PandoraPartyProject

シナリオ詳細

クラマ怪譚。或いは、百鬼夜行とその顛末…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●百鬼夜行
 豊穣。
 ここ、ツムギ湊はカムイグラの港町である。
 ひと際大きく、絢爛極まる屋敷の奥で1人の女が座していた。
 豪華な着物に、金の髪。
 頭頂部には狐のような耳がある。
 彼女の名はクラマ。
 ツムギ湊を統治する、有力者の1人だ。
「百鬼夜行……というのを知っておるかな? まぁ、知らんでも問題は無い。簡単に言えば、妖たちが夜な夜な、街中を徘徊するのだ」
 街を徘徊して、どうするのか。
 あなたは問うた。
 クラマはくっくと肩を揺らすと、煙管をそっと手に取った。
 すぅ、と紫煙を肺いっぱいに吸い込んでから、クラマは答えた。
「いやぁ、何も? 何をするわけでもない。基本的にはな。あちこちの街を巡っている……まぁ、変わり者の妖たちだ」
 そんな、クラマの言うところの“変わり者”の妖たちが、近々、ツムギ湊を訪れるらしい。
 百鬼夜行が来た日には、住人たちは誰もが家屋の中に籠って表へ出ない。静かで、温かく、そして少しだけ不安な夜を過ごすのだ。
 では、今回もそうすればいいのではないか。
 そんなあなたの疑問に対し、クラマは「然り」と言葉を返す。
「とはいえ、何も問題が生じないわけではない。人を驚かそうとするやつもいるし、何かの拍子に逸れてしまうやつもいる。そもそもが妖なのでな、うっかり人や家屋に害を成すような輩もいるだろう」
 例えば、とクラマは指を空へ向けて語り始めた。
 相撲をしようと人に迫る河童がいる。
 うっかり小火騒ぎを起こす火の妖がいる。
 白うねりという妖は、ひどい異臭を放つという。
 狸や狐は、人を驚かし、化かして揶揄うのが大好きだという。
「とまぁ、妖のうち7~8割ほどはそんな風でなぁ。人を殺めるような危険な妖はいないが、迷惑な奴なら山ほどいる」
 そこで、イレギュラーズには妖怪たちの誘導や街の警備を頼みたいと、クラマの依頼はそういうものだ。
 これは、つまり、百鬼夜行がツムギ湊へ訪れる、とある春の日の物語。

GMコメント

●目的
百鬼夜行を無事に通過させること

●用語
・百鬼夜行
妖たちの集団行進。
町から町へ渡り歩いているようだ。
百鬼夜行の日、町の住人たちは家屋に引きこもって過ごす。
だが、妖の中にはそんなことお構いなしに人とコミュニケーションを取ろうとする者もいるだろう。
人に興味関心がある妖や、うっかり民家や住人に迷惑をかけかねない妖、人にいたずらを仕掛けようとする妖怪がいる。

●フィールド
ツムギ湊。
豊穣にある港町。
時刻は深夜。
百鬼夜行は町の西側にある食糧倉庫辺りから登場し、町の中央通りを抜けて、東の市場から町を出ていくようだ。

●NPC
・クラマ
豪奢な着物に華奢な体、金の髪を長く伸ばした獣種(狐)の女性。
若いようにも見えるし、それなりの年齢にも見える。
百鬼夜行の誘導をイレギュラーズに依頼した。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】ローレットの依頼で来た
ローレット経由で依頼を受けてツムギ湊を訪れました。真面目に頑張ります。

【2】クラマから相談を受けた
あなたとクラマは知り合いです。偶然、ツムギ湊を訪れたところ、クラマから呼びつけられました。ほどほどに頑張ります。

【3】気が付いたらツムギ湊にいた
気付いたらツムギ湊にいました。周りは妖怪だらけです。夢か、それとも幻覚か……いいえ、百鬼夜行に参加しています。


百鬼夜行の過ごし方
百鬼夜行の夜、あなたはどのような行動を取るか。近いものを以下からお選びください。

【1】百鬼夜行を誘導する
百鬼夜行の先導や列の整理、妖たちへの注意喚起を行います。魔力式誘導棒が支給されます。※魔力式誘導棒は7色に光ります。

【2】町を巡回し、トラブルをバスターする
町を巡回し、列からはぐれた妖たちの対応をします。時には実力行使が必要になる場合もあるでしょう。

【3】百鬼夜行に参加する
百鬼夜行の列に加わります。妖たちは、どうやら親しみやすく親切な様子です。

  • クラマ怪譚。或いは、百鬼夜行とその顛末…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年04月20日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華
ファニー(p3p010255)
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ
幽火(p3p010931)
君の為の舞台

リプレイ

●嫋々
 音がしていた。
 雨上がり特有の肌に絡みつくかのような、じっとり湿った冷たい空気に、笛や太鼓、それから声のざわめきが混じる。
 足音、1つ。
 それから、2つ。
 かと思えば、あっという間に足音は10を超え、20を超え、100にも迫る大音声へと増していく。
 百鬼夜行。
 夜毎に豊穣の各地を廻る、妖たちのパレードである。
「百鬼夜行ねぇ、俺もイレギュラーズになる前に豊穣を旅したけど結構あちこちでそういう話は聞くよな」
 人気の失せた大通り。
 列を作って行進していく妖たちの様子を見ながら、『鬼斬り快女』不動 狂歌(p3p008820)はそう呟いた。
 先頭を進む武士らしき男。その後ろには、力士のような立派な体躯の河童が続く。
「見た顔だな。あれは……山ン本部屋の河童たちか?」
 ふむ、と顎に手を触れて狂歌は百鬼夜行の列に目を走らせた。
 火の妖に白うねり、狸に狐、踊る猫、それから虎の妖に……。
「いや、あれはソアか。何だって百鬼夜行に加わってんだ?」
 虎の妖……あらため、『無尽虎爪』ソア(p3p007025)は楽しそうに近くの女天狗と肩を組んで笑っている。きっと自分が何の列に加わっているのかも理解していないのかもしれない。
「知らないのか? 百鬼夜行は“誰でも”参加していいんだ。人間だっていつか死ぬ。死んで、霊とやらになっちまったら、妖の仲間入りだからな」
 狂歌の背後で声がした。
 振り向けばそこには、身の丈8尺に迫る鬼人種の大男がいる。
 男の顔を見た瞬間、狂歌は背中に担いだ大太刀に手を伸ばした。
「てめぇ……いつぞやの」
「おっと! 物騒な真似はよしてくれや。俺ぁ、単なる雇われ者よ。つまりお前の同僚だ」
 大男……名をハダニという彼と狂歌は以前に1度、会っている。
 もっとも、その際は敵同士だったわけだが……。
「ほら、見ろ。あそこの人魂、列を外れているぞ」
「あぁ? あ、おい! そっちは民家だ! 近寄るな! 燃え移るだろうが!」
 ハダニのことも気になるが、今はそれより百鬼夜行の相手が先だ。トラブルを未然に防ぐべく、狂歌は駆け出して行った。

 ソアはとても楽しんでいた。
 久しぶりにカムイグラへと足を運んでみたところ、なんと祭りをやっていたのだ。それも町から町へと渡る、大名行列もかくやといった規模の大きな祭りである。
「今夜はお祭りみたい、運がいいの!」
「えぇ、えぇ、そうでしょうとも! ささ、もう一献!」
 1つ前の町で列に加わった女の天狗に手酌を受けて、澄んだ清酒をぐぐいと煽る。酒は飲めども飲まれるな、とは言うものの、せっかくの祭りだ。飲まなきゃ損だ。
「それにしても、雷虎様の御召し物は素敵ですわね」
「でしょー? この国の衣装好きなの、ボクでも着やすくて動きやすい!」
 女天狗は何やらソアに友好的だ。
 その理由については今一、不明であるが、せっかくの好意を無碍にするのは信条に反する。ソアと女天狗は肩を組みながら、人気の失せた通りを悠々と進んで行った。
「ところで、雷虎様はいつ封印から解かれたので? 風の噂で、名のある法師に槍で射貫かれ、どこかの神社の地下に封印されていると耳にしたのですが」
「んん-? あんな槍、ボクにかかればちょちょいのちょいだよ! 封印されるのにも飽きたから、引っこ抜いて出て来たんだ!」
「なんと、そうでありましたか。流石は雷虎様ですわ!」
「んっふー!」
 どうやらこの女天狗、ソアのことを別の誰かと勘違いしているらしい。槍とか、神社とか、封印とか、何も知らない。
 知らないが、適当に話を合わせて酒を飲むのだ。
 ノリと勢い。
 生きていくのに大切なのは、それなのだ。

「ではお前、宿灘御前様にお目通りしたのか!? いかがであった? 儂もいつかは、かのお方にお目通りし、眷属の末席に加えていただきたいのだが、どうにも畏れ多くてな!」
 呵々と笑う大蛇の怪が、『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)に巻き付いている。
「おぉ、会ったぞ。あの方はそうだなぁ……たしかにあんたの言う通り、怖ろしいな。己れが会った時は上機嫌だったが、それでも嵐と雷鳴を引き連れていた。歩く災害みたいだったぞ」
「そうであろう、そうであろう! 眷属の皆方でさえ、あの方が怖ろしいという!」
 大蛇は上機嫌である。
 大声で叫び、笑い、時には感極まって涙を流すのだ。吐く息が酒臭いので、きっとしこたま酒を飲んでいるのだろう。
 手酌で杯に酒精を満たし、命はそれを口へと運んだ。
 命もそれなりに酒を飲んだが、2メートル半の巨躯ともなれば、そう易々と酒精に毒されることも無い。
「ところで、この酒はどっから来てるんだ?」
「んん? そうか、若き鬼殿は百鬼夜行は初めてか? 酒や肴は、気を利かせた領主たちがくれるのだ。ほら、ちょうどあそこに!」
 と、大蛇が鼻先で示した先には橋のたもとに積まれた酒の樽がある。

 カタカタと軽く陽気な音を奏でる一団がある。
 どうやらそれは、肉を失った骨の妖たちらしい。這うように進むがしゃどくろに、頭しかない笑う骸骨。それから、びっしょりと濡れた白骨の妖。
 どれもおどろおどろしく、そして何やら陽気であった。
 その中でもひと際目を引くペイントを施された骸骨へと近づいて、『Stargazer』ファニー(p3p010255)は小声で問いかけた。
「よう、おたくは長いこと参加してんのかい? いやぁ、俺様は初参加でよ」
「ん? 僕かい? 僕も初参加だよ」
 カードを手繰る手を止めて、ペイントを施された骸骨……もとい、『夢から醒める時間』幽火(p3p010931)は、骸骨のマスクを脱ぎ去った。
 マスクの内側に留め置かれていた紫色の髪が夜闇の中に広がる。
 それを見て、ファニーは目を丸くした。
 丸くする目なんて無いが。
「あれ? 妖じゃねぇのかよ!」
「僕は大道芸人だよ。このマスクのせいで勘違いさせちゃったかな? カラベラって言うんだけど」
「なんだってわざわざそんなマスクを被ってんだ?」
「受けるんだよね」
 どうやら幽火は、路銀を求めて百鬼夜行に参加しているらしい。
 首から下げた籠の中には、古い銭が幾らか投げ込まれていた。今だって、ファニーと会話をしながら、右手から左手へ、左手から右手へと次々にカードを飛ばしている。
 わぁ! と周囲で喝采が上がった。
「まぁ、骨の手じゃこうも上手いことカードは操れねぇよなぁ」
 拍手喝さいを送る濡れた骸骨を一瞥し、ファニーはそう呟いた。
「彼、友人に殺されて井戸に投げ込まれたんだって。友人を探すために百鬼夜行に参加しているそうだよ」
「見つけてどうするんだろうな」
 また会えたね、と仲良くするのは無理だろう。

 クラマ屋敷の前を妖の列が横切る。
 それを一瞥したクラマは、列に加わろうとしていた『惑わす怪猫』玄野 壱和(p3p010806)を呼び止めた。
「ン? なんダ?」
 クラマを見やって壱和が問うた。
 くっくと肩を揺らしながら、クラマは縁側に置かれた酒の樽を指さす。
「差し入れである。それを持っていけ」
「あぁ、分かっタ。話はそれだけカ?」
 樽を抱えて、壱和は言った。
 クラマの目が、弧を描く細い瞳の色に“含み”を感じたゆえである。
「話、というほど大したものではないがな。お前、何でツムギ湊に来た? 真面目に列の誘導をする性質のようにも見えないし、百鬼夜行を楽しむ類のようにも見えんが?」
「心外だナ。仕事は真面目にやるシ、パレードに加わるなら楽しみもするサ。なに、ちょっとした探し人……いや、探し妖カ」
 火車や猫又、化け猫の類とは面識がある。
 もちろん、豊穣に住まう妖ではなくかつて壱和が生きていた別の世界での知り合いだ。当然、百鬼夜行にいるそれらとは初対面だが、もしいるのなら逢ってみたい。
 少しだけセンチメンタルな理由だ。
 壱和がそれを口に出すことは無いし、クラマに聞かせてやるつもりも無い。
「話が終わりなら、もう行くゾ」
「うむ。くれぐれもよろしく頼む。それと、狐の類には良くしてやってくれ」
 呵々と笑ってクラマは手を振っていた。
 彼女自身も狐の獣種であるためか、狐の妖には親近感でも湧いているのであろう。
 なるほど、それは壱和が此度の依頼に参加したのと似た感情だろうか。
「安心してくレ。下手なことはしないサ」
 と、言い残し。
 壱和はそっと、百鬼夜行の列に加わる。

●おどろおどろ
 チャカポコ、チャカポコ。
 スチャラカ、チャカポコ。
 夜は更ける。
 百鬼夜行は踊る。
「お前さん、いかにも力が強そうだ! どうだ、俺と一番!」
 列の中ほど、命に声をかけたのは筋骨隆々とした巨躯の河童だ。彼にかかれば、牛でも馬でも、あっという間に川に引き摺り込まれるだろう。
 好戦的な笑みを浮かべた巨躯の河童は、地面に足で円を描く。
「山ン本部屋前頭、河童の金鎧山だ」
 円の中央辺りに低く腰を落として、河童……金鎧山は両の手を地面へと着いた。断られることなど無いと、そんな風に思っているのかもしれない。
 事実、命は簡易の土俵に上着を脱いで踏み込むことで「是」を示した。向こうが力比べを挑むというのなら、命はそれに全力で応えるだけである。
「って、何を町の真ん中で相撲取ろうとしてんだ! 迷惑を考えろよ!」
 駆け込んで来た狂歌によって制止されたが。
「おぉ、狂歌か。まぁ、そう硬いことをいうなよ。一番だけだから」
「一番で済むか。見ろ、河童が列をなしてるだろうが!」
 金鎧山の後ろには、河童の力士が並んでいる。1人、2人、3人……まだまだ増える。これから相撲を取ろうというのだ。河童が並ばないはずはない。むしろ、ここで並ばないのなら河童ではないとさえ言える。
「そこのお嬢さん! 細身だがいい筋肉だ! 一番、御指南いただこう!」
 列に並ぶのもまどろっこしいと言わんばかりに、河童が1人、狂歌へ向かって駆けだした。足の裏で地面を滑るような独特の歩法……摺り足である。
 河童が狙うは“ぶちかまし”!
 頭から肩の辺りを相手にぶつける相撲の技だ。
「常識ってものがないのか、河童には!」
 だが、狂歌にぶちかましは通じない。
 伸ばした右手で頭部をいなし、左手で甲羅の縁を掴んだ。
 そして、突進の勢いを利用して投げる。
 地響きがした。
 頭から地面に激突し、河童は気を失った。それでも皿は砕けていない辺り、河童がこれまでどれほど鍛えて来たかが分かる。
 1人で生きて来た。
 相応に身体も鍛えている。
 フィジカルにはパラメーターを振っているのだ。河童の1人や2人であれば、投げ飛ばす程度わけは無い。
 それゆえ、狂歌の受難は続く。
「見事! だが、幕下を投げた程度で調子付かれては困る!」
 2人目だ。
「山ン本部屋、小結! 白狼! 一番お願いします!」
「上等だ! 全員、列に投げ戻してやる!」
 そうして気が付けば、道の真ん中に2つ目の土俵が出来ている。
 狂歌の様子を横目で見やって、命は土俵に手を置いた。
「さぁ、やろうや」
 山ン本部屋相撲、百鬼夜行場所……開幕である。

「河童は無理だね。放っておこう」
 幽火はそっと、河童たちから目を逸らす。何も無かった……いいね?
 それから、手元でカードを手繰ると、通りかかった壱和の方を指さした。
「うン? なんダ?」
「やぁ、そこの猫君? 僕のカードを……ハートのAを知らないかな?」
「知るわけないだロ。今、通りかかったところだゾ」
 狸や狐たちの視線が、幽火と壱和の間を交互に移動する。
 これから何が起きるのか……気になっているのだ。
「そう言わず。探すのを手伝ってくれないかな? 例えばぁ……帽子の中とか?」
 幽火が指差したのは壱和の頭部だ。
 瞬間、壱和は頭の上……猫の耳が付いている辺りに違和感を感じた。
 帽子の中に手を入れると、薄いカードの感触がする。
「……まじカ」
 取り出したのはトランプだ。
 描かれた数字はハートのA。
「「「「おぉぉおお!」」」」
 狸と狐が喝采を上げた。
 化かしのプロである彼らの目をして、幽火の技は見抜けなかった。
 化かされたのだ!
 化かした経験はあっても、化かされた経験はあまりない。狸と狐はだいたいそうだ。
「どうだったかな? 種も仕掛けももちろんあるよ? あるけど、しかし、分からないならそれは無いのも同じだろう?」
 なんて。
 唇に人差し指を当て、幽火はにやりと微笑んだ。
 狸と狐は湧いた。
 種に気付けなかったから。
 故に悔しさを感じる。
 悔しさ以上に、賞賛の念を禁じ得ない。
 だから、喝采を送った。
「ありがとう! おひねりはこちらの籠へ! ありがとう、ありがとう!」
 万雷の拍手を浴びながら、幽火は深く礼をする。
 上機嫌な狸や狐は、次々に銭を投げている。
 そのうち一部は葉っぱのようだ。
 興奮しすぎて、化かせていない。
 その様子を横目に見ながら、壱和はぼそりと呟いた。
「何なんだヨ……」
 
 何事も、コツコツやるのが信条だ。
 骨の無い奴はそれが出来ない。
「だから俺ぁ、必死で鍛えた! 俺を殺して井戸に投げ込んだ野郎に復讐するために、来る日も来る日も井戸の底でスクワットだ! 次に野郎に会った日にゃ、今度は俺が野郎を井戸に投げ込んでやるのさ!」
 骨片を飛ばして怒鳴っているのは「狂骨」という骨の妖だ。ファニーは彼のように、反骨精神に溢れた者が嫌いではない。
「まぁ、俺ぁ長いこと井戸の底にいたんでな! ともすると野郎ももう死んでいるかもしれねぇ!」
 そうなったら、骨折り損だ。無駄骨だ。
 だが、狂骨は「それでもいい」とそう言った。努力が無駄に終わることもあると、骨身に染みて知っているのだ。
 だから、そっとファニーは狂骨に盃を渡す。
 澄んだ色の酒を、ゆっくりと、しかし並々と注いでやった。
 嬉しそうに狂骨は酒を口に運んだ。酒が顎骨から喉骨を伝い、肋骨を濡らす。
「五臓六腑に染みわたるぜ!」
「どれもとっくにねぇだろ」
「それもそうだ! ところで兄弟! お前さんは、何だって骨になったんだ!」
 赤ら顔の狂骨は問う。
 赤くなる肉は無いが。
 ファニーは口角を上げて、ふっと鼻で笑った。
 上げる口角は無いし、鳴らす鼻も無いが。
「悪いがそれは言えねぇな。墓まで持っていくつもりだ。バック”ボーン”は分からないほうがミステリアスだろ?」
 動く骸骨に、入る墓など存在しないが。

●ゆらゆら
 楽しい夜だ。
 だが、いつまでもは続かない。
「明けない夜は無いんだねー」
 抱えた樽を傾けて、酒をぐいぐいと飲みながらソアはしんみりとそう呟いた。
 百鬼夜行の列に加わり、歩きながら一晩中、酒を飲んでいた。
 それだけ飲めば、いかにソアでも多少は足取りがおぼつかなくなる。
 もっとも、酒に飲まれて“虎になる”ようなことはなかった。その程度の自制心は働いているし、そもそも最初からソアは虎である。
 町の終わりに差し掛かる。
 東の空に視線を向ければ、空が僅かに白んでいた。
 あと一刻もしないうちに、朝日が昇る。
 朝日が昇れば、夜が明ける。
「楽しかったな。もっと、騒いでいたかったな」
 空になった酒樽を置いて、ソアはそれによりかかる。
 そうして、少し目を閉じれば途端に睡魔が襲って来た。瞼が重たい。酒精の酔いに身を任せ、眠るのはさぞ気持ちがいいだろう。
「また遊びたいな。なんのパレードなのか、知らないけど」
 なんて。
 最後にそう呟いて、ソアは眠りに落ちていく。
 すぅ、と安らかな寝息を立てるソアの肩に、そっと布がかけられた。
 ソアが風邪をひかないように、気を利かせた妖がいるのだ。
 温かい。
 毛布だろうか。
 否、一反木綿の切れ端である。

 台車を引く猫がいた。
 二又の尾を持つ白猫が、酒に酔って踊っている。
 化け猫たちが太鼓を鳴らし、鐘を突く。
「にゃー!」
「なぁお!」
「にゃんにゃお!」
『ねっこ』
「うなぁお!」
 壱和は黙って、朝日の中へ去っていく猫の妖たちの姿を見送った。
 やはり……というか、当然と言うか。
 壱和の知り合いだった怪猫は1匹もいない。
 いないが、しかし、懐かしい。
「元気でナ」
 なんて。
 壱和が零した小さな声は、猫たちの耳には届かない。
 1匹、2匹、猫の姿が見えなくなった。
 かくして、ツムギ湊から百鬼夜行は去っていく。
 なお、ファニーも一緒にどこかへ消えたが……きっとそのうち、ローレットへと帰還するはずだ。
 

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
大きなトラブルもなく、百鬼夜行はツムギ湊を去っていきました。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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