声援を送る。
 会場のボルテージが上がる。
 まだ、上がる。
 まだまだ上がる!
 際限なく、熱気の渦が高まっていく。
 だが、その時だ。
『おーっと! これは……渦潮だ! 渦潮が発生した! そして、後方から本物の鮫が追い上げて来る! 速い、速い! 本物の鮫、速い! やはり着ぐるみでは、本物の鮫に勝てないか!? 人類の夢はここで終わってしまうのか!』
 それは、悲鳴のようだった。
 何しろ、このレースの企画者はエントマだ。本物の鮫に襲われて、もしも死人が出たのなら第二回は開催出来ない。なお、怪我人が出るのは織り込み済みだ。
『前方の渦潮、後方の鮫(本物)! これは神が与えたもうた試練なのか!?』
 絶叫する。
 観客たちが息を飲む。
 渦潮と鮫……自然の驚異に人は抗うことも出来ずに敗北するのか。
 或いは……。

「これ、人災なのでは?」
 企画したエントマが悪いのでは?
 リリアムは首を傾げた。
 Q・鮫の着ぐるみを着て、海に入るとどうなるか?
 A・沈む。
「企画した奴が悪いよね」
 そんなリリアムの疑問に、答えを返す者はいない。

●鮫、その血のサダメ
 後方より鮫(本物)が迫る。
 だが、突如として鮫の真下に黒い影が浮上した。
『あれは何だ? 人か、魚か、それとも蝙蝠か!』
「ううん……あれは鮫、だよ」
 鮫券を固く握りしめ、レインが言った。
 レインがヒレの先で示した先には、黒き鮫の着ぐるみを着たリースヒースの姿があった。

 遡ること、数ヵ月前。
 砂漠の国で見た光景を、リースヒースは想起する。
 その者は黒き髪を振り乱し、巨大なワニを仕留めて見せた。対格差など意にも介さず、ワニを相手に、デスロールを決めたのだ。
(たしか……こうだったか)
 見よう見まね。
 だが、鮮明に目に焼き付いた、ある女傑の雄姿を再現することは出来る。
 水流に身を任せ、身体に回転を加えた。
 ヒレを左右へ大きく広げ、真下から鮫(本物)へ組みついた。
 鮫の胴をヒレで挟み、回転を加えて引き千切る。
 できるはずだ。
 そうしなければ、死者が出る。
「やっちゃえ……リースヒースさん」
 レインが吠える。
 拳を……否、握ったヒレを空へ突き上げ、レインが吠える。
 リースヒースのヒレが、鮫(本物)に触れた。
 瞬間、夢か幻のように鮫(本物)が掻き消えた。
「っ……まさか、幻影か」
 水上へ飛びあがりながら、リースヒースは目を丸くした。

「消されちゃった。なかなかやるわね」
 ヒレで口元を隠し、ルミエールは肩を揺らした。
 次はどうしてやろうかと、ヒレの先を海へと向けて……。
「そんなことしちゃ楽しくないよね?」
 ルミエールのヒレを、綾花が掴む。満面の笑顔だ。だが、少しだけ怖い。
 先の鮫(本物)がルミエールの仕業と気付いたのだ。
「……仕方ないわね」
 ルミエールがヒレを下げる。
 そっと綾花が、手を離す。
「それがいいよ。ギャンブルでイカサマしていいのは参加者だけなんだから」

 渦潮に次々と参加者たちが飲み込まれる。
 平時であっても、人は渦潮に敵わない。鮫の着ぐるみを身に纏っている今であればなおさらだ。
「まずいわね。溺死しちゃう」
「助けに行くっきゃねぇーだろ!」
 そんな状況でさえ、イリスとワモンは沈まない。元より備えた力強い尾びれがあれば、渦潮なんてへっちゃらである。
 渦潮に飲まれ水底へ潜る。
 強引に渦潮から脱し、イリスとワモンは急浮上。渦に飲まれる他の参加者たちを救助し、安全な場所へと連れて行く。
「っ? 誰……渦潮にも負けず、泳いでいる人がいる?」
「海種じゃねぇぞ? 何者だ?」
 2人が驚愕に目を見開いた。
 鮫の着ぐるみを纏ったまま、渦潮にも負けずゴールを目指す者がいたのだ。

 リリアムの胸は高鳴っていた。
 拾ったチラシに導かれ、なんとなく遊びに来ただけのイベントだった。鮫レースを見物するのは初めてだ。最初は、皆が何に熱狂しているのかなど分からなかった。
 だが、今は違う。
「させ……」
 気づけばヒレを強く握っていた。
「させ……させ」
 海に落ちそうなほどに身を乗り出し、言葉を発する。
「させー! 史之ぉぉおおおお!」
 胸の奥の熱いものを吐き出すように、リリアムは声の限りに叫んだ。

 力づくで渦潮を超え、史之はゴールを目指して泳ぐ。
 すっかり水を吸った着ぐるみが重い。
 ほんの数メートル、進むだけでも手足が引き千切れそうだ。
『先頭は史之選手! おぉっと後方から猛烈な勢いで追い込んでくる鮫の影! ワモン選手とイリス選手だ! その差2鮫身から3鮫身!』
 背後から感じる威圧感は、ワモンとイリスのものである。渦潮で順位を落としたとはいえ、2人……否、2匹は速い。あっという間に追いつかれて、追い抜かれて、引っこ抜かれる。
 後ろを振り返る余裕はない。
 ゴールラインさえよく見えない。
 見えないが、問題はない。
 ひたすら、力尽きるまで泳げばいいのだ。
 史之とて、多くのものを背負って鮫レースに臨んでいる。
 妻が見ているかもしれないのだ。
 女王陛下が見ているかもしれないのだ。
 格好悪いところは見せられない。
「負けないわ! 軟骨魚類の真似までしたのよ!」
 右にイリスが並ぶ。
「負けないぜ! 海豹の誇りにかけて!」
 左にワモンが追いついた。
 だが、まだ負けていない。
「これが諦めないってことだ!」
 史之は限界まで手を伸ばした。
 そのヒレ先が、孤島の海岸線に張られたゴールテープを破る。
 ゼッケン13番、寒櫻院・史之……1着!

 海岸に並ぶ鮫が3匹。
 史之と、イリス、そしてワモンだ。
 そして、鮫レースの完走者はこの3人しかいなかった。
「大したものね」
 空を見上げて、イリスは言う。
「おぉ。人間やらしとくにゃ惜しい男だ」
 呵々とワモンは笑って見せた。
 史之は何も答えない。
 答えを返す余裕が無いのだ。
 そんな3人の元へエントマが迫る。3人の様子をカメラで撮影しながら、彼女は告げた。
「さぁ、立って! 3人にはライブをしてもらうから!」
 エントマに人の心とか無いのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

1⃣:13 寒櫻院・史之
2⃣:3 イリス・アトラクトス(ハナ)
3⃣:7 ワモン・C・デルモンテ(ハナ)

おめでとうございます。
第1回海洋鮫レースは以上のような結果となりました。
安全性の担保が出来ないため、次回開催は未定です。

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