シナリオ詳細
<月眩ターリク>くるくる、くるめく紅
オープニング
●
「おい、お前ら! 休憩してる場合かよ!」
“客”が待ってんだぞ!
――そう、男は言う。
大きな月が、男たち数十人を見下ろすかのように輝いていた。無慈悲な夜の女王とは、一体誰が形容したのだったか。
良いじゃないですか、だとか、流石にちょっと疲れた、だとか、そんな事を言いながら、男たちは煙草の煙を燻らせている。
この盗賊団を率いる男は少々神経質らしい。俺は一服していた腰を上げ、そんな男の肩をぐいと引き寄せた。
「いいじゃねえか、一服くらい許してやれよ」
「でもよお、ドレッドレオ」
盗賊の首領は焦ったように言う。
そりゃあそうだろう。客は“吸血鬼”を名乗る未知の生命体。契約に何かあれば、何をされるか判らない。
――だが、そういう時こそ余裕をもって動かなきゃいけない。寝首も後ろ首も、掻かれるのは御免だからな。
「少しくらい遅らせた方が、価値は高く見えるモンさ。“品”に瑕さえついてなきゃ、向こうさんも喜んで受け取ってくれるだろうよ」
「そうかあ?」
「そうさ。アンガラカはたっぷり振りかけてあるんだろ? ならあとは、お姫さんたちに瑕がつかないように運ぶだけでオーケイだ。慌てて躓いて、瑕がつきました……なんてのは、俺にもあんたにも、向こうサンにも得がない」
「そ、そうだな。余裕を…余裕を持って……」
「そうさ、余裕だ。ほら、あの月を見てみろよ。あんなに大きくて綺麗だ。其れに……俺の可愛い“ルビイブラッド”もいる。なあ、何を不安がる事がある? お前は護られている。この月よりも大きな、そして穏やかなものにな」
「あ……ああ。そうだな、そうだ、……すまねえドレッドレオ、あんたは商人だってのに……」
「いいんだよ。あんたには俺が必要だったって事に、俺は先んじて気付いてた。あんたはとても細やかな運搬をしてくれるが、知らない土地だと焦っちまう癖がある。大丈夫だ、俺がついてるし、あんたが信頼した部下もいる。……だが、そろそろ時間だな」
ぱちん。
高級そうに見える懐中時計を確認し、首元を確認すると、ドレッドレオは「行くぞ」と盗賊の部下たちに声をかけた。
傍には大きな幌馬車。其の中には――これから“月の仔”となるべく連れられてきた幻想種が眠っている。
――るるるる。
獣の唸り声がする。
ルビイブラッド。ステイ、ステイだ。判るな? お前の敵は、もうすぐ来る。其の時がお前の最高の時間だ。そう、食事だ。判るな?
●
「同じ吸血鬼と呼ばれるものとして、真に遺憾であるー!」
リリィリィ・レギオン(p3n000234)は、ばーん!と机を叩いて頬を膨らませた。
「行っておくけど僕は旅人なので、女王だとか月の王国だとかそういうのは知らない。けど! 吸血鬼がみんなこんな種族だって思われるのは断じて! 心外なのです!」
ぷんぷーん!
と、怒っているのか遊んでいるのか判らない口調でリリィリィはラサの地図を取り出した。
「えっとね、今回は――取り敢えずラサの遺跡に向かって欲しいんだ。『古宮カーマルーマ』っていう遺跡なんだけど……其処ではかつて、『夜の祭祀』と呼ばれる儀式が行われていたんだって。で、其の『夜の祭祀』が今度はこの遺跡の向こう側――月の王国で行われようとしているらしい。……其れに、“烙印”の事も気になるよね。多分みんなの中にも刻まれた人がいると思うんだけど、君たちは多分、『月の王国へ行きたい』って気持ちになってるんじゃないかな。」
これは分析の結果なんだけど。
烙印を刻まれてしまった人たちは、女王に会いたくて仕方なくなるらしいんだよね。
リリィリィは片目を閉じて、古宮カーマルーマの場所に丸を付け……矢印を書いた。そして其の先に「?」を書く。
「月の王国の向こう側は、まだ解明されてはいないんだけど……幻想種が遺跡に入ったって情報は今も入って来てる。多分カーマルーマを通って月の王国へ連れていかれて、何かに利用されるんだろう。君たちは其れを阻止して欲しいんだ。一番直近で情報が入って来たのが昨日。今から行って間に合うかは判らないけど、兎に角いかなきゃ始まらないから」
未知の領域だ。
敵の数も判らないし、何人救えば良いのかも判らない。
其れでも、請けてくれるかい。
そう問うリリィリィの桃色の瞳は真剣だった。
同じ吸血鬼として遺憾である。彼の言葉は、まことであったらしい。
- <月眩ターリク>くるくる、くるめく紅完了
- GM名奇古譚
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月02日 22時07分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●アンタらはそういう奴らだ
「――止まれ」
不意にドレッドレオが言った。
砂漠を進む幌馬車と、其れを護るように位置どる盗賊たち。其の先頭で馬を引いていた頭領が、馬を止めてから振り返った。
「どうした、ドレッドレオ」
「……いるな。ルビイブラッドが気付いた。――なあ! いるんだろ、出て来いよ」
其れともアンタらともあろうものが、俺達相手に不意打ちを狙うのか?
特異運命座標さん。
……静寂、暫し後。
姿を現したのは『闇之雲』武器商人(p3p001107)たちだった。
「まったく、やりづらいったらありゃしない。まるで我たちが悪者みたいじゃないか」
「なあ、言っちゃ悪ィがよ、武器商人。あいつ、アンタと同類の匂いがするぜ」
『黒き流星』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)がおかしげに言いながら、けれども殺気を隠さずに、影のように姿を現す。
烙印を施された。
身内は吸血鬼と晶竜に成り果てて、護りたかった女にも烙印が施された。
怠いだとか、面倒だとか、そんな言葉はもう要らない。すべてぶっ潰すと、ルナは決めている。
素早く周囲を警戒する。……何かがいる、其れは判る。だが、……何処にいるか判らない。
馬車は盗賊たちによって囲まれている。彼らを撃破しない事には、強奪するのも難しいだろう。
「アンタがドレッドレオか」
『Stargazer』ファニー(p3p010255)が静かに問う。そうだ、と黒髪の男が頷いた。
「俺がドレッドレオだ。偽名かどうかの証明は必要か?」
「いや、いらねえ。吸血鬼になってるかどうかだけ知りたかったが、そういう風じゃねえな」
「“割に合わない”からな。この品物を向こうに運んで、報酬を貰って、――ああ。後払いで良かったかもな」
そう肩を竦めるドレッドレオは――まるでもう結末が判っているかのようだった。
ファニーが保護結界を張る事も。そして幌馬車の中に伏兵がいないと看破される事も。
上空を旋回する鳥が、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)のファミリアーであるという事すら……知っているかのようだ。
「俺は戦う術を持たない。お前らに任すぜ、おやっさん」
「ああ。アンタは商人だからな、ドレッドレオ。……だが、こいつらは強い」
「勿論だ。ルビイブラッドを出す」
ドレッドレオは後ろへ下がり、剣を持った盗賊たちが前に出る。其の中でも一番体格のいい男が首領格だろう。
「ルビイブラッドってのは、吸血鬼由来のなにがしかか」
武器商人が問う。
ドレッドレオは笑みを崩さぬまま、そうだ、と頷いた。
「俺は弱い。そんなのが吸血鬼になったら“名折れ”だ。と言ったら、こいつをくれた。吸血鬼ってのは案外優しいな」
「……惜しいな。商人としての手腕は確かなのに、やる事は悪辣だ」
「アンタに言われちゃおしまいだな。武器商人、サヨナキドリの長」
いうと懐からドレッドレオは細く小さな何かを取り出した。銀色をした其れを唇に当てると
――ヒュゥィィ……
高く細く、獣笛が鳴る。
其れはやがて聴覚から外れた音程を鳴らし……ざばん! と砂漠が鳴動した。
高く上がる砂煙を、
まるで叩き付けて抑えるように現れたのは。
皮膚を裏返したかのように真っ赤な身体を晒し、其の首に誇らしげに林立する赫石を生やした、狗と竜を合わせたようなもの。
「……成る程。其れがルビイブラッド」
『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384)が呟く。
『名も無き忍』百合草 源之丞 忠継(p3p010950)が刀を抜き、すらりとルビイブラッドに構えた。いつの世も、刀を振るうには意義が求められるが……目の前の化生相手ならば、どのような理屈も通じるだろう。
「ドレッドレオ様」
『あたたかな声』ニル(p3p009185)の瞳に浮かんでいたのは、疑問。
「かなしみをうむ宝石。ひとも売る。ニルはこれ以上かなしいことが起こるのを止めたい」
「ああ。其れは素晴らしい事だ」
「そう思うなら。どうしてドレッドレオ様はこんな、かなしいことばかりするのですか?」
「――はっはは!! 俺達に“どうして”って聞くのかい嬢ちゃん!!」
笑いだしたのは盗賊たちだった。
其れを静かにドレッドレオは見て、……しい、と人差し指を唇の前に立てる。
まるで雨音のように広がった笑い声は、しかし男の手によって水を打ったかのような静寂に変わった。
「アンタは優しいんだな。そしてきっと、かなしい目に遭って来たんだろう」
「……」
「だが俺達の行動原理は簡単だ。金さ。金があれば何が買える? 何もかも買える。こうやって命でさえ、金のやりとりに使われる。……絶望して貰っても良いぜ。俺達はそういう“救いようのないバカ”なんだよ」
静かに、言い聞かせるような言葉は……しかし武器商人が揶揄した通り、悪辣であった。
金の為なら何でもやる。
ドレッドレオは暗にそう言っているのだ。
ニルは悲しい顔をすると、結界をファニーに重ねて展開する。閉じ込められるような感覚にルビイブラッドが鼻を天に向け、ドレッドレオを振り返った。
「ああ、いいぜ、ルビイブラッド。全部食い散らかせ」
――食事の時間だ。
其の言葉を皮切りに、盗賊たちに先んじて四つ足の竜は駆けた。
●戦況観察
「盗賊団が、奴隷商の真似事ですか!」
ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)が帳を下ろす。紫色は不吉と終焉を告げて、的確に盗賊たちだけを苦しめていく。
「ならば――吸血鬼の補給線を断つまでです」
幌馬車で眠る幻想種が運ばれた先でどうなるかは既に判っている。
そんな事を許す訳にはいかない。
そして、このルビイブラッドだって。きっとこうなる前は、人間だったかもしれない。ならば――止めなければならない。ボディは其の赤い身体を自らの身体で押し留め、毒手(あんき)をそっとその肉に滑らせて毒を仕込む。
「こんな状況でなければ、この赤色を観察したいところなのですが」
「状況を変えたのはアンタらだ。そうだろ?」
「其の通りです。なので……後からじっくりと観察させて頂きます」
忠継はボディと共にルビイブラッドの抑えに回る。聴こえるか、と刃を構えて呟いた。
「我が名は忠継。悲しきものよ、此処で貴様の命脈を断たせて貰う」
「URrrrrr!!」
ひゅばっ。
真紅の軌跡が弧を描く。素早く振るわれた爪は忠継が展開した障壁とぶつかって、きぃんと甲高い音を立てた。
武器商人はマントをふわりと翻す。
「さあて、キミたちはこちらだ。――おいで」
其の声は甘く。
其の銀髪も、視線ですら美しい。
まるで誘蛾灯に惹かれる虫のように、剣を持った盗賊たちは、わあ、と武器商人を狙った。
「骸骨のコ!」
「わかってる」
――知ってるか?
地上ってのは、ただの星屑の遊び場なんだぜ。
ファニーが降らせた星たちが、盗賊たちを貫く。其れ等は幌馬車を傷付ける事はない。ファニーとニルで重ね掛けした保護結界に瑕疵はなく、だからなかの幻想種は、眠ったまま。
「人間相手に海賊ゲームするのもなかなか楽しいわね。ま、飛び出すのは命だけど」
武器商人に惹きつけられた盗賊の一人が、不幸にもイナリのターゲットとなる。まるで氷にぴしりと罅が入るかのように一瞬で少女があらわれた。其れが盗賊の見た景色の最後であった。
まずは目を。次に太もも、脇腹、首筋を。狙い研ぎ澄まされて放たれた其の数撃で盗賊は絶命し、がくんと膝を砂に落とす。
「……たとえドレッドレオさまが、救いようがなくても」
其れでも、とニルは諦めきれない。
だって、こんなに話が通じるのに。ニルに優しく話してくれるのに。だのに、判り合えないだなんて……そんな事がありますか。
盗賊たちをえいってしたら、改心してくれたり、しませんか。
穢れた泥が砂の上に渦を巻く。馬車の傍から光弾を放っていた盗賊たちが、其の渦に呑まれていく。
くるしい。
そう言う盗賊たちにさえ、ニルは心を痛める。
でも。
でも、でも!
ニルは、幻想種のみなさまをたすけたいから! 護りたいから! えいってします!
●商談は破棄されて
此処は砂漠。砂ばかりしかなく、盗賊たちは足を取られる。
だが、ルナはそうではない。彼にとって此処は庭のようなもの。ラサ育ちのルナにとって、砂とは常に足の下にあるものだった。
だからルナが飛ぶように駆けて幌馬車に近付くのが早くても、其れを不思議だと思うものは自身を含めていないのだ。いるとすれば、既に数人倒れている盗賊くらいだろう。
「わりィな! この馬車は戴くぜ!」
まずは馬と馬車を繋いでいる紐を叩き斬る。馬は直ぐ傍で行われている戦闘行為におののいていたが、ようやく自由になれたとばかりに駆け出した。
そうしていると、傍に居た盗賊が攻撃を仕掛けて来る――が。ルナは其れを避けようともしない。何故なら彼には、雷神の加護がついているから。雷撃がばちりと周囲を照らしたかと思うと、至近攻撃に弱い盗賊がばたり、とまた一人倒れた。
馬車の中を覗き込む。中に伏兵はおらず、すうすうと安らかな寝息が耳を澄ますと聞こえてくる。アンガラカの威力を其処にみた気がしたので、取り敢えずだ。ルナは倒した山賊からアンガラカを一袋ぶん頂戴する事にした。中身が何だろうと、カウンター代わりに使う事も出来そうだろう。
「――ぼでぃ殿」
「判った、替わろう」
矢張りというべきか、最も脅威だったのはルビイブラッドだ。強靭な爪と牙だけならまだ物理障壁が軽減してくれるが、特筆すべきは其の尾である。先に灯された炎のような光は障壁を突き抜けて、忠継を着実に毒していた。
「あの尾の先には毒がある。物理でないのか障壁を突き抜けて来る」
「判りました。対処します」
守役交代。
ボディがルビイブラッドの爪の一撃を其の身体で受けたのを見て、忠継は刀を構え直した。小さな奇跡を灯した直後の体力だ。燃え盛るは右腕の紫炎、この復讐の刃は痛いぞ、獣よ!
「百合草流――!!」
絡繰義手による掌底が、容赦なくルビイブラッドの顎に放たれる。其れは間違いなく直撃し、真っ赤な巨体がまるで紙か何かのように吹っ飛んだ。
「rrrr!?」
「おっと。やれるか、ルビイブラッド? 俺にはお前を使いこなすっていう約束もあるんだ、簡単に死ぬなよ」
ルナが馬車を奪うのさえ邪魔せずに見ていたドレッドレオが、ルビイブラッドに声をかける。
赤い狗竜は少しの間痛みに耐えるように藻掻くと、ゆっくりと起き上がった。其の尾の明かりが大きくなっている。
「(……何を考えている?)」
ファニーには、ドレッドレオの思惑が理解出来なかった。
自らの身体を張って商品を護る事もせず、ルナが奪還するのを見ているだけ。戦うのも盗賊たちばかりで、自らは何もしない。
其れだけルビイブラッドを信頼しているのか? ……あり得るのか?
ファニーはドレッドレオの思考をトレースしようと試みる。するとすんなり、彼の心のつぶやきが聞こえた。
其れは奇しくも、ドレッドレオが唇に銀笛を当てたのと同じ頃合いだった。
――そろそろ頃合いか。
「……! ルナ、そいつを押さえろ! トンズラする気だ!」
「アァ!?」
「悪いな、“遅いぜ”」
どおん、と見えない壁を打ち壊すような音がしたかと思うと、ルナのすぐ横を疾風が奔る。
……ルビイブラッドだった。ドレッドレオは其の赤い獣の首に巻かれた赫石の一つに手を掛けて、その場を離脱する。
「どうせアンタらも此処から進むんだろ? ――じゃあまた会う事もあるさ、……アディオス!」
誰が止める間もなく、ドレッドレオの姿は遠ざかっていく。
「なっ、おい!! ドレッドレオ!? ドレッドレオ!!」
首領格の盗賊が驚いたように、嘆くように名を呼ぶが……其の声は虚しく、ルビイブラッドが跳ね上げた砂煙の中に消えていく。
「……」
盗賊たちが、首領を見る。
「……」
首領が、イレギュラーズを見る。
振り返り、ルナに護られた幌馬車を見る。
「……くそ……降参だ」
幕引きは驚くほど呆気ないものだった。
●知らなくて良い事は教えない方が良いってもんだ
息のある盗賊は残らずイナリによって縛り上げられている。
自害はしねえよ、と言っているし、彼らから情報は絞れるだけ絞りたい。イナリとロウランが傍に立つ事で、自害しないように見張る事となった。
ルナはニルやファニー、そしてボディと共に、幌馬車をルナが持ってきた馬車――ならぬ“亜竜車”へと乗せ換えている。深く眠っている身体は重いので、ニルとファニーは二人がかりだ。
「もとより法に抵触するならず者とはいえ、明確に厄介な事例にまで首を突っ込むなんて。馬鹿なんですか?」
「何とでも言え! 俺達はドレッドレオを信頼してたんだ! あいつの商談は失敗しねえ、其れは俺達だって知ってる! いつだってあいつの売り物は質が良かった、……奴隷の仲介は三度目だが、あいつが一番質の良い奴隷を扱ってたよ」
「……」
武器商人が渋い顔をする。
悔しいが、確かにドレッドレオの手腕は証人としては見事なのだ。
だからこそ“何故逃げたのか”という疑問が残る。ドレッドレオは武器商人が分析する限りでは「目的がなければ動かない」人間だからだ。
「お主等にも、あ奴が逃げた理由は判らぬと?」
忠継が問う。抜き身の刀は月光にきらきらと輝いて、盗賊たちを委縮させた。
「ああ。……だが見当はついてる」
「話して貰おう」
「取引だ。俺は良いが、俺の部下たちを殺す事をしないと約束しろ」
「……」
忠継は皆を見た。
自分だけで決められる事ではないが、特段断るような事でもないだろうと判断して、同じ意思かどうかを確認している。
「……アタシは構わないよ。どうせこのまま置いて行ったら吸血鬼に殺されそうな連中だ」
武器商人がおどすようににやりと笑う。其れが総意だった。
其の通りだ、と首領が俯く。
「あいつは――ドレッドレオは、多分吸血鬼どもともう一つ“商談”を結んでいるんだ。だからルビイブラッドと一緒に去って行った。……ルビイブラッドが必要な“商談”があるんだろう」
「其の“商談”をあなたは知らないのね?」
「ああ」
イナリの問いに首領は頷く。
……皆は顔を見合わせた。
●まったく、死ぬところだった
「貴方が死んだら、実験は台無しですから。やめてくださいね」
赤い髪をした女が、ルビイブラッドの傷を見ながら言う。
名は“エヴレオン”。俺の商談相手の一人だ。『弱いから』と俺に烙印を強要しない、目利きの出来る吸血鬼だ。
彼女の目的はルビイブラッド、其の戦果にある。紅血晶で変化した人間を“少しいじって”生まれたこの化け物が何処まで戦力として使えるのか。
エヴレオンの興味はそれだけに注がれている。今こうして連れ帰ったルビイブラッドの傷を見る目も、良い女らしく色っぽい。
これで俺個人を見てくれたら言う事はないんだが、生憎そういう女ではない。俺はそもそも戦力外カウントだ。
「だからこうやって生きて帰っただろ。アンタの可愛いルビイブラッドと一緒に」
「ええ。A-023は非常に興味深い結果を持って帰ってくれました。貴方には引き続き協力をお願いしたく思います」
「判ってるよ。で、アンタが満足したら俺はどうなるんだ?」
「ご心配なく」
ルビイブラッドをなだめるように其の身体を叩くと、エヴレオンはようやく俺を見た。口元のほくろがチャーミングな女だ。
「其の暁には貴方に烙印を施しましょう。そうして我らの友を使役する権利を正式に与える事になります。楽しみでしょう?」
――ああ、全く。
――反吐が出る程、楽しみだ。
俺はエヴレオンの後ろから俺を真っ直ぐに見る複数の獣の視線を感じながら、いつものように笑ってみせるのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
本命の為にブラフを用意するのは当然。
ドレッドレオは一体誰に幻想種を運ぶつもりだったんでしょうね?
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
ドレッドレオはひっそりと、着実に、商売を進めています……
●目標
ドレッドレオと“ルビイブラッド”を撤退させよ
もしくは 幻想種を可能な限り救出せよ
●立地
ラサにある遺跡『古宮カーマルーマ』から転移した先にある、祭祀場アル=アラクへ向かう道です。
幌馬車を引いて、盗賊たちとドレッドレオが品物――幻想種を運んでいます。
其のまま儀式が成されるのを放っておけば、幻想種が危ういのは言うまでもありません。
が、敵は盗賊たちだけではなく、ドレッドレオが何らかの戦闘手段を持っているようです。彼は“ルビイブラッド”と呼称していますが……?
天候は晴れ。満月が砂漠と祭祀場を見下ろしています。
夜が明ける事はありません。
●エネミー
“ルビイブラッド”x1
盗賊・剣x10
盗賊・神秘x5
完全に戦闘力が未知数の“ルビイブラッド”には十分留意して下さい。
盗賊は剣使いと神秘使いの2種類がいます。神秘使いは【識別】持ちです。また、彼らは一様に腰に“アンガラカ”の入った袋を所持しています。其れに触れてしまうと意識が不明瞭になり隙が出来てしまうので、気を付けて下さい。
ドレッドレオは後方で、皆さんを観察しています。彼は戦闘しません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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