PandoraPartyProject

シナリオ詳細

不死鳥(仮)を食べよう。或いは、奇妙な贈り物…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●不死鳥を食べよう
「いやぁ……いやぁ……これは、さぁ?」
 イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)の眼前には、真空パックに納められた肉の塊が積み上げられていた。
 それから、金属製の箱に入った無数のひよこ。さきほどから、ちゅっちゅ、ちゅっちゅと喧しいことこの上ない。頬を引き攣らせたイフタフは、肉の塊をあなたの方へと差し出し言った。
「これ、なんでも不死鳥……フェニックスの肉らしいっすよ。嘘か本当か知らないし、送り主も不明っすけど、こっちで処理してほしいそうっす」
 右手に肉塊、左手には手紙が握られている。
「なんでも酸素に触れると発火して、再生を始めるらしいっす。それから、強火も駄目っすね。あっという間に再生しちゃうそうなんで。生食は……鳥肉っすからね。ちょっと怖いかも」
 食用を前提とした物言いだが、調理に際してのハードルが高い。
 そもそも、不死鳥の肉(仮)などという奇怪極まる食材で、送り主も不明となれば……信用できる要素が1つも無いではないか。
「再生したらどうなるかは、まぁ……そこのひよこなんでしょうね。説明書きによると名前は“ふぇにっくちゅ”。肉片から再生した不死鳥の幼体だとか」
 聞けば聞くほど奇妙な話だ。
 ちなみに、ふぇにっくちゅの嘴は熱い。例えるなら、煙草の火ぐらいの温度だ。
 試しにあなたは、金属箱の中へと腕を突き入れた。
 ひよこたちは、あなたの腕を餌か何かと思っているのか。つん、と嘴で突いてみせる。瞬間、じゅう、と肉の焦げる音がした。
「……放置しておいても、きっと碌なことにならないんで、皆さんにお任せするっすよ。食べるも良し、再生させてどこかに逃がしてくるのも良し。まぁ、いいようにしてください」
 困ったような顔をして、イフタフは小さな溜め息を零す。
 彼女の苦悩などいざ知らず、ふぇにっくちゅたちは、ちゅっちゅ、ちゅっちゅと鳴いていた。

GMコメント

●ミッション
不死鳥の肉(仮)を処分する

●渡されたもの
・不死鳥(仮)の肉
真空パックに小分けにされた不死鳥の肉。
一見すると鶏肉に似ている。
酸素に触れると発火し、再生する。
火を入れると発火し、再生する。
再生速度は火力の強さに比例する。

・ふぇにっくちゅ
不死鳥(仮)の幼体
20羽ほどいる。
見た目はひよこに似ている。
嘴は赤熱している。煙草の火ぐらいの温度。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】イフタフに呼ばれて来た
イフタフの依頼を受けて集まりました。肉とひよこの処分に積極的です。食べるか逃がすかは、お任せします。

【2】偶然、通りかかった
偶然、近くを通りかかって呼び止められました。成り行きで肉の処分を手伝うことになりました。得体の知れない肉とひよこに困惑気味です。

【3】助けを求める声が聞こえた
誰かが助けを求める声が聞こえました。誰の声でしょう。イフタフでしょうか? 他の参加者たちでしょうか? それとも、不死鳥(仮)でしょうか?


不死鳥(仮)をどうしよう?
不死鳥(仮)の肉と、ふぇにっくちゅを押し付けられました。どうしましょうね、これ……。

【1】実食を試みる
主に肉の処分を担当します。焼くなり、煮るなり、生のままいくなり、不死鳥(仮)の実食を試みます。

【2】ひよこを逃がす
不死鳥(仮)の肉を再生させ、ひよこたちを逃がすために行動します。町の中で逃がすとえらいことになりますので、逃がす場所には気を付けましょう。

【3】不死鳥(仮)との交流を試みる
相手は生き物です。話せば分かります。そんな風な考えのもと、不死鳥(仮)の肉や、ひよことの交流を試みます。遊ぶとか、対話するとか、そういうのです。

  • 不死鳥(仮)を食べよう。或いは、奇妙な贈り物…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年04月07日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人

リプレイ

●不死鳥(仮)
 鳴いている。
 ひよこが鳴いている。
 ひよこたちが鳴いている。

 ちゅちゅちゅちゅ♪

 ちゅっちゅ、ちゅっちゅ、ちゅっちゅ、ちゅっちゅ♪
 ちゅちゅちゅ♪
 ちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅ♪

 ちゅちゅっ! ちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅ! ちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅひよこちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅふぇにっくちゅちゅちゅちゅちゅふぇにっくちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅ♪ちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅふぇにっくちゅちゅちゅちゅちゅちふぇにっくちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅふぇにっくちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅ♪

「だぁぁ! うるせぇ……っ!?」
「耳がぁなのだわ! 耳がぁなのだわぁー!!」
 ひよこ……否、不死鳥(仮)の幼体、ふぇにっくちゅに群がられるのは、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)と『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)の2人だ。
「熱っ!? おい、突くんじゃねぇ」
「翼が燃えるのだわ! 燃えてしまうのだわ!」
 見た目はひよこ、頭脳もひよこ。
 しかし、ふぇにっくちゅは不死鳥(仮)の幼体だ。それゆえか、ふぇにっくちゅたちの嘴は熱い。煙草の先端ぐらいの温度で、大怪我には程遠いがちょっと火傷程度はする。
「わー! 2人ともごめん! すぐに調理しなかったせいでこんなことに!」
「やはり湯煎ですの。湯煎がすべてを解決しますの」
 最初は20匹程度だったふぇにっくちゅも、今では50匹を超えている。その原因は、どうやら『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)と『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)にあるようだ。
 不死鳥(仮)の肉は蘇生する。
 酸素に触れることで発火し、ふぇにっくちゅへと姿を変えるのである。
 実際、2人は手早く調理をしようとしたはずだ。だが、間に合わなかった。真空パックを開封して、数十秒も経たないうちに不死鳥(仮)の肉は発火し、ふぇにっくちゅへと姿を変えた。

 潮風に髪を靡かせながら、『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)は少し離れた場所から喧噪を眺めていた。
「よぉ、アンタもか?」
 メイメイの背後から、男性の声が投げかけられた。
 振り返ってみれば、そこにいたのは赤い猛禽……否、『有翼の捕食者』カイト・シャルラハ(p3p000684)である。
 カイトはその場にしゃがみ込むと、地面の方へ手を差し向ける。
 そこにいたのは、ひっそりと喧噪から離れ、どこかへ逃げて行こうとしているふぁにっくちゅである。
「ぴいぴい!」
 ちゅちゅちゅ♪
 カイトの呼びかけに応じるように、ふぁにっくちゅが鳴いている。
「可能なら育てたいな。かわいいよな、雛」
「はい。それに“助けて”と声が聞こえれば気になってしまいます」
 カイトの真似をして、メイメイもその場に腰を下ろした。そっと手を伸ばし、指の先でふぇにっくちゅの頭を撫でる。
 うっとりと目を細めるふぁにっくちゅを撫でながら、メイメイは問うた。
「ところで……もしかして、あなたさまがふぇにっくちゅさまたちの保護者なのでしょうか?」
「……いや?」
「?」
「なんで首傾げてんだ……俺、鷹だしよ。いや、不死鳥に憧れはあるけどさ」
 なお、正しくは不死鳥(仮)である。

●ある晴れた日のふぇにっくちゅ
 船体は海に似た青色。
 船首に飾られるは、威風堂々としたウィーディーシードラゴンの像である。
 名を『蒼海龍王』。
 縁の駆る小型船である。
「カイト! ひよこたちを船に積み込んでくれ! 日が暮れないうちに、無人島に運んじまおう!」
 甲板から岸へとタラップをかけ、縁は声を張り上げる。
 岸ではカイトが、好き勝手に歩き回っているふぇにっくちゅをどうにか捕まえようと必死になっていた。
「応よ! よし、怖くない、怖くないぞ。ぴいぴい! ぴいぴい!」
 カイトがそっと手を伸ばす。
 ふぇにっくちゅが、赤熱した嘴でカイトの手の平を突いた。
 じゅう、と肉の焼ける音。
 だが、多少の熱で臆するようなカイトではない。
「なんだ? どうした? 腹減ったか?」
「ちゅちゅ! ちゅちゅ!」
 どうやらふぇにっくちゅたちは空腹を訴えているらしい。
 それもそのはず、つい暫く前までふぇにっくちゅたちは真空パックに詰め込まれていた肉だったのだ。当然、肉の間は何も口にしていない。
 再生直後でエネルギーを消費したということもあるだろう。
 腹が空いていても、何ら不思議ではない。
 そもそも、肉がひよこに変わるという状況が不思議極まるという話は、一旦、脇に置いておくとして……。
「だから俺は餌じゃねえ!!!」
 腕を突くふぇにっくちゅを、そっと手の平で掬い上げ、耐熱加工が施されている箱の中へと放り込む。
「……なぁ、縁よぉ」
 ふぇにっくちゅを捕獲する手をピタリと止めて、カイトは縁の方を見やった。
「育てちゃ駄目か?」
「……知るか。少なくとも、船の上では自由にさせないでくれよ」
 超高温というほどではないにせよ、ふぁにっくちゅの嘴はそれなりの熱を持っている。一たび、船に火が付けば大惨事は免れないのだ。
 
 縁の船が出航していく。
 それを黙って見送りながら、ノリアと史之は積み上げられた肉の山へと目を向けた。
 度重なる調理の失敗により、真空パックの数は半分ほどにまで減っている。
 なお、調理失敗=ふぇにっくちゅの誕生である。
「やっぱこーゆーのは刺身じゃね? あるいはたたきにして卵黄とマゼマゼしてさ」
「ですが酸素に触れると発火してしまいますの。ここは湯煎! 高圧高温で湯煎しますの!」
 史之の手には包丁が、ノリアの手には熱水噴出杖が握られている。
 不死鳥(仮)の見た目は、鶏の肉によく似ている。ならば、刺身にしても食べられるはずと、史之はそう考えたのである。
 よほど胃の強さに自信があると見える。
「……ところでノリアさん。尻尾、突かれてるけど?」
 史之が視線を足元へ落とす。
 ノリアの半透明の尻尾を、ふぇにっくちゅが突いていた。嘴を少し押し付けて、しっかり火を通してから啄んでいるのだ。
 尻尾を啄まれながら、ノリアは目を閉じ、頷いた。
「そう……わたしもしっぽを食べられてしまってもいいように、この肉を食べて再生能力を強めてやりますの!」
 所詮、この世は弱肉強食。
 弱ければ死に、強ければ生きる。
 それが自然の摂理にして、ただ1つだけの絶対的な法である。きっと遥かな昔から、生物がこの世に生まれて以来、数千年、数億年もの間、不変であり続けたルールがそれだ。
「え? 不死鳥って、食ったら不死になるとかあるの? もしそうなら妻さんとふたりで食べるのになあ」
「いえ……どうでしょう? 不老不死なら人魚のお肉が有名ですの」
「……人魚」
 史之の視線はノリアの尻尾に向けられている。
 つるんとしたゼラチン質の尻尾だ。
 史之がよく食べる海や川の魚に比べると、少々、歯ごたえはよく無さそうな感はある。だが、ゼリーのようなものと思えばどうだろう? 深海の魚は、そう言えば食べたことは無い。何でも海の深いところには、ノリアのように透明な体をした魚が生息しているというではないか。
「ノリアさん、刺身ってどう思う?」
「……あれ? もしかして、わたしを食べようとしていますの? 食べないでほしいですの!」
 跳びはねるようにして、ノリアは少し、史之から距離を取ったのだった。

 メイメイの小さな手の平の上に、1羽のひよこが乗っていた。
 先ほどまで、ノリアの尻尾を啄んでいたふぇにっくちゅである。尻尾を食べて、空腹が満たされたのだろう。気持ちよさそうに目を閉じて、すぴーと微かな寝息を立てているではないか。
「めぇ……かわいい、です」
「よく食べて、よく寝て、すくすく大きくなるのだわ」
 幸せそうなふぇにっくちゅを見つめ、メイメイと華蓮は微笑んだ。
 眠っているふぁにっくちゅを起さないよう、ちゃんと声は密やかに。
「ごめん。また1羽追加だ。再生しちゃった」
 調理場から少し離れた場所にいる、メイメイと華蓮の元に史之がやって来た。史之の手には、きょとんとした顔をしているふぇにっくちゅが収まっている。
 史之の手から、ふぇにっくちゅを受け取って華蓮はくすりと笑って見せた。今更1羽増えたところで、何の問題も無いからだ。
 調理に戻る史之の背中を見送って、華蓮はパチンと指を弾いた。
 バタバタと大きな羽音がして、その肩に1羽の鴉が止まる。
「ちゅちゅちゅ?」
 見慣れぬ鳥だ。
 首を傾げるふぁにっくちゅの方へ、華蓮の鴉が嘴を寄せた。
「仲良くなれたら良いだわね」
「きっとなれます。鴉さまも、わたしたちも」
 人と人は分かり合えない。
 2人以上が集まれば、争い始めるのが人だ。
 だが、人と不死鳥(仮)はそうじゃない。人と不死鳥(仮)は、きっと分かり合えるはずだ。今は難しいかもしれない。言葉の壁は厚いかも知れない。
 けれど、しかし……。
「なれます、きっと……めぇ」
 熱い嘴を指の先でちょんと触って、メイメイは笑う。
 だって、こんなに温かい。
 だって、こんなに可愛らしい。
 ふぁにっくちゅの声は、確かにメイメイや華蓮の耳に、心に届いたではないか。助けを求める声はたしかに聞こえたではないか。
 ふぇにっくちゅと過ごす穏やかな午後は、こうして過ぎ去っていく。

 チャンスとは、そう何度もめぐって来るものではないのだ。
「準備はいいですの? 勝負は一瞬、ですの」
「あぁ、醤油はこの通り、用意してるよ」
 ノリアと史之の目の前には、湯煎にかけられている不死鳥(仮)の肉がある。
 真空パックに入れられたまま、高温で調理されたのだ。
 ノリアの持つ熱水噴出杖が火を……否、湯を噴いたのである。
 湯煎した時間はおよそ1分。
 ほんのりとピンクを残した肉の色。
 食べごろである。
「では……実食ですの」
 深く頷き、史之は数歩、後ろへ下がる。
 腰を落として、刀の柄を握った。
 鯉口を僅かに斬って、視線を空へ。焦点は定めず、視界に入る全てを広く見るように。
 そよぐ風を、潮騒の音を、遠くで聞こえる人の声を……すべてを体全部で感じ取るかのように。
「行きますの!」
 真空パックの端を摘んで、ノリアはそれを虚空へ投げた。
 くるくると回転しながら、真空パックが宙を舞う。
「疾っ!」
 しゃらん、と鞘の内側を刃が滑る音がした。
 閃く銀光。
 史之が刀を何度も振るう。
 真空パックが切り裂かれた。
 肉がまずは2つへ断たれる。
 さらに一閃。
 4つ。
 一閃。
 6つ。
 スライスされた薄い肉が、ノリアの手にした皿の上へと振って来る。
 そうして、8つに斬り下ろされた不死鳥(仮)の肉を、ノリアは素早くテーブルへ置いた。
「今だ! いただきます!」
「いただきますですの!」
 食前に“いただきます”は欠かせない。
 これもまた、人が生涯守り抜くべき法の1つだ。
 ノリアがフォークを手に取った。
 史之は刀を箸へと持ち替え、疾駆する。
 食うのだ。
 不死鳥(仮)を。
 今、この時!
 迅速に!
 速くなければ、不死鳥(仮)は食えない!

 港から、暫く離れた無人島。
 だが、海岸には数人の人影がある。
「ありゃあ……海賊か?」
 操舵輪を握ったまま、縁はそう呟いた。
「あん? 海賊だと?」
 縁の声が耳に届いたのだろう。
 ふぇにっくちゅと遊んでいたカイトが、剣呑な視線を海岸へ向けた。海賊たちも、縁たちに気付いたのだろう。慌ただしく、武器を手に取り大砲などを運んでいるのが見て取れた。
「ちっ……目ぇ付けられたな」
「構わねぇよ、やっちまおう。ふぇにっくちゅ達が暮らす島に、海賊なんざいちゃいけねぇ」
 ふぇにっくちゅを箱へと戻し、カイトは槍を手に取った。
 それから赤い翼を広げる。
 雄々しきカイトの姿に感銘を受けたのだろう。ふぇにっくちゅ達が、我先にと翼を広げて、鳴いていた。
 一緒に戦うと、そう言っているかのようである。
「応援しててくれ。なに、何も心配はいらねぇよ」
「あぁ、見たところ10人程度だ。あっという間に片づけてやるよ」
 錨を降ろし、縁は甲板の端に足をかける。
 そして、海へと跳び込んだ。
 空からカイトが。
 海からは縁が。
 海賊たちの命運は、この時、定まったのである。

●さらば、ふぇにっくちゅ
 海岸に、海賊たちが転がっている。
 息はある。
 だが、縄で縛られたりはしていない。
 必要ないからだ。
 打撲、骨折、その他大小の裂傷を負った海賊たちがまともに動けるようになるまで、数日の時が必要だろう。
「さぁ、行きな……大きくなって、まだ俺のことを覚えていたら、会いに来てくれよ」
 砂浜にふぇにっくちゅ達を放ちながら、カイトは言った。
 笑顔だ。
 少しだけ寂しそうな、そんな笑顔だ。
「達者でな。大きく育てよ」
 1羽、2羽とふぇにっくちゅ達は去っていく。
 縁とカイトは、そんなふぇにっくちゅ達を見送っていた。
 男の別れだ。
 涙はいらない。
 涙の1つも、あってはいけない。
「その内不死鳥の島になるかもしれねぇな」
 最後に1羽が見えなくなって、縁は呟く。
「そうなるといいな……あぁ、いけねぇ。雨が降ってきやがった」
 空へ視線を向けながら、カイトはそう呟いた。
 その頬を、1粒の水滴が伝う。
 どこまでも青く、広い空だ。
 雲なんてどこにも見当たらない。
 
 茜色に染まる坂を、2人の少女が歩いていた。
 メイメイと華蓮の腕の中には、それぞれ1羽のふぇにっくちゅが抱えられている。
 海洋の港町から少し離れた山である。
「海辺や岩山なら、安全に暮らしていけそうでしょうか」
 人の少ない岩山だ。
 生息しているのは、虫や小鳥、それからトカゲ、そしてエアライン・アイベックスというやたらとよく跳ぶ山羊ばかり。
 過酷な土地だ。
 それゆえか、海洋の住人はあまりこの岩山へ足を運ばない。
 すっかり人の里から離れた山の途中、少しの緑が目立つ区画でメイメイと華蓮は足を止める。それから、2人は岩の上に腰を下ろした。
「さぁ、着きましたよ……めぇ」
 そっと、メイメイは足元へふぇにっくちゅを降ろす。
 ふぁにっくちゅは、きょろきょろと周囲を見回した後、メイメイの足首にそっと寄り添った。
 温かさを求めているのか。
 それとも、見知らぬ土地が怖ろしいのかもしれない。
 見れば華蓮の方も同じ様子であった。
「……めぇ」
 困ったようにメイメイは眉をハの字に下げた。
 懐いてくれるふぇにっくちゅを、無理矢理に追いやることが出来ないでいるのだ。
 時間ばかりが過ぎていく。
「ねぇ……」
 やがて、華蓮が言葉を吐いた。
「……将来のファミリアとして連れて帰ったらまずいのかしら?」
 そっと、足元のふぇにっくちゅを華蓮は両手で掬い上げた。
 ちゅちゅ、ちゅちゅ♪
 母に甘えるようにして、ふぇにっくちゅは華蓮の手の平に頭をこすり付けている。
「めぇ……一緒に行ってみます、か?」
 メイメイも、ふぇにっくちゅを掬う。
 目を丸くしているふぇにっくちゅへ、そう問うた。
「ちゅちゅ♪ ちゅちゅ♪」
 ふぁにっくちゅは、嬉しそうに鳴いていた。

 同時刻。
 海洋港のとある酒場で、2人の女性が対峙していた。
 1人はイフタフ。
 もう1人は、青と白の髪をした眼鏡をかけた女性である。
「つまり、不死鳥(仮)を送り付けて来たのはあなた……ジェーン・ドゥさんってことで間違いないっすね?」
「えぇ。そう言うことになるわね。詳細は伏せるけど、ボスから“困ったならイレギュラーズに頼むといい”って話を聞いていたからね。あぁ、鴇の奴もそんな風に言っていたかしら」
 酒のグラスを傾けながら、ジェーン・ドゥはくっくと笑う。
 イフタフは、まるで苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「ついでに“お人好しだから、いいように動いてくれるはず”……なんて風に言ってなかったっすかね?」
「どうかしら。頼りになる連中だとは聞いているわね」
 互いに言葉を選びながら、腹の底を探るみたいなやり取りだ。
「詳しい話は伏せるけど、借金のかたに巻き上げたのよ。でも、どうしようもないじゃない?」
「……体よく押し付けられたんじゃないっすか?」
 イフタフの、慌ただしくも奇妙なある休日は、こんな風にして過ぎていく。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
不死鳥(仮)の肉は、無事に消費されました。
依頼は成功となります。

この度は、ご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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