PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ある日、森の中

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ゴブリン
 陽に当てられた緑の光。
 微かに湿った土の香り、舞う風がそれを晴天の空へ運び。共に舞い上がる新芽の葉が柔らかく空を飛んだ。
 辺りは静かだ。
 それもその筈、幻想の山岳地帯でもその土地は点々と酪農家が営む牧場があるだけで、町や村も近くには無い。
 一日の殆どは牧場主の夫婦が出す生活音か、彼等の優しい声が響くだけ。
 あるいは牛たちの野太い声だけ。
「なんだかあの辺、先週は野原だった気がするけどねえ」
「婆さんボケとるんじゃないのかのう……」
「ウチまだ現役なんだけどぉ? まぢ超失礼じゃねぇ??」
「わぁ! 分かり難いボケかますんじゃないよ婆さん!!」

 牧場の小屋から聞こえて来る平和な声を彩る様に、牛達が「んぼんじょるのー」と鳴いた。
 小屋の奥へ入って行く老夫婦を見送った牛達は藁の中から取り出した鉄板でビーフステーキを焼き始め、背中のジッパーを下ろして中からぺっと、巨大な剣と槍を手にむしゃりむしゃり。

 秋が近付くと風がよく吹く。老夫婦が営む牧場の傍にある森が、静寂に慣れた空に葉が擦れ合う音を一斉に届け行く。
 そんな最中。森の中から牧場の周りをのんびり歩いている牛達を見る影が複数。
 人間の子供程度の背丈、緑に濁ったガサガサした肌。紅い瞳……バベルでも翻訳されぬ、『意思無き者』。
 本能のままに生きるモンスターであり、無垢にして悪を有する存在──ゴブリン。
「ゲゲゲゲゲ……」
 小鬼達は下卑た声を漏らしながら呑気に森の方へ来る牛を見つめている。
 手に鈍く光るナイフは石を削った物だが、器用な物で、その切れ味は先日に仕留めた狼で保証されていた。
 一歩、二歩……そこだ。
 先頭のゴブリンが何かを片手で振る。瞬間、背後に隠れているゴブリン達に淡い桃色の煙が降りかかった。
 まぬけな牛を目掛け、飛び出した八匹のゴブリン達はその手のナイフを一斉に『投擲した』。
 悲痛な悲鳴が森に木霊する。

「んん? 婆さんや、何だか変な声が聴こえなかったかね?」
「気のせいですよぉ」
 老夫婦は柱に縛り付けた若い夫婦へ血まみれのチェーンソーを突き付けてにっこりと首を傾げて見せる。
「それで……金はどこにしまったかのう……」
「私とお爺さんったら、とっても忘れんぼさんだから……うっかりここに人がいるの忘れて刃物を振り回してしまうかも……なんてねぇ」
 老夫婦の優しい声が、辺りに響いた。

●事件は現場で起きているんだ
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は穏やかな表情で卓に着いて言った。
「ふつうのモンスター退治なのですよ」
 幻想の町はずれにある牧場を最近ゴブリンが襲っているらしく、退治して欲しいという事だった。
 別に何かしら数が多いほどでもなく。
 特別な能力を有している訳でも無く。
 変なゴブリンの特殊個体が混じっている訳でも無いらしい。
「牧場周辺に住処があるみたいですね、困ってる牧場主さんの為にも『襲って来る敵をみんな退治して』あげて欲しいのですよ?」
 きっとミルクとかアイスが食べられるかもしれないですね~と、のほほんとした顔で首を傾げて見せるユリーカ。
 ある者は今回楽な仕事になりそうだと背伸びをし。
 またある者は、ここ最近はおかしなゴブリンと遭遇していた事を吐露して笑う。
「たまにはゴブリンでもボコるかな!」
 経験を積まなくては、と意気込む者もいるかもしれない。
「この間さ、ローレットの酒場で結構な美人がいてさー」
 関係ない話をしながらも既に行動(プレイング)を実は考えているかもしれない。
「俺、この依頼が終わったら生き別れの姉と父と祖父と再会してから長年片思いだった幼馴染とケッコンして、それから夢のマイホーム建ててから念願の国家資格貰いに行くんだ……」
 ごく普通のイレギュラーズも何となくその依頼を大事なイベントを前にして受ける者もいるかもしれない。

 平和な雰囲気、いつもの日常がそこに広がっている。

「説明おしまい! さーて、ボクは何かデザートでも食べに行くのです!」
 ユリーカも早めに終わったブリーフィングに満足すると卓上の資料をまとめてから何処かへ行くのだった。

GMコメント


 以下情報、ユリーカちゃんとのブリーフィング時の反応合わせて。

●依頼成功条件
 牧場を狙う敵を全て退治する

●情報精度C
 ゴブリンに関する情報はA相当です。
 ……え? 何が怪しいんですか? どこが?

●森のゴブリン×8体
 町はずれの森に面した牧場を襲っては牛を勝手に盗んだり乳絞りしていく悪いゴブリン。
 武装は石器ナイフ、投石紐による礫投げ(物遠単)、牛糞投げ(物中単:ダメージ無)。
 ある程度の連携は取れているようですが、その程度です。囲まれるような立ち回りをしなければ苦戦はしないのです。

●森。
 静かでのどかな雰囲気の、緑豊かな小さな森。
 周りの山はどんどん閑散としつつある中、この森は緑豊かなようです。
 近くで『蠢く森林』の異名を持った巨大モンスターが確認されていますが、まあ今回とは関係なさそうですかね?

●牛×8頭
 のそのそと二足で歩いてる、う……し……?
 ちなみに先月までは普通の牛が二十頭は居たそうですね、食用なのかな?

●老夫婦
 牧場に住んでいるらしき老夫婦。彼等いわく、「ゴブリンは嫌ねえ」「それ以外は平和だよこの辺りは」とのこと。
 最近の山岳部では例の砂蠍の影響で山賊化した集落もあるそうですから、気をつけて欲しいですね。

 以上、皆様のご参加をお待ちしております。

  • ある日、森の中完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月29日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談10日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
マナ・ニール(p3p000350)
まほろばは隣に
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
Gaw・Gaw・Lowe(p3p004469)
シュガーウルフ
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束
木津田・由奈(p3p006406)
闇妹

リプレイ

●~分散~
 牧場へ集まった一同は当面の方針を改めて固めた。
 事前情報では楽観的に思える程度のモンスターしか存在しないと聞いていたが、しかし何とも物騒な世の中である。
 ここは依頼主の為にも人肌脱ごうと、イレギュラーズはゴブリン討伐班と件の不穏な情報について調べる班とに分かれる事にしていた。
 幸先が良い事に現地に到着して直ぐ石動 グヴァラ 凱(p3p001051)が牧場向かいと小さな森の境界で血痕を発見する。
 一行の向かう先は決まった。
 森の手前。牧場の主と思われる老夫婦に見送られて一同は出発する。
「牧場を狙う輩は全て討伐、ですね? 了解です!」
 森の入口で一言二言の会話を交わした『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381)が駆けて来る。
 彼女を待っていた『銀凛の騎士』アマリリス(p3p004731)は季節外れにも未だ風に揺れる森の緑を見上げた。
「なんだか頭に入ってきた事前情報がカオスでしかなくて……このアマリリス、天義の外の世界の摩訶不思議さに圧倒されているといいますか!」
「そうそう。ゴブリンも大変だけど、近くで蠢く森林って呼ばれてるモンスターも目撃されてるんだよね」
 牧場を狙う者。今回に限りそれは賊の存在以外にもあると『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は言う。
「蠢く森林……一体どのような存在なのでしょうか」
 近くの草葉にそうっと手を這わせる。
 『叡智の捕食者』ドラマ・ゲツク(p3p000172)、彼女は牧場から定期的に植物と言葉を交わす事で断片的でも情報を収集しようとしていた。
「妙な化け物の話も聞くが……まぁそれは、それだ」
 凱が応じる。彼もまた森の中を流れる空気を鋭敏な嗅覚で探っていた。
 今回、恐らく彼が牧場を訪れてから最も眉を潜めただろう。
(血の臭いがどこからも漂って来るのは、どういうことなのだ)
 ドラマの方へ視線を向ける凱は小首を傾げるが、彼女は一言「先日ゴブリンが通ったのは間違いないようです」と答えた。
「ふむ……」
「私は回復しかできませんが……悪い方々は懲らしめてしまいましょう……!」
 『まほろばを求めて』マナ・ニール(p3p000350)が小さな羽根を動かして「おー」と手を上げる。
 と、そんな一同の横で何やら不穏な気配が漂う……

「うふふ……私この依頼が終わったら『お兄ちゃん』と結婚式(ごっこ)をするんです……」
 陽射しの中を歩く『闇妹』木津田・由奈(p3p006406)は溺愛する義理の兄を想い頬に手を添える。
 一体誰の何のフラグなのか2D6による判定が必要だろう……結果、兄だった。

●Chapter.1
「いました! 皆さん、行きましょう!」
 一行は早くも昼食を取っているゴブリンの一群を見つけた。
「やい、ゴブリン共! オイラは牛と違って凶暴だから覚悟しておけよ! 馬鹿にしたら許さねー! ケツ叩き百回の刑だぞ!」
 がう、がう。
 ゴブリンが見つかった矢先、『シュガーウルフ』Gaw・Gaw・Lowe(p3p004469)が前へ出て威嚇(?)する。
 フワフワの尻尾と耳が立つその姿に、後ろで見ていたマナはふと友人の何人かを思い浮かべた。
【GORRRBBBB……!】
 ゴブリン達は如何にも相手を馬鹿にしたような表情を浮かべると、それまで食べていた物を放ってイレギュラーズと距離を取ろうとする。
 その動きはゴブリンにしては珍しく、妙に統率というか連携の取れた物に見えただろう。
 だが、それでも遅い。
「やい、ゴブリン共! 私はこっちだぞー!」
 先陣切ってGawに合わせたように威嚇ないし挑発しに行くノースポール。
 後に続いた凱は木々を縫う様に距離を詰める。
 ゴブリンの前衛らしき四体は「なんだあの生意気なのは」と言わんばかりに気を取られていた。
 瞬間、その場にどこからか桃色の煙が漂って来る。
「……?」
 ノースポールめがけ距離を詰めて来る敵を相手に、速やかに蹴散らそうと待機していたアマリリスはその煙を払い除ける。
 ゴブリンの罠とも考えられたが、特に毒気は感じられない。
【GEBBBRA!】
 間合いへ飛び込んできた小鬼達。小癪にも僅かに距離を図ろうとしていた彼等は誘き寄せられてもばらついて全滅を防いだ。
 一呼吸の間を空けて、大きく弧を描いた大剣による一閃は二体のゴブリンを致命的な一撃の下に両断する。
 血飛沫も起きぬ刹那に軸足を入れ替えたアマリリスの髪が、剣が、空を切り裂いて桜色の軌跡を残して一回転する。

【【……ッ……】】

 直後吹き荒れた暴風に伴い、飛散する鮮血と小鬼の体躯はアマリリスに汚れを付ける事も無く辺りに撒き散らされる事となった。
「は、はい? え、今の全力じゃ……」
「わぁ! 流石ですね!」
 妙に調子の良い一撃が出た事に戸惑うアマリリスはノースポールからの称賛を受けて、首を何度も傾げる。
「アマリリスの姉ちゃん、凄いんだなー……!」
「……何だか私も体が軽くなった気がします。何故でしょう?」
「アロマセラピーなんじゃないか? がう」
 仲間を見守っていた後衛のゴブリン達は互いに顔を見合わせ慌てる様子を見せる。
 好機だと見た一同はその勢いで森の中を駆け抜ける、が。そこで思わぬ一投がGawの鼻先を抜けた。
 近場の木にベッシャァア! とエグイ音がなったそれはつい先ほども微かに臭った気がする物体だった。
「今のって……」
 Gawに続こうと足を進めていたノースポールが訝し気に振り向く。
 木にぶち当たったそれにはハエがたかっている。まさか、と彼女は思う。あれはつまりその。
「だ、駄目だああああこの銀凛の騎士!! 淑女がそんなものに塗れるのは見てられない!!!!」
 さっき暴風を生み出していた銀凛の騎士が全力で飛んでノースポールを庇おうとする。
 圧倒的勢いか、ノースポール自身の運が良かったか。手元が狂ったアマリリスにノースポールは半ば吹っ飛ぶように押し倒された事で、直後に飛んできた魔弾(物理)を全弾躱すに至る。
 ばす、ばす。それはもう乾いた干し草と水気を含んだ嫌な音が彼女達を狙って飛んで来ていた。
「あいつら、牛のフン投げてるぞー!?」
 耳を伏せるGaw。
【ゲヒャヒャヒャヒャ!!】
 高笑いするゴブリン。思ったより余裕そうな姿にイラついたのは誰だったか。
 しかし、混迷する状況と共に距離を取る小鬼はすっかり目の前の敵にばかり気を取られていた。
 というわけで牛のフンを乱舞連投暴投していたゴブリンは、速やかに凱の突き入れたドリルによって退場させられた。
「……確かに、体が軽い。妙に甘い、匂いが立ち込めている、これのせいか」
 戦闘開始のタイミングから香っていた匂いに眉を潜める凱。彼には他の仲間よりも鋭い嗅覚がある、それによって大凡の匂いの出処は掴んでいた。
 だが今はそれは関係ない。

 結局。ゴブリン達は一矢報いる間もなく、全滅させられたのだった。

●Chapter.2
 ドラマは『それ』を観察する。
 まるで呼吸をするかのように、新緑の葉を揺らして風を呼び込むその姿。
 小鳥はおろか、葉を啄む虫であろうと枝葉を差し出し、木の実を求める小動物が歩き回っているならば地揺れを伴い実を落とし与える。
 ごく当たり前の自然のサイクル。森の中では珍しくも無い光景。
 だがドラマはそれを信じられぬ物を見る様な目で観察し続けた。
「建物や牛さんを潰したりしないように気を付けてってお願いできそう?」
「可能だとは思います……けど」
「けど?」
 辺りを眺めている焔にドラマは振り返る。
「一度敵対したらどうなるか、想像も……」
 森に生える植物や木々に語りかけ、ドラマは『蠢く森林』についての情報を収集していた。
 その度に彼女は雑音めいたものを感じていたのだが、それもその筈。
 そもそも、今こうして足を踏み込んでいる大地すら相手の領域なのだ。地中に張り巡らされた根、植物へ栄養を与えている存在そのもの。
 どんな能力を備えているにしても、侮って火を射掛ける真似をすれば想定外の死闘を演じる事になっていたのは間違いない。
「『蠢く森林』って、本当に森がモンスターなんだ」
「それよりも早く仕事を終わらせないと……牧場とか二足歩行の牛とかはどうでもいいですが、終わったら依頼完遂を『お兄ちゃん』に褒めて貰ってご褒美貰うんですから!」
「ブレない……」
 謎のフラグが立っている由奈はブレない。
 しかしこうして目の前に脅威がある物を放置するのもまた忍びない話だった。
 ドラマは眼前の大樹へ手を伸ばした。
(私のお話、どうか聞いて下さい)
 語りかけるドラマは目を閉じる。
 通わされる『声』は変わらず雑音に似た曖昧な意思しか感じられないのだが、それが拒絶ではない事はわかっていた。
 彼女が知る由も無い事だが――この活きる森の本質は、精霊の類だったのだ。旅人に持ち込まれた古き森の妖精が発芽し、成長した姿である。
(あの牧場には……)
 これが、もしも意思の疎通に見せかけた謀略の類だったなら即座に戦闘となっていたかもしれない。
 が、これもまた偶然。森の者はドラマにそのつもりがないことを理解した。

「……!」
「む、戦う?」
 ハッと顔を上げたドラマに焔と由奈が構える。
 それに対して彼女は静かに首を振った。
「『彼女』は……ここで静かに過ごしたいだけのようです。
 私達のお願いを聞き入れて貰えました、少なくとも自ら害を与えるような事はしないでしょう」
 ドラマは大樹を見上げる。
 甘い花の香りが、風と共に彼女達を撫でた気がした。

●Chapter.3
 マナは首を傾げた。
「ゴブリンが食べていたあれが普通の牛肉ということは、牧場の珍しい牛さん達もそういうことなのでしょうか……?」
「多が集う、異郷であれば……そんな生き物も居るだろう」
 凱は混沌という世界が有している特異性に慣れた様子で頷く。
「焔さん達も無事に戻って来たし、これで解決でしょうか? 早速報告しに行きましょう!」
 ゴブリン退治から戻って来たノースポール達はそのまま帰路に着いていたドラマ達と合流していた。
 心なしか探索に乗り出す前よりも森の中に吹いている風が気持ちいい。
「じゃあゴブリン退治の報告は任せるよ、ボクは牛さんを見せて貰おうかなぁ」
「では私もお手伝いしましょう。何事もなくて良かった事ですし」
 焔の提案にアマリリスも賛成する。本当に、クソ塗れになっていなくて良かったと彼女は内心胸を撫で下ろしながら。
 どうやら他のメンバーも牧場の牛が気になる様だったらしく。結局報告には凱とノースポールの二人だけで向かう事となった。



 柵に覆われた広い牧場、中心に建っている小屋へ向かう二人と別れた他の者達はそれぞれ半ば自由行動で牛を見に行ったり、周辺の警戒を行っていった。
 それを傍目に見ながらノースポールと凱は小屋の前まで近付いた。
 ……近付いた、瞬間。
「――――」
 ドアをノックしようとしたノースポールが止まる。
 無視してはいけない、そんな声が彼女の中で反響して聞こえて来たのだ。
 加えて、彼女の背後に立つ凱もまた異様な『臭い』を感知して訝し気に目を細める。
 血の臭いだ。
 直ぐに半ば強すぎる力で扉がノックされ、辺りにその音が鳴り響く。
 何か物音が聴こえて来たが、それは直ぐに収まり代わりに慌てた様子で誰かが駆けて来る。
 扉が小さく開かれ、隙間から恐る恐るといった動きで老父が顔を出す。
「ほいほい……おや、お嬢さん。もしかしてもう、あのなんといったかのう」
「ゴブリンの退治、終わりました! 心配されていたモンスターについても解決したし、これでもう安心ですよ!」
 静かに、言葉を選ぶような間を挟んでノースポールは報告する。
 対する老父はそれに曖昧な返事をして、彼女へ礼を述べた。報酬は既に前払いされていた事から、後はギルドへ戻れば彼女達の仕事は終わりとなる。
 だが、しかし。
「この家には、他にも誰か住んでますか?」
 何てことの無い会話を装って、彼女は目の前の小柄な老父へ訊ねた。老父は二度、三度と瞬きをして首を傾げる。
「……誰もおらんよ?」
 にっこりと優しく彼は微笑んだ。

 扉の向こうでドルン、という駆動音が突如鳴る。
 最早言葉も無く、ノースポールが扉を蹴破る。
 鉄板と木材を合わせた扉が砕けた隙間を火花が一閃、彼女の頬を高速回転する鋸(チェーンソー)の刃が掠めた。
「……っ!」
「ほっほ、勘が良いのう」
 曲げていた腰を伸ばした老父の姿はそれまでの姿が演技であったと思い知らされる。長身にして逞しいこのイカレた老父が、か弱い翁なものか。
 後ろへ飛んだノースポールと交差して、老父へ飛び込んだ凱が無言のままに武器を打つ。
 ドリルとチェーンソーが激しい火花を散らし拮抗した所へ鋭い蹴り。老父と凱は互いに吹き飛ばされる。
 何処からともなく鳴り響く駆動音。
 窓ガラスをぶち抜いて参上したのは同じく逞しい体つきを露わにした老婆だった。当然、その手には老父と同じ大型のチェーンソーを携えて。
「お爺さんや、飯はまだかいのう」
「今から喰う所じゃて、ほっほっほ」
 老夫婦は互いにチェーンソーを片手に、ノースポール達へ手招きして挑発する。
「……随分、元気な老人、だな」
「負けられません……絶対に!」
 刹那、両者がぶつかる。
 一方で、彼等の後方にある牧場で嵐が吹き荒れているとも知らずに。



 怪しい――怪しすぎる。
 ノースポール達と別れて数十秒、数頭の牛が胡坐を掻いて焼酎とレモンを割った酒らしき物を飲んで宴会している場面を牛舎で見つけてしまった。
「2足歩行する牛さんなんて、こっちの世界には変わった動物さんがたくさん……」
「二足歩行の牛なんてぜってー怪しいぞ、がう」
「意外と、盗賊から逃げている民という線とか……あるのかもしれませんが」
 焔の感心もバッサリするGawはがう、と既に警戒している。
 アマリリスも言いながら、その手は自身の剣へと向かってしまっているほど。
 正直確信犯とも言えるレベルで怪しさは頂点を記録していたが、そこは正義を司りし天義の騎士。疑心のみで断罪する事は勿論しないのだ。
 というわけで。
「ちょっと見せて貰いましょう!」
 牛舎の扉を開け放ってドラマが満面の笑顔で言い切った。

「「……~~~~!!??」」

 焦る牛達が一斉に四つん這いで干し草の山へ突っ込んで行く。
 なんでここまで怪しい動きが出来るのだろう。Gawは牛を観察して目を光らせる。
 見慣れた材質、背中に見えるファスナー、実はさっき焼酎を煽ってるオッサンが着ぐるみから出てるのをチラッと見えていた事。
「やっぱりどう見ても偽物じゃねーか! 中に入ってるの誰だー! がう!」
「牛さんじゃないの!?」
 今に限り的中率120%を記録する看破が唸る。
 両手をわきわきさせて近付いていたドラマと焔が驚愕して牛達から距離を取る。
「畜生ばれた! 野郎どもやっちまいなぁ!」
 牛の着ぐるみキャップを投げ捨て、正体を現した賊達が一斉に鍬や鎌、斧を手に襲い掛かる。
 いったいそれで何を誤魔化せると思ったのか、しかし賊は慣れた動きでまずはドラマを狙おうとする。
「わっ! 中身は悪い人だったんだ……それなら!」
 そこへ割り込む焔が鍬を弾き返し、鋭い穂先が唸り、おっさん牛を着ぐるみごとボロボロにして吹き飛ばした。
 続くアマリリスが吹き飛ばされた賊へ追撃を仕掛け、Gawの耳がピコンと跳ねる。
 一同の傍を横切って躍り出た由奈が何処からともなく取り出した包丁を構え、縦横無尽に切り刻みながら疾走する……!
「アハハハハハ! これで『お兄ちゃん』に褒めてもらえるんだからー!!」
「ひぃぃ!?」
「ぐぎゃあああ!」

 牛舎の壁を破壊して転がる賊達。由奈のド派手な乱舞に加えてGawの逆再生も浴びた男達は情けないくらい縮み上がり、イレギュラーズに背を向けて逃走を始める。
「逃がしません……!」
 ブックドミネート。彼女の懐から展開し古の魔術が記された頁がバサリと開かれた瞬間、彼女から一直線に嵐の如き暴風が草原に吹き荒れる。
 牧場に男達の悲鳴が響き渡るのだった。

●Chapter.end
「大丈夫ですか? もう安心してくださいね」
 八人の山賊は捕えられ、イカレた老夫婦強盗に捕まっていた若夫婦はノースポール達に助け出された。
 ただのゴブリン退治から思わぬ事件に次ぐ事件に見舞われたこの日。凱の傷を癒しながらマナは「世の中は怖いですね……」と声を震わせていた。
「結局、彼等は何者なんでしょうか?」
「お互いに知らないみたいですよ、片や強盗。片や牛とすり替わって満喫していた山賊らしいです」
 首を傾げるアマリリスにノースポールは捕縛した老夫婦から聞いた事を告げる。
 どうやら偶然、若夫婦が予めゴブリン退治をローレットへ依頼していたらしいが、もしそれが無かったなら彼等は無事では済まなかっただろう。
「本当になんとお礼を言ったらいいか……」
「礼なんていーぞ、がう。それに牛がいなくなって大変だろうし、何かあったらまた手伝いに来るからな」
 Gawは遠目に小屋の外で賊の股間を蹴り上げる由奈を目撃してしまったが、目を逸らす。

 治療を終えたマナとドラマ達は依頼人の夫に新鮮なミルクアイスを所望した。
 勿論牛がいなくなってしまったので駄目だった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

依頼完了……
その後、牧場に牛をまた入れるまで夫婦は向かいの森で採れる幸で食い繋げたようです。

お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
またのご参加をお待ちしております。

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