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シナリオ詳細

<蠢く蠍>イフタム・ヤー・シムシム

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 まあ、座ろうや。
 顔を合わせるなり『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)はギルドの奥を指さし、イレギュラーズたちをテーブルに誘った。
「ラサ(ラサ傭兵商会連合)から落ち延びてきた『砂蠍』(キング・スコルピオ)が本格的に動き始めているのはもう知ってるな」
 飲み物が全員にいきわたるのを待って話を切り出した。
 聞かれるまでもなく、ラサの大討伐から逃げ延びた『砂蠍』一党とその首領キング・スコルピオが幻想に潜伏しているという噂は、もはや噂でもなんでもなく公然の事実となっていた。
 事実、小回りの効かない貴族の代わりに『砂蠍』等を水際で食い止め、自由を奪うために、すでにローレットのボードにはたくさんの討伐依書が張り出されている。
 にもかかわらず、『砂蠍』の本拠はいまだに不明だった。
 捕らえた末端の盗賊に尋問はしているのだが、どうやら彼等は何も知らされてはいないらしい。その事から『新生・砂蠍』は、傘下に入った盗賊たちが『砂蠍』の中核メンバーに率いられる『盗賊団の上に盗賊団がある状態』と推測されている。
「その『新生・砂蠍』を構成する盗賊団のアジトが偶然見つかった。見つけたのはアジト近くの村に住む子供たちなんだが……金ぴか光るお宝がどうしても欲しくなって、くすねちまったらしい」
 親は子供たちが持ち帰って来た財宝に驚き、喜びよりも恐ろしさが勝って、子供たちにどこで手に入れたのかときつく問いただした。
 はたしてそこは、『砂蠍』一派と目される盗賊団が根城にしていると噂されていた場所だった。
 親は恐ろしくなって、『砂蠍』たちが戻る前に宝をこっそりアジトへ返しに向かった。
 だが――。
「途中でオレが止めた。練達からの帰り道で出会ったんだが……前から来る男があまりにも挙動不審なうえに顔色が悪かったんでな、すれちがいざまに声をかけたんだ。『おい、その腕に大事そうに抱えているものはなんだ』ってな」
 男は振り返ることなく、いきなり走り出した。
 クルールにすぐに追いつかれ、取り押さえられた後、男は必死に命乞いをした。どうやらクルールを『砂蠍』の一人だと思ったらしい。
 男……宝をくすねた子供たちの父親を宥めすかし、事情を聞きだしたクルールは、その足でその付近一帯を治める領主の屋敷へ赴き、盗賊団のアジトの位置情報とともに子供たちがくすねた宝を差し出した。
 褒美に子供たちと村の保護を申し出たのだが、生憎、領主の私兵は近隣で派手に暴れ回っている『砂蠍』たちの討伐に駆り出されて、屋敷を守る警備兵以外に残っていなかった。
「というわけで、貴族さまから『砂蠍』を退治するよう仰せつかってきた、というわけだ」
 クルールは懐から皮袋を取りだすと、テーブルの上に投げ置いた。
 紐が緩んで中から数枚の金貨がこぼれ出る。
「『砂蠍』たちはまだアジトに戻っていない。オレが偵察に行って確かめて来た。ついでにお宝を全部運び出して空にしてきた。……連中は怒り狂うだろうな。帰って来てアジトの惨状を見たら、すぐ犯人探しを始めるだろう」
 片っ端から近隣の村を襲われては大変なので、クルールは『宝を盗んだ子供たちの噂』をあちらこちらに広めておいたという。そうしておけば、『砂蠍』たちはまっすぐ子供たちがいる村に向かうと踏んだからだ。
 無駄に騒ぎを大きくして憲兵や貴族たちの私兵をアジト近くに呼び寄せるような愚行は、狡猾な『砂蠍』ならまず犯さない。
「おそらく、子供たちの村を襲うのは手下だけだろう。盗賊団の頭はアジトで待機るすと思われる。そこで――」
 クルールは肘をテーブルに置き、ぐっと身を乗り出した。
「お前たちにはまず、子供たちの村を襲いに来る盗賊たちを返り討ちにしてもらいたい」
 子供たちの証言で、手下は三十人近くいることが解っている。依頼を受けたイレギュラーズたちだけで、これらすべてを討伐するのは大変だ。何人かは取り逃がしてしまうだろう。
「それは仕方がない。だが、その時点で戦力が余っていればだが、逃げた盗賊たちを追って、頭が待つアジトを襲撃してもらいたい」
 アジトは単純な迷路構造になっているようだ。当然、脱出用の非常出口も作られているに違いない。
「まあ、盗賊団の頭を討つのは難しいだろうな。だが、顔を拝めりゃ似顔絵つきの手配書が作れる。今回はそれで十分だ。
 肝心なのは村と村人たちの安全のため、二度とやつらを近づかせないようにすることだ。お前たちに襲撃されれば、そこはもう安全じゃない。やつらはアジトを放棄せざるを得なくなるだろう」
 全員で村を守らず、二つに別れて行動することもできる。
 逆に、村を守ることに専念して、アジトは盗賊たちが去った後に焼き払ってもいい。
 無理に殲滅する必要性はない、とクルールは言った。
「どうするかはお前たちで決めてくれ。ただし、発生するリスクをよく考えて行動しろよ。場合によっちゃ、こっちに死人がでるぞ」


 乾いた岩肌が頭髪のすぐ上に迫るアジトで、女頭(おんなかしら)のとがった声がジグザクに飛び跳ねる。
「どういうことだい!」
 振り返った女頭は獅子のごとく逆立ち、『砂漠の真珠』という二つ名のもととなった美しく白い頬が、憤怒で赤く燃え立っていた。
 もう一度、繰り返す。今度はゆっくりと。 流れる溶岩が辺りの木々を、家を家畜たちを飲みこみ、焼き尽くしていくように。
「これは、どういうことだ、と聞いているんだよ」
 冷血で狡猾で無慈悲だと人々から思われていたし、自分でもそう思っていた男たちが、誰一人、『砂漠の真珠』と目を合わせない。口を貝のように堅く閉じ、じっと足の爪の先を歩くアリの隊列を見つめている。まるで、このまま石のように固まっていれば、アリたちが自分たちの身代わりになってくれるとでもいうように。
 風切りの音がした直後、アリの隊列を災難が襲った。
 ねっとりとした熱い血が降り注ぎ、列が乱され、何匹かが溺れた。上から重い人間の頭部が隕石のように落ちて、列が途切れ、何匹も潰されてしまった。
 女頭は長い足で力いっぱい地を踏みつけた。
 どさ、どさっと、頭を失った手下たちが倒れる。
 新たに最前列に立った手下の一人が、ジャミラの蛇のようにくねり、滑り進む腰の動きを恐怖の目で見つめる。
「ジャ、ジャミラ様……お――」
 落ち着いて、と言おうとしたのか、それとも、お助けを、と言おうとしたのか。違う言葉だったかもしれない。
「あが……が、が……ぁ」
 手下の左頬は大きく切り裂けていた。
 たいまつが燃え爆ぜる音が、狭いアジトで大きく響く。
「何をぐずぐすしているんだい! とっとと犯人を捜し出してアタシの前に連れて来な!」
 アジトに入る前は三十人いた手下が、アジトを出た時は二十五人に減っていた。

GMコメント

●依頼内容
 ・子供たちがすむ村を守る(人的被害を出さない)。
 ・『砂蠍』一派、『砂漠の真珠』盗賊団のうち最低15人を捕えるか殺害する。
 ・『砂蠍』一派のアジトを潰す。

●イレギュラーズが村に到着するタイミング
 襲撃の30分ほど前になります。
 夜です。
 月は出ていますが、村全体が暗いです。

●『砂蠍』一派、『砂漠の真珠』強盗団
 ・女頭/ジャミラ
  美人だがとてつもなく気が強い。その上冷酷。
  女だてらに重い両刃剣を振り回す。その他、ナイフを所持。
  攻撃方法などの詳細は不明ですが、魔女だという噂があります。

  ※ジャミラはアジトの洞窟にいて、手下たちが戻ってくるのをまっています。
  ※ジャミラはイレギュラーズと交戦中、手下が5人以下になった時点で逃走を図ります。

 ・手下/カオスシード……25名
  全員、剣と短銃で武装しています。
  相手が女子供、年寄りであっても一切手加減しません。
  殴る蹴るなどの肉弾戦も得意です。
 
  ※手下たちが村をどの方向から襲うのかは分っていません。
   なお、襲撃は夜です。
  ※手下たちは仲間が15人倒された時点で撤退、アジトへ戻っていきます。

●『砂漠の真珠』強盗団アジト
 山の中腹の森の中、岩肌を繰り抜いて作られた人口の洞窟です。
 簡単な迷路になっており、非常時の脱出口が1つあります。
 出入り口は大岩でふさがれており、魔法の合言葉を言わないと開きません。
 合言葉は「イフタフ(開け)・ヤー(おい)・シムシム(胡麻)です」
 逆に、戸を閉める時も合言葉が必要です。 
 
 ※子供たちの村はアジトから見て南に位置しています。

●子供たち
 ・ヤコブとレフの兄弟
  盗賊団たちは兄弟の容姿や年齢を知りません。
  「トーベ村のある家の子供たちが最近、財宝を得た」という噂を聞いて村にやってきます。

●子供たちの住む村
 人口80名の小さな村。
 30家族が暮らしています。
 山の斜面にある村の回りは開けていて、遮蔽物がありません。
 家は木造りの平屋です。どの家も家畜小屋を併設しています。
 背の高い建物はありません。
 村を仕切る十字路の真ん中に、比較的大きめの広場があります。

 ※村の北を少し行ったところから森が始まります。  

  • <蠢く蠍>イフタム・ヤー・シムシム完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月06日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

猫崎・桜(p3p000109)
魅せたがり・蛸賊の天敵
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
リア・ライム(p3p000289)
トワイライト・ウォーカー
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)
ゲーミングしゅぴちゃん
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢(休息)
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風

リプレイ


 外敵から一つの村を守る戦いとなると、警戒を密にして敵を早期発見し、村の外で迎え撃つのが定石だ。しかし、ギルドから遣わされたイレギュラーズは八人。守るべき人は多く、村の外はあまりに広い。
 『シャーク探検団名誉船員』カイト・シャルラハ(p3p000684)は、広げた翼に夜風を受けて空に浮かんでいた。月光が影を輪の中に溶かしこんでいる。盗賊のうち誰かが顔を見上げたとして、銀盆にシミのような影すら見つけられないだろう。
 それに今夜は風が、北から南へ、斜面を撫でるようにして吹いている。自分たちの読みが正しければ、バリケードを築く音や村人たちが発する恐怖の臭いを盗賊たちに悟られることはないはずだ。
 カイトはゆっくりと体を回して、黒く波打つ草原に盗賊たちの姿を探す。さいわいにも村の周囲に遮蔽物となる大きな岩や大地のうねりはない。北を見れば緩やかに上る斜面の先に黒々とした森があり、東を見れば遥か彼方に点のような隣村の明かりが見える。東や南にはこれと言って目を引くものはなかった。
(「アジトのある北から来るとは思うけど……。早めに見つけて襲撃の少し前には村に戻らないとな」)
 サイバーゴーグルのおかげで、眼下の景色が昼のように明るく鮮明に見える。万が一、いや、多分それはないだろうが、自分が盗賊たちの接近を見落としたとしても、村で飼われている馬や牛たちが鳴き声をあげて危険を知らせてくれることになっていた。
 その家畜たちは『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)によって、盗賊がやって来ると予想を立てた方角の反対側、つまり村の東南に集められていた。
「ちょっとの間だからここで我慢してくれよな」
 声にすると同時に、農耕馬の太い首に触れて直接心に語りかける。狭い場所にぎゅうぎゅう詰めになるが、盗賊たちとの争いに巻き込んで怪我をさせるよりずっといい。なにより、牛はともかく馬は逃走に使われる恐れがある。
「……っていっても森をちょっと入ったところまでだろうけど」
 それが判るのもこの村の子供がアジトを見つけてくれたおかげだ。もっとも、そのせいで村が盗賊たちに襲われることになるのだが。アジト壊滅のみならず『砂蠍』末端の盗賊団を丸ごと潰すためには、例え短距離であっても余計な時間を稼がせるわけにはいかない。
「あ、そうだ。オレがここを閉めた後、村の人たち以外の人間に気づいたらさ、鳴いて教えてくれよ。よろしく頼むぜ」
 戸を閉める一悟の後ろを、まだ顔に幼さが残る男の子を連れた『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)と、長い髪を三つ編みにした小さな女の子の手を引く『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が通りすぎる。少し後ろを子供たちの両親が、杉の木のテーブルを両端からふたりで持ちあげ、顔を固くして歩いていく。
 六人が向かっているのは村の中心部、小さな広場だ。テーブルは家族と村の人々の命を守るバリケードの一部になる。
「君達のおかげでまた一つ、砂蠍の拠点が発見された……これもお手柄と言えばお手柄なのかな。でも冒険する場所はよく選ぼうね。こうして怖いのがやってくるからね」
 威降の隣で男の子が唇を尖らせる。お父さんとお母さんを喜ばせようとしただけ、こんなことになったのは自分のせいではない、とでも思っているのだろうか。子供らしく不機嫌さを隠そうともしない。
 気づかぬふりで言葉を継ぐ。
「今回はお兄さん達が何とかするけど、いつも間に合うわけじゃない。気を付けるんだよ」
 低い頭の一つ向こうで小さく鼻を啜る音がした。
 見ると女の子が目に涙を溜めて幻の顔を見上げていた。
「大丈夫ですよ。悪い人たちはあっというまに消えちゃいますから。ほら、こんなふうに」
 つないだ手の反対側に握っていたステッキを、女の子の前でパッと消して見せる。大きく見開かれた目から涙が零れ落ちた。
 わ、すごい、と男の子が驚く。一瞬にして機嫌が直ったらしく、どうやってステッキを消したのか、知りたがった。
「慎重かつ大胆に――マジックを成功させるコツの一つです。何をするにしても、結果をイメージして行うことが肝心なんですよ」
 幻は幼い兄弟の目の前でなにも持っていない手を握ると、素早く空へ掲げた。微笑みを浮かべて、ゆっくりと女の子の顔の高さまで手を降す。コスモスが一輪、指に挟まれていた。
「いい子になるとお兄さんたちと約束してくれるなら、特別にいまのマジックの種明かしをしてあげましょう」
 いいのか、という威降に奇術師はウインクで答えた。
 古典的なネタである。いまさらネタがばれたところでどうってことはない。仕組みが分かってもできるとは限らないのだし、なにより子供たちの好奇心を満たしてやれることが嬉しいのだ。だから構わないよ。
「あら、ちょうどいいものを持って来てくれたわね。いまから彼女と一緒に探しに行こうと思っていたのよ」
 『トワイライト・ウォーカー』リア・ライム(p3p000289)は子供たちの親に、杉の木のテーブルを広場の北へ持っていくように指示をした。
「君たちが大胆不敵にも盗賊のアジトからお宝を持ち返った兄弟だね。はじめまして」
 『特異運命座標』猫崎・桜(p3p000109)はコスモスを手に持った女の子の前にしゃがみ込み、目の高さを合わせた。
「皆は僕たちが守るからね♪ まずは守りやすいように移動して貰えるかな? かな?」
 女の子がこくりと頷く。今度は兄に手を引かれて、両親の後を追いかけて行った。
「まだ、広場に来ていない人がいるみたいなのよ。かなりのお年寄りで歩けないおばあさんと介護をしている高齢の娘さん、それと独りでくらしている頑固者のおじいさん……どちらかに行ってもらえると助かるわ」
 威降たちがおばあさんの家へ、リアと桜がおじいさんの家へ向かうことになった。
「隣に住んでいるという夫婦の話では、かなりの頑固者みたいね」
 向かう道の途中でリアがニヤリと笑った。
「いざとなったら桜におじいさんを『誘惑』してもらおうかしら?」
「え、えええっ……?!」
 それは肌の露出が多い、煽情的な格好をしているリアのほうが適任ではないか。なによりいまは村の娘役なのだし、そういうことは役柄にあっていないから云々。軽くパニックになっている桜の横で、リアが軽やかに笑う。
「うそよ。いざとなったら二人で椅子ごと担ぎ上げて戻りましょう」
 広場では『クーゲルシュライヴァー』DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)、通称シュピの指導の元、急ピッチでバリケードが築かれていた。引け場の中心にある井戸の周りに村人たちを集め、そのまわりを村中から集めて来たテーブルや椅子、それにイレギュラーズたちが乗って来た馬車を並べて分厚い盾を作る。
「今こそ自宅警備の本領を見せる時なのです」
 村にあった杭を残らず集めさせると、シュピは広場の入口にそれぞれ等間隔に杭を打ち込んだ。杭と杭の間を太い荒縄で結び、村にあった僅かな鉄線――切り込み入れて棘を立たせ、有刺鉄線のようにしたものをロープの隙間を埋める様に渡していく。強度に不安はあるが、多少なりとも広場に入る障害になってくれるだろう。
 本当は有刺鉄線をバネ状に丸めて端と端を杭で固定するつもりだったのだが、店に立ちより買う時間がなかった。村にあるもので工夫するしかなかったが、シュピにとっては自分の能力を示すまたとない機会であり、それはそれでやりがいがあった。
「出入り口は一ヶ所が良いですが臨機で。ここから賊のお相手をしてやるのです。ふう……」
「はりきってるねー、『霊子妖精』」
 『悪意の蒼い徒花』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)は、一仕事終えて槌を降ろしたシュピの背中に声をかけた。
「あ、はい。頑張るのです。手に持っているのは……鉄環でしめられた飼い葉桶ですか。それはよさそうなのです」
「でしょー。『囁く太陽の影』が見つけてもってきてくれたのよー」
「西の方が薄いので、それで補強をお願いするのです」
「わかったー」
 飼葉桶を抱えて歩きながら、クロジンデは村人たちの顔をひとつひとつ見る。バリケードの西側の一部に隙間を見つけると、飼葉桶をぐいぐいと押し込んだ。
(「今回の盗賊も頭なら何かしら『砂蠍』の情報持ってるかもだけど、村が襲われるとなると村人の安全が第一だよねー」)
 ギルドの受付嬢であったころ、持ち込まれる様々な依頼をたくさん見聞きしてきた。失敗に終わった護衛依頼をいくつも頭の中であげることができる。だからこそ、思う。絶対に広場へ入らせてはならない、と。
 銃弾の弾はどんなに頑丈な木の板であっても易々と貫通し、後ろにいる人間を殺傷する。悪漢の進撃を阻むことはできても銃弾は阻めないのだ。自分たちイレギュラーズが漏れなく迎え撃つしかない。
「すべては『風読みの羽根』にかかっている……といっても過言ではないよー」
 クロジンデは顔を上げて月を見た。
 するすると落ちてくる影が、次第に大きくなっていき、翼の輪郭が鮮明になった瞬間にぱっと消えた。
 舞いあがる土埃の中から、翼を畳んだカイトが立ちあがった。
「来たぜ。数えて二十五人いた。情報通りだ」
「どっちから来てるー?」
「北から。リアと桜が爺さんの座った安楽椅子を抱えて広場に戻ってきている。バリケードの中に連れ込んだら、すぐに閉じて……配置につこう」


 盗賊が襲い来るこの村の奥に、全く危険を恐れる風も無く一人の少女が立っていた。月あかりに照らされて、ただただ、立っているだけの細いシルエット。
 北の入口で目ざとく少女を見つけた盗賊の一人が、低く、下卑た笑い声をあげた。すぐに他のものも気づいたらしく、歩くスピードを落した。大股でゆっくりと、北の道を広場に向かって進む。
 最初に少女を見つけた髭面の男が、ニタニタと笑いながら少女の前にしゃがみ込んだ。優しい、というよりも気持ちの悪い声色で話しかける。
「どうした、お嬢ちゃん。盗賊に襲われて殺される恐い夢を見て、ベッドから逃げ出してきたのかい? はっはっはっ、お嬢ちゃん。その盗賊はこんな顔をしていなかったかい?」
 髭面は立ちあがると、腰布から半月刀を引き抜いた。
「お前の家はどこだ。大人しく宝を返せば、生皮を剥がす前に殺し――」
 髭面は脅し文句を途切れさせると、眉をひそめた。他の盗賊たちも道の先にある巨大な塊に視線を向ける。
「あん……なんだ、ありゃ? 明日は祭りか?」
「ううん。『祭り』は今からだよ」
 髭面は目を剥いた。目の前の少女をよく見ると、何か武器のようなものを背負っているではないか。
「ふふん、探していた子供だと思った? 残念でした♪ 『弱い人を狙う悪人は銃に撃たれて倒されちゃえ!』だよ♪」 
 たん、と地を蹴って後ろへ跳びのいた髭面を、羽を縮めて急降下したカイトが強襲した。強烈な蹴りを見舞って太い首の骨を折り、そのまま翼を広げて屋根の上へ戻る。
「いまだ!」
 カイトの合図で一斉に明かりがつけられた。北の道がぼうっと浮かびあがる。
「ちくしょう! 待ち伏せしてやがったな!」
「その通り」
 西の屋根を見上げていた盗賊たちが、一斉に首を後ろへ回す。
「というわけでようこそ新生砂蠍とやら。見ればわかると思うけど罠なんだ。ごめんね。諦めてその首置いていってくれると嬉しいな」
 威降は屋根から飛び降りながら抜刀した。紫電を纏った刃が横へ薙がれる。
 引っ込め損なわれた首が二つ、肩の上から転がり落ちた。
 遅まきながら反撃に出ようと短銃を構え、広場へ突撃を仕掛けた盗賊たちだったが、突如として湧き出た死体たちに行く手を阻まれてしまう。
「残念でした。ここは何があってもシュピが通さないのだ!」
 半月刀を振りかざして、シュピに襲い掛かろうとした坊主頭を、リアが屋根の上から撃ちぬく。
 死体とイレギュラーズと盗賊たちで大乱闘になった。細くはない道が、血と汗と怒声で沸き立つ。
 桜が狙撃手の目で『砂蠍』だけを見分けて照準に捉え、引き金を引く。弾は盗賊の肩に当たった。仲間に当てないようにしようとすれば、どうしても的が小さくなる。幻が回復をしてくれるとはいえ、この後のことを考えると、同士討ちによる負傷はないほうがいい。
 肩を打たれた盗賊が、片手で傷を押さえながら横道に入り込んだ。
「一人、逃げた!」
「任せてー」
 味方まで巻き込むから範囲攻撃は使えない。めんどうだねー、と愚痴りながらクロジンデは悪意の弾丸を飛ばした。桜が肩を吹き飛ばした盗賊を路地の先に追い詰め、撃ちとる。
 末端とは言え砂蠍の構成員である。盗賊たちは無謀な馬鹿者ではなかった。数で優っているにもかかわらず五人が殺された時点で戦いの負けを悟り、ばらばらに逃走し始めた。
「はっ、尻尾巻いて逃げるのかよ。砂蠍も落ちたもんだ。数で勝っていたのになぁ、負けちまうなんて……マジでレベル低いぜ。虫けら以下じゃね?」
 すかさず一悟が挑発的な言葉を投げつけて盗賊たちを怒らせると、何人かが目を尖らせて戻ってきた。
 恰好の的になった盗賊たちを、桜とクロジンデが次々と撃って倒していく。西へ逃げる盗賊をカイトと威降が追い、北へ引き返す盗賊をリアとシュピ、それに動く死体が追いかけた。
「逃がすかよ!」
 東の横道へ入った三人を一悟が追う。幻も屋根伝いに走って盗賊たちの後を追いかける。
 三人とも逃げ足が恐ろしく早い。追手をかわすため、角々で曲がるくせに走るスピードは全く落ちない。ぐんぐんと引き離されていく。
「――!?」
 盗賊たちが村から出た途端、嘶きとともに地を揺るがす蹄の音が迫ってきた。家畜小屋の扉を蹴破って、馬や牛たちが飛び出してきたのだ。
 疾走する家畜たちに行く手を阻まれ、三人の盗賊はたたらを踏んだ。
「サンキュー! 助かったぜ」
 あとで美味い草をたくさん食べさせてやるからな。一悟は盗賊たちに駆け寄ると、そのうちの一人をトンファーで打ちつけた。たちまち火に包まれる。続けて手のひらをその隣にいた男の胸に押し当てて吹き飛ばした。
幻はステッキを回しあげると、先を逃げる盗賊の背に向けた。
「往生際が悪いですね。さんざん悪事を重ねておきながら――自分の命は惜しむのですか?」
 背を向ける相手を撃つのは抵抗があるが、ここで逃がしては村に新たな災いを招きかねない。
「子供達は守りきってみせます!」
 放出された魔力が虹色に輝きながら夜を突き進み、盗賊の背から体を貫いた。


 村で倒した盗賊は16人。村人たちに怪我はなかった。全員無事だ。
「ボクたちがいなくなった後、村の人たちに危害を加えかねないでしょー」
 クロジンデの指示で、イレギュラーズたちは盗賊たちがこと切れていることを全員で素早く確認してから、追撃にかかった。
 リアが森の木々得た情報を基に、逃げた盗賊たちを追う。大体の場所はクルールからも子供たちからも聞いて知ってはいたが、見知らぬ夜の獣道だ。植物たちの声がなければ、ここでもかなり引き離されたに違いない。
 アジトの手前で桜とシュピがそれぞれ一人ずつ盗賊を仕留めた。カイトが木々の上から急降下して、大岩が閉まる直前にもう一人を捕まえた。
 一悟が抑え込まれて暴れる盗賊のこめかみにトンファーを叩きつけ、頭蓋骨を砕いた。
「中に逃げ込んだのは六人か」、と威降。
「『道化師のマスク』は五人以下になったらボスが逃げ出すっていってたよねー」
「中で待ち伏せされている可能性が高いね」
 そう言って桜は大岩の前を幻に譲った。
「十分、気をつけていきましょう。では、扉を開きますよ」
 イフタム・ヤー・シムシム。合言葉を唱えると、うっすらと扉が光を帯び、すこし浮いて横に滑りだした。
「な……?」
 扉を開けられるとは思っていなかったのだろう。盗賊の一人が、驚愕に口を開いたまま、ゆっくり下がる。どうやら扉に耳を押しつけて、外の様子を窺っていたらしい。
威降は素早く刀を鞘から抜き払い、盗賊が奥の仲間に警告を発する前に喉を突いた。幻がトドメを刺す。
「声は上げる前に倒したけど、扉が開いたことには気づいたはずだ。急ごう」
今度はシュピが電子の妖精の囁きに耳を傾けながら、岩の迷路を進み、イレギュラーズたちを五人の盗賊が横に並んで待ち構える部屋へ導いた。
イレギュラーズの影を見るなり、盗賊たちは短銃を乱発射した。弾が尽きると剣を抜き、気勢をあげて部屋の入口へ押し寄せる。
「どけ、邪魔だ!」
 カイトと一悟が盾になって盗賊たちを押し返し、後ろから桜たちが狙いをつけて一人一人倒していく。

 ――イフタム・ヤー・シムシム!!

「待ちなさい!」
 幻は岩戸の奥へ逃げ込む女を呼び止めた。
 女は振り返ると、ぞっとしない笑みを浮かべて何やら呟いた。直後、岩が動きだす。
 幻は岩戸が閉まる直前に、女の顔をしっかり頭に刻みつけた。
「イフタム・ヤー・シムシム! イフタム・ヤー・シムシムって、なんで開かねえんだ!」
 一悟が岩戸を叩き、威降が切りつけたがびくりともしない。代わりに別のところで戸が開く音がした。カイトか見ると、開いた戸の奥は空っぽだった。
 岩の裏から聞こえてくる高笑いが遠ざかっていく。

 今度会うことがあったら覚悟しな。この落とし前は必ずつけてもらうよ。

成否

成功

MVP

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師

状態異常

なし

あとがき

成功です。
ジャミラ逃亡の後、イレギュラーズたちはアジトを徹底的に破壊しました。
残念ながら残っていた宝はジャミラが全て持ち去ってしまっていたようです。
なお、イレギュラーズからの情報提供で、ジャミラの似顔絵が作られ指名手配書が各地に配られ、張られました。
近々、通報が入るでしょう。

ご参加ありがとうございました。

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