シナリオ詳細
<カマルへの道程>月に響けよ、嘆きの唄よ
オープニング
●砂漠のドリアード
空に描くは真円の月。
月明かりは妖しく空を照らし、砂漠の夜を暴き立てる。
聞こえてくるのは廃棄された物達の息遣い、足の音、或いは鳴くような音色であろうか。
ふと、新しい影が湧いた。
転移陣の向こう側より足を踏み入ったのは、1人の女。
天に輝く月のような黄金の髪を風に躍らせ、女は笑みをこぼす。
「随分と面白い収穫があったわ。こんな小さなもので、ただの樹で出来た魔物が強くなるだなんて」
血濡れた手を月に伸ばすように、月明かりで『それ』を照らした。
血で汚れた『それ』は植物の種。
植物に詳しい者が見れば、ユリ科のものであろうと察せるだろうか。
「あそこに残された資料によれば、魔種の実験成果出そうね。
ふふふ、面白いモノを作るわ」
「メリ、ザ、ン……ド、様……ぁ?」
そんな女の声に吊られるように、ふらふらと姿を見せた幻想種と思しき何か――偽命体だろうか。
「うるさい」
そんな一言と共に女が手を振るえば、血の槍が偽命体を貫いた。
その次の瞬間、偽命体は瞬く間に血を失って崩れ落ちた。
「……不味っ、これだから失敗品は」
舌打ち1つ。
「あぁ、でもそうだわ、試しにこれに突っ込んでみようかしら」
にやりと女は笑い、崩れ落ちた偽命体、その心臓辺りへ種を植え付けた。
刹那の内に偽命体が身体を再生、変質をきたして木のような形を取っていく。
「う~ん? ドリアード……っぽいものができたわね。
ふふ、貴女の名前はサン・ドリアードよ?」
「ァァァァア!!!!」
痛みか肯定の類か、それが雄叫びをあげた。
花を咲かせた髪を振り乱せば、ふわりと花の香りが振り乱される。
風に乗った花の香りに導かれるように、少しずつ晶獣たちが動き出した。
●魔女の遺産
「……なんだよ、これ」
砂漠に埋もれつつあった名も無き遺跡の中で、青年の呟きが漏れる。
ハイライトの薄いぼんやりとした瞳を瞠る先、遺跡のそこら中に散らばる黒ずんだ飛沫。
「僕よりも先に、此処に着た奴がいる……だけじゃない。
遺跡の景色が、元に戻ってる……核が奪われた? いや……もっと拙い」
周囲を見渡した青年はやがてある一点に視線を向ける。
壁に輝くは1つの陣。
それの正体を青年は知らないが――イレギュラーズ達は知って居よう。
明けぬ夜の王国、吸血鬼(ヴァンピーア)と名乗る者達の根拠地――月の王国と呼ばれる場所へと至る転移陣。
「1人で行くのはどう考えても得策じゃないだろうね……ローレットなら、なにか」
小さな呟きを残して、青年はくるりと身を翻す。
●
「僕はノエル、魔術師だ。僕と一緒に月の王国に来てくれないか」
くすんだ黒髪の青年――ノエルがぼんやりとしたくすんだ瞳で言う。
「僕の師匠は魔種だった。複雑な過去がある人だった。
彼女はきみ達の手で眠ることが出来たんだけど……
実は、師匠の研究成果の一部が向こうに持っていかれたみたいなんだ」
「魔種の研究成果の一部が?」
「うん……危険性はほとんどない……はず。
精々、埋め込まれたら身体能力が強化される程度だと思う。
それでも、連中にそれを利用されるのは……気に食わない」
驚いた様子を見せた君達にノエルは小さく頷いてから語る。
拳を握り締め、悔しささえ見えた。
「皆さん、手伝ってもらえませんか?」
そういうのはノエルの隣に立つユニスだ。
そのまま彼女は此方に近づいてからこちらへ小声で語り始める。
「……今のノエルは、少しだけ怒っているみたいなんです。
ノエルにとって、フライア――彼の師匠は、魔種であっても師匠です。
やっと眠れた彼女の遺産を盗まれた挙句、勝手に使われるのが耐えられないらしくて……
ノエルが無理しないように見てあげてください」
どこか心配そうにノエルを見た後、こちらに申し訳なさそうにユニスが頭を下げた。
- <カマルへの道程>月に響けよ、嘆きの唄よ完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年04月14日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
細工めいて真円を描いた月はその輝きを些かも変えていない。
花の香りに導かれるようにしてイレギュラーズが足を踏み込んだ場所には、樹木を思わせる何かと金髪紅眼の女が1人。
「……不愉快だよ。なんだそれは」
(確かに放っておいたら1人でも乗り込んでいきそうだな……)
ノエルが舌打ちと共に吐き捨てるのを耳に入れて、『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は改めて思う。
「気を付けろよ。拉致されちゃかなわないからな」
「……うん、ありがとう」
少しの沈黙の後、呑み込むようにノエルが頷くのを見て、ラダは銃口を辺りに散らばる晶獣側に向けた。
獣の唸り声が、鳥の鳴き声が、蜥蜴の這いずる音が耳に入ってくる。
(何をするにせよ数が多すぎる……)
烙印の影響は肉体を蝕み、少しばかり水晶のような硬質化を始めていた。
(ノエルの気持ち、よくわかるわ。アタシにも師匠がいるもの。
魔種になっても、もう亡くなっていても、弟子にとって師匠はずっと特別な存在。
そんな人が遺したものを勝手に使われるのは、いい気はしないわよね)
内心でそう思いつつ、『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)はノエルの方を見て、今度は目的の女の方を向いた。
「ハァイ、こんばんは。ノエルの師匠の遺産を盗んだのは、アンタたちね?」
「盗んだ? 失礼ね。せっかくの研究成果なら、埋もれているのもかわいそうではないかしら?」
ジルーシャの言葉に、吸血鬼が少しばかり不快感を滲ませて言う。
「────麗しきヴァンパイアハンターこと、一条夢心地……見・参!」
赤い文字で見・参!と描かれた白い扇子をパサッと広げてポーズを決めたのは『殿』一条 夢心地(p3p008344)である。
「わらわらと晶獣を引き連れてきたようじゃが、全て無駄よ。
吸血鬼退治のプロである麿が来たからには、ガチで覚悟決めた方が良いぞよ。
なーーーっはっはっは!」
月の王国に反響せんばかりの笑い声をあげる夢心地。
「吸血鬼退治のプロ……ですって?」
愕然とした様子を見せるメリザンド。
それは驚きなのか、殿の髷を形作る烙印の花を見やるが故か。
「え、な、え??」
「麿の美しさに理解が及ばぬか」
もう1つポーズを決めたかと思えば、そのままストン、と感情を殺す。
「あの金髪のチャンネーには近寄らず、晶獣の数を減らすように頼むぞよ」
そのままくるりと視線を向けた先にで、こちらも驚いた様子の2人へと指示を出してやれば、そのまますらりと愛刀を抜きはらう。
「大事に思ってた人の成果を奪われて使われるのは腹立ちますよね。
なんで吸血鬼がそれを見つけたのか、知っていたのか疑問ですが……
ぶつけてみたら答えてくれるのでしょうか?」
手鏡を片手に首をかしげるのは『君の盾』水月・鏡禍(p3p008354)であった。
「別に、偶然よ? 適当な転移陣を抜けたら辿り着いた遺跡に、変なものがあっただけ。
ちょうど、持ち主も死んでしまったのなら、貰ってもいいでしょう?」
鏡禍の言葉に、心底不思議そうに吸血鬼が首をかしげる。
「盗人猛々しいと言うが、こういう輩も場合はそれを悪だとも思っていないのだろうな」
メリザンドの様子に『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)は思わず口に漏らす。
「ふふふ、失礼な人ね。でも、もしそうだとして、どうするというのかしら?」
「思いを踏みにじる輩だ、遠慮なく討伐に踏み切れるということだ」
「く、くふ、ふふふ!」
真っすぐに答えたマッダラーに、メリザンドが笑う。
「前は任せた、鏡禍くん。こっちの2人は俺が守り切ろう。
2人とも、あまり離れるなよ」
「分かりました」
こくりと頷いた鏡禍に続けて、ユニスとノエルも頷いてくれる。
「美味しく血を飲むためだか仲間を増やすのか、それとも別の何か……
あなたが何を目的にしてるか知らないけど、
アタシ達から見て色んなものを『悪用』するのであれば全力で止めさせてもらうよ」
真っすぐにメリザンドを見据えて『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)は言う。
「出来るものなら、やってみればいいわ?」
うっとりと笑む吸血鬼は、まるでこちらを気にしちゃいないようだった。
「魔種の研究内容には興味ないデスガ吸血鬼に盗まれて真っ当な使われ方はしなさそうデス」
ドリアードの方を見て『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)はぽつりと呟いた。
●
「では始めようか――泥人形の戦い方をみせてやろう」
マッダラーは近づいてくる晶獣たちを見据えるや魔力を高めていく。
泥人形の放つ独特な魔力は痛みこそない物の迫りくる獣たちの意識をマッダラーへと集中させていく。
「おいそれと2人に手出しはさせんぞ、晶獣ども」
そう言うマッダラーに応じるように、2人が自分の技を駆使して攻撃を仕掛けていく。
「どうもその人の血、美味しくなかったみたいだけど、それにしても食べ方が汚いんじゃない?
それとも何? アタシの血でも飲んでみる?
『色々と汚い人』って一体どう言う思考回路してんのか、アタシ自身知りたいんだよね」
圧倒的な速度を以って駆け抜けた咲良は飛び掛かると共に蹴りを打つ。
美しき軌跡を描いて伸びた脚は動いたメリザンドの手で受け止められていた。
「出会いがしら相手を罵倒する小娘の思考回路も知りたいところね?」
挑発に反応を見せたメリザンドの目は咲良を射抜いている。
最速で飛び出した咲良に続くように、鏡禍が動く。
持っていた手鏡をくるりと数多の晶獣がいる方角へ向ければ、鏡は薄紫色の陽気を放つ。
「さぁ、こちらへ。一人きりは心細いでしょう」
妖の囁き、嫌な予感を覚えつつも引き返すことの出来ぬ――そんな感覚は獣の本能を刺激する。
警戒が怒りを生み、雄叫びが戦場に響いた。
「長くはかけられない、一気に行くぞ」
その反応を見た刹那、ラダは引き金を弾いた。
砂漠の砂嵐を思わせる強烈なる銃弾の暴威。
ラダの持つ圧倒的なセンスを以って紡がれる銃弾の弾幕は数多の獲物を喰らい潰していく。
「見よ! これぞ、夢心地ビーム!」
そんな言葉と共に、夢心地はレーザーを打ち出した。
多数の晶獣とついでに巻き込めそうな位置にいたメリザンドが直線を貫くレーザーに巻き込まれて体勢を崩す。
(吸血鬼連中は大抵が調子ぶっこいてる性質ゆえ、初手から圧をかけ、思い通りにさせぬことが肝要よな)
貫く一撃は守りに入ったメリザンドの障壁を貫通して痛撃を撃ち抜き、花弁が戦場に散りばめられていく。
「ずいぶんな趣味ですね吸血鬼。あまりにも雑だと、貴方の創るものは思いますよ?」
やや遅れてメリザンドへ肉薄したのは『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)だった。
自嘲気味にも聞こえる声色は、どうにもかつての自身が為してきたことを思えばこそ。
死血の魔女が振るう血の大鎌と吸血鬼の振るう血の槍は激しい競り合いを見せた。
「たしかにね、ぱっと思いついて作ったもの。ちょっとだけ雑だったかしらね」
どちらからともなく相手の武器を跳ね上げ、半歩後退すれば。
「……メリザンド。貴方が最期に踊る相手はこの死血の魔女です。
奪ってあげますよ。こちらが、貴方の血の全てを」
「へ――ぇ? 面白いわね。魔女さん、なら、喰らいあいましょうか!
その顔に浮かぶ、綺麗な烙印が私達を同胞にしてくれるかもしれないものね」
ふわりと薙いだ槍がマリエッタの髪を払う。
銀とも白ともいえる髪が月の夜に舞い、チッ――と飛んだ血は花弁になって砂漠に舞う。
「晶獣ども、この砂漠全てがお前たちの敵と知れ」
少しずつ迫りくる晶獣たちを見つつ、マッダラーは魔力を通す。
それは熱砂の精霊が紡ぐ嵐はラサのそれを思わせる執拗に晶獣たちへと絡みついていく。
それに合わせて、ノエルが、ユニスが各々の武器を用いて晶獣めがけての攻撃を開始する。
「目を閉じても無駄。耳を塞いでも無駄。
香りから逃れるには、息を止め続けるしかない。
それができないなら、より強い香りで覆え――アタシの師匠の教えよ」
微笑みすら零して、ジルーシャは竪琴を奏でる。
澄み渡った思考で紡がれる優しい音色、風に揺蕩うは甘く深みのある香り。
「アァァァアア!!!!」
肌に触れた熱に、ドリアードが絶叫をあげる。
刹那の瞬間、根っこのようになったその両手を槍のようにして出鱈目に撃つ出していく。
しかしそれはジルーシャに傷をつける事はない。
事前に張り巡らされた障壁は鋭い連撃を無に帰してみせる。
動き出した晶獣たちを横目に、アオゾラはドリアード目掛けて肉薄する。
呪剣を手に、振り抜いて見せれば、鮮やかな剣閃はドリアードを打ち据える。
しかしその真意は剣による攻撃に非ず。
「さぁ、貴方の憎いのはダァレ?」
攻め立てた己へと生じるはずの小さな敵愾心を煽るための工作。
「ァァァァアア!!!!」
その証拠とばかりに、ドリアードの絶叫が轟いた。
●
晶獣との戦いは終わりに近づきつつあった。
「終わらず、止まらず、巡り続ける血の魔術。見せてあげましょう」
マリエッタはヘリオドールの瞳を細め、静かに血の鎌を振るう。
尽きることのない魔力、循環する血は疑似的な不死性を齎すもの。
死血の魔女は今のマリエッタを見てどう思うのか。
「貴女の血は不思議ね。美しくもあり、悍ましくもあり、儚くもある。
まるで2つの血が流れているみたいだわ」
跳ねるように槍を打ち出したメリザンドの一撃を受け止めれば、そんな言葉が耳に届いた。
晶獣たちの討伐が終わるや、マッダラーは一気に前へと躍り出る。
「ここからは俺が相手になろう。咲良くん、マリエッタ殿、2人は下がって休むといい」
それだけ告げて、マッダラーは術式を発動する。
死ぬこと無き泥人形は己の持つ規格外さを魔力に束ねて振り下ろす。
「あなたの言う『成功作』って一体なんなの?
もしそれがみんなを傷つけるものなら、アタシだって正義の味方として手加減しないよ!」
一つ呼吸を入れ、全霊を以って咲良はメリザンドへと攻めかかっていく。
圧倒的な速度から繰り出した重戦車の如き進撃の連撃が終わる頃、その身には僅かなれど体力を回復している。
「何の話をしてるのかしら小娘。あぁ――もしかして、アレの事?
偽命体は『博士』の研究の果てに生まれた失敗作、人造生命の成り損ない。
偽命体とは、命にすらなれなかった失敗作の欠陥品、短命で崩れ落ちる不揃い品よね?」
咲良の詰問にメリザンドが不思議そうに首を傾げた。
鏡禍は自らの妖力を掌に集束させていく。
銀の水鏡が芯として構築されたのは薄紫の霧が可視化したかのような一本の剣。
そのままメリザンド目掛けて肉薄すれば、一閃。
「ここからは僕もお相手しますよ」
霧散した妖力は輝きとなって鏡禍の身体を包み込む。
「不思議な力を使うのね、ただの人間……ではないようにも見えるわよ?」
「擦って見れば分かるのではないですか? 出来るものなら」
跳ねた一撃を受け止めながら、鏡禍は真っすぐに敵を見据えていた。
「死血の魔女、貴女は何を求めて鮮血を振るうのかしら?」
せめぎあいの合間、マリエッタは逆にそう問われた。
「人の死を奪い、血を奪い、生を奪い、その果てに何をするために、鮮血を振るうの?」
マリエッタは血の鎌を振り抜くと同時、衝撃でメリザンドを吹き飛ばす。
(……落ち着いて、そう、落ち着いて。冷静になりましょう)
「貴女の受けた烙印の進行はきっと根深いモノね。
――ふふ、いつまで『人』の姿でいられるのかしら」
吹き飛ばした吸血鬼がそう笑う声がした。
「う、うっと、お、し、い……!」
ドリアードが声をふろわせて叫ぶのをアオゾラは聞いた。
晶獣が倒され、イレギュラーズの多くがメリザンドへの攻撃を繰り返す中、アオゾラは引き続きドリアードと戦っていた。
風下へと移動するようにしながらある程度引き離し、踏み込むと同時に剣を振り上げた。
鮮やかな軌跡を描いた斬撃は悪意と共にドリアードの身体を蝕む剣閃。
ドリアードへの抑える合間、隙を衝いてジルーシャは竪琴を鳴らして隣人へと語り掛ける。
その途中、微かに自らの指を切って、血を垂らす。
触媒は香りの中に潜む獣との契約を紡ぐ。
理性を得た『獣』がメリザンド目掛けて跳びかかり、食らいついた。
「フフ、どう? アタシの作った香りはお気に召したかしら?
お望みなら、アンタにも調香してあげましょうか? 血の香りなんて忘れるくらい、素敵なのを、ね」
「止めておくわ。貴方の血の匂いは他の何かに愛されてる気がするもの!」
そういうや、メリザンドが振り払うように後退する。
「待ちなさい! 誰の差し金で種を手に入れたの!
これが成功作だったとして、その種をどうするつもり?」
逃亡を図る動きに対して咲良が追うように問うた。
そのまま振り払う連撃は最適解を描いて攻め立てる。
赤犬の牙の如き執拗なる殺意の連打を撃ち込んでいく。
「何か勘違いしてるのかしら、この子は……誰の差し金? 成功作?
適当に開いたで拾った物に特別な感情も何もないわ。
面白そうだから拾っただけ。それ以上は、何もね」
そう言い捨て、メリザンドは追撃を振り払ってどこかへ消えていった。
●
メリザンドの撤退に伴い、イレギュラーズはいよいよドリアードとの戦いに集中しつつある。
(確か――)
ラダは銃口をドリアードへと定めて冷静に思考する。
戦いが始まる前、ラダは種の事をノエルから聞いていた。
『他にもあるにはあるけど、そんなことをするまでもなくシンプルに砕いた方が早いはずだよ。
あれはせいぜい、肉体強化の作用しかないから。なんていうか、ほら。コスパが悪い、というか』
(――だったか、ならば)
黒い銃身は静かに、真っすぐに獲物の方を見定めていた。
「――砕くだけだ」
放たれた銃声は大嵐の如く。
天性の才覚を以って放たれた2つの銃弾は寸分の狂いなくドリアードの中心を撃ち抜いた。
「種も気になりますが、僕はこちらです――」
そう呟き鏡禍が描く一閃が結ぶはドリアードの髪に咲き誇る花の1つ。
花の香りである以上、そこを斬り落とせれば、多少は減るのではないか――という目論みである。
「――ァ、ア、ァァァ!! させ、ませんぅ!」
たどたどしい声で叫ぶドリアードが後退して痛撃を避けんと試みれば。
それによって生じた隙を打つように一閃する。
「貴方はあの吸血鬼に従う必要はあるのデスカ?」
アオゾラは暴れるドリアードへと問いかけるものだ。
「何をおっしゃっているんです?」
無垢にも思わせる不思議そうな表情を浮かべてドリアードが首を傾げた。
「魔種の研究で生み出された存在ならば、別に吸血鬼に従う必要はないと思うデス」
「何か勘違いをされてらっしゃるようですが……私を作ったのは『博士』ですよ?」
そう呟いたドリアードは、再び首をかしげる。
だが、そこでアオゾラは何か違和感を覚え始めていた。
(いえ、違いますね……ずっと、どんどんと……変わっているのデス)
姿が、ではない。
もっと根本的なところ――言うならば『成長』しているかのような。
「――あぁ、なんというか、少しだけ、気持ちがいい」
ちろりとドリアードが唇を舐めた。
刹那、心臓辺りに埋め込まれている種に罅が入り、ボロボロと落ちて行った。
合わせて、髪に生える花が、淡い輝きを放つ。
それは、そう――烙印の花を思わせた。
「ま、た。会いましょう。
私は、今、少し気分がいいのです」
偽物の命、失敗作たる半端な命が、吸血鬼へと変じた瞬間だった――
「だから、今回は見逃してあげます」
薬と笑って、ドリアードがその場で大きく回転し始め、砂漠に風穴を開けてどこかへ消えて行った。
「あの種、ノエルの師匠が作ったんだよな――なら止める方法をお前生み出せるんじゃないか?」
ラダはドリアードの見えなくなった砂漠にて、ふと思いついたように問いかけた。
「出来るよ。でも……正直、いらないと思う」
「どうしてそう思うんだ?」
「ただのドーピングにしかなってないからだよ。
それに本来の用途と月の王国(ここ)は相性が悪そうだ」
メリザンド撃退を終えてラダが問えば、ノエルはさらりと告げて足元を見る。
砂漠を払うようにして踏みしめて、ノエルが一息を吐いた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でしたイレギュラーズ。
MVPは最も危険な任務を熟した貴方へ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
●オーダー
【1】『サン・ドリアード』無銘の撃退
【2】晶獣の撃破
【3】『吸血鬼』メリザンドの撃退
●フィールドデータ
月の王国とも呼ばれる謎の空間。
まるでラサの砂漠そのものであり、映し鏡のような風景には美しい王宮と月が存在しています。
太陽は昇らぬ夜しかない空間、戦場としてはただっぴろい砂漠と言えるでしょう。
●エネミーデータ
・『吸血鬼』メリザンド
金髪紅眼の女性を思わせる月の王国の吸血鬼です。
鎖骨の下、胸元に烙印の華が咲いています。
優れた身体能力を持ち、魔種相当のスペックを有します。
血で出来たような槍を用いて近~中距離神秘戦闘を行います。
・『サン・ドリアード』無銘
心臓辺りに植物の種が植えられた偽命体。
髪には幾つかの花が咲き誇り、青々とした葉のような瞳をしています。
美しい花の香りは【魅了】や【怒り】にも似た効果を持ちます。
両手は樹木の根っこのようになっています。
これを用いて槍やドリルのように使ってきます。
攻撃には【スプラッシュ】、【貫通】属性を持つものがあります。
【出血】系列、【乱れ】系列、【出血】系列のBSを受ける可能性があります。
・『晶獣』サン・ラパース×5
大型の猛禽類が変貌した晶獣です。
血のようなクリスタルに侵食されたタカ・ワシ・フクロウのような外見をしています。
くちばしやつめによる攻撃は【出血】系列を付与する効果があります。
・『晶獣』サン・ルブトー×5
ラサに生息する砂狼が変貌した晶獣です。
血のようなクリスタルに侵食されたオオカミのような外見です。
EXA、反応が高め。【毒】系列のBSを付与する効果があります。
・『晶獣』サン・レザール×5
大型の蜥蜴のような姿をした晶獣です。
血のようなクリスタルに侵食されたトカゲのような外見です。
皮膚がとてつもなく冷たく、攻撃には【凍結】系列、【足止】系列を付与する効果があります。
●友軍データ
・ノエル
蛇使いの魔術師です。
黒髪灰眼の男性幻想種で、ユニスとは幼馴染。
5年ほど前に誘拐されあと、最近になってイレギュラーズに救い出された青年。
神秘デバフアタッカー。
【毒】系列、【出血】系列、【痺れ】、【麻痺】などを用います。
皆さんに比べるとやや見劣りするスペックではあります。
・ユニス
明るめの茶髪をした幻想種の少女。
迷宮森林内部にある小さな集落でレンジャー部隊に所属しています。
弓矢を用いる遠距離サブアタッカー。
【足止】系列、【出血】系列、【凍結】系列などを用います。
皆さんに比べるとやや見劣りするスペックではあります。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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