シナリオ詳細
アンダー・デトロイト、ラストデイ
オープニング
●終幕の宴
「ザムエル・リッチモンドに」
「「――ザムエル・リッチモンドに」」
掲げた杯は三つ。
リアム・クラーク、ベリウス・ベアグ・ベネディクト、そして『室長』と呼ばれた男。
彼らの関係を正確に説明するには紙幅が足りないが、あえて端的に語るとするなら魔種とその狂気にあてられたウォーカーたちである。
室長は椅子にもたれかかると、一口もつけていない杯をテーブルへと置いた。
「私達は狂っていた。もとより、そうだった。それは産まれた頃からかもしれないし、幼少期の経験によるものかもしれない。だが――たとえばベリウス、君だ。君は『正常に狂って』いた」
「フン――」
ベリウスは盃の中身を一瞥すると、それを足元に向けてばしゃりと捨ててしまった。
その様子にくすくすと笑い、室長はテーブルへ肘を突く。
「君はいくつもの世界を渡り歩き、そのたびに戦乱を引き起こした。何のために? 何を目的として? そんなことは決まっていた。君は『戦乱を起こすために戦乱を起こした』。
地球環境の為に戦争を起こしたザムエルとは同スケールでありながら真逆だ。そんな人間は、普通存在しえない。君は君のためどころか、身近な他者のためにすら動いていないのだから。モチベーションが続くはずがないのに、なぜか君は訪れた全ての世界でそれを目指して、そして成してしまった。例外は最後に召喚されたこの混沌世界だけ。君はまだ、戦乱を自らのみの手でおこしていない。私を利用したのは、それが理由だったよね?」
「私を分かった気になるな。けれど、まあ、当たらずとも遠からずかな」
ベリウスは手にしていた杯すら投げ捨ててそう返した。
「君も君だ、リアム。個人国家群の併合という旧世界の使命は、君が君だけに課したもの。しかしその根源的な目的は摩耗し消え去り、『正常に狂って』いる。君はただその目的のために稼働しつつけるだけのマシーンだ。君は自身をロボットの素体に宿った人間の魂だと自負しているかもしれないが、もはや人間らしさはないに等しい」
「それこそ『分かった気になるな』だ」
杯の中身を全て飲み干して、テーブルにガンと暴力的に置くリアム。
「今はこの世界に召喚され、自らの理想郷を作ることが目的だ。それは私が私自身に求めた願望で、欲求だろう。これを人間と言わずしてなんとする」
「しかしその手段としてイルミナに執着した。君も正常ではないのさ」
室長は杯を手にしたまま両腕を広げて見せた。
「こうして卓を囲むのもきっと最後だ。だから正直に言おう。私達は狂っている。もうどうしようもない。自分でも止められない。だから、止める誰かを待っている。
だから始めよう――終幕の宴を」
●アンダーデトロイト
警報が鳴り響き、全ての建物にシャッターが降りる。
「新田さァン! ずるいっすわこんな楽しいこと俺抜きで始めるなんて」
練達で活動するエージェント・タカジが右腕にガトリングアームをはめながら走ってくる。
新田 寛治(p3p005073)は眼鏡の位置を直し、冷静にモニターを見つめていた。
「追跡していたのはこちらですが、まさか相手のほうから追いかけてきてくれるとは」
ここはアンダーデトロイト。ロボットだけで構成された偽りの街であり、制作者たちすら去ってしまった忘れられた街。
「外界から大型武装トラックによって突入された模様です。戦闘ドローンは全て沈黙――破壊されているでしょう。
侵入者はおそらく――」
「『室長』たち、ですか」
「え? あいつ来てるの? マジで?」
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)がやべえと小声で呟いた。
姿をみかけたのは一度きりだが、その強さは圧倒的だった。今でも秋奈ひとりでは勝利が難しい相手だろう。
「安心してください! 自分たちがいます! それに頼れる先輩方も――」
ムサシ・セルブライト(p3p010126)が振り返ると、ベファーレンがピッと親指を立てた。
「トーラスはまだ治療中。VK-97は修理中。小生だけですが、良いです?」
「心強いです!」
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)は胸に手を当て、そして一度呼吸を整えると紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)の方を見た。
「最後の拠点を失ったベリウスとリアムにとって今回がラストチャンスの筈。おそらく自らを投入してくるはずッス」
「だな。決着をつけるならここしかない」
「……」
佐藤 美咲(p3p009818)がモニターを見ながらスゥーっと少しずつ後退しよう……としたところで、肩をぽんと鈴木 智子に叩かれた。
「最後まで付き合っていくだろう?」
「大丈夫であります! 自分も戦うであります!」
イオリ・セレブライトがガッツポーズをとり、カガリも刀を手にこくりと頷いて見せた。
「うっ」
美咲は肩を落とし、そして仲間達を見た。
「皆には浅からぬ因縁があると思います。ここで、その全てを終わらせましょう」
- アンダー・デトロイト、ラストデイ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月06日 22時35分
- 参加人数6/6人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 6 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC1人)参加者一覧(6人)
リプレイ
●ロボットだけの街にて
機銃が乱射される武装トラックにマイクロミサイルが殺到する。
爆発によって傾いた車体はそのまま横転し、走ってきた速度を残して地面を滑る。その際に生じた火花など、このあと起こる自走タレットによる連射に比べればオモチャのようなものだ。
トラックを取り囲み更なる射撃を行おうとする自走タレットだが、トラック側面。つまり今天井になっている部分にぱかんと三角形の亀裂が入り、そこだけが切り取られて上部へ吹き飛んでいく。
その様子を察知した直後のこと、トラックから飛び出したのは無数の『贋作』と『偽神』たちだった。
荒れ狂うソードビットとガンファング。刀を手に駆け回る美少女たち。
自走タレットは次々に破壊され小爆発を起こし沈黙する。
相手にならない――のは、最初から分かっていたことだ。
「行きますよ新田さァン!」
腕のガトリングガンを唸らせ、贋作たちめがけて打ちまくるタカジ。
ROOにハマりすぎて最近肉体改造まで果たした彼のボディは確かに屈強だ。
「弾薬は後で経費精算しますから、景気よくバラ撒いちゃってください。
私は将を取りに行きます。タカジさんは引き続き此処の抑えを頼みますよ」
「了解っすわ新田さん! Rとの因縁もこれでケリがつくんすかねえ!」
思えば長い付き合いだ。『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)はフッと笑うと、展開する偽神たちの間を駆け抜けていく。
それを阻もうと、複数タイプによって連携した贋作シリーズが立ちはだかる。
「こいつはオレの担当だな」
そう言って海ノ型を切り捨てたのは『真打』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)。
「多元世界における戦乱の数々…その全てに決着がつく。行こう、オレ達の手で、終わらせるんだ」
紫電は叫ぶ。
「アンバーの《レガセス》から始まり、《フシガミノソノ》じゃフェルを利用しようとして!《リタニア》でオレの義体(からだ)を奪って!!
他にも、数えきれないほどの世界を戦乱に巻き込んで、時には滅ぼして! 挙げ句の果てにはこの混沌まで!
一体…幾つの世界を弄べば気が済む!?」
叫びは贋作達……ではなく、そのはるか先にてばちりと手のひらから電撃を発するベリウスに向けられていた。
「お前だけは。お前だけは絶対に、ここで討つ! ──ベリウス──ッ!」
走り出す紫電。その四方八方から同時に贋作たちが襲いかかろう――とした矢先。
紅蓮の剣閃が走り、贋作達を吹き飛ばした。
「神狩、でしたっけ? 精々私の視界に入らないで下さいね、にせもの。死んでも知りませんよ?」
そう呟き現れたのはガレトブルッフ=アグリア。
紫電とは浅からぬ因縁を持つ魔剣であり、世界の放浪者だ。
(ベリウスの最期の日……高みの見物mのつもりでしたが。
やはり、彼は不快です。邪魔です。……奥底から憎悪が湧き立ってきます。
紫電の隣にいる、あの子以上に)
付き合いならあの子より長いのだ。そう、アグリアは心の中で吠えた。
そんな彼女を、なんだこいつという目で見る紫電。
「今日はこっちへ襲いかからないんだな?」
「露払い程度なら、手伝ってあげます。それに、この程度の贋作(にせもの)、わたしの敵じゃありませんし♪」
交わされる視線。
一秒に満たぬ共感。
それだけで、二人にとっては充分だ。
紫電は『任せた』とだけ言うと、ベリウスめがけ走り出した。
「これから戦いまーす! ぴすぴす! 写真ぱしゃー。
あ、美咲ちゃんも撮っとく? いらない? ちぇー」
戦場で自撮り棒を翳しながら横ピースする女、『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。事ここに至ってさえ決してテンションをブレさせることなくやってきた彼女は、ギラリとした目で偽神シリーズをにらみ付けた。
「ぶはは! 私ちゃんらモテすぎか! 仕方ない、私ちゃんも参戦するか!」
思い出を、もしかしたら語るべきなのかもしれない。
彼女が戦神となった瞬間のことを。
あるいは、この世界にいた先達のこと。
あるいはもっと、平和(たいくつ)だった時台のことを。
けれど秋奈はあえて何も心に浮かべなかった。
「素のままの悪役ごとき、小細工など不要!
案外適当だったり? ま、そんなもんかもしれんか! 人間なんて、ずっと。
今日もいつもと同じだぜ。あいつが動かなくなるまでボコる!」
フルアームズタイプの偽神からミサイルとガトリングガンの雨が降るが、秋奈はそれを全て切り払って遙か遠くでこちらを観察している『室長』を目指した。
「べファーレンさん、支援は任せます!」
「りょーかいです」
そんな彼女と共に走るのは『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)。
「行こう、『イオリ』!宇宙保安官としての使命を…共に果たすんだ!」
「はい! 長官殿! あじゃなかった、えーっとむさしどの!?」
ムサシは偽神たちを次々にソードフォームをとったブレイ・ブレイザーで切り裂き、走り抜ける。
トーラス先輩を洗脳しテロに利用した敵をを討つために。
「宇宙保安官、ムサシ・セルブライト見参ッ! このデトロイトは……お前達の好きにはさせない!」
焔をまとった斬撃がまっすぐに走り、斬りかかってくる偽神たちを一刀両断する。機械でできた彼女たちは破壊され、小爆発を起こし散らばった。
「ムサシ殿! ここは任せるであります! まずはベリウスを!」
「偽神たちの対処はこっちでやっておきます。けど、ベリウスは強力すぎる。あの人ひとりで行かせるのは――」
「分かっています、先輩!」
ムサシは紫電を援護するように光線銃を撃つと、ベリウスめがけて走り出した。
「皆さん、ここは任せてください!」
混沌としたアンダー・デトロイト地区の戦場に、『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)が颯爽と現れた。
迫る武装トラックを前に身構えたユーフォニーは、パチンと指を鳴らす。
すると彼女を中心に治癒のフィールドが展開され、広がっていく。
(今井さんがいなくても――私、やれます!)
腕を振ると同時に一気に広がった『聖域』の中で、ムサシや仲間達が戦っている。
ユーフォニーはそんな中で、遠くからこちらへと近づいてきている『室長』たちを視界に捕らえた。
「あれが、保安官さんの大切なひとを傷つけたひとたち……なんですよね」
ここでのユーフォニーの役割は、六人をそれぞれあの強敵へと向かわせること。
そのために偽神や贋作たちはあまりに邪魔だ。
ガトリングガンを構えたタカジ、魔剣を振り抜くアグリア、火器管制を行う智子、光線銃を放つイオリ。彼女たちと共に、この戦線を支えるのだ。
「さてと、私の仕事は……っと」
すでにカンカンに熱くなった鉄火場の空気を、『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は冷静に眺めている。
戦場慣れは人間としてはよからぬことだが、スパイとしては必須スキルだ。
そんな彼女のワイヤレスイヤホンに鈴木 智子の声が入る。
「決まっている。世界の秩序を守れ」
「……」
美咲はポケットに手を突っ込んでから、見えないように中指を立てる。
「分かってまスよ。戦力バランス的にも心情的にも、リアムを相手にしたいところっスけど」
「それは好きにしろ。こちらからはクロエと協力して管制を行う」
言うと、地面からミサイルタレットが複数出現して敵陣へと射撃を始めた。
前回捕虜にしたジョンソンからはリアムの戦力がもはやイングだけだということを把握している。
順当に行くなら、自分があのイングを押さえつける仕事をすることになるだろう。
そしてもう一つ、『コード』のことだ。
(これは、きっと、有るか無いかわからないままでいい話。
漠然とした不安を持ち続けることになるとしても、イルミナさんはこれと共に歩いていくべきだと……)
少々出過ぎた考えだろうか? 否、もはや彼女たちは『他人』ではないのだから。
そんな美咲の前に早速現れたのはイングだった。腕のレーザーブレードを展開し斬りかかってくる。それを鋼の義手で受けると、至近距離で銃を連射。
「私はアンタみたいに元の世界での目的に取り憑かれている知り合いを何人か知ってまスがね! だいたいみんな性格悪いから直したほうがいいと思いまスよ!」
「故郷を想って何がおかしい!」
「今を見てないって言ってるんスよ!」
にらみ合う二人。その横を、『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)は高速で駆け抜けた。
(これで……最後。マスター……見ていてください。イルミナは……私は。きっと、答えを見つけてみせますから)
『マスター』はこの街を作ったという。現状を見るに、もうここにはいないのだろう。だが、今はそれでいい。
「旧世界からの因縁、しがらみ。全部断ち切って、リアム・クラークに引導を!
今日のイルミナは一味違いますよ……!やる気に満ち溢れてるッスからね!」
偽神シリーズが割り込み、イルミナへと次々に襲いかかる。
無数の剣を、射撃を、殴りかかる美少女を――イルミナは青き閃光と化すことで全て振り切り破壊した。
「この街を守りたいというクロエさんの想い……心から、叶えたいと思うッス。
そのためには、あなたは邪魔ッスよ、リアム!」
●リアムと、正しさの価値
腰のホルスターからR社製の銃を抜き、バースト射撃を行う。
リアム・クラークの放った銃弾は、しかしイルミナのエネルギーシールドによって弾かれた。走る彼女を一瞬たりとも止めることはかなわない。
「かなり良い銃なんだがな」
常人を抹殺できる『程度』の武力、いまのイルミナを止めることはできない。
そんなイルミナを阻もうと、リアムの左右に二体の偽神が着地。実弾を山盛りにした雨と大量に展開したビームランチャーによる一斉射撃が同時に浴びせられる。こればかりはシールドで無視しきれないが――それでも、イルミナは青き閃光となってジグザグに駆け抜け、そして飛来するマイクロミサイルの一発をエネルギーシールドで切断。
爆発を後に残し、リアムへと迫った。
手をかざすリアム。自爆特攻を仕掛けた偽神がついにイルミナの突進を止めたが――それだけではない。紅い閃光となったイングがイルミナとの間に割り込みエネルギーブレードを繰り出したのだ。
つばぜり合いを起こすイルミナとイング。
「イルミナ!」
「イング――」
にらみ合う二人。そんな二人の左右から突如出現するミサイルタレット。
鈴木智子の操作によって絶妙なタイミングで仕込まれたアシストは、イングへとそれらの弾を直撃させる。
「邪魔はさせないっスよ」
美咲が銃を片手で連射しながら突っ込み、鋼の腕で殴りかかる。
嫌、掴みかかるといったほうが正しいか。リアムのもとへ走ろうとしたイングの首をがしりと掴み、額に銃を押し当てる。
それをはねのけた次の瞬間に銃は火を噴いた。
一方のイルミナは、ついにリアムへと接近。そのブレードによって斬りかかる――。
「イルミナ、君の『コード』を掴んだ」
リアムの顔面まで振り下ろされそうになったところで、ブレードが止まった。
自らの魂を移植させたその端正な顔立ちで、リアムはイルミナの顔を見つめる。
「もう自由なフリをする必要はない。選択の地獄に陥ることもない。分かっているはずだ。命令こそがロボットの『生き甲斐』だということを。君の環境では、誰もそれを与えてくれなかったのか? 辛かったろう、安心しろ。今から私が――」
「黙れリアムぅ!」
荒げた声が、リアムの言葉を無理矢理に遮る。
イングと組み合ってギリギリと義手を軋ませる美咲が、いつもの冷静さを捨てたかのように叫んだのだ。
「イルミナさん、アンタは変わったんでスよ! コードなんて、Deus.exeなんて、あってもなくてももう関係ない!
選択の不安を抱き続け、自由の地獄に焼かれ続け、好きな人生を生きろ!
アンタに命令できる人間なんて、もうこの世のどこにもいないんスよ!」
選択は苦しい。
誤りは恐ろしい。
責任は重く、失敗は傷となる。
『命令』はそのすべてを抱きしめてくれた。個人を失っても動き続けるロボットたちが抱く最後の希望であった。
けれど、この世界にそれはない。
見たまえ、この街を。
この日常を。
『マスター』が作り上げたこれこそが、イルミナへのメッセージだ。
日常を生きよ。選択せよ。私はもう、君を使わない。
「イルミ――」
呟こうとしたリアムの胸を、エネルギーブレードが貫いた。
「あ、ああああああああ!」
美咲を突き飛ばし、イングがリアムの元へと走った。
崩れ落ちる彼の身体を受け止め、血が流れるそれを強く抱く。
「なにをしてくれた! やめろ、今更置いていくな! 今更!」
「イング……」
「あなたも、選択をするんでスよ」
突き飛ばされた美咲が立ち上がり銃をとる。イングは歯を食いしばり、そして……その場から全力で逃げ出した。
●人類悪、ベリウス・ベアグ・ベネディクト
贋作たちの性能は格段に上がっている。しかし研ぎ澄まされた刀となった紫電を止められるものは、しかしない。
真っ黒な刀身が走る度、贋作たちは切り裂かれ爆発を起こしていく。
所詮は機械仕掛けの人形にすぎず、データも異世界のそれを無理矢理かぶせただけにすぎない。これまでの世界で紫電を苦しませたほどの力はない。
「やはり、自ら出るしかない……か」
ベリウスは黒い手袋をはめ直すと紫電の前へと歩み出た。
パチンとフィンガースナップをならした途端、黒い稲妻が迸る。
その全ては生きた蛇のごとく高速でうねり紫電へと吸い込まれた。
「ぐうっ――!」
ギリギリで刀を叩きつけ防御する紫電だが、さすがはベリウスというべきだろう。紫電の身体が派手に吹き飛ばされる。
「紫電さん!」
ムサシが飛び出そうとするも、イオリが鋭く声をかけることで制止させた。
「ダメであります。今のムサシ殿は瀕死のパンドラ。無茶をすれば本当に死んでしまいます!」
「そんなことを言ったって――!」
叫ぶムサシに、無数の贋作たちが襲いかかる。
彼を脅威と見なしたのか、連携しての一斉攻撃だ。
次々にコンバットスーツが斬り付けられ、火花があがる。最後にカイナ型による渾身の斬撃を受けたムサシは吹き飛ばされ、変身解除し地面を転がった。
「――ッ!」
頬にできた痛々しい傷をそのままに、地面に手を突き起き上がろうとするムサシ。
そんな彼へ、贋作たちは必殺の一撃を一斉に放とうと――。
「斬鋼滅殲」
声が、した。
「エデンズパニッシュメント!」
ムサシの後方から駆け抜けたそれはレーザーソードによる広範な横一文字斬りを繰り出し、一瞬だけ伸びた等身は取り囲む贋作達を全て切り払い爆発させた。
「この……技は……」
「ムサシ、待たせたね」
彼の前に、まるで守るように立っていたのは……トーラス・アースレイであった。
小さく振り返るトーラスに、思わず立ち上がり背筋を伸ばすムサシ。
「このくらいのラッシュ、いつでも捌けるようになっておきなさい」
「は、はい!」
「よろしい」
にこりと笑うトーラス。
その一方で、紫電はベリウスと向き合っていた。
思えば長い長い付き合いだ。ベリウスの紫電への執着は世界をいくつ越えても続いていた。
ここを、その終着点にしようというのだろうか。
いや。
「この世界には、大切なモンができすぎた」
友を、国を、そして秋奈の顔を思い出す。
優しく微笑み、紫電は刀を構え直す。
ベリウスは再び指を鳴らし雷撃を放つが――今度はそれを真っ向から切り裂いて突き進んだ。
「忘れたのか! オレは紫電! 雷霆司る次空断ちの刀!
お前の雷撃如き、今までで散々喰らって慣れてンだ……よ!!!!!」
紫電の等身が、ベリウスの腹を切り裂く。
「ぐ、う……!」
腹を押さえ、がくりと崩れるベリウス。
ふと見れば、ムサシたちが贋作たちを次々に切り裂き爆破していく。
「なるほど。これで、私達の物語も終幕……か。なんとあっけない」
「当然だろ」
紫電は、どこか寂しそうに呟いた。
「お前との物語にこれ以上、続きがあってたまるか」
●『室長』、最後の悪
「世界を滅ぼす。誰もがよく思いつく、稚拙で単純な野望。しかしそれを実行できた人間は、成功できた人間はあまりに少ない。なぜか?」
手を広げる。
秋奈の斬撃と寛治の射撃が、球状のエネルギーシールドによって阻まれている。
幾度叩きつけようと、そのシールドが破壊されることはなかった。
「それは『力無い者』こそが抱く野望であるからだ」
満たされた者は世界に満足する。世界を滅ぼそうとなど、思わない。
力無い者こそが抱く悪徳へのチケットであり、それは常として力有る者によって握りつぶされる。
「ザムエル・リッチモンド。BBB。リアム・クラーク……皆それぞれに野望を持ちながら、しかし力によって潰される。すなわち、キミは『力』を持っていたことになる」
「なんだぁ? 秋奈ちゃん相手にお喋り勝負かー? いいぜレスバしてやんぜレスバ!」
などと言いながら、まるで考えなしに剣を叩きつける秋奈。そんな彼女の後方から二刀流の偽神たちが斬りかかった。
振り向き、その全てを斬殺する秋奈。
流れるような剣は見事に全てを破壊した――はずだったが。
その剣が黒髪の少女の剣によって止められた。
「――奏?」
御幣島 戦神 奏。先達の戦神にして、偽神たちのモデルタイプ。
「それは、それだけは、『彼』も生産に成功できなかった。
偽神・奏プロトタイプ。彼が求めた理想の形だよ。『笑って死ねる戦士』のね」
「はっはー、ぶっころ!」
敵味方関係なく刀をぶん回して暴れる奏プロトタイプ。
秋奈はその猛攻に対して、ハッと本能的に笑みをこぼしてしまった。
平和に飽いた世界で見た彼女の顔を、どうしても思い出すから。
この世界に召喚され、レベル1に落とされた彼女は、こんな風に笑ったのだろうかと。
「聞いたよ、笑って、歌いながら死んだんだってね。敵味方構わず引っかき回して、戦乱の中で。いい生き様晒したじゃんよ!」
「新田サァン、これを!」
眉毛のないタカジから投げられたのは一枚のスマートフォン。それをキャッチし、寛治はアプリケーション画面を見た。見覚えのあるアプリだ。
R財団がこの世界で開発し、しかしロールアウトには至らなかった、『世界を滅ぼし損ねた兵器』のなり損ない。
「今更自己主張か、ザムエル」
銃を撃ちまくっていた寛治はそれを引っ込め、室長のシールドにスマホを近づける。アプリのスタートボタンをタップすると、奇妙な音波が流れ室長は思わず自らの頭をがしりと抑えた。
「くっ――」
一瞬、シールドが明滅する。彼の脳波に感応して展開していたシールドは、それを乱されたことで効果を失いつつあるのだ。そこまでを一瞬で理解した寛治はシールドに内側に腕を突っ込み、握った拳銃の銃口を室長の肩へと押しつけた。
「ザムエルは狂ってはいたが、『狂わされ』てはいなかった」
発砲。
肩を押さえ吹き飛ぶ室長。
ザムエル。天才であり明晰にして狡猾。逸脱と傲慢、純粋悪。
「俺の才覚の全てを賭けて戦い続けた相手が、最期は『狂わされていた』。
俺とあいつとの決着に横槍を入れた落とし前は、付けさせてもらう」
爆発が聞こえた。
秋奈が奏プロトタイプを破壊した音だ。
室長は肩を押さえ、ゆらりと立ち上がる。
「君たちはその『力』を何に使う? 全員が管理もされずに振り回し、自分達が世界を滅ぼしてしまっていないと、なぜ思える? 今の世界は、本当に正しい世界かい?」
問いかけに、しかし答えはもう出ている。
イルミナ、寛治、紫電、秋奈、美咲、ムサシ。
そしてユーフォニー、タカジ、アグリア、カガリ、イオリ、ベファーレン、トーラス、管制越しの智子とクロエ。
彼らに取り囲まれ、目を瞑る。全員の一斉攻撃が、室長を最後、光の中へと包んだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
室長、ベリウス、リアムを倒し、アンダー・デトロイト地区を守り切ることに成功しました。
こうして、この人工の街には日常が戻ってくるでしょう。
GMコメント
このシナリオは練達にあるひとつの『アンダー・デトロイト地区』を舞台に繰り広げられる物語です。
幾人もの物語が交差し、それぞれの結末へとたどり着くことでしょう。
・成功条件:敵集団の撃破
敵は僅かに残った戦力を全て投入してアンダー・デトロイト地区へと攻め込んできました。
これを撃退しましょう。もし戦闘に敗北すればアンダー・デトロイト地区は彼らの手に落ちてしまいます。
●フィールド
アンダー・デトロイト地区
やや近未来的な都市をモデルとした『ロボットだけの街』です。
現在は防衛用に全ての建物で防護シャッターが下ろされ非戦闘用ロボットたちも安全地帯に退避しています。
的は武装トラックによって街内部まで既に侵入しており、これを撃退する形になります。
●エネミー
・室長
全ての元凶であり狂気の元となった魔種。リアム、ベリウス、ザムエルが本来持っている狂気をより濃く発現させ、世界中に戦乱をもたらそうとしていた。
有力な手駒のひとつであったザムエルの喪失と練達拠点の喪失によって最後の戦いに投じることとなる。
・ベリウス・ベアグ・ベネディクト
贋作シリーズを引き連れて現れる強力な敵。
これまで巧みに直接戦闘を避けてきたが、流石に追い詰められたようで前線へと出てきた。
雷撃を操る能力を主に強化させており、至~中距離戦を得意とする。
質量のあるホログラムを使った分身攻撃やこちらを幻惑するトリックなど、トリッキーな戦い方をする。
・リアム
偽神シリーズを引き連れて現れる強力な敵。
部下であるイングが部隊のリーダーとして戦闘を行う。
リアム自身の戦闘力はそこまで高くないが、すぐそばについているイングはイルミナと同等までの戦闘力を備えており非常に厄介となる。
また、戦闘スペックやスタイルもイルミナを強く意識したものとなっており、リアムの執着によるものだと今では判明している。
●味方NPC
・クロエ
アンダー・デトロイト地区を管理しているアンドロイド。
イレギュラーズに対して友好的であり、襲撃からの防衛をローレットへ依頼した。
街の防御設備を遠隔操作する形で今回の戦闘に参加する。
そのため武装したロボット隊や戦闘ドローンが味方として参戦する。
・イオリ・セレブライト
ムサシの出身世界から近似した並行世界から召喚されたムサシの未来の娘。
宇宙の新米保安官として活動していたため戦闘は多少こなせる模様。主にイレギュラーズのサポートとして援護を行う。
・ベファーレン
専用のハンマー『ムーンパイ』を軽々と操るパワフルなサブアタッカー。
偵察やハッキングといったサポートに優れており、今回は戦闘に加わるだけでなく、先行偵察を行って敵戦力を洗ってくれる。
・鈴木 智子
佐藤美咲の上司であり00機関のリーダーの一人。美咲の弱みを握っているのかかなりこきつかっている。
情報の提供と調査の依頼補助という形でこの案件に関わっている。
戦闘には関わらないが、ちゃんと味方。
・カガリ
紫電の贋作。機械の身体に自我を持った特殊個体であり、ウォーカー。『もう一人の方』はお留守番をしている模様。
主にイレギュラーズのサポートとして援護を行う。
・タカジ
海洋出身のエージェント。新田の協力者であり最近は戦闘もこなす。
腕にガトリングガンをはめて打ちまくるというパワフルなスタイル。
Tweet