シナリオ詳細
<月眩ターリク>捜しモノは何ですか
オープニング
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ラサ国内で人気のある美しい宝石、紅血晶。
怪しい輝きに見入られ、求める商人は多いという。
流通量も制限させているらしく仕方のないことだが、合わせてこの宝石には所持者が化け物になってしまうという不吉な噂が。
噂が広まる状況と合わせ、ラサでは現状、『赤犬』ディルクが失踪してしまっている。
なんでも、彼は吸血鬼が口にする『月の女王』、『紅の女王』と思しき娘と姿を消したと思われる。
その痕跡を辿ることで、至ったのは広大な遺跡『古宮カーマルーマ』。
内部には『夜の祭祀』が行なわれた形跡と幾つかの転移陣が存在しており、転移陣の先に広がっていたのは、世にも不可思議な『月の王国』であった。
そうして進軍する間にも、現れる吸血鬼に偽命体。
彼らとの交戦によって、イレギュラーズの間にも烙印が刻まれる者が増えていく。
月の王国の手勢の真なる目的は、月の王国の住民を増やすこと。
烙印を身に宿した者は徐々にその身を吸血鬼へと転じ、『女王への執心』を抱くようになる。
「もはや、一刻の猶予もなりません」
『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が月の王国へと向かうイレギュラーズへと力強く告げる。
「今は確実に歩を進めたいところだな」
アルトゥライネル(p3p008166)の一言に、その場の全員が同意する。
いくつもの依頼で進軍を進めていたイレギュラーズは月の王宮前へと辿り着くことができた。
王宮内部に存在する祭祀場が烙印の進行度を早め、偽命体を作り出す為の儀式も続けられているという。
これらを阻止する為、いち早く王宮の攻略を進めたいが、城門には防護魔法が施され、巨大な魔法陣が展開されている。
「周囲にはいくつもの小さな魔法陣が展開されており、それらを傷つけて大元の防御魔法の力を弱めねばなりません」
アクアベルは小さな魔法陣の一つをターゲットとし、傷つけることをこの場のイレギュラーズへと願う。
場所については、先日捕らえた吸血鬼クラッドの供述によって発覚している。
「尋問した甲斐がありましたね」
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)が小さく頷き、アクアベルの指定するその魔法陣の場所ならわかると豪語していた。
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月夜の下、春となっても冷えた空気が支配する砂漠を歩くイレギュラーズ。
しばらくして、その砂漠を踏破した一行の目の前に聳え立つ月の王宮。
その城門には巨大な魔法陣が展開しており、外部者の侵入を拒む。
強力な防護魔法の力を削ぐべく、メンバーは事前の情報にあった小さな魔法陣の元へと急ぐ。
散開する小さな魔法陣は様々。空中に浮かんでいたり、物に擬態することもある。
こちらのチームが目指していたのは、どちらかといえば後者。
砂上に砂で描かれた魔法陣。一目では非常にわかりづらく、目を凝らして見てそれだと気づくものだ。
ただ、その周囲に吸血鬼の一隊がいたことで、魔法陣の場所は比較的わかりやすくなっていると言えなくもない。
「来たね」
小さく告げたのは、白い肌をした少女だった。
クラーラと名乗った吸血鬼は、ゴーレムとワシの姿をした晶獣、そして、少女をベースとした偽命体を従える。
「クラッドお兄様をどこへやったの」
可愛らしく、それでいてひどく寒気がするような冷たく、鋭い口調で彼女はイレギュラーズを糾弾してくる。
ただ、この場所を供述したのがクラッド本人だというのがなんとも皮肉めいている。
「魔法陣を壊させはしない。……お兄様の居場所は必ず吐かせてあげる」
底冷えのするような威圧感を放ちながら、クラーラはしもべ達と共に襲い掛かって来るのだった。
- <月眩ターリク>捜しモノは何ですか完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年05月02日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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夜の砂漠を歩くイレギュラーズ一行。
その最中、メンバー達は改めて情報交換して。
「城門開放作戦に臨むのじゃ」
改めて、今作戦名について、『殿』一条 夢心地(p3p008344)が呟く。
「ようやくここまで来たな……。もう目と鼻の先だ。お互い、後には引けないだろう」
『可能性の壁』アルトゥライネル(p3p008166)は近づいてきた吸血鬼達の本拠地と思しき月の王宮が聳え立つ。
ただ、内部に入る城門に巨大な魔法陣が邪魔している。
周囲に様々な形で展開される小規模な魔法陣が魔法陣の力を高めているらしい。
「今回は小さな魔法陣を壊すお仕事だけど……」
先の依頼で遭遇し、拘束した吸血鬼クラッドの尋問が成功したことに、『炎熱百計』猪市 きゐこ(p3p010262)は喜ぶ。
尋問に当たっていた2人は実にいい仕事をすると、きゐこは絶賛して。
「妹が居たのね? 丁度良かったわ!」
どうやら、今回目指す魔法陣の傍にはクラッドの妹である吸血鬼少女が待ち構えているらしい。
情報源は多いに越したことない。きゐこは「にひひ♪」と笑う。
「にしても、クラッドに妹がいるとは思いませんでしたね……」
『温かな季節』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は兄を慕う少女から、怒りを向けられても仕方ないことをしたと本音を漏らすが。
「ですが、それはこちらも同じでしょう」
ジョシュアが指摘したのは、烙印を刻まれた人のこと。
その症状も進んでおり、ここで止まるわけにはいかない。
現に、今チームで唯一烙印を押されていた夢心地は、頭に咲いたチューリップが日々、少しずつ成長していたことを意識して。
「待っておっても、事態は好転せぬじゃろ」
腹が減って仕方なかったらしく、夢心地はおやつのメョガをボリボリと噛み砕いていた。
「これ以上、犠牲者を出す訳にはいかない」
「治す方法を掴むためにも、偽命体を生み出さないためにも……進まないと」
烙印のタイムリミットを気にかけるアルトゥライネルは一つ一つ確実に潰して進もうと皆に促すと、犠牲者となる仲間が増えることを懸念する『誰かと手をつなぐための温度』ユーフォニー(p3p010323)が決意を口にする。
「……吸血鬼が如何様な理由を持っていようが、斬る。それだけだ」
『名も無き忍』百合草 源之丞 忠継(p3p010950)は忍びの掟に従うのみと言葉少なに告げた。
(外道と呼ばれようと構わぬ)
――既にこの身、冥府魔道が畜生に堕ちた身。忍びに心は要らぬ。
かつて、取り返しのつかぬ後悔と罪を背負った忠継は、己を押し殺して淡々と依頼を遂行せんとする。
砂上に砂で描かれた魔法陣の傍で、白い肌をした少女クラーラが待ち構える。
「来たね。……クラッドお兄様をどこへやったの」
「兄妹愛というのはいいものです、私も妹なのでまあわかります」
露骨に嫌悪感を露わにするクラーラに、『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が反論して。
「ですが、私達にも譲れないものがありますから」
なんだったら、貴女がこちらに投降していただければ会わせてあげられると、シフォリィは交換条件を持ち掛ける。
ただ、シフォリィ本人もそんな気は毛頭ないだろうと察する。
仮に、クラーラがイレギュラーズと好意的に接するのなら、従える晶獣や偽命体に戦闘態勢を取らせたままにはしていないだろう。
「魔法陣をぶっ壊せばイイってところは理解り易くて助かるんだけれど、門番は多いね!」
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は砂上の魔法陣に注目する。
これを傷つければ作戦は成功だが、クラーラ達がそれを黙っているはずもない。
「しかも、噛まれると変なモノに感染するって言うんだからたまらないね!」
吸血鬼はもちろん偽命体にも吸血鬼となっている者がおり、食らいつかれるだけでも危険だとイグナートは再確認する。
「魔法陣を壊させはしない。……お兄様の居場所は必ず吐かせてあげる」
力尽くでイレギュラーズを問いただす気でいるクラーラは、右腕を伸ばして配下をけしかけてくる。
「どうするべきか決まっているのなら、押し通すまでです!」
シフォリィは仲間に先んじて動き、応戦を始めるのである。
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イレギュラーズの目的は魔法陣の破壊と、障害となる敵部隊の掃討だ。
ただ、事前に話したメンバー間の中で、吸血鬼クラーラに色々と聞き出したいという方針もあり、それ以外の敵を全滅させて彼女の捕縛を目指す。
シフォリィはクラーラ以外の敵をできるだけ多く捕捉するが、中でも晶獣シャグラン・プーペ……ゴーレムが面倒だと感じ、そいつを中心に呪いを帯びた堕天の輝き……アンジュ・デシュで照らす。
攻撃力が低いと自認するシフォリィではあるが、攻撃を当てるだけで相手の気力を削ぐこともできる。
アンジュ・デシュは他にも、様々な異常で相手を苛ませられる。
それらと呪殺の効果が合わされば、ダメージは無視できないはずとシフォリィは考え、次なる一撃に備えていた。
真っ先に前へと出たシフォリィを狙うクラーラが飛び掛かろうとするが、忠継がその抑えとなるべく前に出る。
彼女の投げつける鋭い爪。身を挺して防ぐ忠継は忍び刀に手をかけ、じっと痛みに耐えていた。
その間に、ユーフォニー、イグナートが取り巻きの引き付けに動く。
(渾身の力で襲ってくる屈強な晶獣は優先して倒しませんと)
ユーフォニーが懸念するように、ゴーレムはその体躯を活かして猛攻を繰り出すことを考えれば危険な相手。
発光して周囲を照らすユーフォニーは人造生命体……偽命体の少女らを見定め、内より出る炎を浴びせかける。
ゴーレムも重い体でゆっくりと迫るが、それより速くワシを思わせるサン・ラパースもユーフォニーに気を払い、翼を羽ばたかせて急降下してくる。
…………!
また、熱気に当てられた少女らはわらわらとユーフォニーへと集まり、牙をむく。
うち3体は下半身が砂サメのようになっており、さながら人魚を思わせる動きで砂の中を泳ぎ、素早く迫る。
ただ、イグナートも名乗りを上げ、偽命体の気を強く引く。
ユーフォニーがゴーレムを引き付けていることもあり、イグナートはそちらへと移動して戦いの鼓動を高める。
イグナートは自分に近づいてきた敵数体を、仲間が纏めて攻撃できるよう立ち回る。
(よし、今なら……)
感覚を研ぎ澄まして戦況の把握に努めていたジョシュア。
思考の一部を自動演算化していたジョシュアは、聖弓から雨の如く敵陣へと矢を降らす。
まずは邪魔な晶獣の頭数を減らすところからと、夢心地が構えをとって。
「吸血鬼どもを蹴散らしてやるぞえ」
夢心地はゴーレムを含む敵を複数捉え、熱き想いを光線に変えて撃ち放つ。
そのタイミング、ステップを踏むアルトゥライネルはアクロバティックに舞い、動き続けていた。
(敵の数も多い。囲まれないようにしないとな)
ヘイトを買うメンバーへと攻撃は集まっているが、アルトゥライネルは砂サメとなった偽命体の奇襲を警戒しつつ、熱砂の嵐を巻き起こして素早い猛禽や偽命体へと浴びせかける。
そうして、アルトゥライネルは素早い敵を足止めしていたのだ。
「まずは倒さないとね!」
目深にかぶる緑のフードの中からテンション高く叫ぶきゐこはゴーレムを優先的に捕捉し、その周囲の敵を巻き込む形でお気に入りの術式を発動させる。
彼女の魔力で発生した雷は圧縮され、超巨大な光球に。
それが地面へと落下すれば、強い圧力を伴って敵を襲う。
タイミングよく仲間を巻き込まずに済みそうなのは初手くらいだと感じたきゐこは次からは敵味方が識別できる攻撃手段を講じることにしていた。
改めて、クラーラ。
「貴様が見下した人の恨み、妬み、全ての負の感情――この焔、喰らえるのなら喰らってみよ」
名乗りを上げてそいつを抑える忠継は己を修羅と変え、少女とは思えぬ力で襲い掛かってくる吸血鬼の猛攻に耐える。
その多くは忍び刀で受け、弾いて凌ぎつつ、忠継はクラーラへと呼びかける。
「兄の居場所が欲しいか。確かこちら側が知っていたな」
「やっぱり……!」
誰からかそれを聞いていたのか、クラーラは一層強く力を込めて攻撃を繰り出す。
「交換条件だ。代わりに転移陣の場所を吐いてもらおう」
「それでいいの?」
少女はくすりと微笑んで。
「砂漠側にいくつかあるけど、あなた達の仲間が見つけている場所よ」
彼女の示した場所は別依頼、別チームが敵と遭遇したものばかり。
ただ、嘘偽りなく答えたのは事実だ。
「なら、今度はこちらの質問に答えなさい」
ひどく冷たい声を発したクラーラはようやく兄と会えると嬉々とした表情を見せ、薔薇の花びらを舞わせて斬りかかってくる。
全身から血を迸らせる忠継もまた負けじと刃を振りあげ、彼女へと切りかかっていた。
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冷えた砂漠の空気に、異様なほど熱気が帯びる。
「気をつけろ」
夜闇の中、牙を煌めかす敵の攻撃を見ていたアルトゥライネルは、仲間に呼び掛けてから伸ばした蔦で敵へと迫る。
そのまま、アルトゥライネルはゴーレムに毒蛇をけしかける。
毒に侵されたゴーレムにメンバーの攻撃が集まり、瞬く間に力が発揮できなくなっていく。
シフォリィの光に灼かれた偽命体2体が伏していく中、夢心地が夢心地ビームで撃ち抜き、早くもゴーレム1体が崩れ落ちる。
素早い敵に視線を巡らすジョシュアが降らす矢の雨に貫かれた偽命体2体が体を崩した直後、きゐこが破式魔砲で撃ち抜いたゴーレムの動きを完全に停止させた。
イレギュラーズの攻勢は止まらない。
「テバヤク倒したいね!」
敵を抑えるイグナートが竜撃の一手を打ち込んだ偽命体を倒すと、防御を固めていたユーフォニーが刹那広がる青空に波紋を落とす。
仲間達の態勢を立て直したユーフォニーはそのまま魔砲を放つ。
「……間に合わなくてごめんなさい」
果てていく2つの命。偽命体となった者はいかなる人物だったろうかとユーフォニーは考えてしまうのである。
気づけば、偽命体は吸血鬼タイプが全て倒れ、半身が砂ザメとなった者ばかりに。
それらへときゐこが呪いの歌を聞かせたところに、号令を発してメンバーを支援していたシフォリィがアンジュ・デシュを瞬かせて偽命体の命の煌めきを消し去ってしまう。
偽命体はすでに弱っている。仲間へと近づく敵を纏めてアルトゥライネルがシムーンケイジで包み込んで巻き上げた1体を砂上に落とす。
そして、ジョシュアが聖弓で狙いを定め、急所を射抜いた最後の偽命体が前のめりに倒れていく。
ここまで戦場を飛び回っていた猛禽、サン・ラパース。
素早さを活かしてくちばしや爪で切り裂いてくるのが厄介だったが、そいつらも度重なるメンバーの範囲攻撃で疲弊していた。
猛禽が不意に近づいてきたことで、ユーフォニーが衝術で弾き飛ばせば、再度抑えに回ったイグナートがタックルを叩き込んで意識を奪う。
敵の数がかなり減り、刀で切り伏せるように夢心地が斬撃を浴びせた直後、アルトゥライネルが存在不確かな『神』の呪いを与えたことで、猛禽は苦しみ悶えながら地へ落ち、うなだれて動かなくなってしまった。
これで残るはクラーラ一人。
「可能ならクラーラは生け捕りにしたいわね!」
火炎術式を放つきゐこの言うように、チームの総意としては捕縛したいところ。
ここまでクラーラを引き付ける忠継は全身に傷を負う。
少女もまた息を乱し、牙を煌めかせて彼へと噛みつかんとする。
それを義手で受け止めた忠継はその隙をついて掌底を叩き込む。
(まあ、この者に背負いきれる業ではあるまい。この焔は)
ただ、クラーラの兄への執着は恐ろしいまでに強かった。
すかさず伸ばした爪で、貫かれた忠継は運命に縋ることになってしまう。
意識を保った彼はすぐさま烙印が……その身に刻まれていないことを確認する。
「前回のように、共に戦う仲間を吸血鬼にさせるわけにはいきません」
クラーラを自由にさせぬ為、ジョシュアは美しき毒粉を舞わせる。
(かといって、命を奪って憎しみを増やすことも……)
不殺にして捕えられれば情報だって得られると、ジョシュアが前向きな心持で戦っていると、ユーフォニーが呼びかける。
「初めまして、クラーラさん」
名乗った彼女は話がしたいと声をかけ、烙印を治す方法について問う。
だが、クラーラは薔薇の花びらを舞わせるのみ。
「邪魔はさせません」
シフォリィは花びらで切り裂かれた仲間を癒すべく、号令を発する。
「ここで倒すしかないと思ってましたが、望む方がいますからね」
「こんなところで躓いておるわけにはゆかぬからの」
仲間の支援もあって、傷を塞ぐ夢心地。
魔法陣の位置を確認していた夢心地は自身の頭のチューリップがまた大きくなっていることを一度気にかけてから飛び出す。
刀を一閃させた夢心地は、吸血鬼の少女へと愛情を伴う一太刀を浴びせる。
「うっ、ううっ……」
必死に堪えるクラーラの傷口から零れる血が薔薇の花びらへと変わる。
同時に零れ落ちる彼女の涙もまた、赤い結晶へと変わっていた。
吸血鬼の身体がかなり丈夫なのは違いないが、兄を思う執念はそれ以上に彼女の闘志を燃えがらせていたのだ。
「うわあああああああっ!」
滅茶苦茶に爪を振るうクラーラを止めるべく、イグナートが忠継から壁役を引き継ぎ、戦いの鼓動を高める。
そのまま相手に殴り掛かるイグナートの直後、忠継が慈悲の一撃を叩き込んだが、クラーラはなおも倒れない。
そんな彼女をきゐこが閃光を浴びせた後、アルトゥライネルも痛みと思いやりのある一打を見舞う。
ここまで来て、烙印など恐れる暇もない。
そんな覚悟を抱いたアルトゥライネルの攻撃で、ついにクラーラが膝をつく。
「お兄……さま……」
意識こそ残っていたが、クラーラにはもう戦う力は残っておらず、ぐったりと冷たい砂の上に横たわったのだった。
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吸血鬼一隊を撃退したことで、イレギュラーズ一行は事後処理に移る。
「魔法陣を破壊しないといけませんね」
ジョシュアはきゐこと共に砂の魔法陣をチェックする。
きゐこがサポートする形でジョシュアが罠対処でチェックする。
周囲の砂は流動するが、その魔法陣に使われる砂だけは動かない。
ジョシュアは罠が張られていないか慎重に対処しつつ、陣の一部となった砂を散らし、アルトゥライネルと共に陣を破壊してしまった。
ほぼ同時に、他メンバーが生け捕りにしたクラーラへと呼びかける。
「えへへ~♪ 腕が鳴るわね~♪」
にこにこしながら、きゐこは仲間のスキルを強化する。
できるなら、この少女から有益な情報を得たいところ。これまでにもあったように、交渉材料は彼女の兄の居場所である。
険しい表情で刀に手をかけたままの忠継が見守る中、ユーフォニーがクラーラへと小瓶を差し出す。
「仲良くなれたらなって」
「…………」
忠継に斬られた場所から薔薇の花びらを散らしたまま、少女は苦々しい顔をして小瓶を手にする。中身は血液で満たされており、彼女は勢いのままにそれを飲み干した。
「舌を噛み切って死ねると思うな」
強引に拘束を解けば、忠継はすぐさま斬り捨てると仲間達に告げている。
「検証出来る事はいっぱいあるわね!」
クラーラの流す涙や血をきゐこが生き生きと採取していたが、彼女も大人しく従っている。
「クラーラさん達は元から吸血鬼だったんですか?」
吸血鬼は、『魔種や狂人、逸脱者を作り出す過程のようでもある』と聞いていたユーフォニーの問いを少女は否定する。
「私達は幻想種に間違われたの」
口封じもあったのだろうが、一緒に攫われた兄妹も吸血鬼化させられたようだ。
聞く限りの状況では、クラーラも被害者と推察されるが、すでに吸血鬼となり果てた彼女にその意識はない。
陣を破壊したジョシュアもその最中にやってきて、成り行きを見守っていた。
「月の王国や烙印について知っている事、教えて貰えませんか」
「…………」
続くユーフォニーの問いに、口を噤むクラーラ。
その行為が女王に対する背信行為だと彼女は思っていたのだろうか。
「アンタは負けた。魔法陣も守れなかった。お優しい女王様とやらは慈悲をくれるのか?」
「女王を悪く言うな!」
言葉巧みに言いくるめようとするアルトゥライネルに、クラーラが激昂して。
「私達は崇高な民へと昇華した。女王はそう告げたの」
「恐らく、貴公は人より上に存在した者となったと勘違いしている」
それを、忠継が即座に否定する。残念ながら、貴公は人だ、と。
「人ならざる身になったと思っている様だが、それは違う。……考え、感じ、その生を実感している限り、人なのだ」
とはいえ、今のクラーラにその言葉が受け入れられるはずもない。
それでも、ユーフォニーはまっすぐな瞳で彼女を見据えて。
「友だちになりたいです。……吸血鬼の皆さんと一緒に生きられる世界を探したいです」
対価が必要なら、命以外なら。
でも、ユーフォニーはそんなものなく色々と話せるようになりたいと、クラーラに訴えかける。
「クラッド兄様と、会わせて」
「賄賂と言っては何だが、従うなら兄の居場所くらいなら教えても構わない」
ポーカーフェイスのアルトゥライネルが言葉巧みに説き伏せようとすると、クラーラはただ一言こう言い放つ。
「烙印の解除方法は知らない」
月の王国の民となり、女王を貴ぶのが至高の喜びと感じる吸血鬼だ。それを知ったところで興味を持たないのだろう。
(良い侵入経路とか、地図とかあるといいわね!)
ともあれ、新たな情報……とりわけ、王国の情報が得られるのならばと、ウキウキするきゐこの傍で、メンバー達はなおも少女への取りかけを続けるのである。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、完成です。
MVPは効率的な立ち回りで敵を倒し、事後まで視野に入れたプレイングまで手掛けたあなたへ。
今回はご参加ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
<月眩ターリク>のシナリオをお届けします。
こちらのシナリオは、アルトゥライネル(p3p008166)さん、ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)さんのアフターアクションによるシナリオも兼ねております。
●概要
『城門開放作戦』に臨みます。
展開された多数の魔法陣の内、一つの開放が目的です。
魔法陣は物に擬態することもあるようで、砂上に設置された砂製の円陣に傷をつけてください。
ただ、下記の吸血鬼一隊が防衛に当たっており、その全滅(掃討)が必須です。
●敵:吸血鬼一隊
◎吸血鬼(ヴァンピーア):クラーラ
月の王国に棲まう『偉大なる純血種(オルドヌング)』により『烙印』を得た者達の総称を吸血鬼と呼びます。
流れる血は花弁に、涙は結晶になるといいます。
クラーラは「<カマルへの道程>王国に通じる陣」で登場したクラッドの妹です。兄を慕っている様子が窺え、合わせて人間を下に見ている態度も感じさせます。
強い吸血衝動を有し、噛みついてくる他、多数の鋭い爪を投擲し、真っ赤に咲かせた薔薇の花びらを舞わせて切りかかってきます。
◎晶獣(キレスファルゥ)×4体
〇サン・ラパース(猛禽)×2体
ラサに多く棲息する大型の猛禽類が紅結晶によって変貌した姿。
この場に現れる個体はいずれもワシを思わせる姿をした雌です。
飛行し、すばしっこく戦場を飛び回り、くちばしや爪による攻撃で相手を出血させてきます。
〇シャグラン・プーペ(ゴーレム)×2体
紅血晶が、ラサの遺跡に眠っていたゴーレムに反応し、変質して生まれた存在。
遺跡を守っていたはずのゴーレムが無差別に暴れる破壊の使途となり果てています。
強力な物理近距離攻撃を行うマッチョタイプなアタッカー。
『渾身』を持つ攻撃を多用することがわかっています。
〇偽命体(ムーンチャイルド)×10体
アルベドやキトリニタスなどを思わせる非常に短命な人造生命体。ベースは人間種。クラーラに付き従う女性体ばかりのようです。
7体が吸血鬼と化し、見た目以上に素早く食らいついてきます。
3体は下半身が砂ザメのようになっており、素早く砂中を泳いで鋭い爪で切りかかってきます。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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