シナリオ詳細
<ラドンの罪域>黒霧に流離う貪食なる竜の翼
オープニング
●
黒い黒い霧の中、吹きすさぶ黒風は血生臭さを運ぶだろう。
ただでさえうっそうと茂った木々は空の光を閉ざす。
黒い霧とも靄ともつかぬものが漂い、黒き風は旋風を以って進むことを遮るかのようだ。
そんな霧の中に紛れるように男が立っている。
20代であろうか、手足や翼、尻尾の姿を見るに亜竜種のようにも見える。
手に持つのは爬虫類にも似た生物の尻尾のように見てとれた。
「足らん……まるで食い足らぬ」
舌を打ち、男はそれを投げ捨てた。
放り捨てられた先に転がるは同じような爬虫類たちの一部。
尻尾のような部分、足の一部、前脚の一部などなど。
多種多様な一部は別個体の物も多いだろうか。
「満たされん……まるで、まるで満たされぬ。やはり、亜竜はあまり食いでがないな」
腹をひと撫ですれば、ごきりと首を鳴らす。
「亜竜では食い足りぬ……そうだ。
ベルゼー様の話によれば、じきに連中が辺りを通るか……ちょうどいい」
指を鳴らし、男は鼻で笑う。
「だが――まずは、お前からだ」
『キュェェエエェェ』
男が視線を上げたのと同時、鳥類の鳴動が起こる。
「前菜に鶏肉でも食らうか」
冷たい視線のまま、男は飛翔する。
●
木々が空を覆いつくし、僅かな隙間、獣か何かが作り出した道なき道を黒風が駆け抜ける。
辺りに漂う靄とも霧ともつかぬ空気は酷く重く、離れてしまえばあっという間に迷い込んでしまうだろうか。
そうでなくても木の狂いそうな重苦しい空気は、ここがどこなのかを鮮明に説明していた。
覇竜領域『デザストル』、その中でも帰らずの森と恐れられし『ピュニシオンの森』――
前人未踏、方向感覚を狂わす代わり映えのない風景と異常に多い魔物や怪物たち。
その上、そのどれもこれもが他の場所で見受けるモノとは比較にもならぬ強力な存在ばかり。
この世界の生態系が頂点に立ち、高度な知性と圧倒的な力を有する『竜種』たちが闊歩する場所。
中でも、フリアノンに代表される亜竜種(じんるい)圏からみれば『出口』付近。
その名を『ラドンの罪域』と呼ぶ。
その名の通り、『狂黒竜ラドン』なる竜種の住まう場所とされる場所、それがこの辺り一帯だった。
さすれば、この黒い霧のようなものや風はラドンの能力なのだろうか――
警戒を緩めず進む足取りは確かに向かい風たる黒風を行く。
黒霧の向こう側から、何かが吹っ飛んできたのはそんな時だった。
「これは……亜竜か」
槍を構えるまま、ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は横目にみやる。
こちらを狙ったわけではあるまい。
事実、明後日の方向へとすっ飛んでいった鳥類のような亜竜は明らかに死んでいる。
(他の亜竜……あるいは竜種に食われたか?)
もしそうならば、向かう先には強力な個体がいるのだろう――そう察して気合を入れなおそうとすれば。
「なんだ既に辿り着いていたか」
それは冷笑する声と共に、黒霧を裂いて姿を見せた。
「――お前は、『貪食の竜翼』……だったか」
「……? どっかで会ったか? まあ、誰でもいい。貴様らがローレットだな?」
ぎらりとこちらを見やる亜竜種を思わすその存在の両手は血に濡れている。
ベネディクトはその男を見たことがあった。
あれは深緑での大戦の時のことだ。
ジャバーウォックを始めとする竜種達が冠位暴食と共に襲撃した時。
目の前に立つ男はベネディクトたちがファルカウへと至るのを足止めするべく亜竜を嗾けてきた。
特異運命座標の宿敵にして、呼吸するだけで世界の滅びを助長する魔種の1体。
そして『獲物と決めた町を焼き払いそこにある物全てを食らいつくす』小さな災厄。
可食物だろうがそうでなかろうが丸々全て食らいつくす怪物だと、説明してくれた友人はここにはいないが。
「前菜を食ってからにしようと思ってたが、食後の運動ついでだ――1人や2人、喰らっても罰は当たらんだろうなぁ!」
ちらりと視線が贈られた先は、きっとあの亜竜か。
そんな警戒を示す中、新たに別方向から姿を見せたのは新たな亜竜。
鏃のような尾とワニのような長い頭部のリンドヴルム。
冷気を帯びた呼気を漏らしながら舌なめずりして、それがこちらを見ていた。
後ろの草陰からは鳥類の臭いに吊れた別種の蛇にも似た亜竜が姿を見せた。
- <ラドンの罪域>黒霧に流離う貪食なる竜の翼完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年04月24日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「初対面で悪いが、ミーが相手になってやるぜ。
ただし、ご馳走するのはゲンコツだけだがな、HAHAHA!」
そう笑うのは『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)だ。
「筋肉質な肉ばかりで、少しばかりは柔らかいのを食いたいところだが」
対する貪食の竜翼はぎょろりとした目で静かに告げる。
「うへえ、風が気持ち悪い。こんなところに住んでるから性格悪くなったんじゃね、あの黒竜」
へばりつく様な異様な風に『有翼の捕食者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は思わずそう呟くものである。
ちょっとはマシな風がどこからか吹いていやしないかと、試しにギフトと天気予報を駆使して風の巡りを確認してみる。
反応は芳しくはない。自然現象ではない――この先にいるらしい『狂黒竜』の力による物ゆえだろうか。
「しっかし、鳥っぽい亜竜とは。俺の鱗腕も竜のそれと同じなのかな?」
ちらりと息絶えた鳥型の亜竜を見やれば、こちらに気付いたらしいヒュドラどもがゆらゆらと揺れている。
「暴食の魔種はリアルにこっちを齧って来るタイプが多いんだよね!
齧り返してやろうよと笑うのは『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)である。
「さすがは悪名高い帰らずの森、世界の終焉でも見ているような気分にさせられる光景ね。
お祖父様なら暗い森のミュルクヴィズ、なんて言ったかもしれないけれど……」
重苦しい空気に目の前の光景を見渡して、『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)はそんな感想を抱く。
「どうあれ、まずは、状況の打破よね」
「貪食の竜翼か……以前の深緑での戦いでは、その力を殆ど見ないまま奴は去っていたがこの場所で出会うとはな」
一度だけ――それも殆ど一瞬に近い短時間ながらその魔種と遭遇したことのある『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は愛槍を構える。
「深緑……あぁ、あの時か」
単語に反応した貪食の竜翼が小さく笑う。
「会った、というには不十分程度な時間ではあったがな。そちらは覚えていないのも当然だろう」
「そういえば、フラウスの奴は戻らなかったな。死んだか」
そう言って笑う。
それは深緑の時にこの魔種が連れていた亜竜の名前だった。
「眠ったよ」
「くははは!」
(貪食の竜翼 戦闘能力推察不能。
亜竜モノトモシナイノハ 火力・耐久・BS・頭脳・予想モデキナイ力 何レニヨルモノカ。或イハ ソノ全テカ)
笑う魔種を見据え、『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は推測を立てて行く。
「何ニセヨ 激戦必須。何モカモ喰ライ尽クストイウノナラ。
フリック 味方支エル ドコマデモ癒ヤスマデ」
「いかにも怪しい雰囲気っスね。
それはそれでわかりやすいから助かる部分はあるんっスけど、兎にも角にも、どいてもらはなければ進めないっスからね
申し訳ないっスけど、早々にお帰り願うっス!」
「ふん。ならば貴様らが帰ればいいだろう。貴様らの方が向かってきているのだからな」
構えを取る『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)に魔種が静かに告げる。
(『貪食の竜翼』……不意に魔種と遭遇するとは、覇竜らしいと言えば、そうかもしれませんが。
この男……文字通り暴食。災害の様なもの…ですね。ここ最近、相手に悩まされることも多かったですが)
魔種を見据える『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の目にはたった1つの感情しかない。
「貴方の場合は、悩まされる必要もありませんね……ええ、単純明快。今、これ以上貴方に喰わせるものはありませんよ」
ヘリオドールの瞳で見る敵はある意味でやりやすいともいえよう。
ライオリットは圧倒的な速度を以って一気に動き出す。
「早々に片付けるっスよ!」
その身に2つの術式を取り込み、そのまま少しばかり深い呼吸を繰り返す。
「ドラゴニアっぽいところ見せるっス」
口腔に抱くは炎と氷の息吹。
平仄合わぬそれは金属疲労が如く脅威的な劣化を生み出す。
「おやつの時間なのか何なのか知らないけれどね。生憎と、こちらは食べられるつもりなんてさらっさらないの」
そう呟くルチアは聖女の心を抱いて最前線へと向かう。
ベネディクトは片手に槍を、片手に直剣を握り一気に亜竜達へと肉薄する。
駆け抜けた先は此方を見て舌なめずりするリンドヴルム。
「悪いが、お前達の食事になる心算は無いのでな。此処で倒させて貰う!」
踏み込むと共に槍を叩きつけるように振り下ろし、壮絶極まる打撃を叩きつけて行く。
射程の内側に踏み込んだ亜竜へと振り下ろされるは槍の下に潜む直剣の牙。
それは騎士というにはあまりにも獰猛で、無慈悲で、残酷なる連撃。
黒狼と呼ばれたその王もまたそうであったのかもしれないと思わせる獣の如き猛攻だった。
「俺をその辺の鳥と一緒にするなよ? その程度の黒色じゃ俺の緋色を塗りつぶせないぜ!」
カイトは緋翼を大きく見せるように魔種へと肉薄する。
「たしかに亜竜よりは食い甲斐ありそうな羽だな?」
ぎらりとした黒い瞳がカイトを見やり凶悪な笑みを浮かべてくる。
「誰が食われてやるかよ! 食えるものなら食ってみやがれ! 寧ろこっちが食ってやらぁ! 猛禽なめんな!」
(まあ、お前は不味そうだけどな!)
「偏食野郎が、食材には感謝を持ちやがれ。満たされないとは何事だい?
こんな雑な食い方じゃあ満たされるもんも満たされねえよ。
まったく分かっちゃいねえ、野獣じゃあるまいし調理って形跡が欠片も見えないのはナンセンスだ」
貴道は挑発と共に魔種へと肉薄する。
「手本を見せてやるよ、肉は上手く叩けば柔らかくなるんだぜ?
テメェの身体で実感してみな!」
修羅の拳より繰り出されるは無数の拳打。
肉体を撃ち、内部まで浸透する打撃はその全てが体内で多数のクロスを作り出し、幾重もの衝撃をうみだしていく。
「ぐぅぅおぉぉぉ!?!?」
魔種の唸るような声と共に、半歩に満たぬ後退り。
「――好き勝手言ってくれたな、お返しに貴様の肉も柔らかくしてやるよ」
激情に合わせて亜竜の拳打が弾幕の如き連撃を撃ち込んでくる。
「――っらぁ!!!!」
それらを受け流した果て、裂帛の声と共に上げた咆哮が物理的衝撃波を伴って戦場を強烈に煽る。
「HAHAHA! こんなもんかい!」
それを受ける貴道は高らかに笑ってみせた。
イグナートは深呼吸を繰り返す。
全身の気を高め、闘志を、鼓動を戦場に奔らせる。
撃ち抜かれた亜竜達の視線が、瞬く間にイグナートへと集中していく。
「食べるのは魔種だけのトッケンじゃないよね? やってみなよ!」
そんな挑発に応じるように、亜竜達が動き出した。
吶喊を仕掛けたリンドヴルムの牙がその呼気に冷気を纏い幾度も食らいついていく。
ヒュドラ達もまた、その牙を突きさしてくる。
「問題ナイ」
直後、そう説いたフリークライの的確な分析が飛ぶ。
落ち着いた言葉で紡がれるその言の葉に導かれるように立ち直していく。
「まずは亜竜から、でしょう」
動き出した亜竜達が一斉に迫る中、マリエッタは静かに魔力を高めていく。
魔術が生み出したのは1本の血のナイフ。
投擲しやすいサイズで作られたそれを亜竜の1体へと投げつけた。
戦場を翔けたナイフは亜竜に炸裂した刹那、無数の刃となって内側からずたずたに串刺しにしていく。
それだけでは終わらない。
投擲したナイフを起点に放たれた血の鎖が蛇のように蛇行しながらサークルを描き、複数の亜竜達を締め上げる。
●
戦端は動き出し、戦いは順調に進んでいく。
カイトは占星術を用いてその身に神鳥の加護を降ろした上で仲間達へ鷹柱兵団のバフをばら撒いていた。
「こっちを無視できると思うなよ!」
三叉蒼槍片手に疾走する。
圧倒的な速度を駆使して放つ神域の斬撃は多重に生じた朱い残像さえも質量を抱き、舞う朱き風をも刃の如く魔種を切り刻む。
貴道とカイトは戦いを続けながら、魔種の立ち位置を誘導していた。
「さっきまでの威勢はどうしたよ、獣みてえな熱はよぉ!」
乱撃を叩きつけてくる魔種をステップで躱し、受けながらちらりと背後を見やり。
カイトは打ち出された拳を小脇に抱えるようにして逃がさないようにして笑ってやる。
イグナートと重なる射線を描けば、魔種の向こう側、リンドヴルムが呼気を荒げている。
「ミーが受けるんだからユーも一緒に受けなきゃ不公平だろ? 死なば諸共ってな! いやまあ、別に死ぬ気は更々ねえが!」
貴道は一歩前に出ると拳を叩きつけ、獰猛な笑みを刻む。
「――あぁ? 何を言ってやがる」
「なるほど、そういうコトなら!」
それに応じてイグナートも動き、ヒュドラへとさらに肉薄する。
一斉に放たれたブレスが幾つも貴道、イグナート、リンドヴルム、魔種を巻き込み焼きつける。
「ぐぅぉおぉぉ!?!?」
魔種の唸り声と、それに続ける亜竜達の悲鳴。
「キミらのブレスはメンドウだから受ける気はないよ」
ヒュドラの呼気が変わったのを察して、イグナートは拳を握り締めた。
踏み込んだままに撃ち抜くは正義の拳。撃ち抜かれた亜竜が大きくのたうち、倒れこんだ。
「ン フリック ヤルコト 不変」
フリークライは落ち着いたままに指示を発すると、そのまま中でも傷の多い仲間へと天使ノ口付ケを齎す。
愛に穢れた天使が紡ぐ口付けは甘美なる祝福。
ただの一度にして圧倒的なまでの祝福が壮絶なる傷から瞬く間に復帰させる。
それに続いてルチアは天への祈りを紡ぐ。
重ね掛けされたクェーサーアナライズは充実した気力を仲間達に与えていく。
「主よ、我が戦友に祝福を」
優しく温かな歌が戦場に響き渡る。
それは天の祝歌にして癒しの唄。
魔種からの連撃、ブレス攻撃への巻き込みという手段に伴う傷を癒していく。
暖かな光と共に紡がれる歌が仲間達の体力を取り戻していく。
「動きが鈍った今がチャンスっス!」
ライオリットが双刀を払い描くは斬撃の楽団。
無数に駆け巡る斬撃の乱舞は多数の亜竜を射程に収めている。
それは宛ら斬撃で出来た牢獄の如く、内側にある亜竜達の動きを封じ込めて行く。
●
亜竜達の処理を終わらせたイレギュラーズはいよいよ魔種との戦いに移行していた。
「貴方の血を奪う前に、その力を暴かせてもらいます」
2種の血印を活性化させ、マリエッタは鮮血魔女を叩き込む。
魔種の足元に浮かぶ血の陣より一斉に牙を剥いた無数の血の刃がその肉体を穿ち。
夥しい血を生む――がしかし、そんなことを気にせぬとばかりに魔種が激情の雄叫びをあげた。
「ではこちらはどうでしょう」
縦横無尽に駆け巡る血の呪鎖が一斉に魔種へと集束、呪いを刻み付ける。
戦いにおいてフリークライ、ルチアによる補助は戦線維持に大きな意味があった。
完全に攻撃に回ったマリエッタを含め、充実した補助は連戦となった魔種戦を随分と余裕をもって行うことが出来ていた。
現時点までに魔種が振るう攻撃の多くが単体向けの連撃であることも相性が良かったと言える。
(コノ速度ナラ 懸念シテタ コト 問題ナサソウ)
フリークライは戦いが始まってからこちら、亜竜の事を警戒していた。
血の臭い、戦闘音を理由に獲物を求めて接近してきている亜竜達、それは今まで姿を見せた8体では済まない可能性があった。
「ナラ 後ハ 貪食の竜翼 戦イ 止メルマデ 支エル ダケ」
即ち、いつも通りの事だ。
そうして齎すはエンテレケイア。
降り注ぐ陽光、暖かなる風光。慈愛の息吹が万物を抱擁するが如く戦場を駆け巡る。
「禍の凶き爪よ、獄門より来たれ」
ルチアは祈るように紡ぎ、魔力を高めていく。
刹那、魔種の足元に魔法陣が浮かび上がり、突如として門が姿を見せた。
パカリと開いた門の内側からぬぅと姿を見せた禍々しい腕が魔種を捉え、その内側へと呑みこみ、暫しの後に吐き出される。
ライオリットは魔種が間合いを広げる時を待っていた。
「今なら他の人を巻き込まなくていいっスね――」
再び放たれるは竜の息吹。
炎獄の如き紅蓮と全てを凍り漬けにする均衡非ざる竜の息吹は魔種の身体に浸透する。
「ちぃ、デカブツが、目障りな事を!」
副作用たる暗黒への誘いに魔種が忌々し気に声をあげた。
(しかし、厄介な風と霧ですね――)
マリエッタは一気に前へと走り抜け、黒霧を裂いて魔種の側面へと踊りこむ。
(この際です、いっそ距離を詰めてしまいましょう)
「ちぃ!」
魔種がこちらを見るのとほぼ同時、マリエッタの血の鎌は戦場に血色の弧を描いた。
「ルチア 回復 支援 願ウ」
フリークライは続くアタッカーたちに繋ぐように熾天宝冠を下ろす。
暖かな光が黒霧さえ裂いて降り注げば、アタッカーに恩恵を与えていく。
「ええ、任せて」
頷いたルチアは祈りを捧ぐ。
それは天より降る光輪、至高の恩寵を与う熾天の宝冠。
疲弊の増す仲間の傷を癒し、力を振り絞るだけの恩恵をも与える光である。
「オレの攻撃が見えるっスか?」
自身へとかされた制限を外し、ライオリットは限界を超えた速度で踏み込んだ。
双刀が描くはデッドリースカイ。
打ち上げた魔種の身体に生えた翼は飛行能力の証拠。
双閃が閃き、魔種の身体に痛撃を刻む。
「始めは覚えていないのは当然だろう、とは言ったが──今日は覚えて貰うとしよう」
ベネディクトは黒霧の向こうから聞こえる仲間達の激闘の音を頼りに迂回すると、一気に踏み込んだ。
「俺はベネディクトだ、貪食の竜翼よ──そちらの名は!」
真っすぐに飛び込み振り抜いた全力の一撃は黒き狼の名に違わぬ獣の如き直剣の斬撃。
闘志が黒きオーラを纏うが如く錯覚させる振り下ろしを受けた魔種が体捌きで受けようとして痛撃に唸る。
「俺を捉えられるか?」
カイトは再び戦場を翔け抜ける。
緋色の閃光となったその影を踏ませることすらなく、斬影の朱色が旋風となって魔種を切り刻んでいく。
「終いだ。土手っ腹に一番キツいのぶちこんでやるよ」
一息の刹那、貴道はゾーンへと入る。
微かな挙動の刹那に残る力の限りで拳を叩きつけて行く。
亜竜どもは消えた。恐らく長居をする気は互いにない――なら、残る力の粋を撃ち込むことに躊躇などいらぬ。
幾つかの拳は受け流され、撃ち返される拳もあった。
最後の一撃、踏み込みと同時に鳩尾へと拳を叩きつけた。
「ぶっ飛ばし合いならオレもサンカさせてもらうよ!」
そこへと続くはイグナートである。
栄光の拳より打ち出した打撃の行方を見定める間もなく、踏み込んだままに拳を撃ち込む。
それは罪なき者の盾、譲れぬ境界に立つ峻厳の騎士が放つ斬撃を思わせる一撃。
叩き込まれた一撃に魔種がぐねりと身体を揺らす。
「忌々しい……認めてやる。貴様らローレットは、強い」
痛撃の連続に少しばかり間合いを開いた魔種はそう呟いた。
「――貴様。そこの、金髪の槍使い。先程の問いに答えてやろう。
俺の名は黒黥、貴様らの事も覚えておいてやる、その首を洗って俺に食われる日を待っていろ。
次は食後の運動で済ますつもりはないぞ」
翼を羽ばたかせ、黒黥が舞い上がり、黒霧の向こう側へと消えていく。
「……黒黥、か。奴にとってはこれは食後の運動ついで、何れまた戦う時までに俺も己を磨かねばなるまい」
飛び去っていたどこかを見上げ、ベネディクトは一息を吐いた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
●オーダー
【1】『貪食の竜翼』の撃退
【2】亜竜の撃破
●フィールドデータ
ピュニシオンの森、出口付近です。
黒き靄、霧、風が吹き荒れ先を見通すことが出来ません。
周辺の見通しは悪く、黒い風が重苦しい空気を纏っています。
非常に重苦しく、呼吸が浅くなっています。【窒息】系列のBSが発生する可能性があります。
また、命中、回避に若干のペナルティが発生しています。
●エネミーデータ
・『貪食の竜翼』???
闇で塗りたくったような紫がかるような濃い黒髪に深く澱んだ藍色の瞳、
額に1本と側頭部の2本の計3本の角を生やし、翼と尻尾のある亜竜種風の魔種です。属性は暴食。
非常に傲慢かつ冷笑的、黒竜を思わせる雰囲気を持ちます。
標的に定めた場所のあらゆるモノ(路傍の石から木々、家屋、人や動物)を喰らいつくして消えていく存在とされます。
その性質上、現時点で一切の戦闘能力が知られていませんが、武器のようなものは見受けられません。
神秘型か、あるいは徒手空拳の類なのか。
亜竜を容易く蹴散らしているところからも相当な実力者と思われます。
食後の運動に満足すれば撤退するかもしれません。
・リンドヴルム×4
鏃のような尾とワニのような長い頭部をした亜竜です。全長8mほど。
呼気に冷気を帯びており、【凍結】系列のBSを引き起こすブレスが考えられます。
その他、鋭い牙や鏃のような尾による攻撃には【致命】や【出血】系列の可能性が推測されます。
貪食の竜翼が暴れた音か、あるいは付近に漂う血の臭いに吊られてきたのでしょう。
イレギュラーズを獲物と睨んでいるようです。
・ヒュドラ×4
手足も翼もない巨大な蛇に似た亜竜です。
地上を這うように移動し、強力な【毒】系列のBSと【鬼道】効果をもったブレスを吐く能力を持ちます。
また、牙による攻撃にも同じく【毒】系列があると思われます。
ブレスは遠く、かつ広範囲にもたらされるでしょう。
貪食の竜翼が狩った鳥類のような亜竜の臭いに釣られて姿を見せました。
次の獲物として皆さんを見ています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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