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シナリオ詳細

とある復讐鬼の話

完了

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●未完の復讐譚

 復讐する、というのは、とても大変な事業だ。特に何年、何十年も牙を研いで復讐の好機を待つ、というのはモチベーションの管理が大切になる。復讐するまでに時間が経つと、だんだん復讐心というものは薄れてくるのだ。それは赦したとか赦してないとかいうものではない。単純に時間が経つと当時の憎しみを忘れていくし、だんだんと面倒になっていく。少なくとも私はそうだ。
『臥薪嘗胆』という言葉があるだろう。復讐を忘れない為に、獣の苦い肝を舐めたり、堅い薪の上で寝起きするというやつだ。つまりそのくらいしないと復讐心というのは維持できないのだ。だから、最初に言ったとおり、モチベーションの管理は大事なのだ。復讐譚というのは、そういう日々の積み重ねでやっと完成するものなのだ。

 ――文章はここで途切れている。
 これは、とある作家が執筆途中で亡くなり、未完となった物語の一部だ。
 父である王を家臣の裏切りによって殺され、自らは奴隷として外国へ連れ去られた王女が主人公で、彼女は復讐のためだけに苦渋を舐めながら生きてきた。
 そう、それこそ物語の中で書かれた『臥薪嘗胆』であろう。固い木の床が彼女の寝床で、苦い獣の肝が彼女に与えられた食事だった。それらの屈辱が、彼女を復讐へと駆り立て続け、皮肉なことに復讐こそが彼女の生きがいだったのだ。
 そして今、彼女に復讐の機会が巡ろうとしている。
 奴隷としての彼女を買い取ってくれた金持ちの恩人とも言える女伯爵が、彼女の身の上話を聞いて、「復讐したいならば手を貸そう」と、故郷の国へ帰る手段と、父を裏切って殺し、その国の王に成り上がった元家臣に復讐する――恐怖のどん底に突き落とし、殺すための手段を与えてくれることになったのだ。
 もちろん、それは女伯爵の暇つぶしだとかボランティアのような善意ではない。伯爵は彼女に「私の愛人になれ」と迫った。奴隷とはいえ、彼女はもともと王女の身分。所作振る舞いは奴隷にしては上品だったし、身を落としたとはいえ、彼女の美貌と王女としての誇りは健在だった。そんなところが、伯爵のお気に入りだった。愛人なら、奴隷よりは多少マシな身分ではあろう。その伯爵に束縛され、自由を奪われること以外は。しかし、奴隷の身でも似たようなものだ。自分につけられるラベルと首輪が変わるだけなのだ。

「ええ、復讐が果たせるならば、愛人にでも何にでもなりましょう。あの男と刺し違えて死ななければ、の話ですが」

 復讐鬼となった王女は、女伯爵から渡された暗殺用の隠しナイフを見つめていた。

●境界案内人・水鏡透の迷い

「急に呼び出してすまない、イレギュラーズ。お前に相談したいことがある」

 境界案内人――水鏡透は、珍しく申し訳無さそうな表情をしていた。
 そもそも、あの気難しい彼が、イレギュラーズであるあなたに謝るなどということ自体が異常事態と見ていいだろう。

「ここに、作家が亡くなって未完に終わった物語がある」

 水鏡は、本棚から表紙に『無題』と書かれた本を引っ張り出す。
『無題』とされているのは、完成前に作者が天国に旅立ってしまったせいなのだろうか。

「いや、未完の大作なんてこの世にはごまんとあるんだ。ただ、この物語の主人公のその後が個人的に気がかりなだけで」

 水鏡は、自分でもなんと言葉を尽くせばいいのかわからない様子で、視線をあなたから逸らし、虚空へと目を泳がせる。

「……そうだな、俺は……迷っている。この物語を本当に復讐で終わらせていいのか、復讐を止めるべきなのか。本来この物語は復讐譚だ。復讐させて終わらせる結末になるはずだったものだ。しかし、俺には復讐を果たしても、この主人公が幸せになれるとは、とても思えないんだ……」

 彼は、普段は無愛想で淡々としていて、「冷静・冷徹・冷酷無慈悲」と評判の男だ。だが、それは本の世界の住人に対しては当てはまらない。本のたくさんあるこの図書館こそが彼の居場所で、本の住人は友人であり隣人だ。そんな「ともだち」が困っているなら助けたい。当然の感情を、彼は持っている。

「――かといって、この話の流れで復讐をやめてしまったら、この物語は『金を返せ』と怒鳴られる駄作になってしまうかもしれない」

 境界案内人は、眉間にシワを寄せて、相当悩んでいる様子だった。
 物語の主人公には幸せになってほしい。しかし作者の意に反して物語を『未完の大作』から『完成した駄作』にしてしまっていいものなのか。

「イレギュラーズ、お前はどう思う? 意見を、聞かせてほしい」

 水鏡は、今まで見たことのないような、心底困った顔をしている。あまり感情が表に出ない性格なので、あくまでもあなたから見た印象だが。
 水鏡の話を聞いて、あなたが出す答えは――?

NMコメント

●ご挨拶
 はじめましての方ははじめまして、ご存知の方はこんにちは。NMの永久保セツナです。
 今回は、選択肢を使った『多数決』と皆さんのプレイングの内容により、物語の結末が変わる形式のライブノベルです。
 多数決のため、今回のライブノベルの参加者は最大奇数である「5名様」まで募集いたします。
 もし参加者が5名に達することなく、また多数決が同票だった場合、皆さんのプレイングの内容を参考に結末を考えてまいります。
 私としては新しい試みではありますが、目標や世界観などをお読みいただいた上でご興味ございましたらご参加お待ちしております。
 よろしくお願いいたします。

●目標
 選択肢にある「復讐をさせる」「復讐を止める」のどちらかを選んでいただきます。
 参加者の皆さんの多数決で多かった方の選択肢でストーリーを書いていきます。
 残念ながら多数決で選ばれなかった方は選ばれた選択肢に従って行動することになりますので、「復讐をさせる場合」と「復讐を止める場合」の両方のプレイングを記載してください。

●世界観
 具体的にどこの国とは言いませんが、西洋風の世界です。
 まだ王国があって、国王が政権を握り、国と国との間で戦争があった時代。
 この『無題』とされた物語の主人公は父王を家臣の裏切りによって殺され、自らは奴隷として国外に連れ出された元王女です。
 女伯爵が奴隷にしては上品なその王女を興味本位で買い上げて、身の上話を聞き、復讐に手を貸す……というのが話の本筋です。
 しかし、この物語は作者が執筆途中で亡くなってしまったため、結末が決められていません。
 そのため、境界案内人・水鏡透の発案で、「この物語の結末を決めてほしい」という依頼です。
 物語の結末は、参加者の多数決で決まります。復讐をすればスカッとするかもしれないし、復讐を止めて、たとえ『駄作』のそしりを受けても、未完の大作よりは完成した駄作のほうがマシです。
 というわけで、どちらの結末に転んでも構いません。

●敵
 父王を殺された主人公の、仇敵である大臣がボス的存在です。大臣の取り巻きに兵士が五人ほどいます。
 大臣は敵とはいえ、戦闘能力はほとんどなく、非力な王女でもナイフで刺せば失血死する程度に弱いです。
 当然イレギュラーズに匹敵するほどの力なんてありません。悪知恵だけで生きてきたような小悪党です。
 イレギュラーズが復讐に加担する場合、大臣の身の回りにいる兵士たちを戦闘不能の状態にする必要があります(殺すまで行かなくてもいいです)。もしくは兵士たちを大臣から引き離す計略などあってもいいかもしれません。

●登場人物(NPC)
 元王女:リザ
 女伯爵:シェリー
 悪役の大臣:ドヴォル=ジャーク

●サンプルプレイング1
 俺は復讐には賛成の立場だな。
 だって、やられっぱなしはムカつくし、これ復讐の物語なんだろ? 復讐すればいいじゃん。
 で、復讐に加担するなら、俺は兵士を攻撃、縛り上げて無力化するから、あとは王女様が大臣に直接鉄槌を下してやりゃいい。
 復讐をさせない場合は、そうだな……。「お前が復讐しても幸せになれると思えない」って素直に伝えてやればいいんじゃねえの?
 なあ、水鏡?

●サンプルプレイング2
 私は復讐には反対です。
 水鏡さんの言う通り、復讐してもスッキリはしないと思います。
 それどころか、彼女の手が大臣の汚い血で汚れてしまう。罪を背負って生きていくのは辛いものですから。
 復讐に加担せざるを得なくなった場合は……せめて、双方が血を流さないように、大臣に謝罪してもらって、罪を償ってもらうように、説得したいです。


復讐をさせるか、復讐を止めるか
元王女の復讐鬼に復讐をさせるか、復讐をやめさせるか選択肢の中から選んでください。

【1】復讐をさせる
元王女に復讐をさせます。
この場合、イレギュラーズは彼女のお手伝いをすることになります。
復讐を「させる」場合と「止める」場合の両方のプレイングを書いてください。
(多数決で逆の選択肢が選ばれた場合のため、両方必要です)

【2】復讐を止める
元王女の復讐をやめさせます。
この場合、イレギュラーズは彼女を説得させる、力ずくで止めるなどすることになります。
復讐を「させる」場合と「止める」場合の両方のプレイングを書いてください。
(多数決で逆の選択肢が選ばれた場合のため、両方必要です)

  • とある復讐鬼の話完了
  • NM名永久保セツナ
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年04月16日 22時05分
  • 参加人数5/5人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(5人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
レオンハルト(p3p004744)
導く剣
ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ

リプレイ



 イレギュラーズの多数決の結果、三対二で王女に復讐をさせるという方針で決まった。
 境界案内人・水鏡透は女伯爵シェリーに接触し、「我々は傭兵を派遣する仕事をしている、ぜひ王女の復讐と貴女の思惑に協力したい」と申し出て、王女リザが祖国に帰り、己の手を血で染める復讐の旅にイレギュラーズを随伴させることに成功した。
 シェリーの手引きで正体を隠し、祖国に潜入したリザとイレギュラーズの面々は、それぞれの行動方針について話し合う。



「リザ、こいつを渡しておく」

『灰銀狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は、ファミリアーで召喚した二羽の鴉のうち、片方をリザの肩に乗せた。

「俺はこの鴉を通して透視で伏兵を察知する。あとは俺の仲間がなんとかしてくれるだろう」

「大臣までの道はオイラがつけておくよ。でもウェールはどうするの?」

『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)が、首を傾げてウェールに尋ねる。

「俺は俺でやることがある。悪いが、大臣のことは任せて、別行動を取らせてもらうぞ」

「それなら、私も別行動させていただきます。少し別件で調べたいことがあるのです」

 そう言ったのは、ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)だ。彼女は大臣への復讐の他に気になることがあるらしい。

「協調性もクソもないメンバーが集まったもんだナ。まあ、アクセルとレオンハルト、あとはオレの三人いれば戦闘はどうにかなるだロ」

『惑わす怪猫』玄野 壱和(p3p010806)は、あくびと伸びをしている。

「王女よ、ひとつ助言しておく」

『導く剣』レオンハルト(p3p004744)は、リザに向き合って言葉を紡ぐ。

「貴女の心は正しい、そして期は熟した。なので世捨て人より告げよう。復讐したあとでいい、復讐対象が、何を思って王になり、何をしたのか、それは調べて覚えておいてほしい」

 王女は黙って頷いた。大臣がいかに小悪党とはいえ、王に不満を抱かなければ暗殺に怯えるリスクを犯してまで裏切る理由がない。それは彼女も薄々わかっているようだった。

「皆様、私などのために復讐に加担していただき、いくら感謝の言葉を尽くしても足りません。――それでは、行動を開始しましょう」

 王女の言葉で、イレギュラーズはそれぞれ動き出した。



 リザとイレギュラーズの少数精鋭での電撃戦は、王宮に混乱をもたらした。
 王宮の見張りや見回りの兵は、ウェールの鴉を通じた透視で事前に察知し、アクセルが神気閃光で殺さない程度に気絶させ、その後は敵味方問わず大天使の祝福で回復。アクセルの方針としては、とにかく相手の生命を奪わないように大臣への道を切り開いた。

「どうせ大臣ぶっ殺すのにこんなことする意味あるのカ?」

 壱和は心底理解できない顔で首を傾げていた。

「オイラは関係のない兵士まで巻き添えにしたくないだけ。大臣の命令で無理やり働かされてるかもしれないじゃんか」

「ふぅン。じゃあ、大臣のすぐ近くにいる側近の兵士は多分関係あるんだろうナ」

 壱和はニヤリと笑う。その笑みが意味するところは……。

 やがて、王宮の異常に気付いた兵士たちが慌しい様子でガシャガシャと走る鎧の音が聞こえてきた。
 それに合わせて、どこからかウェールの咆哮が聞こえてくる。

「先王を裏切り玉座を奪い取った現王を殺して先王の無念を晴らす! 先王への恩義を忘れていない者は今すぐ現王から離れよ! 離れぬ者は裏切り者とみなし容赦はせん!」

 ウェールは王宮内をあちこち移動しているらしく、定期的に近く遠く、そんな大声が響き渡っている。
 兵士たちは困惑した様子だが、先王に忠誠を誓い、現王に不満を持つ者は何も見なかったかのように王女とイレギュラーズが通り過ぎていくのを見て見ぬふりしてくれた。現王は自分に賄賂を渡さない者を低い地位に追いやっていた、その報いであろう。

 王女の案内により、彼女と一緒に行動している面々は玉座の間に到達した。

「り、リザ王女!? 馬鹿な、なぜ戻ってこられた!? ワシは奴隷として売り飛ばして、二度と帰ってこれないはずだったのに……! ええい、者共、ソイツらをひっ捕らえい!」

 悪の大臣――現王の命令で、親衛隊が現王を守るようにイレギュラーズの前に立ちはだかる。
 しかし、そのうちの一人の首が、兜ごと地面に落ちていた。レオンハルトが一閃で首を斬り落としたのだ。

「ヒッ、ヒィィ!」

 落ちた首が自分の足元に転がってきて、現王は情けない悲鳴を上げた。

「し、親衛隊! なんとしても賊からワシを守れ! 賄賂と引き換えに今の地位を与えたのだ! 肉壁となってワシを守って当然なのだ!」

「レオンハルト、下がレ。巻き添えを食いたくなかったらナ」

 壱和が声をかけると、攻撃を察したレオンハルトが床を蹴って跳び下がる。
 壱和は親衛隊に向かって[たま]弐式を連射した。
 猫の鳴き声にも似たそれは、怪物すら殺すほどの高周波。そんな代物をただの人間が食らえば――。

「頭蓋骨ごと弾け飛ベ」

 ――……玉座の間は惨状であった。
 血の噴水に血の絨毯、そして返り血を浴びた王女。
 親衛隊は殲滅された。文字通り肉壁となって、現王だけが無事に生き残ってはいたが、ガタガタと震えが止まらない。上ずった声で命乞いを繰り返すのみだ。それを壱和は魔眼で拘束しながら娯楽として録画している。

「た、助けて……命だけは……」

「……ドヴォル。どうしてお父様を殺したの」

「おおお、お許しください、リザ王女! ワシはただ、先王のお傍に侍りたくて、賄賂を渡したのでございます! でも、あの御方は受け取ってくださらなんだ! それどころか、『賄賂を渡すような臣下は信用できぬ』と大臣の座を追われそうになったから……だから……」

「そう。安心したわ。お父様は、やっぱり悪い王様じゃなかったのね」

 リザの言葉に、もしかしたら許してもらえるのでは? と安堵のため息をついた現王だったが、リザの袖から隠しナイフが飛び出してきたのを見て、また白目をむきそうになる。

「許すわけ無いでしょ。何の罪もないお父様を殺して、私が奴隷生活を送っていた間に、のうのうと王様気分で過ごしていたんでしょう? さぞかし楽しかったでしょうね。でも、それももうおしまい」

「さぁどうぞお姫サマ? 後は貴方様が直接手を下すのみでス」

 壱和が言い終わる前に、ナイフは現王ドヴォルの心臓に達するほど深く突き刺さっていた。
 ゴプッと血を吐く嫌な音とともに、ドヴォルは絶命した。

「――ああ、終わったのか。派手にやったな」

 玉座の間で合流したウェールは、床と王女を濡らす赤い色に、少し顔をしかめた。

「ウェール、それは……?」

 レオンハルトがウェールの手に持ったバケツを見て尋ねる。
 バケツの中には貴金属やジュエリーのたぐいが大量に詰め込まれていた。

「ああ、もう一羽、鴉を召喚しただろう? ソイツと一緒に、機動力と物質透過を活かして王宮内を駆け回ってたら宝物庫を見つけた」

「すっごいお宝だなぁ! ねえねえ、このお宝とか王冠を質に流して、リザ自身の身請け金にできないかな?」

 アクセルの提案に、他のイレギュラーズもうなずく。これだけの宝があれば、相当な金額になる。リザがどれほど高値で取引されている奴隷でも、買い上げられないことはないはずだ。
 あとは、買い上げる相手である女伯爵を説得させられればの話だが――。

 そんなとき、不意にカキィンという金属音が聞こえた。
 その場にいたイレギュラーズが驚いて振り向くと、リザをかばうようにロウランが立ち、その目の前には得物を弾かれ、既に無力化された知らない人物がいる。

「いけませんよ、皆さん。王女様から目を離したら危ないでしょう?」

「ロウラン、戻ってきていたのか」

「オイ、誰ダ、コイツ? 大臣はぶっ殺したのに、まだ暗殺者がいるのカ?」

 ロウランの言葉に、レオンハルトと壱和が反応する。壱和は『何者か』をちょいちょいとつま先で蹴っていた。

「この刺客は、女伯爵の配下です。皆さんと別行動している間に、少し彼女について調べてきました」

 ロウランは水鏡透の依頼に、不審な点を抱いていた。
 仇討ちしたあと、王女が女伯爵の愛人になるという展開、それはまあ百合とかGL展開として『読み物』にはなるだろう。だが、あの境界案内人はその結末を良しとしなかった。なにか裏があるのだ、この物語には。
 そう思い立ったが吉日、ロウランが女伯爵の噂を洗ってみれば、面白いくらいに悪い噂がボロボロ出てくる。

「王女が現王を殺したところを捕まえて、自身は無関係なまま軍を動かす。王女は処刑って筋書きですかね」

「王女を愛人にすることで、間接的に王女の祖国を手に入れ、処刑したあとは自分が支配する……そういうことか。大それたことを考えるものだ」

 レオンハルトは、リザに向き直って、「もう伯爵の所に戻る必要はないんじゃないか?」と語りかける。

「このままちょっと世界を旅してみれば、幸せが見つかるかもしれない。お前に幸せになってほしいと願っている者もいる。ドヴォルの代わりの王もすぐに擁立されるだろう」

「あのシェリーとかいう伯爵は、オイラたちがこのバケツいっぱいのお宝を渡して、なんとか交渉してみるよ! それに、肝心の王女が逃げ出しちゃったら、もう伯爵はこの国を手に入れられないからね」

「ああ、バケツと言えば、これ……」

 ウェールが何かを思い出したように、バケツの中をガサゴソと漁り、一冊の日記帳とペンダントをリザに差し出した。

「宝物庫に行く途中で王様の私室らしき場所にたどり着いて、王様の日記と傍においてあったペンダントを持ってきた。ペンダントは多分価値のあるものじゃないだろうけど、ロケットにリザの写真が入ってたから、きっと大切なものなんだろう?」

 王女は震える手でその二つを受け取り、日記をパラパラとめくる。
 イレギュラーズには、その日記に何が書いてあるのかは知る由もない。
 ただ、王女はポロポロと涙をこぼしていた。



 その後、王女は王の形見――日記とペンダントを携えて、放浪の旅に出た。
 復讐を果たした彼女は、まるで新しい自分に生まれ変わったような、どこか晴れ晴れとした顔をしていた。

 そんな話を聞いた水鏡透は、「そうか」とだけ、短く返した。
 しかし、彼はその結末に納得したような、満更でもない顔をしていたのであった。

成否

成功

状態異常

なし

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