PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<天使の梯子>雲上に舞う鷹を撃ち落とすように

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●情勢は蠢動し、されど動かず
 その日、リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)やすずな(p3p005307)を含めた8人のイレギュラーズは天義と幻想の国境付近に訪れていた。
「お忙しい中、ご足労頂きありがとうございます」
 聖騎士の『黒衣』に身を包んだ青年が謝意を述べた。
 好青年の風にも見え、どことなく飢えた狼のような胡乱さを感じさせる彼の名はシルヴェストル・ベルジュラックという。
 この地方の領主とでもいうべき立場の人物だ。
「依頼があるとのことでしたが……」
 着座を促されてそれに従いつつ、リースリットは早速とばかりに本題を問いかける。
「もしや、お父君が動きましたか?」
「いえ……寧ろ逆です。あまりにも動かないので、皆様にご依頼することに致しました」
 すずなが続ければ、シルヴェストルが否定する。
 リースリットとすずなは以前に2度、シルヴェストルと依頼上での関わりがあった。
 1度目は謀反を疑われていたシルヴェストルを討伐せんとした封魔忍軍の援軍としてシルヴェストルと争い。
 2度目はシルヴェストルの方から『本当に謀反を目論んでいたために追放された先代領主』の調査を依頼された。
 調査の結果、先代領主にしてシルヴェストルの実父、ナルシス・ベルジュラックは『遂行者』と呼ばれる存在の1人であることが判明したのである。
「前回の戦いから少し時間が空いているのもたしかですね……」
 リースリットもそれに同意する。
 前回の戦いはエル・トゥルルでの暴動が合った頃合いだ。
 まるひと月以上動きがないということになる。
「シルヴェストル卿に奪われた物を取り返す、と言っていましたが……この沈黙が良い方向にいくとは思えませんね」
「恥ずかしながら、私の方でも父の動向が掴めていません……影さえも踏めぬのです」
 リースリットの言葉にシルヴェストルは苦笑気味に言うと「そこで」と結ぶ。
「一計を案じることにしました。
 即ち、こちらから隙を見せて父やその配下の者共に攻撃されようと」
「今回の依頼はその護衛、ということですか」
 すずなが言えばシルヴェストルがそれにこくりと頷く。
「なるほど……手を拱いているわけにもいかないのも事実。
 ですが、それだけではないのでは?」
「ええまあ……父がどこに潜んでいるのか、見当をつけつつあります」
 シルヴェストルは言う。
『神の国』を知っているか――と。

『異言都市(リンバス・シティ)』化した天義の巨大都市テセラ・ニバス。
 彼の地への調査・攻撃の末に発見した新しい領域である。
『神の国』は簡単に言えば『リンバス・シティ』を作る前段階。
『現実への侵食』を行う以前のそこは存在してこそいるものの、聖遺物などを『梯』にしなくては辿りつけぬ場所だという。

「……なるほど。いくら探しても見つからないからこそ、彼が『神の国』に潜伏していると睨んでいる……と」
 説明を受けたリースリットは納得するものだ。
「とはいえ、聖遺物を片手にあちこち赴くのでは時間がかかる上に危険が付き纏う。
 そんなことに時間を掛けるぐらいならば、こちらを攻撃させて敵が退くところを追った方が効率がいい」
「ははぁ、なるほど」
 ぽかんとしていたすずながも頷いた。
「でも、相手が攻撃してくれるとは限らないのでは?」
 それ以前の問題だと、すずなが首を傾げれば。
「実はもう、私が聖都へ上ることを通達しているのです。
 ――黒衣を纏い、我が国に仇なす謀反人の誅殺に必要な聖遺物を借り受ける、上洛すると」
 つまりは、敵が殴ってくればそこを追って敵の居場所を見つけられる。
 無視されたのなら聖都に上って聖遺物を借り受け、時間を掛けてでも『神の国』を探るだけだ――と。

 微笑すら零して言ったシルヴェストル瞳には、獲物を狩る獣のような輝きが覗いていた。

●銀鷹は嘲笑す
「――はっ、愚かな奴だ」
 染まる物の無き白亜の城塞――その中で男はせせら笑う。
「そうは言うがナルシス卿。
 もしもご子息が聖遺物を借り受けてこの地を見つけたとしたらどうなさる?」
 男――ナルシスへと騎士が声をかける。
 ふっくらとした体格に乗るぽよぽよとした頬が震えていた。
 ハの字に蓄えられた白髭の下、神経質そうにもぞもぞと口が動いている。
「老爺。あれはな、あの愚息が俺を――貴様を呼んでいるのだ」
 ナルシスが鼻で笑うように言えば、むぅと老爺と呼ばれた騎士が唸る。
「大方、こちらがここで奴を喰らう準備を整えていることに気付いたのだろうよ」
「で、であれば! 猶更の事、手を討たねばならぬのでは!?」
 慌てふためいた老爺にナルシスが嘲りを含んだ笑みを浮かべ、彼を見下ろした。
「なにも、手を打たぬとは言っていない。
 致命者連中を出す――シルヴェストルを捕らえれば奴の考えた策も無駄に終わる」
 冷たい、どこまでも傲慢な瞳を受けて老爺と呼ばれた騎士は震えあがるように膝を屈した――


「想定よりも到着が遅いことだ」
 長剣を握る男が静かな声で笑う。その隣では槍を握る青年が微かに槍を後ろに引いていた。
「……アベラール卿、オスカー卿。なるほど、私の父ながら不快だな」
「知己の方でしょうか?」
「ええ。先の大戦で死んだ、私や父の戦友ですよ」
 すずなの問いに静かに語ったシルヴェストルが剣を構えた。
「戦死した……致命者と呼ばれる者ですか」
「そうでしょうね――」
 殺意に満ちた視線でシルヴェストルが敵陣を睨んでいた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 早速始めましょう。

●オーダー
【1】シルヴェストルの生存及び無事
【2】致命者の撃破または撃退
【3】影の天使の撃破
【4】『神の国』の位置を大ざっばにでも把握する

●フィールドデータ
 幻想との国境線から聖都へと至るルートの一角にある小さな町。
 家屋や店舗が点在しています。
 遮蔽物が多く、射線の確保に工夫が必要な場合もありそうです。

 リプレイ開始時には既に人払いが済ませてあるものとします。

●エネミーデータ
・『致命者』アデラール
 長剣を佩いた人間種の男、見る限り40代半ば頃のようです。
『致命者』と呼ばれるワールドイーターや影の天使を連れて歩く者達の1人。
 冠位強欲の被害を受けた天義で亡くなった人々など、死者を『模った存在』ですが中身は伴っていません。

 シルヴェストル曰く、先の大戦で戦死した戦友とのこと。
 外見こそそうですが、性格はまるで違うようです。

 近接戦闘を主体とし、非常に身軽、手数で押し立ててくるタイプ。
 近単攻撃の他、近列、近貫、近範などの範囲攻撃も可能性があります。
 【変幻】や【多重影】、【巧妙】、【連】などを駆使します。
 HP、物攻、反応、命中、EXAに長けています。

 また、優れた洞察力と戦術センスを持っています。
 戦い方がどこかシルヴェストルと似ているような気もします。

・『致命者』オスカー
 槍を携える人間種の男、見る限り20代前半頃のようです。
『致命者』と呼ばれるワールドイーターや影の天使を連れて歩く者達の1人。
 冠位強欲の被害を受けた天義で亡くなった人々など、死者を『模った存在』ですが中身は伴っていません。

 シルヴェストル曰く、先の大戦で戦死した戦友とのこと。
 外見こそそうですが、性格はまるで違うようです。

 中距離戦闘を主体とします。
 比較的一撃に重きを置いています。
 中単の他、中貫、中範などの範囲攻撃も可能性があります。
【乱れ】系列や【足止め】系列による撹乱が予測されます。
 HP、物攻、命中、防技に長けています。

・影の騎士×16
 いわゆる影の天使ですが、ナルシスらの一派だからか聖騎士風の装いが目立ちます。
 剣と盾を装備した人間種風が10体。
 弓を装備した飛行種風の有翼個体が3体、マスケット銃を装備した獣種を思わせる獣人個体が3体。

●友軍データ
・『沃野の餓狼』シルヴェストル・ベルジュラック
 依頼人兼護衛対象でもあります。
 護衛だと思って守り過ぎるより適度に殴らせた方が良いでしょう。
 反応が高めの物理アタッカー、加えて単体回復も可能です。

 致命者への感情はどちらかというと怒りより。
 死んだ者が蘇った動揺よりも、
 わざわざ自分達の戦友を愚弄したことに不快感と怒りを覚えています。

・聖騎士隊×5
 シルヴェストル指揮下の聖騎士達です。
 幻想との国境付近にいる騎士なだけあり、戦闘経験豊富な熟練の武人ばかりです。
 ヒーラー役以外であればある程度なんだって熟せますが、一番使い倒しやすいのは肉壁運用です。
 余程信頼している部下なのか、すずなさんやリースリットさんは見覚えのある顔がいます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <天使の梯子>雲上に舞う鷹を撃ち落とすように完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年04月30日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
すずな(p3p005307)
信ず刄
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ


「……まぁ、なんつーか、釣りみたいな話なんだよな。今回の場合、釣り糸の先の餌ってのが『依頼人』本人な訳だが。
 たぶん、向こうもそれを承知で餌だけ美味しく頂こうとしてるんじゃあねぇかってのはなんとなーく察しが付くんだよな……」
「釣りねえ? 寧ろ、釣りの方がまだ考えることがありそうだけどな!」
 釣りに例えた『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)にオスカーが言う。
 その頃には既に舞台の幕は上がっていた。
 アベラールを中心とした広域が大地より隆起した黒い顎の中へと呑み込まれていく。
「まじか、どんな芸だこれ!」
 深く濃い大地より降り注ぐ黒雨は確かにオスカーらの身動きを封じこむ。
「いずれにせよ、すでにここは魔境の都。
 神の国とやらをどこに隠しているかは知りませんが、押し通らせていただきます!」
 続けて動いたのはその身に凍てつくような暗い波動を纏う『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)だ。
 青色の瞳に冷たさを宿したシフォリィは漆黒の片刃剣の切っ先に魔力を束ねていく。
 小さな炎が漆黒の切っ先を淡く輝かせれば、アベラールめがけて剣を振るう。
 それ自体はアベラールの剣で受け止められてはいるが、動きを止めるにはそれで充分だろう。
「全く、いい性格をしているな。動揺を誘えるほど、シルヴェストル殿は柔く無さそうだが」
 悠然と受ける致命者たちの動きと言葉を見聞きしつつ、『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)は拳を握り締める。
(だが。それでも心は揺らぐものだ。
 趣味が悪いが、これが、何かの仕込みでないといいな)
 胸を打つ熱意を灼熱の如き熱の波に変えて波濤の如く戦場に響かせれば、影の騎士たちが警戒した様子でジョージに近づいてくる。
「ええまあ、確かに最初にお目当てであるお父君が誘いに乗ってくれる、と思う程楽観はしていませんでした。
 して、いませんでしたよ? しかしこれは……想像以上に性格がお悪いみたいですね。
 ――めちゃくちゃ不快です。元聖騎士が死者を冒涜するなど」
 愛刀を構える『忠犬』すずな(p3p005307)の視線にも嫌悪感が見える。
「そりゃあ悪いね。うちの大将の性格の悪さは元の気質らしいけどよ」
 からりと答えたのはカイトの手で封殺されている青年、名をオスカーといったか。
「あぁ、たしかに。そういうところはあるな」
「……なるほど、反転ではなく元の気質ですか」
 応じるシルヴェストルに頷いて、すずなは呼吸を整え不退転の心得を抱く。
「刺客が致命者と影の騎士なら、拠点が『神の国』という推測も間違いなさそうですね」
 愛剣に魔力を通しながら、『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)はシルヴェストルへと声をかける。
「エル・トゥルルでもなく、ノルトケルクでもない場所にナルシスが潜んでいるとして。
 息のかかっていない街一つを、一人で『神の国』に出来るほどのものなのだろうか」
 大きな疑問点が一つ。故に『ウィザード』マルク・シリング(p3p001309)の推論は当然の帰結に至る。
「……協力者がいる街に潜んでいる?」
「動きのなかった三ヶ月弱。そして、通達に合わせて差し向けられてきた刺客。
 つまり、聖都への通達を細かく閲覧しても不思議の無い、地位ある騎士か聖職者に協力者が居る可能性は高いでしょう」
 同じくその懸念を抱いてリースリットはシルヴェストルへ視線を投げかける。
「そう、だな。国に、人類に弓を引いてまで、となると……」
 そのままシルヴェストルは暫し沈黙する。
「……どうだろうか、一番あり得そうな男はいるが、奴がそれほどの度胸があるか……と言われると痛いな……」
 思い当たる人物がいるのか、小さくそう呟く声が聞こえた。
「シルヴェストル卿、その人物につきましては後ほど教えてください。先ずは影を」
「……あぁ、そうだな。聞いたな、ローレットに続け! まずは影の騎士からだ!」
 リースリットに応じてシルヴェストルが動く。
 彼が影の騎士に斬撃を見舞うのと同時、リースリットは愛剣を振り抜いた。
 刹那、炸裂する精霊光が影の騎士たちを呑みこんでいく。
「前衛は無理をするな。後衛を主体で押し込め」
 アベラールの号令が飛び、それを受けるように銃兵と弓兵が動き出した。
 弓兵の2体が矢を引き絞り、影の矢が放物線を描いて美しい青空を黒く染め上げ、雨となって降り注ぐ。
「死者を貶め、利用する。おおよそ考えられる限り、最も唾棄すべき行為の一つ、だ。
 報いを受ける覚悟は、あるか?」
 黒金絲雀を装備した手をキュっと握る『愛された娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は真っすぐに敵陣を見やる。
「報い、か」
 自嘲するように笑ったのはアベラールというらしき男だ。
 エクスマリアは黒金絲雀に包まれた手を空へ掲げた。
 構成されるは鋼鉄の星。大空に生み出されたそれを見上げ、アベラールが目を瞠る。
「散開しろ、あれを真っ向から受けるな!」
「決して、逃さない」
 アベラールの号令を受けて影の騎士たちが動き出すよりも前にエクスマリアは手を振り下ろす。
 万物を砕く鉄槌が戦場を粉砕するべくゆっくりと動き出す。
 鋼鉄の星に巻き込まれた人間種風の影の騎士が少しばかり動きながら前へ出る。
 前へ出てきた影の騎士へと聖騎士達が剣を振り下ろしていく。
「堅実な動きだね」
 マルクは冷静に分析を試みつつ、ワールドリンカーを撃ち込んでいく。
 キューブ状の魔弾は多数の影の騎士を弾幕の内側の虜に変えて行った。
「ねーさまは、亡くなった人は天に還ると言っていたです。その『かたち』を借りたのが、致命者……」
 彼女の形見を少しばかり見つめて『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)は言葉に漏らす。
(……何度遭遇しても、死者の形を借りた存在は不気味で、悲しいのです。
 縁ある人は、メイ以上に複雑な想いをしているですよね……。
 メイだって、ねーさまが戻ってきたら何を思うかなんて、分からないです)
 動き出した戦場、繰り広げられる攻防に交わるように、メイも葬送者の鐘を鳴らす。
 精神を落ち着かせる独特な音色の響きに続け、新たに響き渡る音色は神聖の瞬きを帯びて影の騎士の耳を打つ。


「見た目がそっくりで中身が別物ってのは俺に取っちゃ特段珍しい話ではないけど。
 それをけしかけるのは性格の悪さが透けて見えるとしか言えないだろ。
 遂行者連中、どいつもこいつも性格が堂々とひん曲がってる気しかしねぇ。
『傲慢』たぁこういうのを言うんだろーな?」
 カイトは後退しながら術式を展開していく。
 打ち込む黒き逆雨は黒き顎のように戦場を打つ。
「ははっ、違いねえ!」
 追いすがるように飛び込んできたのはオスカーだ。
 命中した感覚は無かった。身軽さでカイトを上回られる気はしない――天性の直感による物か。
「旦那。その芸、ここまで肉薄されちゃあ当たらねえだろ」
 槍の一撃を振りほどき、カイトは一気に後退する。
「独特な剣捌きだな」
 シフォリィは肉薄してきていたアベラールからそんな言葉を掛けられていた。
「貴方の攻撃は実直ですね。どこかシルヴェストル氏とも似ているように見受けられますが」
 返すように告げて、シフォリィはアベラールへと刺突を叩きつけていく。
 夜に輝く炎を散らせ、美しく踊るような連撃を直感的に受け流すアベラールが躱しきれず剣で受け止めた。
「この身体はそうなのだろう」
 跳ね上げれた愛剣の隙をアベラールの斬撃が線を引いた。
「影は影らしく、大人しくしてもらおうか!」
 肉薄してくる影の騎士の斬撃を弾くようにして拳を叩き込むジョージは戦場の要の1つ。
「俺を抑えられるか!」
 周囲を囲む影の騎士の1体へジョージは拳を叩きつけた。
 黒鯱の牙を外骨格としたグローブを用いて撃ち込んだ拳は最優の打撃力を以って影の騎士を穿つ。
 崩れ落ちて消滅した影の騎士から視線を外して、そのまま後ろに立つ影の騎士へと追撃の代わりの拳を叩き込む。
(シルヴェストル卿、部下の方々の怒り。
 騎士と剣士の違いはあれど理解出来ます、あまりにも惨い)
 その仕草にますます表情に険を載せつつ、ふ、と小さく息を吐く。
「可能なら此処で眠らせてあげたい所ではあるのですが……それは堪えねばいけません。
 騎士の皆様の実力は重々承知。肩を並べられて光栄というもの。
 ――矛の役目はお任せを! 影を共に蹴散らしましょう!」
「ありがたい。こちらも光栄だ。貴方の剣の腕はあの日、身を以って思い知っております故」
 そう答えたのは聖騎士の1人。
 シルヴァンと名乗った彼は封魔忍軍の援軍として訪れた時に剣を交えた男だった。
 不退転の心得を胸に振り払う斬撃は蛇の如く苛烈にうねりその牙を影の騎士に突き立てていく。
 駆け抜ける斬撃、鮮やかに紡ぐ斬光は獣種風、飛行種風の影の騎士を巻き込みながら幾重もの軌跡を生む。
「以前よりも更に腕が増したように見える。負けられんな」
「そう仰って頂けるのは光栄ですね」
 シルヴァンの言葉を後ろに聞きつつ、すずなは残心する。
「アベラールという騎士の動き、どこか貴方に似てますね」
 リースリットは風の精霊の祝福と加護を剣身に束ねて影の騎士を斬り裂いた。
 鮮やかな剣閃を描いた一撃が影の騎士を両断して消し飛ばす。
「たしかに、そうかもしれないな」
 少しばかり複雑にも見える表情を浮かべシルヴェストルが肯定して、眼前の影の騎士を斬り伏せる。
「狙いにくい、な」
 再び空に鋼鉄の星を描くエクスマリアは小さな呟きを漏らす。
 散開を命じられた後、影の騎士たちの動きは2種類に分かれていた。
 敢えてジョージの方へと肉薄して彼ごと鉄槌に巻き込まんとする者、指示通りに散開して狙いを定めぬ方。
「だが、ここであれば」
 そんな中でも比較的味方に損害の無い位置へと鋼鉄の星は降り注ぐ。
(アイゼンシュテルンは高火力だけど敵だけを狙い潰す器用さはない。
 敢えてこっちの盾役に引き寄せてるのか)
 マルクは冷静に観察しつつケイオスタイドを撃ち込んでいく。
(でも、その分だけケイオスタイドは打ちやすい。このままなら勝てる!)
 戦場を侵す混沌の泥による精神汚染は影の騎士たちを絡め取りつつある。
 メイはファミリアーの猫をこっそりと召喚すると、建物の影に隠れさせている。
(あの人達がどこかに移動し始めたら教えてほしいのですよ)
 ついで、メイは精霊たちへと自らの意思を伝え、葬送者の鐘を鳴らす。
 優しい音色が戦場に響き渡り、イレギュラーズや聖騎士達の傷を癒していく。


 戦いは続いている。
 影の騎士たちの数は確実に減っていた。
(もうそろそろ聖騎士隊に任せても良さそうだ。
 ……そうなると、狙うべきはアベラールのほうだね)
 マルクは冷静にそう分析すると、ワールドリンカーに魔力を通す。
 4つに分割されたキューブはそれぞれに四象の力を生じさせ、一斉に射出された。
 放物線を描いて四方より放たれし魔弾は集束点であるアベラールへと強烈な一撃を刻む。
 カイトは再び雨帳を構築すると、一気に後ろへと跳んだ。
 そのまま繰り広げる黒き顎の領域攻勢――だが、それをオスカーは追ってこない。
 その全身を泥が汚染し、動きが取れないから――ではなさそうだった。
「悪いね、旦那。あんたが俺を止めようとしてるみたいだから相手してたが、時間切れみたいだぜ」
 オスカーが肩を竦めたその時だった。
「――聴け、声なき影よ。命なき影よ。
 お前達の忠節はナルシス卿も認めるところ、その才を尽くせよ。
 殿を務めよ、影の騎士よ。我らの大将の為に」
 不意にアベラールの声が戦場に響く。
 空気が凪ぐような印象を受ける号令が響き渡る。
 影の騎士たちの動きがイレギュラーズを抑え込むように動き出し、致命者たちが後退していく。
「殿に使うか……!」
 ジョージは拳を握り締めて全力の拳打を叩きこむ。
 追撃の一撃に穿つ拳が影の騎士を地に沈めてみせる。
「良いだろう。最後まで相手をしてやる!」
 迫りくる影の騎士達へ、ジョージは啖呵を切ると共に拳を握り締めた。
 降り注ぐ数多の攻勢をジョージは平然と受け止めてみせる。
「あんたの言う釣りで例えるなら、ボウズになっちまったってとこか? ははっ」
 追撃を拒むかのように打ち出されたオスカーの槍を受けたカイトはその場に足を縫い留められた。
(このままバレないように追えば良いって話だよな)
 ちらりと仲間の方を振り返り、カイトは息を殺し始める。

「あまり時間を掛けるわけにもいかない、な」
 エクスマリアは渾身の魔力を黒金絲雀に籠めた。
 刺繍がエクスマリアの魔力を吸い上げ、鋼鉄の星は恒星の如く鮮やかな金色の輝きを魅せる。
 放たれた鋼鉄はイレギュラーズを止める為に前に出てきた飛行種や獣種を射程に収め、ゆっくりと動き出した。
 戦場を穿つ鋼鉄の恒星が全てを呑みこみ破砕する。
(精霊さん達、あの人達を追いかけてほしいのです)
 メイは葬送者の鐘を鳴らしながら、精霊疎通を試みる。
 同時、ぴょんと視界の外を飛び出してったのはファミリアーの猫。
 それらが致命者を追いかけるのを横目に、響かせた音色は幻想の福音を響かせる。
 紡がれし福音の音色は穏やかに、蓄積された疵を癒していく。


 小さな町を出た致命者たちが街道を駆け抜けていく。
「想像はできますが、あのアベラールという騎士とは親しい関係だったのですか?」
「あぁ、彼とは同じ師に学び、同じ隊にいた私の先輩に当たる」
 リースリットの問いにシルヴェストルが小さく頷いて言う。
 空を羽ばたくファミリアーを見上げリースリットは思う。
(そんな人達の似姿に、無様を晒させるのは心苦しいものがありますが……)
 精霊統帥を交えた追走は今のところ問題はない。
「やはりそういうことでしたか」
 シフォリィはシルヴェストルの言葉で自分の推察が正しかったことを知る。
 その視界は空を行く鳩に同一され、感情探知も絡めつつ追走していた。
(ワールドイーターや影の軍勢は強欲に何かを取り込もうとしている。
 これが感情に起因しているのなら、感情探知で何か引っかかるかもしれません)
 視界には後退する2体の致命者が映っていた。
「地図はこれであってるんだね?」
「あぁ、間違いない」
 マルクはシルヴェストルに確かめると、周辺の地図と照らし合わせながら2匹のファミリアーを追走させる。
 空と地上、2点より望む視線の先で致命者たちを追っていくという算段だった。
「敵がこちらの思惑を察していても、不思議ではない。
 致命者が自害、或いは始末役が来ることもあり得る、な。
 何が来ても直ぐに対処できるよう、用心しておくべき、だ」
 走りながら言うエクスマリアの懸念はなるほど正しいモノであった。
「大丈夫ですよ。空に溶けて消えでもしない限り、何かの痕跡は残っているはず。
 彼らが消えてしまったならば、その地点を中心に探すですよ」
 ファミリアーを先行させるメイの言葉も正しかろう。
「私はこういう情報収集は不得手ですが……ひとまず大まかに撤退する方角は見えてます」
 意識を伸ばすようにして構成した広域俯瞰、すずなの耳は彼らの居場所を把握し続けている。


 そして、数多のファミリアーたちはその場所を見付けだした。
 それは閑散とした田舎町のように見えた。
「ランブラ……か」
 シルヴェストルが呟く。
「そうか。そうなるとやはり」
 小さく呟くシルヴェストルには思い当たるところがあるのだろう。
「老爺、とは?」
「レイモン・ド=ランブラ。父は老爺とよく呼んでいたが、良くも悪くも保守穏健派の御仁だ」
 シフォリィの問いかけにシルヴェストルはそう答えた。
「保守穏健派……ですか」
「言い方を変えるなら、日和見主義ともいうか。そのせいで父が蛇蝎の如く嫌っていた。
 今は隠居しているとは聞いているが……」
 難しい顔をしてシルヴェストルが少し嘆息する。

成否

成功

MVP

リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

PAGETOPPAGEBOTTOM