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シナリオ詳細

<天使の梯子>男は二度奪われる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●楽園
 そこは穏やかな、小さな村であった。
 なだらかな丘陵の上にある、小さな、小さな村であった。
 おりしも、春の陽気に、緑の木々が揺れていた。村の畑には、春先の野菜をとっている男女の姿が見えたし、近くで木を切り倒している木こりたちの姿も見える。
 広場には子供たちがはしゃぎ回っていて、家を任された女や男が、井戸端会議とともにはしゃぐ子供たちを見守っている。
 どこの村にでも見られる、光景だった。
 当たり前の平穏な、平和な光景だった。

 すべて偽りであるわけなのだが。

 グウェナエル・クーベルタンという男は、その村の一角にある家の庭で、大きな安楽椅子に腰かけていた。そうして、村の様子を眺めていた。
 ずっと前に、失った光景であった。
 グウェナエルという男の記憶が確かであるならば、もうずっと前に、この村は亡んでいた。
 きっかけは、とある少女がおぞましい惨殺死体で見つかった件だ。
 周辺の村の人間とも協力し、下手人を見つけた村人たちは、捕縛のためにその下手人に立ち向かい、見事に返り討ちにあった。
 悪しきは討伐されなかったのだ。
 その一件で多くの村人を失い、そして恐怖と悲劇を押し付けられた村人たちは、一人、また一人と、逃げるように周辺の村々から姿を消していった。
 この村に最後に残っていたのは、一人の老爺だけであったはずだった。その老爺も、日がな一日、こうして庭の一角で、安楽椅子に腰かけてぼうっとしていた。
 絶望ゆえに。少女を、娘をおぞましい姿にされ奪われた、その絶望ゆえに。
 やがてその老爺もいずこかへ失せ、この村は完全に滅んだ。
 それが、『誤った歴史』である。
 よく見てみれば、村人たちはみな、『得体のしれない言葉』を話していた。この世のものとは思えない言葉であった。異言(ゼノグロシア)、と呼ばれる、常よりはずれた言葉であった。
 村の中央にある『見慣れないガーゴイルのようなオブジェ』は、『誤った歴史』の中には存在しないもののはずだった。そのガーゴイルのような物体は、時折、あたりを睥睨するように、その眼を動かしていた。それでも、『異言を話すもの』たちは、それを当然のように受け入れていた。何事か、理解できぬ言葉で、それを喜ぶようにも感じている。
 ひどく異常な光景であったが、これが『正しい歴史』なのだと、グウェナエルは確信していた。

 『神の国』と呼ばれた領域が発見されたのは、つい先日のことである。大都市、テセラ・ニバスを被象し生まれた『リンバス・シティ』。イレギュラーズと、天義騎士たちによる調査の中で、『まだリンバス・シティとして世界に定着していないながらも、既に神職の始まっている領域』が存在することが発覚した。それが、彼ら敵の言葉でいう所の『神の国』である。『造りかけのリンバス・シティ』というような認識でひとまずは問題ないだろう。
 問題は。この領域は、やがて帳をおろし世界に定着する可能性があることだ。つまり、放っておけば現実に危害を及ぼす。
 聖遺物を核として発生したこの領域は、こちらも聖遺物を梯、道として利用しなければ侵入できない場所でもあった。
 入るにもリスクはある上に、中は敵の本拠地のような場所だ。内部活動にも多大なるリスクが発生する。
 ……だが、天義騎士たちと、ローレットは、その敵地へ切り込むことを決めた。
 神の国への調査、および領域の破壊。その作戦が、先ごろ発布されたのだ。

「となれば……くるのか、魔女よ」
 と、グウェナエルはそうつぶやいた。この村こそ、グウェナエルが取り戻そうとした、正しい歴史の姿で間違いなかった。となれば、グウェナエルとはすなわち、敵の言う『正しい歴史』を紡ぎなおさんとする、『遂行者』であったのだ。
 グウェナエルの背後には、うらぶれ、打ち捨てられたような廃墟が残っていた。この場所を、整えるのは最後にしようと思っていた。正しい歴史のうちに、死んだマルセルを『復活』させるのならば、本当に全く、本懐を遂げた最後にすると決めていた。
「魔女よ。お前はまた、私から何ぞを奪うのか」
 その眼は、いっそ昏く。
 絶望の果ての色を湛えていた。


「『神の国』が発見されたのは」
 と、少年騎士が言う。
 名を、ジル・フラヴィニー。聖騎士セレスタン・オリオールの小姓でもある彼は、今回はセレスタンとは別行動で、イレギュラーズたちへの案内役を務めていた。
「この辺りなのですが――」
「……なにも、ありませんね」
 マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はあたりを見回しながら、何か違和感を覚えていた。既視感とも言うべきか。何か、ずっと昔に、訪れたことのあるような、そうでないような。
「ここには、昔は村があったのです。どうやら事件が起きて、村人たちが次第に離れていってしまい、廃村になった、とか」
「ということは、その村のあたりに領域があるのかい?」
 仲間のイレギュラーズが言うのへ、ジルは小首をかしげた。
「わからない、というのが本音ですが……でも、近づけば、この聖遺物、『聖ナタルの方位磁針』が反応して、梯を生み出すはずです」
 そういうジルに、マリエッタは頭を振った。違和感は残れど、しかし今は。
「では、行ってみましょう。もし情報が間違っていたといしても、その時は、何もなかった、ということですから、いいことです」
 だが、『なにかがある』という強烈な、本能的な警告が、マリエッタの頭の中に響いていた。それは、どこかくらい喜びにも似た、嫌な気配であった。
 ……マリエッタたちが『神の国』を見つけたのは、それから数分後。
 廃村となったエリアに立ち入ったときのことだった。
 『聖ナタルの方位磁針』が淡く光を放つや、瞬く間に周囲の景色が変わったのである。
 それは、在りし日の、村の光景であった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 存在しないはずの村を消滅させてください。

●成功条件
 ワールドイーター・ヘヴンガーゴイルの撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 天義内に、『まだリンバス・シティ化していない異変領域』が発見されました。
 それは、敵陣営が『侵食を始めている地域』であり、『侵食が完了し、定着した場合、『帳』とともにリンバス・シティ化する』エリアです。
 敵はそれを『神の国』と呼んでいるようですが、とにかく、天義はこれを調査、破壊することと決めました。
 そんなわけで、天義聖騎士(見習い小姓)のジル・フラヴィニーとともに調査に訪れた皆さんは、かついて廃村となったエリアを侵食せんとする『神の国』を発見、侵入します。
 此処は、在りし日の小村を再現した場所で、内部はのどかな田園の村の景色が広がっています。
 ですが、内部にいるのはすべて『人間を模して生み出された影』のような存在であり、一件人間と変わりありませんが、すべて本来存在しない、作られた物体であるのです。彼らは一様に『異言』を話す『遺言を話すもの』であり、こちらを見つけ次第、襲い掛かってくるでしょう。
 この場所を破壊するためには、村の中心にある広場にある『ワールドイーター・ヘヴンガーゴイル』を破壊しなければなりません。
 皆さんは、『異言を話すもの』たちを撃破しながら、広場へ移動、ヘヴンガーゴイルを撃破する、という作戦を行ってもらいます。
 ですが、村の奥には遂行者を名乗る男も存在しています。彼は強敵ですから、なるべく相手をしないようにしたいところですが……。

 作戦決行タイミングは昼。周囲は小村の風景が広がっており、足場などは整っていますが、建物の影からの不意打ちには一応警戒した方がいいでしょう。

●エネミーデータ
 『異言を話すもの』 ×20
  ゼノグロシアン、と呼ばれる物体です。物体、と書いたのは、生命かどうかは判別がつかないからです。ですが、人間と同様の姿と、人間と同様の思考を持ち、メタ的に言えば、『人間相当のエネミー』としてふるまいます。
  手には、包丁や農耕器具などを持ち、主に物理の近接攻撃を行ってくるでしょう。
  実力は皆さんに劣りますが、その分数が多いです。
  一気に全員と戦うわけではなく、3~4人のグループと、移動しながら数回戦うイメージです。
  戦闘が長引いたり、妙なところで戦闘に入った場合、増援として別のグループが合流してくる可能性もあります。
  また、うまく潜入できればやり過ごすことも可能ですので、そこは皆さんの作戦次第です。

 ワールドイーター・ヘヴンガーゴイル ×1
  村の広場の中央に存在する、『ガーゴイル像のような物体』です。
  見たとおりの翼持つ怪物であり、石像のような見た目通りに、硬く、タフです。
  得意技は物理属性の近距離攻撃です。ほかの攻撃ができないわけではないですが、特に物理近距離攻撃に警戒するといいでしょう。
  出血系列のBSなども付与してきます。HPを思ったより減らされないようにご注意を。

 遂行者、グウェナエル・クーベルタン ×1
  遂行者を名乗る騎士風の男です。マリエッタさんに因縁があるようですが……。
  村の最奥の廃屋にいるようです。ヘヴンガーゴイルの撃破や、村内部の移動に時間がかかっていると戦闘に入る可能性はあります。
  仮にそれまでの行動がすべてうまくいっても、ヘヴンガーゴイルの撃破時点で接敵することになるでしょう。
  彼の撃破は成功条件に含まれていませんので、適度に迎撃しつつ、撤退を優先してください。

●味方NPC
 ジル・フラヴィニー
  天義騎士(の見習いである小姓)の少年です。精いっぱい頑張ります。
  ちょっとしたエネミーサーチなどを装備しているため、歩くコンパス、位で扱うといいでしょう。
  戦闘も、皆さんの邪魔にならないところで援護してくれます。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <天使の梯子>男は二度奪われる完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年04月30日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
たったひとつの純愛
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

リプレイ

●もう一度
「ま、まるで在りし日の姿、ですね……」
 そうつぶやいたのは、同行してた少年騎士、ジル・フラヴィニーである。手には聖遺物である方位磁針を持っており、この力を以って、イレギュラーズたちは『神の国』へと侵入を果たしていた。
「わー、のどかな村で幸せそー。
 ……なーんて思うわけないじゃん。
 何もなかった場所でいきなりこんなの見せられたら、なんかヤバいって思うしぶっ壊さなきゃとしか思えないもん」
 『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)の言葉は正しい。異常の中に踏み込み、そこに一見正常に見えるものがあったのならば、おおむねの場合において、それはすなわち異常であるということである。
「正しい判断よ、ヒィロ」
 『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)がそういうのへ、ヒィロは嬉しそうに笑ってみせた。美咲はうなづきつつ、傍らにいたジルへと話しかける。
「ここが神の国。間違いないわね?」
「はい。それは断言できます」
「了解。じゃあ、予定通り行動しましょう。
 ……信じていいのね? マリエッタさん?」
 そう言うのへ、『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は静かにうなづいた。
「はい。廃村の時からそう思っていましたが……やはり、ここには、来た、ことがあります」
 少しだけ辛そうに言うマリエッタに、
「マリエッタ……」
『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は、心配そうに視線を送った。しかし、マリエッタは優しく微笑んで、頭を振る。
「大丈夫です。
 ……理由は、解っています。死血の魔女……おそらく、かつての私が、ここに訪れた」
「あえてぶしつけなことを言いますけれど、その、記憶を失う前、ということでよろしい?」
 聴きにくいことであるが、確認はしないといけない。『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)が少し申し訳なさそうにそういうのへ、マリエッタはうなづいた。
「確か……その。まぁ、いろいろあったわけですわよね。そこは深くは聞きませんけれど。
 ひとまず、それでしたら、ええ。予定通り、案内を、お願いしても? お辛いかもしれませんが」
 リドニアの言葉に、マリエッタはうなづいた。
「はい。目的地への最短距離を、ご案内します」
「ジルさん、神の国の発生源みたいなものはわかるのでありますか?」
 そう尋ねるのは、『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)だ。ジルはうなづくと、
「はい。聖遺物が案内してくれています。おおむね、村の中心地であると」
「だ、そうであります! 中心地には何か、オブジェのようなものがあったのでありますか?」
 尋ねるムサシに、マリエッタは小首をかしげた。
「いえ……何もなかったと思います。ただ、私が去った後に、何かがたった可能性はありますね。慰霊碑、とか」
「……冗談かもしれないけど、自分を追い詰めないで」
 セレナがそういうのへ、マリエッタは苦笑した。
「……ごめんなさい」
「なんにしても、だ」
 『最後のナンバー』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が言葉を続ける。
「壊さなきゃならないものは、そこにある。パターン通りに考えれば、おそらくはワールドイーター、あるいは敵側の聖遺物って奴だ。
 どっちにしても、敵の用意したものだ。何が置いてあっても、気にするな」
 ヤツェクのそれは、励ましだったのかもしれない。マリエッタはうなづく。
「ありがとうございます。私は、大丈夫なつもりですよ」
「話は決まったね」
 少しだけ湿っぽくなった空気を吹き飛ばすように、『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)がそう声を上げた。
「じゃあ、作戦通りに行こうか。
 囮……というか、ちょっと派手に動くメンバーで住民の注意を引き付けて、他のメンバーは、潜伏して奇襲や捜査なんかを行う、だよね?」
「うん。そうだね」
 美咲がうなづいた。
「じゃあ、事前の申告通りに分かれようか。アタシは隠密の方だ。
 ええと、美咲さん、リドニアちゃんが、アタシと一緒。一応、ジル君もこっちに入ってもらおうか。
 それ以外の皆が、先行」
「えへへ、美咲さん! 後ろはお願いね!」
 ヒィロがぴょん、と飛び跳ねていうのへ、美咲は微笑して頷いた。
「勿論。そっちはお願いね」
「ファミリアーも準備OK。万が一に備えられるわ」
 セレナが、小鳥と視覚を同調させながら言う。
「こっちはネズミを、地上から送っておきましょう」
 リドニアが続いた。準備はこれで万端である。
「それじゃ、参りましょうか。
 くれぐれも、皆様お気をつけて」
 そういうリドニアの言葉に、仲間たちはうなづいた。

●平穏と正しさ
 あちこちから、あまりにも平穏な気配が漂っている。奇妙な状態だった。それはある種、イレギュラーズたちの心に、重いプレッシャーやストレスとしてのしかかる。
 村のあちこちから聞こえるのは、『異言』と呼ばれる、超常的な現象だった。崩れないバベルをものともしない、未知の言語。それはいまだに、理解の範疇には及ばない。
「……この異言、というのは」
 ヤツェクが言った。
「詩人殺しだ。言葉が通じないんじゃ、商売あがったりじゃないか。それに――」
 死んだものを再現するなんて。二度も消える羽目になるなんて、楽しいものじゃないだろう。その想いは、言葉にしなかった。ともすれば、その言葉は、これから『二度目の死を与える』仲間たちに刺さったかもしれないからだ。
「まぁ、いいさ。広場まではどれくらいだ?」
 尋ねるヤツェクへ、マリエッタはうなづいた。
「半分ほど進んでいます。敵は上手くかわせているみたいです」
「ひとまず順調、でありますね」
 ムサシが言う。
「とはいえ、自分たちは潜入捜査は今一つ不得手でありますから、後衛の皆さんのおかげでありますか。
 ……潜入捜査用の教本、荷物の中にあった気がするでありますね。読み直そうかな……」
「それは帰ってから、是非勉強してね」
 美咲が苦笑する。
「それより、この先、敵がいるけれど。避けて通れそう?」
 美咲の言葉に、マリエッタが頭を振った。
「いいえ、最短で、と考えるなら、ここは通りたいです」
「他にルートはなさそうよ」
 セレナが言う。
「リドニア、そっちは?」
「おなじく。ファミリアーでも、この先を通らなければ、時間のロスになりますわ」
「ええと。万が一を考えると、時間のロスは避けたいんだよね?」
 咲良の言葉に、頷いたのはヒィロだ。
「うん。ええと、敵地だから、何が起こるのかわからない。
 例えば、遂行者みたいなのが出てきた場合、ちょっと面倒になる……だよね? 美咲さん?」
「そうだね。だから、できれば即断即決で行きたいわね」
「なら決まりだ。敵の数は?」
 ヤツェクが言うのへ、
「4人だね……男の人の姿をしてるよ」
 咲良が答えた。
「『それはよかった』。派手に暴れて引き付ける。隙をついてとどめを」
 ヤツェクがそういうのへ、仲間たちはうなづいた。
「では、自分が前に!」
 ムサシが叫び、飛び出す。目の前にいたのは、一見すればただの成人男性四名だ。だが、どうしてだろう、手には武器としか思えない、例えば火かき棒のようなものを持っていた。
「――!」
 男が、こちらに気付いた。その目は、明確な敵意に彩られていた。例えていうならば、故郷に忍び込んだ敵国の兵士を見るような、そういった、憎悪にも近い何かである。
「スペリオンエッジ・キィィィィィィックッ!」
 ムサシが雄たけびとともに一撃必殺の跳び蹴りを解き放つ。叫びは自分に気合を入れるためでもあるが、『囮』として注意を引くためでもある。言葉は通じずとも、悲鳴はおおむねこちら共通のようだった。例えば、ぐお、とか、ぎゃあ、とか、そういう自然に出てしまうものだ。蹴りを入れられた男がもんどりうって倒れた刹那、もう一人の男がハンマーを使ってムサシに殴りかかった。スーツ越しに感じる衝撃を体に受けながら、ムサシは敵の攻撃を引き付ける。
「ボクも敵を引き付けるよ!」
 ヒィロが声を上げて、ゼノグロシアンたちの前に立ちはだかった。
「お前達みたいな不気味な奴らの平穏とか、ぶっ壊したくて仕方ないからさぁ……!
 早くボクを殺さないと大変なことになっちゃうよー?」
 挑発の言葉とともに、敵を引き付ける振り下ろされた鉈を、ヒィロは容易に回避して見せた。
「こっちで引き付けるから、攻撃お願い!」
 その言葉に、答えたのはヤツェクだ。
「まかせろ」
 レーザー・ガンによる早撃ち。ただそれだけである。が、極限まで鍛えたそれは、魔的な力を得る、まさに魔技である。ヤツェクのレーザー・ガンが幾度となく火を吹き、その光線がゼノグロシアンたちの腕を貫いた。衝撃に、足を止めるゼノグロシアンたち。
 その刹那、蒼穹の魔導書より放たれた術式が、隙と不意を突いて、ゼノグロシアンたちをからめとった。気配を遮断して放たれる凶手。
「気づいたときにはサヨウナラ――ですわ」
 リドニアがそういった刹那、ゼノグロシアンたちが絶命し、その場に倒れ伏した。ぶす、と黒い影のようなものに溶けて、その体は消えていく。
「……人助けセンサーみたいなのには引っかかるのか。やっぱり、思考はあるんだね」
 美咲が言う。まぁ、それも『この場にいた個体は』といったところだろうが。そのあたりは、作り上げた者の好みによるのかもしれない。この村はかなり、人間ていな再現を重視しているようにも思える。
「まぁ、なんにしても、敵に気付かれた可能性が高い。ヒィロ、引き続き前をお願いね。
 これまで以上に速度を重視して、さっさとこの村、終わらせよう」
「おっけー、任せて、美咲さん!」
 ヒィロが頷いて、その後に仲間たちも続いた。にわかに、あたりが騒がしくなったような気がした。そうなれば、あとはすみやかに広場まで突破するのが最善のはずだ。

●もう一度、奪って
 イレギュラーズたちが、最短距離を行く――道中、何度かゼノグロシアンたちと遭遇したが、これは危なげなく処理を行っていけた。作戦が地と言えただろう。無論、囮チームがある程度の傷を負うことはあったが、それも想定内のダメージと言えた。
「ここです!」
 マリエッタが叫んだ。
「ここが広場で――あれは?」
 不思議気に声を上げた。『マリエッタ』の記憶によれば、ここは確かに広場であったが、特別なモニュメントなどもない、広々とした場所であったはずだ。だが、今この広場の中心には、ガーゴイル像のような、奇妙な物体が鎮座していた。
「ガーゴイルって、守り神、だよね。魔除けというか。
 ……何から、守ろうと……」
 わずかにつぶやく、咲良。マリエッタが、その手を握りしめていたことを、セレナは気づいた。
「……何が守り神よ。そっちが平和を乱してるくせに」
 セレナがつぶやく――同時! ガーゴイル像は、バキバキと音を立てて、動き出したのだ! その胸には、小さな光が伴っている。おそらくは、この地を形成している、汚染された聖遺物だろう――!
「来るでありますよ! 咲良さん、隠密行動は終わりであります! 一気に突破を!」
 ムサシが叫ぶのへ、咲良が頷いた。
「了解! 美咲さん、ヒィロちゃん、ついてきて! これまで隠れてたぶん、派手に行こう!」
「任せて!
 怪しい場所に相応しい化け物がいたね!
 村ごとぶっ壊してあげるよ!」
 ヒィロが飛び込む――星のきらめきとともに撃ち込まれる一撃が、ガーゴイルの体を叩いた。ぐおう、と悲鳴をあげながら、ガーゴイルはその岩石ののような腕を振るう。硬さと鋭さを併せ持つ一撃を、しかしヒィロは紙一重でよけて見せた。
「遅い! ボクには届かない!」
「ヒィロ、抑えてて! 咲良さんもサポートお願い!
 さぁて、魔除けの怪物だったわね。本当の魔を見せてあげる――」
 美咲の眼が世界を見据える――その切り裂くような眼が、ガーゴイルをとらえた。
「守り神なんだとしても、偽りの平和ならそれは打ち砕かなきゃ!
 これから生きていく人たちを守る為に、アタシ達は闘うんだ!」
 咲良がその速度をのせた鋭いけりの一撃を放つ。岩石のような皮膚すら切り裂く、音速の一撃! ずあ、と音を立てて、ガーゴイルの石片(からだ)が飛び散る。があ、と声を上げたガーゴイルが、口から砂塵のブレスを吐き出した。周囲のイレギュラーズたちを叩く、強烈な石礫!
「自分が前に出て受け止めるであります!」
 ムサシが大量の石礫を受け止めながら叫ぶ!
「頼むぜ、ヒーロー。詩人の俺ができるのは、アンタの英雄譚を謳いあげるだけだ!」
 ヤツェクの朗々たる声が、仲間たちの足を踏みとどませる支援の声となる。詩人の声は、時にどんな薬よりも、人の心をいやして立ち上がらせるのだ。
「こんな……マリエッタを傷つけるようなことをするなら……!」
 セレナは叫び、その手をかざした。ガーゴイルの周囲の空間がにじみ、そこから無数の棘が、鮮血の乙女(アイアンメイデン)のごとくガーゴイルへと押し寄せる! その圧殺せんばかりの針に、ガーゴイルは対抗した。ぎちぎちと迫るそれを、ガーゴイルは翼を使って受け止める。ばぎ、ばぎ、と、針が折れ、ガーゴイルの羽がきしみ、それに対抗せんとするセレナの額に汗がにじむ。
「止めたわ! ぶっとばして!」
 セレナが叫ぶのへ、リドニアがうなづいた。
「オーケー、ぶっ飛ばしますわ!」
 リドニアが、接近――そのまま高らかに足を蹴り上げた! 強烈な、上昇蹴撃! 放たれたそれは、拘束により動けなくなっていたガーゴイルを、そのまま上空へと弾き飛ばした!
「とどめを!」
「任せて! 美咲さん!」
 ヒィロが叫ぶのへ、美咲はうなづく。その眼が、敵の心臓(ちゅうしん)を捉える。
「知覚した――そのまま、打ちぬいて!」
「美咲さんが視て、ボクが討つ――百人力だぁっ!」
 ヒィロの一撃が、ガーゴイルの中心を貫いた。ばぎり、と音を立てて、その体に無数のひびが入る。ばき、ばき、ばき、と、くだけて、雨のように、地上に降りそそぐ。同時に、世界の景色が変わった。そこは、荒れ果てて、もう何もない、景色へと変わっていた。
「消えた……神の国が……!」
 ジルが称賛と驚きを隠さずに、そう声を上げた。だが、その『現実』の中に、その奥に、白き衣の男が立っていることに、マリエッタは気づいた――。

●魔女と男
「やはりか。魔女」
 そう、男が静かに言った。イレギュラーズたちが一斉に身構える。
「……遂行者って奴ね」
 美咲が言った。
「残念だけど、手遅れよ」
 そういいながら、美咲がヒィロへと目配せをした。ヒィロが、仲間たちをかばいながら、退路を探す。消耗している以上、これ以上の戦闘は避けた方がいい。
「この村を作ったのは、アンタか」
 ヤツェクが言った。
「この村に相当執着があるんだろう? 女か? 家族か?
 執着なんてのは、大体そんなもんだろう?」
「そうだな」
 どこか穏やかに、男は言った。
「私はグウェナエル・クーベルタン。そこの魔女に、すべてを奪われたものだ」
 そう返すグウェナエルの視線は、マリエッタへと向けられていた。マリエッタをかばうようにセレナが立つが、マリエッタはそれを制して、一歩前に進んだ。
「グウェナウェル。貴方は、魔女に何を想うのですか?
 死血の魔女。それが貴方の待つ魔女なのでしょう?
 聞かせてください。その心の内を……死血の魔女を抱える私が、それを受け止めますから」
「抱える?」
 グウェナエルは、馬鹿にしたように言った。
「お前は魔女だ。魔女そのものだ。如何に隠そうとも、その血の臭いは消えない。私の、娘の、血の臭いは」
「何かしようとするならやめておきなさい。マリエッタさん。
 ああいう目をした奴は、復讐を心掛けていましてよ」
 リドニアが言うのへ、マリエッタは頭を振った。
「でも……それが、私の受けるべきものなら」
「貴方の言う通り、マリエッタは悪辣な魔女、だったかも知れない。
 ううん、今もそれは眠ってるだけかも」
 セレナが、言葉をつづけた。
「それでもこの人はわたしの姉なの。
 この世界で出来た、大切な家族なのよ。
 それを奪おうって言うなら、わたしにだって覚悟があるわ」
 セレナが、決意とともに睨みつけるのを、グウェナエルは静かに見つめ返していた。
「哀れなお嬢さんだ。魔女に魅入られたのか」
 ふ、とグウェナエルは息を吐いた。
「娘と再会するならば、お前を殺してからだと思っていた。
 正解だったな。お前は何度でも、私から奪うのだろう。
 お前が消えなければ、私たち一家の平穏は訪れない」
「私、死血の魔女を抱きかかえて生きると決めたんです……彼女も貴方に奪わせない。
 ……ねぇ、グウェナエル。もう一度奪ってあげましょう。
 貴方の言う正しい歴史を……このアタシがいつの日かね?」
 それは、演技に間違いなかった。グウェナエルは、その絶望と憎悪の沁みついた眼を、魔女へと向けた。
「次は私が奪う……いいや、取り戻す番だ。
 それはこの場ではない」
 そう言い残すと、グウェナエルは、まるで最初からいなかったかのように姿を消した。
「……ひとまず、作戦完了、だね」
 ふぅ、と息を吐きながら、咲良が言った。
「でも、いずれ……」
 マリエッタがつぶやいた。
 いずれ、向き合う時が来る。
 その時が……いつの日か、必ず。

成否

成功

MVP

ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 神の国は消え、男は去りました。
 いずれまた、皆さんの前に姿を現すのでしょう。

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