PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<カマルへの道程>月下偽闘争

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 月の王国。
 常夜にして吸血鬼の国。
 満月の明かりに照らされる中、ファニー(p3p010255)は砂の大地を歩いていた。
(この辺りは、晶獣が少ないな)
 索敵しながらファニーは進む。
(この前の戦闘で潰した分が補充されてないのか?)
 少し前、ファニーは月の王国に訪れ仲間と共に晶獣と戦い殲滅した。
 戦ったのは晶獣だけでなく吸血鬼もだが、晶獣を壁にして逃げられている。
(あのオッサン、何かしら思惑があるなら、またこの辺りに出て来ると思うんだが)
 晶獣への警戒は怠らず、1人の吸血鬼を探しファニーは歩き続ける。
 探している吸血鬼はバレルと名乗っていたが、戦っている最中も加減しているような節があり思惑があるように思えた。
(理由が分からないままってのも調子が狂う。骨折り損にならないよう見つけたい所だが――)
 退き時を見極めながら進んでいた時だった。
(――いた)
 2人の人物と一緒にいるバレルをファニーは見つけた。
(全員吸血鬼……なのか?)
 1人は紳士然とした男。もう1人は三十代ほどの曲者の匂いがする男だ。
(吸血鬼3人相手に1人じゃ、戦闘になった時にキツイが……)
 かといってこの機を逃せば、また見つけられるとは限らない。
(賭けになるが、接触してみるか)
 リスクを取る覚悟で、ファニーはバレルに声を掛けた。
「よぅ、オッサン」
「よぅ、やんちゃ坊主」
 親しげに声を返すバレル。
 少なくともいきなり襲って来ることは無いと判断したファニーは、近付くと再び口を開いた。
「そっちの2人も吸血鬼か?」
「いや、昔馴染みと、その手伝いだ。輸血パックを持って来て貰ってる」
 見れば、三十代の男が複数輸血パックの入った袋を手に提げている。
「人を襲って血を飲まないのか?」
「それをしたら吸血鬼が際限なく増えちまうだろ? あの時も言ったけど、俺は考え無しに吸血鬼を増やすより相手を選びてぇ」
「なら、オレはどうだ?」
「はっ、相変わらず度胸が良いな……」
 笑みを浮かべながら、見極めるようにバレルは言った。
「吸血鬼になるかもしれないリスクを取れるってこたぁ、そのあとでどうにでも出来る手段を持ってるってことか?」
「……どういうこった?」
 訝しんだファニーが聞き返すと、
「さて、どういうことなんだろうねぇ?」
 はぐらかすような笑みをバレルは浮かべていたが――
「あっ、カーラのヤツ……しゃあねぇ、迎えに行くか」
 苦笑するような表情を浮かべたあと、身体を霧に変えどこかに行こうとする。
「おいちょっと待てオッサン! 話の途中だぜ」
「悪ぃな。ちょいとカーラを迎えに行かなきゃならねぇんだ。また俺はここに来るから、何かあるなら会いに来な。もっともその時は晶獣でお出迎えさせて貰うけどよ」
 そう言って去ろうとする。そこに紳士然とした男が口を開いた。
「私が話しておこう。それで良いかね? パルプフィクション」
「その名前で呼ぶなよな!」
 嫌そうに返すバレル。
「……なんだそれ。あんたら、そんな名前で呼び合ってんのか?」
 呆れたようにファニーが言うと、バレルは苦虫を潰したような顔で言った。
「……昔そいつも合わせて、5人で犯罪組織の基盤作った時があったんだが、その中の1人に勝手につられたあだ名みたいなもんだよ」
「犯罪組織ね……悪党だったってことか? オッサン」
「否定はしねぇよ。最低に腐ってた頃の話だけどな。それよりまぁ、モリアーティ」
 紳士然とした男に向かってバレルは言った。
「好きに喋りな。それで何が起ろうと恨みゃしねぇよ」
「ふむ……そこまで割り切れるようになったのは、代償行為のお蔭かね?」
「……あぁ。見た目が生き写しってだけで中身は全然違うけどよ……却って救われてるよ」
「それは良かった」
「そりゃどうも」
 軽口を叩き合うように言葉を交わすと、バレルは消え去り、あとにはモリアーティと呼ばれた男と、もう1人の男が残った。
「……それで、あんたらは何か話してくれるのか?」
 警戒するようにファニーが問い掛けると、モリアーティが応えた。
「バレットと話して得た推測の範囲だがね。彼の目的について話しておこう。だがその前にひとつ認識の摺合せをしておきたい。吸血鬼になることのデメリットは理解しているかね?」
「……吸血衝動があるってことだろ?」
「それもデメリットのひとつだ。だが最大のデメリットは、純血種や姫と呼ばれる人物への下僕化だ」
「……下僕?」
「ああ。吸血鬼は純血種や姫と呼ばれる人物への強い畏敬の念を抱くようになり、己を省みずに彼ら、あるいは彼女のために働くようになる。客観的に見れば、これはただの下僕化だよ」
「……それをデメリットって言い切るってことは、そこから自由になることがオッサンの目的か?」
「彼自身が自由になるためというよりは、カーラという吸血鬼の女性を助けることだろうね、彼の目的は」
「助ける?」
「ああ。恐らくは、彼女を吸血鬼で無くすことが一番の目的だろう。それが叶わないなら、彼女を生かすための方法を取るだろうが」
「……ちょっと待て、どういうこった? なんでオッサンが、そんなことしようとしてるんだ?」
「代償行為だよ」
 モリアーティは言った。
「バレルはウォーカーだが、元の世界で最愛の女性を自身の手で殺している。その女性と瓜二つらしいのだよ、カーラという人物は」
「殺してるって、なんで?」
「彼の世界にも吸血鬼がいて、彼の殺した女性もそうだったらしい。そして彼の世界の吸血鬼の能力は、魂の同化と保存。吸血行為で相手を飲み干せば、飲み干された相手は吸血鬼の中で保存され、内在世界で安楽に存在し続ける。個人を用いた天国装置、ということらしい。それを求めて彼女に無理やり血を飲ませ続け、最終的には許容量を超え発狂。ついには世界を飲み干す怪物になってしまったから安楽死させたらしい」
「……その殺した相手と、カーラが似てるってことか?」
「生き写しと思えるほどらしいよ。だから助けたいと思っているが、事は巧くいかない。何しろ下僕化しているんだ。カーラも場合によっては邪魔をするだろう。そもそも純血種や姫とかいう人物に対して明確な敵対行為は取れない。だから言動はどうしてもちぐはぐな物になる。せいぜい遠まわしに言ったりすることしかできない」
「それをあんたは推測してるってことか?」
「ああ、そうだよ。だからあくまでも推測でしかなく、間違っているかもしれない。それを前提として、バレルの目的を話そう」
 淡々とモリアーティは言った。
「目的はカーラを助けること。実現するために、君達イレギュラーズに烙印を与え、晶獣と戦わせている」
「どういうこった?」
「君達に烙印を与えることで起りうる可能性は大きく2つ。烙印の浸蝕を止め、最悪吸血鬼になっても戻れる手段を探すこと。もうひとつは、吸血鬼になったあと、なった者が吸血鬼陣営に加わることによる戦力増加だ。最初のひとつめが実現したなら、バレルやカーラも吸血鬼から元に戻る可能性が出てくる。ふたつ目が実現した時は、バレルやカーラが生き残るための強力な仲間が増えることになる」
「……つまりオッサンが選り好みして烙印を与えてたのは――」
「烙印を与える相手を増やすことで、吸血鬼から元に戻る方法を探る者が少しでも出易いようにすることと、吸血鬼になった時に協力し合える相手を探すためだ。もっとも、そういったことが純血種にバレると不測の事態が起こる可能性もある。そういった派手な動きをし過ぎそうな相手だと、協力したいと思った相手でも烙印を与えるのは迷うだろうね」
「……」
 少し考えたあと、ファニーは尋ねた。
「そっちは分かった。それで、オレ達と晶獣を戦わせてるのは、どういうこった?」
「王宮へ君達が行き易くするためだろうね。月の王国は晶獣や偽生命、それに吸血鬼といった戦力で守られている。そういった戦力を少しずつ削り、王宮に行き易くしたいんだろう」
「なんでだ?」
「王宮に行けば、吸血鬼に関する情報を得られる可能性があると思ってるんだろう。その中には、吸血鬼を元に戻す方法があるかもしれない。まぁ、かなり低い可能性だと思うが、それだけバレットは追い詰められている」
 肩をすくめるような間を開けて、モリアーティは続ける。
「今まで言ったことは、純血種達の命令に逆らっているわけじゃない。烙印を与えて吸血鬼を増やし、月の王国に訪れた敵対者には、晶獣を率いて戦っている。偶々、烙印を与える相手の傾向に偏りがあり、戦えば負けるので逃げ帰っているだけ。制約の範囲で出来ることをしているに過ぎないんだよ」
「……」
 話を聞いて考え込むファニーに、モリアーティは軽い口調で言った。
「さて、ここまでの話を聞いて、君はまた、ここに来る気はあるかね?」
「どういうこった?」
「私も吸血鬼には興味があってね。可能なら王宮に侵入して色々と調べたい。そのためには、王宮に行くまでの晶獣などの邪魔は少ない方が良い」
「火事場泥棒する前の露払いを手伝えってのか?」
「時間は掛かるだろうし、何度か回数を重ねる必要があるかもしれないがね。あとは、昔馴染みのバレルの手伝いをしたいのが……本音だよ」
 最後だけポツリと呟くように言ったあと、続けて言った。
「ローレットに依頼が行くように手配しておくよ。もしよければ、参加して欲しい」
「……考えとく」
 油断せず、警戒しながらファニーは応えるのだった。

GMコメント

おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回は、アフターアクションを元にしたシナリオになっています。

プロローグの時間軸は、同時期に出していますもう一本のシナリオ「月下闘争」の
プロローグと同じ時間軸です。
こちらのエピソードは敵側の思惑が戦闘以外なので「月下『偽』闘争」となっています。

以下が詳細になります。

●成功条件
 転移先の月の王国で、敵となるモンスターを可能な限り倒す。

●状況
 以下の流れで進みます。

1 古宮カーマルーマ内部の転移陣から月の王国へと転移する。
  複数存在する転移陣のひとつから、月の王国へと転移します。

2 月の王国に転移後、しばらく砂漠を進み、待ち構えていた敵と戦闘する。
  転移陣から先に進むと、吸血鬼であるバレルが晶獣を率い待ち構えています。
  戦って下さい。

3 戦闘に勝利する。
  晶獣をある程度倒す、あるいはバレルにある程度ダメージを与えると
  バレルは逃走します。その後、残った晶獣を全滅させれば依頼達成です。

●戦場
 一面の砂漠。
 砂で多少足場を取られますが、戦闘に支障が出るほどではありません。

●敵

 晶獣

 サン・ラパース×?
 ラサに多く生息する大型の猛禽類が変貌したものです。
 飛行しており、すばしっこく連携してきます。
 くちばしやつめによる攻撃は物理属性のダメージや
 出血系列などを付与してきます。

 リール・ランキュヌ×?
 紅血晶が付近の亡霊と反応し、生まれたアンデッド・モンスターです。
 強力な神秘遠距離攻撃を行ってきます。
 体力面では脆いため、後衛で味方に守られながらの攻撃を行います。
 嘆き声には、毒や狂気系列のBSを付与する効果もあります。

 ポワン・トルテュ×?
 ラサに打ち捨てられた、巨大リクガメの化石が紅血晶に侵食されて誕生した
 大型のアンデッド・水晶亀です。
 動きは遅いですが、タフで固く、他の晶獣を守るようにふるまいます。
 今回は前衛で、主にリール・ランキュヌを守るような動きをします。
 いわゆるタンク役・盾役としてふるまいます。
 怒りを付与する咆哮などで、イレギュラーズを引き付けてきます。

 吸血鬼

 バレル・バレット。
 昼行灯っぽいオッサン吸血鬼。
 自身の血の結晶を飛ばして晶獣などを呼び寄せたり、炎を使った攻撃が可能。
 完全ではないですが、呼び寄せた晶獣などを操り指示を出せるようです。
 自分や、接触した相手を霧化することで短時間攻撃を無効に出来ます。
 ただし霧になっている間は攻撃は出来ません。
 PC達に吸血鬼にならないか勧誘してきます。
 吸血鬼にしても良い相手を見極めるために、晶獣をけしかけて戦闘をさせている模様。
 会話することは可能ですが内容によっては、とぼけたり、はぐらかしたりします。
 こちらのシナリオで死亡した場合は、同時期に出しているシナリオ「月下闘争」にて
 吸血鬼NPCカーラを助けに出てきません。

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

 あくまでも付与される場合があるだけで、確実にされる訳ではありません。
 場合によっては、誰も付与されない場合もあります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 説明は以上になります。
 それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。

  • <カマルへの道程>月下偽闘争完了
  • GM名春夏秋冬
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年04月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)
不死呪
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
囲 飛呂(p3p010030)
君のもとに
ファニー(p3p010255)
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ

 依頼の詳細を聞いた『闇之雲』武器商人(p3p001107)は静かに思う。
(……あの2人、此方に逃げてきたか。いい逃げ足を持っている)
 それは他の依頼で相対した犯罪者のことだが、それだけに警戒している。
(あの2人と旧知という時点で警戒して良いくらいだが、我が所有物達は人が好い)
 同行する『Luca』ファニー(p3p010255)や『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)に気付かれないよう視線を向けながら武器商人は思う。
(彼に便宜を計りたいというなら主人として「できる範囲で」応えねばね)
 武器商人が思案する中、ファニーとクウハも、それぞれ考えを纏めるように思案していた。
(あちらさんの話を鵜呑みにするわけじゃないが、誰もが好んで吸血鬼になったわけではないんだろう)
 ファニーは思う。
(元に戻りたいと、元に戻したい相手がいると、そう思うやつがいるのはおかしなことじゃない)
 信念を浮かび上がらせ覚悟を抱く。
(助けられるものは助けたい。この手が届く範囲ならば。オレは)
 助力の意思を抱くのは、クウハも変わらない。
(愛した女と瓜二つの女を助けたい……か。なんとか手伝ってやりたいが……)
 その為には戦うだけでは難しいだろう。
(バレルのおっさんとは話がしたい。だから殺すわけにはいかねぇが……)
 2人のように、助力できないかと考えている者は他にもいる。
(大事な人と瓜二つの人……か)
 元いた世界では警察官になりたいと思い、こちらの世界では「正義の味方」を望む『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)としては、助けたいと思う。
(身体を張って護りたい、元に戻してあげたいっていうのは、当然のことだ)
 大事な誰かを守りたい。
 それが他の誰かに似ているからだとしても、理解は出来る。
 そう思っているのは、『剣閃飛鳥』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)。
(好きな人に似た人を守りたい。うん、わかっちゃうよね、そういうのは……)
 共感もできる。
 だがそれだけでは済まないことも、当然理解している。
(彼らがこちらと事を構えている事は事実)
 闘争も必要なのは確実だ。
 けれど、だからこそ――
(もしも話が通じる人々なら違う道も……ううん、まず彼らが何者かは知らなくっちゃならない。吸血鬼とかでなく、何を望み、何に怒り、何に悲しむかを)
 知る事から始めないと何も進まない。
 それは純粋に情だけではなく、必要であるからだ。
(敵の内部に協力可能な人がいるのは助かりそうだ)
 状況を有利にするためにも、『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)としてはバレルから情報を得ることは有益だと判断している。とはいえ――
(どこまで信じていいか不安もある。でも推測とは言えあんなの聞かされたらな)
 感情を完全に消して動くことは難しい。
 それは、『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)も同じだ。
(……吸血鬼側も一枚岩じゃないということかな)
 思案しながら気に掛けるのは、吸血鬼の被害に遭った人々のこと。
(俺は、多くの人達の人生を狂わせた吸血鬼達は許されないことをしたと思う。けれどその事情も聴かずに全滅させるのは……あまりにも、ね)
 情を抱き悩む者もいれば、『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)のように、さばさばした気持ちで戦いの場に向かう者もいる。
(あのおじさんには別に興味ないデスガ無理矢理吸血鬼化させないだけ他の人よりマシではありますね)
 情を挟まず判断すれば、アオゾラの考えは至極当然だ。
 その上で、譲歩するように思ってもいる。
(ちょっと位なら思惑に乗ってやっても良いデス)
 そう思いながら進んでいくと、晶獣の群れを率いたバレルが立ち塞がった。
「よぉ! 前に見知った顔以外もいるな。だから戦り合う前に訊くが、吸血鬼になる気はあるか?」
 これに真っ先に返したのは、ミルヴィ。
「やだネ……アンタと同じであたしにも共に生きたい男がいるんだ。だからその時は全力で抗う」
「はっ、そいつは好いね。抗いな。共に生きたい男のためにもな」
 どこか眩しい物を見るようにミルヴィを見詰めたあと、バレルは目を逸らすように視線を外し武器商人にも問い掛けた。
「お前さんは、どうだい?」
「吸血鬼ねぇ……曖昧なこの身に明確な属性が付くというのも悪くないが」
「思わせ振りだねぇ」
 笑みを浮かべながらも油断なくバレルは返すと、次にクウハに問い掛ける。
「お前さんは、どうだい?」
「烙印を寄越したきゃ寄越せばいい」
 お調子者のように笑みを浮かべクウハは応える。
「俺は悪霊だ、呪いの類とはオトモダチ。烙印への耐性も多少はあるだろう」
「耐性ね……それでも吸血鬼になっちまったら、どうするんだ?」
「どうにもならなけりゃその時はその時だ。オマエらと暴れんのも、それはそれで楽しいだろうよ」
「ははっ、そうかもしれねぇな」
 バレルは笑みを浮かべ応えながら、殺意にも似た視線を向ける武器商人に一瞬視線を向けたあと、ヴェルグリーズに問い掛けた。
「よぉ、にぃちゃん。あんたは、どうだい?」
「キミとは協力できるかもしれない、そうありたいと思ってる」
「……へぇ」
 烙印だけでなく、吸血鬼化の解除方法も知りたいヴェルグリーズは、リスクを取る覚悟で応えた。
「キミの信用が得られるなら烙印を刻んでもらっても構わないよ」
「信用ね……ありがたいが、そっちは俺達のことを信用できるのか?」
「信じているよ」
 それは聞かされた話を信じているということだ。
(特に下僕化の部分は信じられる。イレギュラーズが吸血鬼になったとして”姫”の為に働くとは思えない。下僕化、もしくは何か制約がつくのは絶対条件だろう)
「……かなり考えられる性質だな、あんた」
 見極めようとするようにヴェルグリーズを見詰めたあと、今度は咲良に問い掛けた。
「元気の好さそうな嬢ちゃん。あんたは、どうだい?」
 これに咲良は、まっすぐ目を見て本音で答えた。
「アタシは、ちゃんと体感してあなたを理解したい」
「……怖くねぇのか?」
 眩いモノを見詰めたかのように、あるいは痛ましそうに目を細め尋ねるバレルに、視線を合わせたまま咲良は言った。
「そりゃ、リスクもあるし怖いんだろうけどさ……なんとかできるかもしれないなら諦めない。それがアタシにとっての『正義の味方』だから」
 僅かに迷うかのような間を空けたが、信念を込め咲良は続ける。
「……制約は多いかもだけど、一個人としては協力させてほしい。勿論、あなたに不都合がないよう動くつもりだから」
 それは望む自分であるための意地でもあった。
(自分がその感覚を知ってるか知らないかで、やれることも次の道筋も見えるってアタシは信じてる。それに情報が得られるかもしれない。当たり前だけどイレギュラーズとしての務めは果たすし、そこで身体張るのも正義の味方でしょ)
「……そうか」
 どこか苦しげにバレルは呟いたあと、振り払うかのように笑みを浮かべ戦いの時を告げる。
「吸血鬼になってくれるって言うなら歓迎するぜ! でも選別は必要だからな! だから強さを見せてくれ!」
 バレルの声に応じるように、晶獣達が動き出す。
 同時に、イレギュラーズは戦うために前へ踏み出した。

●月下偽闘争
 襲い来る晶獣達。
 それをイレギュラーズは、連携し迎え撃つ。
「みんな、始めよう!」
 咲良の呼び掛けに応じ、クウハが動く。
「仲良くお話合いの前に遊ぼうゼ、おっさん!」
 あえて前に出ると、鉄の星を降らせ晶獣達を貫く。
 当然反撃して来るが、避けながら距離を詰め、高らかに声を響かせる。
「遊ぼうゼ! 悪霊と鬼ごっこ! 捕まえられなきゃ消えるだけ!」
 晶獣が多数クウハを狙い襲い掛かってくる。
 肉薄しようとするが、無数の星屑が行く手を阻んだ。
「さあ、始めるぜ」
 星屑を降らせながら、ファニーは開幕を告げるようにタイトルコールを響かせる。
「これより始まるは月下の偽闘争。筋書きのある滑稽な茶番劇さ」
 途切れず降りしきる星屑の豪雨。
 怒りの雄たけびを上げながら晶獣は突進しようとするが、鋼の驟雨が襲い掛かり足を止めた。
(クウハさんたちが怒りで引き付けてくれる、このまま纏めて仕留める)
 飛呂は晶獣の連携を崩すように連続射撃。
 次々貫かれる晶獣。
 だがそれを避け、猛禽が死角に回ろうとするが――
「仮にもスナイパー名乗ってんだ、外さねぇ」
 飛翔する猛禽の、頭部を撃ち抜く。
 射撃の数と精密さ、どちらも腕の冴えを見せ、飛呂は引き金を引き続ける。
 絶え間ない連続攻撃。
 それを巨大な水晶亀が壁になり受け止め、死霊共が怨嗟の絶叫を上げようとしたが――
「遅いよ!」
 その時には既にミルヴィが、するりと間合いに侵入していた。
 死霊共は反射的に迎撃しようとするが、無数の剣閃に追い付けない。
「木偶の棒が揃ったところでアタシはとめらんないよ!」
 優美にして恐るべき剣舞の冴えを見せ、死霊共を斬り裂いていった。
 死霊共はミルヴィを捕えようとするが、まるで捕えきれず、水晶亀が文字通り壁となって囲もうとしたが――
「さぁ、ワタシが、憎いデショウ?」
 アオゾラが、ベストなタイミングでサポートしてくれる。
「憎いなら、殺すべきは、ワタシの筈デス」
 間合いを詰め、呪術を使い水晶亀に自身を憎悪させた。
 湧き上がる憎悪に突き動かされ、地響きを上げ突進してくる水晶亀。
 それを迎え撃つべく、アオゾラは更に呪詛を放出。
 放出された呪詛は無数の大蛇を象り荒れ狂う。
 絡め取られも、なお距離を詰めて来る水晶亀。
 肉薄しそうな距離で、アオゾラは攻撃手段を変更。
 呪詛の放出を止め、呪剣の乱撃で切り刻む。
 飛び散る破片。
 しかし水晶亀は止まらない。
 けれどそれは、アオゾラの想定内。
 周囲全てを巻き込む呪詛の大蛇を消し乱撃へと切り替えたのは――
「そちらは頼みます」
 仲間を信じ託すように、アオゾラは目の前の敵だけに集中する。
「任せて!」
 応じるように、轟音が響く。
 それは超加速で水晶亀に一撃を叩き込んだ、咲良が響かせた威音。
 余りの威力に水晶亀に大きく罅が入り、巨体が浮く。
 そこに追撃。
 水晶亀を空に跳ね上げると跳躍。
 空中で水晶亀に渾身の一撃を叩き込み、砂柱が上がるほどの勢いで砂漠に叩きつけた。
 砕け散る水晶亀。
 だが数は多く、さらに1体が襲い掛かろうとしたが――
「させない」
 ヴェルグリーズが迎撃する。
(纏めて撃ち抜く)
 水晶亀が庇う死霊ごと撃ち抜く勢いで一斉掃射。
 死霊の迎撃に当たっているミルヴィに流れ弾が向かわないよう注意しながら攻撃を重ね、敵との距離が縮まれば手段を切り替える。
 神速の斬撃。
 速さそのものを武器とするかのような勢いで、硬い水晶亀を刻むのではなく切り裂いていった。
 イレギュラーズの連携で晶獣の動きは抑えられる。
 残りのバレットは、武器商人が圧を掛けるように、引きずり込むような呼び声を叩きつけていた。
「はっ、ヤベーヤツだなアンタ!」
 武器商人が周囲に張った斬糸の牢獄に囚われながら、バレルが襲い掛かってくる。
 それを回避しながら、武器商人はカウンターで応じた。
「どうした? この程度かい?」
「余裕だねぇ!」
 一見すればお互いの喉笛を噛み切ろうとするかのような激戦に見えたが、その実、静かな応答が重ねられていた。
『では、上位種への下僕化は時間経過で進むのだね』
『烙印刻まれた後は、段階を踏んで強くなる。最初の内は吸血衝動や血の結晶化ぐらいだろうが、次第に精神も浸蝕される筈だ。ただ――』
『なんだい?』
『この辺は個体差が大きい。あんたらイレギュラーズは違うかもしれねぇが……もしそうなら違いを知れば役に立つかもしれねぇ』
『それも烙印を刻む狙いかい?』
『悪いが、余裕がねぇ。殺されるリスクがあっても止める気はない』
 ハイテレパスを用い、ステルスで周囲からの探索を無効化しながら質疑を重ねる。
『下僕化が進むのは分かった。だがそれならなぜ、キミは逃れている』
『逃れちゃいねぇよ。単に自分で自分を誤魔化してるだけだ。今も戦いながらだから、この程度のことは応えられるが、それでも精神がガリガリ削られてる。応えれば応えるほど、お前さんらに対する敵意が抑えられなくなってくる』
 実際、少しずつバレルの攻撃は鋭さを増していく。
『純血種や姫さんへの本格的な敵対行為に繋がりそうなことをしようとすりゃ、誤魔化しが効かなくなる可能性がある。だからまともに調べることもできゃしねぇし、そもそも俺は新参者で上位者と実際に会ったことすらねぇ。やれるこたぁ限られてるんだよ』
 戦いの手は止めず応えるバレット。
 その間に晶獣の数が減り余裕ができ、他のイレギュラーズもバレルに近付き問いを重ねた。
『こっちも烙印や吸血鬼を止めたり戻す方法は知りたい。鍵は月の王国側にあるだろうし協力できればいいとは思うよ』
『……』
 飛呂のハイテレパスの呼び掛けに、バレルは返せない。
 すでに今までの応答で自分を抑えるのが難しくなっているように見えるバレルに、飛呂は続けた。
『気持ちわかるなんて言えないけど……俺は好きな人いるから、もし失ったらとか考えると怖い。だから協力したいのは、打算もあるしこの気持ちからってのもある』
 正直に伝える飛呂に、バレルは無理やり笑みを浮かべながら応えた。
『ありがとよ……お前さんは間違ってねぇよ……好きな誰かがいるなら、好いじゃねぇか』
 羨望するかのような強張った笑み。
 そこに、死霊を刻み倒したミルヴィが近付き問い掛けた。
「アンタの望みは大切な人と共に生きる事、けれどアンタ達の望みって何? ううん……それ以外にいかにも興味なさそうなアンタがこうして動いてるのはアタシ達に動いて欲しいから?」
 これにバレルは、圧縮した炎の塊を飛ばす。
 掠めるようにミルヴィの傍を飛んだ炎の塊は背後に迫ろうとした死霊を焼き尽くした。
「ああチクショウ。外しちまった」
 自分を誤魔化すように、へらへらと力なく笑いながらバレルは応えた。
「勝手に動いてくれるってなら楽で良いねぇ」
 どこか諦めを滲ませているかのように見えるバレルにファニーが駆け寄り、叩きつけるような強い意志を伝えた。
『アンタがオレたちに協力しようとしまいと、イレギュラーズは必ず烙印を消す方法を探す。そして、必ずあの月のお姫さんを討伐する』
『……』
 応えられないのかバレルは沈黙し、構わずファニーは続ける。
『信じてくれなくていいし、答えてくれなくていい。どうせまともな返答はできないだろうからな』
「待て、骸骨のコ」
 ハイテレパスであるがゆえ内容は知れず、だが不穏を感じた武器商人が止めようとするが、それより早く――
『だから二択でいい。アンタがカーラを絶対に助けたいと思うなら、オレに烙印を寄越せ!』
 叫ぶような強烈な意志をファニーは伝えた。
「はっ……」
 ファニーの意志を受け、バレルの目に輝きが戻り、自らの手首を食い千切る。
 血が溢れる代わりに結晶が生まれ、それをバレルが握り砕き撒くと――
「気をつけて!」
 晶獣の相手をしてくれていたアオゾラが警戒の声を上げる。
 ほぼ同時に、残った晶獣達が暴走するかのように、バレルも含めて一斉に襲い掛かって来た。
 余りの勢いに、僅かな間だがイレギュラーズは分断され――
「骸骨のコ!」
 武器商人が晶獣を蹴散らしファニーの傍に近付ことしたが、すでに手遅れ。
「悪ぃな」
 ファニーに烙印を刻んだバレルに、渾身の一撃を叩き込む武器商人。
 避けられなかったのか、それともあえて受けたのか。
 まともに食らったバレルは吹っ飛ばされると血の結晶を口から吐き出し、武器商人に視線を合わせ言った。
「もし烙印の解除に刻んだ奴を殺す必要があるなら、俺だけで足りる。カーラには、今まで一度も烙印は刻ませてねぇ……だから殺す気なら、俺だけにしてくれ」
 そう言うと霧になって消えようとする。そこに――
「なあ、おっさんがやろうとしてる事をカーラの方は知ってんのか? ソイツは本当にそれを望んでんのか? まあ、別にどっちだって構やしねーんだが」
 クウハが呼び止めるように声を掛ける。
 これにバレルは泣き笑いのような顔で応えた。
「言えねぇよ……あいつは心底、純血種や姫さんのために生きようとしてる……下手すりゃ裏切者扱いで殺し合いだ……」
 無理やり笑みを浮かべるバレルに、クウハは呼び掛けるように言った。
「オトモダチになろうぜ、バレルのおっさん。オマエ達には興味があるしな。アナタらのこと、もっと詳しく教えてくれ」
「友達ね……はっ、なれれば良かったんだがな」
 自嘲じみた笑みを浮かべ、霧と化したバレルは風に乗って消え失せた。
 あとには暴走する晶獣だけ。
 その全てを倒し切るイレギュラーズだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした!
皆さまの労力のお蔭で、周囲一帯の晶獣は一掃されています。
吸血鬼は傷を受け逃げたようです。
それでは、最後に重ねまして。
皆さま、お疲れ様でした。ご参加、ありがとうございました!

●運営による追記
※ファニー(p3p010255)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
 時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
 現時点で判明しているのは、
 ・傷口から溢れる血は花弁に変化している
 ・涙は水晶に変化する
 ・吸血衝動を有する
 ・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
 またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています

PAGETOPPAGEBOTTOM