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シナリオ詳細

<ラドンの罪域>名を知るための戦い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 鬱蒼と茂った木々と、先を隠すような黒い霧。
 轟々と風が吹き、強力な獣の闊歩する音が響く。
 ここは覇竜領域、ピュニシオンの森の出口付近。
 ラドンの罪域と呼ばれるここは、竜種や強力な亜竜の姿が散見されている。
 あまりの危険度の高さから、これまで禁足地のように扱われていた場所だが、竜種達が特異運命座標としての縁が結ばれたことを契機に事態は変わり始めている。
 ローレットのイレギュラーズ達の仲間入りを果たし、自らが棲まう『領域』での活動を開始したことに合せ、イレギュラーズ達にピュニシオンの森を含めた探索依頼が多く出されるようになっていた。
 その目的の根本は、『冠位暴食』ベルゼーの脅威に対応するためだ。

 ベルゼーは亜竜集落で一番に巨大である『フリアノン』の相談役として出入りしていた。
 里おじさまと呼ばれていた彼が冠位魔種であったことは亜竜集落に大きな衝撃をもたらしたという。
 ベルゼーは覇竜領域を拠点とする冠位魔種だ。
 魔種ではあるが温和な性格をしており、けれど魔種としての業からは逃れられていない。
 喰わずにはいられないのだ。どれだけ親しい相手だろうと。
 良き隣人であった亜竜種を害さぬ為に練達、深緑を襲ったこともあったようだが、その二つが潰えた今、覇竜領域がターゲットになるであろうと里長代行達は考えた。
 ならば、対策を立てねばならない。大いなる影が亜竜集落をも飲み込んでしまう前に。
 フリアノンの里長である珱・琉珂を中心に行なわれたピュニシオンの森の調査で、一つの結果が齎されることになる。

 ピュニシオンの森の先にベルゼーは退避している。
 彼の周囲には竜種達が存在し、人の文明を真似て作られた竜種の里が存在している、と。
 その地の名を『ヘスペリデス』と言う。
 黄昏の似合う、最果ての地に彼等は居る。何を目論んでいるか、その真意も知らされずに――

 かくして、ヘスペリデスを目指すべくイレギュラーズ達は暗き森を邁進することとなった。
 その行く手を阻むように、ラドンの罪域に住まう亜竜や、時に竜種が立ちはだかる。
 彼らにとっては、イレギュラーズでさえ、森に住まう他の獣と変わらぬと見られているが、それでは先に進まない。
 何かしらコミュニケーションを取るにしろ、あるいは打ち倒すにしろ、力を示さなければならないのだ。
 そんな状況で、とある一行がピュニシオンの森の出口を目指し進んでいた。

「これ、持ち帰れないのがもったいないわね」
 幻想の商人であるリリスは、打ち倒した亜竜の遺骸を見ながら残念そうに言う。
 これに、同じく幻想の商人であるヴァンは返した。
「道らしい道がないですからね。馬車も通せないので、持ち帰りは難しいでしょう」
「うぁ、もったいねぇ」
 残念そうに言ったのは、三十代の男。
 手配師という通り名の彼は、亜竜の足元に寄ると魔法で爆弾を作り出し爆破。
「これぐらいなら持ち帰れるから貰っとくぜ」
 亜竜の爪を手に取った。
「それ、どうすんのよ」
「ちょいと加工して売りさばく。伝手はあんのよ」
「あんた、もう幻想で伝手作ったわけ?」
「そりゃもちろん。これからはワールドワイドに手広くやりますよ、俺は」
 ひひひっ、と笑う手配師。
「呆れるほどたくましいわね」
 そう言いながらリリスが小さくため息をついている時だった。
「何か来るよ」
 この場にいるもうひとり。
 紳士然とした男、モリアーティが静かな声で言った。
 全員が警戒する中、現れたのは二足歩行の人間大のトカゲ。
 亜竜の一種だろうが、それほど脅威ではない。むしろ本当の脅威は――
「えーい♪」
 バキバキと森の木々をへし折りながらやって来た。
 ズドン!
「ギュイイィィッ……」
 殴り潰された小型亜竜は断末魔の声を上げ、ちょっとした一軒家ぐらいの大きさがある何かに絶命させられた。
「ふむ。竜種だね」
「みたいね。子供みたいだけど」
「お前ら、よく落ち着いてられんな」
 仕留めた亜竜をバキバキ音をさせ噛み砕きながら食事中の竜種を前にして、手配師は呆れたように言った。
「次は俺ら喰いに来るんじゃねぇか?」
「その時は逃げるだけよ。得意でしょ」
「まぁな」
「? なに? なになに?」
 怯えた様子を見せないリリス達に好奇心を抱いたのか、突如現れた竜種が小首を傾げながら見詰めて来る。
 その間も亜竜をボリボリ噛み砕きながらお食事中なので割とスプラッタだったが、お構いなしにリリスは声を掛けた。
「こんにちは。私はリリスっていうの。それで――」
「ヴァンです」
「モリアーティというよ」
「手配師って呼んでくれ」
「? ???」
 全く怯えた様子もなく平然と名乗りを上げるリリス達に、さらに不思議がる竜種。そこに――
「アナタの名前を教えてくれないかしら?」
「なんで?」
 きょとんとした様子で聞き返す竜種。
 竜種にとっては人間など、歯牙にもかけない弱い相手でしかなく、場合によっては『喋るネズミ(おやつ)』ぐらいの感覚だ。
 それが対等であるかのように声を掛けて来たのだ。
 竜種によってはそれだけで暴れかねなかったが、目の前の竜種は子供で幼いことが幸いした。
「名前教えたら、なにか良いことあるの?」
 子供っぽい好奇心に突き動かされ尋ねる竜種に、リリスが応えた。
「仲良くなれるわ」
「なんで?」
「私達は、なりたいの」
「ヤダー。教えなーい」
 バタバタと尻尾を動かし、それだけで周囲の木々を薙ぎ倒す。
 自分の力を見せることで怯えるかな? と期待した竜種だが、変わらぬ様子のリリス達に悪戯めいた笑みを浮かべ言った。
「食べちゃうぞ~」
「それは困るわ。だからこれをあげる」
「? なにそれ?」
 リリスが持って来ていた袋から出した物を見て、竜種は顔を近づける。
「金平糖よ。綺麗でしょ」
 それは色とりどりの金平糖。
 疲れた時に食べようと持って来ていた物だが、竜種は珍しそうに匂いを嗅いでいる。
「あんまり匂いしない。なにこれ?」
「甘いお菓子よ」
「あまい?」
 よく分からないというように首をかしげる竜種。
 自然の中だと、あまり甘いもの自体がないので味を想像し辛いのだろう。
「試してみて。はい、口を開けて」
「?」
 言われるがままに口を開く竜種。
 ある意味警戒心が無さ過ぎるが、それぐらい人間を侮っているということだろう。
 開いた口に、ざらざらと金平糖を流し込んでやると――
「!!」
 一瞬固まったあと、誰にもやるもんかといわんばかりに口を閉じ、初めての甘味を味わい――
「おいしー! なにこれなにこれ! おいしー!!」
 バンバンと地響きがしそうな勢いで尻尾で地面を叩く。
「もっと! もっとほしい!!」
「なら、お願いを聞いてくれる?」
「おねがい?」
 首をかしげる竜種にリリスは言った。
「私達は、ヘスペリデスって場所を探してるの。アナタみたいな竜種がまとまって住んでいる場所よ。知ってる?」
「……何しに行くの?」
 不審な目を向ける竜種に、リリスは応える。
「私達だけでなく、他の人達もだけど、そこに行きたい人が大勢いるの。もし案内してくれたら、さっきの美味しい物だけでなく、他にも美味しい物を持って来るわ」
 これに竜種は――
「ヤっ!」
 駄々をこねる子供のように、ぶんぶんと首を振った。
「ボクの方が強いもん! だから言うこときくのヤっ! でもさっきのもっとたべたい! もってきて!」
「良いわ。なら、勝負しましょう」
「しょうぶ?」
「ええ。一週間したら、またここに来るから、その時に勝負しましょう。アナタは強いから、私達は大勢で。アナタと戦って、私達が強いと認めてくれたら、まずは名前を教えて」
「まけないもん!」
 バンバン尻尾で地面を叩きながら竜種は言った。
「ボクの方が強いもん!」
「ええ、そうね。でも、ローレットのイレギュラーズの子達も、強いのよ」
「いれぎゅらーず?」
「色んな子達がいるわ。強いわよ」
「! そんなことないもん! ボクの方が強いもん!」
「なら、勝負しましょう」
「わかった!」
 ぶんぶん尻尾を振りながら応える竜種だった。

GMコメント

おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回は、覇竜編全体シナリオのひとつです。

竜種相手ということで、今回はHardです。
プロローグの会話部分だけ見てると暢気な感じがしますが
竜種は並の魔種より強いので侮ると大怪我必須です。
お気をつけください。

それはそれとしまして、以下詳細です。

●成功条件
 竜種と戦い、ある程度ダメージを与えて強さを認めさせる。

●状況
 樹木が鬱蒼と茂るピュニシオンの森での戦闘になります。
 竜種との待ち合わせの場所に行くと、待っている間暇だったのか
 周囲一帯の木々は薙ぎ倒され見晴らしが良くなっています。

●戦場
 樹木が薙ぎ倒された森林。
 開けた場所になっていますが、薙ぎ倒された樹木が散乱しています。
 そのため足場は多少不利です。
 一方竜種にとっては、この程度の足場の悪さは問題ないので
 一切の支障なく戦闘では元気一杯に襲い掛かってきます。

●竜種NPC
 若い竜である明星種『アリオス』の竜種です。
 未熟なので人の姿は取れませんが、並の魔種よりも強いです。
 戦闘開始時点では、完全に侮っています。
 基本的な戦闘方法は、殴ったりぶつかったり尻尾を振り回したり。
 近距離の物理(強力)が基本ですが、これは生まれつき強いので
 戦いを工夫したりする必要が無かったためです。
 戦闘中に、PC達の攻撃を見て学び、近距離物理以外の
 攻撃をしてくる可能性があります。

 強さを認めると、名前を教えてくれます。
 今回だけで、味方になるとかはありません。
 基本的に今回は、名前を教えてくれる程度には認めさせるのが目的です。

●味方NPC
 リリス&ヴァン
 依頼人です。基本は強力なバフとデバフ及びヒーラー。
 基本はPCのサポートに回ります。

 モリアーティ&手配師
 リリス達と、とある理由から共闘している悪党共。
 PC達と敵対することはありません。
 攻撃によるPC達のサポートに動きます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 説明は以上になります。
 それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。

  • <ラドンの罪域>名を知るための戦い完了
  • GM名春夏秋冬
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年04月23日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン
シャールカーニ・レーカ(p3p010392)
緋夜の魔竜
紲 白虎(p3p010475)
ドラゴニュート
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

リプレイ

「り、竜種とお話して? おやつあげて? 力比べで勝てたら名前を教えてくれて――って、ちょ、ちょっと待った!」
 依頼内容を聞いた『ノームの愛娘』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は、思わず突っ込みを入れるように返した。
「あたしの知ってる竜とはずいぶん違う、っていうかそんなフレンドリーな子がいるの!?」
「フレンドリーと言いますか」
「子供だからだと思うわ」
 依頼人のヴァンとリリスの応えに、フランは考え込むような間を開けて返す。
「とにかく相手は竜種、力比べって言っても本気でいかないと!」

 フランの言葉は正しい。
 それは現場に到着し実感させられた。

「きたー! あまいの! あまいのもってきた?」
 バシバシ地響きをさせる勢いで、竜種の子供が尻尾で地面を叩く。
 勢い余って木に当たれば一撃粉砕。
 周囲は同じように薙ぎ倒された木々が散乱し開けた場所になっていた。
(竜種と戦うのは子供相手でもゾッとしないね……)
 薙ぎ倒された木々を見ながら、『剣閃飛鳥』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は、リリス達にファミリアーの鳩を渡す。
「タイミングは、この子を通じて出すから任せるね」
「ええ、任せて」
「指示お願いします」
 顔見知りということもあり慣れた様子で言葉を交わす。
 その間に皆は竜種を囲むように展開。
 けれど竜種は警戒した様子が無い。
「ねー、まだー。はやく終わらせてあまいのたべたーい」
 侮っている竜種に、『謳う死神』フロイント ハイン(p3p010570)は闘志を燃やす。
(完全に僕達を無礼(ナメ)てる若い竜か。とは言え――)
 竜種の強さを知っているハインは油断しない。
(成長した竜は世界をも一噛みにできるような巨躯と力を持つ)
 傲慢では無く、至極当然のことであることも分かっている。
(偉ぶらないでいるのは至難の業さ。僕達人間だって目の前に小さな生き物がいたとして、敬意を払ったりはしないからね。でも――)
 騎乗性能を強化するヴァイセ・シュニッターに魔力を流しながら、見た目だけでは枠に収まらない強さを示すため戦闘態勢を整える。
(相手を侮りすぎて、蛇や蜂に殺される人間は後を絶たない。さあ、良く見て。目の前の人間が、これから何をするかを)
 フェーニクスフィーダンを使い、ふわりと浮かぶ。
 同じように皆も何らかの手段で飛行していく中、戦いは始まった。
「いくよ」
 開戦を告げるように、ハインは光輝を撃ち放った。
 万物を粉砕するような輝きが竜種に直撃。しかし――
「まぶしい」
 竜種は、猫が顔を洗うような動作で顔をゴシゴシするだけで痛痒を感じてるようには見えない。
 種としての強靭さを見せるが、
(まずは、ここからだ)
 ハインは序盤、あえて単調な動きになるようヒット&アウェイを繰り返す。
 それは終盤、皆で渾身の一撃を叩き込むためだ。
 連携を前提とした戦術に、竜種は気付かず無邪気に追いかけてくる。
「まてー」
 虫を捕まえる子供のようなノリで、竜種はハインを追い詰めようとしたが――
「あたしも相手して貰うよ!」
 ミルヴィは猛禽のような鋭い疾さで間合いを一瞬で詰め、あえて近接戦を挑む。
 逆手に構えた二刀を振るい、巧妙なる剣技の冴えを見せた。
「んーっ」
 むずがる子供のように竜種は前足を、あるいは尻尾を使いミルヴィを叩き落とそうとするが、その全てを回避。
「ほら、こっちだよ」
「やー」
 まともに食らえば瀕死が確実な竜の攻撃を、ミルヴィは躱していく。
 それは仲間が攻撃し易いよう、竜の意識を引き付ける意味があった。
 ミルヴィの援護を活かすべく、仲間が次々連携を重ねる。
「精霊が力を貸してくれたよ。これで大丈夫」
「ありがとう」
 大気中の精霊に力を借り、仲間に飛行を付与してくれたフランに、『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は笑顔で礼を告げると、ハインの近くまで翔け寄り強化する。
(私の役割はヒーラータンク。全体を見渡して援護していかないと)
 数の強さを活かすべく、連携を意識してヴェルーリアは動く。
 それは個の極地では無く、群れの強かさ。
 人間として竜に挑みながら、ヴェルーリアは、どこか心を躍らせていた。
(名前を名乗るだけの価値がある存在だと竜種の方に認めさせる。それも私達の実力で)
 殺し合うのではなく、知り合うために。物語の一幕を綴る様に、ヴェルーリアは動いていく。
(困難だと思うし大変でもあると思うけど頑張っていきたいね。英雄譚みたいな話で少しワクワクする部分もあるよ)
 彼女のように、意欲を持って戦う者は他にも居る。
(これだけの人数で竜種と戦う……大変な戦いになりそうだけど、「認めてもらうため」っていうなら全力で頑張れる)
 飛行で浮かびながら、『陽だまりの白』シルキィ(p3p008115)は、仲間との距離を意識して位置取りをする。
(できる限りフランちゃんとヴェルさん……フォルトゥナリアさんの支援が届く範囲に)
 1人では無く皆で。
 個の強さではない、手を取り合う者達の強さを示すように竜に挑む。
「勝負だよぉ、わたし達の底力を見せてあげる!」
 魔力により作り出した糸を操り竜を絡め取る。
「なにこれ?」
 竜は無造作に引き千切るが、代償を払うように炎が生まれ纏わりつく。
「? きえない」
 火が付いた所を地面に叩きつけて消そうとするが消えない。けれど――
「まてー」
 火が付いたままお構いなしに追い駆けて来た。
(効いてない!?)
 跳び掛かって来る竜を避けながらシルキィは見極める。
(効いてない……わけじゃない。無視できるぐらい守りも体力も高いんだ)
 とにかく頑丈な上、底の見えない体力をしているようだ。だが――
(どれだけ体力が多くても、炎はじわじわと効いてくるはず)
 先へと繋げるため、確実な攻撃を重ねていった。
 それでもなお、竜は平然としている。
 種としての極天を見せつけられながら、何処か憧憬を抱く者達もいた。
(うーん、名前すら教えてくれないのかあ)
 ドラゴニアである、『ドラゴニュート』紲 白虎(p3p010475)は思う。
(なら教えてもらう為に力を示さないといけないけど……)
 圧倒的な力を見せつける竜の力を、ドラゴニアであるからこそ身近に感じ取る。
(……やっぱりちょっと怖いかな。でも――)
 怖くて、それども貫きたい意志がある。
(でもここは通させてもらう!)
「がおー! 私、紲 白虎!」
「??」
 いきなり突っ込んで来て名乗りを上げる白虎に、きょとんとした竜は小首を傾げる。
 そこに挨拶とばかりに拳の三連打。
(うあっ、痛い!)
 殴った白虎の方がダメージを受けるぐらい硬かったが、欠片も表には出さず白虎は竜に呼び掛けた。
「君の名前を! 教えてもらうね!」
「おしえないもん!」
 ぶんっ、と前足を振るい白虎を追い払いながら竜は言った。
「ボクのほうがつよいもん!」
 癇癪を起した子供のように竜が暴れる。
 災害のような暴力を前にして、『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)は祈るように思っていた。
(何と素晴らしいことであるか)
 自ら望む進化の頂きを目の前にして、練倒は喜びが溢れる。
(若き竜種と力を競い合うことが出来るなど……この様な機会をくれたリリス殿達には感謝であるな)
 感謝と共に歓喜を抱き竜に挑む。
(吾輩の今の力、どれ程竜種に通用するか、その胸を存分に借りさせてもらうである)
 仲間が射線に入らないことを確認し、全身全ての力を魔力変換し撃ち放つ。
 命中。
 しかし、けろりとした様子の竜に、練倒は高らかに名乗りを上げた。
「若き竜種よ! 吾輩の名は炎練倒である」
「??」
 小首を傾げる竜に、お構いなしに練倒は言った。
「この勝負の後に少しでも吾輩に興味を持ってもらえれば名を覚えて貰いたいである」
「やー!」
 ぶんぶん首を振りながら竜は返す。
「ボクのほうがつよいもん!」
 大暴れをする竜。
 余波で地面がめくり上がる。
 それを目の当たりにして、『緋夜の魔竜』シャールカーニ・レーカ(p3p010392)は自身を奮い立たせる。
(まさか、幼いとはいえ正真正銘の竜種と真っ向から戦う事になるとはな)
 子供の頃、大人達から聞かされた御伽噺のような警告が、否応なしに脳裏によみがえる。
(連中の脅威は幼い頃から叩きこまれているから、正直臆する所もない訳ではないが……だからこそ、面白い。ここが鉄火場だというのなら、叩かれてその真価を認めさせてやろうじゃないか)
 それはドラゴニアとして、そしてかつて聞いた異界伝承に抱いた憧れを形にするように、真正面から竜と対峙する。
「我こそはフリアノンの住人、シャールカーニのレーカという者」
 堂々と名乗りを上げ、竜の視線を受けながら口上を告げる。
「この身は矮奴に過ぎないが、持てる力は卑小ならずと覚えて貰おう!」
 竜の注意を引きつけると同時に、魔力で作り出した魔性の茨で縛る。
 無造作に竜は引き千切り駆けて来るが、レーカはギリギリまで避けず呪歌を響かせ呪いを付与した。
 少しずつ、だが確実に竜を縛る枷が積み上げられていく。
 しかしその状態でも竜は元気一杯に動き皆に傷を与えていった。
 それを癒すため、フランは忙しく動き回る。それを好奇心を浮かべ見詰める竜に――
「こんにちは、あたしはフラン・ヴィラネル! 深緑のノームの里から来た幻想種!」
 フランは呼び掛けるように声を掛け、竜の注意を引くように飛び回っていた。それを見ていた竜は、ふわりと浮かび――
「ボクもとべるもん!」
「みんな避けて!」
 間近で戦っていたミルヴィが危機を肌で感じ取り警告。
 即座に皆が回避に動いた瞬間、落雷のような轟音と共に竜は急加速。
 進路上の全てを粉砕するような勢いの超速飛行を見せた。
 予備動作と溜めがあったので直撃は全員避けたが、余波の衝撃波だけで近くにいた者はダメージを受ける。凶悪な攻撃であったが――
「へへ~、ボクもとべたー」
 竜にとっては単なる飛行の延長線上のことをしたつもりらしい。
 皆が全員飛行しているのを見て興味を覚え、見ただけでやり方を学び飛ぶようになったようだ。
 最強種としての強さをまざまざと見せつけられながら、しかしイレギュラーズは臆することなく攻撃を重ね、ついにその時は来た。
「ちっぽけに見えたって、人を侮っちゃだめだよ――いくよ皆! 反撃の狼煙だー!」
 フランは杖を掲げ高らかに、グロリアスレギオンで号令を掛ける。
 途端、周囲の仲間は一気に強化。
「なになに?」
 混乱したように竜は一瞬動きを止めたが、すぐに襲い掛かろうとする。
 全員が強化される余裕が潰されようとしたが――
「時間を稼ぐよ」
 同行していたモリアーティ達が一斉攻撃。
 さらに竜の動きを止め、全員が大幅に強化された状態で攻撃態勢が整う。
 絶対の好機。しかし時間が掛かれば、竜が強化を覚える可能性がある。
 その前に一気に決めるべく、ミルヴィが仕掛ける。
「ここから! もっとギアを上げていくよ!」
 近接戦で竜を抑えていたミルヴィは戦術を切り替えた。
 隼の如く疾く飛翔し距離を取ると、剣気を飛ばしながら、縦横無尽に翔け回る。
 急に切り替わった戦術に竜は対処できない。
「んー、やー」
 無造作に腕を振るい衝撃波を飛ばすが、とてもではないがミルヴィを捕えられない。
 明らかな経験不足を曝す竜を翻弄しながら、ミルヴィは指示を出す。
「避けて合わせて!」
 呼び掛けと合わせ、ファミリアーの鳩でリリス達に指示。
 リリス達は応え、皆を二重強化。
 ぐんっ! と跳ね上がった力を活かし皆は一斉に攻撃を叩き込む。
(今が、攻め時だね!)
 皆の回復と強化に動いていたヴェルーリアも攻勢に加わる。
 放たれる光熱波は竜を撃ち据え、僅かだが動きを止めた。
 そこにシルキィが追撃を掛ける。
 連続して叩き込まれる無数の繭弾。
 避け切れず受ける竜は、怒りより不思議そうに声を上げた。
「え? なんで? なんで?」
 自分が押されているのが不思議らしい。
 そんな竜にシルキィは呼び掛ける。
「一人だけの力では敵わなくても、力を合わせれば竜(キミ)とも戦えるんだ」
「??」
「キミの強さも、わたしたちの強さも、それぞれいい物だと思わない?」
 これに竜は、むずがる子供のように暴れて返す。
「まけないもん!」
 膨大な魔力を放出したかと思えば、今まで以上に守りが硬くなる。
 そこに白虎が飛び込み連続打撃。
 殴りつける拳の方が傷つくが、お構いなしに拳を重ねる。
「いっくよー!」
「まけないもん!」
 反撃する竜。
 それは拙く、けれど白虎が見せた拳術の術理に基づいていた。それを見て――
「ガーハッハッハ、流石は竜種。この短時間でこちらに対応し成長するとは驚嘆の一語に尽きるである。であるならば――」
 練倒は楽しげに大いに笑いながら、
「こちらも相応の技を見せるのが礼儀というもの、遠慮なく受け取るである!」
 全力の魔力を強引に収束し、一気に叩き込む。
「きゃう!」
 まともに食らい目を回したかのように動きが止まる竜。
 そこにレーカが飛び込む。
「括目せよ!」
 夢想を現実へと転化し叩きつける。
「我が抱く力の全て、この場にて余さず披露する!」
 それは今だ到らす、けれど目指すべき頂きたる竜王の一撃。
 夢想から現実へと仮想展開されたドラゴンストライクを、幼い竜はまともに受けた。
「うきゃ!」
 まともに受けた幼い竜は、ころころと転げる。
 そこに、ハインがダメ押しとばかりに、連撃を叩き込んだ。
「目の前のちっぽけな存在がどれ程の脅威か、たっぷりと思い知って貰うよ!」
 留まることのない連続攻撃は、冥府へ誘う宵闇の旋律の如き威音を響かせ、止めとばかりに放たれた光熱波がクリーンヒット!
「きゅう」
 一連の攻撃を受けた竜は、目を回したのか動きが止まっていたが――
「おもしろーい!」
 楽しげにバンバン尻尾を地面に叩きつけ喜んだ。
「……面白かったなら、そろそろいい加減にしないか?」
 レーカが呼び掛けると、
「もっと、だめ?」
 竜は残念そうな竜に、白虎が言った。
「それより、君の名前、教えて欲しいなー?」
「なまえ……」
「私達の仲間になれとは言わないけど、君の事よく知りたいな?」
「うん、教えて」
 シルキィも呼び掛けに加わる。
「わたしはシルキィ。蚕のシルキィだよぉ。あなたの名前、聞かせて貰えるかなぁ?」
「なまえ……」
 迷う竜に、白虎は言った。
「あ、おやつあるよ! 他の人も持って来てるみたいだけど、折角だから皆で食べよっか!」
「おやつ!」
 目を輝かせる竜に、皆は美味しい食べ物を振る舞う。
「はい、ケーキだよ」
 白虎は、果物を詰め込んだロールケーキ。
「おいしー! おいしー! なにこれなにこれ!」
「こちらを受け取ってほしいである」
「あー、あまいのー!」
 目をキラキラさせ、練倒の持って来た青色星カケラを味わう。
「苺マシュマロもあるよ」
「ふわふわ~」
 尻尾をくねらせながら、フランの持って来た苺マシュマロにうっとりとする。
「お菓子だけじゃバランス悪いし、折角だから、あたし達も一緒に食べよう」
 皆がお菓子を上げている間に、ミルヴィは持ち込んでいた獣肉を調理する。
 リリス達が手伝えるよう持って来ていた調理器具も使い、ちょっとした野外バーベキューを開催。食べ終わると――
「戦って一緒にご飯食べたら友達って奴サ、キミの名前教えてよ? うちにも小さな竜の子いるから友達になって欲しいな」
「ちいさい? いるの?」
「いるよ」
「ん……」
 皆の呼び掛けと美味しい食べ物を味わった竜は、
「アナンタ!」
 元気一杯に応えた。
 そこに、フランが呼び掛ける。
「教えてくれてありがとう! よかったら、あたしたちの名前も、呼んでほしいなー!」
「なまえ」
「覚えてなかったら何度だって教えてあげる!」
「ん~」
 むずがるように声を上げるアナンタに、ヴェルーリアも呼び掛ける。
「私は、フォルトゥナリア・ヴェルーリアです」
「……ふぉる、とう?」
 難しそうに首を傾げるアナンタに、ヴェルーリアは優しい声で言った。
「一度に長くて覚え辛いなら、短くても良いので呼んでみて下さい」
「……フォル?」
「はい」
 呼んでくれたアナンタに、笑顔でヴェルーリアは返し、他の皆も呼び掛けた。
「フラン、って呼んでね」
「ミルヴィ=カーソン。よろしくね」
「改めて、シャールカーニ・レーカだ」
「蚕のシルキィだよぉ」
「竜種目指す者、炎 練倒である」
「紲 白虎!」
「フロイント ハインだ」
「ん……えぇと――」
 皆に呼び掛けられ、1人1人名を呼ぶアナンタであった。

成否

成功

MVP

ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥

状態異常

ミルヴィ=カーソン(p3p005047)[重傷]
剣閃飛鳥
紲 白虎(p3p010475)[重傷]
ドラゴニュート

あとがき

皆さま、お疲れ様でした!
皆さまのお蔭で竜のアナンタは、ちっちゃくてもつよいのいるんだー、といった感じに、イレギュラーズの強さを教えることができました。
どうやらアナンタは、ちょっとだけ、イレギュラーズに興味を覚えたようです。
とはいえ、まだまだお菓子などの方が記憶に強く残っているようではありますが。

それでは、最後に重ねまして。
皆さま、お疲れ様でした。ご参加、ありがとうございました!

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