PandoraPartyProject

シナリオ詳細

プロトデトロイト・セカンドデイ

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

「やあ! 諸君! 楽しんでる?」
 オシャレな眼鏡にハット。上品だがラフな格好をしたウォーカーの黒人男性は、ハンバーガーとフライドポテトが並んだトレーを前に両手を広げて見せた。
 テーブルは広く、大きく、丸い。そして椅子は四つあった。
 彼の名はザムエル・リッチモンド。
 これまで幻想王国のあちこちで戦争の種を蒔いてきた死の商人こと『R財団』のリーダーである。
 彼の目的は人類の最適化、もとい世界人口を大幅に減少させることで魔種の脅威を軽減するという、狂気だ。
 その狂気の源泉となっているのが『室長』と呼ばれる男。
 眼鏡に白衣という特徴の無い格好をしているくせに妙に印象に残る彼は、椅子にもたれかかり出されたハンバーガーに手も付けていない。
「楽しいかと言われれば、正直楽しくはないかな。そちらのお二方は?」
 室長に促され、一様に苦々しい顔をする二人の男性。
 ひとりはベリウス・ベアグ・ベネディクト(BBB)。いくつもの世界を渡り各世界での戦乱をまるで趣味のようにくり返す凶悪な存在であり、混沌世界においても同じように戦乱を望んでいる……が、その振る舞いはこれまでの様子から少しねじれているように見える。
 やはり彼も、少なからず魔種による狂気の影響を受けているということだろうか。
「なんとか贋作シリーズが完成したが……やはり施設が貧弱すぎる。前のラボが使えれば一番いいが、今はせめてアンダー・デトロイト地区が欲しい」
「それは同感だな」
 もうひとつの椅子に座るリアム・クラーク。少年のような容姿をした彼は、その外見年齢を裏切って非常に長生きだ。が、それも過去の世界での話。
 ロボットだけの帝国を作り上げその支配者となることを夢見ていた彼は混沌世界へと召喚され、その目的もリソースも全てを失った。
 故に持ち前の能力を活かし『L&R株式会社』を設立。ヒトでもモノでも魔術でもなんでも売り物にして成り上がってきた悪の商人である。
 だが彼もまた、ロボット帝国を築き上げるにはイルミナに内蔵されている何かが必要だと盲信しており、その歪みもまた狂気の一部と言えるだろう。
「あそこのロボットは使いがいがある。兵隊にするにも、召使いにするにもな。ともかく中枢をハックして人格情報を全て初期化してしまう必要がありそうだが?」
「好きにしろ。私はラボが手に入ればそれでいい」
 ベリウスの反応に、ザムエルは手を叩いて笑う。
「利害の一致ってことで。オーケー? それじゃあ、戦力のおさらいと行こうか」

 四つの椅子。だが部屋にいるのは四人だけではない。
 まずザムエルの後ろに並んでいるのは『偽神シリーズ』。それもROO内の情報を盗み取ったことで完成させた強力なカスタム機たちだ。
 次にリアムの後ろには彼の雇った傭兵団。唯一イングだけが同郷だが、他の面々は別々の世界からやってきたウォーカーである。
 そしてベリアルの後ろには『贋作シリーズ』。
 いわゆるTR(サンダーレプリカント)計画によって過去の世界で作り上げた兵器の再現(レプリカ)であり。名付けるならTRR(サンダーレプリカントレプリカ)といったところだろうか。
 TR-01 天ノ型、TR-02 海ノ型、TR-03s 嵐ノ型改、TR-04 地ノ型。それぞれが戦闘面で優れた特徴を持った戦士だ。
 うんうんと室長は頷き、そして後ろを振り返る。
 彼の兵士はといえば……『斬鋼滅殲』トーラス・アースレイ、『黒月重兎』べファーレン・ローザローロ。その隣には、『金剛戦車』VK-97が黙って立っている。彼らは同じ世界からやってきた元宇宙保安官とその仲間たちだ。伝説すら残した三人組が、今は室長によって操り人形のように立っている。
 室長は椅子にもたれたまま、眼鏡をきらりと光らせた。
「けど、連中――ローレットはそろそろここを嗅ぎつける頃じゃないかな? 迎撃の準備をしないと、まずそうだね」


「やべえ情報が来ちゃったっスよ」
 佐藤 美咲(p3p009818)は、鈴木 智子がハートマークのステッカーつきで送ってきた情報チップを翳してげんなりという顔をした。

 佐藤 美咲(p3p009818)、新田 寛治(p3p005073)、茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)、ムサシ・セルブライト(p3p010126)、紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)、イルミナ・ガードルーン(p3p001475)、そしてその仲間たちはそれぞれの因縁からアンダー・デトロイト地区という場所でのトラブルシューターを務めていた。
 アンダー・デトロイト地区とはロボットだけの小さな再現都市であり、どこかサイバーパンクな雰囲気が特徴の、『忘れられた街』である。
「この街にはより小規模なプロトタイプが存在していて、それが『プロトデトロイト』。例のザムエル、ベリウス、リアム、室長たちはここを拠点にしているらしいでスね」
 この情報がもたらされたということは、すなわち自分達で対処せよということである。
 ザムエル、ベリウス、リアム、室長。彼らはそれぞれ練達という国家にヒビをいれかねない可能性をもった悪党共だ。それが手を組んだとなれば、力を弱めている今のうちに潰さねばマズイ。
「今回の作戦には同行するであります! 戦力は拡充されているらしいので、充分注意してください! 当然あのトーラス殿も……」
 イオリは言いにくそうにしながら、トーラスとそれに続く二人の写真を並べた。
 ベファーレン、さらにVK-97だ。
「な……」
 トーラスが仮に洗脳を受けているとすれば、それを助け出そうとしてか接触したベファーレンたちも洗脳を受けてしまったことになる。
「情報によれば、こちらに召喚されてまだ時期が浅いはず。レベル差を考えれば総司令官殿……じゃなかった、皆さんが全力であたれば対処可能な戦力であります」
「それに、皆さんだけに戦わせたりはしませんよ」
 クロエ――アンダー・デトロイト地区の管理アンドロイドは、空中に戦闘ドローンを表示させた。ドラム缶のようなシルエットのそれらは、前回ボロボロに負けていたドローンを更に改良したものであるようだ。これが沢山投入されるのなら、多少は戦力になってくれることだろう。
「戦力は五分……といったところでしょうか」
 新田は資料を見比べ、意見を求めるように秋奈へと振り返る。
 そして秋奈がサラミスティックを囓りながら『ん?』という顔をしたので、そのままの表情で紫電へと向き直った。
「あ、ああ。贋作シリーズも作ったらしいが、こっちの世界の技術で作った戦闘ロボットにすぎないしな。一山いくらの戦力だろう」
「大半の相手なら、私にもできます。『お姉ちゃん』」
 紫電の後ろでカガリがそっと付け加えた。頷く紫電。
「強敵になるのは結局……」
「ネームドたち、ということッスね」
 イルミナがどこか意味深な表情でうつむく。
 新田がそれを察し、眼鏡に指をかけた。
「準備ができ次第襲撃をしかけましょう。冠位魔種の約半数に手をかけようという今、彼の舞台はもうありません。終わらせましょう」

GMコメント

 ザムエルたちの拠点、プロトデトロイトへと襲撃をしかけます。
 これはごくごく小さな街を象った地下空間で、五つのビルに分かれて構成されています。
 それぞれのビルにはザムエル、ベリアル、リアム、室長が拠点を置き、自らの戦力を配備しています。

・ザムエル戦力:偽神シリーズカスタム
 偽神シリーズはフルアームズ、ガンファング、ソードビットなどそれぞれ火力の方向を絞ったタイプが主となります。
 これらの対応には新田と秋奈が特に慣れており、対応には向いているでしょう。
 ですが新田だけでも対応可能な戦力でもあるので、秋奈が別チームへ移ることもできます。

・ベリアル戦力:贋作シリーズ完成形
 贋作シリーズは全てロールアウトされていますが、戦力的にはまだ弱いです。
 最も強力となるのはベリアル本人でしょう。
 紫電が最も対応に優れており、随伴するカガリも対応に向いています。

・リアム戦力:傭兵部隊
 イルミナが最も交戦経験があるイングが配備されています。
 他の傭兵たちもなかなか手練れなので、情報を最も多く仕入れている美咲が対応するのが向くでしょう。
 傭兵たちの情報はイルミナが詳しい資料を持っているので開示を求めるとよいでしょう。

・室長戦力:トーラス、ベファーレン、VK-97
 ムサシとイオリが戦うべきトーラスがおります。
 ベファーレンやVK-97は戦ったことのない相手なので、秋奈のようなオールラウンドなアタッカーがいると頼もしいでしょう。
 また、ベファーレンとVK-97の情報についてはムサシ当人からの開示を求めると早そうです。

 それぞれのビルに同時に襲撃をしかけなくては逃げられてしまうため、戦力を四つにわけて配分しましょう。
 また、それぞれの戦力には戦闘ドローンやイオリやカガリたちが随伴します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • プロトデトロイト・セカンドデイ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年04月02日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官

リプレイ

●コマンド
 コンクリートの壁に打ち込まれ続ける銃弾。壁の頑強さを信じてその角に身を隠す『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は、撃ち尽くしたピストルのマガジンを取り出すと予め弾込めしていたマガジンを差し込んだ。
「高橋室長の国外任務が終わったら速攻で国内事案……あいも変わらず人使い荒いスねぇウチは!」
 カバーした状態から僅かに身体を傾け身を乗り出すと、美咲は銃を撃ちまくる。
 伊達に銃の扱いを仕込まれまくった美咲ではない。たとえこれがその辺に転がっていたテキトーな銃だとしても、相手のヘッドショットくらいはとれただろう。
 それくらいには、彼女は常人を逸していた。
 が、それは相手も同じであったようだ。
「へぇ、やるじゃねーの」
 自分の頭を狙われたのだと『撃たれる前に』気付いたガンマン風の男スミスが飛び退き転がる。
 転がりながらも二丁拳銃でしっかり美咲を狙ってくるのだからタチが悪い。
「うおっと!」
 身体に染みついた『カバー命』の反射でなんとかかわす美咲だが、そんな彼女の隙を突くようにカバーに使っていた通路角まで飛び出してきた男がいる。
 魔術師風の男、ジョンソンだ。
「女の子を焼く趣味はないんだけど、ごめんねーコレも仕事なんだよね」
 詠唱破棄した雷の魔術を発動。美咲の身体に激しい電流が流れ、身体が激しくけいれんする。
 自らの力ではどうにもならない動きだが、それは筋肉だけの話。美咲の『覚悟』はそれを凌駕する。
 ……などと叙情的に述べたが、擁するに鋼の義手に通った魔術回路は正確に動くというだけである。
 腰から抜いた爪ヤスリほどのコンパクトなスローイングダガーを素早い動きで投擲。
「ぐお!?」
 ジョンソンの脚に突き刺さったそれは彼の動きを傾け、そして魔術を途中で停止させるに充分だった。
 その間に美咲は全身の力を振り絞って走り出し、鋼の拳を振り抜く。
 それも、肘部から魔力噴射を起こしながらの豪快なブーストパンチだ。
 ジョンソンの身体がきりもみ回転しながら吹き飛んでいく。
 ――と同時に美咲はぐるんと身体をスピンさせ、隙を突こうと銃で狙いを定めていたスミスからの銃撃に備える。翳した腕がカカンッと頭部と肩を狙ったであろう銃弾を弾き、美咲は眼鏡の奥でスミスを睨む。
「ま、私は敵側に知り合いがいないのでホントに仕事って感じでスねー。私以外は結構因縁あるみたいでスけ――ど!」
 美咲が突きつけたピストルを撃ちまくると、スミスは『やっべ』と言いながらその場から飛び退いた。そして一目散に撤退する。
「お互い仕事なんだ。命の奪い合いはナシにしよーぜ!」
 などと言いながら味方を見捨ててとっとと逃げるスミスに、起き上がったジョンソンはあきれ顔をしていた。
「アンタは……金にならない殺しはしないタイプっぽいけど?」
「捕虜をとって金にすることはあるかもしれないっスよ?」
「だよねー」
 ジョンソンは両手をゆっくりと挙げ、そして非武装を主張するかのように防止を脱いでみせた。
「ま、今の時点で仕事はミスったも同然だし、雇い主が死ねば悪評も流れなさそうだし……潮目を見るタイミングって、今じゃあないかな?」
「それ敵の立場で言いまス?」
 銃を突きつけたまま肩をすくめる美咲。
 ジョンソンはハハッと笑ってみせた。
「まあまあ。情報と交換ってことでヨシとしてよ」

「イング――!」
「イルミナぁ――!」
 紅いビームクローを繰り出すイングの攻撃を、イルミナはギリギリで回避する。
 背後にあったカフェテラスらしきものが一撃のもとに粉砕した。
 プロトデトロイト。それは街を摸して作られた街を更に摸して作られた、『下書きの街』。故に家具もなければ人も居ない。小物はほぼないに等しいが、しかし街らしきフレームだけが作られている。
 そんな中の、オシャレなカフェの原形めいた風景が斜めに引き裂かれたのだ。前に戦った時よりも更にスペックがあがっているようだ。
「なぜそうも我を通そうとする? リアム様の言うことが理解できないわけでもあるまい」
「…………」
 イルミナは壊れた腕をかばうようにしながら、イングからやや距離をとる。
 そんなことはない。
 私は私だ。
 ――などと言えれば、どんなにヒロイックだっただろう。
 自分はどこまでもロボットで。命令はどこまでも自分を縛る。いや、自分自身の根源こそが『命令』であると言ってもきっと過言ではないだろう。
 『マスター』の下した、かくあれかしという『命令』が今の自分を作っているのだ。
 それが上書きされてしまえば、それこそ……。
「その顔、今すぐ潰してやりたいッスよ」
 精一杯の抵抗としてか、イルミナは立ち上がりイングにそう毒気づく。
 あまり調子はよくないようだ。万全の状態で戦えばスペックアップしたイングをも凌駕できるだけのスペックをイルミナは有しているのだけれど……。
「投降しろ、イルミナ。もう終わりにするんだ。リアム様のもとで組織を再興し、やがては元の世界へと帰ろう」
「……帰って?」
 イルミナは思わず苦笑を浮かべた。
「帰ってどうするッスか。ロボットたちだけの個人国家を次々潰して、リアムひとりの王国を膨らませるだけの世界にでもするッスか?」
「……そのなにがおかしい」
 怒気すら孕んだイングの言葉に、イルミナはバチッとエネルギーのスパークを起こしながら叫んだ。
「そんな世界、つまらないって言ってるッスよ!」
 刹那、イルミナの姿は蒼き閃光となった。
 イングが思わず吹き飛ばされてしまうくらいに。
 そして、イルミナは――。
「!?」
 イングがどさりと地面に転がり、そして慌てて起き上がった時にはイルミナの姿はなかった。
 取り逃がした。そう察し、イングは地面を強かに殴りつけた。


「ソードビット!」「ガンファング!」
 偽神たちの放つビット兵器。自由自在に飛ぶ刀と多方向から撃ち込まれるビームは本来ならば回避不能。常人であればバラバラの消し炭になるところだろうが――。
「二番煎じは通じないわ!」
 『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は複雑に入り乱れた編み目のようなビームとソードの中を舞うように掻い潜り、そして自らの剣で偽神本体を切り裂いて進む。
 叫びを上げ、常人では制御不能な兵器の暴走とHPの限界によっておきた爆発を起こす偽神たち。
「ぶはははっ! ビルでオモロ組織が悪だくみしてるってマ!?
 こりゃ行くしかないっしょ!んでんで、バトってー、ダベってー、ボコるとか!?
 パーリィじゃんうぇーい! 新田センセ!」
 ね! という顔で見ると、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は無言で眼鏡をクイッとやった。
 これは働かないと撃たれるやつだと察して秋奈はコホホンと咳払い。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
 対抗するのはカスタムされた偽神たち。
 『戦神弐番』天王寺 昴、『戦神参番』心斎橋 芹那、『戦神伍番』桜ノ宮 雅、
『戦神陸番』香里園 櫻、『戦神七番』千里丘 小時――彼女らに装備されたがついぞ実用には耐えなかったという狂気の兵器たちを、ROO越しにデータを取得し混沌にて再現したというのが彼女たちの武装である。
 だが、『安定した兵器』など『イカれた決戦兵器』こと秋奈の前ではオモチャに過ぎない。
 具体的には。フルアームズによるミサイルポットの戦力射撃もガトリング掃射も、剣で踊りながら迫る秋奈の前では綺麗な花火だ。
 銀河一つ分の意志エネルギーを宿したという戦神試式装備第波零零号も、秋奈は刀を握り込んだ拳で真っ向から対抗。正面からぶつかり合って星の爆発を起こすも、残ったのはアハッと笑う秋奈だけという有様だ。
 大量にビームを搭載した偽神がフルパワーの射撃をしかけるも、その中を突っ切る秋奈はやっとかすり傷を負えるという程度。
「偽ちゃんはダメダメだなー、トガりがたりねぇ!」
 剣をぶんなげる。偽神の胸へと刺さる。
 暴れるビームの中を飛び、剣を抜いて更に笑った。
「おうおう!よくわからん計画はそこまでだ! まるっとお見通しだぜ、ここがお前の……なんかそんな感じだ! でもって、ザムザム! ここであったが何年目だ! 案外短いかも!?」
 どのくらいだっけー!? と振り返ると、秋奈をちゃっかり盾にして進んでいた寛治が銃のリロードをしながら答えた。
「二年弱です」
「まだ知り合って短いのね」
 ぽっ、と声に出して頬に手を当てる。その頬は血塗れであった。
「そんな可愛い秋奈さんにお願いです」
「今文脈途切れてなかった?」
「気のせいです。それより……此処を任せて良いですか?」
 寛治の問いかけに、秋奈は親指をたてて見せる。
「ザッツライト!」
「それ意味違いますね」
 が、意思疎通は済んだ。任せましたよと寛治は呟き、追加で投入されてくる偽神シスターズを秋奈へと押しつけた。

 ビルの中を進む。小走りに、しかし身を僅かにかがめて。
(警備がまだ配置されているということは、この先に守るべきものがあるということ……『奴』が逃げるつもりなら、今頃全員特攻させている筈)
 拳銃をスッと下ろした姿勢のまま足音を殺し、壁や障害物に身を隠しながらゆっくりと近づく。
 よそ見をしている偽神の背後まで接近したところで、相手に組み付き拳銃のグリップで頭を殴りつける。
 テイクダウンに成功した寛治はそのまま偽神を引きずって物陰へと隠すと、その先へと進んでいく。
 たどり着いたのは扉だ。
 そっと触れてみると施錠されている。腕時計から伸びた小型聴診器めいた道具で音を探ってみると、向こう側で声がする。聞き覚えのある声だ。ありすぎると言ってもいい。
(よもや……ですね)
 そこからの行動は速かった。
 銃で錠があるであろう部分を撃ち抜き破壊するとドアを蹴破り中へと突入する。
 両手でしっかり構えた拳銃のその先には、ノートパソコンから振り返り両手をあげるザムエル・リッチモンドがいた。
「オゥ、待て待て、銃はやめろ。死んじまうだろ」
 カジュアルな格好も、口調も、やはりそのままだ。間違いない。
 寛治の脳裏にROOの世界で彼にトドメを刺したあの瞬間を思い出させる。
 彼の身体能力ではこの状況を打開するすべはなさそうだ。耳を澄ませてみるが、偽神が近づいてきている様子はない。警備のものを除いてほぼ秋奈にぶつけているということだろう。よしんば偽神が突入してきたとしても、一瞬でザムエルにカタをつける自信が寛治にはある。
 が、疑問はあった。
「既に逃げているものと思っていましたが……」
「どこにだよ」
 独特の低い声で、半笑いに言うザムエル。
「練達にあった俺のセーフハウスは竜の被害で潰された。幻想のはお前が潰した。他の国も似たようなもんだぜ。ここが最後だよ」
 見ろよ、とちっぽけなノートパソコンを指さすザムエル。監視カメラ映像があり、秋奈が偽神たちを圧倒した様が映っている。なんならカメラにピースまでした。
「俺はここまでだ。上手くいくと思ったんだがな」
「『世界人口の最適化』がか?」
「『世界平和』がだよ」
「狂っている」
「いいや狂ってない」
 キャスター付きの椅子に座ったまま、ザムエルはゆっくりと立ち上がる。両手は頭の上。非武装。寛治は銃口を額に向けるが、ザムエルの表情は冷静だった。
「本来この世界は魔種のものになる筈だった。滅びまでの時間は短かった。最初の魔種が現れた時、王国はなすすべもなかったはずだ。違うか?」
「違うな。俺たちがいる」
「それがおかしい。お前たちは異常(イレギュラー)だ。異常なものに頼れば、必ず反動が現れる。起こるべき反動を、小さくする必要があった」
「………………滅びの予言を計算できていたとでも?」
「なんだそれは」
 天義では滅びの時を予言するなどという天啓がおりたらしい。
 なんでも、ローレットがいなかったなら完遂できたであろう魔種たちによる世界崩壊の歴史(彼らが言う正史)があるという。
 ザムエルは単独でそれを予測計算し、そして自分なりに『修正』したのだと……そう言っているのだ。
「やはり狂っている。お前にとってこの世界はそこまで重要ではなかった筈だ。地球ではないんだぞ、ここは。まして世界全てが滅びれば元いた世界も同じく滅びる。考えればわかることだろう」
「…………何を言ってるんだ?」
 ザムエルはそこで初めて顔をしかめ、ゆっくりと首を振った。
「世界が滅びる? そんなわけが……」
 ゆっくりと帽子を脱ぎ、頭に手を当てる。
「そんな、わけが……」
「サムエル。終わりにしよう」
 狂気と彼の頭脳が、いませめぎ合っている。寛治にはそれが分かった。
 彼は大悪党だったし人類の敵だった。だが、それでも頭脳は明晰で強い信念を持った男だった。
 それを、何者かが歪めた。
「――」
 引き金に指をかけていた寛治と、目を合わせる。
 最後に、ザムエルはこう呟いた。
「『室長』に気をつけろ。奴は傲慢の魔種だ」


「――斬鋼滅殲」
 レーザーソードが最大出力で刃を唸らせ、迫る。
 対する『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)はそんなトーラス・アーレイに背を向けて立っていた。
 全身を覆う赤いバトルスーツに光が迫り、目元がぼんやりと発光する。
「エデンズバニッシュメント!」
「イグナイトストライク!」
 繰り出されたムサシの後ろ回し蹴りとビームソードが激突し、踵に燃える火焔と光刃が火花を散らす。
 相殺――した次の瞬間。
 『金剛戦車』VK-97の放つマイクロミサイルが殺到。爆発に包まれたムサシめがけ¥『黒月重兎』べファーレン・ローザローロが黒いハンマーを叩き込む。
 防御姿勢を取ったムサシだが、そのまま吹き飛ばされコンクリートでできた壁へと激突した。
「ぐっ……!」
「総司令官殿!」
 反射的にそう叫んでしまったイオリ・セレブライトが光線銃を撃ちまくりながらVK-97へと攻撃。
 シールドを展開し飛び退くVK-97と撃ち合いへと発展する。
 一方のムサシは、剣を構え直しゆっくりと歩いてくるトーラスと、その横に並びハンマーをくるりと持ち直すベファーレンの二人を相手にしなければならない。
「相手の戦力が拡充されていると聞いてみれば…!先輩だけじゃなくべファーレンさんやVKさんまで……!」
 この先にいるという『室長』なる元凶をなんとしても倒さなければならない。そう心の中で呟くも、立ち上がるバトルスーツからはバチッとスパークが置き思わず膝を突いてしまった。
「終わりだよ。抵抗をやめるんだ」
 こちらを見つめるトーラスの視線。ムサシのそれとぶつかり、そして交差する。
「宇宙の平和は、私が守る」
「――先輩」
 洗脳されてさえ、あなたは正義のために戦おうというのですね。
 心の中でそう呟いてみれば、不思議とムサシは立ち上がれた。
 次の一撃は受けきれないかもしれない。それでも、戦う意志はくじけていない。
 くじけていないなら。
「トーラス先輩、貴女を止めて見せる!」
 両者、踏み込む。
「斬鋼滅殲!」
「焔閃抜刀!」
 レーザーソードと焔の剣が唸るその一瞬。
「ムーンスマッシュ!」
 ベファーレンのハンマー『ムーンパイ』が、あろうことかトーラスへ横殴りに炸裂した。
「――!?」
 突然の不意打ちを受けるトーラス。が、そこは歴戦の猛者。咄嗟にではあるが剣の狙いを変えベファーレンのハンマーを撃ち払う。
 攻撃はいなした――が、それこそが最大の隙となる。
「交(クロス)!」
 ムサシの放つ光の剣と焔の剣が交差し、おきた爆発がトーラスを吹き飛ばした。
 残心の姿勢でゆっくりと振り向くムサシ。
 ハンマーを払われ手をぱたぱたと痛そうに振るベファーレンと目が合う。
「ベファーレンさん、あなたはまさか……」
「そういうことです。洗脳されたトーラスの裏を探るため、あえて洗脳されたフリをしていたのです」
 敵を欺くには味方からです、と無表情に言い切るベファーレンに、ムサシは不思議な直感が働き頷いた。
「そういうことでしたか。ではVKさんは――」
 と言った途端、爆発。
 VKに勝利したイオリが、こちらの一部始終を見ていたらしく手を振ってくる。
「そ――ムサシ殿!」
「洗脳を解く手段は見つけています。今はトーラスを連れてここを離れましょう」
「ですが――いや、今はそれがいいでしょうね。行きましょう!」
 ベファーレンはVKを、ムサシはトーラスをそれぞれ抱え、走り出す。


 施設を飛び出してきたムサシを出迎えたのはボロボロの『真打』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)たちだった。
「すまん、ベリアルを取り逃がした」
「いえ、無事で何よりであります」
 そこへ合流してくる寛治と秋奈。
「こちらは……済みました。ザムエルがもうこの世界を狙うことはないでしょう」
「私ちゃんも大勝利だぜ」
 二人が振り返ると、片腕をかばったイルミナとそれを支える美咲が歩いてくる。
「こちらもリアムには逃げられたッスけど……」
「捕虜を一人ゲット。戦力も大幅に削ったっスよ」
 眼鏡に手をあてる寛治。
「皆を回復させたら、すぐに追跡を開始しましょう。『室長』は危険です。野放しにはできない」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)[重傷]
まずは、お話から。
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)[重傷]
真打

あとがき

 ――ザムエルに勝利しました
 ――トーラス、VKを確保し洗脳解除にあたっています。ベファーレンが仲間になりました。
 ――スミスは離脱(リタイア)し、ジョンソンを捕虜にとりました

 ――『室長』、ベリアル、リアムが現場より逃走しました
 ――情報は確保したため追跡は可能です
 ――向かった先から推察するに、次の戦場はアンダー・デトロイト地区となるでしょう

PAGETOPPAGEBOTTOM